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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C02F 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C02F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C02F |
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管理番号 | 1125746 |
異議申立番号 | 異議2003-71553 |
総通号数 | 72 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-12-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-06-16 |
確定日 | 2005-07-19 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3358389号「セレン含有水の処理方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3358389号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3358389号は、平成7年6月2日に特許出願され、平成14年10月11日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人稲川満智子(以下「申立人」という)より、特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年6月25日に訂正請求がされた後、訂正拒絶理由が通知され、平成17年2月25日に手続補正書が提出されたものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正請求に対する補正の適否について 特許権者は、手続補正書を提出して訂正請求書第3頁第23行〜第4頁第26行記載の訂正事項(e)〜(h)を削除し訂正請求書第4頁第24行〜第5頁第9行記載の訂正事項(i)を新たな訂正事項(e)とする補正をしようとするものであり、当該訂正請求に対する補正は、訂正請求書の要旨を変更するものでなく、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合する。 2-2.訂正の内容 本件訂正の内容は、本件特許明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正すること、即ち、下記訂正事項(a)ないし(d)並びに(e)のとおりに訂正しようとするものである。 訂正事項(a) 「【請求項1】 炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させることを特徴とするセレン含有水の処理方法。」 を 「【請求項1】 メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、硫酸塩還元菌を活性化するとともに硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法。」 に訂正する。 訂正事項(b) 「【0005】【発明が解決しようとするする課題】」 を 「【0005】【発明が解決しようとする課題】」 に訂正をする。 訂正事項(c) 「【0006】【課題を解決するための手段】 本発明は、炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させることを特徴とするセレン含有水の処理方法である。」 を 「【0006】【課題を解決するための手段】 本発明は、メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、硫酸塩還元菌を活性化するとともに硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法である。」 に訂正をする。 訂正事項(d) 「【0011】 本発明で使用する炭素数1または3の有機物(以下、C1/C3有機物という場合がある)としては、メタノール、ギ酸、ホルムアルデヒド、イソプロピルアルコールなどがあげられる。」 を 「【0011】 本発明で使用する炭素数1または3の有機物(以下、C1/C3有機物という場合がある)としては、メタノール、ギ酸、およびイソプロピルアルコールから選ばれるものがあげられる。」 に訂正する。 訂正事項(e) 「【0031】【発明の効果】 本発明によれば、炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下にセレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させるようにしたので、硫酸イオンが共存する場合でも、入手および使用が容易な微生物を用いて、有機物の添加量を少なくして低コストで、しかも硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を安定して効率よく除去することができる。」 を 「【0031】【発明の効果】 本発明によれば、メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、硫酸塩還元菌を活性化するとともに硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を還元するようにしたので、硫酸イオンが共存する場合でも、入手および使用が容易な微生物を用いて、有機物の添加量を少なくして低コストで、しかも硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を安定して効率よく除去することができる。」 に訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項(a)において、「炭素数1または3の有機物」を「メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物」に訂正することは、上記有機物を具体的に限定するものであり、また、「セレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させる」を「セレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、硫酸塩還元菌を活性化するとともに硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を還元する」に訂正することは、「生物汚泥」を「硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥」と限定し、かつ、セレン含有水と生物汚泥の接触時の態様として、「硫酸塩還元菌を活性化するとともに硫化水素の発生を抑制」すること及びその際に「セレン化合物を還元する」ことを明示的に規定したものであるから、上記訂正事項(a)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものである。 上記訂正事項(b)は、誤記の訂正に該当するものである。 上記訂正事項(c)、(d)及び(e)は、上記訂正事項(a)に対応して、【請求項1】の訂正に整合させるためであって、明りようでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものである。 そして、上記訂正事項(a)、(c)、(d)及び(e)は、特許明細書の段落【0011】、【0020】、【0031】及び【0013】の記載に基づくものであり、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 2-3.まとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 3-1.本件発明 本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(上記2-1.の訂正事項参照) 「【請求項1】 メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、硫酸塩還元菌を活性化するとともに硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法。」 3-2.特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、証拠として甲第1及び2号証を提示し、下記の理由1、2により、訂正前の本件請求項1に係る特許を取り消すべきと主張している。 【理由1】訂正前の本件請求項1に係る発明は、下記の刊行物1及び2に記載された発明であるか、刊行物1及び2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してなされたものである。 刊行物1:「FEMS Microbiology Letters 61」(1989)195-198頁(甲第1号証) 刊行物2:米国特許第5271831号明細書(甲第2号証) 【理由2】申立人は、本件特許発明の効果である「硫化水素の発生の抑制」について、明細書に具体的に記載されていないので、発明の目的、構成及び効果が明りように記載されていないことになり、その結果、特許請求の範囲の発明の構成も不明であるから、本件特許は、旧特許法第36条第4項又は第5項の規定に違反している。 3-3.刊行物の記載 3-3-1.刊行物1は、標題を「シュードモナス種の微生物によるセレン酸塩の還元:嫌気性呼吸の新しい様式」とするものであり、以下の事項が記載されている。 (a)「カリフォルニア州サンジョワキンバリーで環境上の問題を引き起こしている農業放水路水中の高レベルのセレン(セレン酸塩、亜セレン酸塩)を、もしもこのセレン酸塩/亜セレン酸塩を元素状のセレンに還元することが出来ればレベルを低下させることが出来るであろう。二つの微生物が新たに分離されたが、これらを嫌気的に共培養することによってこれを成し遂げた。その一つは厳密に嫌気性の、グラム陽性桿菌で亜セレン酸塩を元素状セレンに還元する。他の一つはシュードモナス種の微生物でセレン酸塩呼吸をしてこれを亜セレン酸塩にすることが示された。酢酸塩とセレン酸塩含有の最小培地中で細胞は嫌気的に成長し、14C酢酸塩を14C O2 に酸化するとともに同時にセレン酸塩を亜セレン酸塩にそして少量の元素状セレンに還元した。」(第195頁左欄第2〜16行) (b)「セレン除去のための生物学的反応器からの材料を嫌気性メタノール-酢酸塩富化培地・・・に接種した。1週間内に元素状セレンの存在を示す赤色がこの富化培地中に見られた。」(第195頁右欄第13行〜末行) (c)培地の組成中に硫酸イオンを生成するNa2SO4が含まれる旨が記載されている。(第195頁右欄第13行〜末行) 3-3-2.刊行物2は、発明の名称を「廃水からのセレン酸塩の除去」とするものであり、以下の事項が記載されている。 (a)「実質的に嫌気性条件下に、セレン酸塩呼吸の微生物を用いて、廃水からセレン酸塩を除去する方法及び装置が記載されている。この方法は硝酸塩を同化してバイオマスにすることによる硝酸塩の除去のための第一帯域を含む。この第一帯域は好気性条件下に保たれ、嫌気性条件下でのセレン酸塩呼吸性微生物によりセレン酸塩を還元させて元素状のセレンとする第二帯域とは分離されている。第一帯域で生産されたバイオマスはセレン酸塩が微生物の成長を制限することになった時にセレン酸呼吸性微生物を支持するための栄養物および電子供与体として処理される。この方法において必要によって硫酸塩還元帯域を設けることができ、ここでは硫化水素が作られる。この生産された硫化水素は第二帯域に循環され、残った亜セレン酸塩を還元して元素状セレンとするのに使用される。」(要約) (b)「高濃度のセレン酸塩を含む、硫酸塩を還元する微生物の成長を抑制する濃縮化条件が好ましい。この濃縮化条件はまた微生物学的過程により容易に酸化され得る基質を含む。この型の適切な基質には水素及び溶解した酢酸の塩及び乳酸の塩が含まれる。」(第6欄第42〜49行) (c)「本発明のもう一つの態様において、硫化水素を生産する少なくとも一つの微生物が硫酸塩処理帯域に供給される。本発明のこの態様では、廃水の硫酸塩と、存在するセレン酸によって硫酸塩還元性微生物の活性が有意には抑制されないように十分に低い濃度のセレン酸塩を含有する。」(第8欄第5〜11行) 3-4.当審における判断 3-4-1.本件発明について 上記刊行物1の(a)及び(b)及び(c)の記載を本件発明に則って整理すると「メタノール及び酢酸塩および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水をグラム陽性桿菌とシュードモナス種の微生物が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、グラム陽性桿菌とシュードモナス種の微生物を活性化するとともに、酢酸塩を二酸化炭素に酸化し、セレン化合物を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法」(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると言える。 そこで、本件発明と刊行物1発明とを対比すると、「メタノール及び硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を微生物が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、微生物を活性化するとともに、セレン化合物を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法」である点で一致するが、本件発明では有機物成分が「メタノール」であるのに対し、刊行物1発明では有機物成分が「メタノール及び酢酸塩」である点で相違し(相違点1)、本件発明ではセレン化合物の還元に「硫酸塩還元菌」を使用するのに対し、刊行物1発明ではセレン化合物の還元に「グラム陽性桿菌とシュードモナス種の微生物」を使用する点で相違し(相違点2)、また、本件発明では「硫酸塩還元菌と硫酸イオンの存在下で硫化水素の発生を抑制しながらセレン化合物を還元している」のに対し、刊行物1発明では「グラム陽性桿菌とシュードモナス種の微生物と酢酸塩の存在下で、酢酸塩の酸化と同時にセレン化合物を還元している」点で相違する(相違点3)。 したがって、両者の発明を同一とすることはできない。 以下、相違点について検討するに、両者は、そもそも、本件発明においては有機物成分が「メタノール」であり、有機物成分として「メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールからえらばれる炭素数1または3の有機物」が用いられるのに対し、刊行物1発明では有機物成分が「メタノール及び酢酸塩」であり、有機物成分として「メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールからえらばれる炭素数1または3の有機物」以外のものも用いる点で相違し、また、両者は、セレン化合物の還元に使用する微生物が異なり、したがって、セレン化合物の還元メカニズムにおいても、本件発明においては「メタノールを有機物成分として『硫酸塩還元菌』によりセレン化合物を還元」して「『硫酸塩還元菌』による硫酸イオンの存在下での硫化水素の発生を抑制する」ものであるのに対し、刊行物1発明では「メタノール及び酢酸塩を有機物成分としてグラム陽性桿菌とシュードモナス種の微生物によりセレン化合物を還元」するものであって「『硫酸塩還元菌』による硫酸イオンの存在下での硫化水素の発生を抑制する」ものではない点で相違することは上記のとおりである。 すなわち、上記のとおり、刊行物1には、「メタノール、ギ酸及びイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物と硫酸イオンの存在下でセレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させる」ことは記載も示唆もされていない。 そして、本件発明は、該記載の構成を採用することにより、明細書記載の「硫酸塩還元菌と硫酸イオンの存在下において、硫化水素の発生を抑制しながらセレン化合物を還元し、有機物の添加量を少なくして低コストで、しかも硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を安定して効率よく除去する」という顕著な効果を奏するものである。 したがって、刊行物1発明に基いて本件発明を容易に発明をすることができたとすることもできない。 また、上記刊行物2の(a)及び(b)及び(c)の記載を本件発明に則って整理すると「乳酸塩及び酢酸塩及び硫酸イオンの存在下に、セレン含有水をセレン酸塩呼吸性の微生物が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、セレン酸塩呼吸性の微生物を活性化するとともに、硫酸塩還元菌の成長を抑制しながらセレン化合物を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法」(以下、「刊行物2発明」という)が記載されていると言える。 そこで、本件発明と刊行物2発明とを対比すると、「炭素水1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を微生物が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、微生物を活性化するとともに、セレン化合物を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法」である点で一致するが、本件発明では「有機物成分」が「メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールからえらばれる炭素数1または3の有機物」であるのに対し、刊行物2発明では「有機物成分」が「乳酸塩及び酢酸塩」であり、有機物成分として「メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールからえらばれる炭素数1または3の有機物」以外のものを用いる点で相違し、(相違点1)、また、本件発明ではセレン化合物の還元に「硫酸塩還元菌」を使用するのに対し、刊行物2発明ではセレン化合物の還元に「セレン酸塩呼吸性の微生物」を使用する点で相違し(相違点2)、さらに、本件発明では「硫酸塩還元菌と硫酸イオンの存在下で硫化水素の発生を抑制しながらセレン化合物を還元している」のに対し、刊行物2発明では「セレン酸塩呼吸性の微生物と硫酸イオンの存在下で硫酸塩還元菌の成長を抑制しながらセレン酸塩を還元する」点で相違し(相違点3)ている。 したがって、両者の発明を同一とすることはできない。 以下、相違点について検討するに、両者は、そもそも、本件発明においては有機物成分が「メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールからえらばれる炭素数1または3の有機物」であるのに対し、刊行物1発明では有機物成分が「乳酸塩及酢酸塩」であり、有機物成分として「メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールからえらばれる炭素数1または3の有機物」以外のものも用いる点で相違し、また、両者は、セレン化合物の還元に使用する微生物が異なり、したがって、セレン化合物の還元メカニズムにおいても、本件発明においては「メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールからえらばれる炭素数1または3の有機物を有機物成分として『硫酸塩還元菌』によりセレン化合物を還元」し「『硫酸塩還元菌』による硫酸イオンの存在下での硫化水素の発生を抑制する」ものであるのに対し、刊行物2発明では「乳酸塩及酢酸塩を有機物成分としてセレン酸塩呼吸性の微生物による硫酸塩還元菌の成長を抑制しながらのセレン化合物の還元」するものであって「『硫酸塩還元菌』による硫酸イオンの存在下での硫化水素の発生を抑制する」ものではない点で相違することは上記のとおりである。 すなわち、上記のとおり、刊行物2には、「メタノール、ギ酸及びイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物と硫酸イオンの存在下でセレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させる」ことは記載も示唆もされていない。 そして、本件発明は、該記載の構成を採用することにより、明細書記載の「硫酸塩還元菌と硫酸イオンの存在下において、硫化水素の発生を抑制しながらセレン化合物を還元し、有機物の添加量を少なくして低コストで、しかも硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を安定して効率よく除去する」という顕著な効果を奏するものである。 したがって、刊行物2発明に基いて本件発明を容易に発明をすることができたとすることもできない。 そして、刊行物1、2の記載を合わせ考慮しても、上記の「メタノール、ギ酸及びイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物と硫酸イオンの存在下でセレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させる」ことは導き出せないのであるから、本件発明は、刊行物1発明、刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。 3-4-2.明細書の記載不備について 申立人は、本件特許発明の効果である「硫化水素の発生の抑制」について、明細書に具体的に記載されていないと主張する。一方、特許権者は、本件特許公報の段落【0024】の比較例1で、処理水中のSO42-濃度が2600〜3900mg/lの範囲で変化したと記載し、【0026】〜【0029】の実施例1〜4でSO42-濃度について改めて記載しなかったのは、ほとんど変化しなかったため、記載を省略した旨の釈明があり(特許意義意見書第7頁第19〜25行)、今回の意見書に添付された「宣誓書」によれば、実施例1〜4のSO42-濃度の実測値が3800〜3900mg/lとほとんど変化していないことが明らかであり、上記の釈明と符合するところから、これを強いて否定することもできない。他方、硫化水素臭は比較的判別し易いものであり、上記のSO42-濃度変化を前提にすれば、硫化水素の発生は実質的に抑制されていたと解することが相当である。 したがって、申立人の主張を採用することはできない。 4.まとめ 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 セレン含有水の処理方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、硫酸塩還元菌を活性化するとともに硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明はセレン含有水を生物処理により無害化する方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 Se6+、Se4+等のセレン化合物を含有する排水を無害化する処理方法として、鉄塩による凝集沈殿、イオン交換による吸着等の方法がある。このうち前者は多量の凝集剤を必要とするほか、Se6+は除去できないという問題点がある。一方後者は吸着量が少なく、また再生廃液の処理が必要になるなどの問題点がある。 【0003】 セレン化合物の生物反応として、水環境学会年会講演集、1995、P176には、(亜)セレン酸還元菌によりラクトースの存在下にSe6+およびSe4+が還元されることが報告されている。しかしこの方法ではセレン化合物に汚染された場所から、(亜)セレン酸還元菌を分離して培養する必要がある。 【0004】 また硫酸塩還元菌によるセレンの還元も知られており、有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させると、セレン化合物はSe6+→Se4+→Se0と還元され、セレンが沈殿除去される。しかしこの場合はセレン含有水中の硫酸イオン全てを還元するのに必要な量より過剰の有機物を添加しなければセレン化合物を安定して除去することができず、コスト高になるとともに、硫化水素が発生するなどの問題点がある。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、硫酸イオンが共存する場合でも、入手および使用が容易な微生物を用い、有機物の添加量を少なくして低コストで、しかも硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を安定して効率よく除去することが可能なセレン含有水の処理方法を提案することである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明は、メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、硫酸塩還元菌を活性化するとともに硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法である。 【0007】 本発明において、「(亜)セレン酸」は「セレン酸および/または亜セレン酸」を意味する。また「Se6+」、「Se4+」、「Se0」または「Se2-」は、それぞれの酸化数+VI、+IV、ゼロまたは-IIのセレンを意味する。またSe0を単にSeと記述する場合がある。 【0008】 本発明において処理の対象となるセレン含有水は、Se6+またはSe4+のセレン化合物を含む排水その他の水であり、セレン化合物以外に硫酸イオンを含有する水が本発明の処理に適している。Se6+またはSe4+のセレン化合物としては(亜)セレン酸などがあげられる。具体的なセレン含有水としては金属精錬工業排水、ガラス工業排水、化学工業排水、および石炭、石油または燃焼排ガス処理プロセスの排水などがあげられる。これらのセレン含有水中に炭素数1または3以外の有機物が含まれていてもよい。 【0009】 本発明で使用する生物汚泥はセレン含有水を有機物および硫酸イオンの存在下に嫌気状態で接触させることにより生成する生物汚泥であり、活性汚泥処理法のような排水の好気性処理法における生物汚泥(活性汚泥)を採取し、これを有機物および硫酸イオンの存在下に嫌気状態に維持することにより自然発生的に生成させることができる。このような生物汚泥には硫酸塩還元菌が優勢となり、この菌が硫酸とともに、または硫酸の代りにセレンを還元しているものと推定される。 【0010】 このような生物汚泥は通常フロック状の生物汚泥となっており、本発明ではフロック状の生物汚泥をそのまま懸濁状態で用いることもできるが、粒状、繊維状、その他の空隙率の大きい担体に担持させて用いることもできる。担体としては生物汚泥を担持できるものであれば制限はないが、砂、活性炭、アルミナゲル、発泡プラスチックなどがあげられる。担体に生物汚泥を担持させるには、担体の存在下に馴養ないし処理を行うことにより、担持させることができる。 【0011】 本発明で使用する炭素数1または3の有機物(以下、C1/C3有機物という場合がある)としては、メタノール、ギ酸、およびイソプロピルアルコールから選ばれるものがあげられる。 セレン還元系に導入するC1/C3有機物の量は、系内に存在するセレン化合物を還元するのに必要な量以上である。例えばセレン化合物がセレン酸の場合、セレン酸1モル/lに対してC1有機物では5モル/l以上、好ましくは10〜1000モル/l、C3有機物では2モル/l以上、好ましくは5〜500モル/lとするのが望ましい。また亜セレン酸の場合、亜セレン酸1モル/lに対してC1有機物では3モル/l以上、好ましくは5〜500モル/l、C3有機物では1.5モル/l以上、好ましくは3〜300モル/lとするのが望ましい。 【0012】 グルコースやラクトースなどの炭素数が1または3以外の有機物(以下、非C1/C3有機物という場合がある)をセレン還元系に導入してもセレン化合物の除去は可能であるが、この場合の非C1/C3有機物の添加量は存在する硫酸イオンの還元に必要な量より過剰であって、C1/C3有機物の添加量の場合に比べて多くする必要があり、また硫化水素が発生し、本発明の目的を達成することはできない。もちろんC1/C3有機物に加えて、非C1/C3有機物を添加することは差支えない。 【0013】 C1/C3有機物を用いた場合に添加量を少なくすることができる理由は明らかではないが、次のように推定される。 (1)生物汚泥中の嫌気性菌がC1/C3有機物や非C1/C3有機物を分解するとき、Se6+またはSe4+のセレン化合物や硫酸イオンを一緒に還元する。 (2)このとき、有機物がC1/C3有機物である場合には、非C1/C3有機物の場合に比べて硫酸イオンの還元よりもSe6+またはSe4+の還元が優先される。なおC3有機物はC1化合物を経て分解される。 【0014】 本発明で硫酸イオンとしては硫酸、硫酸塩など、任意の形で反応系に存在していればよい。セレン含有水に硫酸塩還元菌が存在している場合には、硫酸イオンを外部から添加しなくてもよいが、セレン含有水に硫酸塩還元菌が含まれていない場合には、硫酸イオンを処理に際して添加し、予め硫酸塩還元菌を増殖させておくのが望ましい。 【0015】 本発明の処理方法では、C1/C3有機物および硫酸イオンの存在下にセレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させることにより、セレン含有水中の(亜)セレン酸等のSe6+またはSe4+セレン化合物を還元する。このときSe6+はSe4+を経てSe0および/またはSe2-に還元されるものと推定される。このような生物反応により、セレン含有水中のセレン化合物は主に金属セレンに還元されて沈殿物となり、汚泥に付着した状態で、固液分離により分離され、余剰汚泥とともに系外に排出される。これによりセレン含有水は無害化され、セレン化合物が除去された分離液は処理水として放流される。 【0016】 本発明において嫌気状態とは酸素を遮断する状態を意味するが、セレン化合物の還元を阻害しない程度の若干の酸素の混入は許容される。セレン含有水と生物汚泥の接触方法には反応槽を用い、浮遊法、生物膜法など、任意の方法が採用できる。 【0017】 上記浮遊法はフロック状の生物汚泥を浮遊状態で攪拌して接触させる方法であり、所定の滞留時間となるように反応液(処理液)の一部を抜出して固液分離し、分離汚泥を返送し、汚泥濃度を所定濃度(500〜50000mg/l、好ましくは2000〜20000mg/l)に維持する。 【0018】 前記生物膜法は生物汚泥を担体に支持させて生物膜を形成し、これをセレン含有水と接触させる方法であり、固定床式、流動床式など、また上向流式、下向流式など、従来の生物処理等で採用されているのと同様の方式が採用できる。 【0019】 反応槽における滞留時間は(亜)セレン酸イオン等のセレン化合物が還元されるのに必要な時間であるが、これは系内に存在する有機物の分解に必要な時間としてとらえることもできる。 【0020】 本発明で使用する生物汚泥はセレン含有水の嫌気処理により得られるため、その入手および使用は容易であり、純粋分離や特別の培養条件は不要である。 本発明では硫酸塩還元菌が硫酸塩を還元する際、C1/C3有機物の存在下にセレン化合物を還元するものであり、硫酸塩の存在により硫酸塩還元菌が活性化されて処理効率が高くなるものと推定される。 【0021】 【実施例】 以下、本発明の実施例を図面により説明する。 図1は実施例の処理装置を示す系統図である。1は嫌気反応槽、2は固液分離槽である。 【0022】 処理方法は嫌気反応槽1に、セレン化合物および硫酸イオンを含有するセレン含有水としての原水3および返送汚泥4を導入し、さらにC1/C3有機物6を供給して槽内の生物汚泥と混合し、攪拌機7で緩やかに攪拌して、嫌気状態で接触させる。このときC1/C3有機物の量は原水3中のSe6+またはSe4+がSeに還元されるのに必要十分な量供給する。嫌気反応槽1では生物汚泥がC1/C3有機物を分解するとともにSe6+またはSe4+をSeに還元する。Seは沈殿して汚泥に付着する。 【0023】 反応液の一部8は固液分離槽2において固液分離し、分離液は処理水9として放流される。分離汚泥10の一部は返送汚泥4として嫌気反応槽1に返送し、残部は余剰汚泥11として排出する。 【0024】 比較例1 図1の処理装置として、2literの嫌気反応槽1および3literの固液分離槽2を用い、セレン含有水を処理した。原水3は(亜)セレン酸としてNa2SeO45mg/l、硫酸イオンとしてNa2SO44000mg/l、栄養塩類としてKH2PO450mg/l、K2HPO450mg/l、MgSO4・6H2O50mg/lを含む合成排水である。 【0025】 この原水3を1.4ml/minで嫌気反応槽1に供給し、グルコースを1000mg/l添加するとともに、種汚泥として下水活性汚泥をMLSS2000mg/lとなるように添加し、嫌気状態で1か月間反応させた。その結果、処理水中のSe濃度は0.02〜1.8mg/l(Seとして)の範囲で変化し、(亜)セレン酸の除去は不安定であった。また処理水中のSO42-濃度は2600〜3900mg/lの範囲で変化した。 【0026】 実施例1 比較例1の状態から、有機物源としてグルコースに加えてC1有機物としてメタノールを100mg/l添加した。その結果、1週間後から処理水中のSe濃度は0.1mg/l以下となり、Seの除去が安定した。 【0027】 実施例2 実施例1の状態から、グルコースの添加を中止した。その結果、添加中止後1週間、Seの除去は常に良好で、処理水中のSe濃度は0.1mg/l以下を維持した。 【0028】 実施例3 比較例1の状態から、グルコースに代えてギ酸を100mg/l添加した。その結果、1週間後から処理水中のSe濃度は0.1mg/l以下となった。 【0029】 実施例4 比較例1の状態から、グルコースに代えてイソプロピルアルコールを100mg/l添加した。その結果、2週間後から処理水中のSe濃度は0.1mg/l以下となった。 【0030】 以上の結果より、炭素数1または3の有機物の存在下に処理を行うことにより、硫酸イオンが共存している場合でも(亜)セレン酸を安定して除去できることがわかる。 【0031】 【発明の効果】 本発明によれば、メタノール、ギ酸およびイソプロピルアルコールから選ばれる炭素数1または3の有機物および硫酸イオンの存在下に、セレン含有水を硫酸塩還元菌が優勢となった生物汚泥と嫌気状態で接触させ、硫酸塩還元菌を活性化するとともに硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を還元するようにしたので、硫酸イオンが共存する場合でも、入手および使用が容易な微生物を用いて、有機物の添加量を少なくして低コストで、しかも硫化水素の発生を抑制し、セレン化合物を安定して効率よく除去することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 実施例の処理方法を示す系統図である。 【符号の説明】 1 嫌気反応槽 2 固液分離槽 3 原水 6 C1/C3有機物 9 処理水 11 余剰汚泥 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-06-28 |
出願番号 | 特願平7-136633 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C02F)
P 1 651・ 531- YA (C02F) P 1 651・ 121- YA (C02F) P 1 651・ 534- YA (C02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 谷口 博 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
鈴木 毅 岡田 和加子 |
登録日 | 2002-10-11 |
登録番号 | 特許第3358389号(P3358389) |
権利者 | 栗田工業株式会社 |
発明の名称 | セレン含有水の処理方法 |
代理人 | 柳原 成 |
代理人 | 柳原 成 |