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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1125848
異議申立番号 異議2001-70017  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-10 
確定日 2005-07-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3060373号「ロタマーゼ酵素活性の阻害剤」の請求項1ないし6、11ないし13、18ないし20、25、26、31、32、37、38、43ないし45、50ないし52、57、58、63、64、69、70に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3060373号の請求項1ないし6、11ないし13、18ないし20、25、26、31、32、37、38、43ないし45、50ないし52、57、58、63、64、69、70に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3060373号の請求項1〜74に係る発明については、平成8年4月30日(優先権主張日 1995年6月7日 米国)に特許出願され、平成12年4月28日に特許権の設定登録がされた。その後大橋直人により請求項1〜6、11〜13,18〜20、25、26、31、32、37、38、43〜45、50〜52、57、58、63、64、69、70に対し特許異議の申立てがされ、取消理由の通知後、その指定期間内である平成14年3月7日に訂正請求がされたものである。

2.訂正請求について

(1)訂正の内容

「【請求項1】 神経修復が助長されることができる神経病理学的状態において、神経成長および再生を促進する薬剤の製造において使用するためのものであって、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項2】 神経学的障害を治療する薬剤の製造において使用するためのものであって、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項3】 神経変性から神経を保護する薬剤の製造において使用するためのものであって、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。」

「【請求項1】 神経修復が助長されることができる神経病理学的状態において、神経成長および再生を促進する薬剤の製造において使用するためのものであって、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体であり、前記イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項2】 神経学的障害を治療する薬剤の製造において使用するためのものであって、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体であり、前記イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項3】 神経変性から神経を保護する薬剤の製造において使用するためのものであって、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体であり、前記イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。」
に訂正する。

(2)訂正の適否

上記訂正はいずれの請求項についても「非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド」を「FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体であり、前記イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。」に減縮するものであって、訂正前の特許明細書の段落【0015】等に訂正により追加された事項に対応する記載が見られる。したがって、上記訂正は願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条3項において準用する特許法第126条第2項から第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明

上記訂正は、これを認容することができるから、本件請求項1〜6、11〜13,18〜20、25、26、31、32、37、38、43〜45、50〜52、57、58、63、64、69、70に係る発明は、上記訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の対応する請求項に記載された事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】 神経修復が助長されることができる神経病理学的状態において、神経成長および再生を促進する薬剤の製造において使用するためのものであって、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体であり、前記イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項2】 神経学的障害を治療する薬剤の製造において使用するため
のものであって、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体であり、前記イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項3】 神経変性から神経を保護する薬剤の製造において使用する
ためのものであって、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体であり、前記イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項4】 イムノフィリンリガンドを、神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量と組み合わせて使用する請求項1、2または3のうちのいずれか1項記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項5】 神経病理学的状態、神経変性または神経学的障害は、物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脳への物理的損傷、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害を含む請求項1、2、3または4のうちのいずれか1項記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項6】 神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項5記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項11】 FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するかまたはニューロン再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経学的障害を治療する医薬組成物。
【請求項12】 神経学的障害が物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害からなる群から選択される請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】 神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項12記載の医薬組成物。
【請求項18】 FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を神経栄養成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量と組み合わせて動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するかまたはニューロン再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経学的障害を治療する医薬組成物。
【請求項19】 神経学的障害が物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害からなる群から選択される請求項18記載の医薬組成物。
【請求項20】 神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項19記載の医薬組成物。
【請求項25】 FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を損傷した末梢神経に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激または促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、損傷した末梢神経の成長を刺激する医薬組成物。
【請求項26】 神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子を投与し損傷した末梢神経の成長を刺激または促進することをさらに含む請求項25記載の医薬組成物。
【請求項31】 FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、神経再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経再生および成長を促進する医薬組成物。
【請求項32】 神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量を投与し神経再生を促進することをさらに含む請求項31記載の医薬組成物。
【請求項37】 FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、神経変性を予防することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経変性を防止する医薬組成物。
【請求項38】 神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量を投与し神経変性を予防することをさらに含む請求項37記載の医薬組成物。
【請求項43】 ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するかまたはニューロン再生を促進し、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経学的障害を治療する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項44】 神経学的障害が物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害からなる群から選択される請求項43記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項45】 神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項44記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項50】 ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を神経栄養成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量と組み合わせて動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するかまたはニューロン再生を促進し、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経学的障害を治療する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項51】 神経学的障害が物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害からなる群から選択される請求項50記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項52】 神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項51記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項57】 ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を損傷した末梢神経に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激または促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、損傷した末梢神経の成長を刺激する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項58】 神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子を投与し損傷した末梢神経の成長を刺激または促進することをさらに含む請求項57記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項63】 ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、神経再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経再生および成長を促進する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項64】 神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量を投与し神経再生を促進することをさらに含む請求項63記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項69】 ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、神経変性を予防することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経変性を予防する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項70】 神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量を投与し神経変性を予防することをさらに含む請求項69記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。


4.取消理由の概要

平成13年8月27日付け取消理由通知で示された理由のうち特許法第36条第4項、第6項2号についてのものは以下のとおりである。

特許請求の範囲の請求項1〜6、11〜13,18〜20、25、26、31、32、37、38、43〜45、50〜52、57、58、63、64、69、70に記載における「非免疫抑制性」「FKBP型イムノフィリン」なる用語が明確でなく、どのような化合物が請求項1〜6の薬剤の製造に使用する「FKBP型イムノフィリンリガンド」であり、請求項11〜13,18〜20、25、26、31、32、37、38の医薬組成物の有効成分であるのか、あるいはどのような化合物が請求項43〜45、50〜52、57、58、63、64、69、70の薬剤製造に使用するピペコリン酸誘導体であるのか想定できず、当業者が上記請求項に係る発明を容易に実施することができない。

5.判断

本件異議申立ての対象となった請求項は、いずれも本件発明の薬剤の製造に使用する、あるいは医薬組成物の有効成分であるピペコリン酸誘導体が
(a)ロタマ-ゼ活性を示すFKBP型イムノフィリンに対して親和性を有し、
(b)該FKBP型イムノフィリンのロタマ一ゼ活性を阻害し、
(c)非免疫抑制性である
という性質で特定されている。
ピペコリン誘導体であれば常に(a)〜(c)の要件が備わっているとする技術常識は存在せず、本件特許明細書においては、神経栄養作用に関連するロタマ-ゼ軸索成長データが具体的に開示され(a)(b)(c)の性質を備えるピペコリン誘導体としては、表2、表3に見られる3種の化合物(WAY124466,実施例12,13)があるが、WAY-124466と構造的に近似したピペコリン誘導体であるラパマイシンは条件(c)を満たさないことも示されている。そうすると、単に「ピペコリン酸誘導体」というだけでは、目的とする作用を有する化合物とは言えず、「ピペコリン酸誘導体」が本件発明の特定の薬剤の用途に使用できるものであるためには、上記(a)〜(c)の特定事項を満たすことが必要であるといえる。
以下、これらの特定事項が明確であるか否か検討する。

(a)及び(b)の「FKBP型イムノフィリン」について

本件明細書段落【0002】には【従来の技術】として「イムノフィリンという用語は主要な免疫抑制剤、シクロスポリンA(CsA)、FK506およびラパマイシンに対する受容体として機能する多くのタンパク質を意味する。イムノフィリンの公知群はシクロフィリン、およびFK506結合タンパク質、例えばFKBPである。・・FK506およびラパマイシンはFKBPに結合する。」と記載され、FKBPとはFK506に結合するタンパクであるとされている。
また、段落【0073】の「イムノフィリンは、軸索成長を制御するCa2+に影響を与えるカルシニューリン以外の部位に作用し得る。・・さらに、FK506はFKBP25ステロイド受容体およびその他の未同定標的、例えばFKBP13に関連するものを包含するその他の部位に作用する。」の記載、及び段落【0086】の「我々は組換えFKBP-12への 3H-FK506結合の阻害を試験することによりFKBP-12への結合における薬剤の効力を評価した。FKBP-12に対する薬剤の親和性と軸索成長の刺激およびロタマーゼ活性阻害の効力との間に顕著な類似点がある。」の記載によれば、FKBP型イムノフィリンは1種ではなく少なくともFKBP12、25、13が存在するが、本件明細書においては、薬剤の効力はFKBP12へのFK506の結合の阻害を試験することで評価されており、他のFKBPを用いた場合であっても同様に評価可能であるのか否かは明らかにされていない。
特許権者は「当業者は、FKBP型イムノフィリンを個々の特定の種類毎ではなく一つの族として一緒に扱っている。その理由は、FKBP型イムノフィリンが共通の特徴を有することにある。その特徴とは、FK506によって潜在的に阻害されるプロリル-ロタマ-ゼ活性を示す可溶性の小タンパク質であることである。つまり、FKBP型イムノフィリンとは、このような共通の機能的特徴並びに該機能的特徴の原因となる共通の構造的特徴を有する-群の物質として扱うことができ、これが当業者の技術常識なのである。」と主張する。
しかしながら、FKBP型イムノフィリンには多数の種類があり、各FKBPはそれぞれが異なる特徴を有していることは本件優先日当時広く知られているのであるから(NATURE MEDICINE,Vol.1,No.1,JANUARY 1995 pp.32〜37、Gene,160, 1995 pp.297〜302参照)、FKBP型イムノフィリンと総称する場合があったとしても、これを機能的特徴や構造的特徴が共通の一群の物質とすることはできない。
従って、(a)(b)の要件によりロタマーゼ活性を有するFKBP型イムノフィリンに親和性を有しそのロタマーゼ活性を阻害する」という性質の特定がなされても、これがいかなる機能的特徴に対応するものか明確でなく、従ってこれらによって本件発明の薬剤の用途に使用可能なピペコリン酸誘導体とそうでないピペコリン誘導体とが明確に区別され特定されているということはできない。

(c)「非免疫抑制性」について

本件明細書には「非免疫抑制性」について特に定義した記載は存在しない。
段落【0077】に「・・・ラパマイシンの非免疫抑制性誘導体が存在する。これらの1種であるWAY-124466、ラパマイシンのトリエン誘導体はFKBP-12に対して高い親和性で結合し、そしてロタマーゼ活性を阻害するが、免疫抑制作用を欠いている。シクロスポリンAは大環状ウンデカペプチドである。アラニンの6位にメチル基を単に付加すると、カルシニューリンを阻害せず、免疫抑制作用を欠く薬剤を生じるが、それはシクロスポリンAと同じ範囲までシクロフィリンのロタマーゼ活性を阻害する(Me CsA ref)。」の記載や、段落【0086】に「・・FKBP-12に対する薬剤の親和性と軸索成長の刺激およびロタマーゼ活性阻害の効力との間に顕著な類似点がある。明らかに、神経成長の刺激はカルシニューリン阻害に関係しない。カルシニューリン阻害は免疫抑制活性と十分に適合し、WAY-124466は免疫抑制性ではなく、そしてカルシニューリンを阻害しない。ラパマイシンは強力な免疫抑制剤であるが、ラパマイシン-FKBP-12複合体はRAFT-1に結合して免疫抑制性過程を開始する。」の記載はあるものの、非免疫抑制性あるいは免疫抑制作用のないことをどのような試験によって評価したのか全く不明である。
特許権者は、参考資料1を提出し、免疫抑制剤について少なくとも一種の免疫応答の発現を減じることができる薬剤であると記載されていること、また明細書の段落【0004】にも、「免疫抑制は免疫抑制剤とイムノフィリンとの複合体の形成に由来する。」との記載から、非免疫抑制性イムノフィリンリガンドとは、その他の作用を引き起こすかもしれないが、免疫抑制効果は引き起こさないように対象であるイムノフィリンに結合するところのイムノフィリンリガンドを意味するということが当業者であるならば容易に理解でき、そして非免疫抑制性イムノフィリンリガンドに属する物質の範囲も当然に明らかであると主張する。
しかし、上記資料における「少なくとも一種の免疫応答の発現を減じることができるものが免疫抑制剤である」の記載を考慮すると、免疫応答には、種々のタイプがあること、その内の少なくとも一種の応答の発現を減じるものが免疫抑制剤であることは理解することができるが、この記載は「非免疫抑制性」の意味自体を直接的に説明するものではない。また、明細書の「免疫抑制は免疫抑制剤とイムノフイリンとの複合体の形成に由来する。」の記載を反対解釈すると、イムノフィリンとの複合体を形成しないものが非免疫抑制性であることとなり、(a)の条件と矛盾する。結局、文言上も本件明細書からも、ピペコリン酸誘導体のうち「非免疫抑制性」であるものとはどのようなものか、どのような手法で非免疫抑制性か否かを決定するのか明らかでない。
したがって、本件明細書の上記請求項の記載は特許を受けようとする発明を明確に記載したものとはいえない。

さらに、数多くのピペコリン酸誘導体の中から神経栄養性を有する化合物を得ようとしても、(a)〜(c)の特定事項がいずれも不明確である以上、本件明細書に具体的に記載された化合物以外に上記特定事項を満足するピペコリン酸誘導体を想定できず、当業者は上記請求項に係る発明を容易に実施することができないといわざるを得ない。

6.むすび

以上のとおりであるから、本件請求項1〜6、11〜13,18〜20、25、26、31、32、37、38、43〜45、50〜52、57、58、63、64、69、70に係る発明については、本件明細書は特許法第36条第4項及び同条第6項第2号を満たしていないから、その発明の特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ロタマーゼ酵素活性の阻害剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】神経修復が助長されることができる神経病理学的状態において、神経成長および再生を促進する薬剤の製造において使用するためのものであって、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体型のイムノフィリンリガンドであり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項2】神経学的障害を治療する薬剤の製造において使用するためのものであって、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体型のイムノフィリンリガンドであり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項3】神経変性から神経を保護する薬剤の製造において使用するためのものであって、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体型のイムノフィリンリガンドであり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害するところの、非免疫抑制性であるイムノフィリンリガンド。
【請求項4】イムノフィリンリガンドを、神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量と組み合わせて使用する請求項1、2または3のうちのいずれか1項記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項5】神経病理学的状態、神経変性または神経学的障害は、物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脳への物理的損傷、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害を含む請求項1、2、3または4のうちのいずれか1項記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項6】神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項5記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項7】イムノフィリンリガンドがWay-124,666である請求項1、2、3または4のうちのいずれか1項記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項8】イムノフィリンリガンドがRap-Paである請求項1、2、3または4のうちのいずれか1項記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項9】イムノフィリンリガンドがSLB-506である請求項1、2、3または4のうちのいずれか1項記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項10】イムノフィリンリガンドが以下の化合物:
次式
【化1】

[式中、nは1、2または3を表す。]
で表される化合物、
4-(4-メトキシフェニル)ブチル(2S)-1-[2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)アセチル]ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、4-(4-メトキシフェニル)ブチル(2S)-1-[2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)アクリロイル]ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
4-(4-メトキシフェニル)ブチル(2S)-1-[2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)プロパノイル]ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
4-(4-メトキシフェニル)ブチル(2S)-1-[2-オキソ-(3,4,5-トリメトキシフェニル)アセチル]ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
次式
【化2】

で表される化合物、
3-シクロヘキシルプロピル(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
3-フェニルプロピル(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
3-(3,4,5-トリメトキシフェニル)プロピル(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
(1R)-2,2-ジメチル-1-フェネチル-3-ブテニル(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
(1R)-1,3-ジフェニルプロピル(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
(1R)-1-シクロヘキシル-3-フェニルプロピル(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
(1S)-1,3-ジフェニルプロピル(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
(1S)-1-シクロヘキシル-3-フェニルプロピル(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ヘキサヒドロ-2-ピリジンカルボキシレート、
(22aS)-15,15-ジメチルパーヒドロピリド[2,1-c][1,9,4]ジオキサザシクロノナデシン-1,12,16,17-テトラオン、
(24aS)-17,17-ジメチルパーヒドロピリド[2,1-c][1,9,4]ジオキサザシクロヘニコシン-1,14,18,19-テトラオン、
次式
【化3】

で表される化合物、
(3R,4R,23aS)-8-アリル-4,10-ジメチル-3-[2-(3-ピリジル)エチル]-1,3,4,5,6,7,8,11,12,15,16,17,18,20,21,22,23,23a-オクタデカヒドロ-14H-ピリド[2,1-c][1,10,4]ジオキサザシクロイコシン-1,7,14,17,18-ペンタオン、
(3R,4R,24aS)-8-アリル-4,10-ジメチル-3-[2-(3-ピリジル)エチル]-1,3,4,5,6,7,8,11,12,14,15,16,17,18,19,21,22,23,24,24a-イコサヒドロピリド[2,1-c][1,11,4]ジオキサザシクロヘニコシン-1,7,14,18,19-ペンタオン、
(3R,4R,25aS)-8-アリル-4,10-ジメチル-3-[2-(3-ピリジル)エチル]-1,3,4,5,6,7,8,11,12,15,16,17,18,19,20,22,23,24,25,25a-イコサヒドロ-14H-ピリド[2,1-c][1,12,4]ジオキサザシクロドコシン-1,7,14,19,20-ペンタオン、
次式
【化4】

[式中、nは1,2または3を表す。]
で表される化合物、
次式
【化5】

[式中、nは1,2または3を表す。]
で表される化合物、
次式
【化6】

で表される化合物、
(1R)-1-(3-ベンゾイルフェニル)-3-フェニルプロピル(1R)-2-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ピペリジン-1-カルボキシレート、
(1R)-1-[3-(ジアリルカルバモイル)フェニル]-3-フェニルプロピル(1R)-2-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)ピペリジン-1-カルボキシレート、
次式
【化7】

で表される化合物、
エチル1-(2-オキソ-3-フェニルプロパノイル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-ピルボイル-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-(2-オキソブタノイル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-(3-メチル-2-オキソブタノイル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-(4-メチル-2-オキソペンタノイル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-(3,3-ジメチル-2-オキソブタノイル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-(3,3-ジメチル-2-オキソペンタノイル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
4-[2-(エチルオキシカルボニル)ピペリジノ]-2,2-ジメチル-3,4-ジオキソブチルアセテート、
エチル1-[2-(2-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-2-ピラニル)-2-オキソアセチル]-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-[2-(2-メトキシテトラヒドロ-2H-2-ピラニル)-2-オキソアセチル]-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-[2-(1-ヒドロキシシクロヘキシル)-2-オキソアセチル]-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-[2-(1-メトキシシクロヘキシル)-2-オキソアセチル]-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-(2-シクロヘキシル-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-(2-オキソ-2-ピペリジノアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-[2-(3,4-ジヒドロ-2H-6-ピラニル)-2-オキソアセチル]-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-(2-オキソ-2-フェニルアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
エチル1-(4-メチル-2-オキソ-1-チオキソペンチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
3-フェニルプロピル1-(2-ヒドロキシ-3,3-ジメチルペンタノイル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
(1R)-1-フェニル-3-(3,4,5-トリメトキシフェニル)プロピル1-(3,3-ジメチルブタノイル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
(1R)-1,3-ジフェニルプロピル1-(ベンジルスルホニル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
3-(3,4,5-トリメトキシフェニル)プロピル1-(ベンジルスルホニル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
1-(2-[(2R,3R,6S)-6-[(2S,3E,5E,7E,9S,11R)-2,13-ジメトキシ-3,9,11-トリメチル-12-オキソ-3,5,7-トリデカトリエニル]-2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロ-2H-2-ピラニル]-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボン酸、
メチル1-(2-[(2R,3R,6S)-6-[(2S,3E,5E,7E,9S,11R)-2,13-ジメトキシ-3,9,11-トリメチル-12-オキソ-3,5,7-トリデカトリエニル]-2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロ-2H-2-ピラニル]-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
イソプロピル1-(2-[(2R,3R,6S)-6-[(2S,3E,5E,7E,9S,11R)-2,13-ジメトキシ-3,9,11-トリメチル-12-オキソ-3,5,7-トリデカトリエニル]-2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロ-2H-2-ピラニル]-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
ベンジル1-(2-[(2R,3R,6S)-6-[(2S,3E,5E,7E,9S,11R)-2,13-ジメトキシ-3,9,11-トリメチル-12-オキソ-3,5,7-トリデカトリエニル]-2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロ-2H-2-ピラニル]-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
1-フェニルエチル1-(2-[(2R,3R,6S)-6-[(2S,3E,5E,7E,9S,11R)-2,13-ジメトキシ-3,9,11-トリメチル-12-オキソ-3,5,7-トリデカトリエニル]-2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロ-2H-2-ピラニル]-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
(Z)-3-フェニル-2-プロペニル1-(2-[(2R,3R,6S)-6-[(2S,3E,5E,7E,9S,11R)-2,13-ジメトキシ-3,9,11-トリメチル-12-オキソ-3,5,7-トリデカトリエニル]-2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロ-2H-2-ピラニル]-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
3-(3,4-ジメトキシフェニル)プロピル1-(2-[(2R,3R,6S)-6-[(2S,3E,5E,7E,9S,11R)-2,13-ジメトキシ-3,9,11-トリメチル-12-オキソ-3,5,7-トリデカトリエニル]-2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロ-2H-2-ピラニル]-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
N2-ベンジル-1-(2-[(2R,3R,6S)-6-[(2S,3E,5E,7E,9S,11R)-2,13-ジメトキシ-3,9,11-トリメチル-12-オキソ-3,5,7-トリデカトリエニル]-2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロ-2H-2-ピラニル]-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
N2-(3-フェニルプロピル)-1-(2-[(2R,3R,6S)-6-[(2S,3E,5E,7E,9S,11R)-2,13-ジメトキシ-3,9,11-トリメチル-12-オキソ-3,5,7-トリデカトリエニル]-2-ヒドロキシ-3-メチルテトラヒドロ-2H-2-ピラニル]-2-オキソアセチル)-2-ピペリジンカルボキシレート、
次式
【化8】

[式中、Rはメチル基(Me)またはベンジル基(Bn)を表す。]
で表される化合物、
次式
【化9】

で表される化合物、
次式
【化10】

で表される化合物、
次式
【化11】

[式中、nは2を表し、
R1は次式
【化12】

または
【化13】

で表される基を表し、そして
R2はフェニル-o-第三ブチル基を表す。]
で表される化合物、
次式
【化14】

[式中、
R1がm-OCH3Phを表し、そしてR3がVal-o-第三ブチル基を表すか、
R1がm-OCH3Phを表し、そしてR3がLeu-o-第三ブチル基を表すか、
R1がm-OCH3Phを表し、そしてR3がIleu-o-第三ブチル基を表すか、
R1がm-OCH3Phを表し、そしてR3がヘキサヒドロ-フェニル-o-第三ブチル基を表すか、
R1がm-OCH3Phを表し、そしてR3がアリルアラニン-o-第三ブチル基を表すか、または
R1がB-ナフチル基を表し、そしてR3がVal-o-第三ブチル基を表す。]で表される化合物、
次式
【化15】

[式中、
R1がCH2(CO)-m-OCH3Phを表し、R4がCH2Phを表し、そしてR5がOCH3を表すか、または
R1がCH2(CO)-B-ナフチル基を表し、R4がCH2Phを表し、そしてR5がOCH3を表す。]
で表される化合物、
次式
【化16】

[式中、
R1がm-OCH3Phを表し、Xがトランス-CH=CHを表し、R4がHを表し、そしてYがOC(o)Phを表すか、
R1がOCH3Phを表し、Xがトランス-CH=CHを表し、R4がHを表し、そしてYがOC(o)CF3を表すか、
R1がm-OCH3Phを表し、そしてXがトランス-CH=CHIを表すか、
R1がm-OCH3Phを表し、Xがトランス-CH=CHを表し、R4がHを表し、そしてYがOCH2CH=CH2を表すか、または
R1がm-OCH3Phを表し、XがC=Oを表し、R4がHを表し、そしてYがPhを表す。]
で表される化合物、
次式
【化17】

で表される化合物、
次式
【化18】

[式中、
R1がHを表し、R2がOMeを表し、そしてR3がCH2OMeを表すか、
R1がHを表し、R2がHを表し、そしてR3がHを表すか、または
R1がMeを表し、R2がHを表し、そしてR3がHを表す。]
で表される化合物
からなる群から選択されるピペコリン酸誘導体である請求項1、2、3または4のうちのいずれか1項記載の使用のためのイムノフィリンリガンド。
【請求項11】FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するかまたはニューロン再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経学的障害を治療する医薬組成物。
【請求項12】神経学的障害が物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害からなる群から選択される請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項11記載の医薬組成物。
【請求項15】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項11記載の医薬組成物。
【請求項16】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項11記載の医薬組成物。
【請求項17】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されるものである請求項11記載の医薬組成物。
【請求項18】FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を神経栄養成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量と組み合わせて動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するかまたはニューロン再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経学的障害を治療する医薬組成物。
【請求項19】神経学的障害が物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害からなる群から選択される請求項18記載の医薬組成物。
【請求項20】神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項18記載の医薬組成物。
【請求項22】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項18記載の医薬組成物。
【請求項23】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項18記載の医薬組成物。
【請求項24】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されるものである請求項18記載の医薬組成物。
【請求項25】FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を損傷した末梢神経に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激または促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、損傷した末梢神経の成長を刺激する医薬組成物。
【請求項26】神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子を投与し損傷した末梢神経の成長を刺激または促進することをさらに含む請求項25記載の医薬組成物。
【請求項27】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項25記載の医薬組成物。
【請求項28】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項25記載の医薬組成物。
【請求項29】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項25記載の医薬組成物。
【請求項30】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されるものである請求項25記載の医薬組成物。
【請求項31】FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、神経再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経再生および成長を促進する医薬組成物。
【請求項32】神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量を投与し神経再生を促進することをさらに含む請求項31記載の医薬組成物。
【請求項33】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項31記載の医薬組成物。
【請求項34】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項31記載の医薬組成物。
【請求項35】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項31記載の医薬組成物。
【請求項36】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されるものである請求項31記載の医薬組成物。
【請求項37】FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、神経変性を予防することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経変性を防止する医薬組成物。
【請求項38】神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量を投与し神経変性を予防することをさらに含む請求項37記載の医薬組成物。
【請求項39】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項37記載の医薬組成物。
【請求項40】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項37記載の医薬組成物。
【請求項41】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項37記載の医薬組成物。
【請求項42】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されるものである請求項37記載の医薬組成物。
【請求項43】ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するかまたはニューロン再生を促進し、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経学的障害を治療する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項44】神経学的障害が物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害からなる群から選択される請求項43記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項45】神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項44記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項46】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項43記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項47】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項43記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項48】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項43記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項49】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されたものである請求項43記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項50】ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を神経栄養成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量と組み合わせて動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するかまたはニューロン再生を促進し、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経学的障害を治療する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項51】神経学的障害が物理的損傷または疾病状態による末梢ニューロパシー、脊髄への物理的損傷、脳損傷と関連する発作および神経変性に関連する神経学的障害からなる群から選択される請求項50記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項52】神経学的障害がアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化からなる群から選択される請求項51記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項53】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項50記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項54】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項50記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項55】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項50記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項56】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されるものである請求項50記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項57】ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を損傷した末梢神経に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激または促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、損傷した末梢神経の成長を刺激する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項58】神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子を投与し損傷した末梢神経の成長を刺激または促進することをさらに含む請求項57記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項59】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項57記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項60】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項57記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項61】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項57記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項62】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されるものである請求項57記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項63】ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、神経再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経再生および成長を促進する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項64】神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量を投与し神経再生を促進することをさらに含む請求項63記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項65】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項63記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項66】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項63記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項67】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項63記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項68】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されるものである請求項63記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項69】ピペコリン酸誘導体はFKBP型イムノフィリンに対する親和性を有し、ピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、神経変性を予防することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害し、そして前記ピペコリン酸誘導体は非免疫抑制性である、動物における神経変性を予防する薬剤の製造における使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項70】神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量を投与し神経変性を予防することをさらに含む請求項69記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項71】ピペコリン酸誘導体がWay-124,666である請求項69記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項72】ピペコリン酸誘導体がRap-Paである請求項69記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項73】ピペコリン酸誘導体がSLB-506である請求項69記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【請求項74】ピペコリン酸誘導体が請求項10において定義されるものである請求項69記載の使用のためのピペコリン酸誘導体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、イムノフィリンタンパク質と関連する酵素活性の阻害剤、特に、ペプチジル-プロリルイソメラーゼまたはロタマーゼ酵素活性の阻害剤としてFKBP型のイムノフィリンに対する親和性を有する神経栄養性(neurotrophic)ピペコリン酸誘導体化合物を使用する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
イムノフィリンという用語は主要な免疫抑制剤、シクロスポリンA(CsA)、FK506およびラパマイシンに対する受容体として機能する多くのタンパク質を意味する。イムノフィリンの公知群はシクロフィリン、およびFK506結合タンパク質、例えばFKBPである。シクロスポリンAはシクロフィリンに結合し、FK506およびラパマイシンはFKBPに結合する。これらのイムノフィリン-薬剤複合体は種々の細胞間信号変換系、特に免疫系および神経系と相互作用する。
【0003】
イムノフィリンはペプチジル-プロリルイソメラーゼ(PPIアーゼ)またはロタマーゼ酵素活性を有することが知られている。ロタマーゼ活性はイムノフィリンタンパク質のシスおよびトランス異性体の相互変換の触媒作用の役目を果たすものであると決められている。
【0004】
イムノフィリンは免疫組織において最初に発見され、そして研究された。イムノフィリンのロタマーゼ活性の阻害はT細胞の増殖の阻害を導き、それにより免疫抑制剤、例えばシクロスポリンA、FK506およびラパマイシンにより示される免疫抑制作用を引き起こすことが当業者により当初推定された。さらに研究され、ロタマーゼ活性の阻害は、本質的に、そしてそれ自体では、免疫抑制剤活性に対して十分ではないことが示されている(Schreiber等、Science,1990,vol.250,pp.556-559)。また、免疫抑制は免疫抑制剤とイムノフィリンとの複合体の形成に由来する。イムノフィリン-薬剤複合体は作用のそれらの様式として第3のタンパク質の標的と相互作用することが示されている(Schreiber等、Cell,1991,vol.66,pp.807-815)。FKBP-FK506およびFKBP-CsAの場合、薬剤-イムノフィリン複合体はT細胞増殖を導く信号を伝達するT細胞受容体阻害性の酵素カルシニューリンに結合する。同様に、ラパマイシンとFKBPとの複合体はRAFT1/FRAPタンパク質と相互作用し、そしてIL-2受容体からの信号伝達を阻害する。
【0005】
イムノフィリンは中枢神経系に高濃度で存在することが見出されている。イムノフィリンは免疫系に比べ中枢神経系に10-50倍豊富に存在する。神経組織内でイムノフィリンは酸化窒素合成、神経伝達物質放出およびニューロン突起伸長に影響を及ぼすようである。
【0006】
酸化窒素は体内で種々の役割を果たしている。脳において酸化窒素は神経伝達物質であると考えられている。それはアルギニンから、アルギニンのグアニジノ基を酸化して酸化窒素とシトルリンを形成する酸化窒素シンターゼにより形成される。グルタメート受容体のN-メチル-d-アスパルテート(NMDA)サブタイプの刺激は酸化窒素シンターゼを急速かつ顕著に活性化し、そしてcGMP形成を刺激する。アルギニン誘導体、例えばニトロアルギニンでの酸化窒素シンターゼの阻害はcGMPレベルにおけるグルタメート誘導増加をブロックする。酸化窒素シンターゼはカルシウム-カルモジュリン要求酵素であり、そしてN-メチル-d-アスパルテート受容体は、グルタメート刺激により開口されてカルシウムが細胞中に急送され、そして酸化窒素シンターゼを活性化するカルシウムチャンネルを有するので、N-メチル-d-アスパルテート受容体活性化は酸化窒素シンターゼ活性を刺激する。
【0007】
グルタメートは生理学的神経伝達物質である。しかしながら、過剰に放出されると、グルタメートはN-メチル-d-アスパルテート受容体を介して神経毒性を誘引する。大脳皮質ニューロン培養体のグルタメートまたはN-メチル-d-アスパルテートでの処理は90%までのニューロンを殺し、そしてこれらの作用はN-メチル-d-アスパルテート拮抗薬剤によりブロックされる。このN-メチル-d-アスパルテート神経毒性は血管発作(拍動)を伴う神経障害の主因であると考えられている。従って、大脳血管閉塞を伴うグルタメートの大量放出があり、そして数多くのN-メチル-d-アスパルテート拮抗剤は発作障害をブロックする。酸化窒素シンターゼのリン酸化はその触媒活性を阻害する。酸化窒素シンターゼリン酸化を高めることにより、FK506は酸化窒素形成を機能的に阻害し得、そしてそのためにグルタメート神経毒性をブロックする。実際、低濃度のFK506およびシクロスポリンAは両方とも皮質培養体においてN-メチル-d-アスパルテート神経毒性をブロックする。ラパマイシンはFK506の治療効果を逆にするので、FKBPの仲介機能は明らかである。免疫抑制剤として既に市販されているFK506はおそらく発作患者に臨床的に使用され得る。
【0008】
FK506はまた成長関連プロテイン-43(GAP43)のリン酸化を増大する。GAP43はニューロン突起伸長に包含され、そしてそのリン酸化はこの活性を高めるように思われる。従って、FK506、ラパマイシンおよびシクロスポリンのニューロン突起伸長における作用はPC12細胞を用いて試験された。PC12細胞は神経成長因子(NGF)により刺激される際に軸索を伸ばす神経様細胞の連続系である。
【0009】
驚くべきことに、ピコモル濃度の免疫抑制剤、例えばFK506およびラパマイシンがPC12細胞および知覚神経、すなわち後根ガングリオン(神経節)細胞(DRG)における軸索の成長を刺激することが見出されている(Lyons等、Proc.of Natl.Acad.Sci.,1994,vol.91,pp.3191-3195)。全身の動物実験において、FK506は顔面神経損傷の後に神経再生を刺激することが見出され、そして座骨神経機能障害を有する動物における機能回復を結果的に導く。
【0010】
より詳しくは、FKBPに対する高い親和性を有する薬剤が強力なロタマーゼ阻害剤であり、そして優れた神経栄養作用を示すことが見出されている。Snyder等、「イムノフィリンおよび神経系」、Nature Medicine,Volume1,No.1,January1995,32-37。これらの発見は種々の末梢ニューロパシー(神経障害)の処置や中枢神経系(CNS)のニューロン再成長の増加における免疫抑制剤の使用を示唆する。神経変性障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化(ALS)が該障害において影響を受けたニューロンの特定の集合に特異的な神経栄養基質の損失または減少した利用可能性に起因して生じ得ることが研究により示されている。
【0011】
中枢神経系における特定のニューロン集合体に影響を及ぼすいくつかの神経栄養因子は同定されている。例えば、アルツハイマー病は神経成長因子(NGF)の減少または損失に起因することが推定されている。このため、アルツハイマー病患者を外因性神経成長因子またはその他の神経栄養タンパク質、例えば脳誘導成長因子、グリア誘導神経因子、毛様体神経栄養因子および変性性ニューロン集合体の残存を増加するためのニューロトロピン-3で治療することが提案されている。
【0012】
種々の神経学的疾病状態におけるこれらのタンパク質の臨床への適用は、神経系の標的への、大きいタンパク質の移送および生体利用可能性の難しさにより妨げられている。一方、神経栄養活性を有する免疫抑制剤は比較的小さく、そして優れた生体利用可能性および特異性を示す。しかしながら、長期にわたり投与されると、免疫抑制剤は、腎毒性、例えば糸球体濾過の損傷および不可逆的な間隙性線維症(Kopp等、1991,J.Am.Soc.Nephrol.1:162);神経学的欠損、例えば不随意の震えまたは非特異的大脳アンギナ、例として非局在の頭痛(De Greon等、1987,N.Engl.J.Med.317:861);および血管系の高血圧やそれに起因する合併症(Kahan等、1989,N.Engl.J.Med.321:1725)等を含む多くの非常に危険な副作用を示す。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、軸索の成長を増加し、そして種々の神経病理学的状態においてニューロン成長および再生を促進し、その場合、ニューロン修復は物理的損傷や疾病状態、例えば糖尿病による末梢神経損傷、中枢神経系(脊髄および脳)への物理的損傷、発作を伴う脳損傷を包含して促進され得るための、そしてパーキンソン病、アルツハイマー病および筋萎縮側索硬化を包含する神経変性に関連する神経学的障害の治療のための、非常に有効である小分子FKBPロタマーゼ阻害剤を含有する、非免疫抑制性ピペコリン酸誘導体化合物を提供する。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明はFKBR型のイムノフィリンに対する親和性を有する神経栄養性ピペコリン酸誘導体化合物をイムノフィリンタンパク質と関係がある酵素活性の阻害剤、特にペプチジル-プロリルイソメラーゼまたはロタマーゼ酵素活性の阻害剤として使用する方法に関するものである。
【0015】
本発明の好ましい態様は、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するか、またはニューロン再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害する、動物における神経学的障害を治療する方法である。
【0016】
本発明のもう一つの好ましい態様は、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を神経栄養成長因子、脳誘導成長因子、グリア誘導成長因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3からなる群から選択される神経栄養因子の有効量と組み合わせて動物に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激するか、またはニューロン再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害する、動物における神経学的障害を治療する方法である。
【0017】
本発明のもう一つの好ましい態様は、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体化合物の有効量を損傷した末梢神経に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激または促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害する、損傷した末梢神経の成長を刺激する方法である。
【0018】
本発明のもう一つの好ましい態様は、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体化合物の有効量を損傷した末梢神経に投与し、損傷した末梢神経の成長を刺激することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害する、損傷した末梢神経の成長を刺激する方法である。
【0019】
本発明のもう一つの好ましい態様は、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体化合物の有効量を動物に投与し、ニューロン再生を促進することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害する、動物におけるニューロン再生および成長を促進する方法である。
【0020】
本発明の別の好ましい態様は、FKBP型イムノフィリンに対する親和性を有するピペコリン酸誘導体の有効量を動物に投与し、神経変性を防止することからなり、前記FKBP型イムノフィリンはロタマーゼ活性を示し、そして前記ピペコリン酸誘導体は前記イムノフィリンのロタマーゼ活性を阻害する、動物における神経変性を防止する方法である。
【0021】
本発明の新規な神経栄養性ピペコリン酸誘導体化合物はFK506結合性タンパク質、例えばFKBP-12に対する親和性を有する。本発明の神経栄養化合物がFKBPに結合されると、それらはプロリル-ペプチジルシス-トランスイソメラーゼ活性または前記結合タンパク質のロタマーゼ活性を阻害し、そして予期されなかったことに軸索(neurite)の成長を刺激することが見出された。
【0022】
本発明の化合物は無機または有機酸および塩基から誘導される塩の形態で使用され得る。そのような酸塩には以下のものが包含される:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ビスルフェート酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミススルフェートヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩化水素塩、臭化水素塩、ヨウ化水素塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パモエート(パルミチン酸塩)、ペクチン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、タルタル酸塩、チオシアン酸塩、トシレートおよびウンデカン酸塩。塩基塩はアンモニウム塩、アルカリ金属塩、例えばナトリウムおよびカリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えばカルシウム塩およびマグネシウム塩、有機塩基との塩、例えばジシクロヘキシルアミン塩、N-メチル-D-グルカミン、およびアミノ酸例えばアルギニン、リジン等との塩を包含する。また、塩基性窒素含有基はそのような試薬、例えば低級アルキルハロゲン化物例えば塩化、臭化およびヨウ化メチル、エチル、プロピルおよびブチル;ジアルキルスルフェート、例としてジメチル、ジエチル、ジブチルおよびジアミルスルフェート、長鎖ハロゲン化物、例えば塩化、臭化およびヨウ化デシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリル、アルアルキルハロゲン化物、例として臭化ベンジルおよびフェンエチル等で四級化されていてもよい。水もしくは油溶性または分散性生成物がそれにより得られる。
【0023】
本発明の神経栄養化合物は患者に周期的に投与され、神経学的障害に治療を施すか、またはニューロン再生および成長を刺激することが望ましいその他の理由、例えば神経変性に関連する種々の末梢神経病的および神経学的障害に治療を施すことができる。本発明の化合物は種々の哺乳類の神経学的障害の治療のために、ヒト以外の哺乳動物に投与されてもよい。
【0024】
本発明の新規化合物はロタマーゼ活性の強力な阻害剤であり、そして非常に高度の神経栄養活性を有する。この活性は損傷したニューロンの刺激、ニューロン再生の促進、神経変性の防止、およびニューロン変性や末梢神経病と関連することが知られている様々な神経学的障害の治療に有用である。治療され得る神経学的障害には以下のものが包含されるが、それらに限定されるものではない:三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィー、筋萎縮側索硬化、進行性筋萎縮、進行性球状遺伝性筋萎縮、ヘルニア様破壊または脱出インバータブラエ(invertabrae)椎間板症候群、頸部脊椎症、叢障害(plexus disorders)、胸部出口破損症候群、末梢ニューロパシー例えば鉛、ダプソン、マダニ、ポルフィリア(porphyria)またはギャン-バレー症候群により引き起こされる疾病、アルツハイマー病およびパーキンソン病。
【0025】
上記の目的のために、本発明の化合物は経口で、非経口で、吸入スプレーにより、局部的に、直腸に、経鼻で、経頬で、経膣で、または慣用の非毒性の薬学的に許容され得る担体、助剤およびビヒクルを含有する投与配合剤中の移入レザバーを介して投与され得る。本明細書において使用されるような非経口という用語は皮下、静脈内、筋肉内、腹膜腔内、脊髄内、心室内(脳室内)、胸骨内および頭蓋内注射または注入(輸液)法を包含する。
【0026】
中枢神経系標的として治療を有効にするために、イムノフィリン-薬剤複合体は末端で投与された場合に血液脳関門を容易に通過すべきである。血液脳関門を通過できない本発明の化合物は心室内(脳室内)経路により有効に投与され得る。
【0027】
薬剤組成物は、例えば滅菌注入水性または油性懸濁液として、滅菌注入製剤の形態であってよい。この懸濁液は適当な分散剤または水和剤および懸濁剤を用いて当業界では公知の技術に従って製剤化され得る。滅菌注入製剤はまた、非毒性で非経口(注射)に適合し得る希釈剤または溶剤中の滅菌注入液または懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液であってよい。使用され得る適用可能なビヒクルおよび溶剤は水、リンガー液および等張塩化ナトリウム液である。さらに、滅菌固定油が溶剤または懸濁媒体として通常使用される。この目的のために、合成モノ-またはジグリセリド等のあらゆる非刺激性の固定油が使用され得る。脂肪酸、例えばオレイン酸およびそのグリセリド誘導体は、注入可能なオリーブ油またはヒマシ油、特にそれらのポリオキシエチル化体の製造における用途を見出す。これらの油溶液または懸濁液はまた、長鎖アルコール希釈剤または分散剤を含有し得る。
【0028】
化合物はカプセルまたは錠剤の形態で、例えば水性懸濁液または水溶液として経口投与され得る。経口用の錠剤の場合、慣用の担体はラクトースおよびコーンスターチを包含する。滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムもまた典型的に添加される。カプセル形態での経口投与のために、有用な希釈剤はラクトースおよび乾燥コーンスターチを包含する。水性懸濁液が経口用途に要求される場合、活性成分は乳化剤および懸濁剤と組合せられる。所望するならば、ある種の甘味料および/または香味料および/または着色料が添加され得る。
【0029】
本発明の化合物はまた、薬剤の直腸投与のために坐剤の形態で投与され得る。これらの組成物は、室温で固体であるが、直腸温度で液体であり、そのため直腸内で融解して薬剤を放出するであろう適当な非刺激性の賦形剤と薬剤とを混合することにより製造され得る。そのような物質はココアバター、密蝋およびポリエチレングリコールを包含する。
【0030】
本発明の化合物はまた、特に治療が行われる病気が眼、皮膚またはより下部の腸管の神経学的障害等の局部適用により容易に接近し得る領域または器官を包含する場合には、局部に投与されてもよい。適当な局部製剤は上記領域の各々のために容易に調製される。
【0031】
眼への使用のために、上記化合物は等張pH調整滅菌生理食塩水中の微小化懸濁液として、または好ましくは防腐薬、例えば塩化ベンジルアルコニウムを含み、もしくは含まずに等張pH調整滅菌生理食塩水中の溶液として製剤化され得る。また、眼への使用のために、上記化合物は軟膏例えばワセリン中に製剤化されてもよい。
【0032】
皮膚への局部的適用のために、上記化合物は該化合物を懸濁または溶解されてその中に含有する適当な軟膏、例えば以下の1種またはそれ以上の混合物中に製剤化され得る:鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックスおよび水。また、上記化合物は例えば以下の1種またはそれ以上の混合物:鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリールアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水中に懸濁または溶解されて活性化合物を含有する適当なローションまたはクリームに製剤化されてもよい。
【0033】
より下部の腸管に対する局部適用は直腸坐剤製剤(上記参照)または適当な浣腸製剤で行われ得る。
【0034】
上記有効化合物約0.1mgないし約10000mgのオーダーでの投与レベルが上記状態の処置に有用であり、約0.1mgないし約1000mgのレベルが好ましい。単一投与形態を製造するために担体物質と組合せられ得る有効成分の量は処置される主体および投与の特定の様式に応じて変化するであろう。
【0035】
しかしながら、特定の患者に対する特定の投与レベルは使用される特定化合物の活性、年齢、体重、全般的な健康状態、性別、食事、投与時間、排泄の頻度、薬剤の併用、処置される特定の疾病の程度および投与の形態等の種々の因子に依存するであろう。
【0036】
上記化合物はその他の神経栄養薬剤、例えば神経栄養成長因子(NGF)、グリア誘導神経因子、脳誘導神経因子、毛様体神経栄養因子およびニューロトロピン-3と共に投与され得る。その他の神経栄養薬剤の投与レベルは上記の因子および薬剤併用の神経栄養作用に依存するであろう。
【0037】
【発明の実施の形態】
方法および操作
座骨神経挫傷
本実施例は通常の末梢神経における高レベルのFKBPを示し、そしてこれらが神経挫傷に続いて増加することを示す。
FKBPがGAP-43の作用におけるニューロン突起伸長に生理学的に関連しているならば、末梢神経においてFKBPの実質的レベルを予測し得る。従って、我々はラット座骨神経、ならびに2日齢の幼ラットから単離された成長円錐体における〔3H〕FK-506結合性を測定し、そして大脳皮質および種々の末梢組織の値と比較した。
【0038】
〔3H〕FK-506オートラジオグラフィーは、解凍および風乾後、50mM Hepes、2mg/mlウシ血清アルブミン、5%エタノールおよび0.02%ツイーン20(pH7.4)からなる緩衝液中で1時間予備培養した未固定切片上で記載されるように行われた。切片を次に1nM〔3H〕FK-506(86.5Ci/ミリモル;デュポン-NEN、マサチューセッツ州ボストン)に予備培養緩衝液中室温で1時間曝露した。非特異的結合は1μM FK-506の添加により決定された。保温の後、スライドを氷冷予備培養緩衝液中で4×5分間洗浄し、そして風乾した。放射標識切片を次にトリチウム感受性フィルムまたはコダックNTB-2エマルジョンを被覆したカバースリップに並列した。
【0039】
【表1】
座骨神経および成長円錐体への〔3H〕FK-506の結合性

〔3H〕FK-506の結合性は方法の項に記載したように評価された。表1(A)において実験は3回反復され、10%未満の変動だった。表1(B)において、値は平均値±S.E.M.(n=3)て表される。*P<0.05個々の平均値に対するスチューデントt試験。
【0040】
試験された全ての組織の中で、座骨神経結合レベルが最高であり、大脳皮質のものより幾分高く、そしてリンパ球と結合したFKBPを含有する胸腺および脾臓におけるレベルより約10倍高い。表1(A)参照。
神経再生におけるFKBPの役割に対する証拠は、我々が成熟ラットの座骨神経を挫傷させ、そして神経挫傷部から5mm離れた基部において7日後に〔3H〕FK-506の結合性を測定した実験に由来する。
【0041】
スプラーグ-ダウレイ(Sprague-Dawley)ラット(175-200g)をロムプン(12mk/kg)、ケタミン(30mg/kg)の混合物で麻痺させた。無菌法を用いて、顔面神経を宝石商摂子でもって茎乳突孔からその出口に向け遠位に2mmの箇所で2×30秒間圧搾した(この操作を本明細書で、挫傷とも記載する)。同様の操作が大腿部中央のレベルにある座骨神経を圧搾するために使用された。
【0042】
挫傷部の基部側における全体の結合性が4組、対照の値と比較された。全タンパク質は基部側断片において実質的に増加しており、タンパク質mgあたりの〔3H〕FK-506結合性は基部断片において2倍程度である。
【0043】
顔面神経挫傷
この例は顔面神経損傷がFKBPおよびGAP-43の同時発現を増加することを示す。
顔面神経挫傷に続いて、GAP-43のmRNAレベルは顔面神経核において増加する。in situハイブリダイゼーションを用いて、我々は顔面神経挫傷に続いてFKBP、GAP-43およびカルシニューリンのmRNAレベルを測定した。
【0044】
ラットは150-200ml氷冷リン酸緩衝液(PBS)(0.1M、pH7.4)で心臓を通すように灌流された。組織を除去し、そしてすぐにイソペンタン(-80℃)中に凍結させた。低温切片(厚さ18μm)を切断し、そしてゼラチン被覆スライド上に載せて解凍した。
【0045】
in situハイブリダイゼーションは〔35S〕dATPで末端標識されたアンチセンスオリゴヌクレオチドプローブを用いて上記のように行われた。FKBPに対し、Maki等、(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA87,5440-5443およびStandaert,R.F.等、(1990)Nature346,671-674(これらの文献は参照により本明細書に編入される)に開示されたクローン化cDNAの以下の領域:70-114、214-258、441-485に相補的な3種のオリゴヌクレオチドが使用された。GAP-43に対し、Rosenthal,A.等、(1987)EMBO J.6,3641-3646(該文献は参照により本明細書に編入される)に開示されたクローン化cDNAのヌクレオチド961-1008、1081-1128、1201-1248に相補的な3種のアンチセンスオリゴヌクレオチドが使用された。カルシニューリンAαに対し、Ito等、(1989)Biochem.Biophys.Res.Commun.163,1492-1497(該文献は参照により本明細書に編入される)に開示されたヌクレオチド1363-1410および1711-1758に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドが、そしてカルシニューリンAβに対し、Kuno,T.等、(1989)Biochem.Biophys.Res.Commun.165,1352-1358(該文献は参照により本明細書に編入される)に開示されたヌクレオチド1339-1386および1569-1616が使用された。切片を解凍し、そして乾燥させ、次にPBS中の4%の新たに解重合したパラホルムアルデヒド中に5分間固定した。PBS中で2回すすいだ後、切片を0.1Mトリエタノールアミン、0.5%NaCl(pH8.0)中の0.25%無水酢酸でアセチル化し、次に規格アルコール中で水分除去を行い、クロロホルム中で5分間脱脂し、95%エタノールに再び水和させ、そして風乾した。ハイブリダイゼーションは50%脱イオン化ホルムアルデヒド、10%硫酸デキストラン、4×SSC、1×デンハルツ溶液、20mMリン酸緩衝液、0.1mg/mlサケ精子DNA、0.1mg/ml酵母トランスファーRNA、10mMジチオトレイトール、2.0%べータメルカプトエタノール(BMD)、1.0mM EDTAおよび標識プローブ(2000000dpm/切片)を含有する緩衝液中37℃で一晩行われた。ハイブリダイゼーションに続き、切片を1×SSC、1.0%BME中室温で15分間すすぎ、次に55℃で10分間2回風乾し、そしてフィルム上に置くか、またはコダックNTB-2エマルジョン中に浸漬した。
【0046】
FKBPおよびGAP-43発現の顕著な増加が観察され、カルシニューリン発現に変化は見られなかった。顔面神経挫傷後24時間以内では、FKBP発現は1-2週間明らかなピークレベルで増加し、mRNA濃度は3週間で実質的に消失する。より高倍率下での実験は、FKBPmRNAに対する銀粒子の増加したレベルがニューロン細胞体に限られていることを示す(図2)。切断した顔面核のノーザンブロット分析は、FKBP特異的mRNAの増加したレベルを確認する。GAP-43mRNAはFKBPのものと近似する時間経過を辿る。一方、カルシニューリン発現における変化は試験したあらゆる時点で検出されない。
【0047】
切断顔面核からの全細胞RNAが単離された。10または20μgの全RNAの試料が1%アガロース、2.0%ホルムアルデヒドゲルで電気泳動され、そしてナイロン膜に10nM NaOH中で移し取られた。ランダムプライムにより1×109cpm/ugの比活性まで〔35S〕dCTPで標識されたFKBPに対するcDNAプローブを、50%ホルムアミド、2×SSPE、7%SDS、0.5%Blottoおよび100ug/mlサケ精子DNAからなる緩衝液中42℃で一晩バイブリッド形成させた。ブロットを室温で20分間洗浄し、そして0.15×SSC、0.15%SDS中65℃で2×15分間洗浄し、次いで48096時間フィルムに曝露した。
【0048】
非損傷側に、対照領域に比べ銀粒のわずかな増加が観察される。これは反対側のニューロンもまた軸索切断に応答するという発見と一致する。
顔面神経挫傷に続いて、ラットは顔面神経麻痺を示したが、これは神経再生の完了と一致する3週間で機能回復するひげ動作の欠失により明らかである。我々のラットの中に我々はまた、3週間で機能の回復を伴う神経挫傷の後のひげ動作の欠失を観察した。従って、GAP-43およびFKBPの高められた発現の時間経過は神経再生の過程と相互に関連する
【0049】
座骨神経再生
この例は座骨神経再生と関連するFKBPおよびGAP-43における変化を示す。
座骨神経損傷に続いて、GAP-43mRNAレベルは脊髄運動ニューロンおよび後根ガングリオンニューロン細胞の両方において高められる。座骨神経挫傷に供したラットにおいて、我々はL-4,5(図3)および後根ガングリオンニューロン細胞にGAP-43発現(図4)の報告された増加と一致する運動ニューロンにおけるFKBPに対するmRNAレベルでの顕著な増加を観察した。高倍率で、我々はニューロン細胞体に局在化したFKMBmRNA銀粒を観察した(図3)。我々はFKBPに選択的に結合する条件下で〔3H〕FK-506結合性のオートラジオグラフィーによるFKBPタンパク質レベルを追跡した。高められたFKBPは後根ガングリオンにおいて一次知覚ニューロンにおいて検出され、一方、座骨神経挫傷に続いて運動ニューロン細胞に増加はないことが明らかである。
【0050】
増加FKBP発現の再生選択性との関連はリシンでの実験によりさらに支持される。末梢神経に注入された場合、リシンは関連神経再生なしに破壊される細胞体中に戻される。我々はリシン(RCA60、シグマ、ミズーリ州セントルイス)0.5ugを、StreitおよびKreutzbnergの方法に従って0.5ulPBSおよび0.1%ファストグリーン中、その他の実験において圧搾が行われたのと顔面神経の同じ部位に注射した(Streit等、(1988)J.Comp.Neurol.268,248-263)。
【0051】
我々はリシン処理後2、4および7日目にFKBPmRNAに対するin situハイブリダイゼーション局在化試験を行った(図5)。FKBPmRNAにおける増加がリシン処理後に観察されない。リシン処理の後にも神経挫傷の後にもグリオーシスが起こる。リシン処理に続いてFKBPmRNAの増加がないのは、顔面核におけるFKBPmRNAの選択的ニューロン局在化と一致する。
【0052】
座骨神経におけるFKBP移送
この例はFKBPが座骨神経において急速に移送されるされることを示す。
FKBPmRNAの増加にもかかわらず、座骨神経挫傷に続いて運動ニューロンにおいてFKBPタンパク質が増加しないことは、該タンパク質が細胞体から出て神経突起中に急速に移送されることを示唆する。このことは、FKBPmRNAが低レベルのFKBPタンパク質を含有する小脳のグラニュール細胞に集中し、FKBPタンパク質レベルがグラニュール細胞から生じる平行繊維と結合した小脳の分子層に高度に集中しているという初期の観察と適合する。FKBPの可能な移送を試験するために、我々は座骨神経を圧搾し、そして7日後、圧搾部の10および20mmの基部側の位置を結紮した。結紮6時間後、我々は〔3H〕FK-506結合性を結紮部位の3mm領域において追跡した(図6)。
【0053】
軸索移送試験のために、古典的結紮法がTetzlaff等の方法に続いて使用された。座骨神経挫傷1週間後、2種の集合結紮部(510縫合)が最初の圧搾部位から10mmの位置にある最も遠位の結紮から約10mm離れた神経上に置かれた。6時間後、神経5-3mm部分が基部側、遠位側、および図5に示される集合結紮部の間の領域から集められた。神経部分が、50mMトリスHCl、pH7.4 10容量中にホモジネートすることにより〔3H〕FK-506結合性アッセイのために調製された。ホモジネートを15000×g4℃で20分間遠心分離し、そして上清を集め、クマーシーブルー染料結合性アッセイ(パース)を用いて全タンパク質濃度を評価した。〔3H〕FK-506結合性は、50mMトリスHCl、pH7.4、2mg/mlウシ血清アルブミン、250pM〔3H〕FK-506および種々の濃度の非標識FK-506からなるアッセイ緩衝液最終容量0.4ml中に全可溶性タンパク質2ugを含有する一部に対し、記載されるように(4)行われた。25℃で60分間保温した後、0.35mlをLH-20セファデックス(ファルマシアLKB)の0.8mlカラム上に載せ、そしてアッセイ緩衝液0.4mlで洗浄した。溶離液は集められ、そしてシンチレーションカウンターで計測した。
【0054】
結果は図5に示される。〔3H〕FK-506結合性レベルは挫傷部から結紮まで20cmの基部側において最高であり、その他の部位においてほぼ4倍のレベルであった。部位A-Dにおける〔3H〕FK-506結合性レベルに基づいて、我々はFKBPに対する前方への移送の速度を計算した。日あたり240mmの速度はニューロンタンパク質に対して最速移送速度を示すGAP-43に対する移送速度と実質的に同じである。
【0055】
神経挫傷に続きFKBPの蓄積を可視化するために、我々は座骨神経の圧搾の部位をマークするために緩い結紮を行い、そしてFKBPmRNAに対するin situハイブリダイゼーションおよび〔3H〕FK-506結合性に対するオートラジオグラフィーを行った(図7)。ほとんどのFKBPmRNAおよび〔3H〕FK-506結合性は挫傷部に近い基部側に蓄積する。これらのレベルは対照の非挫傷座骨神経におけるよりもかなり高い。高倍率でのin situハイブリダイゼーションおよびオートラジオグラフィー調製物の試験はニューロン繊維に結合した銀粒子を表す。同定を我々が正確に決定し得ない細胞に局在した銀粒子もあるが、それらはシュワン細胞、マクロファージまたは繊維芽細胞であるかもしれない。
【0056】
PC12細胞中のFKBP
この例はPC12細胞がFKBPを含有し、そしてFKBPレベルが神経成長因子により高められることを示す。我々は、基礎麻酔条件下〔3H〕FK-506の細胞への結合性を追跡し、そして神経成長因子(NGF)で処理することによりFKBPの存在に対してPC12細胞を試験した。
【0057】
PC12細胞中のFKBPレベルは〔3H〕FK-506結合性曲線のスカッチャード分析から得られた。培養体が培養ウエルから掻き取られ、そして50mMトリスHCl、pH7.4、1mM EDTA、100μg/mlフェニルメチルスルホニルフルオリドの10容量中にホモジネートし、そして4℃、40000×gで20分間遠心分離した。タンパク質は標準としてウシ血清アルブミンを用いるクーマシーブルー染料結合アッセイにより決定された。250pM〔3H〕ジヒドロFK-506(86.5Ci/ミリモル、デュポン/NEN)の結合性が50mMトリスHCl、pH7.4、2mg/mlBSAおよび種々の濃度の非標識FK-506を含有するアッセイ緩衝液最終容量0.4ml中に可溶性タンパク質5μgを含有する試料に対して評価された。25℃で60分間保温した後、0.35mlをアッセイ緩衝液で予め平衡化したLH-20セファデックス(ファルマシアLKB)の0.8mlカラム上に載せた。カラムをさらにアッセイ緩衝液0.4mlで洗浄し、溶離液を集め、フォーミュラ963(デュポン/NEN)と混合し、そしてベックマンシンチレーションカウンターで計測した。結合した全体の〔3H〕FK-506から1μMの非標識FK-506の存在下で得られる結合性を差し引くことにより特異的結合性が決定された。
【0058】
結果は図8に示されている。〔3H〕FK-506は未処理PC12細胞ホモジネートに飽和状に結合する。典型的な試験において、約1000cpmが結合し、1μM FK506の存在下での非特異的結合性が約150cpmである。〔3H〕FK-506結合性の50%阻害は結合部位が真正のFKBPに相当することを示す1-2nM FK506で生じる。〔3H〕FK-506結合性はNGF処理に続いて顕著に増加する。顕著な増加は10-15時間で現れる。結合性は20時間で3倍になり、そして中程度の増加が100時間目に現れる。
【0059】
PC12細胞中の増加した軸索伸長
この例はFK-506およびラパマイシンがPC12細胞中で軸索伸長を増加することを示す。
PC12細胞は10%熱不活性化ウマ血清および5%熱不活性化ウシ胎児血清を補足したダルベッコの変性イーグル培地(DMEM)中37℃で5%CO2に維持された。NGFにおける分化のために、ラット脚コラーゲンを5μg/cm2で被覆した35mm培養ウエル中に1×105で細胞を置き、そして2%ウマ胎児血清、NGFおよび/またはFK506もしくはラパマイシンを補足したDMEMに培地を代える前に付着させた。軸索成長の定量のために、ランダム写真が作成され(ウエルあたり3-4)、そして突起形成ニューロンが5μmより大きい突起に対して計測された。実験条件は写真撮影者および細胞計測者により知らされなかった。4回の別々の試験が示された各々のデータ点に対して二重に行われた。軸索が同定され、そして写真あたり約100細胞から計測した。従って、1200-1600細胞からの軸索がデータ点あたり計測された。
【0060】
観察されるように、NGFは1ng/mlで最高刺激の1/2、そして約50-100ng/mlで最高増加を示して、軸索成長を強力に刺激する(図9,10)。FK506(100nM)はNGFへの感受性を高めることによりNGFの効果を著しく増加させる。従って、FK506は最高の成長を引き出すのに必要とされるNGF濃度を20-50倍減らす。FK506の不在下での最高成長の1/2が5ng/mlNGFで生じ、そしてFK506の存在下では0.1ng/mlNGFで生じる。NGFの最高濃度(10-100ng/ml)では、FK506は追加の軸索成長を生じない。
【0061】
FK506はその神経栄養効果において極めて強力である。最高以下の濃度のNGF(1ng/ml)の存在下、1nMのFK506が50ng/mlNGFで観察されたのと同じ最大成長を生じる(図11)。FK506の最大効果の1/2が約100pMで得られる。NGFの不在下、FK506は軸索成長を引き出さない(図10)。
【0062】
ラパマイシンは、カルシニューリンを介して作用すると考えられず、その他のリン酸化カスケードに影響を与え得る強力な免疫抑制剤である。FKBPでFK506拮抗剤としておそらく作用することにより、FKBPおよびカルシニューリンを介して生じるFK506の作用をラパマイシンは強力にブロックする。ラパマイシン(1μM)はFK506の神経栄養作用をブロックしない。実際、ラパマイシンはそれ自身神経栄養性であり、1nMで高い軸索成長を付与する。ラハマイシンおよびFK506は異なる機構を介して作用するように考えられる。従って、ラパマイシンは突起の数ならびにそれらの長さを増し、FK506は主に軸索の長さを増す。さらに、FK506およびラパマイシンの効果は付加的であるように考えられる。
【0063】
後根ガングリオン
この例は、FK506が感覚ガングリオンに対して神経栄養性であることを示す。我々は16日目の胚状態のラットからの後根ガングリオンの一次培養体へのFK506の作用を試験した。
【0064】
E16段階の胚を妊娠スプラーグ-ダウレイラットから取りだし、そして後根ガングリオンを摘出する。全体のガングリオン外植片をコラーゲン被覆35mm皿(ファルコン)中、N2培地(ダルベッコ変性イーグル培地とハムF12培地との1:1混合物、プロゲステロン、セレニウム、インシュリン、プトレスシン、グルコース、およびペニシリン-ストレプトマイシンを補足)を用いて15%CO2環境中37℃で培養した。感覚ガングリオンは種々の濃度のNGFおよび/またはFK506またはラパマイシンまたは抗NGF抗体で処理された。ガングリオンはオリンパスIMT-2倒立顕微鏡を用いて相コントラストの下、2-3日毎に観察され、そして軸索長さの測定が行われた。各ガングリオンの軸索領域は4つの象限に分割され、そして各象限における最大軸索の長さがアイピースマイクロメーターを用いてミクロン単位で計測された。これらの測定の平均をガングリオンに対する軸索長さとして採用した。
【0065】
〔3H〕FK506オートラジオグラフィーに対し、後根ガングリオン培養体をコラーゲン5μg/cm2で被覆したチャンバースライド上で増殖させた。培養体を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中の氷冷した4%の新たに解重合したパラホルムアルデヒドでスライド上に1時間固定し、次いでリン酸緩衝液で2回洗浄した。固定された培養体はスライドを50mM Hepes、2mg/mlウシ血清アルブミン、および0.02%ツイーン20(pH7.4)からなる緩衝液中で予備培養することにより〔3H〕FK-506で標識された。次いで、1nM〔3H〕FK506を含有する同一アッセイ緩衝液中で培養した。非特異的結合は1μM非標識FK506を添加することにより決定された。スライドを次に乾燥前に4×5分すすぎ、そして次にトリチウム感受性フィルムに並列した。
【0066】
〔3H〕FK506結合部位のオートラジオグラフィーは、これらのガングリオンにおいてFKBP結合銀粒子の実質的なレベルを示す(図12)。1μM非標識FK506では、オートラジオグラフの粒子は結合の特異性を示していなかった。以前に報告されたように、NGF(100ng/ml)はガングリオン突起の数および長さを著しく増やす(図13)。FK506(1μM)は単独で同様の神経栄養効果を生じるが、1nMという低濃度のFK506が成長におけるかなりの増加を生じる。FK506拮抗剤として作用するラパマイシン(1μM)はFK506(1μM)の効果をブロックし、従ってFK506の作用はFKBPの特徴的な薬剤特異性を示す。
【0067】
添加されるNGFの不在下で、FK506はPC12細胞における軸索成長を刺激しないことから、感覚ガングリオンにおいてFK506は単独で神経栄養性である。ガングリオンにおけるシュワン細胞はNGFを製造し得、そしてシュワン細胞によるNGFの製造はタンパク質リン酸化反応により制御される。FK506単独の作用が内因性NGFの効力を包含するのかを確認するために、我々はNGFに対する抗体の影響を調べた(図13)。抗NGFはFK506(1μM)の神経栄養効果を著しく減じた。我々が添加したNGFの存在下または不在下で抗NGFに曝露した細胞中で毒性の形態学的証拠を観察しなかったように、抗NGFは毒性作用を示さない。
【0068】
FK506は軸索成長の刺激に極めて効力がある。1pMという低濃度のFK506が検出し得る増加を生じる。0.1ないし10nM FK506で徐々に増加する成長が生じ(データは示していない)、最大の成長は1μMのFK506を必要とする。
【0069】
軸索成長の時間経過はNGFおよびFK506の全ての濃度で同様である。いくらかの成長が1日目に現れ、成長は約5-6日でプラトーに達し始めている。
【0070】
FK506の効果は低濃度のラパマイシン、FKBPでのFK506公知拮抗剤により逆にされるので、FK506神経栄養効果は感覚ガングリオンにおけるFKBP(FK506結合性タンパク質)を包含する。ラパマイシンPC12細胞においてFK506効果をブロックしないことは、ラパマイシンの別々の刺激効果をおそらく反映している。PC12細胞における軸索成長のラパマイシン刺激に対する機構は直ちに明らかとはならない。その免疫抑制作用はFK506のものとは異なる機構を包含すると考えられる。ラパマイシンはS6リボソームサブユニットをリン酸化するS6キナーゼを阻害し得る。ラパマイシンはまたホスファチジルイノシトール-3-キナーゼを阻害する。
【0071】
プロテインキナーゼC(PKC)仲介リン酸化はニューロン再生の間の突起成長に関連している。その他の証拠はニューロン突起伸長におけるPKCの阻害効果を示唆する。
【0072】
GAP-43は軸索に高度に集中した主なカルシニューリン基質であり、そしてそのリン酸化はFKBPにより制御される。低レベルのGAP-43を有するPC12細胞系が通常の軸索成長を示すので、GAP-43は軸索伸長に直接包含され得ない。しかしながら、リン酸化GAP-43のレベルは軸索がそれらの標的に近づく際に増加されるので、GAP-43およびそのリン酸化は標的化軸索に包含され得る。GAP-43のリン酸化はまた、軸索伸長を制御するCa2+の移動に影響を及ぼし得る。リン酸化GAP-43はホスファチジルイノシトールビスホスフェート形成を阻害し、イノシトール1,4,5-トリホスフェートおよび会合したCa2+放出のレベルを消失させる。さらに、GAP-43のリン酸化はCa2+を結合するのに利用し得る生成遊離カルモジュリンを有するカルモジュリンに対する親和性を低下する。
【0073】
イムノフィリンは、軸索成長を制御するCa2+に影響を与えるカルシニューリン以外の部位に作用し得る。FKBPはCa2+放出チャンネルであるリアノジン受容体に結合する。骨格筋の筋小胞体において、FK506はリアノジン受容体からFKBPを解離して、Ca2+誘導Ca2+放出機構を促進する。さらに、FK506はFKBP25ステロイド受容体およびその他の未同定標的、例えばFKBP13に関連するものを包含するその他の部位に作用する。従って、その他の有効な機構は軸索伸長においていくつかの役割を果たし得る。
【0074】
イムノフィリンの非免疫抑制性および免疫抑制性リガンドはPC12細胞において軸索成長を刺激する
本試験において、我々はPC12細胞および無傷ニワトリ感覚ガングリオンにおいて軸索伸長の際のイムノフィリンのリガンド数の影響を詳細に調べた。我々は、非免疫抑制性および免疫抑制性リガンドがPC12細胞および感覚ガングリオンの両方での軸索成長の増加において極めて有効であることを報告する。
【0075】
我々の初期の研究において、我々は神経成長因子(NGF)の効力を約10倍に高めることにより免疫抑制剤がPC12細胞における軸索成長を刺激することを見出した(Lyons等、1994)。添加されるNGFの不在下で、神経栄養効果は観察されない。本試験において、我々は免疫抑制剤FK506およびラパマイシンの0.1-100ng/mlのNGFの存在下でのPC12軸索成長への効果を評価した。
【0076】
添加されるNGFの不在下で、いずれの薬剤も軸索成長を刺激しない。0.1ng/mlのNGF単独では、50ng/mlで明白である最大効果の約15%のみの軸索伸長におけるわずかな増加を生じる(図14)。ラパマイシンはその他の薬剤に比べより大きい範囲まで、0.1-0.5ng/mlNGFで3-4倍の刺激でもって軸索成長を刺激する。ラパマイシンにより誘導される増加の範囲はより高濃度のNGFで減少し、そして5-50ng/mlNGFでは統計学的に有意ではない。FK506はまた、より低いNGF濃度で最も明らかな効果を有し、かつ0.5ng/mlNGFで明らかな軸索成長の最大2.5倍増加を有し、神経栄養性である。
【0077】
構造においてシクロスポリンA、FK506およびラパマイシンに関連する免疫抑制薬剤の3種の主要な構造群がある。FK506およびシクロスポリンAは別々のイムノフィリンタンパク質に結合するけれども、それらは両方カルシニューリンを阻害することにより免疫抑制剤として作用する。ラパマイシンは非常に高い親和性でFKBP-12に結合するが、薬剤-イムノフィリン複合体はカルシニューリンに結合しない。また、免疫抑制作用は最近同定され、そしてクローン化されたタンパク質で、RAFT-1(ラパマイシンおよびFK506標的)と表記されるもの、およびFRAPと表記されるもの(SabatiniおよびSynder,1994;Brown等、1994;Chen等、1994)に結合するラパマイシン-FKBP-12複合体に起因する。ラパマイシンはFKBP-12に強力に結合するが、カルシニューリンを阻害しないので、それはFK506に対する拮抗剤として作用し得る。ラパマイシンの非免疫抑制性誘導体が存在する。これらの1種であるWAY-124466、ラパマイシンのトリエン誘導体はFKBP-12に対して高い親和性で結合し、そしてロタマーゼ活性を阻害するが、免疫抑制作用を欠いている。シクロスポリンAは大環状ウンデカペプチドである。アラニンの6位にメチル基を単に付加すると、カルシニューリンを阻害せず、免疫抑制作用を欠く薬剤を生じるが、それはシクロスポリンAと同じ範囲までシクロフィリンのロタマーゼ活性を阻害する(Me CsA ref)。
【0078】
免疫抑制活性が神経栄養作用に必要とされるか否かを確認するために、我々はFK506、ラパマイシンおよびシクロスポリンAの神経栄養作用を非免疫抑制剤WAY-124466と比較し、PC12細胞上で広範囲の濃度を評価する(図15、16)。全ての試験は0.5ng/mlNGFの存在下に行われた。前に観察されたように、FK506は非常に強力に軸索伸長を刺激し、最大刺激の1/2が0.5nMで、そして最大効果が5-100nMである。
【0079】
ラパマイシンは調べられた最も有効な薬剤であり、そして最大レベルの軸索伸長を生じる。反復された実験において、最大伸長の50%が約0.2-0.4nMで現れ、最大効果が約10-100nMで現れる。ラパマイシンでの最大軸索伸長は50ng/mlNGFの最大効果に匹敵する。WAY124466はまた神経栄養性であるが、ラパマイシンに比べより低い最大効果を生じる。WAY-124466での1/2最大刺激は約10nMで生じ、そして最大効果が100-1000nMで生じる。従って、ラパマイシンはWAY-124466より約100倍強力であり、FKBP-12への結合において40倍高い効力に類似する(表2)。
【0080】
シクロスポリンAは軸索成長の刺激においてFK506またはラパマイシンに比べ実質的により低い効力であり、ロタマーゼ活性の阻害において実質的により低い効力に相当する。シクロスポリンAでの軸索成長の50%最大刺激は50nMで明白であり、100nMで最大効果であり、そしてより高濃度のシクロスポリンAでは軸索成長が減少する。シクロスポリンAでの最大刺激は50ng/mlNGFの効果の約60%である。
【0081】
突起伸長の一般的なパターンは種々のイムノフィリンリガンドおよびNGFと類似している。最大効果の50%を誘導する濃度、NGF(1-5ng/ml)では、細胞の40-50%が少なくとも細胞体と同じ程度まで伸長し、15%がより突起を細胞体の長さの3-5倍まで伸ばす。パターンは試験された種々の薬剤とかなり類似している。ラパマイシンおよびWAY124466はFK506に比べ細胞あたり、より多い数の突起を生じる傾向がある。シクロスポリンAは数または突起に関し中間である傾向にある。
【0082】
イムノフィリンの非免疫抑制性および免疫抑制性リガンドによりニワトリ後根ガングリオンに誘導された神経伸長
我々の以前の研究において、我々はラット後根ガングリオンの外植片において免疫抑制薬剤の神経栄養効果を観察し、1ピコモルという低い濃度のFK506で観察された神経成長において顕著に増加することを見出した(Lyons等、1994)。ラットガングリオンにおいて、神経栄養効果はNGFの不在下でさえもFK506でもって観察された。本試験において、我々は神経成長の研究に使用するのにより容易であるニワトリ後根ガングリオンの外植片を用いた。添加されるNGFの不在下、我々はイムノフィリンリガンド薬剤の最小の効果を観察した。ニワトリ細胞はPC12細胞に比べNGFに対してより感受性であり、その結果、我々は軸索最小成長を生じるため、そしてイムノフィリンリガンドの神経栄養作用を示すために0.1ng/mlNGFを用いる(図18、19)。
【0083】
後根ガングリオンは妊娠10日目のニワトリ胚から取り出された。全体のガングリオン外植片を、2mMグルタミンと10%ウシ胎児血清を補足し、そして10μMシトシンβ-Dアラビノフラノシド(AraC)を含有するリーボビッツL15+グルコース培地を有する薄層マトリゲルコート12ウエルプレート上、37℃で5%CO2含有環境において培養した。24時間後、DRGは種々の濃度の神経成長因子、イムノフィリンリガンドまたはNGF+薬剤で処理された。薬剤処理48時間後、ガングリオンは相コントラストまたはホフマンモジュレーションコントラストの下でツァイス・アキシオバート倒立顕微鏡を用いて可視化された。外植片の顕微鏡写真が作成され、そして軸索成長が定量された。DRG直径より長い軸索が陽性として、各実験条件あたり計量された軸索の全数により計測された。4種のDRGのうち3種がウエルあたり培養され、そして各処理は二重に行われた。
【0084】
ガングリオンでの神経成長の刺激における種々のイムノフィリンリガンドの相対効力はPC12細胞におけるそれらの相対効力に類似している。従って、ラパマイシンは1nMのEC50でもって最大効力の薬剤であり、WAY-124466に比べ10倍強力であり、FK506は1-2nMのEC50を示す。
【0085】
突起の数、その長さおよび分岐の最大増加はイムノフィリンリガンドおよびNGFの最大に有効な濃度(100ng/ml)で全く同様である。種々の薬剤の徐々に増加する濃度でもって、突起のより多い数、より広範囲の分岐および個々の突起のより長い長さを観察する。
【0086】
我々は組換えFKBP-12への3H-FK506結合の阻害を試験することによりFKBP-12への結合における薬剤の効力を評価した。FKBP-12に対する薬剤の親和性と軸索成長の刺激およびロタマーゼ活性阻害の効力との間に顕著な類似点がある。明らかに、神経成長の刺激はカルシニューリン阻害に関係しない。カルシニューリン阻害は免疫抑制活性と十分に適合し、WAY-124466は免疫抑制性ではなく、そしてカルシニューリンを阻害しない。ラパマイシンは強力な免疫抑制剤であるが、ラパマイシン-FKBP-12複合体はRAFT-1に結合して免疫抑制性過程を開始する(SabatiniおよびSnyder、1994;SnyderおよびSabatini、1995)。結果を表2にまとめて示す。
【0087】
【表2】

【0088】
我々はニワトリ後根ガングリオン外植片培養体における軸索成長を促進するための非免疫抑制性イムノフィリンリガンドの活性を比較した(表3)。これらの化合物の各々はカルシニューリンを阻害することができないが、イムノフィリンFKBP-12と相互作用して表3に挙げた種々の阻害定数でもってロタマーゼ活性を阻害する。DRGにおける軸索成長を促進するためのこれらの化合物の能力はFKBP-12のロタマーゼ活性を阻害する能力と高い相関関係にある。
【0089】
【表3】

【0090】
イムノフィリンへの結合、ロタマーゼ活性の阻害および軸索成長の刺激における薬剤の効力の間の非常に密接な相関関係は、ロタマーゼ活性の阻害が薬剤の神経栄養作用に関連することを意味する。軸索成長の刺激およびイムノフィリンへの結合における薬剤の顕著に高い効力は、あらゆるその他の標的が神経栄養作用を説明し得ることと非常に異なるものにしている。ロタマーゼ以外のイムノフィリンの生物学的活性が薬剤の影響を受けて神経栄養作用を仲介し得るものと予想される。しかしながら、そのような活性は未だ報告されていない。
【0091】
薬剤の非常に高い効力とロタマーゼ阻害と神経栄養作用との間の緊密な相関関係のために、我々はロタマーゼ阻害が神経栄養効果にほぼ包含されると結論する。多くのタンパク質がコラーゲン(Steinmann等、1991)およびトランスフェリン(LodishおよびKing、1991)等のイムノフィリンのロタマーゼ活性に対する基質として報告されいている。天然の細胞間カルシウムチャンネルであるリアノジン受容体およびIP-3受容体の最近高度に精製された調製物がFKBP-12との複合体に存在することが報告されている。これらの複合体からFKBP-12の解離はカルシウムチャンネルに「漏れ(leaky)」を引き起こす(Cameron等、1995)。カルシウム流(フラックス)は軸索伸長に関連し、その結果、IP-3受容体およびリアノジン受容体は薬剤の神経栄養作用に関連するであろう。薬剤はIP-3受容体またはリアノジン受容体としてFKBP-12と同じ部位に結合するので、該薬剤はFKBP-12からのチャンネル(流れ)を置き換えると推定せざるを得ない。シクロスポリンにおけるこれらのカルシウムチャンネル(流れ)の間の相互関係は報告されておらず、その結果、このモデルはシクロスポリンAの神経栄養作用を説明しない。
【0092】
ここで研究された薬剤の神経栄養作用は極端に低い濃度で証明されており、これは神経栄養タンパク質、例えば脳誘導成長因子、ニューロトロピン-3および神経栄養成長因子のものに匹敵し得る効力であることを示す。
【0093】
【実施例】
以下の実施例は本発明の好ましい態様の説明であり、そしてそれにより本発明を制限するものではない。全てのポリマー分子量は平均分子量である。全ての%は特記しない限り最終的伝達系または調製された配合剤の重量%に基づいており、そして全量は100重量%に等しい。
【0094】
本発明の目的のために使用され得る例示されるピペコリン酸誘導体化合物は以下のものを包含する。
【0095】
実施例1
【化19】

本実施例のピペコリン酸誘導体化合物はOcain等、Biochemical and Biophysical Research Communications,Vol.192,No.3,1993に開示されている。該化合物はWyeth-AyerstでPhil Hughes博士によって4-フェニル-1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンとラパマイシンとの反応により合成された。
【0096】
実施例2
【化20】

このピペコリン酸誘導体化合物はCharkraborty等、Chemistry and Biology,March1995,2:157-161に開示されている。
【0097】
実施例3-5
【化21】

実施例のピペコリン酸誘導体化合物はIkeda等、J.Am.Chem.Soc.1994,116,4143-4144に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0098】
実施例6-9
実施例のピペコリン酸誘導体化合物はWang等、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.4,No.9,pp.1161-1166,1994、特に化合物2a-2dに開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0099】
実施例10
【化22】

本実施例のピペコリン酸誘導体、化合物10はBirkenshaw等、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.4,No.21,pp.2501-2506,1994に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0100】
実施例11-21
実施例のピペコリン酸誘導体化合物はHolt等、J.Am.Chem.Soc.1993,115,9925-9938、特に化合物4-14に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0101】
実施例22-30
実施例のピペコリン酸誘導体化合物はCaffery等、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.4,No.21,pp.2507-2510,1994に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0102】
実施例31
【化23】

本実施例のピペコリン酸誘導体、化合物31はTeague等、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.3,No.10,pp.1947-1950,1993に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0103】
実施例32-34
実施例のピペコリン酸誘導体化合物はYamashita等、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.4,No.2,pp.325-328,1994、特に化合物11、12および19に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0104】
実施例35-55
実施例のピペコリン酸誘導体化合物はHolt等、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.4,No.2,pp.315-320,1994、特に化合物3-21および23-24に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0105】
実施例56-68
実施例のピペコリン酸誘導体化合物はHolt等、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.3,No.10,pp.1977-1980,1993、特に化合物3-15に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0106】
実施例69-83
本発明の実施例化合物はHauske等、J.Med.Chem.1992,35,4284-4296、特に化合物6、9-10、21-24、26、28、31-32および52-55に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0107】
実施例84
【化24】

本実施例のピペコリン酸誘導体はTeague等、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.4,No.13,pp.1581-1584,1994に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0108】
実施例85-88
実施例のピペコリン酸誘導体化合物はStocks等、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.4,No.12,pp.1457-1460,1994、特に化合物2、15-17に開示されており、該文献は参照により本明細書に編入される。
【0109】
スキーム1
【化25】

【0110】
スキーム2
【化26】

【0111】
スキーム3
【化27】

【0112】
スキーム4
【化28】

【化29】

【化30】

【0113】
スキーム5
【化31】

【0114】
スキーム6
【化32】

【化33】

【0115】
スキーム7
【化34】

【化35】

【化36】

【0116】
スキーム8
【化37】

【化38】

【化39】

【化40】

【0117】
スキーム9
【化41】

【0118】
本発明は上記のように、同じものが多くの方法で変更され得ることが明らかである。そのような変更は本発明の精神および範囲から逸脱しないものとみなされ、そしてそのような全ての変更が本発明の特許請求の範囲内に包含されるものと意図される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
神経挫傷後の顔面核におけるFKBP-12およびGAP-43の発現を示す生物の形態を表す写真。FKBP-12(左側)およびGAP-43(右側)に対する顔面核におけるmRNAの発現の時間経過を比較するin situハイブリダイゼーション。右側顔面核は挫傷と同じ側であり、そして左側は未操作の対照である(図1B)。未処理対照へのFKBP-12(左側)に対する、および顔面神経挫傷後7日目のカルシニューリンAα,βに対する(右側)in situハイブリダイゼーション。
実験は少なくとも3回反復され、同じ結果が得られた。
【図2】
神経挫傷に続く顔面運動ニューロンに対するFKBP-12の局在性を示す生物の形態を表す写真。挫傷後7日目の顔面核の運動ニューロン(図2A)における、および対照顔面核の運動ニューロン(図2B)におけるFKBP-12に対するin situハイブリダイゼーションの明視野顕微鏡写真。
【図3】
座骨神経挫傷後の腰部脊髄運動ニューロンにおけるFKBP-12mRNAの上昇制御を示す生物の形態を表す写真。右側座骨神経の挫傷後7日目のFKBP-12に対するin situハイブリダイゼーション。上の図(図3A)は下側腰部脊髄の前角(矢印で示す)における運動ニューロンの応答を示す。対応する運動ニューロンプールの明視野顕微鏡写真は下の図に示されている:(図3B)神経挫傷とは反対側である左側、(図3C)神経挫傷と同じ側である右側。この実験は3回反復され、同じ結果が得られた。
【図4】
座骨神経挫傷後1および6週目の後根ガングリオンにおけるFKBPおよびFKBP-12mRNAの誘導を示す生物の形態を表す写真。FKBP in situハイブリダイゼーションに対して処理された座骨神経挫傷と同じ側のL4後根ガングリオンを介する切片の暗視野顕微鏡写真は左側の図であり、そして〔3H〕FK506オートラジオグラフィーに対するものは右側の図である。これらの結果は各々の時間に対して3回反復された。
【図5】
右側顔面神経のリシン損傷を示す生物の形態を表す写真。ニッスル染色(下側の図、図5A)は顔面神経へのリシン注入後7日目のグリア増殖を伴う右側顔面核における運動ニューロンの広範囲に及ぶ変性を示す。顔面神経/核のリシン損傷後7日目のFKBPmRNAに対するin situハイブリダイゼーションは上側の図(図5B)に示されている。この実験は3回反復され、同じ結果が得られた。
【図6】
挫傷後7日目の座骨神経の断片における〔3H〕FK506結合性を示す図面。図面は採取した神経の3mm断片を示す:くびれ部は方法に記載したように6時間の採取時間、7日目に適用した結紮位置を示す。遠位の結紮部は最初の挫傷部位から10mm離れている。FKBPの前方への移動は124mm/日である。データは平均値±S.E.M.(n=3)である。
【図7】
座骨神経におけるFKBPの移動を示す生物の形態を表す写真。FKBP-12in situハイブリダイゼーションに対して(図7A、図7B)、および〔3H〕FK506オートラジオグラフィーに対して(図7C、7D)に対して処理された、対照(未処理)座骨神経および7日目座骨神経挫傷部位を介する切片の暗視野顕微鏡写真。矢印は神経挫傷の観測を示す。この実験は3回反復され、同じ結果が得られた。
【図8】
NGF(50ng/ml)の存在下または不在下で維持されたPC細胞における〔3H〕FK506結合のレベルを示すグラフ。各々の時間に対してn=3。バーはS.E.M.を表す。
【図9】
PC12細胞における軸索伸長の免疫抑制が介在した増加を示す生物の形態を表す写真。NGFの存在下、FK506またはラパマイシンを添加または添加せずに、48時間増殖した培養体のホフマンコントラスト顕微鏡写真(64)。図9A:1.0ng/mlNGF中で増殖したPC-12細胞。図9B:50ng/mlNGF。図9C:1.0ng/mlNGFおよび100nM FK506。図9D:1.0ng/mlNGFおよび100nMラパマイシン。倍率200倍。
【図10】
PC-12細胞中での軸索増殖へのFK506の影響を示すグラフ。培養体は100nM FK506の存在下または不在下に種々の濃度のNGFと処理され、そして軸索伸長は48時間目に測定された。増殖は方法の項に記載したように、5μmより大きい軸索成長を有する細胞を数えることにより定量化した。n=4の別々の実験が各時間に対して行われ、そして誤差バーはSEMを表す。
【図11】
PC-12細胞中での軸索増殖のFK506有効性に対する濃度応答関係を示すグラフ。細胞は1ng/mlNGFおよび種々の濃度のFK506でもって48時間処理された。軸索増殖応答は図10および方法の項に記載されるように計測された。n=4の別々の実験が各データ点に対して行われた。*p<0.001スチューゲントt試験。
【図12】
後根ガングリオン外植片培養体上の〔3H〕FK506オートラジオグラフィーを示す生物の形態を表す写真。100ng/NGFでの培養26日後、広範囲の突起は豊富なFKBP結合銀粒を示す。オートラジオグラフィーの粒は1μmの非標識FK506で消失される。
【図13】
異なる基質で増殖させた後根ガングリオンの相コントラスト顕微鏡写真である生物の形態を表す写真。図13A:NGF100ng/ml、図13B:FK506 1μM、図13C:FK506 1μMおよび抗NGF抗体、図13D:成長因子の添加なし、図13E:FK506 1pM、図13F:FK506 1μMおよびラパマイシン1μM。スケールバーは205μmである。NGFは豊富な軸索増殖を生じ(図13A)、また1μM FK506も同様である(図13B)。FK506の効果は1pMまで濃度を減少させることにより実質的に低下される(図13E)。しかしながら、1pM FK506での軸索増殖はその不在下(図13D)に比べ多い。FK506効果はまた、培養体における非ニューロン細胞により生じるNGFの効果を消失させるための抗NGF抗体を添加することにより消失される。NGF(100ng/ml)(図13A)または1μM FK506(図13B)に応答して大きい神経繊維束を生じる豊富な軸索は白く見え、一方、小さい神経繊維束または個別の軸索は黒く見える。非ニューロン細胞、シュワン細胞およびいくつかの繊維芽細胞は1μM FK506(図13B)に比べ1pM fk506(図13E)または抗NGF抗体(図13C)の場合、はっきりしている。培養体中に非ニューロン細胞により産生されるNGFは成長因子が添加されない培養体中に見られる限定された軸索増殖を生じる(図13D)。白く見える多数の屈折非ニューロン細胞は少数の軸索を暗くする傾向がある(図13D)。ラパマイシンはFK506の存在下で軸索増殖を完全に阻害する(図13F)。顕微鏡写真は各実験条件からの12-30のガングリオンの代表例である。全ての実験群間の相違は高度の再現性があった。
【図14】
PC-12細胞におけるNGF仲介軸索伸長へのFK506およびラパマイシンの影響を示すグラフ。PC12細胞(継代60)は種々の濃度のNGF単独または100nM FK506、100nMラパマイシンまたは100nM Way124466の存在下で処理された。軸索増殖は96時間後に陽性を示す細胞の直径より大きい突起部を有する細胞でもって計測した。n=3の別々の実験が各時間に対して行われ、そして誤差バーはS.E.M.を表す。
【図15】
ピコモル濃度の(A)FK506および(B)ラパマイシンとWAY-124466はPC12細胞中でNGF(0.5ng/ml)により誘導された軸索伸長を強化することを示すグラフ。より少ない継代のPC12細胞は種々の濃度のFK506(□)、ラパマイシン(●)またはWAY-124466(○)の存在下に0.5ng/mlNGFと共に4日間処理された。軸索伸長は図14において上記したように定量された。0.5ng/mlNGF(Lと表記)および50ng/mlNGF(Hと表記)の存在下での軸索産生のレベルが比較のために示されている。
【図16】
イムノフィリンリガンド+0.5ng/mlNGF自身または50ng/mlNGFで処理されたPC12細胞の顕微鏡写真である生物の形態を表す写真。
【図17】
イムノフィリンリガンド+0.5ng/mlNGF自身または50ng/mlNGFで処理されたPC12細胞の顕微鏡写真である生物の形態を表す写真。
【図18】
イムノフィリンリガンドはニワトリ感覚ガングリオンにおいて最大軸索伸長を生じるために必要なNGFの量を減少することを示す生物の形態を表す写真。全体の後根ガングリオン外植片は9-10日齢のニワトリ胚から単離され、そしてL15培地と高グルコースを、10μM Ara Cペニシリンおよびストレプトマイシンを補足した10%ウシ胎児血清と共に含有するマトリゲル被覆12ウエル皿中に5%CO2雰囲気下37℃で培養された。感覚ガングリオンは1ng/ml NGF、1ng/ml NGF+100nM FK506または100ng/ml NGFと48時間処理され、そしてニューロン突起が計測され、そして写真撮影された。
【図19】
FK506、ラパマイシンおよびWAY-124466が感覚ガングリオンにおいてNGF依存軸索産生を強化することを示すグラフ。ニワトリDRGの外植片は図18において上記したように培養された。FK506、ラパマイシンおよびWAY-124466(各々100nMプラスまたはマイナス0.1ng/mlNGF)がDRG外植片培養体に添加された。48時間目に、軸索増殖が定量され、そして培養体が写真撮影された。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-08 
出願番号 特願平8-132866
審決分類 P 1 652・ 536- ZA (A61K)
P 1 652・ 537- ZA (A61K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 星野 紹英  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 深津 弘
横尾 俊一
登録日 2000-04-28 
登録番号 特許第3060373号(P3060373)
権利者 ジーピーアイ エヌアイエル ホールディングス インコーポレイテッド ジョン ホプキンス ユニバーシティ スクール オブ メディシン
発明の名称 ロタマーゼ酵素活性の阻害剤  
代理人 萼 経夫  
代理人 中村 壽夫  
代理人 萼 経夫  
代理人 萼 経夫  
代理人 中村 壽夫  
代理人 中村 壽夫  

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