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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23B
管理番号 1126397
審判番号 無効2005-80053  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-02-16 
確定日 2005-09-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3584384号発明「食肉包装体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3584384号の請求項1乃至3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
I.手続の経緯

本件特許3584384号の請求項1乃至7に係る発明についての出願は、平成9年3月7日に特願平9-52741号として出願され、平成16年8月13日に特許の設定登録がなされた。
これに対して、昭和電工プラスチックプロダクツ株式会社より平成17年2月16日付で本件無効審判の請求がなされ、指定期間内である平成17年5月16日付で被請求人旭化成ライフ&リビング株式会社及び第一衛材株式会社より訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求について

1.訂正の内容

(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲に係る記載、
「【請求項1】吸収剤シートと、この吸収剤シートを表裏から囲繞する表面材とから構成されたドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で、食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体において、ドリップ吸収パッドの片面が微吸水性を有する微吸水面、他面が良吸水性を有する良吸水面となっており、食肉がドリップ吸収パッドの微吸水面と接して包装され、しかもバリヤー性フィルムが真空包装後更に加熱収縮されていることを特徴とする食肉包装体。
【請求項2】吸収剤シートの微吸水面側の表面が親水性フィルムであるカバー材で覆われていることを特徴とする請求項1の食肉包装体。
【請求項3】吸収剤シートが、中間層として設けられた防水シート又は親水性フィルムを境にして微吸水面側に、良吸水面側に保持されている吸水性ポリマーと比較して吸水能力が低くかつ少ない量の吸水性ポリマーを保持していることを特徴とする請求項1の食肉包装体。
【請求項4】微吸水面側の表面材が疎水性の繊維シート、良吸水面側の表面材が親水性の繊維シートで構成されていることを特徴とする請求項1〜3いずれかの食肉包装体。
【請求項5】微吸水面側の表面材が多数の孔又はスリットを有する合成樹脂フィルム、良吸水面側の表面材が親水性の繊維シートで構成されていることを特徴とする請求項1〜3いずれかの食肉包装体。
【請求項6】バリヤー性フィルムが、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムであることを特徴とする請求項1〜5いずれかの食肉包装体。
【請求項7】ドリップ吸収パッドの表裏の表面材の周縁を封止するヒートシール又は接着ラインが断続的に形成されていることを特徴とする請求項1〜6いずれかの食肉包装体。」を、
「【請求項1】吸収剤シートと、この吸収剤シートを表裏から囲繞する表面材とから構成されたドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で、食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体において、ドリップ吸収パッドの片面が、表面材がスリットを有する合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面、他面が、表面材が親水性の繊維シートで構成された良吸水性を有する良吸水面となっており、ドリップ吸収パッドの表裏の表面材の周縁を封止するヒートシール又は接着ラインが断続的に形成されており、食肉がドリップ吸収パッドの微吸水面と接して包装され、しかもバリヤー性フィルムが、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムであって、真空包装後更に加熱収縮されていることを特徴とする食肉包装体。
【請求項2】吸収剤シートの微吸水面側の表面が親水性フィルムであるカバー材で覆われていることを特徴とする請求項1の食肉包装体。
【請求項3】吸収剤シートが、中間層として設けられた防水シート又は親水性フィルムを境にして微吸水面側に、良吸水面側に保持されている吸水性ポリマーと比較して吸水能力が低くかつ少ない量の吸水性ポリマーを保持していることを特徴とする請求項1の食肉包装体。」と訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0011】の記載
「【課題を解決するための手段】このために本発明では、吸収剤シートと、この吸収剤シートを表裏から囲繞する表面材とから構成されたドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で、食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体において、ドリップ吸収パッドの片面が微吸水性を有する微吸水面、他面が良吸水性を有する良吸水面となっており、食肉がドリップ吸収パッドの微吸水面と接して包装され、しかもバリヤー性フィルムが真空包装後更に加熱収縮されていることを特徴とする食肉包装体としているものである。」を、
「【課題を解決するための手段】このために本発明では、吸収剤シートと、この吸収剤シートを表裏から囲繞する表面材とから構成されたドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で、食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体において、ドリップ吸収パッドの片面が、表面材がスリットを有する合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面、他面が、表面材が良吸水性を有する親水性の繊維シートで構成された良吸水面となっており、ドリップ吸収パッドの表裏の表面材の周縁を封止するヒートシール又は接着ラインが断続的に形成されており、食肉がドリップ吸収パッドの微吸水面と接して包装され、しかもバリヤー性フィルムが、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムであって、真空包装後更に加熱収縮されていることを特徴とする食肉包装体としているものである。」と訂正する

2.訂正の適否

(1)訂正事項1について
上記訂正事項1は、発明を特定する事項である「微吸水性を有する微吸水面」、「良吸水性を有する良吸水面」、及び「バリヤー性フィルム」を夫々、これに含まれる事項である「表面材がスリットを有する合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面」、「表面材が親水性の繊維シートで構成された良吸水性を有する良吸水面」、及び「バリヤー性フィルムが、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルム」と限定する訂正であり、また「ドリップ吸収パッドの表裏の表面材の周縁を封止するヒートシール又は接着ラインが断続的に形成されており」との限定を直列的に付加する訂正であり、更に、訂正前の請求項4乃至7を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、「表面材がスリットを有する合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面」であることは、訂正前の請求項5に記載され、「表面材が親水性の繊維シートで構成された良吸水性を有する良吸水面」であることは、訂正前の請求項4に記載され、「バリヤー性フィルムが、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルム」であることは、訂正前の請求項6に記載され、「ドリップ吸収パッドの表裏の表面材の周縁を封止するヒートシール又は接着ラインが断続的に形成されて」いることは、訂正前の請求項7に記載されているから、上記訂正事項は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものである。
また、上記訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
上記訂正事項2は、訂正事項1に伴うものであり、特許請求の範囲を訂正したことに伴い、発明の詳細な説明欄の記載を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、上記訂正事項が、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

3.むすび

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.当事者の主張

1.請求人の主張

請求人は、「特許第3584384号の請求項1乃至7に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証乃至甲第4号証及び参考資料1を提出し、その理由として、(1)訂正前の本件請求項1、5及び6に係る発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない、また、(2)訂正前の本件請求項1乃至7に係る発明は、甲第1号証及び甲第3乃至4号証刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、旨主張している。

甲第1号証:特開平7-257657号公報
甲第2号証:本件特許出願に係る平成16年5月17日付け意見書
甲第3号証:特公昭61-1295号公報
甲第4号証:特開平5-310273号公報
参考資料1:旭化成グループのホームページに掲載されている、畜肉用シュリンクフィルムとして販売されている「バリアロン(登録商標)-S」の製品インデックスページの印刷物

2.被請求人の主張

一方、被請求人は、請求人の提出した証拠方法によっては、本件特許を無効にすることができないと主張している。

IV.本件発明

訂正後の本件請求項1乃至3に係る発明は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、「本件発明1乃至3」という。)
「【請求項1】吸収剤シートと、この吸収剤シートを表裏から囲繞する表面材とから構成されたドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で、食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体において、ドリップ吸収パッドの片面が、表面材がスリットを有する合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面、他面が、表面材が親水性の繊維シートで構成された良吸水性を有する良吸水面となっており、ドリップ吸収パッドの表裏の表面材の周縁を封止するヒートシール又は接着ラインが断続的に形成されており、食肉がドリップ吸収パッドの微吸水面と接して包装され、しかもバリヤー性フィルムが、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムであって、真空包装後更に加熱収縮されていることを特徴とする食肉包装体。
【請求項2】吸収剤シートの微吸水面側の表面が親水性フィルムであるカバー材で覆われていることを特徴とする請求項1の食肉包装体。
【請求項3】吸収剤シートが、中間層として設けられた防水シート又は親水性フィルムを境にして微吸水面側に、良吸水面側に保持されている吸水性ポリマーと比較して吸水能力が低くかつ少ない量の吸水性ポリマーを保持していることを特徴とする請求項1の食肉包装体。」

V.甲号証の記載事項

本件出願の出願日前に頒布された甲第1号証及び甲第3乃至4号証刊行物には、以下の事項が記載されている。
甲第1号証:特開平7-257657号公報
(1-1)【請求項1】食品のドリップを吸収する吸液材を内蔵する吸液シートの外面の一部が透液性フィルムからなり、外面の他の少なくとも一部が半透液性フィルムからなり、この半透液性フィルムが、不透液性フィルムに開孔が形成されたものであり、この開孔の孔径が0.05mmないし0.5mmの範囲内に、かつその開孔率が0.01ないし0.4%の範囲に形成された吸液シート。
・・・
【請求項3】半透液性フィルムがポリエチレンフィルムまたはポリプロピレンフィルムに開孔が形成されたものである請求項1または2いずれかに記載の吸液シート。
・・・
【請求項7】食品を請求項1ないし6のいずれかに記載の吸液シートの半透液性フィルムの面に接触させ、非通気性フィルムで真空包装して保存する食品の保存方法。(特許請求の範囲)
(1-2)本発明の吸液シートに用いる半透液性フィルムは、水を全く通さない(不透液性)のではなく、制限された状態で少量の水を通すものであり、具体的には、食品包装用として許容し得る不透液性フィルムに本発明に従う特定の開孔が形成されたものである。(段落【0010】)
(1-3)・・・この開孔は、半透液性フィルムの全体にわたって均一に分布していることが好ましい。また、開孔の形状は、上記の孔径と開孔率の範囲内であれば特に限定されるものではない。・・・(段落【0012】) (1-4)本発明の吸液シートに用いる透液性フィルムは、透水性および耐水性があり、吸液材、特に粉末状の高分子吸水剤を漏洩しない程度の密度(孔径)を有し、好ましくはヒートシール性であり、かつ食品包装用として許容し得るものであれば一般に入手し得るいずれのものであってもよい。例えば、織布、編布、不織布からなる群のいずれかまたはその積層物から形成されたものであってもよく・・・(段落【0017】)
(1-5)また、半透液性フィルムおよび透液性フィルムがともにヒートシール性であって、かつ吸液シートのそれぞれ一方の面をなしていることが好ましい。双方のフィルムの周辺部をヒートシールすることにより、吸液シートの層間剥離を防止し、内蔵された吸液材などの漏洩を防ぐことができる。(段落【0019】)
(1-6)本発明の吸液シート1を用いて食肉、魚、魚肉などの食品を保存するには、好ましくはこの吸液シートの半透液性フィルム6の面を上に向け、この面に食品を接触させた状態で、輸送もしくは保存中に食品の底部に吸液シートの少なくとも一部分があるように配置して、非通気性フィルムで真空包装する。このとき使用する非通気性フィルムは、一般に食品の真空包装に使用されている非通気性フィルム、シュリンクフィルム等であればよい。また、このときの真空度は、食品と本発明の吸液シート1、非通気性フィルムが密着する程度以上あればよい。(段落【0032】)
(1-7)本発明の吸液シートは、吸液材を内蔵し、その外面に開孔の孔径が0.05mmないし0.5mmの範囲内、開孔率が0.01%ないし0.4%の範囲内にある半透液性フィルムを有するものであるので、食品をこの半透液性フィルムの面と接触させて保存するとき、食肉や魚などの食品から浸出するドリップをよく吸収して食品の接触面の変色や変質を防ぎ、しかも食品中の水分を吸収することがないので乾燥による食品の目減りや商品価値の低下が防止される。吸液シートの他の面は透液性フィルムからなるので、大量のドリップや解凍時の水分はこの面から速やかに吸収され、食品の変質が防止される。(段落【0058】)

甲第3号証:特公昭61-1295号公報
(3-1)生肉、加工肉、チーズその他の脂肪性食品の包装は食品の形状が不揃いであったり骨や各種付属物(例えばトレーなど)等の突起を含む場合が多く、形状が不規則なため工業的には熱収縮包装が最も簡便である。またこれ等の包装は長時間の保存期間が要求されるのでガスバリヤー性が必要である。このようにガスバリヤー性のある熱収縮フィルムとして、PVDC単独フィルム・・・エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下EVAと称す)とPVDCの積層フィルム・・・等がある。(公報第1頁第2欄18行〜第2頁第4欄7行)
(3-2)実施例1及び2には、変性ポリエチレン/EVA/PVDC/EVA/変性ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムが記載され、実施例3には中密度ポリエチレン/EVA/PVDC/EVA/中密度ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムが記載されており(公報第5頁第2表)、耐油性耐熱性の測定方法として、「95℃乃至沸騰水の熱水浴水面に故意に油を浮遊させ、真空包装のベーコンをその中に3秒間浸漬・・・」と記載されている。(公報第5頁第3表)

甲第4号証:特開平5-310273号公報
(4-1)【請求項1】少なくとも、基体に吸水性ポリマーを固着してなる吸水シートを不織布と防水フィルム間に挟持してなるドリップ吸収シートであって、該不織布の周縁部の少なくとも一部が、上記防水フィルムよりも外側に突出し且つ不織布と防水フィルムが点線状に或いは千鳥掛けで接着されていることを特徴とするドリップ吸収シート。
【請求項2】請求項1記載のドリップ吸収シートを、不織布の突出部が被包装物に接触するように、不織布を内側にして折り畳み、被包装物に接してバリヤー性を有する袋に詰め、脱気・密封することを特徴とする包装方法。
【請求項3】請求項1記載のドリップ吸収シートを用い、請求項2記載の包装方法により真空包装されたことを特徴とする包装体。(特許請求の範囲)
(4-2)しかしながら、真空包装工程においては、樹脂フィルムを加熱により収縮させるために、被包装物である肉類自体もわずかながら加熱され、ドリップを生じる。さらに、流通過程における温度変化によっても上記ドリップが生じる。・・・(段落【0003】)
(4-3)上述した従来のドリップ吸収シートを肉類の真空包装に用いる場合には、大型の吸収シートを用意し、被包装物全体を覆った上、真空包装用の袋に入れ、脱気・密封していた。そのため、被包装物の大きさに合わせた複数の大きさの吸収シートが必要、被包装物を吸収シートが開かないように袋に入れる作業が繁雑、吸収シートが空気を内包するため脱気に時間がかかる、透水性フィルムが多孔質の場合、吸水性ポリマーが直接被包装物に接触し、必要以上にドリップを吸収して被包装物表面を乾燥させると同時に旨味を吸収してしまう、包装後に外部から被包装物が見えない、などの問題点が有った。(段落【0006】)
(4-4)このように折り畳んだドリップ吸収シートはそのまま被包装物と共に真空包装用のバリヤー性を有する袋に詰め、通常の脱気・密封を行なうことにより、真空包装された包装体を得ることができる。包装体内において、ドリップは突出部のみに吸収され、部分接着部の間隙を通って毛細管現象により不織布の中央部へと浸透し、隣接する吸水シートに吸収される。(段落【0016】)
(4-5)・・・(B)折り畳んで用いるために、吸水能は従来と同じでも被包装物全体を覆わないため、脱気を短時間で行なうことができ、しかも外部から被包装物を見ることができるため鮮度を包装体のまま観察することができる。・・・(段落【0017】)

VI.当審の判断

1.本件発明1

本件発明1は、ドリップ吸収パッドの、食肉と接する面を微吸水性とし他面を良吸水面とすることにより、過剰に食肉の肉汁を吸収してしまうことがなく、食肉の品質低下を防止できると共に、真空包装時にドリップ吸収パッド内及び食肉の凹凸表面とドリップ吸収パッド間の空気も脱気しやすく、容易に包装体内を高度な脱気状態とすることができるものであり、更に、真空包装後にバリヤー性フィルムを加熱収縮させ、食肉に対してタイトにバリヤー性フィルムを密着させることにより、包装体内に余剰の空隙がほとんどない状態にでき、これによってドリップをドリップ吸収パッド部分に集中させることができ、他の箇所にドリップを留めることなく、効果的にドリップを吸収することができ、長期間にわたって食肉の鮮度を良好に維持することができるものである。
これに対して、甲第1号証刊行物(以下、「引用例」という。)には、上記記載事項から、「食肉のドリップを吸収する吸液材を内蔵する吸液シートの外面の一部が織布等の透液性フィルムからなり、外面の他の少なくとも一部が、不透液性フィルムに、孔径が0.05mmないし0.5mmの範囲内に、かつその開孔率が0.01ないし0.4%の範囲に形成された開孔が形成された半透液性フィルムからなり、双方のフィルムの周辺部がヒートシールされ、食肉を半透液性フィルムの面に接触させ、非通気性フィルムで真空包装して保存する食肉包装体」が記載されているといえる。
本件発明1と甲第1号証に記載された発明(以下、「引用例発明」という。)とを対比する。
後者の「開孔が形成された半透液性フィルム」は、上記記載事項(1-1)及び(1-7)のとおり、ポリエチレンフィルムまたはポリプロピレンフィルム製であって、食肉のドリップを吸収する吸液材を内蔵する吸液シートの外面の一部をなすものであり、食肉から浸出するドリップをよく吸収して接触面の変色や変質を防ぎ、しかも食肉の水分を吸収することがないものであるから、前者の「表面材がスリットを有する合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面吸水性を有する微吸水面」に相当する。
次に、後者の「織布等の透液性フィルム」は、上記記載事項(1-1)及び(1-7)のとおり、食肉のドリップを吸収する吸液材を内蔵する吸液シートの外面の一部をなすものであり、大量のドリップや解凍時の水分を吸収するものであるから、前者の「表面材が親水性の繊維シートで構成された良吸水性を有する良吸水面」に相当する
そして、上記記載事項(1-5)のとおり、後者の半透液性フィルムおよび透液性フィルムはともにヒートシール性であって、かつ吸液シートのそれぞれ一方の面をなし、双方のフィルムの周辺部をヒートシールすることにより、吸液シートの層間剥離を防止し、内蔵された吸液材などの漏洩を防ぐことができるものであるから、後者の「開孔が形成された半透液性フィルム」と「織布等の透液性フィルム」は、夫々前者の、「ドリップ吸収パッドの片面が、表面材が合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面」と「他面が、表面材が親水性の繊維シートで構成された良吸水性を有する良吸水面」に相当する。
また、後者の「非通気性フィルム」は、上記記載事項(1-6)のとおり、食品の真空包装に使用されている非通気性フィルム、シュリンクフィルム等であるから、前者の「バリヤー性フィルム」に相当する。
そうすると、両者は、「吸収剤シートと、この吸収剤シートを表裏から囲繞する表面材とから構成されたドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で、食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体において、ドリップ吸収パッドの片面が、表面材が合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面、他面が、表面材が親水性の繊維シートで構成された良吸水性を有する良吸水面となっており、ドリップ吸収パッドの表裏の表面層の周縁を封止するヒートシールが形成されており、食肉がドリップ吸収パッドの微吸水面と接して包装され、真空包装されている食肉包装体。」である点で一致しており、(a)前者がバリヤー性フィルムについて、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムと特定し、真空包装後更に加熱収縮されているのに対して、後者にその旨特定されていない点、(b)前者がドリップ吸収パッドの表裏の表面層の周縁を封止するヒートシール又は接着ラインが断続的に形成されているのに対して、後者にその旨特定されていない点、(c)微吸水面について、前者がスリットを有する合成樹脂フィルムで構成されているのに対して、後者は不透液性フィルムに開孔が形成されたものである点で、両者は相違している。
そこで、これらの相違点について検討する。

(1)相違点(a)について
引用例発明も、上記記載事項(1-6)のとおり、食肉と吸液シートと非通気性フィルムが密着することを目的として、一般に食品の真空包装に使用されている非通気性フィルム、シュリンクフィルム等で食肉を真空包装するものである。
ここで、食肉包装において、シュリンクフィルムにより、真空包装後に加熱収縮させて食肉をタイトに包装することは周知のことであるから(必要なら、甲第3号証及び特開平2-60543号公報参照。)、引用例発明において、食肉と吸液シートと非通気性フィルムをより密着させるために、シュリンクフィルムを使用して真空包装後に加熱収縮させて食肉をタイトに包装することに格別の困難性は認められず、それを妨げる特段の理由も見出せない。
そして、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムは、シュリンクフィルムとして周知のものであるから(必要なら、甲第3号証或いは参考資料1参照)、引用例発明において、シュリンクフィルムとして甲第3号証の実施例1〜3で使用されたガスバリヤー性の熱収縮フィルムを選択・使用することは当業者にとって格別困難なことではなく、それを選択することにより予期し得ない効果を奏するものでもない。
被請求人は、答弁書において、「真空・加熱収縮包装と特定のドリップ吸収パッドを組み合わせることは当業者が容易に着想できない」旨主張しているが、食肉包装において、シュリンクフィルムにより、真空包装後に加熱収縮させて食肉をタイトに包装することは、前記のとおり周知のことであるから、被請求人の主張は採用できない。

(2)相違点(b)について
引用例発明も、上記記載事項(1-7)のとおり、半透液性フィルムと透液性フィルムにより、食肉から浸出するドリップを効率的に吸収するものである。
ここで、甲第4号証には、上記記載事項(4-1)のとおり、引用例発明と同様の基体に吸水性ポリマーを固着してなるドリップ吸収シートにおいて、不織布と防水フィルムとを点線状に或いは千鳥掛けで接着することが記載され、上記記載事項(4-4)のとおり、それをそのまま被包装物と共に真空包装用のバリヤー性を有する袋に詰め、通常の脱気・密封を行なうことにより、真空包装された包装体を得ることができ、ドリップは突出部のみに吸収され、部分接着部の間隙を通って毛細管現象により不織布の中央部へと浸透し、隣接する吸水シートに吸収されることが記載されているから、引用例発明において、更にドリップの吸収性を向上せしめるために、甲第4号証に記載された技術を適用して、ドリップ吸収パッドの表裏の表面材の周縁を封止するヒートシールを断続的に形成することは、当業者が容易になし得るところである。
ところで、甲第4号証に記載された発明は、上記記載事項(4-4)のとおり、包装体内において、ドリップを突出部のみで吸収し、部分接着部の間隙を通って毛細管現象により不織布の中央部へと浸透し、隣接する吸水シートに吸収することを主目的とするものではあるが、一方、上記記載事項(4-3)のとおり、従来のドリップ吸収シートを肉類の真空包装に用いる場合に、吸収シートが空気を内包するため脱気に時間がかかるなどの問題点が有ったことをも課題とし、上記記載事項(4-5)のとおり脱気を短時間で行なうことができるものであるから、本件発明1の「真空包装する際に、断続的なヒートシール又は接着ライン11間の隙間からも、ドリップ吸収パッド内及び食肉の凹凸表面とドリップ吸収パッド間の空気も脱気しやすく、容易に包装体内を高度な脱気状態とすることができる」という効果も、甲第4号証に記載された発明から当業者が予期しうるものである。

(3)相違点(c)について
本件発明1において、スリットは、過剰に食肉の肉汁を吸収しない程度の微吸水性を付与するためのものであり、引用例発明においても上記記載事項(1-5)のとおり、開孔は食肉中の水分を吸収することなくドリップを吸収するためのものであるから、両者の機能は共通する。
そして、引用例発明においても、上記記載事項(1-2)のとおり、開孔の形状は限定されるものでもなく、スリットは開孔の形状として通常のものであるから、引用例発明の開孔に代えてスリットとすることに格別の困難性はなく、それにより予想外の効果を奏するものではない。
また、引用例発明も、上記記載事項(1-6)のとおり、食肉と吸液シートと非通気性フィルムが密着することを目的とするものであるから、本件発明1の、真空包装時にドリップ吸収パッド1内及び食肉2の凹凸表面とドリップ吸収パッド1間の空気も脱気しやすく、容易に包装体内を高度な脱気状態とすることができるという効果も引用例発明から当業者が予期しうる程度のものである。
被請求人は、答弁書において、「特定の孔径の開孔を多数形成するのに対して、スリットの形成の方が加工が極めて簡便であることは自明である。」旨主張しているが、まさに「スリットの形成の方が加工が極めて簡便であること」は自明の効果にすぎず、予想外の効果とすることはできない。

以上のとおり、本件発明1の(1)真空包装時にドリップ吸収パッド内及び食肉の凹凸表面とドリップ吸収パッド間の空気も脱気しやすく、容易に包装体内を高度な脱気状態とすることができる、(2)包装体内に余剰の空隙がほとんどない状態にでき、これによってドリップをドリップ吸収パッド部分に集中させることができ、他の箇所にドリップを留めることなく、効果的にドリップを吸収することができる、(3)過剰に食肉の肉汁を吸収してしまうことがなく、食肉の品質低下がないという効果も、前記のとおり、甲第1号証及び甲第3乃至4号証刊行物に記載された発明及び周知技術から当業者が予期し得るものであり、格別のものとすることはできない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第3乃至4号証刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.本件発明2

本件発明2は、本件発明1において吸収剤シートの微吸水面側の表面が親水性フィルムであるカバー材で覆われているものである。
本件発明2については、本件明細書には、「微吸水面側である表面材5aは、図1〜図3の例で説明した表面材5aと同様に、孔又はスリット付合成樹脂フィルムや疎水性の繊維シートとすることもできる。このようにすると、孔又はスリット付合成樹脂フィルム又は疎水性の繊維シートと、上記親水性フィルムとの両者によって、微吸水面側の吸水性の調整を行うことができる。」(段落【0028】)と記載されており、実施例2として「C:ドリップ吸収パッド 図4に示されるドリップ吸収パッド1におけるドリップ誘導シート8を基材6cの内側に配置したもので、両表面材5a,5b共にポリエステル系不織布、カバー材9としては硫酸加工パーチメント紙を用い、周囲のシールを3条の断続点状シールとした以外は実施例1と同様とした。良吸水面は、実施例1と同じ吸水性を有していた。微吸水面は、同様に生理食塩水1ccをこぼした時に、表面材5aとカバー材9との間に残り、約10分経過しても吸収できなかったが、ガラス板で面圧を加えると80秒で吸収できる吸水性を有していた。」(段落【0046】)と記載されているが、実施例は親水性のポリエステル系不織布繊維シートと上記親水性フィルムであるカバー材を併用したものであって、本件発明2に係る、微吸水性のスリット付合成樹脂フィルムと上記親水性フィルムであるカバー材との両者を併用した具体的実施例は記載されていない。
本件発明2に係る、微吸水性スリット付合成樹脂フィルムと上記親水性フィルムであるカバー材との両者を併用することの技術的意義は必ずしも明らかではないが、段落【0028】に記載のとおり、補助的に微吸水面側の吸水性の調整を行うものであるものと解される。
しかしながら、微吸水性は既にスリット付合成樹脂フィルムにより得られているのであるから、それに加えて、単に補助的に微吸水面側の吸水性の調整を行うために吸収剤シートの微吸水面側の表面に親水性フィルムであるカバー材を設けることは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎず、それにより格別な効果を奏するものでもない。
したがって、本件発明2も、本件発明1と同様の理由で、甲第1号証及び甲第3乃至4号証刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.本件発明3

本件発明3は、本件発明1において吸収剤シートが、中間層として設けられた防水シート又は親水性フィルムを境にして微吸水面側に、良吸水面側に保持されている吸水性ポリマーと比較して吸水能力が低くかつ少ない量の吸水性ポリマーを保持しているものである。
本件発明3については、本件明細書には、「本例におけるドリップ吸収パッド1の両表面材5a,5bは、図4の例と同様に、いずれも親水性の繊維シートで構成されている。また、吸収剤シート4の基材6a,6b間に挟まれた吸収剤7a,7bは、中間層10として設けられた防水シート又は親水性フィルムによって微吸水性面側と良吸水性面側に分れている。」(段落【0030】)、「本例における吸収剤7a,7bは、その吸水能力及び付設量が異なるものとなっている。微吸水性面側である吸収剤7aは、良吸水面側の吸収剤7bに比して吸水能力が低く、しかも少量の付設されている。これに対して良吸水性面側の吸収剤7bは、吸水能力に優れ、しかも多量に付設されている。即ち、本例においては、吸収剤7a,7bの吸水能力及び付設量によって微吸水面と良吸水面が構成されるものとなっている。」(段落【0031】)、「微吸水面側である表面材5aは、図1〜図3で説明した例と同様に、孔又はスリット付合成樹脂フィルムや疎水性の繊維シートとすることもできる。このようにすると、孔又はスリット付合成樹脂フィルム又は疎水性の繊維シートと、上記親水性フィルムとの両者によって、微吸水面側の吸水性の調整を行うことができる。」(段落【0033】)と記載されており、具体的実施例はないが、吸収剤シートが、中間層として設けられた防水シート又は親水性フィルムを境にして微吸水面側に、良吸水面側に保持されている吸水性ポリマーと比較して吸水能力が低くかつ少ない量の吸水性ポリマーを保持することの技術的意義は、補助的に吸水性の調整を行うものであるものと解される。
しかしながら、微吸水性は既に、スリット付合成樹脂フィルム又は疎水性の繊維シートにより得られ、良吸収性は既に、親水性の繊維シートで構成された良吸水面により得られているのであるから、それに加えて、単に補助的に夫々の面の吸水率に応じて吸水性ポリマーの吸水能力を調整することは当業者が、適宜なし得るところであり、その際に、吸収剤シートが、中間層として設けられた防水シート又は親水性フィルムを境にして微吸水面側に、良吸水面側に保持されている吸水性ポリマーと比較して吸水能力が低くかつ少ない量の吸水性ポリマーを保持しているものとすることは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎず、それにより格別な効果を奏するものでもない。
したがって、本件発明3も、本件発明1と同様の理由で、甲第1号証及び甲第3乃至4号証刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VII.むすび

以上のとおり、本件請求項1乃至3に係る発明の特許は、本件出願の出願日前に頒布された甲第1号証及び甲第3乃至4号証刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、他の無効理由について判断するまでもなく、本件請求項1乃至3に係る発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
食肉包装体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】吸収剤シートと、この吸収剤シートを表裏から囲繞する表面材とから構成されたドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で、食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体において、ドリップ吸収パッドの片面が、表面材がスリットを有する合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面、他面が、表面材が親水性の繊維シートで構成された良吸水性を有する良吸水面となっており、ドリップ吸収パッドの表裏の表面材の周縁を封止するヒートシール又は接着ラインが断続的に形成されており、食肉がドリップ吸収パッドの微吸水面と接して包装され、しかもバリヤー性フィルムが、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムであって、真空包装後更に加熱収縮されていることを特徴とする食肉包装体。
【請求項2】吸収剤シートの微吸水面側の表面が親水性フィルムであるカバー材で覆われていることを特徴とする請求項1の食肉包装体。
【請求項3】吸収剤シートが、中間層として設けられた防水シート又は親水性フィルムを境にして微吸水面側に、良吸水面側に保持されている吸水性ポリマーと比較して吸水能力が低くかつ少ない量の吸水性ポリマーを保持していることを特徴とする請求項1の食肉包装体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば牛肉、豚肉、鶏肉等の食肉の包装体に関する。更に詳しくは、食肉の鮮度保持を目的として、食肉から発生するドリップを吸収するドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で、食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、食肉から発生するドリップ等を吸収するドリップ吸収パッドを、吸収剤シートと、この吸収剤シートを表裏から囲繞する表面材とから構成し、一方の表面材を非透液性シート、他方の表面材を透液性シートとすると共に、非透液性シート側が食肉に接するようにして、ドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体が知られている(特公平5-83214号公報)。
【0003】
ところで、一般的なドリップ吸収パッドは、特公平2-28716号公報に記載されているように、両面共に同等の吸水性を有するものである。即ち、当該公告公報に開示されているように、紙又は不織布である2層の基材間に吸水性ポリマー等を挟み込ませたドリップ吸収パッドを、表裏共に不織布とした表面材又は片面を透孔付合成樹脂フィルムとした表面材で包み込んだもので、表裏共に同等の吸水性を有するものとなっている。
【0004】
上記従来の食肉包装体では、両面が同等の吸水性を有する一般的なドリップ吸収パッドを用いると、ドリップ吸収パッドが過剰に肉汁を吸い出してしまい、食肉の品質低下を招くことから、食肉との接触面を非透液性シートで構成し、食肉と接触しない透液性シート側からドリップを吸収するようにしたドリップ吸収パッドを用いているものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、食肉の真空包装体は、ドリップの発生を抑制すると共に、経時的に内部に気泡を生じた古い商品であるとの誤認を避ける上で、バリヤー性フィルムをできるだけタイトに食肉に密着させ、内部に隙間や気泡を残さないことが好ましい。
【0006】
しかしながら、上記従来の食肉包装体には、このようなタイトな真空包装体とする場合において、次のような問題がある。
【0007】
(1)タイトな真空包装体とするためには、真空包装時に、食肉の下に敷き込まれているドリップ吸収パッド内の空気も十分に脱気する必要がある。しかし、従来の包装体に用いられているドリップ吸収パッドの片面は非透液性シートで、通気性もほとんどないことから、ドリップ吸収パッド内を十分に脱気しにくく、ドリップ吸収パッド内に残存する空気が徐々に漏れ出てくることで、包装体内に気泡を生じやすい。また、食肉は脱骨等による凹凸を有することから、食肉の凹部とドリップ吸収パッド間に空気を抱き込みやすく、これも気泡の発生原因となる。
【0008】
(2)食肉の下に敷き込まれているドリップ吸収パッドは、バリヤー性フィルムが食肉にタイトに密着するほど周縁部が食肉側に引っ張られ、食肉に対して凹状となる。従来の包装体に用いられているドリップ吸収パッドの食肉側の面は非透液性で、当該面からはドリップの吸収がされないため、凹状となったドリップ吸収パッド上にドリップが溜まりやすい問題がある。ドリップ吸収パッド上にドリップが溜って常に食肉と接触していると、食肉の変色や腐敗が早まる結果となる。
【0009】
(3)従来の包装体におけるドリップの吸収は、ドリップ吸収パッドの非透液面に流れ出たドリップが、ドリップ吸収パッドの裏面側(食肉との非接触面側)に回り込むことで行われる。しかし、タイトな真空包装とすると、このドリップの回り込み自体が生じにくく、ドリップがドリップ吸収パッド上に溜まりやすくなる。
【0010】
本発明は、上記のような従来の問題点に鑑みてなされたもので、ドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体において、タイトな真空包装体としやすく、しかもタイトな真空包装体としても、食肉の肉汁を過剰に吸収させることなく、食肉のいずれの表面から発生したドリップでも発生部分に留まらせることなく確実に吸収することができるようにすることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このために本発明では、吸収剤シートと、この吸収剤シートを表裏から囲繞する表面材とから構成されたドリップ吸収パッドを敷き込んだ状態で、食肉をバリヤー性フィルムで真空包装した食肉包装体において、ドリップ吸収パッドの片面が、表面材がスリットを有する合成樹脂フィルムで構成された微吸水性を有する微吸水面、他面が、表面材が良吸水性を有する親水性の繊維シートで構成された良吸水面となっており、ドリップ吸収パッドの表裏の表面材の周縁を封止するヒートシール又は接着ラインが断続的に形成されており、食肉がドリップ吸収パッドの微吸水面と接して包装され、しかもバリヤー性フィルムが、ポリエチレン/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体/ポリエチレンの層構成を有する積層フィルムであって、真空包装後更に加熱収縮されていることを特徴とする食肉包装体としているものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1〜図3に基づいて本発明に係る食肉包装体の一例を説明する。
【0013】
図1及び図2に示されるように、本包装体は、ドリップ吸収パッド1を敷き込んだ状態で、食肉2をバリヤー性フィルム3でタイトに真空包装したものとなっている。特にドリップ吸収パッド1の食肉2との接触面側は、微吸水性を有する微吸水面、食肉2との非接触面側は良吸水性を有する良吸水面となっている。
【0014】
ここで、本発明において微吸水性とは、ドリップ吸収パッド1の片面に、室温下で、0.9重量%の塩化ナトリウムを含有する生理食塩水を1ccこぼした時に、後述する吸収剤に吸収するまでに10分以上を要するが、ガラス板で面圧を加えると2分以内に吸収できる吸水性をいう。また、良吸水性とは、同様に生理食塩水をこぼした時に、20秒以下で、後述する吸収剤にほぼ吸収する吸水性をいう。
【0015】
ドリップ吸収パッド1は、通常使用されているものと同様に、吸収剤シート4と、この吸収剤シート4を表裏から囲繞する表面材5a,5bとから構成されている。特に本例におけるドリップ吸収パッド1においては、微吸水面側の表面材5aが多数の孔又はスリットを有する合成樹脂フィルム又は疎水性の繊維シート、良吸水面側の表面材5bが親水性の繊維シートで構成されている。即ち、本例においては、表面材5aが多数の孔又はスリットを有する合成樹脂フィルム又は疎水性の繊維シートであることによって、当該表面材5a側が微吸水性面となっており、表面材5bが親水性の繊維シートであることによって、当該表面材5b側が良吸水性面となっているものである。
【0016】
上記微吸水性面をもたらす表面材5aである孔又はスリット付合成樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル等、非透水性の一般的合成樹脂フィルムを広く用いることができる。この合成樹脂フィルムに設ける孔又はスリットは、前述した微透水性が得られるよう、その大きさ及び数を調整する。また、疎水性の繊維シートとしては、例えば撥水加工を施したポリエステル、アクリロニトリル、ポリプロピレン等の合成繊維の不織布を用いることができる。この場合、前述した微透水性が得られるよう、撥水加工の程度を調整すればよい。更に、良透水性面をもたらす表面材5bである親水性の繊維シートとしては、例えばパルプシート、レーヨン紙等の紙類や、ポリエステル、アクリロニトリル、ポリプロピレン等の合成繊維の不織布で、必要に応じて親水性加工を施したものを用いることができるが、必要な強度が得やすく、しかもヒートシールによって容易に封止できることから、合成繊維の不織布が好ましい。
【0017】
次に、吸収剤シート4について説明すると、本例における吸収剤シート4は従来から使用されているものと同様のもので、図3に示されるように、親水性の繊維シートで構成された3層の基材6a,6b,6c間に粉粒状の吸収材7a,7bを挾示させ、更に片面(良吸水面側)にやはり親水性の繊維シートで構成されたドリップ誘導シート8を設けたものとなっている。
【0018】
上記基材6a,6b,6cを構成する親水性の繊維シートとしては、前述の表面材5bと同様に、例えばパルプシート、レーヨン紙等の紙類や、ポリエステル、アクリロニトリル、ポリプロピレン等の合成繊維の不織布で、必要に応じて親水性加工を施したものを用いることができるが、吸水性に優れることから、紙類が好ましい。図示される吸収剤シート4は、3層の基材6a,6b,6c間に2層に分けて吸収剤7a,7bを挟持させたものとなっているが、2層の基材6a,6bのみとして、両者間に1層の吸収剤7aを挟持させたものとしたり、更に多層の基材6a,6b,6c,……を設けて、3層以上に分けて吸収剤7a,7b,……を挟持させたものとすることもできる。
【0019】
本例における2層の吸収剤7a,7bはほぼ同様の性能を有するもので、例えばアクリル酸(塩)ブロック共重合体、架橋ポリアクリル酸(塩)、変性ポリビニルアルコール等から構成される吸水性ポリマー又はシリカゲル、活性アルミナ、酸化カルシウム等の吸水剤や、これに活性炭、ハロゲン化カーボン、酸性白土、ケイソウ土、ゼオライト等のガス吸着剤を混合したものを用いることができる。これらの吸着剤7a,7bは、例えば合成ゴムラテックス、アクリル系エマルジョン等のバインダーを用いて基材6a,6b,6c間に付設しても良いが、バインダーを用いることなく、少量の水を含有させた基材6a,6b,6c間に吸収剤7a,7bを挟み、ピンチロールを通して各層間に圧力を加えて圧着させることでも、吸収剤7a,7bの脱落を防止することができる。
【0020】
図示されるドリップ誘導シート8は、通常、紙類や綿状パルプで構成されるものである。ドリップ誘導シート8は、基材6a,6b,6c,に比して吸水性に優れたもで、ドリップを吸収剤シート4内に取り込みやすくするためのものである。このドリップ誘導シート8は必須のものではないが、ドリップを取り込みやすくする上で設けることが好ましい。また、ドリップ誘導シート8は、基材6cの内側に配置してもドリップの吸収促進を図ることができ、特にドリップ誘導シート8として綿状パルプを使用する場合、繊維片の脱落防止のために、基材6cの内側に配置することが好ましい。
【0021】
本包装体は、上述のようなドリップ吸収パッド1を敷き込んだ状態で、食肉2をバリヤー性フィルム3で覆って真空包装したものである。真空包装は、良好な脱気状態を得る上で、高い真空度下で行う程好ましいといえるが、現実的には1torr〜10torrの真空度下で行うことが好ましい。食肉の水分が真空下では絶えず蒸発してくるので1torrよりも高い真空度を得るのは設備的な負担が大きく、また10torrよりも真空度が下がると脱気が不十分となりやすい。
【0022】
本発明においては、単なる真空包装ではなく、真空包装した後、バリヤー性フィルム3を更に加熱収縮させたものとなっている。このようにすると、加熱収縮によって食肉2とバリヤー性フィルム3との密着力が増大して更にタイトな包装体となり、バリヤー性フィルム3のしわや、シール部付近に残存する隙間を無くすことができる。従って、しわやシール部付近の隙間へのドリップの滞留を防止でき、またバリヤー性フィルム3がタイトに食肉2に密着することで、この密着面からのドリップの発生を抑制すると同時に発生したドリップをドリップ吸収パッド1付近に集中させることができる。
【0023】
バリヤー性フィルム3としては二軸延伸フィルムが用いられるが、加熱収縮による食肉2との良好な密着状態を得る上で、縦・横共に20%以上収縮させるに必要な75℃において、ASTM・D-2838-69に基づく収縮応力が、縦・横共に20g/5mm幅以上であることが好ましい。また、加熱収縮は、通常、温水に浸漬させることで行われるが、この時に食肉2に悪影響を与えないよう、上記収縮応力が100℃以下の温水、特に75〜85℃の温水への10秒以内(好ましくは5秒以内)の浸漬で得られることが好ましい。
【0024】
良好なバリヤー性、加熱収縮性及び高い強度を得る上で、ポリエチレン(PE)/エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)/ポリ塩化ビニリデン系樹脂/エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)/ポリエチレン(PE)の層構成を有する積層フィルムをバリヤー性フィルム3として用いることが好ましい。当該積層フィルムにおいて、ポリエチレン層はヒートシール層であり、エチレン-酢酸ビニル共重合体層は接着層、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層はバリヤー層である。また、ポリ塩化ビニリデン系樹脂としては、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)の他、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体等であってもよい。また、収縮応力が増大することから、電子線照射加工が施されていることが好ましい。
【0025】
次に、本発明で用いるドリップ吸収パッド1の第2の例について図4で説明する。
【0026】
基本的には図1〜図3で説明したものと同様であるが、本例におけるドリップ吸収パッド1の表面材5a,5bはいずれも親水性の繊維シートで構成されており、しかも吸収剤シート4の微吸収面側の表面は、親水性フィルムであるカバー材9で覆われている点で図1及び図2で説明したものとは相違している。即ち、本例においては、吸収剤シート4の片面が親水性フィルムであるカバー材9で覆われていることで、当該カバー材9側が微吸水性面となっているものである。
【0027】
上記カバー材9として用いる親水性フィルムとしては、例えばポバール系フィルム、ナイロン系フィルム等の親水性合成樹脂フィルム、セロファンフィルム等のセルロース系フィルム、硫酸加工パーチメント紙等の耐水性紙を用いることができる。これらの親水性フィルムは、前述の微透水性が得られるよう、厚みや親水性度等が調整されるものである。また、表面材5a,5bを構成する親水性の繊維シートは、図1〜図3の例で説明した表面材5bの構成材料と同様である。
【0028】
微吸水面側である表面材5aは、図1〜図3の例で説明した表面材5aと同様に、孔又はスリット付合成樹脂フィルムや疎水性の繊維シートとすることもできる。このようにすると、孔又はスリット付合成樹脂フィルム又は疎水性の繊維シートと、上記親水性フィルムとの両者によって、微吸水面側の吸水性の調整を行うことができる。
【0029】
本発明で用いるドリップ吸収パッド1の第3の例について図5で説明する。
【0030】
本例におけるドリップ吸収パッド1の両表面材5a,5bは、図4の例と同様に、いずれも親水性の繊維シートで構成されている。また、吸収剤シート4の基材6a,6b間に挟まれた吸収剤7a,7bは、中間層10として設けられた防水シート又は親水性フィルムによって微吸水性面側と良吸水性面側に分れている。
【0031】
本例における吸収剤7a,7bは、その吸水能力及び付設量が異なるものとなっている。微吸水性面側である吸収剤7aは、良吸水面側の吸収剤7bに比して吸水能力が低く、しかも少量の付設されている。これに対して良吸水性面側の吸収剤7bは、吸水能力に優れ、しかも多量に付設されている。即ち、本例においては、吸収剤7a,7bの吸水能力及び付設量によって微吸水面と良吸水面が構成されるものとなっている。
【0032】
中間層10として用いる防水シート又は親水性フィルムとしては、例えば防水紙、非透水性の合成樹脂フィルム、又は、ポバール系フィルム、ナイロン系フィルム、セロファンフィルム、硫酸加工パーチメント紙等を用いることができる。
【0033】
微吸水面側である表面材5aは、図1〜図3で説明した例と同様に、孔又はスリット付合成樹脂フィルムや疎水性の繊維シートとすることもできる。このようにすると、孔又はスリット付合成樹脂フィルム又は疎水性の繊維シートと、上記親水性フィルムとの両者によって、微吸水面側の吸水性の調整を行うことができる。
【0034】
更に、本発明で用いるドリップ吸収パッド1周囲のヒートシール又は接着ライン11について図5で説明する。
【0035】
吸収剤シート4を表裏から囲繞している表面材5a,5bは、その周縁部がヒートシール又は接着されているが、このヒートシール又は接着ライン11は、図6(a)〜(c)に示されるように、千鳥状や基盤目状不連続角点シール等の断続的なものとすることが好ましい。このようにすると、このドリップ吸収パッド1を敷き込んだ状態で食肉2(図1参照)を真空包装する際に、断続的なヒートシール又は接着ライン11間の隙間からも、ドリップ吸収パッド1中の空気を脱気することができ、高度な脱気状態が得やすくなり、かつ周辺部からのドリップ誘引吸収効果も向上する。また、ヒートシール又は接着ライン11間の隙間は、例えば千鳥状にする等、形状や大きさを調整することで、万一吸収材シート4から吸収剤7a,7b(図2参照)が離脱しても、外部への飛び出しを阻止することができる。
【0036】
【実施例】
実施例1
A:食肉の種類
約9.1kgの内股部位の和牛ブロック生肉とした。
【0037】
B:バリヤー性フィルム
PE/EVA/PVDC/EVA/PEの層構成で、インフレーション延伸(縦・横共に4.1倍)された厚み60μmのチューブ状積層延伸フィルム(旭化成工業社製「バリアロンS」)を、直径450mm、長さ800mmのバッグに製袋して用いた。
【0038】
C:ドリップ吸収パッド
図3に示されるドリップ吸収パッド1におけるドリップ誘導シート8を基材6cの内側に配置したもので、微吸水面側の表面材5aとしてはスリット入りポリプロピレンフィルム、良吸水面側の表面材5bとしてはポリエステル系不織布、基材6a,6b,6cとしてはレーヨン紙、ドリップ誘導シート8としては綿状パルプを用いた。また、吸収剤7aとしては、三洋化成社製の吸水性ポリマー「サンウエット(M5000D)」(VORTEX法での吸水速度3秒、付設量1.9g/枚)、吸収剤7bとしては、荒川化学社製の吸水性ポリマー「アラソープ800A」(VORTEX法での吸水速度6秒、付設量1.5g/枚)を用いた。ドリップ吸収パッド1の大きさは、幅130mm、長さ360mmで、収納されている吸収剤シート4の大きさは幅100mm、長さ310mmとした。良吸水面は、0.9重量%の塩化ナトリウムを含む生理食塩水を1ccこぼした時に、5秒で吸収できる吸水性を有していた。微吸水面は、同様に生理食塩水1ccをこぼした時に、30分経過しても吸収できなかったが、ガラス板で面圧を加えると60秒で吸収できる吸水性を有していた。
【0039】
D:包装手順
上記和牛ブロック生肉の赤身部分に上記ドリップ吸収パッドの微吸水面を当てて上記バリヤー製フィルムの袋に入れ、大型真空包装機(古川製作所製「FVM-4WII」)により、真空度2.0torr下で真空包装した。真空包装後、真空包装体を80℃の温水に2秒間浸漬することでバリヤー製フィルムを加熱収縮させた。
【0040】
上記条件で得られた包装体を、温水から取り出した直後に観察したところ、肉の表面に、凹凸に沿ってバリヤー性フィルムがタイトに密着しており、脱気及び密着状態ともに良好で、残存気泡は認められなかった。
【0041】
包装体を0℃の低温冷蔵庫に2週間保管し、外部から観察したところ、バリヤー性フィルムの肉との良好な密着が保たれており、気泡の発生は認められなかったと共に、ドリップ吸収パッドにドリップが吸収されている他、他の箇所でのドリップの滞留は認められなかった。包装体を開封してドリップ吸収パッドと肉の間を観察したところ、この箇所での残留ドリップは認められなかった。また、開封時の異臭も全く感じることがなく、肉の色も良好に保たれていた。ドリップ吸収パッドの重量増加量は165gであった。
【0042】
包装開始時と、上記2週間保管後の夫々について肉の細菌状態を調べた結果は表1に示す通りで、細菌数の増大はほとんど認められなかった。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例2
A:食肉の種類
約5.5kgのサーロイン部位の和牛ブロック生肉とした。但し、バッグサイズは直径400mm、長さ900mmとした。
【0045】
B:バリヤー性フィルム
実施例1と同じとした。
【0046】
C:ドリップ吸収パッド
図4に示されるドリップ吸収パッド1におけるドリップ誘導シート8を基材6cの内側に配置したもので、両表面材5a,5b共にポリエステル系不織布、カバー材9としては硫酸加工パーチメント紙を用い、周囲のシールを3条の断続点状シールとした以外は実施例1と同様とした。良吸水面は、実施例1と同じ吸水性を有していた。微吸水面は、同様に生理食塩水1ccをこぼした時に、表面材5aとカバー材9との間に残り、約10分経過しても吸収できなかったが、ガラス板で面圧を加えると80秒で吸収できる吸水性を有していた。
【0047】
D:包装手順
実施例1と同じとした。
【0048】
上記条件で得られた包装体を0℃の低温冷蔵庫に2週間保管し、外部から観察したところ、バリヤー性フィルムの肉との良好な密着が保たれており、気泡の発生は認められなかったと共に、ドリップ吸収パッドにドリップが吸収されている他、他の箇所でのドリップの滞留は認められなかった。包装体を開封してドリップ吸収パッドと肉の間を観察したところ、この箇所での残留ドリップは認められなかった。また、開封時の異臭も全く感じることがなく、肉の色も良好に保たれていた。
【0049】
比較例1
A:食肉の種類
約9.0kgの内股部位の和牛ブロック生肉(実施例1の肉と同一和牛の対応部位)とした。
【0050】
B:バリヤー性フィルム
ナイロン/EVOH/PEの層構成の厚み100μmの非収縮性筒状フィルムを、直径450mm、長さ800mmのバッグに製袋して用いた。
【0051】
C:ドリップ吸収パッド
片面の表面材をポリプロピレンフィルム(非透液性)、他面の表面材をポリエステル系不織布(透液性)とし、その内側に、2枚のレーヨン紙の基材間に吸収剤を挟持させた吸収剤シートが収納されたドリップ吸収パッド1を用いた。吸収剤としては、荒川化学社製の吸水性ポリマー「アラソープ800A」(VORTEX法での吸水速度6秒、付設量3.5g/枚)を用いた。
【0052】
D:包装手順
ドリップ吸収パッドの非透液性面を肉の赤身部分に当ててバリヤー性フィルムの袋に収納して真空包装し、得られた真空包装体を温水に漬ける代わりに熱風トンネル(180℃、3秒)に通して熱処理し、肉に接していないバリヤー性フィルム部分をセルフヒートシールすることで空隙を減少させた以外は実施例1と同じとした。
【0053】
上記条件で得られた包装体を0℃の低温冷蔵庫に2週間保管し、外部から観察したところ、バリヤー性フィルムに小じわが発生しており、この小じわ部分へのドリップの滞留が認められた他、本来ドリップが発生しない脂肪部分上へのドリップの移行も認められた。包装体を開封して肉の表面を観察したところ、肉の表面へのドリップの付着が認められ、またこの肉の表面に残るドリップには気泡が多数観察された。更に、ドリップ吸収パッドと肉の間を観察したところ、特にドリップ吸収パッドの中央部には吸収されないドリップの滞留が認められた。また、開封時に異臭を感じると共に、肉の変色も認められた。ドリップ吸収パッドの重量増加量は50.1gであった。
【0054】
【発明の効果】
本発明は、以上説明した通りのものであり、次の効果を奏するものである。
【0055】
(1)本発明で用いるドリップ吸収パッド1は、食肉2と接する面が、微吸水性を有し、良吸水性面ほどではないにしろ通気性を有するので、食肉2と接する面を非透液性にした場合に比して、真空包装時にドリップ吸収パッド1内及び食肉2の凹凸表面とドリップ吸収パッド1間の空気も脱気しやすく、容易に包装体内を高度な脱気状態とすることができる。
【0056】
(2)真空包装後にバリヤー性フィルム3を加熱収縮させることで食肉2に対してタイトにバリヤー性フィルム3を密着させていることから、包装体内に余剰の空隙がほとんどない状態にでき、これによってドリップをドリップ吸収パッド1部分に集中させることができ、他の箇所にドリップを留めることなく、効果的にドリップを吸収することができる。従って、長期間に亙って食肉2の鮮度を良好に維持することができる。
【0057】
(3)ドリップ吸収パッド1の食肉2との接触面は、吸水性を有するとはいえ微吸水性であるので、過剰に食肉の肉汁を吸収してしまうことがなく、食肉2の品質低下がない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る食肉包装体の各構成材料を示す斜視図である。
【図2】
本発明に係る食肉包装体の断面図である。
【図3】
図1及び図2におけるドリップ吸収パッドを模式的に示す拡大図である。
【図4】
本発明に用いるドリップ吸収パッドの第2の例を模式的に示す拡大断面図である。
【図5】
本発明に用いるドリップ吸収パッドの第3の例を模式的に示す拡大断面図である。
【図6】
本発明に用いるドリップ吸収パッド周縁のヒートシール又は接着ラインの形状例を示す図である。
【符号の説明】
1 ドリップ吸収パッド
2 食肉
3 バリヤー性フィルム
4 吸収剤シート
5a 表面材
5b 表面材
6a 基材
6b 基材
6c 基材
7a 吸収剤
7b 吸収剤
8 ドリップ誘導シート
9 カバー材
10 中間層
11 ヒートシール又は接着ライン
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-07-05 
結審通知日 2005-07-07 
審決日 2005-07-21 
出願番号 特願平9-52741
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A23B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 村上 騎見高  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 田中 久直
鵜飼 健
登録日 2004-08-13 
登録番号 特許第3584384号(P3584384)
発明の名称 食肉包装体  
代理人 渡邉 敬介  
代理人 渡邉 敬介  
代理人 林 篤史  
代理人 山口 芳広  
代理人 小澤 信彦  
代理人 山口 芳広  
代理人 大家 邦久  
代理人 渡邉 敬介  
代理人 山口 芳広  

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