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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01F
管理番号 1125844
異議申立番号 異議2003-72186  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-12-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-04 
確定日 2005-09-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3381939号「フェライト焼結体、チップインダクタ部品、複合積層部品および磁心」の請求項1、3ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3381939号の請求項1、3ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3381939号の請求項1ないし請求項6に係る発明についての特許出願は、平成4年5月15日になされ、平成14年12月20日にその特許の設定登録がなされ、その後、雨山範子により請求項1,請求項3ないし請求項6に係る発明について特許異議の申立てがなされ、平成16年9月3日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年11月11日に訂正請求書及び意見書が提出され、その後、平成17年6月28日付けで2回目の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年7月22日に訂正請求書及び意見書が提出されるとともに、平成16年11月11日付けの訂正請求は取り下げられた。

第2 平成17年7月22日付け訂正請求の訂正の適否についての判断
1.訂正事項について
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の「【請求項1】 Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 を50ppm以上1000ppm 未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。」を
「【請求項1】 Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 のみを50ppm以上1000ppm 未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。」と訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の【0010】段落の記載について、
「このような目的は、下記(1)〜(6)の本発明によって達成される。
(1) Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 を50ppm以上1000ppm未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。」とあるのを
「このような目的は、下記(1)〜(6)の本発明によって達成される。
(1) Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 のみを50ppm以上1000ppm未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。」と訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の「 【0017】
【作用】
本発明のフェライト焼結体は、原料段階におけるNi-Cu-Zn系フェライト成分中にB2 O3 が50ppm以上1000ppm 未満、好ましくは200〜900ppm 、より好ましくは400〜800ppm の範囲内で添加されているか、あるいはSiO2 :0.1〜15重量%、好ましくは3〜12重量%、B2 O3 :10〜40重量%、好ましくは20〜35重量%、PbO:0.1〜40重量%、好ましくは3〜20重量%、ZnO:20〜70重量%、好ましくは45〜65重量%およびAl2 O3 :0〜6重量%のSiO2 -B2 O3 -PbO-ZnO-Al2 O3 系のガラスが250〜4000ppm 、好ましくは1000〜2000ppm の範囲内で添加されていることを必要とする。これらガラス成分の含有量が上記範囲内において初めて磁気特性μi、LおよびQの顕著でかつ臨界的な向上効果が認められる。」を
「 【0017】
【作用】
本発明のフェライト焼結体は、原料段階におけるNi-Cu-Zn系フェライト成分中にB2 O3 のみが50ppm以上1000ppm 未満、好ましくは200〜900ppm 、より好ましくは400〜800ppm の範囲内で添加されているか、あるいはSiO2 :0.1〜15重量%、好ましくは3〜12重量%、B2 O3 :10〜40重量%、好ましくは20〜35重量%、PbO:0.1〜40重量%、好ましくは3〜20重量%、ZnO:20〜70重量%、好ましくは45〜65重量%およびAl2 O3 :0〜6重量%のSiO2 -B2 O3 -PbO-ZnO-Al2 O3 系のガラスが250〜4000ppm 、好ましくは1000〜2000ppm の範囲内で添加されていることを必要とする。これらガラス成分の含有量が上記範囲内において初めて磁気特性μi、LおよびQの顕著でかつ臨界的な向上効果が認められる。」と訂正する。

2.訂正の内容
(1)訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項1の「原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 を50ppm以上1000ppm 未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して」を
「原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 のみを50ppm以上1000ppm 未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して」と訂正するものである。
(2)訂正事項2について
明細書の段落【0010】の「(1) Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 を50ppm以上1000ppm未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。」を
「(1) Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 のみを50ppm以上1000ppm未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。」と訂正するものである。
(3)訂正事項3について
明細書の段落【0017】の「本発明のフェライト焼結体は、原料段階におけるNi-Cu-Zn系フェライト成分中にB2 O3 が50ppm以上1000ppm 未満、好ましくは200〜900ppm 、より好ましくは400〜800ppm の範囲内で添加されているか」を
「本発明のフェライト焼結体は、原料段階におけるNi-Cu-Zn系フェライト成分中にB2 O3 のみが50ppm以上1000ppm 未満、好ましくは200〜900ppm 、より好ましくは400〜800ppm の範囲内で添加されているか」と訂正するものである。

3.訂正の目的の適否
(1)訂正事項1について
「原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 を50ppm以上1000ppm 未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加」する際に、「B2 O3 のみ」と限定することにより、他の物質は添加しないことを明確にし、技術的に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮に該当する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1の訂正に伴って、その内容を整合させるためになすものであって、明りょうでない記載の釈明に該当する。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項1の訂正に伴って、その内容を整合させるためになすものであって、明りょうでない記載の釈明に該当する。

4.明細書記載事項の範囲内外及び拡張・変更の有無について
(1)訂正事項1について
特許明細書の0067段落及び0068段落に「【0067】実施例1〜4、比較例1、2、3、3’、4、4’ 最終組成でFe2 O3 :49.4モル%、NiO:16.3モル%、CuO:8.7モル%およびZnO:25.6モル%となるように原料を混合した。原料の混合は、ボールミルを用いて湿式混合により行い、ついで、この湿式混合物をスプレードライヤーにより乾燥し、700℃にて仮焼した。この仮焼材にB2 O3 を0〜5000ppm の範囲で添加し、これをボールミルにて湿式粉砕した後スプレードライヤーで乾燥し、最終平均粒径0.1〜0.3μm の粉体を作製した。【0068】得られた粉体をトロイダル形状に成型した。この成型品を大気中において焼成温度870℃で2時間焼成してトロイダルコイルを作製した。」と記載され、仮焼温度(700℃)が焼成温度(870℃)より低いことは明らかであるから、「焼結温度よりも低い温度での仮焼後に」「原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 のみを50ppm以上1000ppm 未満の範囲内で」添加することは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であることは明らかである。
(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項1の訂正に伴って、その内容を整合させるためになすものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であることは明らかである。

5.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議申立について
1.特許異議申立の概要
特許異議申立人雨山範子は、証拠として本件出願前国内において頒布された
1)甲第1号証 特開平4- 61203号公報
2)甲第2号証 特開平4-130607号公報
を提出し、本件請求項1,請求項3ないし請求項6に係る発明は、その出願前に頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1,請求項3ないし請求項6に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきである旨主張している。

2.取消理由通知の内容
平成17年6月28日付けの取消理由通知の内容は、以下のとおりである。
「1)本件特許の請求項1及び請求項3ないし6に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び請求項3ないし6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


刊行物1,特開平4-61203号公報(甲第1号証)
刊行物2,特開平4-130607号公報(甲第2号証)

異議申立人雨宮範子が提出した特許異議申立書の「3.申立ての理由」を参照されたい。なお、「甲第1号証」及び「甲第2号証」はそれぞれ、「刊行物1」及び「刊行物2」と読み替えるものとする。」

3.刊行物記載事項
(1)刊行物1(特開平4-61203号公報)(特許異議申立人雨山範子提出の甲第1号証)
刊行物1には以下の事項が記載されている。
「また、本発明に係る第二の銅導体一体焼成型フェライト素子は、銅導体とフェライト母体を非酸化雰囲気中で一体焼成してフェライト母体の内部に銅導体を形成されたフェライト素子であって、前記フェライト母体の原料組成が、ニッケル-亜鉛系フェライト100重量部に対し、PbO成分を0.3重量部以上5.0重量部以下、B2O3成分を0.03重量部以上1.5重量部以下、SiO2成分を0.03重量部以上1.5重量部以下の割合で添加したものであることを特徴としている。」(第2頁左下欄第2行〜11行)
「まず、主成分であるニッケル-亜鉛系フェライトの素原料を
Fe2O3 48.5mol%
NiO 21.5mol%
ZnO 28.0mol%
CuO 2.0mol%
となるように秤量し、これらの素原料を湿式ボールミルにかけて16時間粉砕混合し、その後850℃で1時間仮焼した。この仮焼物を湿式ボールミルで24時間粉砕した後、蒸発乾燥させた。このようにして得られた仮焼粉体に、各試料No.1〜11毎に下記第1表の組成欄に示す比率となるように副成分であるPbOやB2O3,SiO2を添加し、さらに、それぞれトルエンを溶媒としたボールミルに入れ、12時間かけて主成分であるニッケル-亜鉛系フェライトと副成分であるPbOやB2O3,SiO2の混合を行った。さらに、No.1〜11の各試料毎に・・・トロイダルコアの形状に圧縮成形した。この試料No.1〜11の各形成体を、窒素と水蒸気から成る雰囲気中において、850℃で2時間かけて脱脂した後、窒素雰囲気中において950〜1030℃で本焼成し、外径30mm,内径20mm,高さ8mmのトロイダルコアを作製した。
このようにして作製された試料No.1〜11の各トロイダルコアの特性(密度、透磁率及びQ値)を測定した。次に第1表には、その結果を示している。なお、第1表中の試料No.1〜9が、本発明の実施例に相当するものであり、試料No.10及び11は比較対象として作製されたものである。
第1表から明らかなように、ニッケル-亜鉛系フェライト100重量部に対してPbOを0.3重量部〜5重量部添加した組成を持つ試料No.1〜9では、・・・大きな(比)透磁率・・・とQの値・・・を持つフェライト特性がえられた。・・・
これに対し、副成分が上記添加量の範囲を外れた組成については、・・・材料特性の改善効果が少なかった。例えば、PbOの添加量の少ない試料No.10では・・・透磁率(μ=110)も極めて小さかった。」(第3頁左上欄第15行〜同頁右下欄第17行)
なお、「試料No.1〜11」の組成は第3頁の「第1表」に記載されており、PbOについては、試料No.2,4〜9で2重量部、試料No.1で0.3重量部、試料No.3で5重量部、試料No.10で0.1重量部、試料No.11で7重量部であって、B2O3については、試料No.4〜9で、0.03ないし1.5重量部であり、試料No.1〜3,10、11では0重量部であり、トロイダルコアの特性はPbOの組成変化により特性は変化するが(試料No.10、11では透磁率が極めて小さい)、トロイダルコアの特性は、B2O3の組成変化によりほとんど影響がない。

(2)刊行物2(特開平4-130607号公報)(特許異議申立人雨山範子提出の甲第2号証)
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
「[実施例]
実施例1
配合1の化合物を各々秤量し、これらの化合物を水とともにボールミルで混合して混合物を得た。
配合1
化合物 比率
Fe2O3 49.0mol%
NiO 21.0 〃
ZnO 20.0 〃
CuO 10.0 〃
次に、この混合物を乾燥させ、大気中において800℃で2時間仮焼して仮焼物(フェライト)を形成させた。そして、この仮焼物を水とともにボールミルで15時間粉砕し、乾燥させ、解砕してフェライト粉末を得た。」(第4頁右上欄第3〜18行)

4.本件発明
上記第2 5のとおり、訂正請求は容認されたので、本件発明は平成17年7月22日付けの訂正請求書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載されたとおりのものであると認められるところ、その請求項1,請求項3ないし請求項6に係る発明は次のとおりである。
「【特許請求の範囲】
「【請求項1】 Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 のみを50ppm以上1000ppm 未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。」
「【請求項3】 フェライトの組成がFe2 O3 :40〜52mol%、NiO:0〜50mol%、CuO:0〜20mol%およびZnO:0〜50mol%である請求項1または2のフェライト焼結体。
【請求項4】 フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるインダクタ部を有するチップインダクタ部品であって、前記フェライト磁性層が請求項1ないし3のいずれかのフェライト焼結体で構成されていることを特徴とするチップインダクタ部品。
【請求項5】 フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるチップインダクタ部を少なくとも有する複合積層部品であって、前記フェライト磁性層が請求項1ないし3のいずれかのフェライト焼結体で構成されていることを特徴とする複合積層部品。
【請求項6】 請求項1ないし3のいずれかのフェライト焼結体で構成されていることを特徴とする磁心。」

5.対比・判断
刊行物1に記載される発明は、CuOを含有するニッケル-亜鉛系フェライト素子において、PbOとB2O3をともに添加することが記載されており、PbOの組成変化により上記フェライト素子としてのトロイダルコアの透磁率は改善されるが、B2O3の組成変化によっては、トロイダルコアの特性は変化していない。
結局、刊行物1には、CuOを含有するニッケル-亜鉛系フェライト素子において、「B2O3のみ」を添加した実施例は何ら記載されていない。
したがって、本件の請求項1に係る発明の特徴ある構成である「原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 のみを50ppm以上1000ppm 未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加」することは、刊行物1には、記載も示唆もされていない。
また、刊行物2には、CuOを含有するニッケル-亜鉛系フェライト材料の焼成を800℃で行うことは記載されているものの、フェライト材料にB2O3を添加することは、記載も示唆もされていない。
よって、本件の請求項1に係る発明及び、少なくとも請求項1を引用する請求項3ないし6に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

本件の請求項1に係る発明及び、少なくとも請求項1を引用する請求項3ないし6に係る発明は、「原料段階におけるフェライト材料にB2 O3 のみを50ppm以上1000ppm 未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加」するという構成を備えることにより、本件特許明細書の0100段落(「発明の効果」)に記載される如く、「本発明のフェライト焼結体は、Ni-Cu-Zn系、Ni-Cu系、Ni-Zn系、Cu-Zn系のフェライトにB2 O3」を「所定範囲内の量で添加したことにより、これを磁心や積層型チップインダクタに使用した場合には、μi、インダクタンスLおよびQが高い値に保持され、従って、このようなセラミックインダクタ部品を少なくとも有する複合積層部品はその性能に優れ、各種電子機器に有用である。」という明細書記載の顕著な効果を奏するものである。

6.特許異議申立についての判断のむすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び取消理由によっては本件の請求項1,請求項3ないし6に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1,請求項3ないし6に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件の請求項1,請求項3ないし6に係る発明についての特許は、拒絶をすべき査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フェライト焼結体、チップインダクタ部品、複合積層部品および磁心
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料にB2O3 のみを50ppm以上1000ppm未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。
【請求項2】Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料に、SiO2:0.1〜15重量%、B2O3:10〜40重量%、PbO:0.1〜40重量%、ZnO:20〜70重量%およびAl2O3:0〜6重量%を含有するガラスを250〜4000ppmの範囲内で、焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。
【請求項3】フェライトの組成がFe2O3:40〜52mol%、NiO:0〜50mol%、CuO:0〜20mol%およびZnO:0〜50mol%である請求項1または2のフェライト焼結体。
【請求項4】フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるインダクタ部を有するチップインダクタ部品であって、前記フェライト磁性層が請求項1ないし3のいずれかのフェライト焼結体で構成されていることを特徴とするチップインダクタ部品。
【請求項5】フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるチップインダクタ部を少なくとも有する複合積層部品であって、前記フェライト磁性層が請求項1ないし3のいずれかのフェライト焼結体で構成されていることを特徴とする複合積層部品。
【請求項6】請求項1ないし3のいずれかのフェライト焼結体で構成されていることを特徴とする磁心。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、各種磁性材料として用いられるフェライト焼結体、この焼結体を磁性材料として用いるチップインダクタ、LC複合部品等の複合積層部品および磁心に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種フェライトが、その優れた磁気特性から各種磁心材料や複合積層部品として用いられている。積層LC複合部品は、セラミック誘電体層と内部電極層とを積層して構成されるコンデンサチップ体と、フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるインダクタチップ体とを一体的に形成したものである。このような複合積層部品は、体積が小さいこと、堅牢性および信頼性が高いことなどから、各種電子機器に多用されている。
【0003】
これらの部品、例えばLC複合部品は、通常、内部導体用ペースト、磁性層用ペースト、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを厚膜技術によって積層一体化した後、焼成し、得られた焼結体表面に外部電極用ペーストを印刷ないし転写した後、焼成することにより製造される。この場合、磁性層に用いられる磁性材料としては、低温焼成が可能であることからNi-Cu-Zn系フェライトやNi-Zn系フェライトが一般に用いられている。
【0004】
また、このようなフェライトにガラスを添加して、その特性を改質する試みも幾つか提案されている。例えば、特開平2-288307号公報には、Ni-フェライトにホウケイ酸ガラスを20〜30重量%添加した磁性体を用いて、自己共振周波数を向上させた積層インダクタが開示されている。
【0005】
また、特開平1-31823号公報には、金属磁性粉末と低融点ガラス粉末の混合物を加圧成型したインダクタ部品およびその製造方法が開示されている。さらに、特開平1-110708号公報には、焼結密度を向上させ機械的強度の改善等のために、フェライトにホウケイ酸ガラスを15〜75重量%添加したフェライト焼結体、チップインダクタおよびLC複合部品が開示されている。
【0006】
その他にも、フェライトにガラスを添加して種々の特性の改善を図った技術が知られている(特開昭51-151331号公報、米国特許第4540500号明細書、特開昭58-135133号公報、特開昭58-135606〜135609号公報等)。
【0007】
上述のようにフェライトにガラスを添加して、その特性を改質する試みはこれまでに種々なされてきたが、磁心やチップインダクタにおけるμi、LおよびQの特性を十分に向上させることのできるガラスの配合系はこれまで知られていなかった。
【0008】
そこで本発明者らは、かかる特性を十分に向上し得るガラスの配合系を見い出すべく鋭意検討した結果、磁心またはチップインダクタの磁性材料としてNi-Cu-Zn系フェライトを用い、これに特定のガラスを特定量範囲で添加することにより、上記特性を向上させることができることを突き止めた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、フェライト焼結体におけるフェライト中の特定ガラスの含有量を所定範囲内に設定して、μi、LおよびQを高い値に保持することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(6)の本発明によって達成される。
(1)Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料にB2O3 のみを50ppm以上1000ppm未満の範囲内で焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。
(2)Ni、CuおよびZnの2種または3種を含むフェライト焼結体であって、原料段階におけるフェライト材料に、SiO2:0.1〜15重量%、B2O3:10〜40重量%、PbO:0.1〜40重量%、ZnO:20〜70重量%およびAl2O3:0〜6重量%を含有するガラスを250〜4000ppmの範囲内で、焼結温度よりも低い温度での仮焼後に添加して800〜930℃の温度で焼結したフェライト焼結体。
(3)フェライトの組成がFe2O3:40〜52mol%、NiO:0〜50mol%、CuO:0〜20mol%およびZnO:0〜50mol%である上記(1)または(2)のフェライト焼結体。
(4)フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるインダクタ部を有するチップインダクタ部品であって、前記フェライト磁性層が上記(1)ないし(3)のいずれかのフェライト焼結体で構成されていることを特徴とするチップインダクタ部品。
(5)フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるチップインダクタ部を少なくとも有する複合積層部品であって、前記フェライト磁性層が上記(1)ないし(3)のいずれかのフェライト焼結体で構成されていることを特徴とする複合積層部品。
(6)上記(1)ないし(3)のいずれかのフェライト焼結体で構成されていることを特徴とする磁心。
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【作用】
本発明のフェライト焼結体は、原料段階におけるNi-Cu-Zn系フェライト成分中にB2O3 のみが50ppm以上1000ppm未満、好ましくは200〜900ppm、より好ましくは400〜800ppmの範囲内で添加されているか、あるいはSiO2:0.1〜15重量%、好ましくは3〜12重量%、B2O3:10〜40重量%、好ましくは20〜35重量%、PbO:0.1〜40重量%、好ましくは3〜20重量%、ZnO:20〜70重量%、好ましくは45〜65重量%およびAl2O3:0〜6重量%のSiO2-B2O3-PbO-ZnO-Al2O3系のガラスが250〜4000ppm、好ましくは1000〜2000ppmの範囲内で添加されていることを必要とする。これらガラス成分の含有量が上記範囲内において初めて磁気特性μi、LおよびQの顕著でかつ臨界的な向上効果が認められる。
【0018】
本発明において、このように特定のガラスを所定量添加することによりμiが向上する理由は、低融点化合物によって液相焼結を形成し、焼結性が向上すると共に、フェライトの粒成長を低温から促進させるためと考えられる。一方、Q特性が向上する理由としては、フェライト焼結体の比抵抗が向上することにより、フェライト磁気損失中の渦電流損失が小さくなるためと考えられる。
【0019】
本発明で用いるフェライトはNi-Cu-Zn系、Ni-Cu系、Ni-Zn系、Cu-Zn系のいずれかであれば、それ以外に特に制限はなく、目的に応じて種々の組成のものを選択すればよいが、例えば、Fe2O3:40〜52mol%、特に45〜50mol%、NiO:0〜50mol%、特に3〜40mol%、CuO:0〜20mol%、特に5〜15mol%およびZnO:0〜50mol%、特に6〜33mol%の組成範囲内であることが好ましい。
【0020】
Fe2O3の配合量が多すぎるとα-Fe2O3の析出により、焼結性が悪くなると共に焼結体の比抵抗が低くなるため、μi、Qの劣化の原因となり、好ましくない。また、NiO量の多い高周波の組成領域の組成においては、Fe2O3が多すぎると同様な現象が生じてくる。
【0021】
内部導体にAgを用いる積層チップインダクタでは、焼結温度が850〜920℃程度に設定されるため、充分な焼結性が得られないと磁気特性だけでなく信頼性に欠け、好ましくないが、上記の組成範囲では良好な焼結性が得られる。この場合、CuO量が適量範囲より多い場合には、フェライトの結晶組織が不均一となり、μiおよびQ特性の劣化原因となる。Fe2O3量とCuO量とが固定されている場合は、フェライトの適用周波数と磁気特性はNiO量とZnO量によって決定される。ZnO量が多くNiO量が少ない組成においては低周波数で高μi組成となり、一方ZnO量が少なくNiO量の多い組成では高周波で低μi組成となる。なお、ZnO量が適量範囲より多くなると、フェライトのキュリー点が100℃以下となり、実用上、信頼性に欠けるため、好ましくない。
【0022】
ところで、本発明において使用するガラスB2O3またはSiO2-B2O3-PbO-ZnO-Al2O3系のガラスの添加効果は、フェライトの組成によって下記の様な変化が観られる。すなわち、ZnO量が多くNiO量の少ない適用周波数400KHz付近の組成領域では、特にμiの向上が著しい。また、適用周波数1MHz付近の組成領域では、μi、Q共に向上が著しい。さらに、NiO量が多くZnO量の少ない30〜70MHz付近の組成においては、本来のμiが小さいことから、μiQ積の向上も比較的小さい。
【0023】
次に、B2O3単独添加による場合のフェライト組成との関係において、ZnO量が多い組成領域ではμiQ積が大きく向上し、従ってこのガラス組成においてはフェライトのZnOが主成分であることがμiQ積を向上させることになる。
【0024】
これに対し、SiO2-B2O3-PbO-ZnO-Al2O3系ガラスの単独添加による場合のフェライト組成との関係では次のような傾向が観られる。
【0025】
すなわち、このガラス中のSiO2成分が適量より多くなるとフェライトの焼結性が劣化し、μiQ積が小さくなる。また、ガラス中のPbOの成分が適量より多くなるとAgを導体とする積層チップインダクタでは、導体の直流抵抗やAgの拡散、断線の原因となる。さらに、ガラス中のAl2O3の成分が適量より多くなるとフェライトの焼結性が劣化し、μiQ積が小さくなる。
【0026】
以上のことから、本発明の条件を満たすフェライト焼結体を用いたフェライトチップインダクタ部品を少なくとも有する複合積層部品は、優れた性能を有し、電子部品として多くの用途を有し得るものである。
【0027】
【具体的構成】
以下、本発明の具体的構成について詳細に説明する。本発明の複合積層部品の好適実施例である積層LC複合部品を図1に示す。
【0028】
図1に示される本発明の一例LC複合部品1は、セラミック誘電体層21と内部電極層25とを積層して構成されるコンデンサチップ体2と、フェライト磁性層31と内部導体35とを積層して構成されるインダクタチップ体3とを一体化したものであり、表面に外部電極51を有する。
【0029】
インダクタチップ体3のフェライト磁性層31の材質としては、Ni-Cu-Zn系、Ni-Cu系、Ni-Zn系あるいはCu-Zn系のフェライトを用いる。この他、Co、Mn等が全体の5wt% 程度以下含有されていてもよく、またCa、Si、Bi、V、Pb等が1wt% 程度以下含有されていてもよい。
【0030】本発明において、内部導体35を構成する導電材は、インダクタとして実用的なQを得るためには抵抗率の小さいことが必要であるので、Agを主体とする導電材を用いることが好ましい。この際、銀の含有量が90重量%以上のもの、特に純度99.9重量%以上の純銀を用いることが好ましい。このように、特に純銀を用いることにより比抵抗をきわめて小さくすることができる。
【0031】
LC複合部品1のインダクタチップ体3は、従来公知の構造とすればよく、外形は通常ほぼ直方体状の形状とする。そして図1に示されるように、内部導体35は磁性層31内にて通常スパイラル状に配置されて内部巻線を構成し、その両端部は各外部電極51、51に接続されている。
【0032】
このような場合、内部導体35の巻線パターン、すなわち閉磁路形状は種々のパターンとすることができ、またその巻数も用途に応じ適宜選択すればよい。また、インダクタチップ体3の各部寸法等には制限はなく、用途に応じ適宜選択すればよい。
【0033】
なお、内部導体35の厚さは、通常5〜30μm 程度、巻線ピッチは通常10〜400μm 程度、巻数は通常1.5〜50.5ターン程度とされる。また、磁性層31のベース厚は通常100〜500μm 程度、内部導体35、35間の磁性層厚は通常10〜100μm 程度とする。
【0034】
コンデンサチップ体2のセラミック誘電体層21には特に制限がなく種々の誘電体材料を用いてよいが、焼成温度が低いことから、酸化チタン系誘電体を用いることが好ましい。また、その他、チタン酸系複合酸化物、ジルコン酸系複合酸化物、あるいはこれらの混合物を用いることもできる。また、焼成温度を低下させるために、ホウケイ酸ガラス等のガラスを含有させてもよい。
【0035】
具体的には、酸化チタン系としては、必要に応じNiO、CuO、Mn3O4、Al2O3、MgO、SiO2等、特にCuOを含むTiO2等が、チタン酸系複合酸化物としては、BaTiO3、SrTiO3、CaTiO3、MgTiO3やこれらの混合物等が、ジルコン酸系複合酸化物としては、BaZrO3、SrZrO3、CaZrO3、MgZrO3やこれらの混合物等が挙げられる。
【0036】
本発明において、内部電極層25を構成する導電材に特に制限はなく、Ag、Pt、Pd、Au、Cu、Niや、例えばAg-Pd合金など、これらを1種以上含有する合金等から選択すればよいが、特にAg、Ag-Pd合金などのAg合金等が好適である。
【0037】
LC複合部品1のコンデンサチップ体2は、従来公知の構造とすればよく、外形は通常ほぼ直方体状の形状とする。そして図1に示されるように、内部電極層25の一端は外部電極51に接続されている。
【0038】
コンデンサチップ体2の各部寸法等には特に制限はなく、用途等に応じ適宜選択すればよい。なお、誘電体層21の積層数は目的に応じて定めればよいが、通常1〜100程度である。また、誘電体層21の一層あたりの厚さは、通常20〜150μm程度であり、内部電極層25の一層あたりの厚さは、通常5〜30μm程度である。
【0039】
本発明のLC複合部品1の外部電極51を構成する導電材に特に制限はなく、例えば、Ag、Pt、Pd、Au、Cu、NiやAg-Pd合金などのこれらを1種以上含有する合金等から選択すればよいが、特にAg、Ag-Pd合金などのAg合金等が好適である。また、外部電極51の形状や寸法等には特に制限がなく、目的や用途等に応じて適宜決定すればよいが、厚さは、通常100〜2500μm程度である。
【0040】
本発明のLC複合部品1の寸法には特に制限がなく、目的や用途等に応じて適宜選択すればよいが、通常(1.6〜10.0mm)×(0.8〜15.0mm)×(1.0〜5.0mm)程度である。本発明の複合積層部品は、前述したLC複合部品に限定されるものではなく、前述した構成を一部に有するものであれば、この他各種の複合積層部品であってもよい。
【0041】
本発明のLC複合部品1等の複合積層部品は、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法により製造することができる。
【0042】
フェライト磁性層用ペーストは、次のようにして作製する。
【0043】
まず、フェライトの原料粉末、例えばNiO、ZnO、CuO、Fe2O3等の各種粉末を、所定量ボールミル等により湿式混合する。こうして湿式混合したものを、通常スプレードライヤーにより乾燥し、その後仮焼する。得られた仮焼材に所定量のB2O3またはSiO2-B2O3-PbO-ZnO-Al2O3系のガラスを添加し、これを通常は、ボールミルで粉体粒径0.01〜0.5μm程度の粒径となるまで湿式粉砕し、スプレードライヤーにより乾燥する。
【0044】
得られたフェライト粉末を、エチルセルロース等のバインダと、テルピネオール、ブチルカルビトール等の溶剤と混練してペースト化する。なお、B2O3やガラスを仮焼結前に添加すると、その成分が蒸発しやすくなるので仮焼後に添加する。
【0045】
セラミック誘電体層用ペーストの構成に特に制限はなく、上記したようなフェライト誘電体層の組成に応じて各種誘電体材料あるいは焼成により誘電体となる原料粉末を選択し、各種バインダおよび溶剤と混練して調製すればよい。
【0046】
原料粉末としては、通常、酸化チタン系およびチタン酸系複合酸化物等を構成する酸化物を用いればよく、対応する酸化物誘電体の組成に応じ、Ti、Ba、Sr、Ca、Zr等の酸化物を用いればよい。またこれらは焼成により酸化物になる化合物、例えば炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、有機金属化合物等を用いてもよい。
【0047】
これらの原料粉末は、通常、平均粒子径0.1〜5μm程度のものが用いられる。
【0048】
また、必要に応じ、各種ガラスが含有されていてもよい。
【0049】
また、焼結助剤等として、必要に応じて各種ガラスや酸化物を含有させてもよい。
【0050】
内部導体用ペースト、内部電極層用ペースト、および外部電極用ペーストは、それぞれ、上記した各種導電性金属、合金、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した各種バインダおよび溶剤とを混練して作製する。
【0051】
上記した各ペースト中のバインダおよび溶剤の含有量に特に制限はなく、通常の含有量、例えば、バインダは1〜5wt% 程度、溶剤は10〜50wt% 程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10wt% 以下であることが好ましい。
【0052】
LC複合部品1を製造するに際しては、例えば、まず、磁性層用ペ-ストおよび内部導体用ペ-ストをPET等の基板上に積層印刷する。
【0053】
なお、磁性層用ペーストや誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部導体用ペーストや内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップを形成してもよい。この場合、磁性層に隣接する誘電体層は直接印刷すればよい。
【0054】
次いで、外部電極用ペーストをグリーンチップに印刷ないし転写し、磁性層用ペースト、内部導体用ペースト、誘電体層用ペースト、内部電極層用ペーストおよび外部電極用ペーストを同時焼成する。
【0055】
また、先にチップ体を焼成し、その後に外部電極用ペーストを印刷して焼成することもできる。
【0056】
焼成温度は、800〜930℃、特に850〜900℃とすることが好ましい。また、焼成時間は、0.05〜5時間、特に0.1〜3時間とすることが好まい。焼成は、PO2=1〜100%で行なう。
【0057】
また、外部電極焼き付けのための焼成温度は、通常500〜700℃程度、焼成時間は、通常10分〜3時間程度であり、焼成は通常、空気中で行なう。
【0058】
本発明では、焼成時および焼成後、大気より酸素を過剰に含む雰囲気中で熱処理を行なうことが好ましい。
【0059】
酸素過剰雰囲気中で熱処理を行なうことによって、Cu、Zn等の金属やCu2O、Zn2O等の抵抗が低い酸化物の形で析出した物や析出していた物をCuO、ZnO等の抵抗が高く実害のない酸化物の形で析出させることができる。このため部品の回路抵抗がより一層向上する。
【0060】
また、前記熱処理は、最後の焼成時および最後の焼成後に行なうことが好ましい。
【0061】
例えば、チップ体の焼成と外部電極を焼き付けるための焼成とを同時に行う場合は、この焼成の時およびこの焼成の後、チップ体の焼成後に外部電極を焼き付けるための焼成を行なう場合は、外部電極を焼き付ける時や外部電極を焼き付けた後に所定の熱処理を行なうことが好ましい。なお、後者のように2度焼成を行なう場合は、場合によっては、さらにチップ体の焼成時やチップ体の焼成後に熱処理を行なってもよい。
【0062】
熱処理雰囲気中の酸素分圧比は、20〜100%、より好ましくは50〜100%、特に好ましくは100%が好ましい。前記範囲未満では、Cu、Zn、Cu2O、ZnO等の析出を抑制する能力が低下する。
【0063】
このような酸素過剰雰囲気中での熱処理は、通常、焼成時や外部電極の焼き付け時に同時に行われるため、熱処理温度や保持時間等の諸条件は、焼成条件や外部電極焼き付け条件と同様であるが、熱処理のみを単独で行う場合、熱処理温度は、550〜900℃、特に、650〜800℃、保持時間は0.5〜2時間、特に1〜1.5時間とすることが好ましい。
【0064】
なお、LC複合部品以外の複合積層部品の場合も前記のとおり作製すればよい。
【0065】
このようにして製造されたLC複合部品等の本発明の複合積層部品は、外部電極に半田付等を行なうことにより、プリント基板上等に実装され、各種電子機器等に使用される。
【0066】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0067】
実施例1〜4,比較例1、2、3、3’、4、4’
最終組成でFe2O3:49.4モル%、NiO:16.3モル%、CuO:8.7モル%およびZnO:25.6モル%となるように原料を混合した。原料の混合は、ボールミルを用いて湿式混合により行い、ついで、この湿式混合物をスプレードライヤーにより乾燥し、700℃にて仮焼した。この仮焼材にB2O3を0〜5000ppmの範囲で添加し、これをボールミルにて湿式粉砕した後スプレードライヤーで乾燥し、最終平均粒径0.1〜0.3μmの粉体を作製した。
【0068】
得られた粉体をトロイダル形状に成型した。この成型品を大気中において焼成温度870℃で2時間焼成してトロイダルコアを作製した。このトロイダルコアの外径は11.1mm、内径は5.1mm、厚みは2.4mm、巻数は20ターン、線径は0.35mmである。
【0069】
また、上記粉体100重量部に対し、エチルセルロース3.84重量部およびテルピネオール78重量部を加え、三本ロールにて混練し、磁性体層用ペーストとした。
【0070】
次に、内部導体用ペーストを、平均粒径0.8μm のAg100重量部に対し、エチルセルロース2.5重量部およびテルピネオール40重量部を加え、三本ロールにて混練することにより作製した。
【0071】
このようにして作製された磁性層用ペーストと内部導体用ペーストとを印刷積層し、印刷積層法により、表1に示すようなB2O3の含有量の異なる種々の積層積層型チップインダクタを製造した。
【0072】
この場合、焼成温度は870℃、焼成時間は2時間とし、焼成雰囲気は大気中とした。
【0073】
得られた積層型チップインダクタの寸法は、4.5mm×3.2mm×1.1mmで、巻数は9.5ターンとした。
【0074】
これら積層型チップインダクタおよびトロイダルコアについて、測定周波数1MHzの条件にてμi、L(μH)およびQを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示す結果から分かるように、B2O3の添加量が50〜1000ppm未満の範囲内のときは無添加の場合と比較して、積層型チップインダクタのLQ積およびトロイダルコアのμiQ積は共に約25%以上向上している。特に、B2O3の添加量が200〜900、特に400〜800ppmのときに最も向上しており、トロイダルコアのμiQ積は無添加の場合と比較して約135%、積層型チップインダクタのLQ積は無添加の場合と比較して約75%以上まで向上している。
【0077】
実施例7〜13,比較例5〜7
最終組成でFe2O3:49.4モル%、NiO:16.3モル%、CuO:8.7モル%およびZnO:25.6モル%となるように原料を混合した。原料の混合は、ボールミルを用いて湿式混合により行い、ついで、この湿式混合物をスプレードライヤーにより乾燥し、700℃にて仮焼した。この仮焼材に、SiO2:10重量%、B2O3:25重量%、PbO:5重量%、ZnO:59.5重量%およびAl2O3:0.5重量%の組成を有するガラス(以下、ガラスI)を0〜5000ppmの範囲で添加し、これをボールミルにて湿式粉砕した後スプレードライヤーで乾燥し、最終平均粒径0.1〜0.3μmの粉体を作製した。
【0078】
得られた粉体を前記のトロイダル形状に成型した。この成型品を大気中において焼成温度870℃で2時間焼成してトロイダルコアを作製した。このトロイダルコアの外径は11.1mm、内径は5.1mm、厚みは2.4mm、巻数は20ターン、線径は0.35mmである。
【0079】
また、上記粉体100重量部に対し、エチルセルロース3.84重量部およびテルピネオール78重量部を加え、三本ロールにて混練し、磁性体層用ペーストとした。
【0080】
次に、内部導体用ペーストを、平均粒径0.8μm のAg100重量部に対し、エチルセルロース2.5重量部およびテルピネオール40重量部を加え、三本ロールにて混練することにより作製した。
【0081】
このようにして作製された磁性層用ペーストと内部導体用ペーストとを印刷積層し、印刷積層法により、表2に示すようなガラスIの含有量の異なる種々の積層積層型チップインダクタを製造した。
【0082】
この場合、焼成温度は870℃、焼成時間は2時間とし、焼成雰囲気は大気中とした。
【0083】
得られた積層型チップインダクタの寸法は、4.5mm×3.2mm×1.1mmで、巻数は9.5ターンとした。
【0084】
これら積層型チップインダクタおよびトロイダルコアについて、測定周波数1MHzの条件にてμi、L(μH)およびQを求めた。得られた結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2に示す結果から分かるように、ガラスIの添加量が250〜4000ppmの範囲内のときは無添加の場合と比較して、積層型チップインダクタのLQ積およびトロイダルコアのμiQ積は共に約25%以上向上している。特に、トロイダルコアではガラスの添加量が1500〜2000ppmの範囲ときに約140%以上まで向上しており、また積層型チップインダクタではガラスの添加量が1000〜1500ppmの範囲とき約76%以上まで向上している。
【0087】
実施例14〜17,比較例8〜11
最終組成でFe2O3:49.4モル%、NiO:16.3モル%、CuO:8.7モル%およびZnO:25.6モル%となるように原料を混合した。原料の混合は、ボールミルを用いて湿式混合により行い、ついで、この湿式混合物をスプレードライヤーにより乾燥し、700℃にて仮焼した。この仮焼材に表3に示す各種ガラスを夫々2000ppmの範囲で添加し、これをボールミルにて湿式粉砕した後スプレードライヤーで乾燥し、最終平均粒径0.1〜0.3μm の粉体を作製した。
【0088】
比較用のガラスX〜XIVと本発明のガラスII〜Vの組成は下記表3のとおりである。
【0089】
【表3】

【0090】
得られた粉体を前記のトロイダル形状に成型した。この成型品を大気中において焼成温度870℃で2時間焼成してトロイダルコアを作製した。このトロイダルコアの外径は11.1mm、内径は5.1mm、厚みは2.4mm、巻数は20ターン、線径は0.35mmである。
【0091】
このトロイダルコアの収縮率、焼結密度および測定周波数1MHzの条件におけるμiおよびQ特性を求めた。得られた結果を表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
表4に示す結果から分かるように、SiO2-B2O3-PbO-ZnO-Al2O3系ガラスの組成が本発明の範囲内のときは、トロイダルコアのμiQ積は無添加の場合と比較して約137%以上まで向上している。これに対し、かかるガラスの組成が本発明の範囲から逸脱している場合には、フェライト焼結体の密度が低いためにμiおよびQが低く、μiQ積がガラス無添加の場合に比較して悪くなっている。
【0094】
実施例18〜20
最終組成が表5に示すような配合内容となるように原料を混合して原料粉体を得た。これら原料の混合は、ボールミルを用いて湿式混合により行い、ついで、この湿式混合物をスプレードライヤーにより乾燥し、700℃にて仮焼した。この仮焼材に、実施例8で使用したものと同じガラスIを2000ppmの範囲で添加し、これをボールミルにて湿式粉砕した後スプレードライヤーで乾燥し、最終平均粒径0.1〜0.3μmの粉体を作製した。
【0095】
得られた粉体を前記のトロイダル形状に成型した。この成型品を大気中において焼成温度870℃で2時間焼成してトロイダルコアを作製した。このトロイダルコアの外径は11.1mm、内径は5.1mm、厚みは2.4mm、巻数は20ターン、線径は0.35mmである。
【0096】
このトロイダルコアの収縮率、焼結密度並びにμiおよびQ特性を求めた。なお、測定周波数は、各フェライト組成においてμiQ積が最も大きい周波数とした。得られた結果を表6に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
表6に示す結果から分かるように、フェライト組成には好適範囲が存在し、Fe2O3:40〜52mol%、NiO:0〜50mol%、CuO:0〜20mol%およびZnO:0〜50mol%組成範囲内のときは、トロイダルコアのμiQ積は無添加の場合と比較して約70%以上まで向上している。
【0100】
【発明の効果】
本発明のフェライト焼結体は、Ni-Cu-Zn系、Ni-Cu系、Ni-Zn系、Cu-Zn系のフェライトにB2O3または特定組成比のSiO2-B2O3-PbO-ZnO-Al2O3系ガラスを所定範囲内の量で添加したことにより、これを磁心や積層型チップインダクタに使用した場合には、μi、インダクタンスLおよびQが高い値に保持され、従って、このようなセラミックインダクタ部品を少なくとも有する複合積層部品はその性能に優れ、各種電子機器に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合積層部品の好適実施例であるLC複合部品が示される断面図である。
【符号の説明】
1 LC複合部品
2 コンデンサチップ体
21 セラミック誘電体層
25 内部電極
3 インダクタチップ体
31 フェライト磁性層
35 内部導体
51 外部電極
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-08-22 
出願番号 特願平4-148516
審決分類 P 1 652・ 121- YA (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 正文  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 橋本 武
河本 充雄
登録日 2002-12-20 
登録番号 特許第3381939号(P3381939)
権利者 TDK株式会社
発明の名称 フェライト焼結体、チップインダクタ部品、複合積層部品および磁心  
代理人 西出 眞吾  
代理人 大倉 宏一郎  
代理人 大倉 宏一郎  
代理人 西出 眞吾  
代理人 佐藤 美樹  
代理人 佐藤 美樹  
代理人 前田 均  
代理人 前田 均  

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