• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12C
管理番号 1125824
異議申立番号 異議2003-73132  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-12-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-16 
確定日 2005-07-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3455162号「発泡酒の製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3455162号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3455162号に係る発明についての出願は、平成12年5月24日に特願2000-153864号として出願され、平成15年7月25日にその特許の設定登録がなされ、その後、村山和人より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年10月1日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
(i)特許請求の範囲の請求項1に係る記載を、「(1)麦芽および(2)(a)副原料として50〜80%の固形分濃度をもつ大麦分解物と(b)米、コーンスターチ、コーングリッツおよび液糖よりなる群から選ばれた大麦分解物以外の副原料、とを使用して発泡酒を製造する方法において、(1)麦芽の使用量を、水を除く原料に対して25重量%未満とし、(2)(a)固形分80%の大麦分解物としての使用量を、水を除く原料に対して1〜25重量%とし、(b)前記大麦分解物以外の副原料を残量とすることを特徴とする発泡酒の製造方法。」と訂正する。
(ii)特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(iii)明細書の段落【0002】及び【0009】の「コーン、スターチ等」をいずれも「コーンスターチ等」と訂正する。
(iv)明細書の段落【0010】を「すなわち、本発明は(1)麦芽および(2)(a)副原料として50〜80%の固形分濃度をもつ大麦分解物と(b)米、コーンスターチ、コーングリッツおよび液糖よりなる群から選ばれた大麦分解物以外の副原料、とを使用して発泡酒を製造する方法において、(1)麦芽の使用量を、水を除く原料に対して25重量%未満とし、(2)(a)固形分80%の大麦分解物としての使用量を、水を除く原料に対して1〜25重量%とし、(b)前記大麦分解物以外の副原料を残量とすることを特徴とする発泡酒の製造方法に関する」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項(i)は、副原料を特定し、麦芽、大麦分解物及び副原料の使用量を規定したものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、同(ii)は、特許請求の範囲を削除するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、同(iii)は、誤記の訂正を目的とした訂正に該当し、同(iv)は、同(i)と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、これらの訂正は新規事項に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の4、2項及び同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.本件発明
上記「II」で示したように、上記訂正は認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。「【請求項1】(1)麦芽および(2)(a)副原料として50〜80%の固形分濃度をもつ大麦分解物と(b)米、コーンスターチ、コーングリッツおよび液糖よりなる群から選ばれた大麦分解物以外の副原料、とを使用して発泡酒を製造する方法において、(1)麦芽の使用量を、水を除く原料に対して25重量%未満とし、(2)(a)固形分80%の大麦分解物としての使用量を、水を除く原料に対して1〜25重量%とし、(b)前記大麦分解物以外の副原料を残量とすることを特徴とする発泡酒の製造方法。」

2.引用刊行物
当審で通知した取消理由で引用した刊行物2(THE BREWER APRIL 1971、111〜116頁;以下の摘示事項は特許異議申立人の提出した訳文による。)には、(イ)「大麦シロップは、未加工の大麦と酵素から作られる。」(112頁左欄下から12行〜11行)、(ロ)「実質的に経済的なものにすることを基礎に、過去数年に渡って、2つの製造業者の大麦シロップを使った醸造試験が実施されてきた。最初は実験的な醸造規模で行われ、後に麦芽の50%まで(大麦シロップに)置き換えたものを使って実製造規模で行われた。最終的には、100%置換で醸造物が製造されたことにより、麦芽に替えた大麦シロップへの依存が可能であることが示唆された。」(112頁左欄下から2行〜右欄7行)、(ハ)「2,3のかなり極端に幅広く変動するものを除いて、その2つの製造業者のシロップは、炭水化物の組成において汎用の麦汁と大いに異なるものではなかった。製造業者(1)の方がよりよく一致していた。製造業者(1)は、また、ラガービール醸造向きの低デキストリン原料を用いることで、よりうまくいった。」(113頁左欄下から8行〜末行)、及び(ニ)「これらの結果を考慮すると以下の結論が導かれる。(a)2つの供給源(大麦シロップ)からの標準的な調製品は、相互に、そして汎用の麦芽と比べても、化学組成上、充分遜色のないものとなっている。麦芽から作られる麦汁との相違点が認められるからといって、ビールとして受容できるビール、或いは既存のビールとほぼ同等のビールを製造するためにそれら(2種の大麦シロップ)を使用することの妨げにはなるものではない。実際、分析したすべての大麦シロップのサンプルを試験醸造において実験的に使用したところ、上述の結論となることが確認された。・・・(略)・・・(c)標準の大麦シロップにおける高分子量の窒素化合物の割合は、一般に、汎用の麦汁のものよりも高い。この画分は混濁物質や泡形成物質を含んでいるため、大麦シロップから作られるビールは、ビールの品質のために特別な評価が必要になる。」(113頁右欄下から17行〜114頁左欄4行)ことが記載されている。
同刊行物11(特開平11-318425号公報)には、「従来の技術」として、「我が国の酒税法上、麦芽を使用する酒類のうち、ビールは、主原料としての麦芽、副原料としての米、小麦、コーン、スターチ等の澱粉質、ホップ及び水を原料とするものであり、水を除く麦芽の使用量が、66.7重量%以上と規定されている。一方、発泡酒の場合、2段階の規定があり、上記原料のうち水を除く麦芽の使用量が、(1)25重量%以上、66.7重量%未満、(2)25重量%未満と規定されている。」(段落【0002】)及び「このような発泡酒において、仕込等を同1条件で製造したとしても、麦芽の使用量に応じて、その味と香り(以下、「香味」という。)に変化を生ずる。麦芽以外の副原料の使用量に対して麦芽の使用量を少なくした場合には、本発明者の研究結果によると、ビールと同1条件で製造したとしても、通常のビールと異なる香味タイプのものが得られることが分かった。すなわち、麦芽の使用量を減らしていくと、味覚的には、酸味の増加が目立ってくる。」(段落【0005】)ことが記載されている。

3.当審の判断
本件発明と刊行物11に記載の発明、特に段落【0002】の(2)の麦芽の使用量が25重量%未満である発泡酒の製法とを対比すると、両者は「麦芽並びに米、コーンスターチから選ばれた副原料とを使用して発泡酒を製造する方法において、麦芽の使用量を、水を除く原料に対して25重量%未満とすることを特徴とする発泡酒の製造方法」の点で一致し、前者では、副原料として50〜80%の固形分濃度をもつ大麦分解物を使用し、かつ、固形分80%の大麦分解物としての使用量を水を除く原料に対して1〜25重量%に限定しているのに対し、後者には、副原料として大麦分解物を使用することについて記載されていない点で相違する。
上記相違点について検討するに、刊行物2に係る「大麦シロップ」は、大麦と酵素から作られるものである(上記摘示事項(イ)参照。)から、本件発明に係る大麦分解物と変わるところはなく、麦芽の50%まで大麦シロップに置き換えたものを使用してビールを製造したこと、及び大麦シロップに置き換えて製造したビールは、汎用の麦芽を用いて製造したビールと比べても充分遜色のないものになることが刊行物2に記載されていることから、刊行物11に記載の発泡酒の製造において、副原料として麦芽の代替品たる大麦分解物(大麦シロップ)を使用することは、当業者にとって格別困難なことではない。
また、大麦分解物の使用にあたって、製造現場での取り扱い易さ等を考慮して大麦分解物を濃縮して固形分濃度を「50〜80%」に調整することは当業者が適宜なし得ることであり、その使用量を「1〜25重量%」に設定することも、当業者が適宜なし得ることである。
そして、本件明細書の「実施例1」には、「10人のパネリストによる大麦分解物使用率による発泡酒臭の有無」として「表2」が記載されているところ、大麦分解物使用率が本件発明に係る「5%」の場合、発泡酒臭があると答えたパネリストが5名もいること、及び、刊行物2の摘示事項(ニ)の「麦芽を大麦シロップに置き換えても通常のビールと遜色のない」という記載を踏まえると、本件発明に係る効果は、当業者が予測し得ないような顕著なものであるとはいえない。
したがって、本件発明は、刊行物2及び11に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
発泡酒の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(1)麦芽および(2)(a)副原料として50〜80%の固形分濃度をもつ大麦分解物と(b)米、コーンスターチ、コーングリッツおよび液糖よりなる群から選ばれた大麦分解物以外の副原料、とを使用して発泡酒を製造する方法において、(1)麦芽の使用量を、水を除く原料に対して25重量%未満とし、(2)(a)固形分80%の大麦分解物としての使用量を、水を除く原料に対して1〜25重量%とし、(b)前記大麦分解物以外の副原料を残量とすることを特徴とする発泡酒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、麦芽を使用した酒類のうち、麦芽の使用量が、他の副原料よりも少ない発泡酒の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
我が国の酒税法上麦芽を使用する酒類のうち、ビールは、主原料としての麦芽、副原料としての米、コーンスターチ等の澱粉質、ホップ及び水を原料とするものであり、水を除く麦芽の使用量が67重量%以上と規定されている。一方、発泡酒には、上記原料の内水を除く麦芽の使用量が50重量%以上66.7重量%未満及び、25重量%以上50重量%未満及び、25重量%未満の3種類がある。
【0003】
発泡酒は、我が国の酒税法上、麦芽を原料の一部として用いた雑酒に属し、ビールも発泡酒も、いずれも麦芽の活性酵素あるいはカビ由来などの精製された酵素を用い、副原料である澱粉質を糖化させ、糖化液を発酵させて、アルコール、炭酸ガスに分解して得るアルコール飲料である点においては変わりがない。従って、発泡酒の作り方も、ビールの作り方と基本的に大きく変わるものでなく、ビールの製造装置を使用して作ることが可能である。
【0004】
このような発泡酒において、仕込等を同一条件で製造したとしても、麦芽の使用量に応じて、その味及び香り(以下、「香味」という。)、泡に変化を生ずる。つまり、麦芽の使用量を減らして行き、麦芽以外の副原料の使用量に対して麦芽の使用量を少なくした場合には、ビールと同一条件で製造したとしても、通常のビールと異なる香味をもつものが得られることが知られている。麦芽の使用量を減らしていくと、プラスチック様のS(硫黄)系臭、こげ臭など、いわゆる発泡酒臭が目立つようになり、味覚的には酸味が増加し、後味が悪くなる上、泡の持続性(以下、「泡持ち」という。)や泡のグラスへの付着性(以下、「泡つき」という)といった泡特性も悪くなる。
【0005】
発泡酒の香味改善の従来技術として、以下に示すようにいろいろの方法がある。例えば、特開平10-225287号公報には仕込工程中にプロテアーゼを添加するか、または仕込工程以降、発酵工程に入るまでの間にアミノ酸を添加することにより、アミノ体窒素の生成量を調整し、有機酸、エステル類及び高級アルコール類の生成量を制御し、発泡酒の香味を調整する発泡酒の製造方法が開示されている。
【0006】
また、特開平11-178564号公報には、発酵工程前に酵母の栄養源として酵母エキスまたはペプトンの有機窒素源を添加することにより、発泡酒の香味を調整する発泡酒の製造方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、市販のピルスナータイプのビールと発泡酒の両方に対して、香味による識別試験を行うと、下記表1に示すように、発泡酒は明らかに通常のビールに比べて香味が劣り、特有の発泡酒臭が存在することが明らかとなった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、好ましくない発泡酒臭を低減させ、従来のビールと較べても遜色のない香味と泡特性を有する発泡酒を提供する点にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、副原料として用いる米、コーンスターチ等の澱粉質の一部または全部を大麦分解物に置き換えることにより、発泡酒特有の香味が顕著に低減され、泡特性の良い発泡酒が製造できることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、(1)麦芽および(2)(a)副原料として50〜80%の固形分濃度をもつ大麦分解物と(b)米、コーンスターチ、コーングリッツおよび液糖よりなる群から選ばれた大麦分解物以外の副原料、とを使用して発泡酒を製造する方法において、(1)麦芽の使用量を、水を除く原料に対して25重量%未満とし、(2)(a)固形分80%の大麦分解物としての使用量を、水を除く原料に対して1〜25重量%とし、(b)前記大麦分解物以外の副原料を残量とすることを特徴とする発泡酒の製造方法に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
まず、本発明に用いる大麦分解物について説明する。大麦分解物は、大麦に大麦麦芽を特定の割合で混合したものを酵素反応により糖化処理し、得られた糖化液を濃縮したものをいう。大麦麦芽は通常の方法で製麦されたものであれば特に限定されない。大麦は主に湿式粉砕されたものを用いる。加水することにより大麦自身がもつ糖化酵素によりある程度澱粉のα化が進む。大麦と大麦麦芽の混合比率(重量比)については、大麦:大麦麦芽=1:2〜10:0であればよく、好ましくは8:1〜20:1、さらに好ましくは9:1がよい。大麦:大麦麦芽=1:2よりも大麦麦芽の量が多いと、大麦分解物が高価なものになり、大麦が多い場合、例えば大麦:大麦麦芽=20:1よりも大麦が多いときは糖化酵素が不足し、加水分解されない多糖が多く残存するので、糖度が高すぎて濾過等が困難となり、良質の大麦分解物が製造できないうえ、特有の臭いがつく場合がある。このような場合には糖化酵素を補うことが好ましい。
【0012】
大麦分解物の製造における酵素による糖化は麦芽中の糖化酵素により行われるが、さらにα-アミラーゼやβ-アミラーゼ等を添加して糖化を促進するのが好ましい。また、大麦中のタンパクを分解するため、プロテアーゼの添加も可能である。酵素反応処理後、加熱、濃縮して本発明に用いる大麦分解物を得る。濃縮の程度は、通常、固形分濃度50〜80%程度のものを使用する。80%を超えると粘度が高くなりすぎ、取扱いが不便になり、一方50%より濃度が低いと雑菌が繁殖しやすくなるという点で不都合な面があるが、最も好ましいのは固形分濃度が80%かまたはそれに近い領域である。
【0013】
大麦分解物は、市販のものを使用することができ、例えばノバルティス社のExtramalt Liquid Regularが好適である。大麦分解物を使用することにより、発泡酒の香味の欠点とされる発泡酒特有のプラスチック様S系臭、こげ臭、いわゆる発泡酒臭や酸味のある特徴的な後味を除去もしくは低減できるのは、大麦分解物が窒素源、ビタミン、ミネラルなどビールの麦汁に近い組成を持っており、それを麦芽量の少ない発泡酒に使用することで、他の副原料、コーンスターチやコーングリッツ、液糖のような、殆ど糖分のみしか供給しない副原料を使用した場合よりも酵母の発酵状況が改善されるためと考えられる。また、大麦分解物を使用することにより、発泡酒の泡持ちや泡つきといった泡特性が向上するのは、大麦分解物に泡を向上させるタンパク質が多く含まれているためと考えられる。
【0014】
本発明の発泡酒の製造過程は、濾過工程前に大麦分解物を添加すること以外は、通常のビール製造と変わることはなく、通常のビール製造装置をそのまま利用することができる。また、本発明に使用する酵母の種類は、製造したい発泡酒の風味等を考慮して、適宜選択すればよく、通常のビール製造に用いられる酵母を使用することができる。麦芽の使用量は、上記のように麦芽以外の副原料の2倍量よりも少ない量(水を除く原料の66.7重量%未満)であれば良いが、麦芽の使用量が少なく、特に麦芽の使用量が水を除く原料の25重量%未満である発泡酒の製造に、本発明は好適に利用される。
【0015】
次に、本発明の発泡酒の製造方法について図1を参照して説明する。主原料である麦芽の一部及び澱粉質の副原料の全部または一部を仕込釜に入れ、温水を加えてこれらの原料を混合して液化を行いマイシェを作るが、この操作は通常、開始時の液温を50℃程度とし、徐々に昇温して所定温度、通常は65〜68℃とした後、該温度に所定時間(通常は10分間程度)保持し、さらに昇温して段階的に所定の温度、通常は90〜100℃まで液温を高め、この温度に20分程度保持する。一方、仕込槽では、残りの麦芽に温水を加えて混合し、所定温度、通常は35〜50℃とし、所定時間、通常は20〜90分間程度保持してマイシェを作った後、これに前記仕込釜のマイシェを仕込槽中のマイシェに加えて合一する。次に、このマイシェを仕込槽中において所定温度、通常は60〜68℃で所定時間、通常は30〜90分間程度保持して酵素作用による糖化を行う。糖化工程終了後、麦汁濾過槽で濾過を行って濾液としての透明な麦汁を得る。
【0016】
次いで、この麦汁を煮沸釜に移し、ホップを加えて煮沸する。煮沸した麦汁をワールプールと呼ばれる沈殿槽に入れて、生じた蛋白質などの粕を除去し、ついでプレートクーラーにより適切な発酵温度、通常は8〜10℃まで冷却してから発酵タンクに移す。発酵タンクに冷麦汁を入れ、さらに酵母の栄養源となる有機窒素源を添加した後、該冷麦汁に酵母を接種して発酵を行う。次いで、得られた発酵液を熟成(後発酵)させ、目的の発泡酒を得ることができる。
【0017】
なお、大麦分解物の添加は、仕込釜および仕込槽でのマイシェ工程、麦汁煮沸工程、発酵工程のいずれの工程でもよく、発酵液濾過工程前であればよい。また、水を除く副原料の100%を大麦分解物にしてもよいし、大麦分解物を一部に使い、コーンスターチ等の他の副原料を併用することもできる。麦芽を含む全原料(水は除く)中の大麦分解物の比率は80%濃度の大麦分解物として1%以上とし、好ましくは5%以上、さらに好ましくは25%以上がよく、25%以上であれば、発泡酒臭が殆ど感じられない発泡酒を製造できる。
【0018】
【実施例】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例では大麦分解物としてノバルティス社のExtramalt Liquid Regularを使用した。
【0019】
試験例1(発泡酒臭)
通常市販されているピルスナータイプのビールと発泡酒について、ビールと発泡酒を香味による識別試験をパネリスト15名により実施した。
【表1】

表1からも判るように、発泡酒には特有の香味(発泡酒臭)が存在することが明らかである。
【0020】
実施例1(200Lスケール醸造設備における試験醸造)
200Lスケール醸造設備(図1参照)の概略と製造方法について示す。仕込釜・仕込槽・煮沸釜は蒸気ジャケットを用いて温度パターンを自由に設定することが出来るうえ、攪拌機で中の温度分布を均一に保つことが出来る。濾過槽では堆積した麦芽層を均一にする解層機とステンレス製の篩からなっており、ここでもろみは濾過され、麦芽粕と麦汁に分離される。煮沸釜では麦汁にホップを添加して煮沸し、そこで生じた蛋白質などの粕をワールプールと呼ばれる沈殿槽で除去する。そして、水等を冷媒に用いたプレートクーラーにより適切な発酵温度にまで冷却されて、ブラインコントロールによって温度制御できる200Lの発酵タンクに移される。
【0021】
麦芽と大麦分解物〔大麦:大麦麦芽=9:1(重量比)で製造したもので、固型分は80%〕を含んだ副原料を計40〜50kg使用して麦汁を製造し、泥状酵母を加えて、発酵温度6〜12℃で発酵させた後、-1℃にして貯酒を行った。発酵液を濾過して酵母を取り除き、アルコール5%程度の発泡酒と同じ麦芽使用比率24%の酒類を製造した。全原料中の大麦分解物使用率を変更して香味に対する影響について調べた。評価項目は発泡酒臭の有無で、評価基準は下記表2の通りである。
【0022】
10人のパネリストによる大麦分解物使用率による発泡酒臭の有無
【表2】

表2の実施例から、大麦分解物の使用率増大と共に発泡酒臭が抑えられていくことがわかった。使用率25%以上のものは淡色ビールと同様の色・香味をしており、官能的にももっとも良かった。
【0023】
同様に全原料中の大麦分解物使用率を変更して泡に対する影響について調べた。評価項目は泡特性として泡持ちシグマ値(Σ)と泡つきPrimary Lacing Index(PLI)で、いずれも高い値を示せば、泡特性が良いと考えられる。
【0024】
大麦分解物使用率による泡特性の変化
【表3】

表3のデータから、大麦分解物の使用比率の増大と共に泡特性が向上していることがわかった。使用率5%で市販発泡酒よりも高い泡特性を有し、ビール並の泡特性が得られた。この原因を調べるために、泡に関与しているといわれている40KDa蛋白質と全蛋白質の量を調べた。
【0025】
大麦分解物使用率による蛋白質量の変化
【表4】

表4の結果から、大麦分解物の使用比率の増大と共に40KDa蛋白質及び全蛋白質が増加し、これが泡特性の向上に関与していると考えられた。
【0026】
実施例2(3000Lスケール醸造設備における試験醸造)
3000Lスケール醸造設備は図1に示した200Lスケールの醸造設備をスケールアップした設備で、より細かい温度制御ができる上、もろみ・麦汁の移動は全て自動工程で行うことができ、より正確に製造された発酵酒類をさらに正確・厳密に官能評価する事が出来る。この設備を用いて、原料をスケールアップし、200Lスケールの醸造設備と同じ方法で実施例1と同一の大麦分解物を用い、その使用率を0%および25%とした2つの試験醸造を行った。この試験醸造で製造されたアルコール5%の麦芽使用比率25%以下の酒類を、市販発泡酒と比較して官能評価を行った。
【0027】
評価項目は、(1)全体評価、(2)ビールらしさ、(3)発泡酒臭の有無で、評価基準は以下の通りである。
【表5】

【0028】
11名のパネリストによる大麦分解物使用率による発泡酒臭の有無
【表6】

表6の結果から、大麦分解物を25%使用した試醸品では、発泡酒臭があると指摘したパネリストがわずか1名と、市販発泡酒に比べ大幅に発泡酒臭が低減されていることがわかった。また、全体評価・ビールらしさは大麦分解物を使用しなかった物や市販発泡酒に比べ、約1ポイントも高く、危険率5%で有意差があった。また、大麦分解物を25%使用したものは泡持ちΣ値は127で泡つきPLI値は6.0と泡特性がビール並であった。つまり発泡酒臭の低減とビール並の泡特性がビールらしさの向上につながり、それが全体評価の向上を促していることが明らかとなった。
【0029】
【発明の効果】
本発明により、発泡酒特有の香味が低減され、従来のビールと比較して遜色のない香味と泡特性を有する発泡酒を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の製造工程図の1例を示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-09 
出願番号 特願2000-153864(P2000-153864)
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C12C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 内田 淳子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 鈴木 恵理子
河野 直樹
登録日 2003-07-25 
登録番号 特許第3455162号(P3455162)
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 発泡酒の製造方法  
代理人 友松 英爾  
代理人 友松 英爾  
代理人 伴 正昭  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ