• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1126698
審判番号 不服2002-19997  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-15 
確定日 2005-11-14 
事件の表示 平成4年特許願第48184号「超音波診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成5年9月24日出願公開、特開平5-245143〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年3月5日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成13年11月29日付、及び平成14年11月14日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 被検体に向けて送波した超音波パルスの反射成分に基づいて前記被検体の血流速分布をカラードップラ像として表示する超音波診断装置において、血流速の測定範囲を変更する際、フレームレート数が一定、又は、フレームレート数の変化が小さくなるように、超音波パルスの反射成分からドプラ信号を得るためのミキシング周波数、カラードップラデータ数、レート周波数、交互スキャン段数を変更する手段を備えることを特徴とする超音波診断装置。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭64-43237号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開昭60-216263号公報(以下、「刊行物2」という。)、及び(社)日本電子機械工業会編「医用超音波機器ハンドブック」コロナ社、昭和60年4月20日発行、第162-175頁(以下、「刊行物3」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1
(1a)「(産業上の利用分野)本発明は、超音波のドプラ効果を利用して被検体内の血流情報を求め、これを2次元表示する超音波血流イメージング装置に関する。」(第1頁左下欄16-19行)
(1b)「(発明が解決しようとする問題点) ところで、低流速の検出能は、周波数分析するデータ長に依存する。ドプラ信号のサンプリング周波数をfr、サンプリング数をnとすれば、周波数分析する波のデータ長Tは、
T=n/fr …(1)
であり、このときの周波数分解能Δfdは、
Δfd=1/T …(2)
となる。従って、測定可能流速の下限fdmin も、
fdmin=1/T=fr/n …(3)
と表わせる。よって、低流速の血流まで検出しようとすれば、ドプラ信号のサンプリング周波数frを小さくするか、データ数nを大きくすればよい(第4図、第5図参照)。
ところが、2次元ドプラ血流イメージングにおいては、次の関係式が成立する。
Fn・n・m・(1/Fr’)=1 …(4)
ここで、Fn:フレーム数、m:走査線数
fr’;超音波送信パルス繰返し周波数(PRF)
フレーム数Fnは2次元血流像のリアルタイム性に関係し、通常8乃至30の値であり、これにより1秒間に8乃至30枚の画像を見ることができる。
第6図に示すごとく、セクタ電子走査の場合、走査線数m=32,超音波パルス繰返し周波数(PRF)fr’=4KHz、サンプリング数n=8とすれば、フレーム数Fnは約16になる。また、最大視野深度DmaxとPRFfr’とには、
Dmax=C/(2・fr’) …(5)
なる関係がある。よって、低流速の検出能を向上させるために、PRFfr’を小さくすると、最大視野深度Dmaxを大きくとれない欠点を生じる。また、走査線数mを小さくすれば、走査線密度が粗くなり、画質劣化を招来する。
以上の如く、低流速検出能を向上すると、何かを犠牲にしなければならないという欠点がある。
そこで本発明は上記の欠点を除去するもので、最大視野深度、フレーム数、画質を低下させることなく、低流速血流の観測ができる超音波血流イメージング装置の提供を目的としている。」(第2頁右上欄6行-右下欄6行)
(1c)「第1図は本発明一実施例装置のブロック図である。
11は被検体に対して超音波パルスの送受を行う超音波プローブ、12はセクタ電子走査装置アナログ部で、プリアンプ13,パルサー14,発振器15,ディレーライン16,加算器17,検波器18から構成されている。19はD.S.C.(ディジタル・スキャン・コンバータ)、20はカラー処理回路、21はD/A変換器、22はVTR、23はカラーモニタ、35はコントロール回路である。
コントロール回路35は、セクタ電子走査装置アナログ部12における超音波走査順の変更制御を行うもので、この変更制御においては、超音波パルス繰返し周波数を変えることなくドプラ情報のサンプリング周波数が低下される(これについては後に詳述する)。このコントロール回路35が本発明における制御手段に相当する。」(第3頁左上欄8行-右上欄4行)
(1d)「第7図に示すごとく、プローブ11の右端から超音波送信ビームをスキャンしていくとき、その走査順序を、1番右側の走査線(NO.1)→2番目の走査線(NO.2)→3番目の走査線(NO.3)→1番右側の走査線(No.1)→……とする。この場合、同一方向超音波送信ビームの繰返し周波数(ドプラ信号のサンプリング周波数)frは、
fr=fr’/3 …(6)
となり、上記(3)式から明らかなように、測定可能流速の下限fdminは、従来の方式、すなわち、超音波送信ビームをn回続けて同一方向に送波し次に隣りの走査線について同様にn回行う方式に比べて、1/3に改善される。」(第4頁左上欄18行-右上欄11行)
(1e)「ここで一般に、同一方向超音波送信ビームの繰返し周波数frと超音波送信パルス繰返し周波数fr’と低流速検出能改善比Pとを考えると、
fr=fr’/P
と表わされる。第7図、第8図はP=3の場合について示した。」(第4頁左下欄14-19行)
(1f)「このように本実施例においては、超音波走査順を変更制御することにより、超音波繰返し周波数fr’を変えずにドプラ情報のサンプリング周波数frを低下させているので、最大視野深度Dmax、フレーム数Fn、画質を低下させることなく、低流速血流をも観測することができる。」(第4頁右下欄13-18行)

(2)刊行物2
(2a)「パルスドプラ法においては、速度検出範囲は超音波の基準周波数とパルスのくり返し周波数により決まるため、」(第2頁左上欄4-6行)
(2b)「第5図には本発明に係わる速度測定装置の概要が示されており、たとえば人体内の血流速度の測定に好適である。」(第2頁右上欄15-17行)
(2c)「実施例は上述の如く、速度の検出範囲を可変とし、・・・、測定精度の向上を実現するものである。
このように本発明を特徴づける検出範囲制御部70および表示制御部80を詳細に説明する。パルスドプラ法においては、ドプラ周波数の上限fmaxは fmax=fo・2V/c (1) で示される。ここでfo:キャリア周波数、V:流れの速さ、c:音速である。パルスくり返し周波数をfrとすれば、fmaxは標本化定理により fmax=fr/2 (2) である。くり返し周波数fr=4400Hz、音速c=1500m/sとすればドプラ周波数の上限fmaxは2200Hzで、このとき上限速度Vmax はキャリア周波数foにより表1のごとく示される。(表1 省略)
本発明においては検出範囲制御部70により、トリガパルス発生部30が制御され、ここでつくられたトリガパルスにより高圧励振部20が動作する。高圧励振部20は複数個(N個)の送信器を有し、この選択については上限速度、ビーム幅とパルスの波連長により決まるサンプル範囲の大きさから判断する。超音波振動子10には、たとえばセラミック系材料の振動子を使用する場合は、中心周波数の異なる振動子素子を同心円状にN個配置し、ポリマー系その他の高帯域の振動子を使用するときは1個ないし2個を配置することにより多周波送受波用振動子が実現できる。速度検出部50はN個の検出系を有し、この選択は高圧励振部20の選択と同様に、たとえば2.75MHz送信のときは基準信号2.75MHzとの合成処理で速度検出を行なう。また、振動子10が高帯域形であれば1種類または数複(注:複数の誤記と思われる)の高帯域パルスを送波すれば、速度検出部50において基準信号部60から供給される信号の周波数を変えるだけで測定用周波数を選択できる。」(第2頁右下欄3行-3頁右上欄7行)

(3)刊行物3
ドプラ応用超音波診断装置において、流速の測定範囲がパルス繰返し周波数(PRF)と測定用周波数(ミキシング周波数)に関係することが示されている。(第167頁式(4・13)参照)

3.対比・判断
本願発明において、段落【0009】「図2Aは本発明に基づく血流の流速範囲の変化とフレーム数との関係を示している。本発明では基本的には、測定しようとする血流の流速範囲を変更しようとする時に、ミキシング周波数を変化させると流速範囲は変るが所定時間あたりに表示するフレーム数(フレームレート数)は変らないという知見から、A.超音波プレーブの帯域の範囲でミキシング周波数を変化させる。そして、このためのミキシング周波数制御手段を設ける。このためにはミキシング周波数制御手段の制御によりミキサー部に必要なミキシング周波数を供給する回路(クロック40に変る回路か或いはクロック40)を設ける。」の記載によると、ミキシング周波数はフレームレート数とは独立したパラメータとして理解される。
してみると、本願発明において「血流速の測定範囲を変更する際、フレームレート数が一定、又は、フレームレート数の変化が小さくなるように、」するために、フレームレート数に影響し、変更する必要のあるパラメータとしては、「カラードップラデータ数、レート周波数、交互スキャン段数」の3つが挙げられる。

一方、刊行物1には、血流速の測定範囲を変更する際には、フレーム数Fn,サンプリングデータ数n、超音波送信パルス繰返し周波数(PRF)が互いに相関することが示されており、さらに、血流速の測定範囲を低流速側に変更する際に、フレーム数を低下させないことを目的の一つとしたものであることが記載されている。そして、上記目的の達成手段として、フレーム数に影響するパラメータとして、サンプリングデータ数n、超音波送信パルス繰返し周波数(PRF)に加えて、超音波送信ビームのスキャン方法を工夫した低流速検出能改善比Pなるパラメータを取り入れることによって、血流速の測定範囲を低流速血流の観測ができる様に変更した際に、上記各パラメータを変更することによってフレーム数を低下させないことを実現したものが記載されている。
よって、刊行物1からは以下の発明が把握される。
「被検体に向けて送波した超音波パルスの反射成分に基づいて前記被検体の血流速分布をカラー画像として表示する超音波血流イメージング装置において、血流速の測定範囲を変更する際、フレーム数Fnを低下させることがないように、サンプリングデータ数n、超音波パルス繰返し周波数(PRF)、低流速検出能改善比Pを変更する手段を備える超音波血流イメージング装置。」(以下、これを「引用発明」という。)

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「カラー画像」、「超音波血流イメージング装置」、「フレーム数Fn」、「サンプリングデータ数n」、「超音波パルス繰返し周波数(PRF)」、および「低流速検出能改善比P」が、それぞれ本願発明における「カラードップラ像」「超音波診断装置」、「フレームレート数」、「カラードップラデータ数」、「レート周波数」、および「交互スキャン段数」に相当することは明らかである。
よって、本願発明と引用発明とは「流速の測定範囲を低流速側へ設定するに当たってフレーム数の低下がないようにする」という共通の目的を有するものであって、
「被検体に向けて送波した超音波パルスの反射成分に基づいて前記被検体の血流速分布をカラードップラ像として表示する超音波診断装置において、血流速の測定範囲を変更する際、フレームレート数が一定、又は、フレームレート数の変化が小さくなるように、カラードップラデータ数、レート周波数、交互スキャン段数を変更する手段を備える超音波診断装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点a: 本願発明では、更に超音波パルスの反射成分からドプラ信号を得るためのミキシング周波数を変更する手段を備えているのに対し、引用発明では、ミキシング周波数を変更することに関しては記載されていない点。

そこで、上記相違点aについて検討する。
パルスドップラ法を利用して血流速を測定する超音波診断装置において、流速の検出範囲が測定用周波数に依存することは刊行物2または刊行物3にも示されているように周知の技術事項であり、基準信号部から供給される信号の周波数(本願発明のミキシング周波数に相当)を変更することによって、測定用周波数、即ち検出範囲を選択することは刊行物2に示されている。
そして、引用発明はパルスドップラ法を利用して超音波血流イメージング装置を構成したものであるから、上記パルスドップラ法におけるミキシング周波数を変更する技術を用いることを妨げる事情を何ら認めることはできない。
それ故、引用発明に上記ミキシング周波数を変更する技術を必要に応じて用いることは容易に想到できたことであり、そのことによって、相違点aに係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得た程度のことにすぎない。

また、明細書に記載の本願発明の効果も、刊行物1及び刊行物2の記載および周知技術から容易に予測できる程度のものである。

なお、請求人は、審判請求理由において、本願発明は各パラメータを「自動的に変更するものである」旨主張しており、また、当審の審尋に対する回答書においては、「同時に変更する」旨主張しているが、各パラメータを「自動的に変更」または「同時に変更」することについては、いずれも明細書に記載されておらず、さらに、各パラメータをどのようなアルゴリズムに従って変更するのかも不明であって、本願発明は、単にそれぞれのパラメータを変更可能としているという程度のものにすぎない。
よって、上記請求人の主張は本願明細書の記載に基づかないものであって、採用することはできない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び刊行物2に記載の発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-13 
結審通知日 2005-09-20 
審決日 2005-10-03 
出願番号 特願平4-48184
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中槙 利明右▲高▼ 孝幸  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 長井 真一
水垣 親房
発明の名称 超音波診断装置  
代理人 堀口 浩  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ