• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特174条1項  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1125756
異議申立番号 異議2003-72958  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-02 
確定日 2005-06-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3414530号「安定な乳化組成物及びそれを含有する食品」の請求項1ないし20に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3414530号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3414530号に係る発明についての出願は、特許法41条に基づく優先権主張を伴う平成6年12月15日(優先日、平成5年12月20日)の出願であって、平成15年4月4日にその特許の設定登録がなされ、その後、衣斐豊祐及び三木孝文より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年7月27日付けで訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年4月8日付けで訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
(a)特許請求の範囲の請求項1に係る記載を、
「【請求項1】 活性成分としてのドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸およびこれらの酸の誘導体の少なくとも一種又はそれらを含有する天然油と、
少なくとも活性成分を乳化し得るに充分な量の乳化剤と、
水溶性の酸化防止剤と、
親水性媒体とからなり、
ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びこれらの酸の誘導体の少なくとも一種又はそれらを含有する天然油の含有量が、乳化組成物中約5〜50重量%であり、
乳化剤がデカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステル単独、あるいはこれらのいずれかとショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数12〜20)及び/又はレシチンであって、活性成分に対する乳化剤の割合(重量比)が約1:0.1〜1:1であり、
水溶性の酸化防止剤が、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びそれらの塩、カテキン類、カテキン類含有天然抽出物からなる群から選択される1種であって、水溶性の酸化防止剤の含有量が、乳化組成物中1重量%を超えて20重量%以下であり、かつ
親水性媒体が多価アルコールもしくは含水多価アルコールであって、含水多価アルコールが含水率約50重量%以下であり、
油滴の粒子径が0.2μm以下であることを特徴とする安定な乳化組成物。」と訂正する。
(b)特許請求の範囲の請求項4ないし8、及び請求項14ないし16を削除する。
(c)特許請求の範囲の請求項9に係る記載を、
「【請求項4】 デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステルとレシチンとの混合比(重量比)が約1:0.005〜1:0.5である請求項1記載の乳化組成物。」と訂正する。
(d)特許請求の範囲の請求項10に係る記載を、
「【請求項5】 デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルとレシチンとの混合比(重量比)が約1:0.05:0.005〜1:1:0.5である請求項1記載の乳化組成物。」と訂正する。
(e)特許請求の範囲の請求項11に係る記載を、
「【請求項6】 乳化剤の含有量が、乳化組成物中約0.01〜20重量%である請求項1記載の乳化組成物。」と訂正する。
(f)特許請求の範囲の請求項12に係る記載を、
「【請求項7】 デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、乳化組成物中約0.01〜20重量%である請求項1記載の乳化組成物。」と訂正する。
(g)特許請求の範囲の請求項13に係る記載を、
「【請求項8】 親水性媒体としての多価アルコールが、グリセリン、ソルビトール又はプロピレングリコールである請求項1記載の乳化組成物。」と訂正する。
(h)特許請求の範囲の請求項17に係る記載を、
「【請求項9】 乳化剤としてレシチンが用いられるとき、さらに食用油脂を含有する請求項1記載の乳化組成物。」と訂正する。
(i)特許請求の範囲の請求項18に係る記載を、
「【請求項10】 ドコサヘキサエン酸及び又はエイコサペンタエン酸の食品中の含有量が約0.0001〜1重量%となるように請求項1記載の乳化組成物を添加してなる液状もしくは半固形状食品。」と訂正する。
(j)特許請求の範囲の請求項19に係る記載を、
「【請求項11】 液状食品が、炭酸飲料、乳酸菌飲料、果実飲料又は牛乳である請求項10記載の食品。」と訂正する。
(k)特許請求の範囲の請求項20に係る記載を、
「【請求項12】 半固形状食品が、ヨーグルト又はプリンである請求項10記載の食品。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項(a)は、「活性成分としてのドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸およびこれらの酸の誘導体」の含有量を、「乳化組成物中約5〜50重量%」に限定し、「HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数12〜20)」を「デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステル」に限定し、「水溶性の酸化防止剤」を「アスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びそれらの塩、カテキン類、カテキン類含有天然抽出物からなる群から選択される1種」に限定し、該酸化防止剤の含有量を「乳化組成物中1重量%を超えて20重量%以下」に限定し、油滴の粒子径を「0.2μm以下」に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項(b)は、請求項4ないし8、及び請求項14ないし16を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項(c)、(d)及び(f)は、「ポリグリセリン脂肪酸エステル」を「デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステル」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項(e)及び(g)ないし(k)は、訂正事項(b)の訂正に伴い請求項の項数を繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、訂正事項(a)ないし(k)は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の4,2項及び同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.衣斐豊祐よりの特許異議申立
特許異議申立人 衣斐豊祐は、甲第1号証ないし甲第14号証を提出し、(1)訂正前の発明1ないし20は、甲第1号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、(2)訂正前の本件明細書の特許請求の範囲の請求項の記載にはいわゆる新規事項の追加があり、本件特許は、同法第17条の2第3項に規定する要件に違反してされたものである、或いは、(3)訂正前の本件明細書の記載には不備なところがあり、本件特許は、同法第36条第4項又は第5項(「6項」は、誤記であり、正しくは「5項」であると認める。)に規定する要件に違反してされたものである、と主張している。

A.異議理由(1)について
(a-1)甲各号証の記載内容
甲第1号証(特開平4-51853号公報)には、飲食品用乳化液組成物の製法に関し「(1)下記組成 (a)可食性油性材料 (b)HLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、酵素処理レシチン、キラヤ抽出物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の乳化剤 (c)多価アルコール (d)水 からなる組成物を乳化処理する飲食品用乳化液組成物の製法において、該乳化処理を減圧条件下で行い、かつ該乳化液組成物の平均乳化粒子径を0.2ミクロン以下とすることを特徴とする上記飲食品用乳化組成物の製法。」(特許請求の範囲の項)、「(a)可食性油性材料としては、例えば、・・・植物精油;・・・油性のエキストラクト及びこれらのオレオレンジ類;・・・油性の着香料;・・・油溶性天然色素類;・・・油溶性ビタミン類;大豆油、ナタネ油、コーン油、オリーブ油、ヤシ油、サフラワー油、ヒマワリ油、米油、牛脂、豚脂、魚油などの動物油脂類;・・・植物性樹脂類;C4〜C12の中鎖飽和脂肪酸トリグリセライドなどの加工食用油脂及びこれら可食性油性材料の任意の混合物を例示することができる。」(2頁左下9欄行〜右下欄10行)、「また本発明で利用することのできる(b)乳化剤のHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル類としては、例えば、平均重合度6以上のポリグリセリンと炭素数12以上の脂肪酸とのエステルでヘキサグリセリルモノラウレート、デカグリセリルモノラウレート、デカグリセリルモノミリステート、デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルモノオレエートなどを例示することができる。」(2頁右下欄11〜19行)及び「・・・例えば炭酸飲料、栄養ドリンク、嗜好飲料、アルコール飲料、果汁飲料、乳性飲料などの飲料類;キャンデー、ゼリーなどの菓子類;中華スープ、和風スープ、洋風スープなどのスープ類などの飲食品類に、約0.05〜約0.5重量%配合することにより長期間安定で好ましい透明感、風味および色調などを付与することができる。」(3頁右下欄4〜11行)と記載されている。
甲第2号証(特開平5-287294号公報)には、魚油戻り臭抑制剤および魚油戻り臭抑制方法に関し「茶抽出物1〜20重量%、δ-トコフェロールを50重量%以上含有するトコフェロール80〜98.9重量%、ならびにアスコルビン酸および/またはアスコルビン酸脂肪酸エステル0.1〜5重量%を含んでなることを特徴とする魚油戻り臭抑制剤。」(特許請求の範囲請求項1)、「本発明で戻り臭抑制の対象とする魚油は、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の高度不飽和脂肪酸を含有する魚油であり、一般にはマグロ、イワシ、サバ、サンマ等の赤身の魚から得られる油であるが、これらを濃縮して高度不飽和脂肪酸濃度を高めたもの、あるいはこれらと他の成分を調合した魚油も含まれる。」(段落【0010】)、「本発明の魚油戻り臭抑制方法において用いられる乳化剤は、前記魚油戻り臭抑制剤を魚油中に均一に分散させるための分散剤として添加するものであり、例えばグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等があげられる。乳化剤の添加量は、魚油に対して0.0005〜0.02重量%、好ましくは0.001〜0.01重量%が望ましい。」(段落【0019】)及び「本発明の魚油戻り臭抑制剤は、トコフェロール、茶抽出物ならびにアスコルビン酸および/またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを成分とするため、これらの相乗効果により魚油特有の戻り臭を長時間にわたって抑制することができる。」(段落【0024】)と記載されている。
甲第3号証(特開昭62-250941号公報)には、乳化至可溶化液の製造法に関し「(1) 非水溶性物質1〜70重量部にポリグリセリン脂肪酸エステル1〜90重量部と水0.1〜50重量部および多価アルコール1〜90重量部を混合し乳化至可溶化することを特徴とする乳化至可溶化液の製造法」(特許請求の範囲の項)、及び「本発明に用いられる非水溶性物質は、・・・などの合成又は天然の着香料があげられる。又、・・・などの油性着香料、・・・などの油溶性ビタミン、・・・などの油性物質、オリーブ油、コーン油、ベニバナ油、魚油などの油脂、・・・などのワックスなどがあげられる。」(2頁右上12欄行〜左下欄8行)と記載されている。
甲第4号証(特開平3-287697号公報)には、「1)椿科の茶抽出物を有効成分とする高度不飽和高級脂肪酸又はそのグリセライド又はこれらを含む油脂類の安定化剤。」(特許請求の範囲の項)及び「本発明はリノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の分子構造に不飽和結合を複数個持つ高度不飽和高級脂肪酸又はそのグリセライド又はこれらを含む油脂類の安定化剤及び安定化法に関する。」(1頁左下欄末行〜右下欄4行)と記載されている。
甲第5号証(特開平1-268683号公報)には、「カテキン類中のガレート型カテキン類を加水分解して遊離型カテキンと没食子酸に変換させることを特徴とする抗酸化力の増強されたカテキン類の製造法。」(特許請求の範囲の項)と記載されている。
甲第6号証(特開昭63-135484号公報)には、「茶葉抽出物に脂肪酸ヒドロキシカルボン酸を1種または2種以上添加したことを特徴とする茶葉抗酸化剤組成物。」(特許請求の範囲の項)と記載されている。
甲第7号証(特開平3-297364号公報)には、「(A)エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸10重量%以上を含有する油脂及び/又はα-リノレン酸20重量%以上を含有する油脂20〜70重量%、(B) レシチン2〜20重量%及び(C) タンパク質及び/又はその分解物20〜70重量%を含有することを特徴とする血栓防止用粉末組成物。」(特許請求の範囲の項)と記載されている。
甲第8号証(特開平3-50293号公報)には、特許請求の範囲の項に「(1) 抗酸化剤と併用することにより酸化防止効果を向上させる酸化防止補助剤において、蛋白質酵素加水分解物を有効成分とすることを特徴とする酸化防止補助剤。」及び「(6) 大豆油、エゴマ油、ホホバ油、アーモンド油、魚油、・・・又はそれらを含む食品、化粧品に適用される請求項4又は5記載の酸化防止方法。」と記載されている。
甲第9号証(特開昭61-112020号公報)には、特許請求の範囲の項に「1 血管性、動脈硬化性及び血栓疾患の予防並びに処置のための薬剤的又は栄養的組成物において、レシチンを含み、かつ、エイコサペンタエン酸(・・)、ドコサエン酸(・・)それらのエステルの少なくともひとつを含有する油を含むことを特徴とする組成物。」及び「5 薬剤的又は栄養的組成物において、酸化防止性脂質がトコフェロールとその誘導体、アスコルビン酸とその誘導体、及びカロチノイドとその誘導体の中から選ばれる特許請求の範囲第4項に記載の組成物。」と記載されている。
甲第10号証(特開平5-86395号公報)には、「平均分子量3000以下の魚介類エキスからなる水相10〜50重量部、油相90〜50重量部をポリグリセリン脂肪酸エステル,ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリンポリリシノール酸エステルから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤により乳化したW/O型エマルジョンをエイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸含有油脂に添加してなることを特徴とするエイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸含有油脂の安定化法。」(特許請求の範囲請求項1)と記載されている。
甲第12号証(特開平3-224451号公報)には、「(1) 油脂含量が0.5〜5重量%であり、かつ乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル、レシチン及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする低油脂エマルジョン。」(特許請求の範囲の項)と記載されている。
甲第13号証(特開平1-176444号公報)には、「本発明におけるショ糖脂肪酸エステルはモノエステル含有量20%以上のものが好ましく、ショ糖1分子当たりの脂肪酸のエステル置換度は2.2以下のもの全てが含まれる、また、構成脂肪酸は炭素数8-22の飽和又は不飽和の単独又は混合脂肪酸である。」(2頁左下欄13〜18行)と記載されている。
甲第14号証(「食品用乳化剤第2版」(1991年3月1日幸書房発行)64頁)には、Griffinが提唱したHLB値の算出方法が記載されている。

(a-2)判断
(本件発明1について)
特許異議申立人は、甲第1号証又は甲第3号証には、本件発明1に係る「水溶性の酸化防止剤」という事項を除き、他の全ての事項が記載されており、また、甲第2号証,甲第4号証ないし甲第10号証には、「水溶性の酸化防止剤」が開示されているから、当業者であれば、甲第1号証或いは甲第3号証に記載された発明と甲第2号証,甲第4号証ないし甲第10号証のうち特に甲第2号証に記載された発明とを組み合わせることにより本件発明1を想到することは容易であると主張している。
よって検討するに、甲第2号証には、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸を含む魚油の戻り臭を抑制するために、茶抽出物、δ-トコフェロール及びアスコルビン酸を添加することが記載されているところ、この茶抽出物とアスコルビン酸は、本件発明1に係る「水溶性の酸化防止剤」に相当するものである。
一方、甲第1号証には、可食性油性材料、ポリグリセリン脂肪酸エステル、多価アルコール及び水からなる乳化液組成物が記載されているが、魚油は、可食性油脂材料として多数列挙されているものの1つにすぎず、可食性油性材料として魚油を用いた乳化液組成物の安定性について実際に確認しておらず、また、魚油の戻り臭について言及する記載もない。
また、甲第1号証の2頁右下欄11〜19行には、甲第1号証に係る乳化液組成物で使用するポリグリセリン脂肪酸エステル類として、デカグリセリンモノラウリン酸エステルの他、本件発明1に係る乳化剤であるデカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルまたはデカグリセリンモノミリスチン酸エステルも同列に記載されているが、本件発明1に係る上記乳化剤として使用される特定のポリグリセリン脂肪酸エステルは、本件明細書の実施例1(段落【0033】ないし【0036】)の「表1」に示されているように、他のポリグリセリン脂肪酸エステル、例えばデカグリセリンモノラウリン酸エステルに比べて、1週間放置後の乳化組成物の状態で異常を示さなかったものであるから、本件発明1において、乳化剤として使用するポリグリセリン脂肪酸エステルを「デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルまたはデカグリセリンモノミリスチン酸エステル」に限定した点には、格別の意義があるというべきである。
そうすると、魚油の戻り臭を抑制するために水溶性の酸化防止剤を添加することが甲第2号証に記載されているとしても、甲第1号証及び甲第2号証の記載に基づいて本件発明1を想到することは当業者において困難である。
また、甲第3号証には、非水溶性物質にポリグリセリン脂肪酸エステル、水及び多価アルコールを混合して乳化した乳化液が記載されているが、魚油は、非水溶性物質として多数列挙されているものの1つにすぎず、非水溶性物質として魚油を用いた乳化液組成物の安定性について実際に確認しておらず、また、魚油の戻り臭について言及するところはない。その上、本件発明1は、油滴の粒子径が0.2μm以下であって、この粒子径にすることにより、本件明細書の実施例8(段落【0071】ないし【0078】)に記載のように、ネックリングの発生は認められないものであるところ、甲第3号証には、粒子径について言及するところはない。
そうすると、魚油の戻り臭を抑制するために水溶性の酸化防止剤を添加することが甲第2号証に記載されているとしても、甲第2号証及び甲第3号証の記載に基づいて本件発明1を想到することは当業者において困難である。
甲第4号証には茶抽出物、甲第5号証には遊離型カテキンと没食子酸とからなるもの、甲第6号証には茶葉抽出物、及び甲第8号証には抗酸化剤と蛋白質酵素加水分解物からなるものを、それぞれ抗酸化剤として利用することが記載されているが、これらの甲号証は、本件発明1について甲第2号証に記載された事項の範囲を超えて開示するものではない。
そうすると、甲第1号証或いは甲第3号証と、甲第4号証ないし甲第6号証又は甲第8号証に記載の事項から、当業者が容易に本件発明1を想到し得たということはできない。
甲第7号証には、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸を含有する油脂、レシチン並びにタンパク質及び/又はその分解物を含有するものであって、油脂の酸化劣化を防止する組成物が記載されているものの、これは血栓防止用粉末組成物であって、本件発明1のように親水性媒体に乳化されるものではなく、甲第7号証には、本件発明1に係る特定の乳化剤について教示するところは全くない。
そうすると、甲第7号証に記載の事項を根拠として本件発明1の容易性を論じることはできない。
甲第9号証には、レシチン並びにエイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸を含有する油脂にアスコルビン酸を酸化防止のため添加することが記載されているが、本件発明1に係る特定の乳化剤について教えるところはない。
甲第10号証には、魚介類エキスからなる水相、油相をポリグリセリン脂肪酸エステル,ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリンポリリシノール酸エステルから選ばれる乳化剤により乳化したW/O型エマルジョンをエイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸含有油脂に添加してなるエイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸含有油脂の安定化法について記載されているものの、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、本件発明1に係る特定のものを用いることについて教えるところはない。
なお、甲第12号証及び甲第13号証は、食品添加物用の公知のショ糖脂肪酸エステルの炭素数は12〜20であることが周知であることを教えるもの、また、甲第14号証は、HLB値の算出方法を教えるものであるが、これらの事項を参酌しても、上記進歩性の判断が左右されることはない。
そして、本件発明1は、訂正後の請求項1で特定する事項により、「酸化に対して安定で、かつ臭気の発生がなく、長期間の保存が可能な、DHA、EPAもしくはこれらの酸の誘導体の少なくとも一種又はこれらを含有する天然油を活性成分として含有する安定な乳化組成物」(段落【0105】)が得られる等特許明細書に記載されたとおりの効果を奏するものである。
以上のとおりであるので、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(本件発明2ないし12について)
本件発明2ないし12は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

B.異議理由(2)について
特許異議申立人は、請求項1における「酸化防止剤」を「水溶性の酸化防止剤」とする補正は、いわゆる新規事項を追加するものであると主張している。
よって検討するに、本件当初明細書には、「水溶性の酸化防止剤」という語句について明示されているところはない。しかし、本件明細書には、酸化防止剤については、「本発明において用いられる酸化防止剤の好ましい例としては、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸又はそれらの塩(例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等)、カテキン類、カテキン類含有天然抽出物等が挙げられ、具体的には、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸類;ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート等のカテキン類;茶抽出物、りんご抽出物、ブドウ種子抽出物、ひまわり種子抽出物、米ぬか抽出物等のカテキン類含有天然抽出物等が挙げられ、これらのなかで、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、茶抽出物が好ましい。これらの酸化防止剤は、1種または2種以上の混合物で使用することができる。上記カテキン類含有天然抽出物は、例えば、茶(例:緑茶、ウーロン茶、紅茶、ほうじ茶等)の葉、りんご果肉、ブドウ種子、ひまわり種子等を、水やエタノール、クロロホルム等の有機溶媒で抽出し、公知の方法で精製して得ることができる。本発明において用いられるカテキン類含有天然抽出物は、純品でも粗製品でもよい。」(段落【0022】ないし【0023】)との記載があり、このうち、「アスコルビン酸、イソアスコルビン酸又はそれらの塩及びカテキン類」が水溶性であることは自明のことであり、また、「カテキン類含有天然抽出物」は、水やエタノール、クロロホルム等の有機溶媒で抽出されるものであるから、水溶性のものと非水溶性のものとがあることが理解される。
上記の 段落【0022】ないし【0023】の記載から自明である事項、すなわち「水溶性」と「非水溶性」という点に着目し、酸化防止剤を、その一つの「水溶性」に限定することは、当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであるといえる。

C.異議理由(3)について
特許異議申立人は、「この水溶性酸化防止剤における『水溶性』に関して明細書中に一切、その定義がなく不明瞭であり、発明の範囲が明確でない。一般に“水溶性”とは広辞苑によれば、“水に溶ける性質を持っていること”と定義されている。第7版食品添加物公定書解説書1999(甲第11号証)の通則A12〜A13によれば、溶媒に対する溶質の溶解性を示す用語は例えば、『極めて溶けやすい』、『溶けやすい』、『やや溶けやすい』、『やや溶けにくい』、『溶けにくい』、『極めて溶けにくい』、『ほとんど溶けない』に分類されている。このことから明らかなように、あるものが水に『ほとんど溶けない』としても、量的な問題は別にして“水溶性”でないとはいえず、つまるところ水に対する溶解度が0でない限り、全て“水溶性”と言わざるを得ない。」と主張している。
しかし、特許異議申立人も認めるとおり、「水溶性」とは、「水に溶ける性質を持っていること」(広辞苑第3版)の意味であることは当業者において広く知られており、しかも、本件明細書には、使用できる「水溶性の酸化防止剤」としてアスコルビン酸等の多数の物質が例示されているのであるから、本件明細書に異議申立人が主張するような記載不備はない。

2.三木孝文よりの特許異議申立
特許異議申立人 三木孝文は、甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、(1)訂正前の発明1ないし20は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、(2)訂正前の本件明細書の記載は不備なところがあり、本件特許は、同法第36条第4項又は第5項に規定する要件に違反してされたものである、或いは、(3)訂正前の本件明細書の特許請求の範囲の請求項には、いわゆる新規事項の追加があり、本件特許は、同法17条の2第3項に規定する要件に違反してされたものである、と主張している。

A.異議理由(1)について
(各号証の記載内容)
甲第1号証(特開昭62-250941号公報)には、「1.A.a-1」の甲第3号証の記載事項として摘記したとおりのことが記載されている。
甲第2号証(特開平5-292885号公報)には、「エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を有する水素添加未処理の油脂及びカテキン類の少なくとも一種を含有することを特徴とするチョコレート組成物。」(特許請求の範囲の項)及び「上記カテキン類は、上記油脂に添加され、EPA及び/又はDHAの酸敗や経時変化による悪臭の発生を長時間著しく抑える効果を発揮するものである。上記カテキン類は、親水性なので、油脂への分散性を向上させるために、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を添加して、カテキン類含有組成物として使用するのが好ましい。」(段落【0013】)と記載されている。
甲第3号証(特開平4-346749号公報)には、「魚油添加粉乳にビタミンC及び/又はその塩を配合してなることを特徴とする魚油添加粉乳。」(特許請求の範囲請求項1)及び「本発明は、上記新知見に基づいてなされたものであって、魚油単独(魚油としては同一品種の魚油でも他品種の魚油混合物でもよい)もしくは魚油混合油脂を配合した魚油添加粉乳に、ビタミンC及び/又はその塩を所定量安定に長期間配合するのに成功し、もって、酸化を防止して風味、品質を損うことなく魚油含有粉乳を長期間保存することにはじめて成功したものである。」(段落【0009】)と記載されている。

(判断)
(本件発明1について)
特許異議申立人は、甲第1号証には、本件発明1に係る「水溶性の酸化防止剤」という事項を除き、他の全ての事項が記載されており、また、甲第2号証には、カテキン類がEPA及び/又はDHAの酸敗や経時変化による悪臭の発生を長時間著しく抑える効果を発揮することが、甲第3号証には、ビタミンCそれ自体のほかその塩がDHA、EPAを多く含む魚油等に対し抗酸化剤として使用されることが記載されているから、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証及び/又は甲第3号証に記載された水溶性の酸化防止剤を適用して本件発明1のように構成することは、当業者が容易に推考し得ることであると主張している。
よって、検討するに、甲第1号証には、非水溶性物質にポリグリセリン脂肪酸エステル、水及び多価アルコールを混合して乳化した乳化液が記載されているが、魚油は非水溶性物質として多数列挙されているものの1つにすぎず、また、非水溶性物質として魚油を用いた乳化液組成物の安定性について実際に確認しておらず、また、魚油の戻り臭について言及するところはない。その上、本件発明1は、油滴の粒子径が0.2μm以下であって、この粒子径にすることにより、本件明細書の実施例8(段落【0071】ないし【0078】)に記載のように、ネックリングの発生は認められないものであるところ、甲第1号証には、粒子径について言及するところは全くない。
また、甲第2号証には、エイコサペンタエン酸或いはドコサヘキサエン酸を含有する油脂にカテキン類、そして乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステルを添加してなるチョコレート組成物が記載されているが、ここでの乳化剤は、カテキン類を油脂へ分散させるためのものであって、本件発明1のように天然油(油脂)を親水性媒体に乳化させるためのものではない。
そうすると、甲第1号証と甲第2号証の記載から本件発明1に想い到ることは、当業者において困難であるというべきである。
また、甲第3号証には、ビタミンCそれ自体のほかその塩がDHA、EPAを多く含む魚油等に対し抗酸化剤として使用されることが記載されているが、これ以上、本件発明1について教示するところはないのであるから、甲第1号証と甲第3号証の記載から本件発明1に想到することも当業者において困難である。
そして、本件発明1は、訂正後の請求項1で特定する事項により、「酸化に対して安定で、かつ臭気の発生がなく、長期間の保存が可能な、DHA、EPAもしくはこれらの酸の誘導体の少なくとも一種又はこれらを含有する天然油を活性成分として含有する安定な乳化組成物」(段落【0105】)が得られる等特許明細書に記載されたとおりの効果を奏するものである。
以上のとおりであるので、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(本件発明2ないし12について)
本件発明2ないし12は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、本件発明1についての上記判断と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

B.異議理由(2)について
特許異議申立人は、訂正前の本件明細書の記載は、下記の点で不明確である、と主張している。
(1)本件請求項1に係る乳化組成物は、水溶性の酸化防止剤を必須成分としているが、明細書段落【0024】には、水溶性の酸化防止剤であるクロゲン酸、没食子酸等が本件発明の酸化防止剤に併用できると記載されている。「併用できる」とは、それ自体単独では使用できないことを意味すると解されることから、該記載によれば、本件請求項1に係る「水溶性の酸化防止剤」には、単独使用できるものと併用でしか用いることができないものとがあることになる。したがって、本件請求項1で規定する「水溶性の酸化防止剤」の外延は不明確である。
(2)実施例1の表1において、テトラグリセリンモノステアリン酸エステルを使用した場合には、1週間放置後、乳化組成物が2層に分離しており顕著な効果を認めることができない。すなわち、本件請求項1で規定する「ポリグリセリン脂肪酸エステル」には所望の効果を発現し得ないものを含んでいると言える。よって、本件請求項1に係る発明は不明確であって、その全般に渡り当業者が容易に実施できるよう、本明細書に記載されているとはいえない。
(3)実施例4の表4には、水溶性の酸化防止剤である没食子酸を含有する乳化組成物は、香味評価が「魚臭をわずかに感じる。」の+評価であり、没食子酸については顕著な効果を認めることができない。すなわち、本件請求項1で規定する「水溶性の酸化防止剤」には所望の効果を発現し得ないものを含んでいると言える。よって、本件請求項1に係る発明は不明確であって、その全般に渡り当業者が容易に実施できるよう、本明細書に記載されているとはいえない。
(4)実施例5の表5によれば、茶抽出物1%配合した乳化組成物の香味評価は「+」、L-アスコルビン酸0.001%を添加したときの香味評価「++」であり、所望の効果が得られていない。すなわち、本件請求項1において水溶性の酸化防止剤の含有量については規定されていないが、所望の効果が得られない場合を含んでいるといえる。よって、本件請求項1に係る発明は不明確であって、その全般に渡り当業者が容易に実施できるよう、本明細書に記載されているとはいえない。
(5)実施例8の表9によると、本発明品1ではネックリング発生は認められず、一方、比較品1では認められたといえる。ところで、本件請求項1において乳化組成物の粒子径は規定がない。そうすると、比較品1も本件発明に係る乳化組成物ということができ、乳化組成物の粒子径が一定以上の場合には、所望の効果が得られないといえる。よって、本件請求項1に係る発明は不明確であって、その全般に渡り当業者が容易に実施できるよう、本明細書に記載されているとはいえない。

上記主張について検討するに、上記訂正により、本件請求項1に係る「水溶性の酸化防止剤」を「アスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びそれらの塩、カテキン類、カテキン類含有天然抽出物からなる群から選択される1種」と限定した結果、異議申立人の主張する上記(1)及び(3)の記載不備は解消した。
また、上記訂正により、本件請求項1に係る「ポリグリセリン脂肪酸エステル」を「デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステル」と限定した結果、異議申立人の主張する上記(2)の記載不備は解消した。
さらに、上記訂正により、本件請求項1に係る「水溶性の酸化防止剤」の含有量を「乳化組成物中1重量%を超えて20重量%以下」と限定し、同じく本件請求項1に係る発明において「油滴の粒子径が0.2μm以下」なる事項を付加した結果、異議申立人の主張する上記(4)及び(5)の記載不備は解消した。
そうすると、訂正後の本件明細書には、異議申立人が主張するような記載不備は最早存在しない。

C.異議理由(3)について
特許異議申立人は、「本件特許権者は前記補正(平成15年1月17日付け手続補正書による補正)により『酸化防止剤』との記載を『水溶性の酸化防止剤』との記載に訂正し、本願発明における酸化防止剤を水溶性の酸化防止剤と規定した。これにより、本願において使用される必須の酸化防止剤が『水溶性』のものに限定された結果、出願時には任意の酸化防止剤であったクロロゲン酸、没食子酸等の水溶性の酸化防止剤も必須の酸化防止剤の範疇に含まれることになったと言える。すなわち、前記補正により、単独使用できないものとして記載されていた酸化防止剤が単独使用可能なものに変更されたのであり、これは新規事項の追加であると言える。」と主張している。
しかし、上記訂正により、本件請求項1に係る「水溶性の酸化防止剤」が「アスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びそれらの塩、カテキン類、カテキン類含有天然抽出物からなる群から選択される1種」に限定され、異議申立人が指摘する上記クロロゲン酸、没食子酸等は除かれたことから、異議申立人が主張する新規事項の追加はもはや存在しない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、衣斐豊祐及び三木孝文の特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1ないし12についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし12についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
安定な乳化組成物及びそれを含有する食品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】活性成分としてのドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸およびこれらの酸の誘導体の少なくとも一種又はそれらを含有する天然油と、
少なくとも活性成分を乳化し得るに充分な量の乳化剤と、
水溶性の酸化防止剤と、
親水性媒体とからなり、
ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びこれらの酸の誘導体の少なくとも一種又はそれらを含有する天然油の含有量が、乳化組成物中約5〜50重量%であり、
乳化剤がデカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステル単独、あるいはこれらのいずれかとショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数12〜20)及び/又はレシチンであって、活性成分に対する乳化剤の割合(重量比)が約1:0.1〜1:1であり、
水溶性の酸化防止剤が、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸及びそれらの塩、カテキン類、カテキン類含有天然抽出物からなる群から選択される1種であって、水溶性の酸化防止剤の含有量が、乳化組成物中1重量%を超えて20重量%以下であり、かつ
親水性媒体が多価アルコールもしくは含水多価アルコールであって、含水多価アルコールが含水率約50重量%以下であり、
油滴の粒子径が0.2μm以下である
ことを特徴とする安定な乳化組成物。
【請求項2】活性成分が、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸又はこれらの酸の誘導体を含有する天然油である請求項1記載の乳化組成物。
【請求項3】天然油が、魚油、卵黄油又は藻類由来の油である請求項1記載の乳化組成物。
【請求項4】デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステルとレシチンとの混合比(重量比)が約1:0.005〜1:0.5である請求項1記載の乳化組成物。
【請求項5】デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルとレシチンとの混合比(重量比)が約1:0.05:0.005〜1:1:0.5である請求項1記載の乳化組成物。
【請求項6】乳化剤の含有量が、乳化組成物中約0.01〜20重量%である請求項1記載の乳化組成物。
【請求項7】デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルおよびデカグリセリンモノミリスチン酸エステルから選択されるポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、乳化組成物中約0.01〜20重量%である請求項1記載の乳化組成物。
【請求項8】親水性媒体としての多価アルコールが、グリセリン、ソルビトール又はプロピレングリコールである請求項1記載の乳化組成物。
【請求項9】乳化剤としてレシチンが用いられるとき、さらに食用油脂を含有する請求項1記載の乳化組成物。
【請求項10】ドコサヘキサエン酸及び/又はエイコサペンタエン酸の食品中の含有量が約0.0001〜1重量%となるように請求項1記載の乳化組成物を添加してなる液状もしくは半固形状食品。
【請求項11】液状食品が、炭酸飲料、乳酸菌飲料、果実飲料又は牛乳である請求項10記載の食品。
【請求項12】半固形状食品が、ヨーグルト又はプリンである請求項10記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びこれらの酸の誘導体の少なくとも一種又はそれらを含有する天然油についての安定な乳化組成物に関する。本発明の乳化組成物は、各種食品例えば飲料、冷菓、製菓、乳製品、ベーカリー製品、水畜産加工食品等に使用するのに好ましい。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
ドコサヘキサエン酸(以下DHAと称す)及びエイコサペンタエン酸(以下EPAと称す)は、主に魚油中に多く含まれている直鎖高度不飽和脂肪酸で、血中コレステロール低下作用、制ガン作用、抗血栓作用、学習能向上作用等の生理活性を有することが報告されており、現在最も注目されている食品素材の一つである。
【0003】
しかしながら、EPAは1分子中に二重結合を5個持ち、DHAは1分子中に二重結合を6個持っているので、僅かな酸素、熱、光、酸化触媒等によって極めて容易に酸化を受け、魚油特有の戻り魚(魚臭)を発生するようになることが知られている。
このような直鎖高度不飽和脂肪酸を含有する魚油を使用するにあたって、酸化防止又は魚臭の発生を防止するために各種の技術が提案されている。
【0004】
例えば、ビタミンC及び/又はその塩を配合した魚油添加粉乳(特開平4-346749号)、高度不飽和脂肪酸にトコフェロール及び/又はレシチンを添加して可食性被覆剤で被覆したカプセルを分散させたマーガリン(特開平2-203741号)、ツイーン20、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤でω-3不飽和脂肪酸を安定化する方法(特開平6-49479号)等が知られている。
【0005】
しかしながら、何れの場合でも満足し得る効果は得られておらず、より安定な乳化組成物を得ることが望まれている。
そこで、本発明者らは、DHAやEPA等を親水性媒体中に安定に分散させる方法について鋭意検討した結果、特定の乳化剤を使用し、かつ親水性媒体として多価アルコールもしくは含水多価アルコールを用いることによって安定な乳化組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、活性成分としてのドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びこれらの酸の誘導体の少なくとも一種又はそれらを含有する天然油と、少なくとも活性成分を乳化し得るに充分な量の乳化剤と、酸化防止剤と、親水性媒体とからなり、乳化剤がHLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数12〜20)単独あるいはこれとショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数12〜20)及び/又はレシチンであり、かつ親水性媒体が多価アルコールもしくは含水多価アルコールである安定な乳化組成物、及びそれを含有する食品を提供するものである。
【0007】
本発明の乳化組成物は、DHA、EPAもしくはこれらの酸の誘導体又はそれらを含有する天然油を活性成分とし、これらの活性成分が油滴として親水性媒体中に均一かつ均質に分散された乳化組成物である。
本発明の乳化組成物においては、乳化剤としてHLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数12〜20)単独あるいはこれとショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数12〜20)及び/又はレシチンとの混合物を用い、かつ親水性媒体として多価アルコールもしくは含水多価アルコールを用いることが安定性を保持させるために必須である。
【0008】
以下、本発明の乳化組成物における各成分について詳細に説明する。
本発明の乳化組成物における活性成分としてのDHA、EPA及びこれらの酸の誘導体(以下、DHA、EPA及びこれらの酸の誘導体を総合して活性成分と称す)は、合成品又は天然品の何れであってもよく、これらの酸を含有する天然油の形態であってもよい。合成品には、化学合成品の他、微生物等によって製造されるものも包含される。天然品とは、DHA、EPA又はこれらの酸の誘導体を含有する天然油から公知の方法、例えば圧搾、溶剤抽出、水蒸気蒸留、分子蒸留、超臨界流体抽出、カラムクロマトグラフィー等の方法によって抽出精製されたものを意味する。本発明における活性成分は、純品でも粗製品でもよい。
【0009】
本発明に用いられる天然油とは、DHA、EPA又はこれらの酸の誘導体を含有する天然物由来の油を意味する。本発明において用いられる天然油は、特に限定されず、海藻、微生物、動物、植物等のあらゆる起源に由来するものを用いることができる。天然油の好ましい例としては、魚油(例えばイカ油、イワシ油、オキアミ油、カツオ油、サバ油、サケ油、サンマ油、タラ油、マグロ油等)、卵黄油、藻類由来の油等が挙げられ、魚油及び藻類由来の油がより好ましい。また、本発明における天然油には、上記のような天然油を、各種処理(例えば、リン酸処理等による脱ガム処理、苛性ソーダ等のアルカリ等による脱酸処理、活性白土等による漂白処理、水蒸気蒸留等による脱臭処理等)に付したものや、例えば分別、分画、酵素処理等によって濃縮したものも包含される。
【0010】
本発明において用いられるDHAやEPAの誘導体は、DHA又はEPAの有する生理活性を少なくとも奏するものが好ましく、本発明においては、そのような生理活性を示す誘導体は全て包含される。DHAやEPAの誘導体の例としては、塩、アミド、ホスホリピド、モノグリセリド、ジグリセリド、エステル(例えばメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ショ糖エステル等)等が挙げられ、これらのなかでモノグリセリド、ジグリセリド、エチルエステルが好ましい。
【0011】
本発明の乳化組成物中における活性成分の含有量は、一般には0.0001〜50重量%であり、好ましくは0.1〜25重量%である。このような活性成分の含有量は、乳化組成物の使用用途、活性成分の精製純度、天然油中の活性成分の含有量、活性成分を含有する天然油の濃縮度等を考慮して適宜選択される。例えば、活性成分が純品の場合には、その生理活性の強さを考慮して約0.0001〜0.1重量%のような低濃度とすることもできるし、より強い活性が望まれる場合には、不純な油分が存在しないことを考慮して約0.1〜50重量%のような高濃度とすることもできる。また、活性成分が天然油の形態である場合には、該天然油を濃縮すれば、その生理活性が強くなるので低濃度とすることもできるし、また一方不純な油分が減少するので高濃度とすることもできる。
【0012】
本発明においては、乳化剤としてHLB10以上でかつ脂肪酸の炭素数が12〜20のポリグリセリン脂肪酸エステルが少なくとも用いられる。このようなポリグリセリン脂肪酸エステルは、酸性下における乳化安定性が他の乳化剤に比べて特に高く、DHA、EPA、これらの酸の誘導体及びそれらを含有する天然油を酸性下で長期間安定に保つことができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、単独か、あるいは所望により、これとショ糖脂肪酸エステルとの混合物、これとレシチンとの混合物、これとショ糖脂肪酸エステルとレシチンとの混合物として用いることができる。ショ糖脂肪酸エステルやレシチンは、乳化の安定化に対して補助的に作用する。例えば、本発明の乳化組成物を飲料等に用いる場合には、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステル及び/又はレシチンとの混合物を使用するのが好ましい。
【0013】
なお、レシチンを乳化剤として用いる場合には、レシチンは一般に水に溶け難いので、予め食用油脂(例:椰子油、γ-リノレン酸油等)に溶解させて用いるのが望ましい。その際に用いられる食用油脂の量は、レシチンに対して約1:1〜1:20(重量比)である。
本発明における乳化剤は、少なくとも乳化組成物中に活性成分を乳化し得るに充分な量で用いられる。活性成分を乳化し得るに充分な量とは、分散相である油滴が親水性媒体中に均一かつ均質に分散されるに充分な量を意味する。乳化剤の乳化組成物中における含有量は、一般には約0.01〜20重量%であり、約0.5〜10重量%が好ましい。この乳化剤の含有量は、活性成分の含有量等を考慮して、前記範囲内で適宜選択される。一般には、活性成分に対する乳化剤の割合は、1:0.1〜1:1(重量比)が好ましい。
【0014】
また、本発明の乳化組成物中には、上記食用油脂(レシチンの溶剤)や後述のような油溶性成分を含む各種の添加物を添加してもよいが、そのような添加物の種類や使用量によっては、乳化剤の含有量を増加させることができる。しかし、一般には、乳化剤の含有量は、上記の範囲内で充分である。
本発明における乳化剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステル及び/又はレシチンとの混合物が用いられる場合には、その混合物中におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの割合が少なくとも50重量%となるような混合物を用いるのが好ましい。具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルとの混合比は、約1:0.05〜1:1(重量比)が好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルとレシチンとの混合比は、約1:0.005〜1:0.5(重量比)が好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルとレシチンとの混合比は、約1:0.05:0.005〜1:1:0.5(重量比)が好ましい。
【0015】
本発明において用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルに関し、HLBは10以上、好ましくは12〜20、より好ましくは13〜16、さらにより好ましくは14〜16であり、脂肪酸の炭素数は12以上、好ましくは12〜20、より好ましくは14〜18である。また、グリセリンの平均重合度は6〜15が好ましく、8〜10がより好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル等が挙げられ、それらのなかで、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステルが特に好ましい。本発明においては、これらのポリグリセリン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
【0016】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの乳化組成物中の含有量としては、約0.01〜20重量%が好ましく、約0.2〜10重量%が特に好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、活性成分の含有量、以下に述べるショ糖脂肪酸エステル、レシチンの使用量等を考慮して、前記範囲内で適宜選択される。
本発明において用いられるショ糖脂肪酸エステルは、HLB10以上で、かつ脂肪酸の炭素数が12以上のものが好ましく、12〜20のものがより好ましい。ショ糖脂肪酸エステルの好ましい例としては、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル等が挙げられる。本発明においては、これらのショ糖脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
【0017】
ショ糖脂肪酸エステルの乳化組成物中の含有量としては、約0.1〜5重量%が好ましい。ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、活性成分の含有量、ポリグリセリン脂肪酸エステルの使用量、以下に述べるレシチンの使用量等を考慮して、前記範囲内で適宜選択される。本発明において用いられるレシチンとは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン等のリン脂質を意味し、本発明においては、これらの成分を総称してレシチンと称す。
【0018】
本発明において用いられるレシチンとしては、動物、植物、酵母、カビ類等のあらゆる起源に由来するものを使用することができる。本発明において用いられるレシチンの好ましい例としては、植物レシチン(例えば大豆レシチン、コーンレシチン、ナタネレシチン等)、卵黄レシチン、分別レシチン、酵素分解レシチン等が挙げられ、これらのなかで、大豆レシチン、卵黄レシチン、酵素分解レシチンがより好ましい。本発明においては、これらのレシチンを、単独又は混合して用いることができる。
【0019】
分別レシチンとは、植物レシチンや卵黄レシチンから、エタノール等の有機溶媒を用い、溶解度の差を利用して特定成分を分画したものを意味する。
酵素分解レシチンとは、植物レシチン、卵黄レシチン、分別レシチン等にホスホリパーゼを作用させて、加水分解、転移反応等を行わせることによって得られるものを意味する。酵素分解レシチンは、レシチンの種類やホスホリパーゼの種類によって種々のものが得られるが、本発明においては、これらを総合して酵素分解レシチンと称す。本発明においては、いずれの種類の酵素分解レシチンでも使用することができる。
【0020】
レシチンの乳化組成物中の含有量としては、約0.001〜2重量%が好ましい。レシチンの含有量は、活性成分の含有量、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルの使用量等を考慮して、前記範囲内で適宜選択される。
本発明においては、親水性媒体として多価アルコール又は含水多価アルコールが用いられる。これらの親水性媒体を用いれば、水単独を媒体にした場合に比べてより魚臭の発生を防止することができ、保存安定性の高い乳化組成物を得ることができる。また、これらの親水性媒体を用いれば、水単独を媒体にした場合に比べて、同じエネルギーで、より油滴の粒子径の小さい乳化組成物を得ることができ、例えば清涼飲料水のような油滴の粒子径の小さい乳化組成物が望まれる場合に特に有利である。
【0021】
本発明において用いられる含水多価アルコールの含水率は、約50重量%以下が好ましく、約30重量%以下がより好ましい。多価アルコールの好ましい例としては、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール等が挙げられ、これらのなかで、グリセリン及びソルビトールがより好ましい。含水多価アルコールの好ましい例としては、約60〜90重量%グリセリン水、約50〜70重量%ソルビトール水等が挙げられる。
【0022】
本発明において用いられる酸化防止剤の好ましい例としては、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸又はそれらの塩(例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等)、カテキン類、カテキン類含有天然抽出物等が挙げられ、具体的には、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸類;ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート等のカテキン類;茶抽出物、りんご抽出物、ブドウ種子抽出物、ひまわり種子抽出物、米ぬか抽出物等のカテキン類含有天然抽出物等が挙げられ、これらのなかで、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、茶抽出物が好ましい。これらの酸化防止剤は、1種または2種以上の混合物で使用することができる。
【0023】
上記カテキン類含有天然抽出物は、例えば、茶(例:緑茶、ウーロン茶、紅茶、ほうじ茶等)の葉、りんご果肉、ブドウ種子、ひまわり種子等を、水やエタノール、クロロホルム等の有機溶媒で抽出し、公知の方法で精製して得ることができる。本発明において用いられるカテキン類含有天然抽出物は、純品でも粗製品でもよい。
【0024】
また、上記の酸化防止剤に加えて、例えばトコフェロール類(例:抽出トコフェロール、dl-α-トコフェロール等)、ポリフェノール類(例:ルチン、ミリセチン、ミリシトリン等)、香辛料抽出物(例:ローズマリー、セージ等)、天然物由来の酸(例:クロロゲン酸、コーヒー酸、フェルラ酸、没食子酸等)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の公知の酸化防止剤を併用させることができる。これらの酸化防止剤も1種または2種以上の混合物で使用することができ、これらの酸化防止剤と上記の酸化防止剤とを併用すると、魚臭特有のもどり臭の防止により効果がある。
【0025】
本発明の酸化防止剤は、乳化組成物中の溶存酸素を消費するのに必要な量以上使用するのが好ましく、一般には、0.001〜20重量%であり、好ましくは0.01〜20重量%である。この酸化防止剤の使用量は、活性成分中の不飽和脂肪酸の種類又はその含有量、活性成分の純度、酸化防止剤の種類、乳化組成物中の溶存酸素量等に応じて、上記範囲内で変動する。また、本発明において数種類の酸化防止剤が用いられる場合には、各酸化防止剤の使用量は、その酸化防止剤の種類、乳化組成物の使用目的等に応じて、上記範囲内で適宜決定される。
【0026】
本発明の乳化組成物には、乳化組成物の乳化性、耐熱性、耐酸性、保存安定性、食品中での乳化安定性等を向上させる目的で、所望により、他の添加物を含有させてもよい。そのような添加物としては、DHA、EPA又はこれらの酸の誘導体の酸化を促進する物質でなければ、公知の食品添加物の何れでも用いることができ、油溶性のものでも水溶性のものでもよい。このような添加物の例としては、高分子多糖類(例:可溶性澱粉、デキストリン、シクロデキストリン、アラビアゴム、ペクチン、キサンタンガム等)、保存剤(例:パラオキシ安息香酸エステル類、安息香酸等)、比重調整剤〔SAIB(シュークロースアセテートイソブチレート)〕、タンパク質分解物(例:カゼイン、ゼラチン等)、ビタミン、色素(例:α-カロチン、β-カロチン、リコペン等)、香料、不飽和脂肪酸(例:α-リノレン酸、γ-リノレン酸、リノール酸等)等が挙げられる。これらの添加物の使用量は、使用目的に応じて適宜決定される。
【0027】
本発明の乳化組成物は、使用用途に応じて、乳化組成物中の油滴の粒子径が0.25μm以下、好ましくは0.2μm以下とするのが好ましい。そうすることにより、例えば清涼飲料水のような水性食品に対して使用した際に生じる濁りや、ネックリング(乳化組成物中の油滴の粒子が比重差により飲料表面に浮上して集まったものを称す)及び沈殿を防止することができ、比重調整を行わずに安定な食品を得ることができる。また、その場合、比重調整剤(SAIB)を使用しないので、製造過程において加熱操作を一切行わずに乳化組成物を製造することができる。
【0028】
本発明の乳化組成物は、予め水溶性成分と油溶性成分の各々を別々に混合溶解し、その水溶性成分混合物に油溶性成分混合物を加えて均一かつ均質に分散させることによって製造することができる。その乳化組成物調整の際には、コロイドミル、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等の乳化機を用いるのが好ましく、また冷却装置等により、乳化の際に発生する熱を抑えるのが望ましい。
【0029】
このようにして得られた乳化組成物は、酸化に対して安定で、かつ臭気の発生がなく、長期間の保存が可能であり、飲料、冷菓、製菓、乳製品、ベーカリー製品、水畜産加工食品等の各種食品に好適に用いられる。
本発明の乳化組成物を含有する食品は、その食品自体の特性(例えば形状、臭い、味、歯ざわり、色調等)を損なわずに、DHA、EPAもしくはこれらの酸の誘導体が含有された食品であり、ネックリングや沈殿を生じることがない。
【0030】
本発明の乳化組成物は、例えば食品添加物として各種の食品に使用することができ、食品は液状、半固形状又は固形状の何れでもよい。その具体例としては、以下のものが挙げられる。
飲料:炭酸飲料、果実飲料、乳製飲料、野菜飲料、豆乳等。
冷菓:アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等。
製菓:ゼリー、キャンデー、ガム、クッキー、ケーキ、チョコレート、パイ、ビスケット、プリン等。
乳製品:牛乳、ヨーグルト、チーズ、バター、マーガリン、マヨネーズ、サラダドレッシング等。
ベーカリー製品:パン類、めん類、パスタ類等
水畜産加工食品:ハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ等
調味料:みそ、タレ、ソース等
調理品:卵焼き、オムレツ、カレー、シチュー、ハンバーグ、コロッケ、スープ、お好み焼き、餃子等
その他:動物飼料、医薬品、医薬部外品等
【0031】
上記のような食品に対する本発明の乳化組成物の使用量については、一般には活性成分であるDHA、EPAもしくはこれらの酸の誘導体又はそれらを含有する天然油の食品中の含有量が約0.0001〜1重量%となるように添加され、好ましくは約0.001〜0.1重量%となるように添加される。
【0032】
本発明における乳化組成物は、公知の方法を利用して各種食品に用いることができる。
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の実施例において、%は特に示されない限り重量%を表す。
【0033】
【実施例】
実施例1:ポリグリセリン脂肪酸エステルの種類による影響
乳化剤として表1に示されるポリグリセリン脂肪酸エステルを用い、かつ下記に示される活性成分、酸化防止剤、親水性媒体を用いて乳化組成物を製造し、その安定性を試験した。
【0034】


(乳化組成物の製造方法及び安定性試験方法)
水に、グリセリン、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びL-アスコルビン酸を溶解させ、次いでこれに精製魚油を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物を製造した。
この乳化組成物を室温又は60℃にて1週間放置した後、その状態を観察した。結果を表1に示す。表1中、○は異常なしを、×は乳化組成物が二層に分離している状態を示している。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から、HLBが13以上、グリセリン平均重合度が8以上、かつ脂肪酸の炭素数が14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが、優れた効果を有することが明らかである。
【0037】
実施例2:ポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量による影響
下記に示される活性成分、乳化剤、酸化防止剤、親水性媒体を用い、表2に示されるように活性成分と乳化剤の含有量を種々変化させて乳化組成物を製造し、その安定性を試験した。
【0038】

【0039】
(乳化組成物の製造方法及び安定性試験方法)
水に、グリセリン、デカグリセリンモノオレイン酸エステル及びL-アスコルビン酸を溶解させ、次いでこれに精製魚油を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物を製造した。
この乳化組成物を室温にて1週間放置した後、その状態を観察した。結果を表2に示す。表2中、○は異常なしを、×は乳化組成物が二層に分離している状態を示している。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から、活性成分として精製魚油(DHA含有量約25%、EPA含有量約10%)を用いた場合、活性成分に対するポリグリセリン脂肪酸エステルの割合が1:0.05(40:2)以上となるようにポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したとき、優れた効果を有することが明らかである。
【0042】
実施例3:親水性媒体の含水率による影響
下記に示される親水性媒体(グリセリン水)又は水と、活性成分、乳化剤、酸化防止剤とを用いて乳化組成物を製造し、その安定性を試験した。
【0043】


【0044】
(乳化組成物の製造方法及び安定性試験方法)
上記親水性媒体に、デカグリセリンモノオレイン酸エステル及びアスコルビン酸を溶解させ、次いでこれに精製魚油を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物を製造した。
この乳化組成物をイオン交換水で1000倍希釈し、その香味を評価した。また、乳化組成物中の油滴の粒子径を測定した。油滴の粒子径は、レーザー回折式粒度分布計SALD-110〔(株)島津製作所製〕を用いて測定した。
更に、この乳化組成物を40℃で2週間保存した後、同様にイオン交換水で1000倍に希釈し、その香味を評価し、乳化組成物中の油滴の粒子径を測定した。
【0045】
これらの結果を表3に示す。表3中の記号は、下記香味評価基準に従った評価を示している。
香味評価基準: -;魚臭を感じない。
+;魚臭をわずかに感じる。
++;魚臭を感じる。
+++;魚臭を強く感じる。
【0046】
【表3】

【0047】
表3から明らかなように、約30%以下の含水率を有する親水性媒体を用いて製造された乳化組成物は、水単独や含水率の高い親水性媒体を用いて製造された乳化組成物に比べて、魚臭の発生が防止され、かつ優れた保存安定性を示した。また、含水率の低い媒体を用いるほど、油滴の粒子径の小さい乳化組成物が得られた。
【0048】
実施例4:酸化防止剤の種類による影響
表4に示される酸化防止剤と、下記に示される活性成分、乳化剤、親水性媒体を用いて乳化組成物を製造し、その安定性を試験した。
【0049】

【0050】
(乳化組成物の製造方法及び安定性試験方法)
水に、グリセリン、デカグリセリンモノステアリン酸エステル及び酸化防止剤を溶解させ、次いでこれに精製魚油を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物を製造した。但し、表4中の酸化防止剤のうち、抽出トコフェロール、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルは精製魚油に溶解させて乳化組成物を製造した。
この乳化組成物を40℃で1週間保存した後、イオン交換水で1000倍に希釈し、その香味を評価した。結果を表4に示す。表4中の記号は、上記香味評価基準に従った評価を示している。
【0051】
【表4】

【0052】
表4から、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、茶抽出物、りんご抽出物、ブドウ種子抽出物、ひまわり種子抽出物が、優れた酸化防止効果を有することが明らかである。
【0053】
実施例5:酸化防止剤の添加量による影響
下記に示される活性成分、乳化剤、酸化防止剤、親水性媒体を用い、表5に示されるように酸化防止剤の含有量を種々変化させて乳化組成物を製造し、その安定性を試験した。
【0054】

【0055】
(乳化組成物の製造方法及び安定性試験方法)
水に、グリセリン、デカグリセリンモノステアリン酸エステル及び酸化防止剤(L-アスコルビン酸又は茶抽出物)を溶解させ、次いでこれに精製魚油を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物を製造した。
この乳化組成物を40℃で1週間保存した後、イオン交換水で1000倍に希釈し、その香味を評価した。結果を表5に示す。表5中の記号は、上記香味評価基準に従った評価を示している。
【0056】
【表5】

【0057】
表5から、活性成分として精製魚油(DHA含有量約25%、EPA含有量約10%)を用いたとき、L-アスコルビン酸は0.001%以上の添加で酸化防止効果を示し、茶抽出物は1%以上の添加で酸化防止効果を示すことがわかる。
酸化防止剤は、乳化組成物中の溶存酸素を消費するのに必要な量以上の添加で酸化防止効果が発揮されると考えられる。
【0058】
実施例6:乳化剤の種類による影響
乳化剤として、デカグリセリンモノステアリン酸エステルと表6に示される乳化剤との混合物を用い、かつ下記に示される活性成分、酸化防止剤、親水性媒体を用いて乳化組成物を製造し、その炭酸飲料中における安定性を試験した。
【0059】


【0060】
(乳化組成物及び炭酸飲料の製造方法と安定性試験方法)
水に、グリセリン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、表6に示される乳化剤及びL-アスコルビン酸を溶解させ、次いでこれに精製魚油を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物を製造した。 この乳化組成物を用い、以下の処方の炭酸飲料シロップを作成し、このシロップ50gに炭酸水を加えて200mlに調製することによって、炭酸飲料を調製した。この炭酸飲料を室温で1ケ月静置した後、炭酸飲料の状態(ネックリング生成の有無)を観察した。結果を表6に示す。表6中の記号は、下記評価基準に従った評価を示している。
【0061】
評価基準: -;ネックリングを生成していない。
+;ネックリングをわずかに生成している。
++;ネックリングを生成している。
+++;ネックリングを多量に生成している。


【0062】
【表6】

【0063】
表6から、乳化組成物を炭酸飲料に用いた場合、乳化剤として、デカグリセリンモノステアリン酸エステルとショ糖モノオレイン酸エステルとの混合物、又はデカグリセリンモノステアリン酸エステルとレシチンとの混合物を用いたとき、デカグリセリンモノステアリン酸エステル単独や、デカグリセリンモノステアリン酸エステルとグリセリンモノオレイン酸エステルとの混合物及びデカグリセリンモノステアリン酸エステルとソルビタンモノオレイン酸エステルとの混合物を用いたときに比べて、優れた効果を有することがわかる。
【0064】
実施例7:酸化防止剤の有無による影響
下記に示される活性成分、乳化剤、酸化防止剤、親水性媒体を用いて、酸化防止剤を含有する乳化組成物(乳化組成物A)と、酸化防止剤を含有しない乳化組成物(乳化組成物B)とを製造した。これらの乳化組成物A又はBを用いてヨーグルトを調製し、それらの安定性を試験した。
【0065】


【0066】
(乳化組成物及びヨーグルトの製造方法と安定性試験方法)
水に、グリセリン、乳化剤及び酸化防止剤(酸化防止剤は乳化組成物Bを製造する場合のみ添加)を溶解させ、次いでこれに精製魚油を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物A又はBを製造した。
この乳化組成物A又はBを用い、以下の処方のヨーグルトを調製した。このヨーグルトを殺菌、冷却後、乳酸菌培養物1%を加え、ポリエチレン製の透明カップに充填し、28℃で20時間培養した。次いで、蛍光灯照射(2000lux、1週間)を行った後、香味の評価を行った。結果を表7に示す。表7中の平均値は、下記評価基準に従った値である。
【0067】

【0068】
香味評価基準:
5点:魚臭を感じない。
4点:魚臭をわずかに感じる。
3点:魚臭を感じる。
2点:魚臭を強く感じる。
1点:魚臭を極端に強く感じる。
【0069】
【表7】

【0070】
表7から、乳化剤と酸化防止剤とを含有する乳化組成物は、乳化剤のみを含有する(酸化防止剤を含有しない)乳化組成物に比べて、優れた効果を示すことがわかる。
【0071】
実施例8:油滴の粒子径による影響
グリセリン45gと水20gの混合物にポリグリセリン脂肪族エステル4gとL-アスコルビン酸ナトリウム0.5gとを溶解させた溶液に、魚油20g、精製椰子油8g及び大豆レシチン0.5gを溶解させた油性混合溶液を加えて撹拌して分散させた後、高圧ホモジナイザーにて乳化し、油滴の粒子約0.20μmの均一な乳化組成物を製造した(本発明品1)。油滴の粒子径は、レーザー回折式粒度分布計SALD-110〔(株)島津製作所製〕を用いて測定した。
また、高圧ホモジナイザーの圧力を下げることによって乳化組成物の油滴の粒子を約0.7μmとした以外は上記本発明品1の製法と同様の操作を行い、油滴の粒子を約0.7μmの乳化組成物を得た(比較品1)。
【0072】
(1)本発明品1を60℃にて一週間保存した後、イオン交換水にて1000倍に希釈した。この希釈液の風味について、10名の専門パネラーに対し官能試験を実施した。その結果を表8に示す。表8中の官能評価平均値は、下記評価基準に従った値である。
【0073】
官能評価基準:
5点:異臭を全く感じない。
4点:異臭を殆ど感じない。
3点:僅かに戻り臭(魚臭)を感じる。
2点:かなり戻り臭(魚臭)を感じる。
1点:強い戻り臭(魚臭)を感じる。
【0074】
【表8】

【0075】
表8の結果から明らかなように、本発明品1は、60℃1週間の保存後もDHA由来の戻り臭を殆ど感じない。
【0076】
(2)果糖ブドウ糖液糖160g、クエン酸0.5gを90gの水に溶解し、この溶液に、本発明品1又は比較品1の1gを添加し、炭酸水にて全量を1リットルとした。瓶に充填後打栓し、85℃で20分間殺菌し、炭酸飲料を得た。得られた炭酸飲料を60℃にて10日間静置保存し、保存後の飲料について状態観察を行った。その結果を表9に示す。表中の各記号は下記の意味を表している。
-R:ネックリングの発生は認められない。
±R:ネックリングを僅かに認める。
+R:明瞭なネックリングを認める。
++R:著しいネックリングを認める。
【0077】
【表9】

【0078】
表9の結果から明らかなように、比較品1を使用した飲料ではネックリングの発生が認められたが、本発明品1を使用した飲料では、ネックリングの発生が認められなかった。従って、本実施例8より、乳化組成物を炭酸飲料に用いる場合には、その油滴の粒子径は小さい方が安定であることがわかる。
【0079】
実施例9:乳化組成物含有乳酸菌飲料の安定性
下記に示される活性成分、乳化剤、酸化防止剤、親水性媒体を用いて乳化組成物を製造した。この乳化組成物を用いて乳酸菌飲料を調製し、その安定性を試験した。
【0080】


【0081】
(乳化組成物及び乳酸菌飲料の製造方法と安定性試験方法)
親水性媒体に、酸化防止剤、乳化剤を溶解させ、次いでこれに活性成分を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物を製造した。
この乳化組成物を用いて、下記処方の乳酸菌飲料A及びBを調製した。


【0082】
成分▲1▼を用いて常法により醗酵乳を調製し、予め殺菌冷却を行った。これを成分▲2▼の混合物に添加し、ホモジナイザーにて均質化することによって、乳酸菌飲料を調製した。
調製した乳酸菌飲料を2週間冷蔵保存した後、その香味をパネラー10名によって評価した。結果を表10に示す。表10中の平均値は、実施例7で示された香味評価基準に従った評価である。
【0083】
【表10】

【0084】
表10から、精製魚油を含有する乳酸菌飲料は、本発明の乳化組成物を含有させることによって、魚臭の発生が抑制されることがわかる。
【0085】
実施例10:乳化組成物含有プリンの安定性
下記に示される活性成分、乳化剤、酸化防止剤、親水性媒体を用いて乳化組成物を製造した。この乳化組成物を用いてプリンを調製し、安定性を試験した。
【0086】


【0087】
(乳化組成物及びプリンの製造方法と安定性試験方法)
実施例9と同様の方法で乳化組成物を製造した。
この乳化組成物を用いて、下記処方のプリンを調製した。

【0088】
上記原料を溶解後、85℃で10分間殺菌を行った。次いで、ホモジナイザーにて均質化した後、容器に充填して冷却することによって、プリンを調製した。
調製したプリンを7℃で2週間保存した後、その香味を評価した。その結果、香味の劣化はなかった。
【0089】
実施例11:乳化組成物含有ウインナーソーセージの安定性
下記に示される活性成分、乳化剤、酸化防止剤、親水性媒体を用いて乳化組成物を製造した。この乳化組成物を用いてウインナーソーセージを調製し、その安定性を試験した。
【0090】

【0091】
(乳化組成物及びウインナーソーセージの製造方法と安定性試験方法)
実施例9と同様の方法で乳化組成物を製造した。
この乳化組成物を用いて、下記処方のウインナーソーセージを調製した。


上記成分A及びBを用いて常法に従って生地を調製し、羊腸に充填して乾燥、スモーク後、殺菌、冷却を行ってウインナーソーセージを調製した。
【0092】
調製したウインナーソーセージを冷蔵庫で2週間保存した後、試食した。その結果、良好な風味を有しており、魚臭は感じられなかった。
【0093】
実施例12:乳化組成物含有清涼飲料水の安定性
下記に示される活性成分、乳化剤、酸化防止剤、親水性媒体、その他の油溶性成分を用いて乳化組成物を製造した。この乳化組成物を用いて清涼飲料水を調製し、その安定性を試験した。
【0094】


【0095】
(乳化組成物及び清涼飲料水の製造方法と安定性試験方法)
親水性媒体に、酸化防止剤、乳化剤を溶解させ、次いでこれに、活性成分と他の油溶性成分とを加熱溶解させた混合溶液を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物を製造した。
【0096】
この乳化組成物を用いて、下記処方の清涼飲料水を調製した。


上記原料を混合、溶解後、殺菌して冷却することによって清涼飲料水を調製した。
【0097】
調製した清涼飲料水を室温で3ケ月間保存した後、その香味を評価した。その結果、魚臭は感じられなかった。
また、保存前後の飲料について、それぞれn-ヘキサンで油分を抽出し、POV(Peroxide Value)を測定した。その結果を表11に示す。表11中、POVの単位はmeq/Kgである。
【0098】
【表11】

【0099】
表11から明らかなように、室温で3ケ月間保存しても、POVの上昇はほとんど認められなかった。
【0100】
実施例13:乳化組成物含有ハードキャンデーの安定性
下記に示される活性成分、乳化剤、酸化防止剤、親水性媒体、その他の油溶性成分を用いて乳化組成物を製造した。この乳化組成物を用いてハードキャンデーを調製し、その安定性を試験した。
【0101】


【0102】
(乳化組成物及びハードキャンデーの製造方法と安定性試験方法)
親水性媒体に、酸化防止剤、乳化剤を溶解させ、次いでこれに、活性成分と他の油溶性成分とを溶解させた混合溶液を加えて攪拌分散させた後、ホモジナイザーを用いて乳化することによって、乳化組成物を製造した。
【0103】
この乳化組成物を用いて、下記処方のハードキャンデーを調製した。


上記原料を用い、常法に従ってハードキャンデーを調製した。
【0104】
調製したハードキャンデーを室温で3ケ月間保存した後、香味を評価した。その結果、魚臭は感じられなかった。
【0105】
【発明の効果】
本発明の乳化組成物は、酸化に対して安定で、かつ臭気の発生がなく、長期間の保存が可能な、DHA、EPAもしくはこれらの酸の誘導体の少なくとも一種又はこれらを含有する天然油を活性成分として含有する安定な乳化組成物であり、飲料、冷菓、製菓、乳製品、ベーカリー製品、水畜産加工食品等の各種食品に好適に使用することができる。
【0106】
本発明の乳化組成物を用いれば、その食品自体の特性(例えば形状、臭い、味、歯ざわり、色調等)を損なうことなく、DHA、EPAもしくはこれらの酸の誘導体を含有する安定な食品を提供することができる。また、本発明の乳化組成物によれば、どのような比重の水性食品に添加した際にも、ネックリングや沈殿の発生を防止することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-02 
出願番号 特願平6-311809
審決分類 P 1 651・ 531- YA (A23L)
P 1 651・ 55- YA (A23L)
P 1 651・ 121- YA (A23L)
P 1 651・ 534- YA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 長井 啓子
河野 直樹
登録日 2003-04-04 
登録番号 特許第3414530号(P3414530)
権利者 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
発明の名称 安定な乳化組成物及びそれを含有する食品  
代理人 野河 信太郎  
代理人 野河 信太郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ