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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1126541
審判番号 不服2002-7697  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-02 
確定日 2005-11-11 
事件の表示 平成10年特許願第224698号「ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月22日出願公開、特開2000- 51396〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・平成10年 8月 7日 本件出願
・平成12年 4月26日 審査請求
・平成13年10月18日付け 手続補正書の提出
・平成13年11月12日付け 原審にて拒絶理由の通知
・平成14年 1月21日付け 意見書及び手続補正書の提出
・平成14年 3月27日付け 原審にて拒絶査定
・平成14年 5月 2日付け 本件審判請求
・平成14年 5月30日付け 手続補正書の提出
・平成15年10月15日付け 当審にて拒絶理由の通知
・平成15年12月19日付け 意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は平成15年12月19日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「コアと、このコアを包囲する二層以上の層からなる中間層と、該中間層を被覆する熱可塑性樹脂を主材とするカバーとを備えたゴルフボールにおいて、上記コアがゴム基材を主成分とし、該コアの直径が28〜38mm、該コアの100kg荷重負荷時の変形量が3.0mm以上、カバーの比重が0.95〜1.1であると共に、上記中間層の少なくとも一層が、樹脂成分と、この樹脂成分100重量部に対して無機充填剤10〜38重量部とを含有したものであり、かつカバー硬度がカバーと接する中間層より高硬度であることを特徴とするゴルフボール。」

第3 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
平成15年10月15日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平8-299497号公報(以下、「引用例1」という。)には、次のア〜サの記載が図示と共にある。
ア.「最内芯と、この最内芯に少なくとも1層以上の中間層を被覆した複数層構成のソリッドコアに、カバーを被覆してなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記ゴルフボールのボール比重が1.0〜1.1g/cm3であると共に、100kg荷重時のゴルフボールのたわみ量をAmm、上記最内芯のたわみ量をBmmとしたとき、B/A=1.2〜1.7であり、かつカバーの硬度を最内芯の硬度より大きくしたことを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。」(【請求項1】参照。)
イ.「最内芯の100kg荷重時のたわみ量が3.0〜6.0mmであり、ゴルフボールの100kg荷重時のたわみ量が2.5〜4.0mmである請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。」(【請求項3】参照。)
ウ.「以下、本発明につき更に詳しく説明すると、本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、ボール比重、ボール硬度、最内芯硬度及びカバー硬度が上記範囲内であることにより、最内芯と中間層からなる2層構造のソリッドコアをカバーで被覆してなるスリーピースソリッドゴルフボール、更にはソリッドコアが3層、4層等のマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、低ヘッドスピードでも飛距離増大が図られ、フィーリングが更に良好となり、耐久性を向上させることができるものである。」(段落【0009】参照。)
エ.「この場合、上記B/Aの比率範囲において、Bの値、即ちコア最内芯のたわみ量は3.0〜6.0mm、特に3.3〜5.5mmの範囲が好ましい。たわみ量が3.0mmより小さいと打感が悪くなり、一方、6.0mmより大きいと反発性が得られず、飛距離が低下する場合がある。一方、ゴルフボールのたわみ量Aは、2.5〜4.0mm、特に2.6〜3.7mmの範囲が好ましい。たわみ量が2.5mmより小さいと打感が悪く、ボールが吹き上がってしまい、飛距離の低下をまねく。一方、4.0mmより大きいとボールの反発性が得られず、飛距離が低下する場合がある。」(段落【0013】参照。)
オ.「なお、最内芯の直径は、設ける中間層数により異なるが、中間層が1層のスリーピースソリッドゴルフボールの場合には通常32〜37mm、中間層が2層のフォーピースソリッドゴルフボールの場合には通常25〜35mmが好ましい。同様に最内芯の重量は、スリーピースソリッドゴルフボールの場合には通常17.5〜28.0g、フォーピースソリッドゴルフボールの場合には通常8.3〜23.5g程度が好ましい。」(段落【0014】参照。)
カ.「また、最内芯を被覆する中間層は、スリーピースソリッドゴルフボールの場合、ショアーD硬度は30〜55度程度であり、中間層が内層及び外層の2層からなるフォーピースソリッドゴルフボールの場合には、中間内層のショアーD硬度は通常55〜75mm程度、中間外層のショアーD硬度は通常30〜55mm程度に形成される。」(段落【0015】参照。)
キ.「次に、ソリッドコアを被覆するカバーは、上記最内芯より高硬度に形成され、好ましくはショアーDで50以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは60〜70に形成される。カバー硬度が小さすぎると、ゴルフボールの打撃による反発性が劣化し、スピン量が増加する上、打出角度が高くなりすぎるため、ボールが吹き上がって失速し、十分な飛距離が得られない。また、カバー硬度が大きすぎると、カバーが硬くなりすぎてゴルフボールの耐久性を劣化させる原因になることがある。」(段落【0016】参照。)
ク.「なお、カバー材料は特に制限されず、公知のカバー材料を用いることができるが、アイオノマー樹脂、特にリチウムサーリンやこれを含むサーリン混合物を主材としたもので形成することが、本発明の目的を達成する上で最も好ましい。」(段落【0018】参照。)
ケ.「更に詳述すると、本発明のゴルフボールに用いられるソリッドコアの最内芯は、通常の方法により加硫条件、配合比等を調節することにより得られる。通常、コアの配合には基材ゴム、架橋剤、共架橋剤、不活性充填剤等が含まれる。基材ゴムとしては従来からソリッドゴルフボールに用いられている天然ゴム及び/又は合成ゴムを使用することができるが、本発明においては、シス構造を少くとも40%以上有する1,4-ポリブタジエンが特に好ましい。この場合、所望により該ポリブタジエンに天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等を適宜配合してもよい。」(段落【0020】参照。)
コ.「また、中間層は、スリーピースゴルフボールのようにソリッドコアが最内芯と1層の中間層の場合には、最内芯は上記と同様の材料で形成し、中間層もこれと同様のゴム材料又はアイオノマー樹脂等の樹脂材料を用い、最内芯上に圧縮成形又は射出成形することによって形成することができる。更に、中間層が2層以上の場合にも同様の方法で形成することができる。」(段落【0025】参照。)
サ.「一方、カバーは、上記特性のアイオノマー樹脂を主材として形成するが、この場合かかる特性を得るため、2種以上のアイオノマー樹脂を組合せて用いることもできる。また、必要により、アイオノマー樹脂にチタン白等の公知の添加剤を配合することもできる。なお、カバーをソリッドコアに被覆する方法は特に制限されず、通常は予め半球殻状に成形した2枚のカバーでコアを包み、加熱加圧成形するか、カバー用組成物を射出成形してコアを包みこんでもよい。」(段落【0026】参照。)

2.引用例1記載の発明の認定
したがって、引用例1には、次のような発明が記載されているものと認める。
「最内芯と、この最内芯を被覆する2層以上の層からなる中間層と、該中間層を被覆するアイオノマー樹脂を主材とするカバーとを備えたゴルフボールにおいて、上記最内芯がゴム基材を主成分とし、該最内芯の直径が25〜35mm、該最内芯の100kg荷重負荷時の変形量が3.0〜6.0mmであると共に、上記中間層がアイオノマー樹脂であり、かつカバーのショアD硬度が60〜70mmで、中間層が内層及び外層の2層からなる場合の中間外層のショアD硬度が30〜55mmであることを特徴とするゴルフボール。」(以下、「引用発明1」という。)

3.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1の「最内芯」は、本願発明の「コア」に相当し、
引用発明1の「アイオノマー樹脂」は、本願発明の「熱可塑性樹脂」の一種であり、
引用発明1の最内心の直径「25〜35mm」は、本願発明のコアの直径「28〜38mm」に一部包含され、
引用発明1の最内芯の100kg荷重負荷時の変形量「3.0〜6.0mm」は、本願発明の「3.0mm以上」に包含され、
引用発明1のカバーは中間外層より高硬度である。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「コアと、このコアを包囲する二層以上の層からなる中間層と、該中間層を被覆する熱可塑性樹脂を主材とするカバーとを備えたゴルフボールにおいて、上記コアがゴム基材を主成分とし、該コアの直径が28〜35mm、該コアの100kg荷重負荷時の変形量が3.0mm以上であると共に、上記中間層の少なくとも一層が、樹脂成分であり、かつカバー硬度がカバーと接する中間層より高硬度であることを特徴とするゴルフボール。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
(1)相違点1
本願発明のカバーの比重が0.95〜1.1であるのに対し、引用発明1ではその点が明らかでない点。
(2)相違点2
本願発明の中間層の少なくとも一層の樹脂成分100重量部に対して無機充填剤10〜38重量部を含有したものであるのに対し、引用発明1ではその点が明らかでない点。

4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
本願明細書に「従来から、カバー材に無機充填剤を添加するという技術は数多く提案されている(特公平5-73427号公報、特開平6-277312号公報、特開昭57-25867号公報、同60-210272号公報等)。中でも、特開平6-277312号公報には、「上記チタン白、硫酸バリウム充填材のカバー中への充填量は、アイオノマー樹脂100重量部に対して2種合わせてカバー材として比重1.01〜1.15の範囲で、7〜25重量部使用する。好ましくは、比重1.03〜1.10(充填量8〜15重量部)である。」(段落【0014】参照。)と記載されているだけでなく、「1.01より比重が小さいと、慣性モーメントの増大効果が小さいため、ゴルフボールの飛距離の改良効果は少なく、1.15より大きすぎるとカバー材に要求される耐打撃、耐切断性、耐久性が低下して反発弾性も小さくなるために好ましくない。カバーにチタン白と硫酸バリウムを打撃耐久性を損なわない範囲で多く配合することにより、ボール内での重量分布をコア中心からカバー側にシフトさせ、ボール自体の慣性モーメントを大きくして飛行中のスピンの減衰を抑制し、その結果、打撃時における初期スピンがかかり難くなり、飛距離を大きくすることができた。」(段落【0014】及び【0018】参照。)とあるとおり、カバー材に無機充填剤を添加し飛距離を大きくしようとすることは技術常識である。
ここで、当審における拒絶の理由に引用した特開平10-127822号公報(以下、「引用例2」という。)には、「本発明のカバーは上記ジアミン錯体アイオノマー樹脂を主成分とする…カバーの厚み、比重等は本発明の目的を達成し得る範囲で適宜調整することができ、厚みは1.0〜2.5mm、特に1.3〜2.1mm、比重は0.90〜1.30、特に0.95〜1.20とすることができる。」(段落【0021】及び【0023】参照。)と記載され、また、当審における拒絶の理由に引用した特開平9-10358号公報(以下、「引用例3」という。)には、「カバー材として通常使用されるアイオノマー樹脂を主材として…比重は0.9〜1.0、特に0.92〜0.99であることが好ましい。」(段落【0020】及び【0023】参照。)と記載されているだけでなく、段落【0039】【表2】には本発明の実施例及び比較例としてアイオノマー樹脂を主材とする外層(本願発明のカバーに相当)の比重が0.97の例しか記載されていないから、熱可塑性樹脂の一種であるアイオノマー樹脂を主材とするカバーにおいてカバーの比重を0.95〜1.1とすることは、ゴルフボールの規定内における常識的な選択であり設計的事項というよりほかない。
よって、比重が0.95〜1.1であるカバーを採用し、相違点1に係る本願発明を構成することは、当業者が容易に想到し得るものであると言わざるを得ない。
(2)相違点2について
上述のカバー材に無機充填剤を添加し飛距離を大きくしようとすることと同様、ボールの慣性モーメントを増加させ、飛距離性能を向上させようとすることも技術常識である。
というのも、ボールの慣性モーメントを増加させるべく、中間層の重量(比重)を調整することは、ゴルフボールとしてごく当たり前の選択手段であるばかりか、本願出願時点において周知の技術手段(以下、「周知技術」という。)である(例えば、当審における拒絶の理由に引用した上記引用例3(段落【0018】参照。)、特開平10-151226号公報(段落【0026】参照。)、特開平10-151225号公報(段落【0027】参照。)、特開平10-127822号公報(段落【0024】参照。)、特開平10-179798号公報(特に、段落【0017】「中間層外層(3)にはその他に重量調整剤として、無機充填材(具体的には、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム)、高比重充填材(例えば、タングステン粉末、モリブデン粉末等)およびそれらの混合物を添加してもよい。」参照。)。
してみると、ゴルフボールの規定を勘案して、飛距離を大きくすべく中間層の少なくとも一層の樹脂成分100重量部に対して無機充填剤10〜38重量部とすることは当業者にとって何ら困難性はない。
これらを総合すれば、中間層の少なくとも一層の樹脂成分100重量部に対して無機充填剤10〜38重量部とを含有したものを採用し、相違点2に係る本願発明を構成することは当業者にとって容易に想到し得るものであると言わざるを得ない。
(3)本願発明の進歩性の判断
相違点1及び相違点2に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、設計的事項であるか当業者にとって容易に想到し得るものであり、これら発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることができない。
したがって、本願発明は引用発明1から引用例3に記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本願発明は特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-06 
結審通知日 2005-09-07 
審決日 2005-09-27 
出願番号 特願平10-224698
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬津 太朗一宮 誠  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 津田 俊明
藤本 義仁
発明の名称 ゴルフボール  
代理人 小島 隆司  
代理人 重松 沙織  
代理人 小林 克成  

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