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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A23D
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A23D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23D
管理番号 1125831
異議申立番号 異議2003-73870  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-11-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-09-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3471848号「複合菓子用油脂組成物及び複合菓子の製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3471848号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3471848号に係る発明についての出願は、平成5年4月30日に特願平5-104729号として出願され、平成15年9月12日にその特許の設定登録がなされ、その後、不二製油株式会社より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年3月29日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
(1)特許請求の範囲の請求項1を、「HLB6以下の親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)HLB6以下の親油性のショ糖脂肪酸エステルを油脂全体に対して0.1〜5.0重量%含有し、且つこれらポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸であり、油脂のSFC値が20℃で20以上、30℃で7以上、40℃で5以下であることを特徴とする複合菓子の焼き菓子練込用又は焼き菓子スプレー用油脂組成物。」と訂正する。
(2)特許請求の範囲の請求項2を削除し、請求項3を請求項2と訂正する。
(3)明細書の段落【0008】の「・・・本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)親油性のショ糖脂肪酸エステルを含有し、且つこれらポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸であり、油脂のSFC値が20℃で20以上、30℃で7以上、40℃で5以下であることを特徴とする複合菓子の焼き菓子練込用又は焼き菓子スプレー用油脂組成物を提供することにより上記目的を達成したものである。」を「・・・本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、HLB6以下の親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)HLB6以下の親油性のショ糖脂肪酸エステルを0.1〜5.0重量%含有し、且つこれらポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸であり、油脂のSFC値が20℃で20以上、30℃で7以上、40℃で5以下であることを特徴とする複合菓子の焼き菓子練込用又は焼き菓子スプレー用油脂組成物を提供することにより上記目的を達成したものである。」と訂正する。
(4)明細書の段落【0011】の「・・・構成脂肪酸が炭素数18以上の飽和脂肪酸である、親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルのHLBは、好ましくは6以下であり、HLBが7以上では、微細で温度変化等の環境因子に対して極めて安定な油脂結晶を、瞬時に生成させることが困難となり、好ましくない。」を、「構成脂肪酸が炭素数18以上の飽和脂肪酸である、親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルのHLBは、6以下であり、HLBが7以上では、微細で温度変化等の環境因子に対して極めて安定な油脂結晶を、瞬時に生成させることが困難となり、好ましくない。」と訂正する。
(5)明細書の段落【0014】の「本発明に使用するポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)ショ糖脂肪酸エステルの好ましい含有量は、油脂全体に対して0.01〜10.00重量%、より好ましくは0.1〜5.0重量%である。」を、「本発明に使用するポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、油脂全体に対して0.1〜5.0重量%である。」と訂正する。
(6)明細書の段落【0018】を、
「<比較例3>
パーム水素添加油(融点36℃)100重量部からなるスプレー油(トランス酸含量16%、混合油脂のSFC値が20℃で40、30℃で16、40℃で1)を製造した後、以下の配合で常法により製造したビスケットに、該スプレー油5%(対重量)をスプレーした。
・薄力粉 100 部
・練込用油脂 14 部
・砂糖 25 部
・水 24 部
・全卵 26 部
・重曹 1.5部
・香料 0.5部
以上の配合で製造したクッキーを、重量で3倍量のチョコレート(ココアバター35%含有)中に表面が見える程度に埋没させ、20℃/28℃(12時間/12時間)のサイクルで放置テストを行った。その結果を〔表2〕に示す。」と訂正する。
(7)明細書の【表2】の「実施例4」に関する事項を削除する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項(1)は、本件発明で用いられる親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び親油性のショ糖脂肪酸エステルを、それぞれHLB6以下のものに限定し、且つ、これらエステルの含有量を、油脂全体に対して0.1〜5.0重量%に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。
また、訂正事項(2)は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、同(3)ないし(5)は、同(1)の訂正に伴うものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当し、同(6)及び(7)は、明りょうでない記載を含む実施例4の記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当する。
そして、上記(1)ないし(7)の訂正は、新規事項に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の4、2項及び同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.本件発明
上記II.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】HLB6以下の親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)HLB6以下の親油性のショ糖脂肪酸エステルを油脂全体に対して0.1〜5.0重量%含有し、且つこれらポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸であり、油脂のSFC値が20℃で20以上、30℃で7以上、40℃で5以下であることを特徴とする複合菓子の焼き菓子練込用又は焼き菓子スプレー用油脂組成物。
【請求項2】小麦粉、油脂、砂糖、及び水を主原料とした焼き菓子類を、チョコレート又はクリーム類中に埋没させるか、又は上記焼き菓子類にチョコレートやクリーム類をエンロービングサンド若しくは注入して得られる複合菓子類の製造に際して、請求項1記載の油脂組成物を上記焼き菓子類に使用することを特徴とする複合菓子の製造方法」

2.特許異議申立書の理由の概要
特許異議申立人は、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、訂正前の本件請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである、或いは、本件明細書には記載の不備なところがあり、特許法36条4項又は5項に規定する要件を満たしていないから、当該発明の特許は取り消されるべきである旨主張している。

甲第1号証:特開平4-173046号公報
甲第2号証:New Food Industry Vol.30,
No.11(1988)12〜18頁
甲第3号証:米国特許第4456627号公報

3.特許法29条2項違反について
(1)甲各号証の記載内容
甲第1号証には、(a)「1.小麦デンプン吸着能を有する乳化剤を0.1重量%以上含有することを特徴とする焼菓子等用油脂組成物 2.小麦デンプン吸着能を有する乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ステアリル有機酸エステル又はその塩から選択される少なくとも1種である請求項1記載の油脂組成物。」(特許請求の範囲の項)、(b)「本発明は、焼菓子用練り込み油脂に適した油脂組成物及び複合菓子類の製造方法に関し、さらに詳しくは、ビスケット、クッキー等の焼菓子類とチョコレート、クリーム類等を組合せてなる複合菓子が保存中に白色化する現象を抑制し得る、焼菓子用練り込み油脂に適した油脂組成物及び複合菓子類を製造する方法に関するものである。」(1頁右下欄12〜18行)、(c)「ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリン脂肪酸モノエステルからポリグリセリン脂肪酸エステルまでの脂肪酸1〜5個ついたもの、あるいはポリグリセリン縮合リジノレイン酸エステル等を挙げることができる。」(3頁右下欄16〜20行)、(d)「蔗糖脂肪酸エステルとしては、蔗糖中のヒドロキシル基と脂肪酸のカルボキシル基が反応してできる蔗糖エステルのことであり、蔗糖と反応する脂肪酸の数は、蔗糖のヒドロキシル基の数から1〜8である。」(4頁左上欄11〜15行)、及び(e)「またHLB7以下の水に不溶の乳化剤については、水相に分散させるか、液晶を形成するものはこの形態で添加すればより効果的である。」(4頁右上欄13〜16行)と記載され、さらに(f)「実施例1」、「実施例3」及び「実施例4」には、乳化剤として「グリセリンモノステアレート」を使用して油脂組成物を調製することが記載されている。
甲第2号証は、「ポリグリセリンエステルの特性と食品への利用」に係り、「3.6 澱粉との作用」には「PGFEは澱粉と複合体形を形成する。ラウリン酸エステルよりも脂肪酸鎖長の長いステアリン酸、オレイン酸エステルの方が複合体形成能は強い。」(15頁左欄)、及び「4.ポリグリセリンエステルの応用」の「4.2加工油脂」には、「(1)家庭用マーガリン(スプレッド):ポリグリセリンエステルのスプレッドへの利用としては、PGPRや親油性のPGFEの優れたW/O型乳化性能を活かし、高水分マーガリン(低カロリーマーガリン)、流動性マーガリン、O/W/O型エマルジョンタイプのマーガリンに使用される。」(16頁左欄)と記載されている。
甲第3号証には、結晶の粗大化を阻害するマーガリン油脂組成物が記載されている。
(2)判断
本件発明1に係る複合菓子の焼き菓子練込用又は焼き菓子スプレー用油脂組成物におけるポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルは、いずれもHLB6以下の親油性であって、それを構成する脂肪酸のうち、2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸であるところ、甲第1号証には、乳化剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを使用することについて記載されているものの、上記のHLB値及び構成する脂肪酸について言及するところはない。すなわち、ポリグリセリン脂肪酸エステルについては、摘示事項(c)に、及びショ糖脂肪酸エステルについては、同(d)に一般的な記載があるだけで、HLBの観点から触れるところはなく、また、同(e)には、HLBについて記載されているが、乳化剤のHLBが7以下の場合には、「水相に分散させるか、液晶を形成するものはこの形態で添加すればより効果的である。」というように、乳化剤の油脂組成物への添加形態を示しているだけで、「HLB6以下の親油性」のものが、特に好ましいことを教示しているわけではない。
そして、甲第1号証には、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを使用した実施例がないことを併せ考えると、甲第1号証においては、他の乳化剤に比べて、HLB6以下の親油性のもので、且つ構成脂肪酸のうちの2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルが、白色化現象の抑制に特に有用であることを教えているとはいえない。
甲第2号証には、ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸の鎖長が長いほど澱粉との複合体形成能が高いことが記載されているが、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は、脂肪酸の長さだけでなくエステル化の程度(ポリグリセリン酸のOH基がどの程度残っているか)によっても影響を受けるのであるから、甲第2号証の上記の事項と甲第1号証に記載の「小麦デンプン吸着能を有する乳化剤」とを関連づけたとしても、ポリグリセリン脂肪酸エステルについて本件発明1で特定する「HLB6以下」という事項を導き出すことは困難であるというべきである。
甲第3号証には、結晶の粗大化を阻害するマーガリン油脂組成物が記載されているだけで、これ以上、本件発明1について教示するところはない。
そして、平成17年3月29日付けの特許異議意見書に添付された「参考資料(試験データ)」によると、本件発明1は、複合菓子の焼き菓子練込用又は焼き菓子スプレー用油脂組成物において、乳化剤として、甲第1号証に係るグリセリンモノステアレートを使用する場合に比べて、本件発明1に係る上記特定のポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを使用することにより、クッキー表面の白色化の防止及びクッキー中の油脂の移行抑制の点で格別の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本件発明2は、本件発明1に係る「油脂組成物」を「焼き菓子類に使用することを特徴とする複合菓子の製造方法」に関するものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4.特許法36条4項或いは5項違反について
特許異議申立人は、(1)ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち炭素数18以上の飽和脂肪酸の数がいかなるものか、本件明細書の実施例では記載されておらず不明である、(2)本件明細書の実施例1と実施例4では、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、ヘキサグリセリンペンタステアレートが用いられているが、同じ物質名であるのにHLB値が異なっており不明瞭である、(3)訂正前の請求項2に記載のポリグリセリン脂肪酸エステルの使用量の範囲は、果たして効果が生じるのか極めて疑わしい少量の範囲をも含んでおり、そのような少量の範囲で効果あらしめるように実施をする例の開示もされていないので、やはり当業者が容易に実施できるように記載されていない、及び(4)請求項にあるポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルを親油性という漠然とした記載しかしておらず、また、本件請求項では脂肪酸の数や種類を規定しておきながら実施例において、その数や種類の範囲の内と外についての検証がなされておらず、当業者が容易に実施できるようには記載されていない、点で本件明細書には記載不備がある旨主張している。
(1)について
実施例2には、「蔗糖ステアリン酸ポリエステル(HLB1)」を使用することが、実施例3には、「蔗糖ステアリン酸ポリエステル(HLB1以下)」を使用することが記載され、「ポリ」と記載してあることから、構成脂肪酸の2個以上がステアリン酸であることは明らかである。また、蔗糖ステアリン酸ポリエステルの「ポリ」とはどれくらいなのか不明であるが、HLB値が記載されているので、使用する蔗糖ステアリン酸ポリエステルがある程度推定できるから、本件明細書のショ糖脂肪酸エステルに関する記載が、当業者が容易に実施できるように記載されていないとまではいえない。
(2)について
上記訂正により、本件明細書の「実施例4」に関する記載は削除されたから、もはや理由はない。
(3)について
上記訂正により、本件特許請求の範囲の「請求項2」は削除されたから、もはや理由はない。
(4)について
訂正前の請求項1に係る「親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)親油性のショ糖脂肪酸エステル」は、「HLB6以下の親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)HLB6以下の親油性のショ糖脂肪酸エステル」と訂正され、その「親油性」が「HLB6以下」と特定されたのであるから、もはや、漠然とした記載であるとはいえない。また、特許異議申立人は、脂肪酸の数や種類の範囲の内と外とについての検証が為されていないと主張するが、この主張は具体的な実験結果に基づいたものではなく、検証が為されてないことが、直ちに本件明細書の記載が不備であることにはならないので、この主張は採用しない。
したがって、本件明細書の記載には不備なところはないので、特許法36条4項或いは5項の規定に違反しているとはいえない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1及び2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
複合菓子用油脂組成物及び複合菓子の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】HLB6以下の親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)HLB6以下の親油性のショ糖脂肪酸エステルを油脂全体に対して0.1〜5.0重量%含有し、且つこれらポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸であり、油脂のSFC値が20℃で20以上、30℃で7以上、40℃で5以下であることを特徴とする複合菓子の焼き菓子練込用又は焼き菓子スプレー用油脂組成物。
【請求項2】小麦粉、油脂、砂糖、及び水を主原料とした焼き菓子類を、チョコレート又はクリーム類中に埋没させるか、又は上記焼き菓子類にチョコレートやクリーム類をエンロービングサンド若しくは注入して得られる複合菓子類の製造に際して、請求項1記載の油脂組成物を上記焼き菓子類に使用することを特徴とする複合菓子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は複合菓子用油脂組成物及び複合菓子の製造方法、更に詳しくは、クッキー、ビスケット等の焼き菓子類と、チョコレート、クリーム類等とを組み合わせた複合菓子において、流通過程や保存中における油脂のマイグレーション及びそれによって生じる焼き菓子類の白色化現象、チョコレート類の軟化、ブルーム現象を抑制し得る、焼き菓子練込用油脂、スプレー用油脂に適した油脂組成物及びこの油脂組成物を使用した複合菓子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、クッキー、ビスケット等の焼き菓子類やナッツ類等と、チョコレート、クリーム類等とを組み合わせた複合菓子においては、流通過程や保存中に、焼き菓子類の表面が白い粉をふき斑点状になる白色化現象がしばしば発生し、また、チョコレートの軟化、ブルーム現象を伴う場合があり、この様な現象を生じると、商品価値が著しく低下する。この様な現象のメカニズムは、未だ明確には解明されていないが、複合菓子に使用されている、各油脂製品間中の油分中の特定成分のマイグレーションとそれに伴う油脂結晶の成長によって引き起こされるものと推定されている。
【0003】
従来このような現象を抑制するための方法として、次の様な提案がなされている。特公昭61-47491号公報には、ビスケット中の油脂の構成脂肪酸中のトランス酸含量が30%以上で特定の固体脂含量を有し、且つ、該油脂の固体脂含量とチョコレート中の油脂の固体脂含量との差が20℃で35%以下である油脂が記載されている。特開昭64-60325号公報には、必須成分として、魚硬化油を20%以上と、SFI値が20℃で50%以上、30℃で30%以上である植物性油脂を20%以上含有した油脂組成物であって、該油脂組成物のSFI値が20℃で30〜55%、30℃で10〜30%、40℃で5%以下の油脂組成物が記載されている。特開平4-66045号公報には、80℃で溶解した後、30℃に移して60分後のSFC値が15以上であり、且つ、30℃に移して60分後のSFC値が、前記24時間後のSFC値に対して70%以上であることを特徴とする油脂組成物が記載されている。特開昭63-126457号公報には、トリグリセリドを構成する3個の脂肪酸の残基の内、少なくとも1個が炭素数20〜24の飽和脂肪酸である2飽和1不飽和型混酸基トリグリセリドを10%以上含有する油脂及び該油脂を使用した複合菓子類の製造方法が記載されている。
【0004】
また、特開昭57-206328号公報及び特開昭57-208939号公報には、本発明の油脂組成物と組成が類似した油脂組成物が提案されているが、該公報等には本発明における油脂のマイグレーション抑制機能については全く触れられておらず、油脂の選択についても特に記載されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述した種々の提案においては、固体脂量を増やしたり、油脂の固化速度を調整したり、トランス酸や特定の油脂を一定量使用することにより、油脂結晶を微細化する方法が採られているが、いずれの方法も、それらの効果は、温度等の環境因子に依存する部分が多く、十分なものではないのが現状である。。
【0006】
更に、上述の提案においては、焼き菓子練込用油脂の機能による油脂のマイグレーション抑制方法、効果についてのみ記載されており、スプレー用油脂の機能による油脂の移行抑制方法や効果については全く触れられていなかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、クッキー、ビスケット等の焼き菓子類と、チョコレート、クリーム類等とを組み合わせた複合菓子において、流通過程や保存中における油脂のマイグレーション及びそれによって生じる焼き菓子類の白色化現象、チョコレート類の軟化、ブルーム現象を抑制し得る、焼き菓子練込用油脂、スプレー用油脂に適した油脂組成物及び該油脂組成物を使用した複合菓子の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、微細でネットワーク構造を形成し且つ、温度変化等の環境因子に対し極めて安定な油脂結晶を、瞬時に生成させることによって油脂のマイグレーションが抑制されるであろうという考えに至った。そして、この考えに基づいて更に種々検討した結果、特定の油脂組成物を複合菓子用油脂として使用することにより、油脂中のトランス酸含量や、特定の油脂配合に影響されることなく、複合菓子に使用する各油脂製品間中の油分中の特定成分のマイグレーションとそれに伴う油脂結晶の成長を抑制し得ることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、HLB6以下の親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)HLB6以下の親油性のショ糖脂肪酸エステルを油脂全体に対して0.1〜5.0重量%含有し、且つこれらポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸であり、油脂のSFC値が20℃で20以上、30℃で7以上、40℃で5以下であることを特徴とする複合菓子の焼き菓子練込用又は焼き菓子スプレー用油脂組成物を提供することにより上記目的を達成したものである。
また、本発明は、小麦粉、油脂、砂糖、及び水を主原料とした焼き菓子類を、チョコレート又はクリーム類中に埋没させるか、又は上記焼き菓子類にチョコレートやクリーム類をエンロービングサンド若しくは注入して得られる複合菓子類の製造に際して、本発明の上記油脂組成物を上記焼き菓子類に使用することを特徴とする複合菓子の製造方法を提供するものである。
【0009】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)ショ糖脂肪酸エステルを含有する本発明の油脂組成物は、微細でネットワーク構造を形成し且つ温度変化等の環境因子に対し極めて安定な油脂結晶を瞬時に形成させ、そのことにより、油脂のマイグレーション及びブルーム抑制効果を有するものであり、従来から提案されていた、トランス酸含量や特定の油脂配合に影響されることなく、より広い範囲で利用可能である。
【0010】
また、本発明の油脂組成物における油脂は、上記SFC値を有する油脂でなければ、良好なマイグレーション及びブルーム抑制効果をもつことができない。例えば、SFC値が20℃で20以上、30℃で7以上でないと複合菓子製造時に油脂が一定の硬さを保つことができず、液状部の油脂の急激なマイグレーションを抑制することができなくなる。また、SFC値が40℃で5以下でないと、口溶けが悪くなり食品として不適当となる。
【0011】
以下、本発明の油脂組成物について詳述する。本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸であれば良く、例えばステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸等を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。構成脂肪酸が炭素数18以上の飽和脂肪酸である、親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルのHLBは、6以下であり、HLBが7以上では、微細で温度変化等の環境因子に対して極めて安定な油脂結晶を、瞬時に生成させることが困難となり、好ましくない。
【0012】
尚、ポリグリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステルのエステル結合の結合数、ポリグリセリン脂肪酸エステルの重合度は、特に限定されるものではない。
【0013】
本発明の油脂組成物に使用可能な油脂は、食用油脂でSFC値が20℃で20以上、30℃で7以上、40℃で5以下のものであれば良く、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、米油、魚油、牛脂、豚脂、ココアバター、及びこれらの水素添加油脂、或いはこれらの分別油脂、エステル交換油脂等の単独、もしくは混合油を挙げることができる。
【0014】
本発明に使用するポリグリセリン脂肪酸エステル及び(又は)ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、油脂全体に対して0.1〜5.0重量%である。
【0015】
本発明の油脂組成物には、本発明の目的の範囲内で所望により上記成分以外の成分、例えば、上記以外の乳化剤、食用油脂、呈味物質等を配合することも可能である。本発明の油脂組成物は、通常、マーガリン、ショートニング、スプレーオイルの状態で使用される。
【0016】
【実施例】
以下、本発明の複合菓子用油脂組成物及び複合菓子の製造方法の実施例を比較例と共に挙げて更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
<実施例1>
パーム水素添加油(融点36℃)85.2重量部、菜種白絞油14.1重量部、レシチン0.5重量部、及びヘキサグリセリンペンタステアレート(HLB4)0.2重量部からなる練込用油脂(トランス酸含量13.6%、混合油脂のSFC値が20℃で35、30℃で14、40℃で1)を製造した後、該練込用油脂を使用し、以下の配合で常法によりクッキーを製造した。
・薄力粉 100部
・練込用油脂 50部
・砂糖 40部
・水 15部
・全卵 10部
・脱脂粉乳 2部
・食塩 0.5部
・重曹 0.5部
以上の配合で製造したクッキーを、重量で3倍量のチョコレート(ココアバター35%含有)中に表面が見える程度に埋没させ、20℃/28℃(12時間/12時間)のサイクルで放置テストを行った。その結果を〔表1〕に示す。
<実施例2>
綿実水素添加油(融点36℃)40重量部、パーム水素添加油44.7重量部、大豆白絞油13.8重量部、レシチン0.5重量部、ヘキサグリセリントリステアレート(HLB3)0.5重量部、及びショ糖ステアリン酸ポリエステル(HLB1)0.5重量部からなる練込用油脂(トランス酸含量23.5%、混合油脂のSFC値が20℃で32、30℃で14、40℃で2)を製造した後、該練込用油脂を使用し、実施例1と同様にしてクッキーを製造し、実施例1と同様の放置テストを行った。その結果を〔表1〕に示す。
<実施例3>
菜種水素添加油(融点36℃)83重量部、大豆白絞油12重量部、レシチン0.5重量部、及びショ糖ステアリン酸ポリエステル(HLB1以下)4.5重量部からなる練込用油脂(トランス酸含量42.6%、混合油脂のSFC値が20℃で39、30℃で13、40℃で2)を製造した後、該練込用油脂を使用し、実施例1と同様にしてクッキーを製造し、実施例1と同様の放置テストを行った。その結果を〔表1〕に示す。
<比較例1>
大豆水素添加油(融点36℃)85.5重量部、大豆白絞油14重量部、及びレシチン0.5重量部からなる練込用油脂(トランス酸含量39.1%、混合油脂のSFC値が20℃で41、30℃で16、40℃で0)を製造した後、該練込用油脂を使用し、実施例1と同様にしてクッキーを製造し、実施例1と同様の放置テストを行った。その結果を〔表1〕に示す。
<比較例2>
パーム水素添加油(融点36℃)78.5重量部、大豆白絞油10.0重量部、レシチン0.5重量部、及びショ糖ステアリン酸エステル(HLB1)11.0重量部からなる練込用油脂(トランス酸含量13%、混合油脂のSFC値が20℃で32、30℃で13、40℃で1)を製造した後、該練込用油脂を使用し、実施例1と同様にしてクッキーを製造し、実施例1と同様の放置テストを行った。その結果を〔表1〕に示す。
【0018】
<比較例3>
パーム水素添加油(融点36℃)100重量部からなるスプレー油(トランス酸含量16%、混合油脂のSFC値が20℃で40、30℃で16、40℃で1)を製造した後、以下の配合で常法により製造したビスケットに、該スプレー油5%(対重量)をスプレーした。
・薄力粉 100部
・練込用油脂 14部
・砂糖 25部
・水 24部
・全卵 26部
・重曹 1.5部
・香料 0.5部
以上の配合で製造したクッキーを、重量で3倍量のチョコレート(ココアバター35%含有)中に表面が見える程度に埋没させ、20℃/28℃(12時間/12時間)のサイクルで放置テストを行った。その結果を〔表2〕に示す。
【0019】
【0020】
【表1】

(評価基準)
I:良好
II:ほぼ良好
III:やや白色化
IV:一部白色化
V:全面白色化
表1の結果から明らかな様に、比較例1のクッキーは、クッキー表面状態は全面が白色化し、且つ油分の移行率も高いが、実施例1、2、3のクッキーは、クッキー表面状態は良好であり且つクッキー中の油分の移行率も低かった。また、比較例2のクッキー表面状態は良好であり且つクッキー中の油分の移行率も低いが、乳化剤臭がして、食品として適当ではなかった。
【表2】

【0021】
【発明の効果】
本発明の複合菓子用油脂組成物は、クッキー、ビスケット等の焼き菓子類と、チョコレート、クリーム類等とを組み合わせた複合菓子において、流通過程や保存中における油脂のマイグレーション及びそれによって生じる焼き菓子類の白色化現象、チョコレート類の軟化、ブルーム現象を抑制し得るもので、焼き菓子練込用油脂、スプレー用油脂に適しており、本発明の複合菓子の製造方法によれば、上記の種々の現象の抑制された複合菓子類を製造することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-08-17 
出願番号 特願平5-104729
審決分類 P 1 651・ 534- YA (A23D)
P 1 651・ 531- YA (A23D)
P 1 651・ 121- YA (A23D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 淳子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 長井 啓子
河野 直樹
登録日 2003-09-12 
登録番号 特許第3471848号(P3471848)
権利者 旭電化工業株式会社
発明の名称 複合菓子用油脂組成物及び複合菓子の製造方法  
代理人 羽鳥 修  
代理人 羽鳥 修  

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