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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03C
管理番号 1125705
審判番号 不服2002-17062  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-10-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-05 
確定日 2005-11-04 
事件の表示 平成6年特許願第48361号「ハロゲン化銀写真感光材料」拒絶査定不服審判事件〔平成7年10月13日出願公開、特開平7-261307〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年3月18日の出願であって、その請求項1係る発明は、平成14年10月1日付けの手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものと認める。
「下引き加工されていてもよい支持体上の一方の側に少なくとも3層のゼラチン含有層を有し、そのうちの少なくとも1層がヒドラジン誘導体を含有する感光性ハロゲン化銀乳剤層であるハロゲン化銀写真感光材料において、支持体に最も近い最下層にポリマーラテックスを含有し、かつ該最下層より最も離れている最上層にフッ素系界面活性剤を含有することを特徴とするハロゲン化銀写真感光材料。」(以下「本願発明」という。)

2.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、引用刊行物1ないし4には下記の事項がそれぞれ記載されている。
(引用刊行物1:特開平6-11792号公報の記載事項)
(1a)「少なくとも1層のハロゲン化銀乳剤層又は該乳剤層に隣接する層中にヒドラジン誘導体を含有するハロゲン化銀写真感光材料において、該乳剤層又は他の親水性コロイド層の少なくとも1層に、下記一般式(FA)で表される化合物と一般式(FK)で表される化合物を、それぞれ少なくとも1種づつ含有することを特徴とするハロゲン化銀写真感光材料。(一般式(FA)及び一般式(FK)省略。)」(【請求項1】)
(1b)「本発明の目的は、カブリの増加を抑え、擦傷が少なくプレッシャーにも強い超硬調画像が得られるハロゲン化銀写真感光材料を提供することにある。」(【0007】)
(1c)「一般式(FA)で表される弗素系アニオン活性剤」(【0050】)
(1d)「一般式(FK)で表される弗素系カチオン活性剤」(【0059】)
(1e)「本発明の効果を最も顕著に発揮させるためには、本発明に係る弗素系活性剤を表面保護層、バック側表面層又はオーバーコート層に添加するのが好ましい。」(【0072】)
(1f)「実施例1・・・
(写真感光材料の作成)両面に厚さ0.1μmの下塗層(特開昭59-19941号の実施例1参照)を施した厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の下塗層上に、下記処方(1)のハロゲン化銀乳剤層をゼラチン量が2.0g/m2、銀量が3.3g/m2になる様に塗設し、更にその上に下記処方(2)の保護層をゼラチン量が1.0g/m2になる様に塗設し、又、反対側のもう一方の下塗層上には下記処方(3)に従ってバッキング層をゼラチン層が2.4g/m2になる様に塗設し、更にその上に下記処方(4)の保護層をゼラチン量が1.0g/m2になる様に塗設して試料1〜10を得た。各素材の添加量は塗布試料1m2当たりのg数で示す。
処方(1)〔ハロゲン化銀乳剤層組成〕
ゼラチン 2.0g
沃臭化銀乳剤(銀量) 3.3g
カブリ防止剤(アデニン) 10mg
安定剤(4-メチル-6-ヒドロキシ-1,3,3a,7-テトラザインデン)30mg
界面活性剤(サポニン) 0.1g
界面活性剤 表1に示す
ヒドラジン誘導体 表1に示す量
ポリエチレングリコール(分子量4000) 0.1g
ラテックスポリマー(Lx-1) 0.1g
増感色素(S-1) 8mg
硬膜剤(H-1) 60mg
処方(2)〔乳剤保護層組成〕
ゼラチン 0.9g
マット剤(平均粒径3.5μmのシリカ) 3mg
硬膜剤(H-2) 50mg
硬膜剤(ホルマリン) 30mg
界面活性剤 表1に示す量」
(【0074】〜【0079】)
(1g)表1には、乳剤保護層の界面活性剤として、フッ素系界面活性剤(FK-7、FA-13、FK-10、FK-15)が記載されてる。(【0088】)

(引用刊行物1記載の発明)
上記の記載事項から刊行物には、以下の発明(以下、「引用刊行物1発明」という。)が記載されている。
「下塗層を施したポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の下塗層上に、少なくとも、ゼラチンとヒドラジン誘導体を含有したハロゲン化銀乳剤層を塗設し、その上に、少なくとも、ゼラチンとフッ素系界面活性剤を含有した乳剤保護層を塗設したハロゲン化銀写真感光材料。」

(引用刊行物2:特開昭63-218952号公報の記載事項)
(2a)「ポリエステルフィルム支持体上に少なくとも1層の下引層を有するハロゲン化銀写真感光材料において、前記下引層が活性メチレン基を有するポリマーを含有することを特徴とするハロゲン化銀写真感光材料。」(特許請求の範囲)
(2b)「目的とするところは、第1にポリエステルフィルム支持体と、その上に塗設される例えばハロゲン化銀写真乳剤層との間の接着性が改善されたハロゲン化銀写真感光材料の提供にあり」(第2頁左上欄第5行目〜第8行目)
(2c)「本発明のポリマーラテックスの製造方法について具体的に示す・・・ラテックス製造例1(P-1)・・・ラテックス液(P-1)を得た。」(第3頁左上欄第5行目〜右上欄第3行目)
(2d)「本発明の下引層には、本発明の活性メチレン基を含有するポリマーの他にゼラチンを含むことができる。」(第3頁右上欄第19行目〜左下欄第1行目)
(2e)「[実施例]次に実施例中において行った評価方法について説明する。(1)(接着力試験)<乾燥膜付試験>試料の乳剤面に、カミソリで浅傷を碁盤の目状につけ、その上にセロハン接着テープを圧着した後、該テープを急激に剥離したときのセロハンテープの接着面積に対する乳剤膜の残存率を百分率で示した。」(第5頁左上欄第12行目〜右上欄第1行目)
(2f)「実施例-1 ・・・ポリエチレンテレフタレートフィルムに・・コロナ放電処理を施した。次に表-1に示される下引用樹脂4.0g・・・ゼラチン2.0gからなる下引液を20μの膜厚に塗布し・・・乾燥させた。・・・さらに、この下引を施したポリエチレンテレフタレート支持体上の片面に下記に示すような組成の各層を順次支持体側から形成して、製版用感光材料の試料1〜4を得た。・・・第1層 乳剤層・・・ゼラチン 第2層 保護層 ゼラチン・・・」(第5頁右上欄第7行目〜右下欄第8行目)
(2g)表-1には、下引き樹脂として、ポリマーP-1、P-2、P-4を用いたものが支持体と乳剤層との接着性が良好であることが記載されている。(第6頁右上欄表-1〜左下欄第5行目)

(引用刊行物3:特開昭63-249842号公報の記載事項)
(3a)「コロナ放電処理した写真用ポリエステルフィルムの少なくとも一面に水系ポリエステルを塗設した下引層が設けられており、該下引層に塩化ビニリデン系ラテックスを含有させたことを特徴とする写真用支持体。」(特許請求の範囲)
(3b)「本発明の第2の目的は、ポリエステルフィルムと写真用親水性コロイド層との間に強固な接着力を有する写真用支持体を提供することにある。」(第2頁右下欄第1行目〜第3行目)
(3c)「以上2成分は本発明に必須の成分であるが、さらに、ゼラチン、セルロースのごとき水溶性高分子・・・など添加してもよい。」(第3頁右上欄第9行目〜第13行目)
(3d)「以下の実施例において行われた写真用ポリエステルフィルムの支持体と乳剤層との接着力の評価は下記の通りである。
(1)乾燥時の接着力 乾燥フィルムの乳剤面にカミソリの刃を用いて網目状に浅く傷をつけ、その上によく接着するセロハンテープを圧着して瞬間的にハク離する。この方法において、ハク離部分が0〜2%の場合を○印、2〜30%の場合を△印、30〜100%を×印とする。」(第3頁右上欄第18行目〜左下欄第7行目)
(3e)「実施例1・・・ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ放電処理面に次の組成の下引液を・・・塗布し・・・乾燥した。その上にヨウ臭化銀乳剤を塗布した。・・・
実施例2 以下のような塗液を調整し、実施例1と同様の操作をおこなった。
下引液2.
例示化合物(2)(10%水系分散液)250g
例示化合物(A)(25%水系分散液)30g
ゼラチン 10g
・・・」(第3頁右下欄第9行目〜第4頁左上欄第19行目)
(3f)「例示化合物(1)・・・同(2)ポリエスターXWR-930」(第3頁左上欄第18行目〜第19行目)
(3g)「例示化合物(A)クレハロンラテックスDOAX-2」(第3頁右上欄第7行目)
(3h)「このようにしてできた実施例1〜5の写真フィルムは乾燥状態及び現像処理中いずれにおいても、フィルム支持体と写真乳剤層との接着は良好で○印判定であった。」(第4頁左下欄第19行目〜右上欄第3行目)

(引用刊行物4:特開昭63-253352号公報の記載事項)
(4a)「写真用ポリエステルフィルムの少なくとも一面に高分子の水系分散物と水溶性高分子から成る下引層を塗設した写真用支持体において、該水系分散物と水溶性高分子からなる下引液に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルと一般式(省略)で表される化合物を使用したことを特徴とする写真用支持体。」(特許請求の範囲)
(4b)「本発明の第3の目的はポリエステルフィルムと写真用親水性コロイド層との間に強固な接着力を有する写真用支持体を提供することである。」(第2頁左下欄第11行目〜第13行目)
(4c)「本発明で用いられる高分子水系分散液とは、一般にポリマーラテックス・・・水溶性高分子としては、ゼラチン・・・等がある。」(第3頁左上欄第10行目〜第19行目)
(4d)「以下の実施例において行われた写真用ポリエステルフィルムの支持体と乳剤層との接着力の評価は下記の通りである。
(1)乾燥時の接着テスト 乾燥フィルムの乳剤面にカミソリの刃を用いて網目状に浅く傷をつけ、その上によく接着するセロハンテープを圧着して瞬間的に剥離する。この方法において、剥離部分が0〜2%の場合を○印、2〜30%の場合を△印、30〜100%を×印とする。」 (第3頁右下欄第2行目〜第11行目)
(4e)「実施例1.以下に示す塗液1を調整し、コロナ放電したポリエステルフィルムにエアー・ナイフコーターにより平方メートルあたり20ml塗布し・・・乾燥した。
塗液1.
スチレン-ブタジエン(固形分50%)20ml
ゼラチン(10%溶液) 40ml
・・・
こうして得られた下引済フィルムは塗布ムラ、ハジキがなく沃臭化銀乳剤を塗布した写真フィルムは接着性については、乾燥時、湿潤時ともに評価が○で透明性と写真特性も良好であった。」(第4頁右上欄第2行目〜第19行目)

3.対比
本願発明と引用刊行物1発明とを比較する。
(ア)引用刊行物1発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム」及び「ハロゲン化銀乳剤層」は、それぞれ、本願発明の「支持体」及び「感光性ハロゲン化銀乳剤層」に相当する。
(イ)引用刊行物1の実施例で下塗層の組成を示すものとして引用された、特開昭59-19941号公報の実施例1をみると、下塗層である下引層はポリマーラテックスを含有するものの、ゼラチンは含有していない。しかしながら、引用刊行物1発明の「下塗層」は、「支持体に最も近い層」である点で、本願発明の「最下層」と共通し、さらに、両者は、ポリマーラテックスを含有する点でも共通している。
(ウ)引用刊行物1発明の「乳剤保護層」は、ゼラチンを含有し、「支持体に最も近い層」より最も離れているから、本願発明の「最上層」に相当する。
(エ)引用刊行物1発明は、ゼラチンを含有する層である、ハロゲン化銀乳剤層、乳剤保護層の少なくとも2層と、ゼラチンを含有しない下塗層を有しており、層構成としては、少なくとも3層を有している。
したがって、本願発明と引用刊行物1発明との間には、下記のような一致点及び相違点がある。
(一致点)
支持体上の一方の側に、少なくとも3層を有し、そのうちの少なくとも1層がゼラチンとヒドラジン誘導体を含有する感光性ハロゲン化銀乳剤層であるハロゲン化銀写真感光材料において、ポリマーラテックスを含有する支持体に最も近い層、支持体に最も近い最下層より最も離れているゼラチンとフッ素系界面活性剤を含有する最上層を有するハロゲン化銀写真感光材料である点。
(相違点)
本願発明では、支持体に最も近い層が、ポリマーラテックスの他にゼラチンを含有し、ハロゲン化銀写真感光材料は、少なくとも3層のゼラチン含有層を有するのに対して、引用刊行物1には、支持体に最も近い層がゼラチンを含有することは記載されず、ゼラチン含有層が2層である点。

4.判断
(相違点について)
引用刊行物2ないし4に記載されるように、支持体であるポリエステルフィルムとゼラチンを含有するハロゲン化銀乳剤層との間に強固な接着力を得るために、支持体上にポリマーラテックスだけでなくゼラチンも含有した下引層を設けることは、本願出願前の周知技術であったといえる。
したがって、引用刊行物1発明において、支持体とゼラチンを含有するハロゲン化銀乳剤層との接着力をより強固なものにするために、ポリマーラテックスを含有する支持体に最も近い層に、ゼラチンも含有させることは、当業者が容易になし得たものといえる。
そして、本願発明の効果について検討する。
まず、高いガンマについては、感光性ハロゲン化銀乳剤層がヒドラジンを含有することにより奏されているものであり、引用刊行物1の記載から予測し得たものである。
次に、テープ膜剥がれ少ないことについては、引用刊行物2ないし4に、支持体上にゼラチンとポリマーラテックスを含有した下引層を設けることで、支持体であるポリエステルフィルムと写真用親水性コロイド層との間に強固な接着力が得られること、そして、接着力をセロハンテープを圧着して剥がしたときの乳剤層の残存率により評価することが記載されており、また、フッ素系等の界面活性剤を含有させた表面にテープを貼着するとテープが剥がしやすいことは、一般によく知られた技術常識といえるから、本願発明のテープ膜剥がれ少ないという効果は、当業者が予測し得たものであり、両者を組み合わせたことにより、予測できない格別の効果が奏されているともいえない。

(審判請求理由における請求人の主張について)
請求人は、ポリエステルフィルムにポリマーラテックスとゼラチンからなる下引き層を設けることは、写真感光材料の分野では通常行われるものであり、本発明の支持体の下引き加工は前提であり、支持体が下引き層を有し、かつ最上層がフッ素系界面活性剤を含有するだけでは、本発明の効果は奏されない旨主張するが、本願発明は、支持体の「下引き加工」は、無くてもよいものであり、本願明細書に、「必要に応じて公知の方法で下引き加工されてもよい」と記載されているが、実施例には、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、「下塗り(最下)層」として、ゼラチンとポリマーラテックス等を含む塗液を塗することが記載されているが、ポリエチレンテレフタレートフィルムが、既に下引き層が設けられたものであるとは記載されていない。
そして、本願発明で「下引き加工」がされていない支持体の場合、本願発明の「最下層」も、引用刊行物2ないし4に記載された「下引層」も、どちらも、ゼラチンとポリマーラテックスを含有するものであり、構成的に区別できないものである。
請求人が、本願発明の最下層と、引用刊行物2ないし4に記載された下引層が、異なるものであることを示すとして提示した実験証明書には、下引き加工として、引用刊行物4に記載のゼラチンとポリマーラテックス含有の下引層を設けた上に、本願明細書に記載された実施例及び比較例と同じ構成の層を設けたものにおいて、サンプルNo.9、16、17は、下引層があるにもかかわらず、最下層にポリマーラテックスが含有されないために、テープ膜剥がれの評価が悪いことが記載されている。
しかしながら、サンプルNo.9、16、17は、ポリマーラテックスとゼラチンを含有する下引層を設けたものであり、ゼラチン含有層を4層設け、その最下層にポリマーラテックスを含有させたものに相当し、本願発明と構成上区別ができないものであるから、これらのサンプルがテープ膜剥がれの評価が悪いことをもって、本願発明の最下層と、引用刊行物2ないし4に記載された下引層が異なるものであるという根拠とすることはできない。
さらに、本願発明で支持体に「下引き加工」がされてる場合についてみると、特開平5-333467号公報(【0169】〜【0173】)、特開平6-43572号公報(【0074】〜【0084】)にも記載されるように、下引き加工を施したポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ゼラチンとポリマーラテックスを含有する層、ゼラチンとヒドラジンを含有する感光性ハロゲン化銀乳剤層、ゼラチンとフッ素系界面活性剤を含有する層を順次設けたものは周知であり、このような構成をとることに何ら困難性はないといえる。

5.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-02 
結審通知日 2005-09-06 
審決日 2005-09-20 
出願番号 特願平6-48361
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 裕美大瀧 真理  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 山口 由木
秋月 美紀子
発明の名称 ハロゲン化銀写真感光材料  

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