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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 発明同一  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1125810
異議申立番号 異議2000-72008  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-15 
確定日 2005-09-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2978387号「ラミネート用樹脂組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2978387号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2978387号の請求項1に係る発明は、平成5年11月26日(優先権主張 1992年12月3日、1992年12月25日、1993年5月13日 日本国)に特許出願され、平成11年9月10日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、三井化学株式会社、ザ ダウ ケミカル カンパニー、東ソー株式会社、日本ポリオレフィン株式会社、住友化学工業株式会社より、請求項1に係る発明の特許に対し、特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成13年1月5日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、その後、再度取消理由が通知され、その指定期間内である平成14年8月20日付けで平成13年1月5日付け訂正請求が取り下げられるとともに新たな訂正請求書が特許異議意見書とともに提出され、平成14年12月13日付けで、「訂正を認める。特許第2978387号の請求項1に係る特許を取り消す。」との特許異議決定がなされ、これに対して特許権者は、平成15年2月7日にこの決定の取り消しを求める訴え(平成15年(行ヶ)第46号 特許取消決定取消請求事件)を提起し、その後、東京高等裁判所から平成16年2月16日に、「特許庁が異議2000-72008号事件について平成14年12月13日にした決定を取り消す。」との判決が言い渡されたものである。
II.訂正請求について
1.訂正の内容
訂正事項a
請求項1に記載の「成分A:下記に示す(a)〜(c)の性状を有するエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィン」を
「成分A:下記に示す(a)〜(c)の性状を有するメタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィン」と訂正し、
請求項1に記載の「(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線の最大ピーク温度が20〜85℃であり;該最大ピークの高さをHとし、該最大ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」を
「(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」と訂正し、
請求項1に記載の「含有することを特徴とするラミネート用樹脂組成物。」を「含有することを特徴とする押出ラミネート用樹脂組成物。」と訂正する。
訂正事項b
明細書段落【0001】中の記載である「従来の成形材料に比べて著しく優れているラミネート用樹脂組成物に関するものである。」を「従来の成形材料に比べて著しく優れている押出ラミネート用樹脂組成物に関するものである。」と訂正する。
訂正事項c
明細書段落【0004】中の記載である「かつ、加工性の改良されたラミネート用の樹脂組成物を提供することである。」を「かつ、加工性の改良された押出ラミネート用の樹脂組成物を提供することである。」と訂正する。
訂正事項d
明細書段落【0005】中の記載である「すなわち、本発明のラミネート用樹脂組成物は、下記に示す成分A及び成分Bからなることを特徴とするものである。」を「すなわち、本発明の押出ラミネート用樹脂組成物は、下記に示す成分A及び成分Bからなることを特徴とするものである。」と訂正し、
明細書段落【0005】中の記載である「成分A:下記に示す(a)〜(c)の性状を有するエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィン」を
「成分A:下記に示す(a)〜(c)の性状を有するメタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィン」と訂正し、
明細書段落【0005】中の記載である「(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線の最大ピーク温度が20〜85℃であり;該最大ピークの高さをHとし、該最大ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」を
「(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」と訂正する。
訂正事項e
明細書段落【0006】中の記載である「本発明のラミネート用樹脂組成物を構成する成分A」を「本発明の押出ラミネート用樹脂組成物を構成する成分A」と訂正する。
訂正事項f
明細書段落【0009】中の記載である「温度上昇溶離分別(TREF:・・・)によって得られる溶出曲線の最大ピーク温度が20〜85℃、」を「温度上昇溶離分別(TREF:・・・)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃」と訂正し、
「かつ、この最大ピークの[ピークの高さ]/」を「かつ、このピークの[ピークの高さ]/」と訂正し、
「該溶出曲線の最大ピーク温度が上記温度を超える場合は」を「該溶出曲線のピーク温度が上記温度を超える場合は」と訂正する。
訂正事項g
明細書段落【0019】中の記載である「(a)性状 本発明のラミネート用樹脂組成物を構成する成分A」を「(a)性状 本発明の押出ラミネート用樹脂組成物を構成する成分A」と訂正する。
訂正事項h
明細書段落【0027】中の記載である「[III]ラミネート用樹脂組成物の製造」を「[III]押出ラミネート用樹脂組成物の製造」と訂正し、
「(1)配合 本発明のラミネート用樹脂組成物は」を「(1)配合 本発明の押出ラミネート用樹脂組成物は」と訂正し、
「溶融、混練し、ラミネート用樹脂組成物が得られる。」を「溶融、混練し、押出ラミネート用樹脂組成物が得られる。」と訂正する。
「該ラミネート用樹脂組成物は通常に行なわれている方法、例えば、」を「該押出ラミネート用樹脂組成物は通常に行なわれている方法、例えば、」と訂正する。
訂正事項i
明細書段落【0028】中の記載である「(2)その他の添加剤 本発明のラミネート用樹脂組成物には、一般に」を「(2)その他の添加剤 本発明の押出ラミネート用樹脂組成物には、一般に」と訂正する。
訂正事項j
明細書段落【0029】中の記載である「(3)樹脂組成物の物性 このようにして得られる本発明のラミネート用樹脂組成物の物性としては、」を「(3)樹脂組成物の物性 このようにして得られる本発明の押出ラミネート用樹脂組成物の物性としては」と訂正する。
訂正事項k
明細書段落【0030】中の記載である「[IV]成形加工 上記ペレットを用いて成形加工してフィルムを製造することができる。フィルムの製造方法は、ドライラミネート法、押出ラミネート法、サンドイッチラミネート法、共押出法等により、各種基材に押出コーティング或いは基材と共押出することによって、ラミネートされた各種包装用フィルムを得ることができる。特に、押出ラミネート法により基材にラミネートして、ラミネートフィルムとすることが好ましい。また、各種基材とシーラント基材とのサンドイッチラミネート基材として使用することもできる。」を
「[IV]成形加工 上記ペレットを用いて成形加工してフィルムを製造することができる。フィルムの製造方法は、押出ラミネート法により、各種基材に押出コーティングすることによって、ラミネートフィルムとする。」と訂正する。
訂正事項l
明細書段落【0045】中の記載である「実施例2〜16及び比較例1〜10」を「実施例2〜5、7〜16及び比較例1〜10」と訂正する。
訂正事項m
明細書段落【0061】中の記載である「【発明の効果】 このような本発明のラミネート用樹脂組成物は、」を「【発明の効果】 このような本発明の押出ラミネート用樹脂組成物は、」と訂正する。
訂正事項n
表2中の実施例6の欄全体を、削除する。
2.訂正の適否について
訂正事項aは、成分Aであるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体を「メタロセン触媒によって」得ることを明細書段落【0013】の記載に基づいて限定するものであり、また、温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークについて、「一つのピ-ク」とピークの数を明細書段落【0041】【0052】の記載に基づいて限定するものであり、さらに、明細書段落【0004】【0030】の記載に基づいて「ラミネート用樹脂組成物」を「押出ラミネート用樹脂組成物」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項b〜k、mは、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項l、nは、特許請求の範囲を訂正することにより生じた発明の詳細な説明との記載の不一致を整合するための訂正(特許請求の範囲外の実施例を削除する訂正)であり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、いずれの訂正事項も、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.訂正後の請求項1に係る発明
訂正後の請求項1に係る発明は、訂正明細書の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】成分A:下記に示す(a)〜(c)の性状を有するメタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体 50〜99重量%
(a)MFRが2〜30g/10分
(b)密度が0.935g/cm3以下
(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である;
成分B:下記に示す(a')、(b')、(c')および(d')の性状を有する高圧法低密度ポリエチレン1〜50重量%
(a')MFRが0.1〜20g/10分
(b')密度が0.915〜0.93g/cm3(c')メモリーエフェクト(ME:Memory Effect)が1.6以上
(d')メルトテンション(MT:Melt Tension)が1.5g以上
を含有することを特徴とする押出ラミネート用樹脂組成物。」
IV.特許異議申立について
1.特許異議申立の概要
◆特許異議申立人 三井化学株式会社は、甲第1号証(特願平4-157938号の明細書)、甲第2号証(特開平6-65443号公報)、甲第3号証(筒井俊之および高橋守作成の実験報告書)を提出して、訂正前の請求項1に係る発明は、前記甲第1〜2号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから取り消されるべき旨、
◆特許異議申立人 ザ ダウ ケミカル カンパニーは、甲第1号証(米国特許第4,339,507号明細書)、甲第2号証(特開昭58-194935号公報)、甲第3号証(1986年発行の「SPECIALTY PLASTICS CONFERENCE '86:SPECIAL APPLICATIONS AND MARKETS FOR ETHYLENE ALPHA-OLEFIN COPOLYMERS IN JAPAN」)、甲第4号証(1992年発行の「EXACT FACTSTM 」1-3頁)、甲第5号証(1991年発行の「STRUCTURE /PROPERTY RELATIONSHIPS IN EXXPOLTM POLYMERS」)、甲第6号証(1992年2月発行の「Tappi Journal」、99-103頁)、甲第7号証(1976年12月発行の「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE」811-815頁)を提出して、訂正前の請求項1に係る発明は、前記甲第1号証、甲第2号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、前記甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消されるべきであり、また、明細書の記載が不備であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべき旨
◆特許異議申立人 東ソー株式会社は、甲第1号証(特開昭59-133238号公報)、甲第2号証(幸田真吾作成の実験証明書)、甲第3号証(商品名「タフマー」のカタログ)、参考資料1を提出して、訂正前の請求項1に係る発明は、前記甲第1号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべき旨、
◆特許異議申立人 日本ポリオレフィン株式会社は、甲第1号証(特開平6-65442号公報)、甲第2号証(特開平6-65443号公報)、甲第3号証(特開昭58-194935号公報)、甲第4号証(特開昭57-117547号公報)、甲第5号証(特表平3-502710号公報)、甲第6号証(若山昌弘作成の実験報告書)、参考資料1、参考資料2、参考資料3、参考資料4を提出して、訂正前の請求項1に係る発明は、前記甲第1〜2号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1に係る発明は、前記甲第3〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消されるべきであり、また、明細書の記載が不備であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべき旨、
◆特許異議申立人 住友化学工業株式会社は、甲第1号証(特開昭58-194935号公報)、甲第2号証(特開昭52-104585号公報)、甲第3号証(小林重一作成の実験証明書)、参考資料1、参考資料2、参考文献1を提出して、訂正前の請求項1に係る発明は、前記甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべき旨、それぞれ主張している。
2.取消理由通知の概要
当審が平成12年9月29日に通知した取消理由の概要は、訂正前の請求項1に係る発明は、取消理由通知で提示した特願平5-68851号(特願平4-157938号に基づく優先権を主張)の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1に係る発明は、取消理由通知で提示した刊行物2(特開昭59-133238号公報)に記載された発明であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1に係る発明は、取消理由通知で提示した刊行物3(特開昭58-194935号公報)、刊行物4(特開昭52-104585号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1に係る発明は、明細書の記載が次の理由、すなわち、
「本件明細書には実施例1-27及び比較例1-20が記載されているが、そこで用いているLLDPEとLDPEについての製造条件の記載が事実上存在しない。
即ちLLDPE(成分A)については実施例1と実施例17に特開昭61-130314号公報に記載された方法で触媒を製造したことと重合条件が記載されているが、他の実施例及びすべての比較例ではそれぞれのLLDPEをどのようにして製造したかの記載がない。
一方、LDPE(成分B)については、実施例1及び17に、「反応温度260℃、反応圧力1,700kg/cm2で、オートクレーブ法にて製造した。」との記載があるだけである。他の実施例及びすべての比較例には上記の記載すら存在しない。
上記の記載からは、本件発明の「特殊なLDPE」(特許公報の段落【0005】)がどのようにして製造されるか不明であり、当業者が実施例及び比較例を実施することは事実上不可能である。」との理由で不備であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものである、というものである。
V.特許異議申立ておよび平成12年9月29日付け取消理由についての判断
1.平成14年12月13日付けの「特許第2978387号の請求項1に係る特許を取り消す。」との特許異議決定については、東京高等裁判所において「特許庁が異議2000-72008号事件について平成14年12月13日にした決定を取り消す。」との判決が言い渡された。
判決における判断は、「明細書の記載が不備である、とした決定の認定判断は,誤りであるといわざるを得ない。」というものである。
したがって、本件特許明細書には記載の不備はないから、特許法第36条第4項に係る理由以外の申立理由および取消理由について、訂正後の請求項1に係る特許を取り消すべきか否かについて検討する。
なお、特許異議申立人 日本ポリオレフィン株式会社が主張する明細書の記載不備については、平成14年8月20日付け訂正請求書の訂正事項aにより解消されたものと認める。
2.特許法第29条の2の規定違反について
訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)が先願明細書に記載された発明と同一であるか否か検討する。
(1)先願明細書に記載された発明
特願平5-68851号(特開平6-65443号公報:特許異議申立人 三井化学株式会社が提出した甲第2号証、特許異議申立人 日本ポリオレフィン株式会社が提出した甲第2号証参照)は、特願平4-157938号(特許異議申立人 三井化学株式会社の提出した甲第1号証参照)に基づく優先権を主張した出願であるから、特許異議申立人 三井化学株式会社が提出した甲第1号証に記載された内容が出願公開された特願平5-68851号(特開平6-65443号公報:特許異議申立人 三井化学株式会社の提出した甲第2号証参照)の願書に最初に添付した明細書を、先願明細書1とする。但し、本件特許が優先権の基礎出願としている特願平5-111693号に記載された部分は、前記特願平5-68851号に係る出願より後の出願に係るものである。
また、特願平5-68282号(特開平6-65442号公報:特許異議申立人 日本ポリオレフィン株式会社が提出した甲第1号証参照)は、特願平4-157937号に基づく優先権を主張した出願であるから、特願平4-157937号に記載された内容が出願公開された特願平5-68282号(特開平6-65442号公報:特許異議申立人 三井化学株式会社の提出した甲第2号証参照)の願書に最初に添付した明細書を、先願明細書2とする。但し、本件特許が優先権の基礎出願としている特願平5-111693号に記載された部分は、前記特願平5-68282号に係る出願より後の出願に係るものである
先願明細書1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
[A]エチレンと、炭素数3〜20のα-オレフィンとの共重合体であって、
(i) 密度(d)が0.880〜0.960g/cm3 の範囲であり、
(ii)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.01〜200g/10分の範囲であり、
(iii)DSCにおける融点の最大ピーク(T(℃))と密度(d)とが、
T<400×d-250
で示される関係を満たし、
(iv)190℃におけるメルトテンション(MT(g))とメルトフローレート(MFR)とが、
MT≦2.2×MFR-0.84で示される関係を満たし、
(v) 23℃におけるデカン可溶部(W(重量%))と密度(d)とが、MFR≦10g/10分のとき、
W<80×exp(-100(d-0.88))+0.1
MFR>10g/10分のとき、
W<80×(MFR-9)0.26×exp(-100(d-0.88))+0.1
で示される関係を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体と、
[B]高圧ラジカル法による低密度ポリエチレンであって、
(i) メルトフローレート(MFR)が0.1〜50g/10分の範囲内であり、
(ii)GPCにおいて測定した分子量分布(Mw/Mn:Mw=重量平均分子量、Mn=数平均分子量)とメルトフローレート(MFR)とが、
7.5×log(MFR)-1.2≦Mw/Mn≦7.5×log(MFR)+12.5
で示される関係を満たす高圧ラジカル法低密度ポリエチレンからなり、
上記エチレン・α-オレフィン共重合体[A]と、上記高圧ラジカル法低密度ポリエチレン[B]との重量比([A]:[B])が、99:1〜60:40の範囲内にあることを特徴とするエチレン系共重合体組成物。」
「【0033】
上記のような特性を有するエチレン・α-オレフィン共重合体[A]は、後述するような(a)遷移金属化合物と、(b)有機アルミニウムオキシ化合物と、をオレフィン重合用触媒の存在下に、エチレンと炭素数3〜20のα-オレフィンとを、得られる共重合体の密度が0.880〜0.960g/cm3となるように共重合させることによって製造することができるが、特に後述するような(a)遷移金属化合物、(b)有機アルミニウムオキシ化合物、(c)担体、および必要に応じて(d)有機アルミニウム化合物から形成されるオレフィン重合用触媒の存在下に、エチレンと炭素数3〜20のα-オレフィンとを、得られる共重合体の密度が0.880〜0.960g/cm3となるように共重合させることによって製造することができる。」
「【0087】
また、本発明に係る高圧ラジカル法低密度ポリエチレンは、密度(d)が0.910〜0.930g/cm3の範囲にあることが望ましい。密度は、190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)測定時に得られるストランドを120℃で1時間熱処理し1時間かけて室温まで除冷したのち、密度勾配管で測定される。」
「【0097】
本発明のエチレン系共重合体組成物を加工することにより得られるフィルムは、規格袋、重袋、ラップフィルム、ラミ原反、砂糖袋、油物包装袋、水物包装袋、食品包装用等の各種包装用フィルム、輸液バック、農業用資材等に好適である。また、ナイロン、ポリエステル等の基材と貼り合わせて、多層フィルムとして用いることもできる。さらにブロー輸液バック、ブローボトル、押出成形によるチューブ、パイプ、引きちぎりキャップ、日用雑貨品等射出成形物、繊維、回転成形による大型成形品などにも用いることができる。」
「【0098】
【発明の効果】本発明のエチレン系共重合体組成物は、組成分布が狭く、熱安定性が良好なエチレン・α-オレフィン共重合体[A]と、高圧ラジカル法低密度ポリエチレン[B]とをブレンドしているので、溶融張力が高く、高剪断域の応力が低いため、成形性に優れている。このようなエチレン系共重合体組成物からは、透明性、機械的強度、ヒートシール性、ホットタック性、耐熱性、耐ブロッキング性に優れたフィルムを製造することができる。」
そして、エチレン・α-オレフィン共重合体[A]の重合条件は、全圧18kg/cm2-G、重合温度80℃、ガス組成(1-ヘキセン/エチレン= 0.020、水素/エチレン=6.6×10-4、エチレン濃度=16%)及び得られた共重合体の物性は、密度0.923g/cm3であり、メルトフロレート(MFR)が1.1 g/10分であったこと(【0106】及び【0107】)が記載されている。
先願明細書2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
[A]エチレンと、炭素数3〜20のα-オレフィンとの共重合体であって、
(i) 密度(d)が0.880〜0.960g/cm3 の範囲であり、
(ii)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.01〜200g/10分の範囲であり、
(iii)DSCにおける融点の最大ピーク(T(℃))と密度(d)とが
T<400×d-250
で示される関係を満たし、
(iv)190℃におけるメルトテンション(MT(g))とメルトフローレート(MFR)とが
MT>2.2×MFR-0.84で示される関係を満たし、
(v) 溶融重合体の190℃におけるずり応力が2.4×106 dyne/cm2に到達する時のずり速度で定義される流動性インデックス(FI(1/秒))とメルトフローレート(MFR)とが
FI>75×MFR
で示される関係を満たし、
(vi)23℃におけるデカン可溶部(W(重量%))と密度(d)とがMFR≦10g/10分のとき、
W<80×exp(-100(d-0.88))+0.1
MFR>10g/10分のとき、
W<80×(MFR-9)0.26×exp(-100(d-0.88))+0.1
で示される関係を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体と、
[B]高圧ラジカル法による低密度ポリエチレンであって、
(i) メルトフローレート(MFR)が0.1〜50g/10分の範囲内であり、
(ii) GPCにおいて測定した分子量分布(Mw/Mn:Mw=重量平均分子量、Mn=数平均分子量)とメルトフローレート(MFR)とが、
Mw/Mn≧7.5×log(MFR)-1.2
で示される関係を満たす高圧ラジカル法低密度ポリエチレンからなり、
上記エチレン・α-オレフィン共重合体[A]と、上記高圧ラジカル法低密度ポリエチレン[B]との重量比([A]:[B])が、99:1〜60:40の範囲内にあることを特徴とするエチレン系共重合体組成物。」
「【0031】
上記のような特性を有するエチレン・α-オレフィン共重合体[A]は、後述するような(a)遷移金属化合物、(b)有機アルミニウムオキシ化合物および(c)担体、必要に応じて(d)有機アルミニウム化合物から形成されるオレフィン重合用触媒の存在下に、エチレンと炭素数3〜20のα-オレフィンとを、得られる共重合体の密度が0.880〜0.960g/cm3となるように共重合させることによって製造することができる。」
「【0088】
また、本発明に係る高圧ラジカル法低密度ポリエチレンは、密度(d)が0.910〜0.930g/cm3の範囲にあることが望ましい。密度は、190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)測定時に得られるストランドを120℃で1時間熱処理し1時間かけて室温まで除冷したのち、密度勾配管で測定される。」
「【0098】
本発明のエチレン系共重合体組成物を加工することにより得られるフィルムは、規格袋、重袋、ラップフィルム、ラミ原反、砂糖袋、油物包装袋、水物包装袋、食品包装用等の各種包装用フィルム、輸液バック、農業用資材等に好適である。また、ナイロン、ポリエステル等の基材と貼り合わせて、多層フィルムとして用いることもできる。さらにブロー輸液バック、ブローボトル、押出成形によるチューブ、パイプ引きちぎりキャップ、日用雑貨品等射出成形物、繊維、回転成形による大型成形品などにも用いることができる。」
「【0099】
【発明の効果】本発明のエチレン系共重合体組成物は、組成分布が狭く、熱安定性が良好で、成形性に優れたエチレン・α-オレフィン共重合体[A]と、高圧ラジカル法低密度ポリエチレン[B]とをブレンドしているので、溶融張力が高く、高剪断域の応力が低いため、成形性に優れている。このようなエチレン系共重合体組成物からは、透明性、機械的強度、ヒートシール性、ホットタック性、耐熱性、耐ブロッキング性に優れたフィルムを製造することができる。」
そして、エチレン・α-オレフィン共重合体[A]の重合条件は、全圧20kg/cm2-G、重合温度80℃、ガス組成(1-ヘキセン/エチレン= 0.030、水素/エチレン=0.0013、エチレン濃度=25%)及び得られた共重合体の物性は、密度0.920g/cm3であり、メルトフロレート(MFR)が2.0 g/10分であったこと(【0106】及び【0107】)が記載されている。
なお、先願明細書1、2の上記摘示事項の記載は、それぞれの優先権主張の基礎出願である、特願平4-157938号、特願平4-157937号の出願当初明細書にも概ね記載されている。
(2)対比・判断
本件発明は、成分Aについては、「下記に示す(a)〜(c)の性状を有するメタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体
(a)MFRが2〜30g/10分、
(b)密度が0.935g/cm3以下、
(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」を発明の構成の主要部とするものである。
本件発明と先願明細書1、2に記載された発明とを対比すると、先願明細書1、2に記載されたエチレン-α-オレフィン共重合体は(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である共重合体についての記載がされていない。
この点に関して、特許異議申立人 三井化学株式会社は甲第3号証として同社生産技術研究所の筒井俊之、同社高分子研究所の高橋守作成による実験報告書を提出して、先願明細書1に記載された実施例を追試したものは本件発明における組成物の物性をすべてを満たすと主張するが、実験報告書における、エチレン系共重合体組成物の成分である、LLDPE(エチレン-α-オレフィン共重合体)の製造に関して、その重合条件(全圧20kg/cm2-G、重合温度70℃、ガス組成1-ヘキセン/エチレン=0.035、水素/エチレン= 1.3×10-3、エチレン濃度=24%)及び得られた共重合体の物性(密度0.903g/cm3、メルトフローレート15g/10分)は、先願明細書1に記載されたエチレン-α-オレフィン共重合体[A]の製造方法における重合条件(全圧18kg/m2-G、重合温度80℃、ガス組成(1-ヘキセン/エチレン=0.020、水素/エチレン=6.6×10-4、エチレン濃度=16%)及び得られた共重合体の物性(密度0.923g/cm3、MFR1.1g/10分)と一致していない。そうすると、実験報告書に示されている追試実験は、先願明細書1に記載された発明の忠実な追試実験とはいえないものであるから、これを参酌することはできない。
そうすると、先願明細書1には、本件発明の前記(c)の点に関する数値が記載されていないし、前記特許異議申立人 三井化学株式会社の甲第3号証として出された実験報告書にも十分な裏付けの記載がされていないのである。
また、本件発明によって得られる効果を特許明細書からみると、表1および表2に記載された実施例による効果が同表に示された比較例による効果より優れていることを示しており、メタロセン触媒で得られるエチレンと炭素数3〜12のα-オレフィンとの共重合体を採用しても、すべて同等の効果を奏するともいえないから、メタロセン触媒で得られるエチレンと炭素数3〜12のα-オレフィンとの共重合体がすべて同じものということもできない。
そうすると、たとえメタロセン触媒によって得られた共重合体であっても、前記(c)に関しては、先願明細書1、2には記載されていないのであるから、先願明細書1、2に記載されたエチレン-α-オレフィン共重合体が本件発明のエチレン-α-オレフィン共重合体と同一であるということはできない。
そうであれば、本件発明は先願明細書1、2に記載された発明と同一であるとはいうことはできない。
3.特許法第29条第1項、第2項の規定違反について
(1)刊行物に記載の事項
◆刊行物1(特開昭59-133238号公報:特許異議申立人 東ソー株式会社の提出した甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。
「メルトフローレートが1ないし30g/10min、エチレン含有量が86ないし95モル%、密度が0.870ないし0.910g/cm3、X線による結晶化度が5ないし25%及び示差走査型熱量計による融点が60ないし100℃のエチレンと炭素数4ないし10のα-オレフインとの共重合体(A):60ないし90重量%と、メルトフローレートが0.1ないし100g/10min及び密度が0.910ないし0.925g/cm3の高圧法低密度ポリエチレン(B):40ないし10重量%とからなることを特徴とするエチレン・α-オレフイン共重合体組成物。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明はエチレン・α-オレフィン共重合体組成物に関する。更に詳しくは、電線被覆材料として好適なエチレン・α-オレフィン共重合体を主体とする樹脂組成物に関する。」(1頁左下欄下から3〜右下欄1行)
「本発明に用いるエチレン・α-オレフィン共重合体(A)とは、MFR(ASTM D1238、E)が1ないし30g/10min、・・・エチレン含有量が86ないし95モル%、・・・密度が0.870ないし0.910g/cm3、・・・X線による結晶化度が5ないし25%、・・・DSCによる融点が60ないし100℃、・・・のエチレンと炭素数4ないし10のα-オレフインとのランダム共重合体である。」(2頁左上欄18〜右上欄8行)
「実施例1
<エチレン・1-ブテン共重合体の製造>
撹拌羽根を備えた10lのステンレス製重合器を用いて、連続的にエチレン・1-ブテン共重合反応を行つた。
すなわち、重合器上部から重合溶媒としてヘキサンを毎時5lの速度で連続的に供給する。
一方、重合器下部から重合器中の重合液が常に5lとなるように連続的に重合液を抜き出す。
触媒として、(A)バナジウムオキシトリクロリドとエチルアルコールとの反応生成物(触媒調製容器中でバナジウムオキシトリクロリドとエチルアルコールとのモル比が1/1となるように調製した)を重合器中のバナジウム原子濃度が0.6ミリモル/lとなるように、(D)エチルアルミニウムセスキクロリド〔(C2H5)1.5AlCl1.5〕とエチルアルミニウムジクロリド〔(C2H5)AlCl2〕との混合物(エチルアルミニウムセスキクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとのモル比が7/3となるように調製した)を重合器中のアルミニウム原子の濃度が4.8ミリモル/lとなるようにそれぞれ重合器上部から重合器中に連続的に供給した。重合器上部からエチレンと1-ブテンを、それぞれ毎時350l、0.7lの速度で、また分子量調節剤として水素ガスを毎時5lの速度で供給する。
共重合反応は、重合器外部にとりつけられたジヤケツトに温水を循環させることにより60℃で行つた。この場合重合器内圧力は5.1kg/cm2(ゲージ)であつた。
以上に述べたような条件で共重合反応を行うと、エチレン・1-ブテン共重合体が均一な溶液状態で得られる。重合器下部から抜き出した重合液中に少量のメタノールを添加して重合反応を停止させ、スチームストリツピング処理にて重合体を溶媒から分離したのち、80℃で一昼夜減圧乾燥した。
以上の操作でエチレン・1-ブテン共重合体(試料1)が毎時330gの速度で得られた。
赤外線吸収スペクトル分析により測定した共重合体のエチレン含有量は91.5モル%、MFR 3.3g/10min、密度0.889、X線による結晶化度15% DSC法による融点66℃、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)1.9であった。
<組成物の製造及び評価>
前記方法で得られた共重合体70重量%(試料1)と高圧法低密度ポリエチレン(ミラソン(R)FL60)30重量%とを押出機によりブレンドした(押出機温度200℃、N2シール)。次いで該組成物、共重合体(試料1)及び高圧法低密度ポリエチレンの物性を以下の方法により測定した。・・・・・溶融張力(g):メルトテンシヨンテスター(東洋精機製)により150℃でL/D=4mm/2.13mmのノズルを用い、押出速度8mm/min、引取り速度20rpmの条件下で求めた。」(3頁左下欄下から第11行〜4頁左下欄第3行)
そして、MFR(g/10分)17.6、エチレン含量(モル%)92.5、密度(g/cm3)0.892、HSFR(sec-1)880、メルトテンシヨン(g)0.1以下、破断点抗張力(kg/cm2)143、Haze(%)4、Tm(℃)83、X線結晶化度(%)20、分子量分布2.0、σ1.3のエチレン・1-ブテン共重合体(表2の試料2参照)70重量%と、MFR(g/10分)7.2、密度(g/cm3)0.917、HSFR(sec-1)2950、メルトテンシヨン(g)9.0、破断点抗張力(kg/cm2)120、硬度(JIS A)96、Haze(1mmシート)(%)94、ESCR F50(時間)<1、の高圧法低密度ポリエチレン(表3のミラソンM-11参照)を30重量%を配合した、実施例8の樹脂組成物の物性は、MFR(g/10分)12.5、密度(g/cm3)0.899、破断点抗張力(kg/cm2)145、HSFR(sec-1)1510、押出肌1、メルトテンシヨン(g)0.8、ESCR F50(時間)1000以上、耐熱老化性ΔTB91、ΔEB95であったこと(表1参照)が記載されている。
◆刊行物2(米国特許第4339507号明細書:特許異議申立人 ザ ダウ ケミカル カンパニーの提出した甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。
「密度が約0.912〜0.940(g/cm3)の線状低密度エチレン炭化水素コポリマー2〜80重量%と密度が約0.93(g/cm3)以下の高圧法低密度ポリエチレンホモ又はコポリマー20〜98重量%からなる基材上への押出しコーティング用組成物」(クレーム1)。
「高圧法低密度ポリエチレンは約1〜20g/10分のメルトインデックスを有する。」(クレーム3)
「押出コーテング組成物の線状低密度エチレン炭化水素コポリマーは、エチレンとC3〜C8のα-オレフィンとのコポリマーであり、約0.912〜0.940g/cm3の密度、好ましくは約0.916〜0.928g/cm3の密度を有し、公知の方法により製造できる。」(8欄7〜14行)
「線状低密度エチレン炭化水素コポリマーは、1/2以上、好ましくは2以上、最も好ましくは10以上、100以下、好ましくは50以下、最も好ましくは30以下のメルトインデックスを有する。」(8欄42〜47行)
「線状低密度エチレン炭化水素コポリマーは、2.7〜4.1、好ましくは2.8〜3.4の分子量分布(Mw/Mn)を有する。」(8欄48〜58行)
「高圧低密度ポリエチレンは、好ましくは約0.91〜0.92g/cm3の密度を有し、公知の方法により製造できる。」(7欄48〜52行)
「両者をブレンドすることによりドロー共鳴に影響されにくくなり、押出しコーティングにおいて、極めて薄層の場合でも、コーティング速度を増大できしかも低いネックインや優れた接着性を保持できる。」(7欄7行〜20行)
「この押出しコーティング組成物は優れた加工性と製品物性(特に基材への接着性、引張り強さ、可撓性、ヒートシール性等)を有する。」(10欄53行〜11欄6行)
◆刊行物3(特開昭57-117547号公報:特許異議申立人 日本ポリオレフィン株式会社の提出した甲第4号証)には、以下の事項が記載されている。
「高圧低密度ポリエチレン単独重合体若しくは共重合体押出被覆用組成物により基体を押出被覆するに際し、前記組成物として20重量%より多くかつ98重量%より少ない前記高圧低密度ポリエチレン単独重合体及び(又は)共重合体と、2重量%より多くかつ80重量%より少ない少なくとも1種の線状低密度エチレン炭化水素共重合体とからなる組成物を使用することを特徴とする押出被覆方法。」(特許請求の範囲第1項)
「高圧低密度ポリエチレン単独重合体若しくは共重合体が約1〜約20のメルトインデックスを有する特許請求の範囲第1項又は第2項記載の方法。」(特許請求の範囲第3項)
「線状低密度エチレン炭化水素共重合体が、約0.5〜約100のメルトインデックスを有するエチレンと少なくとも1種のC3〜C8α-オレフィンとの共重合体である特許請求の範囲第10項記載の方法。」(特許請求の範囲第13項)
「線状低密度エチレン炭化水素共重合体を高圧低密度ポリエチレンと配合することにより、引取共振又は溶融物破断なしに高延伸を可能にする押出被覆用組成物が得られることを見出した。・・・また、本発明の押出被覆用組成物を用いれば、約0.5ミル以下の厚さを有する被覆においてさえ、約3インチ以下のネックインが、600ft/minより大きい被速度にてピンホールのない被覆として達成された。」(6頁右下欄11〜7頁左上欄2行)
「線状低密度エチレン炭化水素共重合体
本発明の押出被覆用組成物に適する線状低密度エチレン炭化水素共重合体は、・・・密度を有するようなエチレンと1種若しくはそれ以上のC3〜C8α-オレフィンとの共重合体である。これらの共重合体は、当業者に周知された溶液法、スラリー法又は気相法で製造することができる。・・・本発明に有用な重合体のメルトインデックスは、反応の重合温度と重合体の密度と使用触媒の遷移金属(例えばチタン)含有量との組合せの関数である。」(9頁右上欄13行〜左下欄17行)
「本発明の配合物は、いずれの単一成分で達成しうるよりも大きい極めて高い引取速度かつ許容しうるネックイン条件において安定な押出速度を与えうると共に、たとえば基体に対する良好な接着性、被覆における少ないピンホール、小さい縁部ビード容積、良好な引張強さ、広温度範囲にわたる柔軟性、低透過性、良好な熱シール、及び耐摩耗性のような良好な製品特性を与える。」(11頁左下欄15行〜右下欄2行)
「使用した5種のエチレン-ブテン-1共重合体は、南アフリカ特許79-01365号〔・・・〕明細書に記載された触媒と方法とを用いて製造することができる。」(12頁左上欄4〜10行)
◆刊行物4(特開昭58-194935号公報:特許異議申立人 ザ ダウ ケミカル カンパニーの提出した甲第2号証、特許異議申立人 日本ポリオレフィン株式会社の提出した甲第3号証、特許異議申立人 住友化学工業株式会社の提出した甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。
「密度が0.895g/cm3以上0.955g/cm3以下で、炭素数1000個当りの短鎖分岐数(短鎖分岐度)が5以上40以下の、エチレンと炭素数3以上18以下のα-オレフィンとの共重合体に、メルトテンションが4g以上15g以下の高圧法低密度ポリエチレンおよび/またはエチレン系共重合体を10重量%以上60重量%以下混合して成る加工性とフィルム物性のすぐれた押出ラミネート用組成物。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明は良好な加工特性および高品質ラミネートフィルムを提供する押出ラミネート用組成物に関する。」(1頁右下欄末行〜2頁左上欄第2行)
「本発明のもつ実用的な価値は、加工の容易さと、性能面ではとくにLLDPEの有する良好なホットタック性ならびにヒートシール強度を備えた押出ラミネートフィルムの生産を両立させることに成功したことにある。」(第2頁左下欄第2〜6行)
「このLLDPEに比較的に少量の高圧法低密度ポリエチレンを添加することを試みたところ樹脂膜の巾や厚さの変動は、飛躍的に改善され実用上問題のない加工が可能になった。しかも驚くべきことに高圧法・低密度ポリエチレンにLLDPEを添加することにより、ホットタック性ならびにヒートシール強度は著しく向上し、殆んどLLDPEのそれらの特性に近いレベルに達することを見出した。このとき、他の物性、とくに伸び、衝撃強度、引裂強度、腰は配合割合に応じて向上し、これらの特性は加成性が認められた。」(第2頁左下欄第18行〜右下欄第9行)
「本発明の主旨を損わない限り、触媒や重合方法については特に制約はなく、例えば触媒としては所謂チーグラー型触媒やフィリップス型触媒が挙げられ、重合方法としては、所謂スラリー重合や気相重合や液相重合等が挙げられる。これらのうちでも、担体担持型チーグラー触媒が触媒活性や共重合性の点で本発明には好都合である。」(5頁右下欄2〜9行)
「さらに得られる組成物の密度は0.910g/cm3以上、0.940g/cm3以下であることが好ましく、0.915g/cm3以上、0.935g/cm3以下のものがより好ましく、0.915g/cm3以上0.929g/cm3以下であることが最も望ましい。」(6頁左上欄8行〜13行)
「さらに得られる組成物のメルトインデックスは0.2g/10分以上50g/10分以下であることが好ましく、1g/10分以上10g/10分以下であることがより好ましく、2g/10分以上7g/10分以下であることが最も望ましい。」(6頁左上欄18行〜右上欄3行)
「メルトテンション 東洋精機製メルトテンションテスターによりオリフィス穴から一定量のポリマーを強制的に押出しモノフィラメントを形成し引取ロールにより引取速度を上げモノフィラメントの切断する最高の張力(g)で表わす。押出し温度=150℃ 押出し速度=0.32g/分 オリフィス=2mmφ L/D=4 サンプル量=5g」(9頁左上欄下から12〜3行)
「ヒートシール性 東洋精機製バータイプのヒートシーラーでシールされたラミネートフィルムのヒートシール強度を示す。シール圧力=1Kg/cm2、時間=0.5秒でヒートシールした後幅15mm、引張速度200mm/分で測定した。」(9頁左上欄下から2行〜右上欄5行)
また、LLDPEとしては、密度が、0.923g/cm3(実施例1)のものを用い、高圧法低密度ポリエチレンとしては、メルトテンションが8gの住友化学製高圧法・低密度ポリエチレンスミカセン(R)L705を用い、これらを配合して押出ラミネート組成物とし、基材(ユニチカ社製延伸ナイロンフィルム、エンブレム(R)(厚さ15μ)にスミカセン(R)L705を20μ押出コートしたもの)にコート厚み30μ又は15μで押出したこと、コート厚み30μの場合は、ヒートシール強度(Kg/15mm)は、シール温度130、150、170℃において、それぞれ3.1、4.1、4.4であること(実施例1及び表1参照)が記載されている。
◆刊行物5(特開昭52-104585号公報:特許異議申立人 住友化学工業株式会社の提出した甲第2号証)には、以下の事項が記載されている。
「ポリプロピレン系フイルムの少なくとも片面が、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体とポリエチレン樹脂との混合樹脂からなる易ヒートシール層であることを特徴とする易ヒートシール性2軸延伸複合フィルム。」(特許請求の範囲)
「本発明者らは、ポリプロピレンを基層とした延伸複合フィルムのヒートシール層として、ポリエチレンを使用すべく種々検討してきたが、驚ろくべきことに、ポリエチレン樹脂に低結晶性エチレン-αオレフィン共重合体を添加ブレンドしてなる混合物を積層することにより、界面剥離現象の生じない、しかもヒートシール強度および耐ブロッキング性の優れ、かつ基層のポリプロピレンフィルムの透明性を阻害しない複合フィルムの開発に成功した。」(2頁左上欄12行〜右上欄1行)
「こゝに使用するポリプロピレン系フイルムの原料樹脂としては、ポリプロピレン樹脂の他、・・・・プロピレン共重合体をも含むポリプロピレン系樹脂も使用可能であるが、好ましくは結晶性のアイソタクチツクポリプロピレンを例示することができる。また、ポリエチレン樹脂としては、高、中、低密度ポリエチレン、これらをブレンドした混合物等があげられ、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体としては、例えば三井石油化学(株)製の「タフマ-A4085」、「タフマ-A1575」等の商品名で市販されているものを例示できる。」(2頁右上欄7〜18行)
「この際、ポリエチレン樹脂にブレンドする低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体のブレンド量は3重量%以上、好ましくは10重量%以上である。低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体のブレンド比率が3重量%以下の如く少な過ぎると初期の効果を奏しない。他方、ブレンド比率が多い場合、即ち逆にポリエチレン樹脂の混合比率が小である場合には、ポリエチレン樹脂が滑剤としての効果をも示し、易ヒートシール層フイルム面の平滑度が著しく改善されるという予期せざる効果があらわれる上に、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体のブレンド比率を多くするに従い、ヒートシール強度透明度等も上昇するという効果もあるので、上限については特に制限がない。」(2頁右上欄下から2〜左下欄12行)
「第1図は、易ヒートシール層におけるポリエチレン樹脂と低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体の、各種配合比率でのヒートシール強度とヒートシール温度との関係を示すものであり、図から明らかな如く、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体の添加比率が多くなるにつれて、ヒートシール強度が上昇している上に、低温ヒートシール性が良好で、例えば80℃前後の温度でヒートシールすることも可能となり、その結果、ヒートシール時における2軸延伸ポリプロピレン層の、熱収縮によるしわの発生や裂け目の発生が生せず、美麗かつ丈夫で商品価値を高める包装が可能となる。」(3頁右上欄10〜左下欄2行)
「ヒートシール強度の測定方法は、複合フイルムの易ヒートシール面同志を重ね合せ、バー型熱シール機を用いて、1Kg/cm2の圧力で1秒間加温圧着して得た巾1cmの試料を、剥離速度200mm/min剥離角度180度で剥離試験を行ったもので、ヒートシール強度は(g/cm)で表わした。」(3頁左下欄13〜18行)
「実施例1
アイソタクチツプポリプロピレン樹脂をTダイ押出機を用いてシート状に押出した後、加熱ロールを通すことにより、実効延伸倍率が5倍になるように経方向に延伸し、この一軸延伸シートの片面に、低密度ポリエチレン樹脂70重量%と、三井石油化学(株)製のタフマ-A4085 30重量%(低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体)との混合物を溶融押出積層し、斯る複合シートを連続的にテンター内を通すことにより、緯方向に実効倍率9倍になるように延伸して2軸延伸複合フイルムを得た。この際ポリプロピレン層の厚さは約35μ、易ヒートシール層である低密度ポリエチレンと低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体との混合物からなるフイルム層は5μである。」(4頁左上欄9行〜右上欄3行)
「(結晶化度3〜20%、エチレン含有量85〜95モル%、MI(190℃)0.1〜40、密度0.86〜0.91、融点60〜90℃の範囲にあるエチレン-1-ブテン・ランダム共重合体である低結晶性エチレン-αオレフィン共重合体)」(6頁右上欄14行〜18行)
また、第1表には、実施例1の2軸延伸複合フイルムを温度(℃)80、100、120及び140でヒートシールした時、ヒートシール強度(g/cm)は、それぞれ450、500、650及び650であることが記載されている。
◆刊行物6(特表平3-502710号公報:特許異議申立人 日本ポリオレフィン株式会社の提出した甲第5号証)には、以下の事項が記載されている。
「本発明はLLDPEのような結晶質の共重合体のポリマーブレンドに関し、そしてさらに詳細に述べると、本発明はこのような共重合体のブレンドであって各ブレンド成分がブレンドの優れた性質を得るために選ばれたせまい分子量分布およびせまい組成分布を持つブレンドに関する。」(2頁左下欄5〜10行)
「低密度ポリエチレン(”LDPE”)はラジカル開始剤を用いて高圧で製造されるのが一般的であって、その代表的なものは0.915〜0.940g/cm3の範囲内の密度をもつ。」(2頁左下欄13〜16行)
「LLDPEのような広い分子量分布を持つポリエチレンは希望される最終用途目的に応じて多くの望ましくない面を有する。例えば、在来技術分野で知られている比較的高い分子量の分子を有するLLDPE樹脂は配向を受け易く」(2頁右下欄16〜20行)
「LLDPEのような在来技術分野のポリエチレンはまた一般的に、非常に広い、不均一なコモノマー含有率分布を持つことが多い。」(3頁左上欄7〜9行)
「在来技術のポリエチレンブレンドであってそのブレンド成分または在来技術のポリエチレンの性質をブレンドによって、1またはそれより多く改善するように設計されたものもまた前述の欠点を持っている。・・・そこで、優れた性質を持ち、しかもブレンディングの利点が完全に実現されるエチレン共重合体ブレンドを提供することが要望されている。・・・
本発明は、分子量分布および組成分布のせまいエチレン共重合体成分からなるブレンドであって、成分の分子量分布および組成分布が、生成ブレンドに優れた性質をもたらし得る総括分子量分布および組成分布を生成ブレンドに与えるように選ばれるブレンドを提供する。」(3頁左上欄20行〜右上欄11行)
「本発明における線状エチレン共重合体ブレンド成分は大きな割合のエチレンと小割合のコモノマーから成る高級(higher)共重合体である。エチレンは一般的に、共重合されるモノマーの70〜100モルパーセントの割合で重合されるが、代表的には70〜97モルパーセントであって、・・・そしてコモノマーは0〜30モルパーセントであるが代表的には3〜30モルパーセントであり、・・・考慮されるブレンド成分は一般的に、・・・および約0.915〜0.940g/cm3の密度範囲の線状、低密度ポリエチレンブレンド成分を含む。・・・
本発明のエチレン共重合体ブレンド成分を得るためエチレンとの共重合体を造るのに適切なコモノマーには、・・・プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン・・・などのような3乃至約12の炭素原子を持つα-オレフィンである。」(4頁左上欄6行〜右上欄6行)
「線状ポリエチレンブレンド成分はせまい分子量分布(MWD)を持つのが好ましい。・・・すなわち2.5未満またはそれに等しいMw/Mn 、とりわけ2.0未満またはそれに等しいMw/Mnを持つ線状ポリエチレンブレンド成分が特に好ましい。」(4頁右上欄20行〜左下欄2行)
「新しいブレンドから作られるフイルムの等方性および靱性は、異方性のシシカバブまたは列有核の形態を極小にすることによって改善されるが、この形態は通常、在来のLLDPE樹脂における高分子量分子内の低濃度のコモノマーに起因する。・・・本発明の線状ポリエチレンブレンド成分は、せまいCD/MWD樹脂をもたらすことで知られているメタロセン系の触媒系を用いて製造される。」(6頁左上欄20行〜右上欄5行)
「本発明のブレンドは、例えばスクリュー式押出機、バンバリーミキサー、などの在来のブレンディング方法と装置を用いて、必要な成分を必要な比率でブレンディングすることによって製造される。」(8頁左下欄12〜15行)
「第1表に示される特性を持ち、’006として識別されるエチレンホモポリマーを・・・造った。・・・’013として識別される第2のポリマーのエチレン/ブテン-1共重合体を・・・造った。」(8頁右下欄3行〜11行)
「つぎに、樹脂’006と’013を等比率で・・・混合した。・・・圧縮成形シートを造った。・・・
例2
例1に記載した樹脂から・・・ただしブレンドB2と呼ばれるこのブレンドは1部の’006と3部の’013からなっていた点が異なった。」(9頁左上欄8〜25行)
そして、9頁右上欄の第1表には、得られた共重合体’013について、メルトインデックスが4.0dl/minおよび密度が0.9042g/cm3であることが記載されている。
◆刊行物7(1986年発行の「SPECIALTY PLASTICS CONFERENCE '86:SPECIAL APPLICATIONS AND MARKETS FOR ETHYLENE ALPHA-OLEFIN COPOLYMERS IN JAPAN」:特許異議申立人 ザ ダウ ケミカル カンパニーの提出した甲第3号証)には、超低密度ポリエチレン(Ultralow Density Polyethylene)(ULDPE)に関して、ULDPEはフィルム用に用いられること(「4.ULDPE適用の例」参照)、タフマーA(TAFMER A)のグレードA-4085は、3.6g/10分のメルトフローレート、0.88g/cm3の密度、54℃のビカット軟化点を有すること(「表1 タフマーのグレードとその性状」参照)、スナック、クラッカー用フィルムに、構造が、OPP、LDPE+ULDPE(押出被覆)及びCPP(非アンカー処理)の3層のもの(「第12図 ULDPEを使用する複合フィルムの構造」参照)があることについて記載されている。
◆刊行物8(1992年発行の「EXACT FACTSTM 」1-3頁:特許異議申立人 ザ ダウ ケミカル カンパニーの提出した甲第4号証)には、EXACT(登録商標)に関して、1992年後半には、包装用のEXACTフィルム樹脂を上市の予定であること、既に、開発顧客は、従来の樹脂では得られない、シール性、靭性、光学性及び透明性で向上したフイルム特性を見出しているとのこと(3頁左欄下から16〜11行参照)が記載されている。
◆刊行物9(1991年発行の「STRUCTURE /PROPERTY RELATIONSHIPS IN EXXPOLTM POLYMERS」:特許異議申立人 ザ ダウ ケミカル カンパニーの提出した甲第5号証)には、EXXPOL(登録商標)ポリマーに関して、 その組成分布をTREF(Temperature Rising Elution Fractionation)で試験した結果について、EXXPOLTM樹脂は、単一のコモノマーコンテントの周りにしっかり密集したコモノマー分子を有する、非常に狭いCDの物質であることが記載されている。(Composition Distributionの項参照)
◆刊行物10(1992年2月発行の「Tappi Journal」、99-103頁:特許異議申立人 ザ ダウ ケミカル カンパニーの提出した甲第6号証)には、
「新しいファミリーの線状ポリエチレンポリマーは高められたシール特性をもたらす」との表題のもとに、「ここで議論される新技術を使った、シングルサイト触媒は、ただ一つの活性触媒サイトを有し、タイプDのような図1で示されるエチレンポリマー分子のまさに単一型を製造する。これは、マルチサイト触媒からの製造される広いMWD及びCDとは反対に、非常に狭いMWD及びCDを有するポリマーを与える。MWD及びCDにおけるこれらの相違は、図1に示されている。」(100頁左欄下から16〜10行)と記載され、
「狭いMWD及びCD分布は、同じメルトインデックスと密度を有する線状低密度ポリエチレン/非常に低密度のポリエチレン(LLDPE/ VLDPE)より低ピーク融点及びより均一な結晶構造を生成する。これら相違は、ホットタック及びヒートシール特性で有利な変化をもたらす。」(102頁左欄下から22〜17行)と記載されている。
◆刊行物11(1976年12月発行の「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE」811-815頁:特許異議申立人 ザ ダウ ケミカル カンパニーの提出した甲第7号証)には、「低密度ポリエチレンの粘弾性に及ぼす長鎖分枝の影響」と題して、「全ポリマーのダイスウエル測定は、同じメルトフロー(MI)の試料に対するLCB(長鎖分枝)割合が増加すると共に、溶融弾性が増加することを示す。観察されたダイスウエル特性とGPCデータの比較は、ダイスウエルは分子サイズに依存する性質であり、分子間のもつれ効果に依存しないことを示す。このことは、LDPE溶融の弾性の測定が、市販の樹脂のLCBの相対的割合を測定する手段を提供することを示唆する。」(811頁要約の欄第7〜15行)とのことが記載されている。
◆刊行物12(1991年7月発行の「ポリオレフィン系樹脂改質材 タフマー」のカタログ:特許異議申立人 東ソー株式会社の提出した甲第3号証)には、商品名「タフマー」はチーグラー法重合技術に基づき、開発された低結晶性エチレン・α-オレフイン共重合体であり、Aグレードのものは、LDPE押出コーティングや電線被覆等の用途に使用できることが記載されている。
(2)対比・判断
●刊行物1には、メルトフローレートが1ないし30g/10min、エチレン含有量が86ないし95モル%、密度が0.870ないし0.910g/cm3、X線による結晶化度が5ないし25%及び示差走査型熱量計による融点が60ないし100℃のエチレンと炭素数4ないし10のα-オレフインとの共重合体(A):60ないし90重量%と、メルトフローレートが0.1ないし100g/10min及び密度が0.910ないし0.925g/cm3の高圧法低密度ポリエチレン(B):40ないし10重量%とからなるエチレン・α-オレフイン共重合体組成物について記載されている。そして、エチレン・α-オレフイン共重合体組成物は、電線被覆材料として好適なものであることが記載されている。
しかしながら、刊行物1に記載された、エチレンと炭素数4ないし10のα-オレフインとの共重合体は、バナジウム触媒で製造されたことが記載されているが、メタロセン触媒で得られたことについては記載されていない。また、刊行物1に記載されたエチレンと炭素数4ないし10のα-オレフインとの共重合体について、本件発明において(c)で規定する、温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である、との物性を有していることに関しても記載がされていない。
この点に関し、特許異議申立人 東ソー株式会社は、甲第2号証として同社四日市研究所の幸田真吾作成による実験証明書を提出して、刊行物1に記載のエチレン-α-オレフィン共重合体が本件発明のエチレン-α-オレフィン共重合体の物性値を満足するものである旨主張しているが、実験証明書における実験は、エチレン-α-オレフィン共重合体を製造するに当たりメタロセン触媒でなくバナジウム触媒を使用して行っているものである。
そうすると、刊行物1に記載の製造方法で得られるエチレン-α-オレフィン共重合体は、その製造法において重合触媒が本件発明重合触媒と異なるのであるから、本件発明の「メタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィン共重合体」とは相違しているものというべきで、重合触媒としてバナジウム触媒を採用して得られた共重合体についての物性を参酌しても、前記(c)で規定する物性についての共重合体は刊行物1には記載されていないというべきである。
したがって、本件発明は、刊行物1に記載された発明であるとはいえない。
また、前記(c)で規定する点は、刊行物1には記載がされていないのであるから、本件発明は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
●刊行物2には、密度が約0.912〜0.940(g/cm3)の線状低密度エチレン炭化水素コポリマー2〜80重量%と密度が約0.93(g/cm3)以下の高圧低密度ポリエチレンホモ又はコポリマー20〜98重量%からなる基材上への押出しコーティング用組成物に関して記載され、押出コーテング組成物の線状低密度エチレン炭化水素コポリマーは、エチレンとC3〜C8のα-オレフィンとのコポリマーであり、約0.912〜0.940g/cm3の密度を有し、公知の方法により製造できること、線状低密度エチレン炭化水素コポリマーは、1/2以上、好ましくは2以上、最も好ましくは10以上、100以下、好ましくは50以下、最も好ましくは30以下のメルトインデックスを有することが記載され、エチレンとC3〜C8のα-オレフィンとのコポリマーが公知の方法で得られることも記載されているが、メタロセン触媒により得られることは記載がされていない。
確かに、本件特許明細書中において、重合触媒は本件特許出願前公知である特開昭61-130314号公報に記載された方法によるものであることが記載(本件特許明細書段落【0041】)されており、メタロセン触媒によって、エチレンとC3〜C8のα-オレフィンとのコポリマーが得られることは周知(本件特許明細書段落【0013】参照)というべきものである。
しかしながら、刊行物2に記載された技術は、メタロセン触媒を採用すれば、得られる共重合体の物性が、本件発明が規定する「(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」性状を有する共重合体が得られることまでも示すものではない。
したがって、本件発明は、刊行物2に記載された発明であるとはいえないし、前記(c)で規定する点は、刊行物2には記載がされていないのであるから、本件発明は刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
●刊行物3には、高圧低密度ポリエチレン単独重合体若しくは共重合体押出被覆用組成物により基体を押出被覆するに際し、前記組成物として20重量%より多くかつ98重量%より少ない前記高圧低密度ポリエチレン単独重合体及び(又は)共重合体と、2重量%より多くかつ80重量%より少ない少なくとも1種の線状低密度エチレン炭化水素共重合体とからなる組成物を使用する押出被覆方法について記載されている。
そして、線状低密度エチレン炭化水素共重合体が、約0.5〜約100のメルトインデックスを有するエチレンと少なくとも1種のC3〜C8α-オレフィンとの共重合体であること、線状低密度エチレン炭化水素共重合体を高圧低密度ポリエチレンと配合することにより、引取共振又は溶融物破断なしに高延伸を可能にする押出被覆用組成物が得られること、また、押出被覆用組成物を用いれば、約0.5ミル以下の厚さを有する被覆においてさえ、約3インチ以下のネックインが、600ft/minより大きい被速度にてピンホールのない被覆として達成され、基体に対する良好な接着性、被覆における少ないピンホール、小さい縁部ビード容積、良好な引張強さ、広温度範囲にわたる柔軟性、低透過性、良好な熱シール、及び耐摩耗性のような良好な製品特性を与えることが記載されている。
これらの記載からみると、刊行物3には、高圧低密度ポリエチレン20重量%〜98重量%と線状低密度エチレン炭化水素共重合体2重量%〜80重量%からなる組成物を使用することにより、押出被覆方法において、本件発明の効果の1つであるネックインや接着性、熱シールの改善ができることが示されている。しかしながら、刊行物3に記載の線状低密度エチレン炭化水素共重合体は触媒として遷移金属(例えばチタン)を含有する触媒によるものであって、本件発明のメタロセン触媒によって得られる共重合体とは特性を異にするものというべきであり、これを同一とする資料は何ら示されていないのである。
そうすると、刊行物3に、エチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンからなる線状低密度エチレン炭化水素共重合体が記載されているとしても、一般に、重合触媒が異なれば得られる重合体も異なるとするのが技術常識であるから、メタロセン触媒とそうではない触媒により得られた共重合体とでは物性は異なるというべきで、刊行物3には、本件発明のメタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体が有する特性のうち特に、「(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」エチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体は記載されていないというべきである。
したがって、本件発明は、刊行物3に記載された発明であるとはいえないし、前記(c)で規定する点は、刊行物3には記載がされていないのであるから、本件発明は刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
●刊行物4には、密度が0.895g/cm3以上0.955g/cm3以下で、炭素数1000個当りの短鎖分岐数(短鎖分岐度)が5以上40以下の、エチレンと炭素数3以上18以下のα-オレフィンとの共重合体に、メルトテンションが4g以上15g以下の高圧法低密度ポリエチレンおよび/またはエチレン系共重合体を10重量%以上60重量%以下混合して成る加工性とフィルム物性のすぐれた押出ラミネート用組成物が記載され、加工の容易さと、性能面ではとくにLLDPEの有する良好なホットタック性ならびにヒートシール強度を備えた押出ラミネートフィルムの生産を両立させること、樹脂膜の巾や厚さの変動は、飛躍的に改善され実用上問題のない加工が可能になったこと、高圧法・低密度ポリエチレンにLLDPEを添加することにより、ホットタック性ならびにヒートシール強度は著しく向上し、殆んどLLDPEのそれらの特性に近いレベルに達すること、触媒や重合方法については特に制約はなく、例えば触媒としては所謂チーグラー型触媒やフィリップス型触媒が挙げられることが記載されている。
そうすると、刊行物4には、エチレンと炭素数3以上18以下のα-オレフィンとの共重合体に高圧法低密度ポリエチレンを配合することにより、加工性とフィルム物性のすぐれた、ホットタック性ならびにヒートシール強度を備えた押出ラミネート用組成物が記載されているといえる。
しかしながら、エチレンと炭素数3以上18以下のα-オレフィンとの共重合体については、触媒や重合方法については特に制約はないと記載されていても、実際には、エチレンと炭素数3以上18以下のα-オレフィンとの共重合体がメタロセン触媒で製造されたことまでは記載がされていない。
そして、一般に、重合触媒が異なれば得られる重合体も異なるとするのが技術常識であるから、メタロセン触媒とそうではない触媒により得られた共重合体とは異なるというべきで、刊行物4には、本件発明のメタロセン触媒によって得られる共重合体が有する特性のうち、「(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」エチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体は記載されていないというべきである。
したがって、本件発明は、刊行物4に記載された発明であるとはいえないし、前記(c)で規定する点は、刊行物4には記載がされていないのであるから、本件発明は刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
●刊行物5には、ポリプロピレン系フイルムの少なくとも片面が、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体とポリエチレン樹脂との混合樹脂からなる易ヒートシール層である易ヒートシール性2軸延伸複合フィルムについて記載されており、ポリエチレン樹脂に低結晶性エチレン-αオレフィン共重合体を添加ブレンドしてなる混合物を積層することにより、界面剥離現象の生じない、しかもヒートシール強度および耐ブロッキング性に優れ、かつ基層のポリプロピレンフィルムの透明性を阻害しない複合フィルムの開発に成功したこと、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体としては、例えば三井石油化学(株)製の「タフマ-A4085」、「タフマ-A1575」等の商品名で市販されているものを例示できることが記載されている。
しかしながら、刊行物5に記載された、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体としての「タフマ-A4085」、「タフマ-A1575」等の商品名で市販されているものについては、いかなる物性を有するのか何ら記載がされていない。
この点について、特許異議申立人 住友化学工業株式会社は、甲第3号証として同社石油化学品研究所の小林重一作成による実験証明書を提出して、刊行物5に記載の「タフマ-A4085」の物性を解析して、「タフマ-A4085」が本件発明のエチレン-α-オレフィン共重合体の物性値を満足するものである旨主張するが、同特許異議申立人が提出した参考資料2(特許異議申立人 東ソー株式会社の提出した甲第3号証と同じ)の記載によれば、「タフマ-A4085」はチーグラー法重合技術に基づき、開発された低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体というものであるから、本件発明のメタロセン触媒によるエチレン-α-オレフイン共重合体とは異なるものである。
そして、採用すべきエチレン-α-オレフィン共重合体について、製造方法において使用される触媒が異なれば、得られるエチレン-α-オレフィン共重合体も異なるとみるのがごく自然といえるから、本件発明のエチレン-α-オレフィン共重合体と刊行物5に記載されたものとは相違すると解するのが相当である。
したがって、本件発明は、刊行物5に記載された発明ということはできない。
また、刊行物5には、本件発明の構成である、メタロセン触媒によって製造されたエチレン-α-オレフイン共重合体であって「(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」点に関しては何ら記載がされておらず、しかも、本件発明は、この構成を採用することにより、特許明細書に記載の効果を奏するものであるから、本件発明は刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
●刊行物6には、分子量分布および組成分布のせまいエチレン共重合体からなるブレンドであって、成分の分子量分布および組成分布が生成ブレンドに優れた性質をもたらし得る組成物に関して記載され、そのような組成物のブレンド成分として、LLDPEのような結晶質の共重合体であること、線状ポリエチレンブレンド成分はせまい分子量分布を持つのが好ましいこと、エチレン共重合体ブレンド成分を得るためエチレンとの共重合体をつくるのに適切なコモノマーには、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセンなどのような3乃至約12の炭素原子を持つα-オレフィンが採用されること、約0.915〜0.940g/cm3の密度範囲の線状、低密度ポリエチレンブレンド成分であること、線状ポリエチレンブレンド成分は、せまいCD/MWD樹脂をもたらすことで知られているメタロセン系の触媒系を用いて製造されること、低密度ポリエチレン(”LDPE”)はラジカル開始剤を用いて高圧で製造されるのが一般的であって、その代表的なものは0.915〜0.940g/cm3の範囲内の密度をもつこと、が記載されているから、刊行物6には、メタロセン触媒によって得られた約0.915〜0.940g/cm3の密度範囲のエチレンと3乃至約12の炭素原子を持つα-オレフィン共重合体と0.915〜0.940g/cm3の範囲内の密度を有する高圧法低密度ポリエチレンとの組成物が記載されているといえる。
しかしながら、メタロセン触媒によって製造されたエチレン-α-オレフイン共重合体であって「(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」点については何ら記載がされていないし、また、得られたブレンドを押出ラミネート用として用いることについては記載がされていないのであるから、押出ラミネートとして採用した場合に、樹脂膜の巾や厚さ(本件発明のサージングやネックインに相当)が改善できることまでは予測できるとはいえないものである。
なお、特許異議申立人 日本ポリオレフィン株式会社は、甲第6号証として同社研究開発センターの若山昌弘作成による実験報告書書を提出して、市販されている高圧法低密度ポリエチレン樹脂が、本件発明の高圧法低密度ポリエチレン樹脂の構成要件を備えている旨主張しているが、実験報告書における実験は、本件成分Bの高圧法低密度ポリエチレン樹脂に関するものであって、本件成分Aのエチレン-α-オレフィン共重合体、更には、エチレン-α-オレフィン共重合体の構成要件(c)に関するものではない。そうすると、実験報告書の高圧法低密度ポリエチレン樹脂の物性を参酌しても、前記(c)で規定する物性についてのエチレン-α-オレフィン共重合体は刊行物6には記載されていないというべきである。
したがって、本件発明は、刊行物6に記載された発明であるとはいえないし、刊行物6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
●刊行物7には、超低密度ポリエチレンがフィルム用に用いられること、タフマーAのグレードA-4085は、3.6g/10分のメルトフローレート、0.88g/cm3の密度、54℃のビカット軟化点を有すること、スナック、クラッカー用フィルムに、構造が、押出被覆の3層のものがあることが記載されているが、本件発明のA成分およびB成分からなる組成物に関しては記載がされていない。
●刊行物8には、包装用のEXACTフィルム樹脂を上市の予定であること、シール性、靭性、光学性及び透明性で向上したフイルム特性を見出しているとのことが記載されているが、本件発明のA成分およびB成分からなる組成物に関しては記載がされていない。
●刊行物9には、EXXPOL(登録商標)ポリマーに関して、 その組成分布をTREFで試験した結果について、EXXPOLTM樹脂は、単一のコモノマーコンテントの周りにしっかり密集したコモノマー分子を有する、非常に狭いCDの物質であることが記載されているが、本件発明のA成分およびB成分からなる組成物に関しては記載がされていない。
●刊行物10には、狭いMWD及びCD分布は、同じメルトインデックスと密度を有する線状低密度ポリエチレン/非常に低密度のポリエチレン(LLDPE/ VLDPE)より低ピーク融点及びより均一な結晶構造を生成すること、これら相違は、ホットタック及びヒートシール特性で有利な変化をもたらすことが記載されているが、本件発明のA成分およびB成分からなる組成物に関しては記載がされていない。
●刊行物11には、全ポリマーのダイスウエル測定は、同じメルトフロー(MI)の試料に対するLCB(長鎖分枝)割合が増加すると共に、溶融弾性が増加することを示す。観察されたダイスウエル特性とGPCデータの比較は、ダイスウエルは分子サイズに依存する性質であり、分子間のもつれ効果に依存しないことを示す。このことは、LDPE溶融の弾性の測定が、市販の樹脂のLCBの相対的割合を測定する手段を提供することを示唆するとのことが記載されているが、本件発明のA成分およびB成分からなる組成物に関しては記載がされていない。
●刊行物12には、ポリオレフィン系樹脂改質材であるタフマーは、チーグラー法重合技術に基づき、開発された低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体であり、Aグレードのものは、LDPE押出コーティングや電線被覆等の用途に使用できることが記載されているが、本件発明のA成分およびB成分からなる組成物に関しては記載がされていない。
●次に、各刊行物を組合せた場合の容易性について検討する。
本件発明と刊行物4に記載された発明とは、
「成分A:密度が0.895g/cm3以上0.935g/cm3以下で、エチレンと炭素数3以上18以下のα-オレフィンとの共重合体50〜90重量%に、
成分B:メルトテンションが4g以上15g以下の高圧法低密度ポリエチレンを10重量%〜50重量%混合して成る押出ラミネート用組成物」の点で一致しているが、次の点で相違している。
(イ)本件発明が、A成分の共重合体について「メタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体」としているのに対し、刊行物4に記載された発明ではそのように記載されていない点
(ロ)本件発明が、A成分の共重合体について「MFRが2〜30g/10分」としているのに対し、刊行物4に記載された発明ではそのように記載されていない点
(ハ)本件発明が、A成分の共重合体について「温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」としているのに対し、刊行物4に記載された発明ではそのように記載されていない点
(ニ)本件発明が、B成分の高圧法低密度ポリエチレンについて「下記に示す(a')、(b')、(c')および(d')の性状を有する高圧法低密度ポリエチレン1〜50重量%
(a')MFRが0.1〜20g/10分
(b')密度が0.915〜0.93g/cm3(c')メモリーエフェクト(ME:Memory Effect)が1.6以上
(d')メルトテンション(MT:Melt Tension)が1.5g以上」としているのに対し、刊行物4に記載された発明ではそのように記載されていない点
これらの相違点について検討する。
刊行物6には、密度が0.935g/cm3以下のメタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜12のα-オレフィンとの共重合体と、高圧法低密度ポリエチレンとのブレンドにおいて、このブレンドから作られるフィルムの等方正および靱性は、異方性のシシカバブまたは列有核の形態を極小にすることによって改善されることが記載されている。
しかしながら、刊行物6には、成分Aが、エチレン-α-オレフイン共重合体であって「温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」点については何ら記載がされていないし、得られたブレンドをフイルムとすることは記載がされているが、得られたブレンドを押出ラミネート用とすることについては記載がされていないのである。
この点について、本件特許明細書に記載された本件発明によって得られる効果をみると、表1および表2に記載された実施例で示された効果が同表に記載された比較例で示された効果より優れていることを示しているのであり、メタロセン触媒で得られるエチレンと炭素数3〜12のα-オレフィンとの共重合体がすべて同等の効果を奏するともいえず、押出ラミネートとして採用した場合に、樹脂膜の巾や厚さ(本件発明のサージングやネックインに相当)が改善できることが予測できるとまではいえない。
そうであれば、たとえ刊行物6に、メタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜12のα-オレフィンとの共重合体と高圧法低密度ポリエチレンとのブレンドに関する技術が記載さているとしても、これを刊行物4に記載された発明に適用しても、本件発明の効果は予測できないものというべきである。
また、刊行物3には、線状低密度エチレン炭化水素共重合体を高圧法低密度ポリエチレンに配合することにより、押出ラミネートフィルムとした場合に、ネックインの改善ができることが記載されているが、前記したとおり、本件特許明細書の記載によれば、メタロセン触媒によって得られた線状低密度ポリエチレンであっても、得られる効果が全く異なるのであるから、メタロセン触媒以外によって得られた線状低密度エチレン炭化水素共重合体について記載されている刊行物3の技術から本件発明の効果が予測できるとまではいえない。
また、高圧法低密度ポリエチレンに線状低密度エチレンα-オレフィン共重合体を配合することが記載されている刊行物1、2、5についても刊行物4についてと同様、本件発明のA成分の共重合体について「温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」とする点については何らの記載もされていないし、刊行物7〜12については、本件発明のA成分およびB成分からなる組成物に関しては何らも記載がされていない。
したがって、各特許異議申立人それぞれが提出した前記参考資料又は参考文献を参酌して刊行物1〜12に記載された事項を併せ検討しても、本件発明が採用している構成である「成分A:下記に示す(a)〜(c)の性状を有するメタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体
(a)MFRが2〜30g/10分
(b)密度が0.935g/cm3以下
(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である」エチレンと炭素数3〜12のα-オレフィンとの共重合体を採用することの効果の予測は困難であり、成分Aを採用する効果が予測できない以上、たとえ、押出ラミネート用樹脂組成物において、本件発明のB成分を採用することが周知であっても、本件発明は、刊行物1〜12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠ならびに取消理由によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ラミネート用樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】成分A:下記に示す(a)〜(c)の性状を有するメタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体50〜99重量%
(a)MFRが2〜30g/10分
(b)密度が0.935g/cm3以下
(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である;
成分B:下記に示す(a′)、(b′)、(c′)および(d′)の性状を有する高圧法低密度ポリエチレン1〜50重量%
(a′)MFRが0.1〜20g/10分
(b′)密度が0.915〜0.93g/cm3
(c′)メモリーエフェクト(ME:Memory Effect)が1.6以上
(d′)メルトテンション(MT:Melt Tension)が1.5g以上
を含有することを特徴とする押出ラミネート用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、加工性が改良され、低温ヒートシール性、ヒートシール強度及びホットタック性が従来の成形材料に比べて著しく優れている押出ラミネート用樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ラミネート用材料として用いられてきたものは、ラジカル開始剤を使用し、高温・高圧下でエチレンを重合することによって得られた高圧法低密度ポリエチレン(以下単に「LDPE]と略記する。)であった。このLDPEは成形時に安定な膜が得られ、かつ高速加工性に優れているが、その反面低温ヒートシール性、ヒートシール強度及びホットタック性に劣るものであった。
このため、該LDPEの代替材料として、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)等が用いられているが、このようなEVAは低温ヒートシール性に優れているが、LDPEの他の欠点であるヒートシール強度やホットタック性について改良することができず、しかも、ラミネート加工時の通常の成形温度である280℃付近での熱安定性にも欠けているので、ラミネート加工時に分解されて特有の臭いを発生させるという問題点もあった。
【0003】
その後、チーグラー触媒を用いて中圧法、例えば特公昭56-18132号公報等に記載される方法で製造されるエチレンとα-オレフィンとの共重合体、いわゆる線状低密度ポリエチレン(以下単に「LLDPE」と略記する。)が出現した。しかし、このLLDPEはヒートシール強度、ホットタック性、耐衝撃強度等に優れ、LDPEの上記欠点を改良することができる性能を有しているが、加工性に大きな問題を抱えていた。すなわち、このLLDPEは従来のLDPEと比較して、押出機内での剪断粘度が高いために樹脂圧力が大きくなって高速加工が難しくなったり、押出機の所要動力が著しく増大したりするという欠点があった。また、溶融張力が小さいために膜の厚みや幅に斑ができて実用に供することができないとの欠点もあった。
しかし、これらの欠点は特開昭58-194935号公報等に記載されているLLDPEとLDPEとをブレンドする技術によって改良できることが提案された。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このようなブレンドによる改良技術によって加工性を満足させることができる材料は、逆に低温ヒートシール性、ヒートシール強度、ホットタック性などが不足となりがちで、これらの性能と加工性のバランスの良好な材料の開発が望まれていた。
一方、近年、特開昭58-19309号公報等に記載されている新しい触媒を使用することによって、従来のLLDPEよりも分子量分布、組成分布の狭い特殊な材料が得られるようになったことから、本発明者らは、この特殊なLLDPEを押出ラミネート用材料として適用するために検討を行なったところ、上記の低温ヒートシール性、ヒートシール強度及びホットタック性の性能については従来のLLDPEよりも格段に良好なものとなるが、LLDPEの欠点である加工性の不良が従来のものより大幅に悪化してしまって、より一層バランスの悪い材料となってしまうことが判明した。
本発明の目的は、この様な優れた性能を保ちながら加工性を改良する、上記従来の材料では達成されていない低温ヒートシール性、ヒートシール強度及びホットタック性などの性能に優れ、かつ、加工性の改良された押出ラミネート用の樹脂組成物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
[発明の概要]
本発明者らは、上記問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定のLLDPEを選択し、これに特殊なLDPEをブレンドすることにより、上記本発明の目的が達成され得ることができるとの知見に基づき本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明の押出ラミネート用樹脂組成物は、下記に示す成分A及び成分Bからなることを特徴とするものである。
成分A:
下記に示す(a)〜(c)の性状を有するメタロセン触媒によって得られるエチレンと炭素数3〜18のα-オレフィンとの共重合体50〜99重量%
(a)MFRが2〜30g/10分
(b)密度が0.935g/cm3以下
(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃であり;該ピークの高さをHとし、該ピークの高さの1/2の幅をWとしたときのH/Wの値が1以上である;
成分B:
下記に示す(a′)、(b′)、(c′)および(d′)の性状を有する高圧法低密度ポリエチレン1〜50重量%
(a′)MFRが0.1〜20g/10分
(b′)密度が0.915〜0.93g/cm3
(c′)メモリーエフェクト(ME:Memory Effect)が1.6以上
(d′)メルトテンション(MT:Melt Tension)が1.5g以上
【0006】
[発明の具体的説明]
[1]構成成分
(1)成分A(エチレン・α-オレフィン共重合体)
(a)性状
本発明の押出ラミネート用樹脂組成物を構成する成分Aのエチレン・α-オレフィン共重合体は、以下の▲1▼〜▲3▼の物性、好ましくはさらに▲4▼〜▲5▼の物性を示すものであることが重要である。
【0007】
▲1▼MFR
本発明にて用いられるエチレン・α-オレフィン共重合体は、JIS K7210によるMFR(メルトフローレート:Melt Flow rate:溶融流量)が2〜30g/10分、好ましくは5〜25g/10分、特に好ましくは10〜22g/10分、最も好ましくは13〜20g/10分の物性を示すものである。該MFRが上記範囲より大であると成膜が不安定となる。また、MFRが上記範囲より小さすぎると成形時に膜切れが起こる。
【0008】
▲2▼密度
本発明にて用いられるエチレン・α-オレフィン共重合体は、JIS K7112による密度が0.935g/cm3以下、好ましくは0.87〜0.92g/cm3、特に好ましくは0.88〜0.913g/cm3、最も好ましくは0.89〜0.91g/cm3の物性を示すものである。
該密度が上記範囲より大であると、低温ヒートシール性が不良となる。また、密度があまりに小さすぎると、フィルム表面にベタつきが生じ実用性に供し得なくなり、下限は通常0.86g/cm3程度である。
【0009】
▲3▼温度上昇溶離分別によって得られる溶出曲線のピーク温度
本発明にて用いられるエチレン・α-オレフィン共重合体は、温度上昇溶離分別(TREF:Temperature Rising Elution Fractionation)によって得られる溶出曲線のピークが一つであり;該ピーク温度が20〜85℃、特に好ましくは30〜75℃、最も好ましくは40〜70℃であり、かつ、このピークの[ピークの高さ]/[ピークの1/2の高さにおける幅](H/W)が1以上、好ましくは1〜20、特に好ましくは1〜15、最も好ましくは1〜10の物性を示すものである。
該溶出曲線のピーク温度が上記温度を超える場合は低温ヒートシール性が不良となるので実用性がない。上記H/Wが上記の値未満の場合はベタツキ成分が多くなり、経時的にヒートシール性が不良となるので実用性がない。
【0010】
温度上昇溶離分別による溶出曲線の測定
温度上昇溶離分別(Temperature Rising ElutionFractionation:TREF)による測定は、「Journal of Applied Polymer Science,Vol26,4217-4231(1981)」または「高分子討論会予稿集2P1C09(1985年)」に記載されている原理に基づき、以下のようにして行われる。
TREF測定の原理は、まず、測定の対象とするポリマーを溶媒中で完全に溶解する。その後、冷却して不活性担体表面に薄いポリマー層を形成させる。かかるポリマー層は結晶しやすいものが内側(不活性担体表面に近い側)に、結晶しにくいものが外側に形成されてなるものである。
次に、温度を連続又は段階的に上昇させると、低温度段階では対象のポリマー組成中の非晶部分すなわちポリマーの持つ短鎖分岐の分岐度の多いものから溶出し、温度が上昇するとともに徐々に分岐度の少ないものが溶出し、最終的に分岐のない直鎖状の部分が溶出し測定は終了するのである。
かかる各温度での溶出成分の濃度を検出し、その溶出量と溶出温度によって描かれるグラフによってポリマーの組成分布を見ることができるものである。
【0011】
▲4▼積分溶出量
上記TREFの測定において、各溶出温度における溶出物の重量分率を積算して求めた積分溶出量が、溶出温度10℃のとき10%以下であり、90℃のとき90%以上であること、好ましくは溶出温度20℃のとき10%以下であり、90℃のとき95%以上であること、特に好ましくは溶出温度20℃のとき5%以下であり、90℃のとき97%以上であることである。
【0012】
▲5▼Q値
このエチレン・α-オレフィン共重合体は、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography:SEC)によって求められるQ値(重量平均分子量/数平均分子量)が4以下、好ましくは3以下、特に好ましくは2.5以下の物性を示すものが好ましい。該Q値が上記範囲より大であると、フィルム外観が悪化してくる傾向にある。
【0013】
(b)エチレン・α-オレフィン共重合体の製造
このような線状低密度ポリエチレンの製造法は、特開昭58-19309号、同59-95292号、同60-35005号、同60-35006号、同60-35007号、同60-35008号、同60-35009号、同61-130314号、特開平3-163088号の各公報、ヨーロッパ特許出願公開第420436号明細書、米国特許第5055438号明細書及び国際公開公報WO91/04257号明細書などに記載されている方法、すなわち、メタロセン触媒、特にメタロセン・アルモキサン触媒、または、例えば、国際公開公報WO92/01723号等に開示されているようなメタロセン化合物と以下に述べるメタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなる化合物からなる触媒を使用して、主成分のエチレンと従成分のα-オレフィンとを共重合させる方法である。上述のメタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなる化合物とは、カチオンとアニオンのイオン対から形成されるイオン性化合物あるいは親電子性化合物であり、メタロセン化合物と反応して安定なイオンとなって重合活性種を形成するものである。
【0014】
このうちイオン性化合物は下記一般式(I)で表される。
一般式(I)
〔Q〕m+〔Y〕m-(mは1以上の整数)
Qはイオン性化合物のカチオン成分であり、カルボニウムカチオン、トロピリウムカチオン、アンモニウムカチオン、オキソニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオン等があげられ、さらには、それ自身が還元され易い金属の陽イオンや有機金属の陽イオンなどもあげられる。
これらのカチオンは特表平1-501950号公報などに開示されているようなプロトンを与えることができるカチオンだけではなく、プロトンを与えないカチオンでも良い。これらのカチオンの具体例としては、トリフェニルカルボニウム、ジフェニルカルボニウム、シクロヘプタトリエニウム、イニデニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、N,N-ジメチルアニリニウム、ジプロピルアンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム、トリフェニルホスホニウム、トリメチルホスホニウム、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウム、トリ(メチルフェニル)ホスホニウム、トリフェニルスルホニウム、トリフェニルオキソニウム、トリエチルオキソニウム、ピリリウム、また、銀イオン、金イオン、白金イオン、パラジウムイオン、水銀イオン、フェロセニウムイオン等があげられる。
【0015】
また、Yはイオン性化合物のアニオン成分であり、メタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなる成分であって、有機ホウ素化合物アニオン、有機アルミニウム化合物アニオン、有機ガリウム化合物アニオン、有機リン化合物アニオン、有機ヒ素化合物アニオン、有機アンチモン化合物アニオンなどがあげられ、具体的にはテトラフェニルホウ素、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)ホウ素、テトラキス(3,5-(t-ブチル)フェニル)ホウ素、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、テトラフェニルアルミニウム、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)アルミニウム、テトラキス(3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)アルミニウム、テトラキス(3,5-ジ(t-ブチル)フェニル)アルミニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム、テトラフェニルガリウム、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)ガリウム、テトラキス(3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)ガリウム、テトラキス(3,5-ジ(t-ブチル)フェニル)ガリウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガリウム、テトラフェニルリン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)リン、テトラフェニルヒ素、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ヒ素、テトラフェニルアンチモン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アンチモン、デカボレート、ウンデカボレート、カルバドデカボレート、デカクロロデカボレート等があげられる。
【0016】
また、親電子性化合物としては、ルイス酸化合物として知られるもののうち、メタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなって重合活性種を形成するものであり、種々のハロゲン化金属化合物や固体酸として知られている金属酸化物などがあげられる。具体的には、ハロゲン化マグネシウムやルイス酸性無機酸化物などが例示される。
【0017】
α-オレフィン
ここでα-オレフィンとしては、炭素数3〜18のα-オレフィン、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、4-メチルペンテン-1、4-メチルヘキセン-1、4,4-ジメチルペンテン-1等が挙げられる。これらα-オレフィンの中で好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは6〜10の1種又は2種以上のα-オレフィン2〜60重量%と、エチレン40〜98重量%とを共重合させるのが好ましい。
【0018】
共重合
重合方法としては、気相法、スラリー法、溶液法、高圧イオン重合法等を挙げることができる。これらの中では溶液法、高圧イオン重合法が好ましく、特に高圧イオン重合法で製造することが好ましい。
なお、この高圧イオン重合法とは、特開昭56-18607号、特開昭58-225106号の各公報に記載されている、圧力が100kg/cm2以上、好ましくは200〜2,000kg/cm2、温度が125℃以上、好ましくは130〜250℃、特に150〜200℃の反応条件下に行なわれるエチレン系重合体の連続的製造法である。
【0019】
(2)成分B(高圧法低密度ポリエチレン:LDPE)
(a)性状 本発明の押出ラミネート用樹脂組成物を構成する成分Aの高圧法低密度ポリエチレンは、以下の▲1▼および▲4▼の物性を示すものを用い、好ましくはさらに▲5▼および▲6▼の物性を示すものが好ましい。
▲1▼MFR
本発明に用いられる高圧法低密度ポリエチレンは、JIS K7210によるMFR(メルトフローレート:Melt Flow rate:溶融流量)が0.1〜20g/10分、好ましくは1〜13g/10分、特に好ましくは2〜13g/10分の物性を示すものである。
該MFRが上記範囲より大であると、成膜が不安定となる。また、MFRが上記範囲より小さすぎると、押出性やフィルム外観が不良となる。
【0020】
▲2▼密度
本発明にて用いられる高圧法低密度ポリエチレンは、JIS K7112による密度が0.915〜0.93g/cm3、好ましくは0.916〜0.925g/cm3、特に好ましくは0.918〜0.922g/cm3の物性を示すものである。
該密度が上記範囲より大であると、低温ヒートシール性が不良となる。また、密度が上記範囲より小さすぎると、フィルム表面にベタつきが多くなる。
【0021】
▲3▼メモリーエフェクト(ME:Memory Effect:復元効果)
本発明にて用いられる高圧法低密度ポリエチレンは、ME(3g)は、1.6以上、好ましくは1.8以上、特に好ましくは2.0以上、最も好ましくは2.3以上の物性を示すものが好ましい。
該MEが上記値より小さすぎると成膜が不安定となり好ましくない。
なお、上記ME(3g)の測定は、JISK7210で使用されるメルトインデクサーを使用し、測定条件をシリンダー温度240℃、定速押出量3g/分に設定して、以下のように実施される。
装置にサンプルを充填し、ピストンのみを乗せ、6分後に規定の押出速度をかける。次に、エチルアルコールを入れたメスシリンダーをオリフィス直下に置き、真っ直ぐな押出物を採取する。
採取した押出物の直径(D)をマイクロメーターで測定し、ダイスのオリフィン径をDOとして、次式によりMEが求められる。
ME=D/DO
【0022】
▲4▼メルトテンション(MT:Melt Tension:破断時溶融張力)
本発明で用いられる高圧法低密度ポリエチレンは、MTが1.5g以上、好ましくは2.5g以上、特に好ましくは5g以上である。MTが小さすぎると、加工性の改良効果が少なくなるので、好ましくない。
【0023】
▲5▼MEとMTの関係:
本発明で用いられる高圧法低密度ポリエチレンは、ME(3g)とMTが以下の関係を有する。
ME≧[0.05×MT+1.3]/g、好ましくは
ME≧[0.05×MT+1.5]/g
この関係を満たさないと、加工性の改良効果が少なくなるので、好ましくない。
【0024】
▲6▼Q値
この高圧法低密度ポリエチレンは、サイズ排除クロマトグラフィー(SizeExclusion Chromatography:SEC)によって求められるQ値(重量平均分子量/数平均分子量)が5〜30、特に好ましくは7〜25、最も好ましくは10〜20の物性を示すものが好ましい。
該Q値が上記範囲より大であると、フィルム外観が悪化してくる傾向にあるので好ましくない。また、Q値が上記範囲より小さすぎると、成膜が不安定となってくる傾向があるので好ましくない。
【0025】
(b)高圧法低密度ポリエチレンの具体例
このような高圧法低密度ポリエチレンは市販品の中から適宜選んで使用することができるが、中でも、反応温度220℃以上、反応圧力1,700kg/cm2以下でオートクレーブ法にて製造されたポリエチレンを使用するのが好ましい。
【0026】
[II]量比
これら成分Aのエチレン・α-オレフィン共重合体と成分Bの高圧法低密度ポリエチレンとの配合割合は、成分Aが50〜99重量%で成分Bが1〜50重量%、好ましくは成分Aが55〜95重量%で成分Bが5〜45重量%、特に好ましくは成分Aが60〜85重量%で成分Bが15〜40重量%である。
上記成分Bの配合割合が上記範囲よりも少なすぎると加工性改良効果が不十分となる。また、上記成分Aの配合割合が上記範囲よりも少なすぎるとヒートシール性、ホットタック性等が不良となる。
【0027】
[III]押出ラミネート用樹脂組成物の製造
(1)配合
本発明の押出ラミネート用樹脂組成物は、通常の樹脂組成物の製造方法と同様の方法で成分Aのエチレン・α-オレフィン共重合体と成分Bの高圧法低密度ポリエチレンとを配合することによって製造することができる。
具体的には、成分Aと成分Bとを押出機、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー等を用いて溶融、混練し、押出ラミネート用樹脂組成物が得られる。
該押出ラミネート用樹脂組成物は通常に行なわれている方法、例えば、押出機によりペレット状とするのが普通である。
【0028】
(2)その他の添加剤
本発明の押出ラミネート用樹脂組成物には、一般に樹脂組成物用として用いられている補助添加成分、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤等を配合しても良い。
【0029】
(3)樹脂組成物の物性
このようにして得られる本発明の押出ラミネート用樹脂組成物の物性としては、望ましくは、MFRが5〜25g/10分、好ましくは8〜20g/10分であり;密度が0.87〜0.932g/cm3、好ましくは0.89〜0.912g/cm3であり;Q値が2〜10、好ましくは3〜6でり;ME(3g)が1.2〜2.3、好ましくは1.5〜2.0であり;MTが1.0g以上、好ましくは1.5g以上であり;且つ該樹脂組成物のMEとMTの関係が
ME≧[0.2×MT+1]/g
を満足するものが好適である。
【0030】
[IV]成形加工
上記ペレツトを用いて成形加工してフィルムを製造することができる。フィルムの製造方法は、押出ラミネート法により、各種基材に押出コーティングすることによって、ラミネートフィルムとする。
【0031】
上記各種基材としては、紙、アルミニウム箔、セロファン、織布、不織布、フィルムとすることができる高分子重合体、例えば、高密度ポリエチレン、中、低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン、ポリー1-ブテン、ポリ-4-メチルペンテン-1等のオレフィン重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル等のビニル共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン7、ナイロン10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ポリメタキシリレンアジパミド等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート等を挙げることができる。
【0032】
【実施例】
以下に実施例及び比較例よりなる実験例を記載し、本発明を更に具体的に説明する。
[I]物性の測定方法と評価方法
実施例及び比較例における物性の測定と評価は、以下に示す方法によって実施した。
(1)物性の測定
(a)MFR:JIS K7210に準拠(190℃,2.16kg荷重)
(b)密度:JIS K7112に準拠
(c)ME(Memory Effect:復元効果):JIS K7210で使用されるメルトインデクサーを使用し、測定条件をシリンダー温度240℃、定速押出量3g/分に設定して行なった。
装置にサンプルを充填し、ピストンのみを乗せ、6分後に規定の押出速度をかける。次に、エチルアルコールを入れたメスシリンダーをオリフィス直下に置き、真っ直ぐな押出物を採取する。採取した押出物の直径(D)をマイクロメーターで測定し、ダイスのオリフィス径をDOとして次式によりMEを求める。
ME=D/DO
【0033】
(d)溶出曲線の測定:本発明における温度上昇溶離分別(Temperature Rising Elution Fractionation:TREF)による溶出曲線のピークは、一度高温にてポリマーを完全に溶解させた後に冷却し、不活性担体表面に薄いポリマー層を生成させ、次いで、温度を連続又は段階的に昇温して、溶出した成分を回収し、その濃度を連続的に検出して、その溶出量と溶出温度によって描かれるグラフ(溶出曲線)のピークで、ポリマーの組成分布を測定するものである。
【0034】
該溶出曲線の測定は、以下のようにして行った。
測定装置としてクロス分別装置(三菱油化(株)製CFC T150A)を使用し、付属の操作マニュアルの測定法に従って行った。
このクロス分別装置は、試料を溶解温度の差を利用して分別する温度上昇溶離分別(TREF)機構と、分別された区分を更に分子サイズで分別するサイズ排除クロマトグラフ(Size Exclusion Chromatography:SEC)をオンラインで接続した装置である。
【0035】
まず、測定すべきサンプル(共重合体)を溶媒(o-ジクロロベンゼン)を用い、濃度が4mg/mlとなるように、140℃で溶解し、これを測定装置内のサンプルループ内に注入する。以下の測定は設定条件に従って自動的に行われる。
サンプルループ内に保持された試料溶液は、溶解温度の差を利用して分別するTREFカラム(不活性担体であるガラスビーズが充填された内径4mm、長さ150mmの装置付属のステンレス製カラム)に0.4ml注入される。次に、該サンプルを1℃/分の速度で140℃から0℃の温度まで冷却し、上記不活性担体にコーティングさせる。このとき、高結晶性成分(結晶しやすいもの)から低結晶性成分(結晶しにくいもの)の順で不活性担体表面にポリマー層が形成される。TREFカラムが0℃で更に30分間保持された後、0℃の温度で溶解している成分2mlが、1ml/分の流速でTREFカラムからSECカラム(昭和電工社製AD80M/S3本)へ注入される。
SECで分子サイズでの分別が行われている間に、TREFカラムでは次の溶出温度(5℃)に昇温され、その温度に約30分間保持される。SECでの各溶出区分の測定は39分間隔で行われた。溶出温度は以下の温度で段階的に昇温される。
0,5,10,15,20,25,30,35,40,45,49,52,55,58,61,64,67,70,73,76,79、82,85,88、91,94,97,100,102,120,140℃
【0036】
該SECカラムで分子サイズによって分別された溶液は、装置付属の赤外分光光度計でポリマーの濃度に比例する吸光度が測定され(波長3.42μ,メチレンの伸縮振動で検出)、各溶出温度区分のクロマトグラムが得られる。
内蔵のデータ処理ソフトを用い、上記測定で得られた各溶出温度区分のクロマトグラムのベースラインを引き、演算処理される。各クロマトグラムの面積が積分され、積分溶出曲線が計算される。また、この積分溶出曲線を温度で微分して、微分溶出曲線が計算される。計算結果の作図はプリンターに出力される。出力された微分溶出曲線の作図は、横軸に溶出温度を100℃当たり89.3mm、縦軸に微分量(全積分溶出量を1.0に規格し、1℃の変化量を微分量とした)0.1当たり76.5mmで行った。次に、この微分溶出曲線のピーク高さ(mm)を1/2高さの幅(mm)で除した値をH/Wとした。
【0037】
(e)Q値:サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography:SEC)を用いて、以下に示す測定条件下で測定し、重量平均分子量/数平均分子量よりQ値を求めた。単分散ポリスチレンで、ユニバーサルな検量線を作成し、直鎖のポリエチレンの分子量として計算した。
機種:Waters Model150C GPC
溶媒:o-ジクロロベンゼン
流速:1ml/分
温度:140℃
測定濃度:2mg/ml
注入量:200μl
カラム:昭和電工(株)製AD80M/S3本
【0038】
(2)評価方法
(a)サージング(surging):押出ラミネート成形時、基材をクラフト紙とし、クラフト紙上に厚み20μmでサンプルを押出ラミネートする。サージングは、押出ラミネートしたフィルムの幅をLとするとき、L/2が1.5mm未満で変動するときを良好、1.5mm以上で変動するときを不良とする。
(b)MT(Melt Tension:破断時溶融張力):東洋精機製キャピログラフ1-Bにて、試験温度190℃、押出速度1cm/分、押し出された溶融樹脂を引き取る際の引き取り速度を徐々に速くして、樹脂フィラメントが破断した時の応力とする。なお、使用したダイ径は、長さ8.00mm、内径2.095mm、外径9.50mmである。
【0039】
(c)樹脂圧力:押出ラミネート時、押出機のダイヘッドに取り付けた樹脂圧力計によって測定した。
(d)ネックイン:サージング評価と同様に押出ラミネート成形をした際、基材をクラフト紙として、該クラフト紙上にサンプルを20μmの厚みで押出ラミネートする。ネックインはダイスの有効幅をLO、クラフト紙上にコーティングされたフィルムの幅をLとするときの、LO-Lより求められる。
【0040】
(e)ヒートシール強度:東洋精機製熱盤式ヒートシーラーにて、シール温度110℃、シール圧力2kg/cm2、シール時間1秒でヒートシールした後に、引張試験機にてヒートシール強度を測定する。
(f)3kg荷重ヒートシール温度:上記ヒートシール強度を測定し、そのヒートシール強度が3kg得られる温度を3kg荷重ヒートシール温度とする。
(g)ホットタック性:ヒートシール条件として、シールバー寸法200mm×30mm、シール圧力1kg/cm2、シール時間0.5秒、荷重50g、チャック圧力1kg/cm2、シール温度は90℃から150℃まで、5℃おきとしてヒートシールし、ヒートシール後、50g荷重で負荷された状態でヒートシール部剥離が完全に止まるまで放置し、剥離した長さを1mm単位まで読み取る。剥離距離が1mm〜2mmであった温度幅をホットタック性とする。
(h)破断時引取速度:東洋精機製キャピログラフ1-Bにて、試験温度190℃、押出速度1cm/分で、押出された溶融樹脂を引取る際の引取速度を徐々に速くして、樹脂フィラメントが破断したときの最大引取速度(m/分)を測定した。なお、使用したダイ径は、長さ8.00mm、内径2.095mm、外径9.50mmである。
【0041】
[II]実験例
実施例1
エチレン・α-オレフィン共重合体(成分A)の製造
触媒の調製は、特開昭61-130314号公報に記載された方法で実施した。すなわち、錯体エチレン-ビス(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド2.0ミリモルに、東洋ストファー社製メチルアルモキサンを上記錯体に対し1,000モル倍加え、トルエンで10リットルに希釈して触媒溶液を調製し、以下の方法で重合を行なった。
内容積1.5リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器にエチレンと1-ヘキセンとの混合物を1-ヘキセンの組成が80重量%となるように供給し、反応器内の圧力を1,600kg/cm2に保ち、160℃で反応を行なった。
反応終了後、MFRが18g/10分、密度が0.898g/cm3、Q値が1.9、TREF溶出曲線のピークが1つであり、そのピーク温度が50℃、該ピーク温度のH/Wが1.5のエチレン・α-オレフィン共重合体(1-ヘキセン含量22重量%)を得た。
【0042】
高圧法低密度ポリエチレン(成分B)の製造
反応温度260℃、反応圧力1,500kg/cm2で、オートクレーブ法にて製造した。MFRが4g/10分、密度が0.92g/cm3、MEが2.4、Q値が10の高圧法低密度ポリエチレンを得た。
【0043】
樹脂組成物の製造
表1に記載される通り、上記の線状低密度ポリエチレン(成分A)と高圧法低密度ポリエチレン(成分B)とを、成分A:成分B=75:25重量%の割合で配合し、40mmφ単軸押出機で160℃の成形温度にて造粒して、該成分Aと成分Bとからなるペレット状の樹脂組成物を得た。
【0044】
評価
このペレット状の樹脂組成物を、40mmφ単軸押出機を用いて280℃の成形温度で肉厚30μmのフィルム状に押し出し、これを幅360mmのTダイより、予め肉厚30μmのLDPEと厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルムとがラミネートされた積層体のLDPE側上に、押出ラミネートコーティングした。
このラミネート三層フィルムを用いて、ヒートシール強度、3kg荷重ヒートシール温度、ホットタック性を測定した。また、同様の方法で、基材に二軸延伸ナイロンフィルムの代わりにクラフト紙を用い、肉厚20μmにて押出ラミネートコーティングしたラミネートフィルムのネックインの測定及びサージング評価を行なった。
得られた評価結果を表1に示す。
【0045】
実施例2〜5、7〜16及び比較例1〜10
成分A及び成分Bとして、表1に記載される物性を示すものを用いた以外は、実施例1と同様に調製して樹脂組成物を得た。これを成形し、評価した。得られた評価結果を表1に示す通りである。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

*フィルム外観不良のため性能評価を行わなかった。
【0052】
実施例17
エチレン・α-オレフィン共重合体(成分A)の製造
触媒の調製は、特開昭61-130314号公報に記載された方法で実施した。すなわち、錯体エチレン-ビス(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド2.0ミリモルに、東洋ストファー社製メチルアルモキサンを上記錯体に対し1,000モル倍加え、トルエンで10リットルに希釈して触媒溶液を調製し、以下の方法で重合を行なった。
内容積1.5リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器にエチレンと1-ヘキセンとの混合物を1-ヘキセンの組成が80重量%となるように供給し、反応器内の圧力を1,600kg/cm2に保ち、180℃で反応を行なった。
反応終了後、MFRが18g/10分、密度が0.890g/cm3、Q値が2.1、TREF溶出曲線のピークが1つであり、そのピーク温度が50℃、該ピーク温度のH/Wが1.5であり、ピーク以外に溶出量の存在を示す曲線がみられるエチレン・α-オレフィン共重合体(1-ヘキセン含量22重量%)を得た。
【0053】
高圧法低密度ポリエチレン(成分B)の製造
反応温度260℃、反応圧力1,700kg/cm2で、オートクレーブ法にて製造した。MFRが4g/10分、密度が0.92g/cm3、MEが2.5、Q値が10の高圧法低密度ポリエチレンを得た。
【0054】
樹脂組成物の製造
表2に記載される通り、上記のエチレン・α-オレフィン共重合体(成分A)と高圧法低密度ポリエチレン(成分B)とを、成分A:成分B=75:25重量%の割合で配合し、40mmφ単軸押出機で160℃の成形温度にて造粒して、エチレン・α-オレフィン共重合体(成分A)と高圧法低密度ポリエチレン(成分B)とからなるペレット状の樹脂組成物を得た。
評価
得られた樹脂組成物から製造した積層物についての評価は実施例1と同様にして行った。その結果を表2に示す。
【0055】
実施例18〜27及び比較例11〜20
成分A及び成分Bとして、表2に記載される物性を示すものを用いた以外は、実施例17と同様に調製して樹脂組成物を得た。これを成形し、評価した。得られた評価結果を表2に示す通りである。
【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
【表9】

【0059】
【表10】

【0060】
【表11】

*比較例18の成分Aはチーグラ触媒で製造された線状低密度ポリエチレンを使用した。
【0061】
【発明の効果】
このような本発明の押出ラミネート用樹脂組成物は、従来のLLDPEよりも加工性が改良され、かつ従来の成形材料に比べて低温ヒートシール性、ヒートシール強度、ホットタック性に著しく優れるといった効果が奏されるために、スナック、インスタントラーメン等の乾燥食品、味噌、漬物、スープ、ジュース等の水物食品、冷凍食品、畜肉、ハム等の食品包装・充填用フィルムや醤油、ソース等のミニパック;バッグインボックス、輸液バッグ等の医薬品包装・充填用フィルム;シャンプー、化粧品等のミニパック;カセットテープ等の雑貨品の包装・充填用フィルム;各種蓋材など、広範囲な用途における各種包装用又は充填用フィルムの押出ラミネート用材料として極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明実施例18にて使用されたエチレン・α-オレフィン共重合体の温度上昇溶離分別(TREF)による溶出曲線を示す説明図である。
【図面】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2002-12-13 
出願番号 特願平5-297010
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 161- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三谷 祥子  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 藤原 浩子
一色 由美子
佐野 整博
船岡 嘉彦
登録日 1999-09-10 
登録番号 特許第2978387号(P2978387)
権利者 日本ポリプロ株式会社
発明の名称 ラミネート用樹脂組成物  
代理人 中山 亨  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 斉藤 武彦  
代理人 斉藤 武彦  
代理人 畑 泰之  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 久保山 隆  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 神野 直美  

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