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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない G06F
管理番号 1125678
審判番号 訂正2005-39102  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-03-20 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-06-17 
確定日 2005-11-02 
事件の表示 特許第3223652号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯
本件訂正審判の請求は、平成17年6月17日にされたものである。訂正の可否について当合議体で審理し、平成17年7月19日付けで訂正拒絶理由を通知し、これに対し、平成17年8月25日に審判請求人から意見書と手続補正書が提出された。

2.本件訂正審判の請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨(平成17年8月25日の手続補正書による補正前)は、特許第3223652号(平成13年8月24日登録、その後、平成14年10月15日付けの異議決定のなかで訂正請求認容))の明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を本件訂正審判の請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、下記の(1)から(17)のとおり訂正することを求めるものである。
(1)訂正前の請求項1、3、5及び6を削除する。これに伴い請求項の項番を順次訂正する。これにより、訂正前請求項2を訂正後請求項1に、訂正前請求項4を訂正後請求項2に、訂正前請求項7-9を、それぞれ訂正後請求項3-5に対応させる。
(2)訂正後の各請求項の末尾の「装置」を「小型化の文字入力装置」に訂正する。
(3)訂正前請求項2の「日本語・・・・備えており、」を、「日本語入力手段を有する装置であって、50音図各行のあ段の仮名文字がそれぞれ表記された複数の操作キーと、カーソルの移動方向が十字に指示された、前記操作キーとは別の十字キーと、表示画面とを備えており、」に訂正する。
(4)訂正前請求項2の「同じ操作キーを続いて押下すると押下する毎に当該操作キーに表記された行の各段の仮名文字が前記表示画面に巡回表示され、」を「同じ操作キーを続いて押下すると押下する毎に当該操作キーに表記された行の各段の仮名文字が前記表示画面に巡回表示され、前記操作キーの内の一つを連続して押下した場合に前記表示画面に巡回表示される前記操作キーに割り当てられた行に対応する文字を所望の文字で、仮名確定の操作で仮名仮確定し、」に訂正する。
(5)訂正前請求項2の「所望の仮名文字が表示されたときに続いて前記押下したキーとは異なる行に対応した操作キーを押下すると前記所望の仮名文字の入力が確定され」を「所望の仮名文字が表示されたときに続いて前記押下したキーとは異なる行に対応した操作キーを押下するとき、前記所望の仮名文字の入力が前記仮名仮確定の操作をすること無しに仮名仮確定され」に訂正する。
(6)訂正前請求項2の「日本語入力手段を有する」を「前記十字キーが前記表示画面上に表示されたメニュー画面から実行したい機能を選択するために用いられ、 さらに、所望の仮名仮確定された言葉が仮名文字で表示されたとき、漢字変換キーを押下すると該仮名文字表示に対応する候補漢字が前記表示画面に表示されるように構成されてなることを特徴とする日本語入力手段を有する」に訂正する。
(7)訂正前請求項4の「前記表示画面上に表示されたカーソルの移動指示をする十字キーと」を「前記表示画面上に表示されたカーソルの移動を十字に指示をする、十字キーと」に訂正する。
(8)訂正前請求項4の「50音図の行に対応して設けられた複数の操作キーとを備えており、」を「50音図の行のそれぞれに対応して設けられた複数の操作キーとを備えており、前記十字キーは前記操作キーとは別であり、」に訂正する。
(9)訂正前請求項4の「前記操作キーの内の一つを連続して押下すると押下する毎にそのキーに対応付けられた行の仮名が前記表示画面に巡回表示され、」 を「前記操作キーの内の一つを連続して押下すると押下する毎にそのキーに対応付けられた行の仮名が前記表示画面に巡回表示され、前記操作キーの内の一つを連続して押下した場合に前記表示画面に巡回表示される前記操作キーに割り当てられた行に対応する文字を所望の文字で、仮名仮確定の操作で仮名仮確定し、」に訂正する。
(10)訂正前請求項4の「所望の仮名文字が表示されたときに続いて前記押下したキーとは異なる行に対応した操作キーを押下すると前記所望の仮名文字が確定される」を「所望の仮名文字が表示されたときに続いて前記押下したキーとは異なる行に対応した操作キーを押下するとき、前記所望の仮名文字が仮名仮確定の操作をする事無しに仮名仮確定される」に訂正する。
(11)訂正前請求項4の「仮名文字の入力が可能となるように構成されることを特徴とする」を「仮名文字の入力が可能となるように構成され、前記十字キーが前記表示画面上に表示されたメニュー画面から実行したい機能を選択するために用いられ、前記50音図各行に対応して設けられた複数のキーの内、促音の大文字表記の仮名文字が有る行に対応するキーを連続して押下した場合に、前記表示部に当該促音を含む巡回表示がされ、さらに、所望の仮名仮確定された言葉が仮名文字で表示されたとき、漢字変換キーを押下すると該仮名文字表示に対応する候補漢字が前記表示画面に表示されるように構成されてなることを特徴とする」に訂正する。
(12)訂正前請求項8の「前記表示画面上に表示されたカーソルの移動指示をする十字キー」を「前記表示画面上に表示されたカーソルの移動を十字に指示をする、十字キー」に訂正する。
(13)訂正前請求項8の「50音図の行にそれぞれ対応して設けられた複数の操作キー」を「 50音図の各行のあ段の仮名文字にそれぞれ対応して設けられた複数の操作キー」に訂正する。
(14)訂正前請求項8の「仮名確定する仮名仮確定キーとを有し、前記操作キーとは異なる行に対応した操作キーの押下に続いて押下する」を「仮名仮確定する仮名仮確定キーとを有し、前記十字キーは前記操作キーとは別であり、前記操作キーとは異なる行に対応した操作キーの押下に続いて、当該キーを押下する」に訂正する。
(15)訂正前請求項8の「前記所望の文字が仮名確定されるように構成されており、且つ、前記仮名確定によって決定された所望の文を同音語の漢字に変換する変換キー」を「前記所望の文字が仮名仮確定されるように構成されており、且つ、前記仮名仮確定によって決定された所望の文を同音語の漢字に変換する変換キー」に訂正する。
(16)訂正前請求項5の「前記濁音変換キーを」を「前記濁音変換キーを、」に訂正する。
(17)請求項の訂正に合わせて、発明の詳細な説明の段落【0007】の記載を訂正明細書のとおり訂正する。

3.訂正拒絶の理由
一方、平成17年7月15日付けで当審判合議体が通知した訂正拒絶の理由の概要は次のとおりである。

訂正事項(2)について「小型化の文字入力装置」の実体は明細書の記載及び技術常識に照らしても明らかでなく、どのような「装置」が「小型化の文字入力装置」に含まれ、どのような装置が「小型化の文字入力装置」に含まれないのか、判断ができないので、この訂正は、特許法126条1項1号の特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当したとしても、請求項に係る発明の範囲を不明確にするものであり、特許法36条5項2号に規定する要件を満たさないから、独立して特許を受けることができるものではない。
つぎに、この訂正が明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえるか否かについて検討すると、訂正前の「装置」という末尾の記載で、請求項に係る発明は明確であり、却って、これを「小型化の文字入力装置」と訂正すると、上に述べたような不明確さが導入される。そうすると、この訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。
したがって、訂正事項(2)は、特許法126条1項1号の特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当したとしても、特許法126条3項に規定する独立特許要件を満たさず、また、特許法126条1項3号の明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正にも該当しないから、この訂正は認容できない。

訂正事項(3)から(15)について 訂正事項(3)から(15)は、訂正前の請求項を、仮確定に関する技術的事項でさらに限定したり、操作キーないし十字キーの機能を具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
しかしながら、訂正後の請求項1から5に係る発明は、刊行物1(実願平1-9554号明細書のマイクロフィルム(実開平2-104428号)に開示された技術事項、及び、刊行物2(特開昭54-152905号)に開示された技術事項、さらには十字キーに関する周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、訂正事項(3)から(15)は、特許法126条3項に規定する独立特許要件を満たさないから、これらの訂正は認容できない。

訂正事項(16)について 訂正事項(16)は明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正には該当せず、この訂正は認容できない。

4.手続補正書による補正の内容と補正の可否
これに対し、平成17年8月25日に審判請求人から手続補正書が提出されたが、その内容は、平成17年6月17日にされた訂正審判の請求書に記載された請求の趣旨から、訂正事項(2)及び(16)を削除する、というものである。これは、訂正審判の請求の趣旨に含まれる複数の訂正項目の一部を単に削除するものであり、審判請求の趣旨を変更するものではないから、特許法131条2項の規定に適合する。

そこで、以下に、訂正事項(3)から(15)について、訂正の可否を検討する。

5.本件訂正の可否
訂正事項(1)は訂正前の請求項1、3、5及び6を単に削除するものであるから、この訂正は認められる。
訂正事項(17)の訂正の可否は、訂正事項(3)から(15)の訂正の可否に依存する。
そこで、以下に、訂正事項(3)から(15)の訂正の可否について検討する。
訂正事項(3)から(15)は、訂正前の請求項の記載を、仮確定に関する技術的事項でさらに限定したり、操作キーないし十字キーの機能を具体的に限定するものであるから、これらの訂正は、特許法126条1項1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
次に、これらの訂正が、特許法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか否かについて検討する。

(1)訂正発明の内容
平成17年6月17日の請求に係る訂正事項(3)から(15)による訂正後の発明の内容は、以下のとおりである(下線部は訂正部分)。なお、訂正前の請求項1、3、5及び6は削除され、順次繰り上げられた。
「【請求項1】日本語入力手段を有する装置であって、50音図各行のあ段の仮名文字がそれぞれ表記された複数の操作キーと、カーソルの移動方向が十字に指示された、前記操作キーとは別の十字キーと、表示画面とを備えており、前記十字キーは前記表示画面に表示されるカーソルを移動するカーソル移動指示機能を有し、前記複数の操作キーのそれぞれは、同じ操作キーを続いて押下すると押下する毎に当該操作キーに表記された行の各段の仮名文字が前記表示画面に巡回表示され、
前記操作キーの内の一つを連続して押下した場合に前記表示画面に巡回表示される前記操作キーに割り当てられた行に対応する文字を所望の文字で、仮名仮確定の操作で仮名仮確定し、所望の仮名文字が表示されたときに続いて異なる行の操作キーを押下するとき、前記所望の仮名文字の入力が前記仮名仮確定の操作をすること無しに仮名仮確定され、続いて次の仮名文字の入力が可能となるように構成され、
前記十字キーが前記表示画面上に表示されたメニュー画面から実行したい機能を選択するために用いられ、 さらに、所望の仮名仮確定された言葉が仮名文字で表示されたとき、漢字変換キーを押下すると該仮名文字表示に対応する候補漢字が前記表示画面に表示されるように構成されてなることを特徴とする日本語入力手段を有する装置。
【請求項2】表示画面を見ながら日本語を入力する入力手段を有する装置であって、前記表示画面上に表示されたカーソルの移動を十字に指示をする、十字キーと、50音図の行のそれぞれに対応して設けられた複数の操作キーとを備えており、前記十字キーは前記操作キーとは別であり、前記操作キーの内の一つを連続して押下すると押下する毎にそのキーに対応付けられた行の仮名が前記表示画面に巡回表示され、前記操作キーの内の一つを連続して押下した場合に前記表示画面に巡回表示される前記操作キーに割り当てられた行に対応する文字を所望の文字で、仮名仮確定の操作で仮名仮確定し、所望の仮名文字が表示されたときに続いて前期押下したキーとは異なる行に対応した操作キーを押下するとき、前記所望の仮名文字が仮名仮確定の操作をする事無しに仮名仮確定されると共に前記異なる行に対応した仮名文字の入力が可能となるように構成され、 前記十字キーが前記表示画面上に表示されたメニュー画面から実行したい機能を選択するために用いられ、 前記50音図各行に対応して設けられた複数のキーの内、促音の大文字表記の仮名文字が有る行に対応するキーを連続して押下した場合に、前記表示部に当該促音を含む巡回表示がされ、さらに、 所望の仮名仮確定された言葉が仮名文字で表示されたとき、漢字変換キーを押下すると該仮名文字表示に対応する候補漢字が前記表示画面に表示されるように構成されてなることを特徴とする日本語入力手段を有する装置。
【請求項3】前記十字キーに代えてマイクロトラックボールを設けたことを特徴とする請求項2記載の日本語入力手段を有する装置。
【請求項4】表示画面を見ながら日本語を入力する入力手段を有する装置であって、前記表示画面上に表示されたカーソルの移動を十字に指示をする、十字キーと、50音図の各行のあ段の仮名文字にそれぞれ対応して設けられた複数の操作キーと、前記操作キーの内の一つを連続して押下した場合に前記表示画面に巡回表示される前記操作キーに割り当てられた行に対応する文字を所望の文字で仮名仮確定する仮名仮確定キーとを有し、
前記十字キーは前記操作キーとは別であり、 前記操作キーとは異なる行に対応した操作キーの押下に続いて、当該操作キーを押下すると前記仮名仮確定キーを押し下げすることなしに前記所望の文字が仮名仮確定されるように構成されており、且つ、前記仮名仮確定によって決定された所望の文を同音語の漢字に変換する変換キーと、該変換キーの押下によって前記表示画面に表示された前記漢字を確定する確定キーとを有することを特徴とする日本語入力手段を有する装置。
【請求項5】前記表示画面に表示された仮名が仮確定待ちの状態の場合に濁音に変換する濁音変換キーをさらに有し、前記濁音変換キーを前記漢字を確定する確定キーとして用いることを特徴とする請求項4に記載の日本語入力手段を有する装置。

(2)引用刊行物とその記載内容

(2-1)刊行物1
引用刊行物1(実願平1-9554号明細書のマイクロフィルム(実開平2-104428号)には、第1図、第2図、第3図、第4図、第5図とともに、次の記載がある。

(イ)(従来の技術、考案が解決しようとする課題について)
「従来の技術
日本語の文字入力装置として、現在、例えばワードプロセッサ等が知られており、その入力手段としてはJIS規格等で定められたタイプライタ型キーボードが一般に用いられている、この場合のキーボードは、いわゆる五十音の各音に対応するキーが複数配置されているものであり、操作者は入力したい文字に相当するキーを押すことによって装置に文字を入力する。
考案が解決しようとする課題
上記の如く、従来のワードプロセッサ等の文字入力装置の入力手段はタイプライタ型のキーボードが一般的であるが、このようなタイプライタ型のキー配列に馴染みの薄い日本人にはそのキー配列を習得するのに多大の労力を必要とする問題点があった。又、このようなキーボードはキー数が多く、大型化し、コスト高になる問題点があった。
本考案は、小形で、しかも、日本人にとって習得しやすいキー配列を有する文字入力装置を提供することを目的とする。」(刊行物1の2頁12行から3頁11行の記載)

(ロ)(平仮名の「あ」「ね」を入力する場合の動作について)
「例えば「あ」を入力したい場合、キーボード1の「あ」行のキー21を一回押す。これにより、制御装置4の制御部8のキースキャン制御にてキーNo.検出部5でキーNo.の1つまりキー21が押されたことが検出され、(中略)、続いて前回と同じキーNo.であるか否かがキー操作回数検出部6にて判断される(ステップ52)。この場合は初めての操作であるのでキー操作回数(N)=0が設定される(ステップ53)。
ここで、制御部8には第4図(A)に示すようなテーブルが設定されており、KはキーNo.(キー21〜212は1〜12)、Nはキー操作回数、Mはモード(キー31〜34による平仮名、片仮名等)を夫々示す。制御部8ではキーNo.検出部5、キー操作回数検出部6、モード検出部7にて夫々検出されたキーNo.のK(この場合は1)、キー操作回数のN(この場合は0)、モードのM(この場合は0)に対応した第4図(B)に示すテーブルが選択され、表示器9に平仮名の「あ」が表示される(ステップ55)。操作者はこの表示を見、間違いないことを確認すると決定キー34を押す。これにより、キーNo.が1〜12以外であることが判断され(ステップ51)、平仮名の「あ」が装置に入力される(ステップ56)。」(刊行物1の6頁8行から7頁15行の記載)

「次に「あ」に続けて例えば「ね」を入力する場合、「な」行のキー25を4回続けて押す。これにより、キーNo.検出部5でキーNo.の5つまりキー25が押されたことが検出され(ステップ50)、続いてキーNo.が1から12以外でないことが判断される(ステップ51)。続いてステップ52ではキー25の1回目の操作で前回と同じキーNo.でないことが判断され、ステップ53においてN=0と設定され、ステップ54で所定のテーブルが選択され、ステップ55で「な」が表示される。キー25の2回目の作業ではステップ52で前回と同じキーNo.であることが判断され、ステップ57においてN=1と設定され、ステップ54で所定のテーブルが選択され、ステップ55で「な」が消去されて「に」が表示される。この場合はキー25を4回操作するのであるから、ステップ57においてN=3と設定され、ステップ54で第4図(C)に示すテーブルが選択され、ステップ55で「ね」が表示される。「ね」の表示を確認して決定キー34を押すと、平仮名の「ね」が装置に入力される(ステップ56)。」(刊行物1の7頁16行から8頁17行の記載)

「この他の文字を入力する場合も上記と同様に、入力した文字の行の冒頭の文字のキーを所定の回数続けて押すだけで入力でき、50音全ての文字についてキーを設けないでも少ない数のキーで済み、タイプライタ型のキー配列に馴染みの薄い日本人にとってそのキー配列を短時間で習得でき、しかもキーボードを小形化できる。」(刊行物1の8頁18行から9頁4行の記載)

(ハ)(濁音や小文字の入力について)
「濁点や半濁点を必要とする時は、入力した文字のキーを押した後で変換キー32を1回(濁点)又は2回(半濁点)押す。」(刊行物1の9頁5行から7行の記載)

「小文字を入力したい場合は文字のキーを押した後で小文字キー33を押す。」(刊行物1の9頁14行から16行の記載)

(ニ)(ひらがなの入力の後に「漢字変換」を伴う場合の実施例について)
「第5図は他の実施例のキーボードを示し、同図中、第2図と同一構造部分には同一番号を付してその説明を省略する。このものはワードプロセッサ等に適用されるもので、第2図に示すキー配列に更に、漢字に変換するための漢字変換キー35や文字シフトキー36等が付加されている。そこで、文字シフト(カーソル移動)を可能にするために、キー22’、24’、26’、28’に上下左右のシフトを設定する機能が設けられている。例えば、キー22’とシフトキー36とを同時に押せば、入力文字(カーソル)の上方向へのシフト(移動)が可能となる。」(刊行物1の10頁18行から11頁9行の記載)

以上の記載内容から、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「日本語入力手段を有する装置であって、引用刊行物の第5図に示されたように、50音図各行のあ段の仮名文字がそれぞれ表記された複数の操作キーと、上下左右方向にカーソルの移動を指示する機能と、表示画面(表示器9(第1図))とを備えており、
複数の操作キーのそれぞれは、同じ操作キーを続いて押下すると押下する毎に当該操作キーに表記された行の各段の仮名文字が前期表示画面に巡回表示され、
前記操作キーの内の一つを連続して押下した場合に前記表示画面に巡回表示される前記操作キーに割り当てられた行に対応する文字が所望の文字で、決定キー34の操作で確認(確定)し、
さらに、所望の仮名確定された言葉が仮名文字で表示されたとき、漢字変換キー35を押下すると該仮名文字表示に対応する候補漢字が前記表示画面に表示されるように構成された日本語入力手段を有する装置。」

(2-2)刊行物2
引用刊行物2(特開昭54-152905号)には、第1図とともに、次の記載がある(なお、下線は当審決において付したもの)。

「本願発明の装置は、カタカナ文字の行毎に文字キーを設けて、押した回数によってその行に属している文字を指定するようにしたことを特徴とするものである。
押した回数により文字を指定するには、文字キーにカウンタを接続して押した回数を計数してコード信号に変換する方法と、コンピュータのROMに押した回数と文字との関係をプログラムしておき、このプログラムで行う方法とがあり、いずれの方法も利用することができる。
各行に属する文字の指定(読出し)は、サイクル的に行われる。すなわち、ア行の文字キーを1回押すと「ア」がレジスタに書き込まれるとともに表示器に表示される。さらに文字キーを2回押すと、レジスタがクリアされ。「ア」に代わって「イ」がレジスタに書き込まれ、同時に表示器に「イ」が表示される。こうして文字キーを5回押すと、「オ」が表示される。さらにもう1回押すと「オ」に代わって「ア」が表示される。」(刊行物2の1頁右欄12行から2頁左欄9行の記載)

「一般の入力装置では文字キーを押すと、それによって得られた文字情報がコンピュータに入力されるが、本発明では押した回数で所望の文字を指定するものであるから、指定した文字が最終的なものであることを表す書込信号が必要である。
この書込信号は、書込キーを操作することにより得る方法と、時間で行う方法とがある。
前者の方法では文字キーを操作して所望の文字を指定してから、書込キーを押すことにより、その文字情報がコンピュータに入力される。」(刊行物2の2頁左上欄11行から同20行の記載)

「なお、行キーの最初の押下によって書込み(コンピュータのメモリに入力する)を行うようにしてもよい。「アキ」のように隣り合う文字の行が異なっている場合は、ア行の文字キーを1回押してから、カ行の文字を1回押すことにより、「ア」の文字が最初の文字として書き込まれ、同時につぎの桁に「カ」が表示される。つぎにカ行キーをもう1回押すと「カ」に代わって「キ」が表示される。なお最後の文字「キ」を書き込む場合は、書き込みキーを押す必要がある。同一行に属する文字が続く場合、例えば「アオ」のようなときには、「ア」を指定した後、書き込みキーを押せばよいから、それだけ入力処理を迅速に行うことができて便利である。」(刊行物2の2頁右上欄3行から同18行の記載)

(3)対比・判断

(3-1)訂正後の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明1」という。)について

本件訂正発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における、決定キー34の操作により仮名を確認するステップは、表示されている文字が所望の文字であることを確認して確定するステップであるから、本件訂正発明1の「所望の文字で、仮名仮確定の操作で仮名仮確定」することに対応する(これを、仮名「仮」確定と呼ぶかどうかは、単なる呼称の問題にすぎない)。

そうすると、両者は、
「日本語入力手段を有する装置であって、50音図各行のあ段の仮名文字がそれぞれ表記された複数の操作キーと、上下左右方向にカーソルの移動を指示する機能と、表示画面とを備えており、
複数の操作キーのそれぞれは、同じ操作キーを続いて押下すると押下する毎に当該操作キーに表記された行の各段の仮名文字が前期表示画面に巡回表示され、
前記操作キーの内の一つを連続して押下した場合に前記表示画面に巡回表示される前記操作キーに割り当てられた行に対応する文字が所望の文字で、仮名仮確定の操作で仮名仮確定し、
さらに、所望の仮名仮確定された言葉が仮名文字で表示されたとき、漢字変換キー35を押下すると該仮名文字表示に対応する候補漢字が前記表示画面に表示されるように構成された日本語入力手段を有する装置。」
である点で共通し、
以下の(a)、(b)、(c)の点で相違するものと認められる。

(a)本件訂正発明1においては、カーソル移動指示機能は操作キーとは別に備えられた十字キーにより実現するようにされているのに対し、引用発明のものにおいては、所定の操作キーとシフトキーとを同時に押下することにより実現している点。
(b)本件訂正発明1においては、カーソル移動指示機能を有する十字キーが表示画面上に表示されたメニュー画面から実行したい機能を選択するために用いられるのに対し、引用発明においては、これが不明である点。
(c)本件訂正発明1においては、「操作キーの内の一つを連続して押下した場合に前記表示画面に巡回表示される前記操作キーに割り当てられた行に対応する文字を所望の文字で、仮名仮確定の操作で仮名仮確定し、所望の仮名文字が表示されたときに続いて異なる行の操作キーを押下するとき、前記所望の仮名文字の入力が前記仮名仮確定の操作をすること無しに仮名仮確定され、続いて次の仮名文字の入力が可能となるように構成されている」のに対し、引用発明では、操作キーの内の一つを連続して押下した場合に前記表示画面に巡回表示される前記操作キーに割り当てられた行に対応する文字を所望の文字で、仮名仮確定の操作で仮名仮確定するところまでは共通するが、所望の仮名文字が表示されたときに続いて異なる行の操作キーを押下したときに、前記所望の仮名文字の入力が仮名確定の操作をすること無しに仮名確定される機能までは備えていない点。

そこで、以下に、これらの相違点について検討する。
相違点(a)について
カーソルの移動指示をする技術手段として、上下左右の操作キーやトラックボールのほかに、十字キーによるものは周知であり(例:特開平4-10116号公報の第1図及び2頁の第1表、実願平3-98188号明細書のCD-ROM(実開平5-48031号)の【従来の技術】【0002】から【0004】の記載、実願平3-65978号明細書のCD-ROM(実開平5-12931号)の【従来の技術】【0002】の記載を参照)、カーソルの移動指示をする具体的な技術手段としてどれを採用するかは、入力装置の小型化の要請や使いやすさ等を考慮して当業者が決定する設計上の事項であり、また、本件訂正発明1において、十字キーを採用したことによる効果も当業者が予測できる効果にすぎない。

相違点(b)について
入力装置において、カーソルの操作により、表示画面に表示されたメニューの中から所望の機能を選択するように構成することは、周知の技術であり(例:特開平1-100620号公報)、当業者が必要に応じて採用する技術である。

相違点(c)について
仮名入力装置において、所望の仮名文字が表示されたときに続いて異なる行の操作キーを押下すると、先の仮名文字の入力の確定の操作をすること無しに、先の仮名文字の入力が確定されるようしたものは、上記の引用刊行物2に記載されている(刊行物2の2頁右上欄3行から同18行の記載)。引用刊行物2の記載内容は、仮名入力に着目しており、その後の漢字変換については言及がないが、引用発明の仮名仮確定も仮名の確定という点で異なることはないから、刊行物2に開示された上記の入力確定の手法が引用発明の仮名仮確定にも適用できることは当業者に自明である。そうすると、上記相違点(c)に係る構成に至ることは、引用発明の仮名仮確定の手段に引用刊行物2に記載された手法を適用することにより、当業者が容易になし得たことといえる。

以上のとおり、本件訂正発明1は、引用刊行物1に記載された発明、引用刊行物2に開示された技術事項及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである

(3-2)訂正後の請求項2、3に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明2」、「訂正発明3」という。)について

本件訂正発明2と引用発明を対比すると、訂正発明1との上記相違点(a)、(b)、(c)に加えて、次の(d)の点で相違する。

(d)本件訂正発明2では、訂正前記50音図各行に対応して設けられた複数のキーの内、促音の大文字表記の仮名文字が有る行に対応するキーを連続して押下した場合に、表示部に当該促音(小文字)を含む巡回表示がされるようになされているのに対し、引用発明では、所望の仮名の大文字が表示されたときに小文字キーを押すようにしている点。

相違点(d)について
相違点(d)について検討すると、促音(小文字)の仮名を、大文字が表示されたときに小文字キーを押すことにより特定するか、促音(小文字)を表示の中に含めておいてこれを選択することにより特定するようにするかは、操作性等の観点から当業者が適宜選択する事項であり、格別の技術的考察を要するものではない。
そうすると、本件訂正発明2も、引用刊行物1に記載された発明、引用刊行物2記載に開示された技術事項及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

本件訂正発明3は、カーソルの移動方向を指示する手段として十字キーに代えてマイクロトラックボールを採用した点を除き、本件訂正発明2と同じであるところ、マイクロトラックボールはカーソルの移動方向を指示する手段の一つとして周知であり(例:特開平4-23028号公報の第1図、特開平2-50250号公報の4頁右欄1行から5行の記載、特開平2-47708号公報の1頁右欄7行から18行の記載)、これを採用したことによる効果も当業者が予測できる効果であるから、本件訂正発明3も、引用刊行物1に記載された発明、引用刊行物2に開示された技術事項及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-3)訂正後の請求項4、5に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明4」、「訂正発明5」という。)について

本件訂正発明4では、本件訂正発明1が有する上記相違点(b)に相当する構成がなく、漢字に変換する「変換キーの押下によって表示画面に表示された漢字を確定する確定キーを有する」点が追加されている。
そうすると、本件訂正発明4と引用発明とは、上記の相違点(a)、(c)に加えて、次の(e)の点で相違するものといえる。

(e)本件訂正発明4では、変換キーの押下によって表示画面に表示された漢字を確定する確定キーを有するのに対し、引用発明ではそのように漢字を確定しているのか明らかでない点。

相違点(e)について
相違点(e)について検討すると、一般に、日本語入力装置においては、表示された仮名を変換キーによって漢字に変換した後、これを確定する作業が必要となる。引用刊行物1には、これについて記載がなく、引用発明において、どのように漢字の確定をしているのか明らかでない。しかし、表示された漢字を確定する手段として、確定キーを設けることと、他のキーを確定キーに代用することは、当業者が普通に考えつくことである。そうすると、上記相違点(e)に係る構成は、日本語入力装置において本来必要な漢字の確定をするために確定キーを設ける構成を採用した、というにすぎないから、当業者が容易に想到し得たものといえる。

本件訂正発明5は、訂正発明4において、仮名を濁音に変換する濁音変換キーをさらに有し、この濁音変換キーを漢字を確定する確定キーとしても用いるようにしたものであるが、 引用発明も濁音変換キー32を備えている。そして、上にも述べたように、漢字を確定する手段としては、専用の確定キーを設けることのほか、他のキーで代用することが普通に想起され、かつ、この手段を採用することに技術的困難はないから、濁音変換キーを漢字を確定する確定キーとしても用いるようにすることは、当業者が容易に思いついたことといえる。

したがって、本件訂正発明4、5についても、引用刊行物1に記載された発明、引用刊行物2に開示された技術事項及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、2、3、4、5は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に開示された技術事項、及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものでない。したがって、本件訂正審判の請求は、特許法126条5項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-12 
結審通知日 2005-09-15 
審決日 2005-09-29 
出願番号 特願平5-178490
審決分類 P 1 41・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 友章  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 竹井 文雄
右田 勝則
登録日 2001-08-24 
登録番号 特許第3223652号(P3223652)
発明の名称 日本語入力手段を有する装置  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大賀 眞司  

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