• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1125649
審判番号 不服2001-21343  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-11-29 
確定日 2005-11-04 
事件の表示 平成 9年特許願第 59072号「抗菌性を有する容器及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月22日出願公開、特開平10-249922〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年3月13日付けの出願であって、平成13年7月25日付けで拒絶理由が通知され、同年10月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月29日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年12月27日付けで審判請求書の請求の理由の「(2)拒絶査定の理由の要点」及び「(3)本願発明が特許される理由」の項を補充する手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1〜3に係る発明は、平成13年10月1日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】容器の外表面に抗菌剤を含有する薄膜化OP層を設けた容器であって、プリフォームの外表面に抗菌剤を含有するOP層を設けたプリフォームを加熱して延伸ブロー成形することによりOP層を薄膜化したことを特徴とする抗菌性を有する容器。
【請求項2】請求項1における抗菌性を有する容器の薄膜化OP層を、容器の外表面における首部あるいは底部に、または首部と底部に、設けたことを特徴とする抗菌性を有する容器。
【請求項3】プリフォームの外表面に抗菌剤を含有するOP層剤をコーティングしてOP層を設け、該OP層を有するプリフォームを加熱して延伸ブロー成形して、OP層を薄膜化したことを特徴とする抗菌性を有する容器の製造方法。」

2.引用文献の記載
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献1〜4には、以下の事項が記載されている。

(1)引用文献1(特開平8-90726号公報)に記載された事項
ア:「【請求項1】容器に用い、少なくとも二層以上から成る高分子積層体において、少なくとも容器最外層を形成する樹脂層に抗菌剤を添加したことを特徴とする抗菌性積層体。」(特許請求の範囲請求項1)
イ:「【産業上の利用分野】本発明は、各種成形法により作製されるプラスチック製の容器に利用される高分子積層体に関するものである。更にくわしくは、容器表面にカビ、細菌等の増殖を防止する目的で抗菌剤などを添加した容器に利用される抗菌性積層体に関するものである。
【従来の技術】浴室などの高温、多湿条件下におかれるプラスチック製品(シャンプー、リンス等の容器)は数か月間使用するため、そのの表面にはカビなどの微生物が増殖することが以前より知られている。このため美観を損ねるだけでなく、このカビの胞子がアレルギー等の症状の原因の一つとして考えられている。また、容器表面の滑り(ヌメリ)は細菌や酵母の増殖によるものと考えられている。
微生物の増殖の防止、化粧品、医薬品等の容器内容物の変質防止のために容器の内表面に防微生物剤を添加した容器(例えば、実公昭58-2783号)、多層容器の最内層に無機系の抗菌性物質を添加した容器(例えば、特開平3-150122号)が提案されているが、何れも内容物の変質を防止するためのものであり、容器表面における微生物の増殖を防止して滑り(ヌメリ)の生じない容器が望まれていた。」(段落【0001】〜【0003】)
ウ:「本発明のこれらの抗菌剤を添加し、かつ容器最外層を形成する樹脂層を形成する手段としては、・・・溶剤に溶解した樹脂に混合して基材上に塗布し、乾燥して形成する方法など既知の技術を用いて形成可能である。」(段落【0011】)
エ:「〈実施例3〉通常のブロー成形法により、・・・容器を成形した。」(段落【0021】抜粋)

(2)引用文献2(特開昭60-2361号公報)に記載された事項
オ:「(1)予備成形物の少くとも一つの壁面にエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物の溶剤溶液の被覆を形成し、次いで該被覆中の揮発分が0.05〜5重量%となるように乾燥したガス不透過性被覆をもつ複合予備成形物。」(特許請求の範囲第1項)
カ:「(11)予備成形物の少くとも一つの壁面にエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物の溶剤溶液の被覆を形成し、次いで該被覆中の揮発分が0.05〜5重量%となるように乾燥し、これを二軸延伸条件下で二軸延伸-吹込成形したガス不透過性二軸延伸複合中空体。」(特許請求の範囲第11項)
キ:「中空体の分野では近年熱可塑性樹脂が急速な発展を遂げている。特にポリエチレンテレフタレート系樹脂は予備成形物の二軸延伸吹込成形によつて機械的性質(特に耐衝撃性および内圧抵抗性)に優れたビンを成形する注目すべき特性を持つているので、加圧液体及び発泡飲料の充填に有利に使用出来ることは周知である。しかし・・・多くの熱可塑性樹脂製中空体のガス及び調味料、香料に対する不透過性は、不十分である・・・。・・・中空体の透過率を低下させるために基材よりもガス透過率の低いバリヤー材を中空体表面に塗布することが提案されている。・・・公知の方法では被覆は仕上げ容器壁面上に浸漬、噴霧等の塗布方法を含む各種技術で塗布されるが、塗布層厚は容器の形が時として複雑となるため、制御することがむづかしいという欠点がある。」(2ページ右下欄下から5行-3ページ右上欄9行)
ク:「本発明者らは該従来技術のもつ欠点を排除し、・・・充分な不透過性を示す二軸延伸中空体を得ることを目的として、バリヤー材であるEVOH系樹脂とポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系の樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂との積層物についてその共延伸性に重点をおき、鋭意検討を行なつた結果、好適に共延伸可能なEVOH系樹脂と他の熱可塑性樹脂との複合構成をもつ二軸延伸中空体製造用予備成形物を完成し」(4ページ左上欄下から5行-右上欄7行)

(3)引用文献3(特開昭62-181121号公報)に記載された事項
ケ:「従来、透明性、強度に優れたポリエチレンテレフタレートからなる容器のガスバリヤ-を改善するために、プリフオ-ムにエチレン-酢酸ビニル度重合体ケン化物溶液を塗布後、二軸延伸ブロー成形する方法(特開昭60-2361号)、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を特殊溶剤に溶剤に溶解した溶液を塗布する方法(特開昭60-124661号)等の積層容器が提案されている。」(1ページ右下欄7-15行)
コ:「本発明の積層ブロー容器の製造方法は、特殊な溶剤に溶解したエチレン-酢酸ビニル共重合体溶液を、プリフオームに塗布乾燥して、さらに二軸延伸ブローし、塗布層を3μ以下と薄く仕上げたので、エチレン酢酸ビニル共重合体の延伸効果により薄くても極めて優れたガスバリヤ-性を有する」(3ページ左下欄7-13行)

(4)引用文献4(特開昭57-82020号公報)に記載された事項
サ:「1.飽和ポリエステルを用いてパリソンを形成し、該パリソンの少なくとも胴部壁部の外表面に、ニトリル含有量80mol%以上のアクリルニトリル系重合体、塩化ビニリデン重合体、あるいは塩化ビニリデンとアクリル系モノマーとの共重合体の中から選択される重合体を成分とするコーテイング剤を塗布、乾燥して合成樹脂被覆層を形成し、次いで、得られたパリソンを壜胴成形用金型内でブロー成形することを特徴とする飽和ポリエステル製の壜の製造方法。
2.飽和ポリエステルを用いてパリソンを形成し、次いでこのパリソンを壜胴成形用金型内でブロー成形することにより、壜胴部が二軸延伸されている飽和ポリエステル製の壜を成形し、しかる後に、得られた二軸延伸されている壜胴部を有する飽和ポリエステル製の壜の少なくとも底部を含む壜胴部壁部の外表面に、ニトリル含有量80mol%以上のアクリルニトリル系重合体、塩化ビニリデン重合体、あるいは塩化ビニリデンとアクリル系モノマーとの共重合体の中から選択される重合体を成分とするコーテイング剤を塗布、乾燥して合成樹脂被覆層を形成することを特徴とする飽和ポリエステル製の壜の製造方法。」(特許請求の範囲)
シ:「特許請求の範囲第1番目の発明においては、パリソンに合成樹脂被覆層を形成するものであるから、この合成樹脂被覆層の形成を容易に行うことができるし、また、この工程で必要とする操業スペ-スも比較的小さくて済むという特徴を有する。」(3ページ左下欄下から3行-右下欄3行)

3.当審の判断
(1)引用文献1に記載された発明
上記摘示アーウによれば、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。
「浴室などの高温、多湿条件下におかれる容器表面における微生物の増殖を防止して滑り(ヌメリ)の生じない容器を製造する方法であって、溶剤に溶解した樹脂に抗菌剤を混合して基材上に塗布、乾燥することで、容器最外層に抗菌剤を含有する樹脂層を形成することとした容器を製造する方法。」(以下、「引用文献1発明」という。)

(2)請求項3に係る発明(以下、「本件発明3」という。)と引用文献1発明との対比
本件発明3(前者)と引用文献1発明(後者)とを対比すると、
本件特許明細書の実施例の記載からみて、前者における「抗菌剤を含有するOP層剤」は、後者における「溶剤に溶解した樹脂に抗菌剤を混合し」たものに相当し、
両者は、「抗菌剤を含有するOP層剤をコーティングしてOP層を設けた抗菌性を有する容器の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
a)前者においては、予め製造したプリフォームを加熱して延伸ブロー成形することで容器を製造しているのに対し、後者においては、容器の製造法自体は明らかではない点(以下、「相違点a」という。)
b)前者においては、プリフォームの外表面に抗菌剤を含有するOP層剤をコーティングすることとしているのに対し、後者においては、溶剤に溶解した樹脂に抗菌剤を混合したものを塗布する対象は「基材」と記載されるのみで、塗布される対象が不明である点(以下、「相違点b」という。)
c)前者においては、プリフォームの外表面に設けられたOP層は、該プリフォームを延伸ブロー成形することで薄膜化されるのに対し、後者においては、かかる点が明らかではない点(以下、「相違点c」という。)

(3)相違点についての検討
(3-1)上記相違点aについて
熱可塑性樹脂からなる容器の製造をブロー成形により行うことは、周知の技術的事項であり、引用文献1発明においても、そのことは予定されているといえるし(上記摘示エ参照)、また、ブロー成形の中でも特に予め製造したプリフォームの加熱・延伸ブロー成形法を採用することが極めて一般的であることは、上記摘示カ、キ、ク、ケ、コ、サからも明らかであるから、上記相違点aについては、引用文献2-4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
(3-2)上記相違点bについて
引用文献2-4には、予め製造したプリフォームを加熱し延伸ブロー成形することで製造される容器に、ガスバリヤ性を付与することを目的として、ガスバリヤ性を有する樹脂を溶剤に溶かした溶液をプリフォームに塗布した後、延伸ブロー成形を行うことが記載されている(上記摘示カ、ケ、コ、サ参照)。引用文献2-4には、引用文献1発明のように抗菌性付与の観点から該塗布を行うことについては記載されていないが、引用文献1発明も引用文献2-4に記載された発明も、容器の外表面に塗布によって該容器の機能を向上させる被覆層を設けるという点では共通しており、上記(3-1)で述べたとおり、引用文献1発明において、容器の製造を、予め製造したプリフォームを加熱し延伸ブローすることにより行うこととした場合に、溶剤に溶解した樹脂に抗菌剤を混合したものを該プリフォームに塗布するようにすることは、引用文献2-4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到しうることである。
なお、引用文献1発明において、容器の製造を、予め製造したプリフォームを加熱し延伸ブローすることにより行うこととした場合に、溶剤に溶解した樹脂に抗菌剤を混合したものを塗布する対象物としては、プリフォームの他に、得られた容器もありうるが、プリフォームの段階で該塗布を行うことの技術的優位性は、上記摘示キ、シからも明らかである。
(3-3)上記相違点cについて
上記(3-1)(3-2)で述べたとおり、引用文献1発明において、容器の製造を、予め製造したプリフォームに、溶剤に溶解した樹脂に抗菌剤を混合したものを塗布した後、これを加熱し延伸ブローすることにより行うこととした場合に、該塗布層が延伸によって薄膜化されることは自明のことにすぎない。

(4)まとめ
以上のとおり、上記相違点a-cは、引用文献2-4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうることである。
なお、特許出願人は、審判請求書において、引用文献1と引用文献2乃至4に係る発明とは、求められている塗布層が、欠陥なく一様に表面上へ形成される事が求められる機能であるか、そうではなく、特定の部位(首部、底部)に重点的にもしくは部分的に表面上へ形成される事が求められる機能かの違いがある旨主張するが、引用文献1-4の記載内容を精査しても、そのような差異があるものとは認められないし、また、本件特許の請求項3に係る発明についても、塗布層を設ける部位が特定されているものとは認められないから、かかる主張は採用できない。
また、上記相違点a-cを採用することによる本件特許の請求項3に係る発明の効果(本件特許明細書段落【0047】参照)についても、引用文献2-4に記載されているもの(特に上記摘示キ、シ参照)か、自明なものにすぎない。
したがって、本件特許の請求項3に係る発明は、引用文献1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本件特許の請求項3に係る発明は、引用文献1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-30 
結審通知日 2005-09-06 
審決日 2005-09-21 
出願番号 特願平9-59072
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 行剛野村 康秀加藤 友也  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 澤村 茂実
滝口 尚良
発明の名称 抗菌性を有する容器及びその製造方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ