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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1126662
審判番号 不服2003-13219  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-07-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-10 
確定日 2005-11-10 
事件の表示 平成10年特許願第365830号「空気中不純物の測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年7月4日出願公開、特開2000-187026〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本願は、平成10年12月24日の出願であって、平成15年6月10日に拒絶の査定がなされ、これに対し、同年7月10日に不服の審判の請求がなされるとともに、同年7月29日付けで手続補正がなされたものである。

[2]平成15年7月29日付け手続補正についての補正却下の決定
〔結論〕
平成15年7月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
〔理由〕
(2-1)
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに補正するとともに、これと整合をとるべく明細書の【0009】段落の記載を補正するものである(下線は、本件補正における補正箇所)。

「【請求項1】 クリーンルーム内空気中不純物モニタリング装置で不純物濃度測定に用いるイオンクロマトアナライザーでの空気中不純物の測定方法において、空気中の不純物を捕集した吸収液を該イオンクロマトライザーに所定量注入したときのクロマトグラムと該不純物を捕集していない吸収液を該イオンクロマトライザーに所定量注入したときのクロマトグラムとの差からウォータディップを低減するための差クロマト処理を行ない、上記所定量を500μl以上で且つ、1000μl以下にしたことを特徴とする、空気中不純物の測定方法。」

上記下線に係る補正は、本件補正前に記載のあった「差クロマト処理」を行なう目的ないし効果を「ウォータディップを低減する」ことに限定し明確化するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当し、また、出願当初明細書の【0025】ないし【0028】に記載された事項であるから、特許法第17条の2第3項の規定(新規事項追加の禁止)にも適合している。

次に、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について検討する。

(2-2)刊行物

<刊行物1>
原査定の拒絶の理由で引用した特開平6-117977号公報(以下「刊行物1」という。)には、「気体捕集装置」に関し、次の事項が図表とともに記載されている。

「【0002】
【従来の技術】半導体工場においては、クリーンルーム内で種々の薬液が使用され・・・その薬液からガスが揮散する時がある。揮散するガスは・・・クリーンルーム内の雰囲気中の不純物となる。・・・対象元素は、金属全般やふっ酸、塩酸・・・等から揮散するイオン性不純物であり、これらは半導体に何らかの悪影響を及ぼす。そこで、これらの不純物量を正確に評価することが重要であるが、そのためには、雰囲気中の不純物を確実に捕集する必要がある。
・・・
【0004】次に、雰囲気を溶液(吸収液)に捕集させた後に、その溶液中に溶解した不純物を分析する溶解法がある。この溶解法は吸収液を入れた吸収管に試料雰囲気を通気して、目的成分を捕集する手法である。・・・図3の捕集装置では、吸引ポンプ4がインピンジャー20内に負圧を生じさせて・・・吸収液2中に雰囲気を導入し、雰囲気を気泡にして吸収液2中に不純物を溶解させる。以下、この捕集装置による不純物捕集法をバブリング法という。
・・・
【0006】このバブリング法を用いると、不純物に適合した溶液(・・・)を吸収液に選択することにより、かなり容易にかつ正確に雰囲気中の不純物を分析することができる。対象元素が・・・イオン性不純物の場合は純水を吸収液に用いる。また、雰囲気中の不純物を吸収液で捕集する方法には、他に、非常に簡易な方法として、純水溶液を雰囲気中に放置するだけで捕集する方法があり、これを溶液放置法という。ここで、図3に示す捕集装置による溶解法(バブリング法)と溶液放置法とで雰囲気中のイオン性不純物を捕集した際の捕集量の比較を表1に示す。
【0007】
【表1】(・・・)
なお、この場合、A,B異なる場所(クリーンルーム内)においてバブリング法と溶液放置法により、同時に8時間、雰囲気の捕集を行った。また、各イオン性不純物の分析はイオンクロマトアナライザで行った。
【0008】表1の分析結果から分かるように、アンモニア以外はバブリング法の方が・・・良好な結果が得られている。・・・これに対して、アンモニアに関しては溶液放置法の方が良好な結果を示していると考えられている。」

<刊行物2>
原査定の拒絶の理由で引用した特開平10-206409号公報(以下「刊行物2」という。)には、「半導体設備内の環境分析用イオンクロマトグラフィーシステム」に関し、次の事項が図面とともに記載されている。

「【0002】
【従来の技術】半導体装置は・・・その製造のためには・・・清浄な環境が必要である。従って、半導体装置の製造設備では、設備内の環境を正常にするためにクリーンルーム等の設備を設け・・・異物質ガスや微粒子を厳しく管理している。・・・
【0003】半導体装置の製造環境における大気中の異物質を管理する方法の1つが、イオンクロマトグラフィーを使用する方法である。この方法は、必要なターゲット位置の空気を捕集し、インピンジャー(・・・)装置の容器内の純水等の吸収液に通過させ、この過程で吸収液に溶解したガス成分のイオンをイオンクロマトグラフィーで検査し、大気中に異物質成分があるかを確認する。
・・・
【0009】大気を捕集して試料を作成する方式は、大略2つタイプに分けられる。その中の1つ(図示せず)は、入口が広い容器に吸収液を入れて、設備内の一定位置に一定時間放置し、該当位置の大気が自然に吸収液に溶けこむように構成した単純型である。
【0010】他の1つは、図5のように・・・大気中の可溶成分が吸収液に溶けこむように構成された大気押送式のインピンジャー装置を利用するものである。」

すなわち、刊行物1及び刊行物2には、それぞれ、従来技術として「半導体工場のクリーンルーム内の雰囲気中の不純物量を評価するために、バブリング法又は溶液放置法により雰囲気を吸収液に捕集させた後、その溶液中に溶解した各イオン性不純物の分析をイオンクロマトアナライザで行うこと」、「半導体装置の製造設備のクリーンルームにおける空気を純水等の吸収液に一定時間の放置又は大気押送式により捕集し、この過程で吸収液に溶解したガス成分のイオンをイオンクロマトグラフィーで検査し、大気中に異物質成分があるかを確認すること」が記載されているから、本件出願当時、次の技術的事項が周知であったと認められる。

「半導体製造関連施設におけるクリーンルーム内の空気中の不純物を吸収液に捕集した後、該吸収液中に溶解したイオン性不純物の分析をイオンクロマトライザーにて行うこと」

(2-3)対比・判断
本願補正発明と刊行物1や刊行物2に記載された上記周知技術(以下「刊行物1又は2に記載された発明」という。)とを対比すると、
後者における「クリーンルーム内の空気中の不純物の吸収液への捕集」及び「該不純物のイオンクロマトアナライザーでの分析」を行う装置は、前者における『クリーンルーム内空気中不純物モニタリング装置』を構成することは明らかであり、
後者においても、イオンクロマトアナライザーにて分析する際、クリーンルーム内の空気中の不純物を捕集した吸収液を『所定量』だけ注入し、『クロマトグラム』を得るものであることは、イオンクロマトアナライザーの測定原理からして自明であるから、両者は、

(一致点)
「クリーンルーム内空気中不純物モニタリング装置で不純物濃度測定に用いるイオンクロマトアナライザーでの空気中不純物の測定方法において、空気中の不純物を捕集した吸収液を該イオンクロマトライザーに所定量注入したときのクロマトグラムを得ることを特徴とする空気中不純物の測定方法。」

である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
『不純物を捕集した吸収液』のみならず、本願補正発明では、『不純物を捕集していない吸収液』についてのクロマトグラムも取得し、『ウォータディップを低減するための差クロマト処理』を行なうのに対し、
刊行物1又は2に記載された発明では、かかる『差クロマト処理』を必ずしも行うものではない点。

<相違点2>
吸収液をイオンクロマトライザーに注入する際の『所定量』が、本願補正発明では『500μl以上で且つ、1000μl以下』なのに対し、
刊行物1又は2に記載された発明では、『所定量』が明らかでない点。

上記相違点1について検討する。
クロマト分析において、被測定物質の有無以外は同一とした分析条件下でブランク試験を行ってクロマトグラムを得、被測定物質の存在下で得られたクロマトグラムとの間で差クロマト処理を行ってベースライン変動の影響を除去することは周知(例えば、原査定の拒絶理由で示された、特開昭54-41797号公報、実願昭54-75774号〔実開昭55-175862号〕のマイクロフィルム、及び、新たに挙げる特開昭60-209172号公報の第1,3図を参照)であるから、同じくクロマト分析である刊行物1又は2に記載された発明において、上記周知の『差クロマト処理』を行うようにすることに困難はなく、その際、イオンクロマト分析にあっては、被測定物質である『空気中の不純物』を『吸収液』に捕集させた上で分析を行うものである以上、『不純物を捕集した吸収液』と『不純物を捕集していない吸収液』についてのクロマトグラムとの間での差クロマト処理を行うようにすることは当然である。
そして、刊行物1又は2に記載された発明において、上記周知の『差クロマト処理』を行うようにした場合には、『不純物を捕集した吸収液』と『不純物を捕集していない吸収液』の各クロマトグラムに、ウォーターディップを含むベースラインが現れることは明らかであるから(特開昭59-151049号公報の第4図及び第5図を参照)、両者による差クロマト処理により、ウォーターディップを含むベースラインの変動分が相殺される結果、『ウォータディップの低減』という作用効果が得らこともまた明らかである。

上記相違点2ついて検討する。
吸収液をイオンクロマトライザーに注入する際の『所定量』を如何なるものとするかは、検出ないし測定しようとする不純物の濃度レベル、該不純物の吸収液への捕集条件ないし捕集方法、分離カラムの種類ないし大きさ等を考慮して当業者が適宜に決定し得べき事項(例えば、特開平4-299255号公報の段落【0005】の記載を参照)であるから、刊行物1又は2に記載された発明におけるイオンクロマトアナライザーへの試料注入量を『500μl以上で且つ、1000μl以下』とすることは、当該クリーンルームにおいて発生し得る不純物の濃度レベルや吸収液への捕集条件、分離カラムの種類等を勘案して当業者が適宜に選択し得たものである。
この点、請求人は、審判請求書において、上記数値限定の臨界的意義について、下限に関し、半導体クリーンルームの不純物の中で最も少ない塩素を、本願発明に記載の捕集条件において、濃縮カラム法を用いることなく精度良く測定し得るものであり、上限に関し、分離カラムへの負担が大きくなりイオンクロマトアナライザーの長期間に亘る安定的な使用が不可能になる試料量の下限値である、という旨主張しているが、上記のとおり、イオンクロマトアナライザーへの試料注入量はかかる観点を考慮して当業者において決定されるべきものであるし、そもそも請求項には、クリーンルームの種類、当該クリーンルームにおいて発生し得る不純物の種類や濃度レベル、捕集条件、分離カラムの種類等を限定する記載はないから、上記数値限定に臨界的意義を認めることができないことは明らかである。

また、請求人は、上記刊行物1には、検出時間が遅いアンモニアをイオンクロマトアナライザーの濃縮カラム法を用いて分析する方法が記載されているにすぎない、上記刊行物2記載の発明は、塩素やフッ素の検出を、大容量の吸収液を注入しないサンプルループ法や濃縮カラム法を用いて検出するものにすぎない、周知例として挙げた上記特開昭54-41797号公報、実願昭54-75774号〔実開昭55-175862号〕のマイクロフィルムには、イオンクロマトアナライザーでの不純物の測定方法について一切記載されていない旨主張しているが、かかる主張は、本願補正発明と上記各刊行物との相違を個々に挙げるのみで、刊行物に記載の各技術的事項を組み合わせることの困難性ないし阻害要因についての立証を伴うものではないから、上記容易性の判断を左右するものではない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1又は2に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2-4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[結論]のとおり決定する。

[3]本願発明について

(3-1)本願発明
上記のとおり、平成15年7月29日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明は、同年5月21日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1の記載は次のとおりである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】 クリーンルーム内空気中不純物モニタリング装置で不純物濃度測定に用いるイオンクロマトアナライザーでの空気中不純物の測定方法において、空気中の不純物を捕集した吸収液を該イオンクロマトライザーに所定量注入したときのクロマトグラムと該不純物を捕集していない吸収液を該イオンクロマトライザーに所定量注入したときのクロマトグラムとの差から差クロマト処理を行ない、上記所定量を500μl以上で且つ、1000μl以下にしたことを特徴とする、空気中不純物の測定方法。」

(3-2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2の記載事項及びこれより把握される周知の技術的事項は、上記(2-2)に記載したとおりである。

(3-3)対比・判断
本願発明は、本願補正発明における「差クロマト処理」について、「ウォータディップを低減する」という目的ないし効果に関する限定を省いたものであるから、本願補正発明が、上記(2-3)に記載した理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-4)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1又は2に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願は、他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-08 
結審通知日 2005-09-13 
審決日 2005-09-27 
出願番号 特願平10-365830
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 櫻井 仁
長井 真一
発明の名称 空気中不純物の測定方法  
代理人 仲倉 幸典  
代理人 山崎 宏  
代理人 前田 厚司  

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