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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1125370
審判番号 不服2003-12360  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-12-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-02 
確定日 2005-10-27 
事件の表示 平成 4年特許願第133182号「陰極線管用電子銃」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年12月10日出願公開、特開平 5-325828〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯/本願発明
本願は、平成4年5月26日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成15年7月2日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「3個のカソードと前記カソードから蛍光面側に順に、3個の電子ビームを通過させる3個の孔を備えた複数の電極を有する陰極線管用電子銃において、前記複数の電極のうちの1個は板状電極であり、前記板状電極は、板厚の薄いビードサポート部と、それよりも板厚の厚い電子ビームを通過させる3個の孔が一列に配置され形成されている電子レンズ形成部分とからなり、前記電子レンズ形成部分に形成された孔は板厚方向では同一の直径であり、前記板厚の薄いビードサポート部と前記板厚の厚い電子レンズ形成部分とは塑性加工によって一体に形成されており、前記板厚の薄い部分と前記板厚の厚い部分との境界部には傾斜部が形成されていることを特徴とする陰極線管用電子銃。」
なお、本願については、平成14年2月1日付けの手続補正がなされたが、この補正は平成14年8月13日付けの補正却下の決定により却下された。

2.刊行物
2-1.刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である実願昭56-13703号(実開昭57-128755号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
1a.「本考案は・・・厚肉第2格子電極のビーム形成を保ちながら、電極の安定した固定をはかり、熱的安定性を高めて管特性の向上がはかられた電子銃構体を提供するものである。第2図に本考案の1実施例を示す。・・・陰極(1)、第1格子電極(2)、第2格子電極(11)および第3格子電極(4)がそれぞれ同心に、かつ電極に穿設された電子ビーム貫通孔が相対向するようにビードガラス棒(5)に所定の間隔を保つて植設される。・・・前記第2格子電極(11)は厚肉平板(12)に第3格子電極の対向面側に薄肉のサポート(13)が接合されてなり、このサポート(13)の両端部にてビードガラス棒(5)に植設されているものである。さらに第3図を参照して第2格子電極(11)についてくわしく説明する。・・・厚肉平板(12)は電子ビーム通過孔(14)が3個一列に配列された方向と直角方向に幅せまく形成され、この平板(12)の第3格子電極側(12A)に薄肉のサポート(13)が接合されていて、このサポートには前記電子ビーム通過孔より大きい開孔(15)が3個、接合時にそれぞれ通過孔(14)に対向するように設けられ、かつ平板と接合する部分の両外側の部分(16)は平板と反対側に湾曲してサポートは溝部を有する形状に形成されていて、平板(14)とは中央の開孔の周辺部のみで・・・接合されている。このように形成された第2格子電極は従来のものに比べ幅が狭く、したがつて熱容量も約1/3に減少した。」(明細書4ページ5行〜5ページ18行)

2-2.刊行物2
同じく引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開昭58-158840号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
2a.「本発明は、生産性および精度を向上させたC-CRT電子銃電極のグリッド(以下グリッドと称す)およびその製造方法を提供することを目的とする。・・・その製造方法は、帯状部材をその長手方向に沿ってロール成形方法により溝を形成し、これの底面部の厚さをコイニングにより得られる薄肉部と同様な板厚の底面部をもった薄肉溝とし、これにビーム孔の孔明け加工および外形を打抜く打抜き加工を施してグリッドを得る方法である。・・・第5図および第6図は、本発明のグリッドの第1の実施例で、グリッド(21)はほぼ従来のものと同様な構成をしていて、中心線(22)上にビーム孔(23),(24),(25)が設けられている。このビーム孔(23),(24),(25)はこの中心線(22)に沿ってグリッド(21)を横断して設けられた溝(26)にあけられている。この溝(26)の底部の厚さt2は、従来のグリッドのコイニングにより得られた薄肉部と同様な厚さt2に形成されて薄肉溝(27)を形成している。・・・次に本発明の製造法につき説明する。まず、厚さt1=0.25mmのステンレス鋼からなる帯状部材(31)を・・・ロール成形法により・・・溝(28)を形成し、順次溝(28)の幅を拡げ、同時に厚さtを順次薄くして、最終的に幅W=3mm、厚さt2=0.06mm±0.01mmの連続薄肉溝(27)を形成する。次にこの帯状部材(31)をプレス加工により、ビーム孔(23),(24),(25)を孔あけし、外形を打抜き、本発明のグリッドを得る。」(2ページ左上欄19行〜左下欄13行)

3.対比・判断
上記の「2-1.」の1a.の記載から、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「陰極と3個一列に配列された電子ビーム通過孔が形成された第1、第2、第3格子電極を有する電子銃構体であって、第2格子電極は、電子ビーム通過孔(14)が3個一列に形成された厚肉平板(12)と、両端部でビードガラス棒(5)に植設されるとともに厚肉平板(12)に接合された薄肉のサポート(13)とからなり、厚肉平板(12)は電子ビーム通過孔(14)が3個一列に配列された方向と直角方向に幅せまく形成されている電子銃構体」
本願発明(前者)と上記刊行物1記載の発明(後者)とを比較する。
後者の「陰極」、3個一列に配列された電子ビーム通過孔が形成された「第1、第2、第3格子電極」、「電子銃構体」、「第2格子電極」、電子ビーム通過孔が3個一列に形成された「厚肉平板」、両端部でビードガラス棒に植設される「薄肉のサポート」は、それぞれ、前者の「カソード」、3個の電子ビームを通過させる3個の孔を備えた「複数の電極」、「陰極線管用電子銃」、「板状電極」、板厚の厚い電子ビームを通過させる3個の孔が一列に配置され形成されている「電子レンズ形成部分」、板厚の薄い「ビードサポート部」に相当する。
後者には、「陰極」が3個ある点、また、3個の電子ビーム通過孔が板厚方向では同一の直径である点についての明示はないものの、これらの点は、この種の電子銃において普通に採用されているところであるから、後者もこのような構成を実質的に備えているものと解される。
以上より、両者は、
「3個のカソードと前記カソードから蛍光面側に順に、3個の電子ビームを通過させる3個の孔を備えた複数の電極を有する陰極線管用電子銃において、前記複数の電極のうちの1個は板状電極であり、前記板状電極は、板厚の薄いビードサポート部と、それよりも板厚の厚い電子ビームを通過させる3個の孔が一列に配置され形成されている電子レンズ形成部分とからなり、前記電子レンズ形成部分に形成された孔は板厚方向では同一の直径である陰極線管用電子銃」
の点の構成で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
前者が、板厚の薄いビードサポート部と板厚の厚い電子レンズ形成部分とは塑性加工によって一体に形成されており、前記板厚の薄い部分と前記板厚の厚い部分との境界部には傾斜部が形成されているのに対し、後者はこのような構成を有していない点。
上記相違点について検討する。
本願明細書には、上記相違点に係る構成を採用した意義に関する次のような記載がある。
「【0010】
【作用】本発明では、それぞれ板厚の異なるビーム通過穴を設けた部分とビードサポートを設けた部分とを一体に形成するので、溶接工程を省略でき、生産性が向上し、製造コストが低減する。また、あらかじめ段差部を有する金属板材を使用するので、コイニング加工が不要となるか、または、コイニング加工量が少なくなるので、プレス成形時に成形工具が破損するのを防止できる。さらに、段差部を斜めに形成することにより、成形工具の負担が軽くなり、成形工具が破損するのを防止できる。」
一方、上記刊行物2には、「その製造方法は、帯状部材をその長手方向に沿ってロール成形方法により溝を形成し、これの底面部の厚さをコイニングにより得られる薄肉部と同様な板厚の底面部をもった薄肉溝とし、これにビーム孔の孔明け加工および外形を打抜く打抜き加工を施してグリッドを得る方法である。」(「2-2.」2a.の記載参照)と記載されており、この記載は、本願明細書の「それぞれ板厚の異なるビーム通過穴を設けた部分とビードサポートを設けた部分とを一体に形成するので、溶接工程を省略でき、生産性が向上し、製造コストが低減する。また、あらかじめ段差部を有する金属板材を使用するので、コイニング加工が不要となる」との記載とほぼ相応するものである。
また、板厚の薄い板材から第2グリッドを作り電子ビーム通過孔の周縁を厚く形成した電子銃の電極の構成も、例えば、実願昭55-176143号(実開昭57-99361号)のマイクロフィルム[特に、第3図参照]に示されるように従来周知のものである。
したがって、板厚の異なるビードサポート部と電子レンズ形成部分とを塑性加工によって一体に形成することは上記刊行物2に示され、電子レンズ通過孔部分の板厚をビードサポート部に比べ厚く形成することも上記のように周知のことと認められるから、板厚の薄いビードサポート部と板厚の厚い電子レンズ形成部分とは塑性加工によって一体に形成する点に格別の困難性は認められない。
板厚の薄い部分と前記板厚の厚い部分との境界部に傾斜部を形成する点に関しては、本願明細書の「段差部を斜めに形成することにより、成形工具の負担が軽くなり、成形工具が破損するのを防止できる」との記載から、成形工具の負担軽減のために、傾斜部を形成して成形に伴って発生する素材の変形を吸収しているものと解されるが、プレス成形に当たり素材の変形を吸収し、工具の寿命の向上や加工精度の向上を図ることは普通に行われているところであり(電子銃の電極のコイニング加工においても、例えば、特開昭62-278741号公報に工具寿命の向上のために素材にテーパーを形成して、加工する素材の変形を吸収することが示されている。)、更には、原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-193232号公報にも示されるように、厚板部と薄板部との段差に適度の曲率、即ち斜面を形成することは、異形断面条の形成において普通に採用されているところでもあり、また、上記例示した実願昭55-176143号(実開昭57-99361号)のマイクロフィルムにも傾斜部が設けられたグリッド電極が示されているから、これらの点からみても傾斜部を設ける点の構成に格別のものは認められない。
以上から、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明及び上記周知事項を適用して本願発明の上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。
そして、本願発明による効果も、刊行物1及び刊行物2の記載並びに周知事項から当業者が予測しうる範囲のものにすぎない。
したがって、本願発明は、刊行物1及び刊行物2記載の発明並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び刊行物2記載の発明並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-25 
結審通知日 2005-08-30 
審決日 2005-09-12 
出願番号 特願平4-133182
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 智也渡戸 正義波多江 進  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 杉野 裕幸
山川 雅也
発明の名称 陰極線管用電子銃  
代理人 和泉 良彦  

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