ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41B |
---|---|
管理番号 | 1126673 |
審判番号 | 不服2002-9497 |
総通号数 | 73 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-10-17 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-05-27 |
確定日 | 2005-11-11 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第537060号「柔らかい布状のバックシートを有する吸収物品」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 5月22日国際公開、WO98/20822、平成12年10月17日国内公表、特表2000-513602]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成8年11月8日を国際出願日とする出願であって、その請求項1乃至請求項13に係る発明は、平成14年5月27日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至請求項13に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。 「トップシート、バックシート、およびトップシートとバックシートとの間に位置決めされた吸収コアを有する収容組立体を備えた使い捨て吸収物品であって、バックシートが、吸収物品の最外部分に位置決めされ、吸収物品の最外部分の少なくとも一部を覆うための不織布ウェブを有する使い捨て吸収物品において、バックシートが、約11.0以下のコシの風合い値と、約5.0〜約7.0のシャリの風合い値と、約0.5以下のフクラミの風合い値とを有していることを特徴とする使い捨て吸収物品。」 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である平成6年5月12日に頒布された特表平6-503983号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。 a.「本発明の吸収体物品は、液体透過性の上シートと、この上シートに接合された液体不透過性の後シートと、上シートと後シートとの間に位置決めされた吸収体コアとを有する。」(第4頁左下欄第11-14行)、 b.「最も好ましい実施例では、後シート36は二層からなる。第2図の実施例では、後シート36は後シート36の下着側36b上に配置されたロフテッド材料でできた第1層38を有する。第1層38の目的は、着用者の身体に刺激のない快適な表面を提供することである。第1層38は、不織材料のような適当な材料でできているのがよい。好ましくは、第1層38は、疎水性の不織材料でできている。液体不透過性フィルムでできているのがよい第2層40が後シート36のコアに面する側36a上に配置されている。・・・低密度ポリエチレン材料がこの第2層40として優れている。・・・後シート36は、上シート34と比べて疎水性の軟質の布のような材料でつくられているのがよい。ポリエステル又はポリオレフィンの繊維でできた後シート36が特に優れていることがわかった。特に好ましい軟質の布のような後シート36の材料は、・・・ポリエステル不織材料とフィルムとの積層体である。」(第8頁左上欄第17行-同右上欄第14行)、 c.「後シート36は、コアに面する側36a及び下着側36bを有する。」(第7頁右下欄第5-6行)。 3.対比・判断 本願発明と引用例に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比すると、両者はいずれも「柔らかい布状のバックシートを有する吸収物品」である点で同じである。そして、引用発明の「上シート」、「後シート」、「吸収体コア」は、それぞれ本願発明の「トップシート」、「バックシート」、「吸収コア」に相当する。 さらに、本願発明のバックシートに相当する引用発明の後シートは、吸収物品の最外部分に位置決めされ(上記2.c項参照)、吸収物品の最外部分の少なくとも一部を覆うための不織布ウェブを有するものである(上記2.b項参照)。 そうすると、本願発明と引用発明とは、本願発明の用語を用いて記載すると、 「トップシート、バックシート、およびトップシートとバックシートとの間に位置決めされた吸収コアを有する収容組立体を備えた使い捨て吸収物品であって、バックシートが、吸収物品の最外部分に位置決めされ、吸収物品の最外部分の少なくとも一部を覆うための不織布ウェブを有する使い捨て吸収物品。」において一致し、本願発明が、 「バックシートが、約11.0以下のコシの風合い値と、約5.0〜約7.0のシャリの風合い値と、約0.5以下のフクラミの風合い値とを有している」のに対し、引用発明には、バックシートのコシの風合い値、シャリの風合い値、フクラミの風合い値についての具体的な言及がない点で相違する。 そこで、相違点について検討する。 引用発明のバックシート(後シート36)は、不織材料のような適当な材料でできていて、着用者の身体に刺激のない快適な表面を提供するためには、疎水性の軟質の布のような材料でつくられているのがよいとされている(上記の2.b参照)から、引用発明にはバックシートの風合い値についての具体的な言及はないが、バックシートの材料として表面の滑らかさと柔らかさを提供する快適な使い心地の不織ウェブを用いたものである点で、本願発明と同じである ところで、織物に関する基本的な風合い用語であるコシ、シャリ及びフクラミは、本願発明の記載を引用すると、「コシの風合い値は、バックシートの曲げ剛性に関する感触を示している。弾力のある性質は、この感触を促進する。・・・シャリの風合い値は、バックシートのパリパリした粗い表面から得られる感触を示している。・・・フクラミの風合い値は、バックシートの嵩張って潤沢に形成された感触から得られる感触である。」(本願明細書(以下、「明細書」という。)第14頁第15-22行)とされている。 まず、コシの風合い値について検討する。 コシの風合い値は上記の記載のとおりバックシートの曲げ剛性と密接な関係をもつとされるが、本願発明のバックシートの曲げ剛性値について、所定の測定方法(明細書第17頁下から4行-第10行の記載参照)により、測定された曲げ剛性値Bは、対数換算値logBで、Xi’=-1.644となる(明細書第22頁の第II表中の特性(曲げ)の欄参照)。 しかしながら、曲げ剛性値として、-1.6程度のものは本願出願前周知である(例えば、特開平4-300546号公報参照。同公報には、本願発明と同じKES-FB試験機を用いて測定した不織布の曲げ剛性値が表1に示されており、その表1に記載された実施例5の曲げ特性値を、本願発明の値と比較するために、対数換算すると、-1.658となり、明細書第22頁の第II表における曲げ剛性値B-1.644とほぼ同じであることがわかる。) してみると、本願発明のコシの風合い値に影響を及ぼす最も大きなファクタである曲げ剛性値から見て、本願発明のバックシートのコシの風合い値は、従来の不織布と同程度であって、格別顕著な数値であるとはいえない。 次にシャリの風合い値について検討する。 明細書において、「シャリの風合い値は、パリパリした粗い表面から得られる感触」(明細書第14頁第18行参照)と記載されているとおり、シャリ感を決める重大なファクターは、摩擦係数の平均値(MIU)であり、なめらかさ(MMD)である。 シャリ感は、言い換えれば「ドライ感」ともいえる。(シャリ感の定義については、例えば、特開平5-179558号公報、特開平5-44166号公報等参照。) ここで、シャリ感について、明細書には、MIUのデータのみ示されているので、MIUをシャリの風合い値を左右する重要なファクターとして議論する。 一般に、不織布における当該MIUの値が少ないほど、よりなめらかな触感を得られるものであり、本願発明のバックシートのMIUは約0.21以下の値であるとされている。 しかしながら、一般に不織布において、MIUの値が約0.21以下であるものは本願出願前周知の値であって格別なものではない(例えば、特開平5-179558号公報の段落【0033】には、MIUが0.26より少ないことが、特開平6-65848号公報の段落【0021】には、MIUの値として、0.15-0.3の数値が、特開平6-128852号公報の表1には、MIUの値として0.18が示されている)。 してみれば、本願発明のバックシートの摩擦係数の平均値(MIU)が、従来の不織布のもつ摩擦係数の平均値(MIU)と差異がない上に、MIUが0.21以下である不織布は、すべりやすくなめらかである特性を有することからして、当該MIUと密接な関係をもつ本願発明のシャリの風合い値も、従来周知の数値範囲に収まることは自明のことであって、格別なものではない。 そして、フクラミの風合い値について検討する。 フクラミの風合い値は、バックシートの嵩張って潤沢に形成された感触から得られる感触であるとされ(明細書第14頁第20行参照)、一般に、肌触り、暖かさや柔らかさを示す指標である。 一般に、肌に直接触れるバックシートの風合いを改善し、バックシートの素材を、柔らかさや肌触りをよい感触を与える風合いのよいものを選択することは、当業者が適宜行っているところである。それを数値化したものが本願発明であるが、上記のコシ及びシャリの風合い値が従前の不織布とさしたる差異がないことからして、フクラミの風合い値を数値化したところで、格別の意味があるものとはいえない。 出願人は、審判請求書において、「本願発明は、使い捨て吸収物品の従来は主観的にしか判断できなかった好ましい肌触り感を特定するために、客観的な数値によって規定できる『コシの風合い値』、『シャリの風合い値』、『フクラミの風合い値』なる指標を用いたものである。これらの指標は服地の業界で使用されていたのは事実であるが、使い捨て吸収物品と服地の業界とでは、市場、製造技術、製造者、消費者による使用、製品に対する要求が異なり、単純に服地の技術分野の指標を使い捨て吸収物品の技術分野を適用することはできない。」旨主張している。 しかしながら、本願出願前より、使い捨て吸収物品の「コシの風合い値」、「シャリの風合い値」、「フクラミの風合い値」を、本願発明と同じカトー・テクノロジー社の測定装置を用いて測定することが、一般に広く知られており、織物のみならず、紙類においても、その風合い値を測定することが知られている。そして、上記したとおり、周知の「不織布の曲げ剛性値」、「摩擦係数の平均値(MIU)」に照らしてみても、本願発明の当該数値は格別顕著なものでない。 してみれば、本願発明と引用発明のバックシートは、いずれもバックシートの材料として表面の滑らかさと柔らかさを提供する快適な使い心地の不織布を用いるものであり、引用発明にはバックシートの風合い値についての具体的な記載はないが、周知の技術手段を参照すると、実質的に両者は同じ範囲の風合い値を有するものといえる。そして、本願発明は、織物の風合い値を、単に不織布に転用したにすぎないものであって、格別顕著な困難性があるものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明において、周知の風合い値から適当な値を単に抽出したにすぎないものであって、その数値限定自体に格別な意味があるものとはいえない。 4.むすび したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 それゆえ、本願は他の請求項に係る発明について判断するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-01-05 |
結審通知日 | 2004-01-06 |
審決日 | 2004-01-19 |
出願番号 | 特願平9-537060 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A41B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 水野 治彦 |
特許庁審判長 |
鈴木 公子 |
特許庁審判官 |
山崎 豊 松縄 正登 |
発明の名称 | 柔らかい布状のバックシートを有する吸収物品 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 名塚 聡 |
代理人 | 森 秀行 |
代理人 | 岡田 淳平 |
代理人 | 吉武 賢次 |