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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1125750
異議申立番号 異議2003-72358  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-10-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-24 
確定日 2005-07-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3389094号「超電導磁場発生素子」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3389094号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3389094号に係る手続の主な経緯は次のとおりである。
特許出願(特願平10-100307号) 平成10年3月27日
特許権設定登録 平成15年1月17日
特許異議申立(特許異議申立人:藤倉智徳)平成15年9月24日
取消理由通知 平成16年8月18日(起案日)
特許異議意見書 平成16年10月25日
取消理由通知 平成17年2月 1日(起案日)
特許異議意見書・訂正請求書 平成17年3月 7日

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の
「【請求項1】 超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材とよりなり,該補強部材は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあることを特徴とする超電導磁場発生素子。」を
「【請求項1】 超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材とよりなり,該補強部材は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子。」 と訂正する。

(2)訂正事項2
「【請求項2】 超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材と,該補強部材の周囲に配設された支持部材とよりなり,上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあることを特徴とする超電導磁場発生素子。」を
「【請求項2】 超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材と,該補強部材の周囲に配設された支持部材とよりなり,上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子。」と訂正する。

(3)訂正事項3
請求項4を削除し、請求項5、6、7、8を順次繰り上げて請求項4、5、6、7とするとともに、訂正後の請求項4が請求項2を引用し、訂正後の請求項5が請求項4を引用し、訂正後の請求項6が請求項1〜5を引用し、訂正後の請求項7が請求項6を引用するように、それぞれ訂正するものである。

(4)訂正事項4
【0012】の
「【課題の解決手段】
第1の発明は,超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材とよりなり,該補強部材は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあることを特徴とする超電導磁場発生素子にある(請求項2)。
第2の発明は,超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材と,該補強部材の周囲に配設された支持部材とよりなり,上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあることを特徴とする超電導磁場発生素子にある(請求項2)。」とあるのを
「【課題の解決手段】
第1の発明は,超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材とよりなり,該補強部材は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子にある(請求項1)。
第2の発明は,超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材と,該補強部材の周囲に配設された支持部材とよりなり,上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子にある(請求項2)。」と訂正する。

(5)訂正事項5
【0029】の
「・・・・また,請求項4に記載の発明のように,上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることが好ましい。・・・・」とあるのを、
「・・・・また,上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなる。・・・・」と訂正する。

(6)訂正事項6
【0030】の「請求項5」とあるのを,「請求項4」と訂正する。

(7)訂正事項7
【0034】の「請求項6」とあるのを,「請求項5」と訂正する。

(8)訂正事項8
【0035】の「請求項7」とあるのを、「請求項6」と訂正する。

(9)訂正事項9
【0038】の「請求項8」とあるのを,「請求項7」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正の前の請求項1に訂正前の請求項4に記載された「上記補強部材は、強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなる」を挿入して、新たな請求項1とするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正の前の請求項2に訂正前の請求項4に記載された「上記補強部材は、強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなる」を挿入して、新たな請求項2とするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3のうち、請求項4を削除することは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、上記訂正事項(1)、(2)に伴い、請求項請求項5、6、7、8を順次繰り上げて請求項4、5、6、7とすることは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4〜9について
訂正事項4〜9は、上記訂正事項1、2、及び3に伴い必要となった、特許請求の範囲と整合をとるための発明の詳細な説明の訂正であり、これは明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.訂正の適否のむすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同第3項において準用する同法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議申立についての判断
1.本件発明
上記第2 3.で示したように上記訂正は認められるから、本件請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次のとおりのものである。
「 【請求項1】 超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材とよりなり,該補強部材は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項2】 超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材と,該補強部材の周囲に配設された支持部材とよりなり,上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項3】 請求項1又は2において,上記補強部材は,上記本体部の磁場発生方向と略直角の方向のみに設けてあり,上記本体部の磁場発生面には設けていないことを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項4】 請求項2において,上記支持部材は,ステンレス鋼,アルミニウム,チタン,銅,ニッケル又はこれらの合金よりなる金属部材,あるいは強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項5】 請求項4において,上記強化粒子は,酸化珪素,酸化チタン,酸化アルミニウム,ガラスより選ばれる1種又は2種以上の粒子であり,上記強化繊維は,ガラス繊維,炭素繊維,アラミド繊維,ケブラー繊維より選ばれる1種又は2種以上の繊維であり,かつ,上記樹脂材料は,エポキシ樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリイミド樹脂,テフロン樹脂より選ばれる1種又は2種以上の樹脂であることを特徴とした超電導磁場発生素子。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれか1項において,上記本体部を構成する塊状の高温超電導成形体は,溶融法により合成されていると共に,その主成分がRE-Ba-Cu-O系(ここに,上記REはイットリウム,サマリウム,ランタン,ネオジム,ユーロピウム,ガドリニウム,エルビウム,イッテルビウム,ジスプロシウム,ホルミウムより選ばれる1種又は2種以上の元素)であり,かつ,3 0重量%以下の銀,1重量%以下の白金の一方もしくは双方よりなる副次成分を含有してなることを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項7】 請求項6において,上記高温超電導成形体は,組成式SmBa2Cu3O7-Xにより表されるSm123と,組成式Sm2BaCuO5により表されるSm211とを含有してなる主成分を有しており,かつ上記Sm123と上記Sm211との含有比率は,上記溶融法により合成する前の原料状態においてモル比が10:1〜1:1であることを特徴とする超電導磁場発生素子。 」

2.特許異議申立の理由及び取消理由の概要
(1)特許異議申立の理由
特許異議申立人藤倉智徳は、証拠として、
甲第1号証:日本応用磁気学会誌Vo1.19No.3(1995)、744〜747頁
甲第2号証:特開平6-132121号公報
甲第3号証:特許第2563391号公報
甲第4号証:特公平8-8165号公報
甲第5号証:特開平10一53415号公報
参考資料1:社団法人低温工学協会編「超伝導・低温工学ハンドブック」(平成5年11月30日、第1版第1刷、株式会社オーム社発行)706〜711頁及び1098頁
参考資料2:参考資料1の図6・46(710頁)から読み取ったc軸及びa-b面内の線熱膨張係数と、その読取値に基づいて計算した熱膨張(%)
参考図 :上記熱膨張(%)を、拡大した図3・36(1098頁)の中にプロットして作成した図
を提出して、本件訂正前の請求項1ないし8に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に該当し、あるいは、甲第1ないし5号証、および参考資料1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号あるいは同第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を取り消すべき旨の主張をしている。

(2)取消理由の概要
当審で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
[平成16年8月18日起案の取消理由通知書]
1)本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1〜6に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

備考
異議申立藤倉智徳が提出した特許異議申立書の「3.申立ての理由」を参照されたい。なお、甲第1号証〜甲第5号証は、それぞれ刊行物1〜刊行物5と、参考資料1は、刊行物6と読み替えるものとする。

<引用刊行物一覧>
刊行物1:日本応用磁気学会誌Vol.19,No.3(1995)、第744〜747頁
(異議申立人藤倉智徳提出の甲第1号証)
刊行物2:特開平6-132121号公報(同甲第2号証)
刊行物3:特許第2563391号公報(同甲第3号証)
刊行物4:特公平8-8165号公報(同甲第4号証)
刊行物5:特開平10-53415号公報(同甲第5号証)
刊行物6:社団法人低温工学協会編「超伝導・低温工学ハンドブック」
(平成5年11月30日、第1版第1刷、株式会社オーム社、
706〜711頁及び1098頁)(同参考資料1)

[平成17年2月1日起案の取消理由通知書]
1)本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1〜6に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

備考
異議申立藤倉智徳が提出した特許異議申立書の「3.申立ての理由」を参照されたい。なお、甲第1号証〜甲第5号証は、それぞれ刊行物1〜刊行物5と、参考資料1は、刊行物6と読み替えるものとする。

<引用刊行物一覧>
刊行物1:日本応用磁気学会誌Vol.19,No.3(1995)、第744〜747頁
(異議申立人藤倉智徳提出の甲第1号証)
刊行物2:特開平6-132121号公報(同甲第2号証)
刊行物3:特許第2563391号公報(同甲第3号証)
刊行物4:特公平8-8165号公報(同甲第4号証)
刊行物5:特開平10-53415号公報(同甲第5号証)
刊行物6:社団法人低温工学協会編「超伝導・低温工学ハンドブック」
(平成5年11月30日、第1版第1刷、株式会社オーム社、
706〜711頁及び1098頁)(同参考資料1)

<訂正の示唆>
平成17年1月19日のファックス送信された訂正案のとおりに訂正されたい

3.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「酸化物超伝導バルクマグネットの作製と特性」に関するものであり,Fig.6、Fig.7、Fig.8およびFig.9とともに以下の事項が記載されている。
「2.2バルクマグネットの作製
前駆体の製造工程においては,R2O3(R:Dy,Y),BaO2,CuOをそれぞれ混合し,さらに約0.4wt%のPt粉末を添加した.上記混合粉末を金型により成形した後,等方静水圧プレスにより前駆体を作製した.Fig.6(a)に示すように3種類の円盤状前駆体を重ねることによって,R組成の勾配をつけた.」(746頁左欄第9〜14行)
「結晶成長過程において約1035℃でSm系の種結晶を用い,結晶方位を円柱の軸方向がc軸となるようにシーディングを行った.その後結晶が前駆体全体に成長するように約980℃まで徐冷し,その後室温まで炉冷した.」(746頁左欄第17〜20行)
「Fig.6(b)に測定に用いた資料の外観を示す.種結晶とDy系の層を切り離し,直径約70mm,厚さ約35mmからなる円盤状試料を作製することができた.
2.3トラップ磁束分布の測定
Fig.7に示すように室温で,ホール素子および温度計を試料表面に貼り付け,ステンレス製の支持材で補強した後,所定の磁場に設定した超伝導マグネットのインナーデュアー中に配置した.」(746頁右欄第3〜10行)
「測定は2回行った.1回目は超伝導マグネットを3Tに励磁し窒素の融点(63K)および沸点(77K)で磁束をトラップさせた.磁束分布は外部磁場を零にした後,約300秒後に測定した.その結果をFig.8に示す.
2回目は5Tに超伝導マグネットを励磁して行った.そして約40Kに冷却し外部磁場を零にした後,磁束分布を測定した.また40Kから50K,60Kにゆっくり昇温することによってそれぞれの温度で磁束分布を測定した.その結果をFig.9に示す.」(746頁右欄第15行〜747頁左欄第5行)
Fig.7には、「Schematic Diagram of the exprimental device」が図示され、「QMG crystal」の周囲に「Steel ring」取り付けるとともに、その外部を「Screw」で挟持した構造が示されている。

(2)刊行物2に記載された発明
刊行物2は、超電導電流リード体(発明の名称)に関するものであり、次のように記載されている。
「【0010】この点を解決するため、バルク体を熱伝導率の小さな材料、例えば、ステンレス(SUS)又はガラス繊維プラスチック(FRP)をバルク体の外周面に補強材として配置することがある(バルク体が円筒形状である場合にはFRPをその内周面に配置する)。」(第2欄第24〜28行)
「【0012】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、超電導磁石に電流を供給する際に用いられる超電導電流リードであって、両端に電極が形成されたセラミック製導体部を備え、前記電極の一部を除いて前記セラミック製導体部は前記電極とともに樹脂モールドされていることを特徴とする超電導電流リードが得られる。この際、樹脂モールドにはセラミックス粉を添加することが望ましい。
【0013】
【作用】本発明では、セラミック製導体部を電極の一部を除いて電極とともに樹脂モールドしたから、応力に対する強度が増し、しかも樹脂モールドにセラミック粉を添加することによって樹脂モールドの熱伝導率とセラミック製導電体の熱伝導率をほぼ同じにすることができ、その結果、熱応力の発生がほとんどない。」(第2欄第37行〜第3欄第1行)

(3)刊行物3に記載された発明
刊行物3は、超電導パワーリード(発明の名称)に関するものであり、次のように記載されている。
「【請求項1】酸化物超電導条体の両端部に低抵抗金属からなる電極を固着するとともに、その外周に高電気抵抗物質または絶縁物質による被覆層を設けてなることを特徴とする超電導パワーリード。」(特許請求の範囲)
「酸化物超電導条体のうち金属被覆されていない部分を、エポキシ樹脂あるいは無機繊維材料で補強した合成樹脂等の高抵抗物質もしくは絶縁物質で被覆して、超電導パワーリードの機械的強度を向上させる。」(第5欄第1〜4行)

(4)刊行物4に記載された発明
刊行物4は、電流リード(発明の名称)に関するものであり、次のように記載されている。
「【請求項1】電流供給源と超電導素子との間に介在させる電流リードであって、セラミックス超電導体と、絶縁体あるいは非磁性金属体からなる支持体との複合体よりなることを特徴とする電流リード。」 (特許請求の範囲)
「 上記電流リード(1)は、酸化物セラミックスからなる超電導体(1a)および、この超電導体(1a)を支持するFRP等の絶縁体、あるいは銅、アルミニウム、ステンレス等の非磁性金属体からなる支持体(1b)よりなる複合体にて形成されている。
なお、支持体(1b)として非磁性金属体を用いた場合には、超電導体(1a)を支持する支持体としての役目を果すとともに、超電導体(1a)の安定化材としての役目を果し、好適な実施となる。」(第3欄第29〜37行)

(5)刊行物5に記載された発明
刊行物5は、「磁気特性、機械強度及び耐環境性に優れた酸化物超電導体及びその製造方法に関し、電流リード、磁気軸受け、磁気シールド、バルクマグネット等に適用し得るもの」(第2欄第3〜6行)に関する発明であり、次のように記載されている。
「【請求項1】 REBa2 Cu3 O7-X 相(REはYを含む1種又は2種以上の希土類元素)中にRE2 BaCuO5 相が微細に分散した酸化物超電導体において、
少なくとも縦横20mm厚さ2mm以上にわたって隣接する結晶間の方位のずれが±5゜以下であり、
かつREBa2 Cu3 O7-X 相中にAgを1〜30wt%含むことを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項2】 請求項1に記載の酸化物超電導体において、
上記RE元素がSm又はNdの何れか一方、もしくは双方の混合物であることを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項3】 請求項1又は2の何れかに記載の酸化物超電導体において、
Pt、Pd、Ru、Rh、Ir及びOsとReの各元素の1種又は2種以上を0.05〜5wt%含むことを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項4】 RE化合物(REはYを含む1種又は2種以上の希土類元素)、Ba化合物及びCu化合物の原料を含む原料混合体に、少なくとも該原料混合体の融点より高い温度領域における焼成工程を含む処理を施してRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体を製造する酸化物超電導体の製造方法において、
上記原料混合体にAgを1〜30wt%添加する添加工程と、
Agを添加した該原料混合体をRE2 BaCuO5 相と液層に分解溶融する温度以上で融解して、REBa2 Cu3 O7-X 相が晶出する温度付近まで降温して、
種結晶のREBa2 Cu3 O7-X 相の生成温度> Agを添加した該原料混合体のREBa2 Cu3 O7-X 相の生成温度
の条件を満たす種結晶を接触させ、この種結晶を起点として結晶化を行う結晶化工程とを有することを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
【請求項5】 請求項4に記載の酸化物超電導体の製造方法において、
上記RE元素がSm又はNdの何れか一方、もしくは双方の混合物であることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
【請求項6】 請求項4又は5の何れかに記載の酸化物超電導体の製造方法において、
上記原料混合体に、さらに、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir及びOsとReの各金属又は各化合物の1種又は2種以上の元素を0.05〜5wt%添加することを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。」(特許請求の範囲)
「ここで、あらかじめ作製しておいたAgを含まないSmBa2 Cu3 O7-X 相中にSm2 BaCuO5 相が組成比で1:0.4で分散した種結晶を成長方向がc軸と平行になるように成形体の上部に接触させた。」(第8欄第8〜12行)

(6)刊行物6に記載された発明
刊行物6には、第710頁図6・46に「超伝導YBa2Cu3O7-y単結晶および配向多結晶の線熱膨張係数」の温度依存性を示すグラフ、および第1098頁の図3・36に「鉄基合金,ニッケル基超合金、チタン合金の熱膨張」の温度依存性を示すグラフが、それぞれ掲載されている。

4.本件発明と刊行物に記載された発明との対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1には、R2O3(R:Dy、Y),BaO2,CuOを原料として形成された酸化物超伝導バルクマグネットであって、Fig.7に示されたようにステンレス製のSteel ringからなる支持材で補強されたものが記載されているが、当該支持材は、本件発明1のように「冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成」とは記載されておらず、仮に、刊行物6に記載された、超電導YBa2Cu3O7-y単結晶の線熱膨張係数と「鉄基合金,ニッケル基超合金、チタン合金の熱膨張」との関係から、当該支持材の熱収縮が低温において、酸化物超伝導バルクマグネットより大きいことを考慮しても、本件発明1における「補強部材」が「強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料」からなる点については記載もなく、示唆もないから、本件発明1は、刊行物1に記載された発明とは同一ではなく、刊行物1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
さらに、刊行物2には、セラミックス粉を添加する樹脂でモールドされているセラミック製導体部からなる超電導電流リードが、刊行物3には、「酸化物超電導条体のうち金属被覆されていない部分を、エポキシ樹脂あるいは無機繊維材料で補強した合成樹脂等の高抵抗物質もしくは絶縁物質で被覆」した超電導パワーリードがそれぞれ記載されているが、刊行物2および3に記載された「樹脂モールド」および「エポキシ樹脂あるいは無機繊維材料で補強した合成樹脂等」は、酸化物超伝導バルクマグネットを被覆または支持する目的ではないので、それらと本件発明1とは同一ではなく、本件明細書に記載されたような、「高いJcをもった優秀な超電導バルクを強磁場で着磁しようとすると,強力なピン止め力が生じてその電磁力で超電導バルクが破壊するという問題」(【0007】段落)が存在しないので、刊行物2および3に記載された発明における「樹脂モールド」および「エポキシ樹脂あるいは無機繊維材料で補強した合成樹脂等」を刊行物1に記載された支持材に適用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。
そのほか、刊行物4および5と本件発明1とを比較しても、刊行物4は、電流リードの発明であり、刊行物5には、酸化物超伝導体を補強する部材については何も記載されていないので、刊行物4および5に記載された発明と、本件発明1が同一であるとも、その発明から当業者が容易に発明をすることができたともすることはできない。
また、本件発明1は、刊行物1〜6に記載された発明をすべて組み合わせたものから、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

(2)本件発明2について
本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1には、R2O3(R:Dy、Y),BaO2,CuOを原料として形成された酸化物超伝導バルクマグネットであって、Fig.7に示されたようにステンレス製のSteel ringからなる支持材で補強されたものが記載されているが、当該支持材は、本件発明2のように「冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成」とは記載されておらず、仮に、刊行物6に記載された、超電導YBa2Cu3O7-y単結晶の線熱膨張係数と「鉄基合金,ニッケル基超合金、チタン合金の熱膨張」との関係から、当該支持材の熱収縮が低温において、酸化物超伝導バルクマグネットより大きいことを考慮しても、本件発明2における「補強部材又は上記支持部材の一方」が「強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料」からなる点については記載もなく、示唆もないから、本件発明2は、刊行物1に記載された発明とは同一ではなく、刊行物1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
さらに、刊行物2には、セラミックス粉を添加する樹脂でモールドされているセラミック製導体部からなる超電導電流リードが、刊行物3には、「酸化物超電導条体のうち金属被覆されていない部分を、エポキシ樹脂あるいは無機繊維材料で補強した合成樹脂等の高抵抗物質もしくは絶縁物質で被覆」した超電導パワーリードがそれぞれ記載されているが、刊行物2および3に記載された「樹脂モールド」および「エポキシ樹脂あるいは無機繊維材料で補強した合成樹脂等」は、酸化物超伝導バルクマグネットを被覆または支持する目的ではないので、それらと本件発明2とは同一ではなく、本件明細書に記載されたような、「高いJcをもった優秀な超電導バルクを強磁場で着磁しようとすると,強力なピン止め力が生じてその電磁力で超電導バルクが破壊するという問題」(【0007】段落)が存在しないので、刊行物2および3に記載された発明における「樹脂モールド」および「エポキシ樹脂あるいは無機繊維材料で補強した合成樹脂等」を刊行物1に記載された支持材に適用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。
そのほか、刊行物4および5と本件発明2とを比較しても、刊行物4は、電流リードの発明であり、刊行物5には、酸化物超伝導体を補強する部材については何も記載されていないので、刊行物4および5に記載された発明と、本件発明2が同一であるとも、その発明から当業者が容易に発明をすることができたともすることはできない。
また、本件発明2は、刊行物1〜6に記載された発明をすべて組み合わせたものから、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2における「補強部材」を設ける方向および面を技術的に限定したものであるから、本件発明3についての判断は、(1)「本件発明1について」又は(2)「本件発明2について」において検討したとおりである。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明2における「支持部材」を「ステンレス鋼,アルミニウム,チタン,銅,ニッケル又はこれらの合金よりなる金属部材,あるいは強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料」からなるものに限定するものであるから、本件発明4についての判断は、(2)「本件発明2について」において検討したとおりである。

(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明4における「強化粒子」を「酸化珪素,酸化チタン,酸化アルミニウム,ガラスより選ばれる1種又は2種以上の粒子」に、「強化繊維」を「ガラス繊維,炭素繊維,アラミド繊維,ケブラー繊維より選ばれる1種又は2種以上の繊維」、および「樹脂材料」を「エポキシ樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリイミド樹脂,テフロン樹脂より選ばれる1種又は2種以上の樹脂」に、それぞれ限定するものであるから、本件発明5についての判断は、(4)「本件発明4について」において検討したとおりである。

(6)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1ないし5における「本体部を構成する塊状の高温超電導成形体」を「溶融法により合成されていると共に,その主成分がRE-Ba-Cu-O系(ここに,上記REはイットリウム,サマリウム,ランタン,ネオジム,ユーロピウム,ガドリニウム,エルビウム,イッテルビウム,ジスプロシウム,ホルミウムより選ばれる1種又は2種以上の元素)であり,かつ,3 0重量%以下の銀,1重量%以下の白金の一方もしくは双方よりなる副次成分を含有してなる」ものに限定するものであるから、本件発明6についての判断は、(1)「本件発明1について」ないし(5)「本件発明5について」において検討したとおりである。

(7)本件発明7について
本件発明7は、本件発明6における「高温超電導成形体」を「組成式SmBa2Cu3O7-Xにより表されるSm123と,組成式Sm2BaCuO5により表されるSm211とを含有してなる主成分を有しており,かつ上記Sm123と上記Sm211との含有比率は,上記溶融法により合成する前の原料状態においてモル比が10:1〜1:1であること」に限定するものであるから、本件発明6についての判断は、(6)「本件発明6について」において検討したとおりである。

5.特許異議申立についての判断のむすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び取消理由によっては本件発明1ないし7についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし7についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
超電導磁場発生素子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材とよりなり,該補強部材は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項2】超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材と,該補強部材の周囲に配設された支持部材とよりなり,上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項3】請求項1又は2において,上記補強部材は,上記本体部の磁場発生方向と略直角の方向のみに設けてあり,上記本体部の磁場発生面には設けていないことを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項4】請求項2において,上記支持部材は,ステンレス鋼,アルミニウム,チタン,銅,ニッケル又はこれらの合金よりなる金属部材,あるいは強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項5】請求項4において,上記強化粒子は,酸化珪素,酸化チタン,酸化アルミニウム,ガラスより選ばれる1種又は2種以上の粒子であり,上記強化繊維は,ガラス繊維,炭素繊維,アラミド繊維,ケブラー繊維より選ばれる1種又は2種以上の繊維であり,かつ,上記樹脂材料は,エポキシ樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリイミド樹脂,テフロン樹脂より選ばれる1種又は2種以上の樹脂であることを特徴とした超電導磁場発生素子。
【請求項6】請求項1〜5のいずれか1項において,上記本体部を構成する塊状の高温超電導成形体は,溶融法により合成されていると共に,その主成分がRE-Ba-Cu-O系(ここに,上記REはイットリウム,サマリウム,ランタン,ネオジム,ユーロピウム,ガドリニウム,エルビウム,イッテルビウム,ジスプロシウム,ホルミウムより選ばれる1種又は2種以上の元素)であり,かつ,30重量%以下の銀,1重量%以下の白金の一方もしくは双方よりなる副次成分を含有してなることを特徴とする超電導磁場発生素子。
【請求項7】請求項6において,上記高温超電導成形体は,組成式SmBa2Cu3O7-Xにより表されるSm123と,組成式Sm2BaCuO5により表されるSm211とを含有してなる主成分を有しており,かつ上記Sm123と上記Sm211との含有比率は,上記溶融法により合成する前の原料状態においてモル比が10:1〜1:1であることを特徴とする超電導磁場発生素子。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】
本発明は,主に溶融法で作成した塊状の高温超電導成形体(超電導バルクともいう)を利用した超電導磁場発生素子に関する。
【0002】
【従来技術】
従来,磁場を発生させる素子としては,いわゆる永久磁石がある。従来の永久磁石により発生できる磁場は,鉄のヨークで磁路を形成した場合でも現実的には1T(テスラ)以下であり,また磁路を使わない場合には0.5T以下である。これに対し,後述するごとく,高温超電導成形体(超電導バルク)を利用して発生させた磁場は,永久磁石の磁場を遙かに上回っている。しかも従来の永久磁石とは異なる原理で磁化されるから,更に大幅な捕捉磁場性能の向上が期待できる。
【0003】
上記高温超電導成形体(超電導バルク)としては,例えば,イットリウム系(Y-Ba-Cu-O系),サマリウム系(Sm-Ba-Cu-O系),ネオジム系(Nd-Ba-Cu-O系)などの高温超電導物質を塊状に合成したものがある。上記高温超電導物質は,その製造時の雰囲気を調整して適正に合成することにより,その超電導遷移温度Tcが90Kを超える優秀な超電導体となる。次いで,この超電導体を,その構成物質の融点を超える温度に一旦加熱して部分的に溶融させその後徐冷することにより,大型の擬似単結晶が合成できる。得られた擬似結晶よりなる塊状の超電導成形体が上記の超電導バルクと呼ばれている。
【0004】
この超電導バルクを用いた技術としては,種々の技術が提案されている。例えば特開平2-153803号公報においては,超電導バルクの合成時に超電導母相に導入される同素体としての絶縁相が均一に分散した組織が得られることが示されている。超電導状態で超電導バルクに外部から磁場が印加されると,この分散相の存在に起因するピン止め点が磁束を捕捉して,超電導バルクは高い臨界電流密度Jcを達成できるとされる。このため超電導バルクは強力で擬似的な永久磁石として働く。
【0005】
また,最近では,特開平7-187671号公報に示されているごとく,Sm(サマリウム)系,Nd(ネオジム)系などでは,SmやNdの原子がBa原子と置換して生じる微細な欠陥が試料中に均一に分散し,この影響で同様なピン止め効果が生じるために高いJcを得て,強力な超電導永久磁石が合成できるとされている。
【0006】
この技術によって得られる超電導永久磁石に捕捉できる磁場は最大数テスラ(T)にも及ぶ。本発明者らはイットリウム(Y)系超電導バルクに静磁場を捕捉させて,試料表面で4.4Tの磁場の発生に成功している。同時にパルス着磁法を用いて同じ試料で2.1Tの磁場発生にも成功している。
【0007】
【解決しようとする課題】
ところで,超電導バルクに強力な磁場が捕捉されるときには,量子化された磁束が超電導体内部に分布し,これらはピン止め点で捕捉され,Jc以下の値をもつ超電導電流によって保持される。従ってピン止め点にはピン止め力Fpと呼ばれる応力がかかり,この最大値はFp=Jc×Bで表される。
【0008】
このため高いJcをもった優秀な超電導バルクを強磁場で着磁しようとすると,強力なピン止め力が生じてその電磁力で超電導バルクが破壊するという問題があった。超電導バルクの機械的強度は60〜100MPa程度と弱いため,例えばY系では10T近い着磁を行った際に破壊した例が報告されている。
【0009】
一方,超電導バルクの機械的性質の向上を目的として,超電導バルクに銀を複合させる技術が,特開平10-53415号公報において提案されている。確かに,超電導バルクに銀を複合すると銀が亀裂の伝播を抑制して強度の向上に効果がある。
【0010】
しかし,高磁場での電磁力は強力であり,例えばSm系,Nd系超電導バルクにおいて5T以上の磁場を捕捉させようとすると,たとえ上記銀の複合により強度アップさせたものでも上記電磁力に耐えうる充分な強度は得られない。本発明者らの実験でもSm系の直径30mmのバルクを6Tに着磁したときに破壊した例がある。従って超電導バルクを永久磁石として数テスラの強力な磁場を実現するためには,超電導バルクの強化が必要である。
【0011】
本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,高温超電導成形体(超電導バルク)の破損を防止することができ,機械的強度に優れた超電導磁場発生素子を提供しようとするものである。
【0012】
【課題の解決手段】
第1の発明は,超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材とよりなり,該補強部材は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子にある(請求項1)。
第2の発明は,超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体を1又は2以上組み合わせて構成した本体部と,該本体部の周囲に配設した補強部材と,該補強部材の周囲に配設された支持部材とよりなり,上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きく,かつ,冷却して実使用する際に上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方から上記本体部に圧縮応力が付与されるように構成してあり,
上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることを特徴とする超電導磁場発生素子にある(請求項2)。
【0013】
本発明(上記第1及び第2の発明,以下同様)において最も注目すべきことは,上記本体部の周囲には上記補強部材を配設してあることである。
【0014】
上記本体部を構成する塊状の高温超電導成形体(以下適宜,超電導バルクという)としては,種々の高温超電導材料を適用することができる。また,超電導バルクは,円形,あるいは多角形状の断面を有する柱状体等,種々の形状をとることができる。また,上記本体部は,1つの塊よりなる超電導バルクを単体で用いて構成してもよいし,複数の超電導バルクを組み合わせて構成してもよい。
【0015】
上記補強部材としては,後述するごとく種々の材料を用いることができる。また,補強部材の配置態様としては,上記超電導磁場発生素子の適用態様に応じて種々変更することができる。例えば,上記本体部の全体を覆うように配置したり,一部分を開放して残りを覆うように配置することもできる。
【0016】
次に,本発明の作用につき説明する。本発明の超電導磁場発生素子においては,上記本体部の周囲に補強部材を配設してある。そのため,上記超電導磁場発生素子を着磁して非常に強い磁場を捕捉させた場合においても,その破壊を防止することができ,高い磁場捕捉状態を維持することができる。
【0017】
即ち,上記本体部を構成する超電導バルクには,これを着磁して磁場を捕捉させることにより電磁力がかけられる。この電磁力は,超電導バルクを膨張させる方向に働き,しかも最も強磁場を捕捉する中心部で最も強力である。そのため,上記補強部材を備えていない従来の超電導バルクにおいては,着磁時における中心から外周に向かって作用する非常に強い電磁力に超電導バルク自体の強度が耐えきれず,破壊を余儀なくされていた。
【0018】
これに対し,本発明においては,上記補強部材を上記本体部の周囲に配設してある。そのため,本体部を構成する超電導バルクに強い膨張力が作用しても,これを上記補強部材によって受け止めることができ,超電導磁場発生素子全体の機械的強度を向上させることができる。それ故,本発明の超電導磁場発生素子は,これに非常に強い磁場を捕捉させた場合においても,破壊されることなく高い磁場捕捉状態を維持することができる。
【0019】
また,本発明の超電導磁場発生素子においては,このように上記補強部材の配設によって超電導バルクの破壊を確実に防止することができるので,次々に開発される強力な超電導バルクを上記本体部に適用することができる。それ故,本発明の超電導磁場発生素子は,非常に強力な超電導バルクの実用化に多大な貢献をすることができる。
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
また,上記第2の発明においては,上記補強部材の周囲には,さらに支持部材を配設してある。これにより,上記超電導磁場発生素子の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0024】
また,本発明(上記第1の発明及び第2の発明)においては,上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方は,冷却した際の熱収縮が上記高温超電導成形体(超電導バルク)よりも大きい。即ち,上記補強部材あるいは上記支持部材としては,後述するように種々の材料を用いることができるが,上記熱収縮が上記高温超電導成形体よりも大きい材料を適用する。
【0025】
この場合には,上記超電導磁場発生素子を冷却して実際に使用する場合に,上記熱収縮の差によって上記補強部材又は上記支持部材の一方あるいは双方から上記本体の超電導バルクに圧縮応力を与えることができる。そのため,冷却状態における上記超電導磁場発生素子全体の強度をさらに高めることができる。
【0026】
ここに,超電導バルクよりも上記熱収縮が大きい材料等の一例を表1に示す。表1には,各材料を室温から50Kまで冷却した際の熱収縮,および室温での曲げ強度を示してある。表1より知られるごとく,超電導バルクの熱収縮はa軸方向で0.18,b軸方向で0,12,c軸方向で0.34という値である。
【0027】
そのため,上記補強部材あるいは支持部材は,上記超電導バルクのa軸方向に配設する場合は0.18超え,b軸方向に配設する場合には0.12超え,c軸方向に配設する場合は0.34超えの収縮率を有する材料適用することが好ましい。
【0028】
【表1】

【0029】
以上のように,本発明によれば,高温超電導成形体(超電導バルク)の破損を防止することができ,機械的強度に優れた超電導磁場発生素子を提供することができる。次に,請求項3に記載の発明のように,上記補強部材は,上記本体部の磁場発生方向と略直角の方向のみに設けてあり,上記本体部の磁場発生面には設けていないことが好ましい。この場合には,機械的強度向上に最も重要な部分だけを上記補強部材により補強し,一方,磁束が通過する上記本体部の磁場発生面を開放したままにすることにより,磁場の減衰を防止することができる。特に,超電導バルクはそのc軸方向に磁場を印加して着磁したときに最も強磁場が着磁できるため,c軸に垂直な方向に強い電磁力が働く。このため,超電導バルクの破壊はc軸に平行に起こる。従って磁場の印加方向に垂直な方向に重点的に補強材を配しておくことで,より効率的に補強ができる。なお,超電導バルクのc軸方向の熱収縮は他の結晶方位に比べて大きいため,そのc軸方向の破損の防止を目的として,c軸方向(磁場印加方向)の磁場発生面に対しても補強材を配しておくことも勿論できる。また,上記補強部材は,強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなる。この場合には,樹脂材料に上記強化粒子又は強化繊維を分散させてあるため,例えば上記表1に示した粒子分散型エポキシ樹脂やガラス繊維強化型エポキシ樹脂のように,適度な収縮率と高い強度の補強部材を得ることができる。また,樹脂材料の特徴を利用して上記補強部材を上記本体部の周囲に容易に密着させて配置させることができる。それ故,超低温状態で使用される上記超電導磁場発生素子における補強部材の安定性を高めることができる。
【0030】
また,請求項4に記載の発明のように,上記支持部材は,ステンレス鋼,アルミニウム,チタン,銅,ニッケル又はこれらの合金よりなる金属部材,あるいは強化粒子又は強化繊維を樹脂材料に分散させてなる粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料よりなることが好ましい。
【0031】
即ち,上記支持部材としては,上記のごとく,ステンレス鋼,アルミニウム,チタン,銅,ニッケル又はこれらの合金よりなる金属部材を用いることができる。この場合には,上記支持部材の機械的強度を非常に高くすることができ(表1参照),上記補強部材による補強効果をさらに高めることができる。また,上記金属部材の中でも,特に非磁性ステンレス,ベリリウム銅,キュプロニッケル,アルミ-マグネシウム合金等の非磁性材料がより好ましい。これにより,着磁された磁場が遮蔽されないという効果が得られる。
【0032】
また,上記支持部材としては,上記補強部材と同様に粒子分散型樹脂複合材料や繊維強化型樹脂複合材料という,高強度かつ適度な収縮率を有する材料を適用することができる。この場合には,上記補強部材を補助して上記作用効果を高めることができる。
【0033】
また,上記支持部材は,上記種々の材料を,例えばリング状,板状に予め成形したものを用いることが好ましい。これにより,上記超電導磁場発生素子の製造作業を合理化することができる。
【0034】
また,上記補強部材あるいは上記支持部材を上記粒子分散型樹脂複合材料又は繊維強化型樹脂複合材料で構成する場合には,上記強化粒子,強化繊維,樹脂材料としては,種々の材料を適用することができる。即ち,請求項5に記載の発明のように,上記強化粒子としては,酸化珪素,酸化チタン,酸化アルミニウム,ガラスより選ばれる1種又は2種以上の粒子を用いることができる。また,上記強化繊維としては,ガラス繊維,炭素繊維,アラミド繊維,ケブラー繊維より選ばれる1種又は2種以上の繊維を用いることができる。また,上記樹脂材料としては,エポキシ樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリイミド樹脂,テフロン樹脂より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を用いることができる。
【0035】
次に,請求項6に記載の発明のように,上記本体部を構成する塊状の高温超電導成形体(超電導バルク)は,溶融法により合成されていると共に,その主成分がRE-Ba-Cu-O系(ここに,上記REはイットリウム,サマリウム,ランタン,ネオジム,ユーロピウム,ガドリニウム,エルビウム,イッテルビウム,ジスプロシウム,ホルミウムより選ばれる1種又は2種以上の元素)であり,かつ,30重量%以下の銀,1重量%以下の白金の一方もしくは双方よりなる副次成分を含有してなることが好ましい。
【0036】
ここで,上記白金はRE211相(RE2BaCuO5相)の粗大化を抑制する。これにより,超電導バルクの臨界電流密度Jcの向上に伴う磁場捕捉力の向上,及び機械的強度の向上を図ることができる。この2つの効果を発揮するため,上記白金を1重量%以下添加することが好ましい。また,1重量%を超えて添加してもその効果は少ない。なお,系によっては上記効果が発揮されない場合もあるので,白金は必ずしも添加する必要はない。
【0037】
また,上記銀は30重量%以内の範囲で添加することにより,上記超電導バルク自体の強度を向上させることができる。そのため,1重量%以上添加することが好ましい。一方,銀を30重量%を超えて添加するとRE123相(REBa2Cu3O7-X相)結晶の成長速度を著しく低下させ,大型バルクの作製が困難になり,また試料表面に多量に析出して種結晶の接触を阻害するという問題がある。
【0038】
また,請求項7の発明のように,上記高温超電導成形体は,組成式SmBa2Cu3O7-Xにより表されるSm123と,組成式Sm2BaCuO5により表されるSm211とを含有してなる主成分を有しており,かつ上記Sm123と上記Sm211との含有比率は,上記溶融法により合成する前の原料状態においてモル比が10:1〜1:1であることが好ましい。この場合には,上記超電導磁場発生素子が捕捉可能な磁場を非常に大きくするすることができる。
【0039】
なお,上記モル比において10:1よりSm211の比例がさらに小さい場合には,半溶融状態での試料の変形が著しいという問題があり,1:1よりもSm211の比率が大きい場合には液相成分の不足のためSm123の結晶成長が進みにくくなるという問題がある。そのため,より好ましくは上記モル比は3:1〜3:2がよい。
【0040】
【発明の実施の形態】
実施形態例1本発明の実施形態例にかかる超電導磁場発生素子につき,図1を用いて説明する。本例の超電導磁場発生素子1は,図1(a)(b)に示すごとく,超電導状態で磁場を捕捉する塊状の高温超電導成形体(超電導バルク)11より構成した本体部10と,該本体部10の周囲に配設した補強部材2とよりなる。補強部材2は,本体部10の磁場発生方向と略直角の方向のみに設けてあり,本体部10の磁場発生面15,16には設けていない。また,本例の超電導磁場発生素子1においては,上記補強部材2の周囲には,さらに支持部材3を配設してある。
【0041】
上記本体部10を構成する超電導バルク11は,同図に示すごとく,溶融法で合成したSm-Ba-Cu-O系高温超電導バルクであり,その形状は直径30mm,高さ15mmの円柱である。また,超電導バルク11のc軸方向は上記円柱形状の軸方向にほぼ揃えてある。
【0042】
上記補強部材2としては,適量の硬化剤を混合した粒子分散型複合エポキシ接着剤(商品名;スタイキャスト,エマーソン-カミング社)を用いた。また,上記支持部材3としては,外径36mmで肉厚2mm,長さ15mmのステンレス製のリングを用いた。
【0043】
そして,図1(a)(b)に示すごとく,超電導バルク11の軸方向と支持部材3の軸方向を揃えて,支持部材3の内部に超電導バルク11を置く。次いで,支持部材3と超電導バルク11との間隙に補強部材2を充填し,固化させることにより,超電導バルク1を構成した。なお,補強部材2の固化は,室温で静置することにより実施した。また,超電導磁場発生素子1の表裏の磁場発生面15,16は,平坦に研磨して最終仕上げを行った。
【0044】
次に,本例においては,超電導磁場発生素子1全体を真空容器内に収めると共に上記本体部10の裏面の磁場発生面16を冷凍機の冷却部に直接当接させて最大印加磁場6Tを印加し,所定の温度まで冷却した。そして,最低温度60Kまで冷却して印加磁場を取り去るというテストを行った。また,このとき印加磁場の磁場方向は超電導磁場発生素子1の軸方向と平行な方向とした。
【0045】
テストの結果,超電導磁場発生素子1の本体部10には何ら損傷なく,非常に高い磁場を捕捉することができた。一方,従来,上記と同じ超電導バルク11単体に上記と同様の印加磁場を印加した場合には,ほとんどの場合超電導バルク11が破損していた。このことから分かるように,本例の超電導磁場発生素子1は,超電導バルク11自身の機械的強度不足を補うと共にその優れた磁気特性を十分に発揮させることができる。
【0046】
また,本例においては,上記補強部材2及び支持部材3を本体部10の磁場発生方向と略直角の方向の外周部のみに設けたが,十分に超電導バルク11の破壊を防止することができた。これは,超電導バルクに働く電磁力が磁場の方向に主に垂直であるため,上記補強部材2及び支持部材3によって十分にその電磁力に対抗することができたためであると考えられる。
【0047】
実施形態例2本例は,図2,図3に示すごとく,実施形態例1における本体部10の構成を変更した例である。即ち,図2には,本体部10を構成する超電導バルク11の形状を直方体にした例を示す。また,図3には,亀の甲状に成形された7個の超電導バルク11を組み合わせて本体部10を構成した例を示す。その他は実施形態例1と同様である。これらの場合においても,実施形態例1と同様の作用効果が得られる。
【0048】
実施形態例3本例においては,実施形態例1における本体部10を構成する超電導バルク11についての具体例を詳細に説明すると共に,その超電導バルクを用いた場合の磁気特性を説明する。
【0049】
最初に,本例の超電導磁場発生素子における超電導バルクの製造方法について説明する。まずSm2O3,BaO2,CuOの各原料粉末を,Sm:Ba:Cu=1:2:3の組成比になるよう秤量し,十分均一になるよう混合した後,焼成しこれを粉砕して,SmBa2Cu3Oy(Sm123)の粉末を得た。また,Sm2O3,BaO2,CuOの各原料粉末を,Sm:Ba:Cu=2:1:1の組成比になるよう秤量し,同様に混合,焼成し,平均粒径が1μmになるまで粉砕して,Sm2BaCuO5(Sm211)の粉末を得た。
【0050】
次いで,得られたSm123とSm211の粉末をモル比が3:1になるように秤量し,その合計に対して0.5wt%のPt粉末と10wt%のAg2O粉末を加えて,よく混合した。次いで,この混合粉100gをφ36mmの圧粉型に入れ加圧成型し,これを熱処理前駆体とした。
【0051】
次いで,上記熱処理前駆体に対して次のような熱処理を加えた。なお,熱処理に使用した熱処理炉は試料が下側から加熱される構造になっており,試料には下から上に向かって温度が低くなるような温度勾配が形成される。前駆体を入れた熱処理炉を,Arガスを流して酸素濃度を1%以下に保ちながら1040℃に加熱し,1時間保持して前駆体を半溶融状態にさせた後,1000℃に温度を下げ,その後毎時0.8℃の速さで80時間徐冷してSm123相の結晶を成長させた。
【0052】
徐冷開始後にNd系123相(NdBa2Cu3Oy)からなる種結晶を,試料の上面に接触させた。この時種結晶の(001)面が試料の上面に水平に接触するようにした。これにより成長するSm123結晶のc軸が垂直に配向した。このようにバルク結晶を成長させた後,試料に酸素アニール処理を施した。酸素アニールは,バルク結晶に成長した上記試料を管状炉に入れて酸素ガスを流し,400℃〜280℃の間で徐冷しながら350時間保持することにより行った。この酸素アニールを行った後,炉冷して試料を取り出した。この試料が超電導バルクである。
【0053】
得られた超電導バルクは外径30mm,厚み20mmでc軸が垂直に配向したSm123相の結晶からなり,結晶中には粒径0.1〜10μmのSm211相の粒子と,銀を主成分とする粒径1〜50μmの金属粒子が分散している。またこのバルクの超電導臨界温度Tcは90〜95Kである。また温度77Kのとき,外部磁場0における臨界電流密度Jcは2〜4万A/cm2であり,外部磁場が1〜3Tの範囲でJcが極大値を持ついわゆるピーク効果を示す。
【0054】
次に,本例においては,上記超電導バルクを用いて実施形態例1と同様の超電導磁場発生素子1を構成し,これを着磁した。具体的には,実施形態例1と同様に,超電導磁場発生素子1全体を真空容器内に収めると共に上記本体部10の裏面の磁場発生面16を冷凍機の冷却部に直接に当接させて最大印加磁場6Tをそれぞれ印加し,次いで超電導磁場発生素子1全体の温度を所定温度まで冷却した。次いで印加磁場を取り去って,超電導磁場発生素子1に捕捉された磁場の強さを測定した。なお,上記所定温度は,77K〜59Kの温度とした。
【0055】
測定結果を図4〜図8に示す。図4,図5は,超電導磁場発生素子1を液体窒素に浸漬して77Kまで冷却して着磁させた場合の捕捉磁場を,超電導磁場発生素子1の表面から1.1mm離れた位置で測定した結果である。また,図4は,横軸に超電導磁場発生素子の横方向に位置Xを,縦軸に超電導磁場発生素子の縦方向の位置Yをとり,0.1T刻みで磁場分布を示したものである。また,図5は,横軸に超電導磁場発生素子の横方向の位置Yを,縦軸に磁場の強さ(T)をとったものである。
【0056】
図4,図5より知られるごとく,捕捉磁場の分布は,超電導磁場発生素子の中心部分が最も強く,外周部に近づくほど徐々に弱くなるという傾向を示した。また,超電導磁場発生素子の中心部分においては,表面から1.1mmの位置でも約1.2Tという非常に強い磁場が検出された。
【0057】
次に,図6,図7には,59Kまで冷却して着磁させた場合の捕捉磁場を,超電導磁場発生素子1の表面から4.0mm離れた位置で測定した結果を示す。なお,図6及び図7における縦軸と横軸は,それぞれ上記図4及び図5と同様である。
【0058】
図6,図7より知られるごとく,捕捉磁場の分布は,上記と同様に,超電導磁場発生素子の中心部分が最も強く,外周部に近づくほど徐々に弱くなるという傾向を示した。また,超電導磁場発生素子の中心部分においては,表面から4.0mmの位置でも約2.0Tという非常に強い磁場が検出された。
【0059】
次に,図8には,77K,70K,65K,60K,59Kの各温度において着磁させた場合の捕捉磁場を,超電導磁場発生素子1の中心部の最表面上において測定した結果を示す。なお,図8は,横軸に温度(K)を,縦軸に磁場の強さ(T)をとったものである。
【0060】
同図より知られるごとく,冷却温度が低いほど高い磁場を捕捉することができた。特に59Kにおいては,5.5Tという極めて高い磁場を捕捉することができた。一方,超電導磁場発生素子には,何ら損傷がなく,健全な状態が維持された。この結果から,本発明における超電導磁場発生素子の構造は,従来事実上不可能であった強磁場の捕捉を可能にするということにきわめて有効であることが分かる。
【0061】
【発明の効果】
本発明によれば,高温超電導成形体(超電導バルク)の破損を防止することができ,機械的強度に優れた超電導磁場発生素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施形態例1における,(a)超電導磁場発生素子の平面図,(b)(a)のA-A線矢視断面図。
【図2】
実施形態例2における,超電導磁場発生素子の平面図。
【図3】
実施形態例2における,他の超電導磁場発生素子の平面図。
【図4】
実施形態例3における,77Kにおいて着磁させた超電導磁場発生素子の上面から見た磁場分布を示す説明図。
【図5】
実施形態例3における,77Kにおいて着磁させた超電導磁場発生素子の縦断面から見た磁場分布を示す説明図。
【図6】
実施形態例3における,59Kにおいて着磁させた超電導磁場発生素子の上面から見た磁場分布を示す説明図。
【図7】
実施形態例3における,59Kにおいて着磁させた超電導磁場発生素子の縦断面から見た磁場分布を示す説明図。
【図8】
実施形態例3における,冷却温度と捕捉磁場との関係を示す説明図。
【符号の説明】
1...超電導磁場発生素子,
10...本体部,
11...塊状の高温超電導成形体(超電導バルク),
2...補強部材,
3...支持部材,
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-07-08 
出願番号 特願平10-100307
審決分類 P 1 651・ 113- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 今井 淳一
岡 和久
登録日 2003-01-17 
登録番号 特許第3389094号(P3389094)
権利者 株式会社イムラ材料開発研究所
発明の名称 超電導磁場発生素子  
代理人 高橋 祥泰  
代理人 岩倉 民芳  
代理人 岩倉 民芳  
代理人 高橋 祥泰  
代理人 高橋 祥起  
代理人 高橋 祥起  

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