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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  B41C
管理番号 1125881
異議申立番号 異議2003-71762  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-05-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-11 
確定日 2005-10-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第3366237号「製版装置および印刷システム」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3366237号の請求項1ないし11に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成9年10月24日の出願であって、その出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・平成 9年10月24日 本件出願
・平成14年11月 1日 特許第3366237号として設定登録(請求項11)
・平成15年 7月11日 前野洋より全請求項に係る特許について特許異議の申立て
・平成15年10月27日 取消理由の通知
・平成15年12月26日 特許異議意見書の提出
・平成17年 4月22日 取消理由の通知
・平成17年 7月11日 特許異議意見書の提出

第2 特許異議申立てについての判断
1.本件発明の認定
本件の請求項1から請求項11に係る発明(以下、各請求項に係る発明をそれぞれ「本件発明1」から「本件発明11」という。)は、特許請求の範囲の請求項1から請求項11に記載された事項により特定される以下のものと認める。
【請求項1】「光触媒反応により親油性から親水性に変化し、熱処理により親水性から親油性に変化する材料を主成分とする薄膜を表面に有するとともに、取り外し自在に設けられた印刷用原版と、前記印刷用原版に、活性光による全面露光を行う露光手段と、該露光手段により全面露光された前記印刷用原版にヒートモードの描画を行う描画手段とを備えたことを特徴とする製版装置。」
【請求項2】「前記印刷用原版は、ドラムの表面に取り外し自在に設けられた平板状原版からなり、前記露光手段および前記描画手段が、前記ドラムの周囲に配設されてなることを特徴とする請求項1記載の製版装置。」
【請求項3】「前記印刷用原版は版胴からなり、前記露光手段および前記描画手段が、前記版胴の周囲に配設されてなることを特徴とする請求項1記載の製版装置。」
【請求項4】「前記描画手段が、感熱ヘッドからなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の製版装置。」
【請求項5】「前記描画手段が、レーザーからなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の製版装置。」
【請求項6】「前記材料が、酸化チタンまたは酸化亜鉛からなることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の製版装置。」
【請求項7】「印刷終了後、前記印刷用原版に残存するインキを除去するインキ除去手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の製版装置。」
【請求項8】「請求項1から6のいずれか1項記載の製版装置、該製版装置から取り外された前記印刷用原版を取り外し自在に保持する保持手段と、前記ヒートモードの描画がなされた前記印刷用原版にインキを供給して該印刷用原版に画像領域を形成するインキ供給手段とを備えた印刷装置、および印刷終了後、前記印刷用原版に残存するインキを除去するインキ除去手段を有することを特徴とする印刷システム。」
【請求項9】「前記インキ除去手段が、前記印刷装置に設けられてなることを特徴とする請求項8記載の印刷システム。」
【請求項10】「前記インキ除去手段が、前記製版装置に設けられてなることを特徴とする請求項8記載の印刷システム。」
【請求項11】「少なくとも4つの前記印刷装置を有することを特徴とする請求項8から10のいずれか1項記載の印刷システム。」

2.当審が平成17年4月22日付けで通知した取消理由の概要
当審が平成17年4月22日付けで通知した取消理由は、次のとおりである。
【理由】
本件出願の請求項1から11に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
引用例:特願平9-59392号(特開平10-250027号公報参照)

3.引用例の記載事項
本件出願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された引用例の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、下記の事項が記載されている。
記載事項a:「【発明が解決しようとする課題】写真技術によって版下を製作するには、複数の工程が必要であり、時間と労力が必要であった。このため、版下は製作に時間がかかり、コストも高かった。よって、印刷の迅速化及び低コスト化の実現は困難であった。このことは、特に印刷の枚数が少ない少量印刷の場合に問題となっていた。」(段落【0003】参照。)
記載事項b:「【発明の実施の形態】図1は、本発明の第1実施例になるオフセット印刷装置10を示す。オフセット印刷装置10は、潜像版下形成体としての潜像版下形成用ドラム11と、ゴム製のローラであるブランケット12と、押さえローラ13とを有し、ホストコンピュータ14と接続されている。潜像版下形成用ドラム11は、オフセット印刷装置10の筐体内に設けてあり、暗所に配されている。オフセット印刷装置10は、疎水性のインクを使用する。ここで、潜像版下とは、潜像によってパターンが形成されている版下をいう。潜像版下形成用ドラム11は、ドラム本体15の表面に光触媒膜16が形成された構成である。光触媒膜16は、酸化チタン(TiO2)を主成分とする材料(例えば、TOTO社製の酸化チタン)の膜であり、暗所において元々は疎水性を有しており、紫外線を照射されるとその部分の性質が変化されて親水性となって、親水性を長い期間保持する性質を有する。潜像版下形成用ドラム11は、後述するように、潜像を形成されて潜像ドラム版下11Aとなる。潜像版下形成用ドラム11の周囲には、紫外線レーザ走査装置20と、湿し水出しローラ21と、インク出しローラ22と、発熱体よりなる消去装置23と、クリーナ24とが配されている。ブランケット12は潜像版下形成用ドラム11に押し当たっており、押さえローラ13はブランケット12に押し当たっている。モータ27によって潜像版下形成用ドラム11が時計方向に回転されると、ブランケット12が反時計方向に回転され、押さえローラ13が時計方向に回転される。紫外線レーザ走査装置20は駆動回路25と接続してある。消去装置23は駆動回路26と接続してある。モータ27は駆動回路28と接続してある。次に、上記構成のオフセット印刷装置10の動作について説明する。オフセット印刷装置10は、ホストコンピュータ14によって制御されて、図2及び図3に示すように、大別して3つの動作工程、即ち、潜像ドラム版下形成工程40-1(40-2,40-3,・・・)、所定回数の印刷工程41-1(41-2,41-3,・・・)、潜像消去工程42-1(42-2,42-3,・・・)を、繰り返して行う。〔潜像ドラム版下形成工程40-1(図2(A)参照)〕ホストコンピュータ14よりの指令によって、駆動回路28が動作され、モータ27が始動して、潜像版下形成用ドラム11が時計方向に1回転される。また、図4に示すように、紫外線レーザ走査装置20が動作して、ホストコンピュータ14の画像情報に応じて変調された紫外線レーザ45が、回転しつつある潜像版下形成用ドラム11を走査する。潜像版下形成用ドラム11は紫外線レーザの走査速度に同期して回転する。潜像版下形成用ドラム11の周面の光触媒膜16のうち紫外線が照射された場所の性質が変化して親水性となる。49は親水性となった部分であり、ハッチングを付して示す。これにより、潜像版下形成用ドラム11の光触媒膜16は疎水性である下地のところに、親水性とならずに疎水性のまま残った部分50が所定のパターンとなって、潜像51が形成される。潜像版下形成用ドラム11は、図3に示すように、潜像ドラム版下11Aとなる。以後、紫外線レーザ走査装置20は動作を停止する。」(段落【0009】〜段落【0014】参照。)
記載事項c:「次いで、インク出しローラ22の個所を通過して、疎水性のインクが疎水性のまま残った部分50に付着する。53は付着した疎水性のインクを示す。これによって、潜像ドラム版下11Aの潜像51が可視像54となる。次いで、ゴム製のブランケット12の個所を通過し、潜像ドラム版下11A上の疎水性のインクがブランケット12に転写される。55はブランケット12に転写されたインクを示す。次いで、消去装置23の個所を通過する。消去装置23は発熱していないため、潜像ドラム版下11Aの潜像は消去されない。次いで、クリーナ24の個所を通過する。ここで、潜像ドラム版下11A上に残っているインク及び付着している水が、掻かれて除去され、潜像ドラム版下11Aはクリーニングされる。」(段落【0016】〜段落【0017】参照。)
記載事項d:「この動作が繰り返し行われ、所定枚数の印刷が行われる。〔潜像消去工程42〕所定枚数の印刷が終わると、図6に示すように、ホストコンピュータ14よりの指令によって、駆動回路26が動作され、消去装置23が発熱される。これによって、潜像ドラム版下11Aはブランケット12の個所を通り過ぎた個所を所定の温度に加熱され、光触媒膜16のうち親水性となっている部分の性質が変化されて元の疎水性に戻る。これによって、光触媒膜16の潜像が消去される。潜像ドラム版下11Aは元の潜像版下形成用ドラム11となる。」(段落【0019】参照。)
記載事項e:「図7は本発明の第2実施例になるオフセット印刷装置70を示す。オフセット印刷装置70は、疎水性インクに代えて親水性のインクを使用することを除いて図1のオフセット印刷装置10と同じである。図7中、図1に示す構成部分と同じ構成部分には同一符号を付しその説明は省略する。図8に示すように、紫外線レーザ走査装置20は、図4の場合とはオンオフが逆の状態で動作される。紫外線レーザ45が潜像版下形成用ドラム11を走査し、光触媒膜16のうち紫外線が照射された場所の性質が変化して親水性(ハッチングで示す)となる。これにより、潜像版下形成用ドラム11の光触媒膜12は疎水性から親水性に変換された部分(符号49Aで示す)が所定のパターンとなって、潜像51Aが形成される。潜像版下形成用ドラム11は、図8に示すように、潜像ドラム版下11Bとなる。以後、紫外線レーザ走査装置20は動作を停止する。図9に示すように、潜像ドラム版下11Bが、何回も(印刷する枚数と同じ回数である)回転する。潜像ドラム版下11Bの回転に応じてブランケット12が回転し、更には、押さえローラ13が回転する。潜像ドラム版下11Aの或る個所に注目してみる。潜像ドラム版下11Bが回転すると、先ず、湿し水出しローラ21の個所を通過して、水が親水性とされた部分49Aに付着する。次いで、インク出しローラ22の個所を通過して、親水性のインクが親水性とされた部分49Aに、符号53Aで示すように付着する。次いで、ゴム製のブランケット12の個所を通過し、潜像ドラム版下11B上の親水性のインク53Aがブランケット12に転写される。ブランケット12に転写されたインクが、用紙60-1に転写され印刷がなされる。所定枚数の印刷が終わると、図10に示すように、ホストコンピュータ14よりの指令によって、駆動回路26が動作され、消去装置23が発熱される。これによって、潜像ドラム版下11Bはブランケット12の個所を通り過ぎた個所を所定の温度に加熱され、光触媒膜16のうち親水性となっている部分の性質が変化されて元の疎水性に戻る。これによって、光触媒膜16の潜像が消去される。潜像ドラム版下11Bは元の潜像版下形成用ドラム11となる。」(段落【0021】〜段落【0023】参照。)
記載事項f:「図11は、本発明の第3実施例になるオフセット印刷装置100を示す。オフセット印刷装置100は、オフセット印刷装置本体101と、潜像ドラム版下作成装置102と、潜像消去装置103と、ドラム搬送装置104とを有する。オフセット印刷装置本体101は、紫外線レーザ走査装置20及び消去装置23が除かれてあり、且つ、潜像ドラム版下11Aが装着脱可能な構成である以外は、図1のオフセット印刷装置10と実質上同じ構成であり、図1に示す構成部分と同じ構成部分には同一符号を付しその説明は省略する。潜像ドラム版下作成装置102は、紫外線レーザ走査装置20を備えた構成であり、潜像版下形成用ドラム11に紫外線レーザを照射して潜像ドラム版下を作成する。潜像消去装置103は、消去装置23を備えた構成であり、潜像ドラム版下の潜像を消去して、潜像版下形成用ドラム11を再生する。ドラム搬送装置104は、同じ版によるオフセット印刷が完了した後にオフセット印刷装置本体101内の潜像版下形成用ドラム11を潜像消去装置103内に搬送し、潜像消去装置103内で再生された潜像版下形成用ドラム11を潜像ドラム版下作成装置102内に搬送し、潜像ドラム版下作成装置102内で作成された潜像ドラム版下11Aをオフセット印刷装置本体101内に搬送する。上記のオフセット印刷装置100は、同じ版によるオフセット印刷が完了した後にドラム搬送装置104によってオフセット印刷装置本体101内の潜像版下形成用ドラム11が取り外され、ドラム搬送装置104が潜像ドラム版下作成装置102内で作成された潜像ドラム版下をオフセット印刷装置本体101にセットするように動作する。このように、オフセット印刷装置100は、潜像ドラム版下が逐次換えられて、オフセット印刷を続ける。なお、使用済の潜像ドラム版下は、潜像消去装置103内で再生されて潜像版下形成用ドラム11となる。潜像ドラム版下作成装置102内で、この再生された潜像版下形成用ドラム11に別の潜像が形成されて、再度、潜像ドラム版下となる。このように、潜像版下形成用ドラム11は繰り返し使用される。なお、本発明は、潜像よりなる版下の形状は、ドラム形に限らず、平面でもよい。」(段落【0025】〜【0029】参照。)
上記記載事項a〜fを含む先願明細書には、オフセット印刷装置に供される版下を製造する装置、すなわち、製版装置が記載されていると認められる。
したがって、先願明細書には、
「紫外線を照射されると親水性となり、加熱されると疎水性となる光触媒膜16が表面に形成されるとともに、取り外し自在に設けられた潜像版下形成用ドラム11と、画像情報に応じて変調された紫外線レーザ45を潜像版下形成用ドラム11を走査する紫外線レーザ走査装置20と、発熱体よりなる消去装置23とを有するオフセット印刷装置100を備えた製版装置。」(以下、「先願発明」という。)、
が記載されているものと認める。

4.本件請求項1に係る特許についての当審の判断
(1)本件発明1と先願発明の一致点及び相違点
先願発明の「紫外線レーザ45」は、「潜像版下形成用ドラム11の周面の光触媒膜16のうち紫外線が照射された場所の性質が変化して親水性となる。49は親水性となった部分であり、ハッチングを付して示す。これにより、潜像版下形成用ドラム11の光触媒膜16は疎水性である下地のところに、親水性とならずに疎水性のまま残った部分50が所定のパターンとなって、潜像51が形成される。」(上記記載事項b参照)もしくは「紫外線レーザ45が潜像版下形成用ドラム11を走査し、光触媒膜16のうち紫外線が照射された場所の性質が変化して親水性(ハッチングで示す)となる。これにより、潜像版下形成用ドラム11の光触媒膜12は疎水性から親水性に変換された部分(符号49Aで示す)が所定のパターンとなって、潜像51Aが形成される。」(上記記載事項e参照)であるから、本件発明1の「描画手段」に相当する。
また、先願発明の「消去装置23」と本件発明1の「活性光による全面露光を行う露光手段」はいずれも印刷用原版を初期化するものとして共通するので、いずれも印刷用原版初期化手段といえる。
したがって、本件発明1と先願発明とを比較すると、両者は、
「光触媒反応により親油性から親水性に変化し、熱処理により親水性から親油性に変化する材料を主成分とする薄膜を表面に有するとともに、取り外し自在に設けられた印刷用原版と、
前記印刷用原版の印刷用原版初期化手段と、
該印刷用原版初期化手段により初期化された前記印刷用原版に描画を行う描画手段とを備えたことを特徴とする製版装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
印刷用原版初期化手段について、本件発明1では、活性光による全面露光を行い印刷用原版を親油性から親水性に変化させる露光手段であるのに対し、先願発明では、発熱体により親水性から親油性に変化させる消去装置であり、また、描画手段について、本件発明1では、印刷用原版の画像領域を親水性から親油性に変化させるヒートモードの描画を行う描画手段であるのに対し、先願発明では、非画像領域を親油性から親水性に変化させる紫外線レーザによるものである点。

(2)相違点1についての判断
ここで、先願発明の「紫外線レーザ」、「発熱体」はそれぞれ、本件発明1の「露光手段」、「ヒートモード」に相当するから、上記相違点1は、画像領域をヒートモードにより描画し露光手段により消去するのか、非画像領域を露光手段により描画しヒートモードにより消去するのかの違いに過ぎず、本件発明1も先願発明も画像領域を親油性にすることによって描画する点で共通しているから、印刷用原版の初期状態(本件発明1では、親水性であるのに対し、先願明細書に記載されたものでは、親油性である)をいずれの状態を採用するかという具体化手段における微差すぎず、さらに、初期状態として、いずれの状態を採用するかによって作用・効果の差異は生じないから、上記相違点1は単なる設計的事項にすぎない。

(3)むすび
以上のとおり、先願発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、単なる設計的事項にすぎない。
したがって、本件発明1は、先願発明と同一である。

5.本件請求項2に係る特許についての当審の判断
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項のすべてを、その発明特定事項の一部とすると共に、前記印刷用原版は、ドラムの表面に取り外し自在に設けられた平板状原版からなり、前記露光手段および前記描画手段が、前記ドラムの周囲に配設されてなることを、その発明特定事項に付加しているものである。
ここで、「3.引用例の記載事項」で認定したとおり、先願明細書には、潜像版下形成用ドラム11の周囲に紫外線レーザ走査装置20と消去装置23が配されている点が記載されている。(上記記載事項b参照。)
そこで、上記「4.本件請求項1に係る特許についての当審の判断」を勘案しつつ、本件発明2と先願明細書に記載された発明とを比較すると、両者は、上記相違点1に加えて、次の相違点2において相違し、その余の点において一致する。
<相違点2>
取り外し自在に設けられた印刷用原版が、本件発明2では、「ドラムの表面に取り外し自在に設けられた平板状原版」であるのに対し、先願明細書に記載された発明では、その点が明確ではない点。
次に、上記相違点2について検討すると、一般に、ドラム等を含む版胴に原版を取り外し自在に設けることは文献を示すまでもなく、本件出願日前において周知の技術手段(以下、「第1の周知技術」という。)である。さらに、先願明細書の上記記載事項fには、版下の形状は平面でも良い旨の記載があるから、相違点2に係る本件発明2の如く構成することは、前記第1の周知技術の単なる付加にすぎない。
よって、先願明細書に記載された発明において、上記相違点2に係る本件発明2の発明特定事項を採用することは、周知技術の単なる付加にすぎない。
したがって、本件発明2は、先願明細書に記載された発明と同一である。

6.本件請求項3に係る特許についての当審の判断
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項のすべてを、その発明特定事項の一部とすると共に、前記印刷用原版は版胴からなり、前記露光手段および前記描画手段が、前記版胴の周囲に配設されてなることを、その発明特定事項に付加しているものである。
ここで、「3.引用例の記載事項」で認定したとおり、先願明細書には、潜像ドラム版下、つまりドラム形状の版下が記載されている。(上記記載事項b参照。)
そこで、本件発明3と先願明細書に記載された発明とを比較すると、両者は、上記相違点1において相違し、その他の相違点はないから、「4.本件請求項1に係る特許についての当審の判断」を勘案すると、本件発明3は、先願明細書に記載された発明と同一である。

7.本件請求項4に係る特許についての当審の判断
本件発明4は、本件発明1乃至本件発明3のいずれかの発明特定事項を、その発明特定事項の一部とすると共に、前記描画手段が、感熱ヘッドからなることを、その発明特定事項に付加しているものである。
ここで、描画手段としての感熱ヘッドは文献を示すまでもなく、本件出願日前において周知の技術手段(以下、「第2の周知技術」という。)であるから、「4.本件請求項1に係る特許についての当審の判断」乃至「6.本件請求項3に係る特許についての当審の判断」を勘案すると、本件発明3は、先願明細書に記載された発明に前記第2の周知技術を単に付加したものにすぎない
したがって、本件発明4は、先願明細書に記載された発明と同一である。

8.本件請求項5に係る特許についての当審の判断
本件発明5は、本件発明1乃至本件発明3のいずれかの発明特定事項を、その発明特定事項の一部とすると共に、前記描画手段が、レーザーからなることを、その発明特定事項に付加しているものである。
ここで、描画手段としてのレーザは文献を示すまでもなく、本件出願日前において周知の技術手段(以下、「第3の周知技術」という。)であるから、「4.本件請求項1に係る特許についての当審の判断」乃至「6.本件請求項3に係る特許についての当審の判断」を勘案すると、本件発明5は、先願明細書に記載された発明に前記第3の周知技術を単に付加したものにすぎない。
したがって、本件発明5は、先願明細書に記載された発明と同一である。

9.本件請求項6に係る特許についての当審の判断
本件発明6は、本件発明1乃至本件発明5のいずれかの発明特定事項を、その発明特定事項の一部とすると共に、前記材料が、酸化チタンまたは酸化亜鉛からなることを、その発明特定事項に付加しているものである。
ここで、「3.引用例の記載事項」で認定したとおり、先願明細書には、印刷用原版表面の薄膜の材料として酸化チタン(TiO2)が記載されている(上記記載事項b参照。)。
そこで、本件発明6と先願明細書に記載された発明とを比較すると、両者は、上記相違点において相違し、その他に相違する点はないから、「4.本件請求項1に係る特許についての当審の判断」乃至「8.本件請求項5に係る特許についての当審の判断」を勘案すると、本件発明6は、先願明細書に記載された発明と同一である。

10.本件請求項7に係る特許についての当審の判断
本件発明7は、本件発明1乃至本件発明6のいずれかの発明特定事項を、その発明特定事項の一部とすると共に、印刷終了後、前記印刷用原版に残存するインキを除去するインキ除去手段をさらに備えたことを、その発明特定事項に付加しているものである。
ここで、「3.引用例の記載事項」で認定したとおり、先願明細書には、潜像ドラム版下上に残っているインクを除去するクリーナが記載されている(上記記載事項c参照。)。
そこで、本件発明7と先願明細書に記載された発明とを比較すると、両者は、本件発明7が請求項2を引用する場合は、上記相違点1及び相違点2において相違し、その他に相違する点はなく、本件発明7が請求項2以外の請求項を引用する場合は、上記相違点1において相違し、その他に相違する点はないから、「4.本件請求項1に係る特許についての当審の判断」乃至「9.本件請求項6に係る特許についての当審の判断」を勘案すると、本件発明7は、先願明細書に記載された発明と同一である。

11.本件請求項8に係る特許についての当審の判断
本件発明8は、本件発明1乃至本件発明6のいずれかの発明特定事項である製版装置を、その発明特定事項の一部とすると共に、該製版装置から取り外された前記印刷用原版を取り外し自在に保持する保持手段と、前記ヒートモードの描画がなされた前記印刷用原版にインキを供給して該印刷用原版に画像領域を形成するインキ供給手段とを備えた印刷装置、および印刷終了後、前記印刷用原版に残存するインキを除去するインキ除去手段を有することを、その発明特定事項に付加している印刷システムである。
ここで、「3.引用例の記載事項」で認定したとおり、先願明細書には、製版装置及び残存インクを除去するクリーナ24が記載されている(上記記載事項f参照。)から、先願明細書に記載された発明には「製版装置」及び「インキ除去手段」を有するシステムも記載されており、「製版装置」はオフセット印刷装置100を含む「印刷装置」といえるものであるから、このシステムは「印刷システム」と称し得るものである。そして、先願明細書に記載された「印刷システム」としての発明(以下「先願発明2」という。)は、次のとおりのものと認める。
「紫外線を照射されると親水性となり、加熱されると疎水性となる光触媒膜16が表面に形成されるとともに、取り外し自在に設けられた潜像版下形成用ドラム11と、画像情報に応じて変調された紫外線レーザ45を潜像版下形成用ドラム11を走査する紫外線レーザ走査装置20と、発熱体よりなる消去装置23とを有するオフセット印刷装置100を備えた製版装置及び印刷終了後、潜像版下形成用ドラム11に残存するインクを除去するクリーナ24を有する印刷システム。」
さらに、先願明細書には、潜像ドラムが潜像ドラム版下作成装置102、オフセット印刷装置本体101、潜像消去装置103の間をドラム搬送装置104により搬送されるものであるから、オフセット印刷装置本体101において潜像版下形成用ドラム11が何らかの手段によって保持されていることは明らかである。さらに、印刷装置に「インキ供給手段」が設けられていることは自明である。
そこで、本件発明8と先願発明2とを比較すると、両者は、本件発明8が請求項2を引用する場合は、上記相違点1及び相違点2において相違し、その他に相違する点はなく、本件発明8が請求項2以外の請求項を引用する場合は、上記相違点1において相違し、その他に相違する点はないから、「4.本件請求項1に係る特許についての当審の判断」乃至「9.本件請求項6に係る特許についての当審の判断」を勘案すると、本件発明8は、先願発明2と同一である。

12.本件請求項9に係る特許についての当審の判断
本件発明9は、本件発明8の発明特定事項のすべてを、その発明特定事項の一部とすると共に、前記インキ除去手段が、前記印刷装置に設けられてなることを、その発明特定事項に付加しているものである。
ここで、「3.引用例の記載事項」で認定したとおり、先願明細書には、クリーナがオフセット印刷装置本体に設けられている点が記載されている(上記記載事項c及び記載事項f参照。)。
そこで、本件発明9と先願明細書に記載された発明とを比較すると、両者は、本件発明9が請求項2を引用する場合は、上記相違点1及び相違点2において相違し、その他に相違する点はなく、本件発明9が請求項2以外の請求項を引用する場合は、上記相違点1において相違し、その他に相違する点はないから、「11.本件請求項8に係る特許についての当審の判断」を勘案すると、本件発明9は、先願明細書に記載された発明と同一である。

13.本件請求項10に係る特許についての当審の判断
本件発明10は、本件発明8の発明特定事項のすべてを、その発明特定事項の一部とすると共に、前記インキ除去手段が、前記製版装置に設けられてなることを、その発明特定事項に付加しているものである。
そこで、上記「4.本件請求項1に係る特許についての当審の判断」を勘案しつつ、本件発明10と先願明細書に記載された発明とを比較すると、両者は、本件発明10が請求項2を引用する場合は、上記相違点1及び相違点2に加えて、次の相違点3において相違し、本件発明10が請求項2以外の請求項を引用する場合は、上記相違点1に加えて、次の相違点3において相違し、その余の点において一致する。
<相違点3>
インキ除去手段の設置位置が、本件発明10では、製版装置であるのに対し、先願明細書に記載された発明では、印刷装置である点。
次に、上記相違点3について検討すると、先願明細書に、潜像を消去する消去装置と描画手段である紫外線レーザ走査装置の間に残存インクを除去するクリーナを設けた例が記載されている(上記記載事項b)ことからすると、インキ除去手段の配置は描画手段よりも印刷用原版の搬送方向上流側であれば十分であって、製版装置にインキ除去手段を設けることは、単なる設計的事項にすぎない。
よって、先願明細書に記載された発明において、上記相違点3に係る本件発明10の発明特定事項を採用することは、単なる設計的事項にすぎない。
したがって、本件発明10は、先願明細書に記載された発明と同一である。

14.本件請求項11に係る特許についての当審の判断
本件発明11は、本件発明8乃至本件発明10のいずれかの発明特定事項を、その発明特定事項の一部とすると共に、少なくとも4つの前記印刷装置を有することを、その発明特定事項に付加しているものである。
ここで、カラー印刷のために色毎に印刷装置を設けることは文献を示すまでもなく、本件出願前に周知の技術手段(以下、「第4の周知技術」という。)であるから、「11.本件請求項8に係る特許についての当審の判断」乃至「13.本件請求項10に係る特許についての当審の判断」を勘案すると、本件発明11は、先願明細書に記載された発明に前記第4の周知技術を単に付加したものにすぎない。
したがって、本件発明11は、先願明細書に記載された発明と同一である。

第3 むすび
以上のとおり、本件請求項1から請求項11に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、請求項1から11に係る発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、請求項1から11に係る発明は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1から本件発明11についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-09-12 
出願番号 特願平9-292619
審決分類 P 1 651・ 16- Z (B41C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 江成 克己中村 圭伸  
特許庁審判長 砂川 克
特許庁審判官 藤本 義仁
藤井 靖子
登録日 2002-11-01 
登録番号 特許第3366237号(P3366237)
権利者 富士写真フイルム株式会社
発明の名称 製版装置および印刷システム  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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