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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない C08J
審判 訂正 特36条4項詳細な説明の記載不備 訂正しない C08J
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない C08J
管理番号 1127074
審判番号 訂正2004-39133  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-04-11 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-06-08 
確定日 2005-12-05 
事件の表示 特許第3196895号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許3196895号(平成11年7月27日〔特許法第41条に基づく優先権主張:平成10年7月27日、日本〕特許出願、平成13年6月8日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、下記(1)〜(2)のとおり訂正することを求めるものである。
(1)訂正事項ア
特許請求の範囲の請求項1中の「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を含有する脂肪族ポリエステルであって、連鎖状粒子を含有しない脂肪族ポリエステルを主成分としたフィルムであって、少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、かつ粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2 当たりの突起数(PCC値)が下記式(1)を満足することを特徴とする脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム。」
との記載を、
「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を0.01〜0.5重量%含有し、連鎖状粒子を含有しない脂肪族ポリエステルを主成分としたフィルムであって、少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、かつ粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2 当たりの突起数(PCC値)が下記式(1)を満足することを特徴とする、シーラント層を積層して使用するための脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム。」
と訂正する。
(2)訂正事項イ
段落【0011】の「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を含有する脂肪族ポリエステルであって、連鎖状粒子を含有しない脂肪族ポリエステルを主成分としたフィルムであって、少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、かつ粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2 当たりの突起数(PCC値)が下記式(1)を満足することを特徴とする脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムである。」
との記載を、
「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を0.01〜0.5重量%含有し、連鎖状粒子を含有しない脂肪族ポリエステルを主成分としたフィルムであって、少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、かつ粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2 当たりの突起数(PCC値)が下記式(1)を満足することを特徴とする、シーラント層を積層して使用するための脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムである。」
と訂正する。

2.当審の判断
2-1.当審が通知した訂正拒絶理由
(1)当審は、平成16年8月30日付で、本件訂正明細書の請求項1〜3に係る発明(以下、「訂正発明1〜3」という。)は、以下の2点で、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件訂正審判請求は拒絶されるべきものである旨を通知した。
(1-1)訂正事項ア及びイの訂正による本件明細書は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められないから、本件出願は特許法第36条第4項に規定する要件を満足せず、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
(1-2)訂正発明1〜3は、下記刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

刊行物1:特開平6-57013号公報
刊行物2:特開平5-124100号公報
刊行物3:特開平6-256480号公報
刊行物4:特開平8-245771号公報
刊行物5:特開平7-32470号公報
(2)これに対して、請求人は、平成16年10月1日付で意見書を、平成16年11月10日付で上申書をそれぞれ提出した。

2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否、拡張・変更の存否について
訂正事項アの訂正は、段落【0038】の記載に基づいて、滑剤粒子の含有量を限定することによる、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、かつ、重複する文言を一つにまとめることによる、明りょうでない記載の釈明を目的とするもので、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
訂正事項イの訂正は、特許請求の範囲において、上記訂正事項アに係る訂正を行ったことに伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させる目的で行うものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするもので、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
以上のとおり、訂正事項ア及びイの訂正は、特許法第126条第1項ただし書、第3項及び第4項の規定に適合するものと認められる。

2-3.独立特許要件について(36条第4項関連)
まず、滑剤粒子及びフィルム製膜条件に関する本件明細書の記載は、単に当該技術的事項に関する列挙で一般的記載に止まるものであり、各条件を具体的にどのように制御するかを示していないことはもちろん、どのような滑剤粒子を用いた場合にどのような製膜条件とするのかという「フィルムの製膜条件と滑剤粒子の種類との関係」については、何ら具体的に記載されていない。したがって、この記載から本件発明のような特定のパラメーターを有するフィルムを製造しうるとは言えない。
請求人は、審判請求書(b-5)において、訂正発明1〜3の実施可能性について縷々述べているが、段落【0029】の記載からみて、訂正発明1〜3に係る延伸方法には種々の手法が採用できるものと認められるところ、本件明細書中には、各手法について請求項1に規定されるPCC値とSRaの関係を満たすための条件を具体的に開示した例は「例えば、縦方向に1段以上延伸した後横方向に延伸する方法の場合、縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が1.555以下であることが好ましい。」(段落【0041】)との記載のみであり、その屈折率とするための条件が何ら具体的に記載されていないのであるから、屈折率の指標が示されているとしても、当該脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムを容易に製造することはできない。その余の延伸手法については具体性を欠いており、やはり、当該脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムを容易に製造することはできない。
訂正発明1〜3の実施例に示されているように(例えば、段落【0063】)、その延伸に際しては種々の条件設定がなされるものであるが、これらの値をどのように設定すれば屈折率がどのように変化するのかの指標は何ら示されていない。
(参考までに、Nx=1.469である比較例1は、平均粒子径が請求項1の規定を満たしているにも拘わらず、請求項1にあるSRaの範囲を満たしておらず、Nx=1.469である比較例2は、平均粒子径及びSRaも請求項1の規定を満たしているにも拘わらず、請求項1にあるPCC値とSRaの関係(本件請求項1の式(1))を満たしておらず、Nx=1.467である比較例3のSRaは請求項1にあるSRaの関係を満たしていない。)
このことから、訂正発明1〜3における特定範囲にあるSRaや、PCC値とSRaの関係(本件請求項1の式(1))を満たしたフィルムを得ることができるか否か不明瞭である。
また、明細書段落【0041】には、「本発明のフィルムにおいて、フィルムの延伸条件は、添加する滑剤に依存して変化する。PCC値及びSRaが所定の範囲内に入るような延伸条件が選択される。例えば、縦方向に1段以上延伸した後横方向に延伸する方法の場合、縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が1.555以下であることが好ましい。Nxが大きすぎると製造工程中で表面突起の形成が不十分となりやすく、ハンドリング性または走行性が不良となりやすい。」と記載されている。そして、「例えば、縦方向に1段以上延伸した後横方向に延伸する方法の場合、」と記載し、「縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が1.555以下であることが好ましい」と記載するものである。つまり、縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が「1.555以下」であるのは、「例えば」の記載から明らかなように、一例を示しているに過ぎず、横方向の延伸については如何なるものとすべきか、その延伸については記載がないのであるし、また、「Nxが大きすぎると製造工程中で表面突起の形成が不十分となりやすく、」と記載し、縦方向の延伸のみでフィルムの表面突起が形成されることを示しているが、実施例においては、縦方向に延伸後、横方向にも延伸したフィルムについての各値が示されているものであるから、PCC値及びSRaが、縦方向の延伸のみで決まる値とはいえないことは明らかである。
加えて、請求項1に記載の「二軸延伸フィルム」が「縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が1.555以下」の値を採る場合の「二軸延伸フィルム」に限定されているものではない。このことから、Nxが1.555を越える場合についても具体的な製造方法を示す必要があるが、明細書に記載された事項を参酌しても、この点は不明である。また、PCC値及びSRaについて、どのようにすれば目的とする数値範囲のものが選択できるのか何等具体的に記載がされていないのであるから、PCC値及びSRaについての条件の選択に当たり、明細書に記載された事項を参酌しても、さらにどのような条件を採用すればよいのかは、依然として不明である。
そして、訂正発明1〜3の「SRa値」については、請求項1には、「なお、SRaとは表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際の中心面(基準面)における平均粗さを意味し、触針式三次元表面粗さ計を用いて得た各点の高さを測定し、これらの測定値を三次元表面粗さ解析装置に取り込んで解析することにより得られる値である。」と記載され、SRa値が、製造されたフィルムを測定して得られた測定数値を解析して得るものであることが記載されているのである。つまり、これはフィルムを製造し、その製造されたフィルムを計測器を用いて測定して初めて得られる値であることを意味するものであり、請求項1に記載の、「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を0.01〜0.5重量%含有し、連鎖状粒子を含有しない脂肪族ポリエステルを主成分としたフィルム」であれば、必然的に決まる値であることを意味するものではない。
このことから、どのような条件で製造すれば前記SRa値を有するフィルムが得られるのかについて、具体的なフィルムの製造方法の記載がないのであるから、当業者は製造したフィルムについて、逐一計測をして、請求項1に記載の数値に該当するものであるか否かを確認する必要があるのである。そして、このような確認作業が、当業者に過度の試行錯誤を強いることは明白である。
また、本件明細書には、PCC値が1000個/mm2 以上となるための手法に関する記載はなく、また示唆もない。したがって、この条件を満たすための具体的な手法は依然として明確ではない。
さらに、本件明細書には、「PCC値≦7000-45000×SRa」を満たすものは実施例の他になく、この条件を普遍的に満たす手法や法則性は記載されておらず、また示唆もない。請求人が主張する各段落の記載は、滑剤粒子の種類、脂肪族ポリエステルへの添加方法、滑剤粒子の平均粒子径および含有量、フィルム製膜方法として当業界で一般的に知られている事項を示すにすぎず、この記載をもって、本件各請求項の規定を満たすフィルムを製造することは当業者に過度の試行錯誤を強いるものと言わざるを得ない。
請求人は上記意見書において、「縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が1.555以下となるように、縦方向の延伸を行えば、横方向の延伸については、フィルムの厚み均一性、機械的強度等の延伸フィルムの一般的な要求特性を考慮して一般的な延伸条件に設定すれば、本件発明の二軸延伸フィルムが得られる」(10頁19〜22行)旨主張するが、比較例1〜3は何れもNx≦1.555であるにも拘わらず、本件発明の実施態様ではないことに鑑みると、この屈折率の条件によって本件発明の二軸延伸フィルムが得られるのか否か、また、横方向の延伸については、上記の「一般的な延伸条件」がどのような条件であるのか、依然として不明瞭である。さらに、本件発明の二軸延伸フィルムは、「具体的には、縦方向または横方向に延伸する一軸延伸法、インフレーション法、または同時二軸延伸法、もしくは逐次二軸延伸法などの二軸延伸方を用いる。逐次ニ軸延伸法としては、例えば、縦延伸および横延伸を順に行ってもよく、あるいは横延伸および縦延伸を順に行ってもよい。また、横・縦・縦延伸法、縦・横・縦延伸法、縦・縦・横延伸法などの延伸方法を適用することができる。」(明細書段落【0029】)との記載があるように、各種延伸工程により製造しうるものであることに鑑みると、どのような延伸条件によれば本件発明の物性が得られるのか不明瞭である。
また、本件明細書は「好ましい。」や「特に好ましい。」との語句で本件発明の二軸延伸フィルムに関する種々の製造条件を羅列しているが、これらの製造条件が広範に亘っており、どのように組み合わせれば(選択すれば)本件発明のPCC値及びSRaを満たすものが得られるのか理解できない。請求人は上記意見書において、「パラメータ発明は、…例えば製造方法…などによっては十分に特定しきれない種類の発明ですので、式(1)の不等式の条件を普遍的に満たす手法や法則性を明瞭にすることが求められているものではありません。」(意見書16頁1〜4行)と主張するが、このようにどのようにして得られるのか不明瞭なものであるならば、尚更、当業者に対して本件発明を実施するにあたり、過度の試行錯誤を強いるものであるといえる。
さらに、請求人は上記意見書及び上申書において、式(1)の意義を述べているが、式(1)が「右下がりの直線であることが妥当」(上申書4頁下から6〜5行)であるとしても、その傾きがどの程度であるかは本件明細書(例えば、各実施例および比較例によって得られる物性値。)からは不明瞭であり、意見書13頁参考図1における本件発明の範囲内である左上部分(例えば、SRa=0.025近傍かつPCC値=5000近傍。)にある物性値を有するものが本件発明により奏されるものとされる効果を有するものであるか否か不明瞭である。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜3にかかる二軸延伸フィルムを容易に得ることができる程度に記載されているとは認められない。

2-4.独立特許要件について(29条第2項関連)
(1)刊行物1の記載事項
「本発明のシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムの少なくとも片面の三次元表面粗さSRaは0.01μm以上0.05μm以下の範囲内にある事が必要である。SRaが0.01μm未満ではハンドリング特性及び走行特性が不良になり…」(段落【0012】)
実施例において透明性(ヘーズ値)の良好なフィルムが得られることが記載されている。
また、実施例において滑剤粒子を約0.3重量%添加することが記載されている。
(2)刊行物2の記載事項
「本発明を構成するポリエステルは特に限定されないが、エチレンテレフタレート、エチレンα,β-ビス(2-クロルフェノキシ)エタン-4,4′-ジカルボキシレート、エチレン2,6-ナフタレート単位から選ばれた少なくとも一種の構造単位を主要構成成分とする場合に特に好ましい。」(段落【0006】)
「【実施例】
実施例1(表1、表2)
…この二軸配向ポリエステルフイルム…の表面先端突起高さは130nm、突起個数は15,000個/mm2 …であった。
次にこのフイルムの耐スクラッチ性を測定すると、4.8点であり、非常に良好であった。また走行性も0.20で非常に良好であった。
このように、特定の構造を持ち特定の粒径の連鎖状粒子をフイルム中に特定量含有させると、耐スクラッチ性に優れたフイルムとなり得ることが判る。
実施例2〜6、比較例1〜7(表1、表2)
添加する粒子や製膜条件を種々変更し、…表面の平均突起高さ、突起個数、…の全てが本発明の範囲内であるものは、耐スクラッチ性は良好であった(実施例2〜6)。…
【発明の効果】
本発明の二軸配向ポリエステルフイルムは、特定の構造を持った連鎖状粒子を特定量含有させたフイルムとしたので、粒子とポリエステルフイルムが特異な相互作用を示し、フイルムの表面構造が特異なものとなるので、フイルムの加工工程で加工速度が増大しても、耐スクラッチ性に優れているため表面に傷が入るといったトラブルがなくなる。また、走行性がよく、透明性もよいので、包装材料用、工業材料用としても好適であるといった如き優れた効果を奏するものである。」(段落【0030】〜【0036】)
また、刊行物2には、実施例において滑剤粒子を0.3重量%添加することが記載されている。
(3)刊行物3の記載事項
「【請求項1】一般式(I)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルより得られる生分解性包装用フィルム。
-O-CHR-CO- ……(I)
(但し、RはHまたは炭素数1〜3のアルキル基を示す。)」(特許請求の範囲)
(4)刊行物4の記載事項
「本発明においては上記したような方法により表面を適度に粗面化したフィルムを得ることができるが、フィルム製造時の巻き性や包装用フィルムに加工する際の作業性をさらに高度に満足させるために、フィルム表面の中心線平均粗さ(Ra)が0.01〜0.07μm、好ましくは0.02〜0.05μmの範囲とする。Raが0.01μm未満では、フィルム製造時の巻き特性や作業性が劣るようになるのでので好ましくない。またRaが0.07μmを超えると、フィルム表面の粗面化の度合いが大き過ぎて、フィルムがシモフリ状になったり、フィルムの透明性を損なったり、フィルムが滑り過ぎて巻き特性が劣るようになるため好ましくない。」(段落【0014】)
また、実施例において滑剤粒子を約0.04重量%添加することが記載されている。
(5)刊行物5の記載事項
「本発明のシンジオタクチックポリスチレン系延伸フィルムの少なくとも片面の三次元表面粗さSRaと粗さの中心面における単位面積当たりの突起数PCC値は…の関係を満足する必要がある。PCC値とSRaがこの関係を満足している場合、透明性に優れたフィルムが得られる。一方、PCC値がこの範囲より大きくなると透明性が低下するために好ましくない。PCC値の下限については特に限定されないが、500個/mm2 未満では走行性及び耐削れ性が不良となる場合があり、あまり好ましくない。…SRaが0.01μm以下の場合、走行性及び耐削れ性が不良となりやすい。また、SRaが0.1μm以上の場合、透明性と走行性及び耐削れ性の両方の特性を同時に満足するフィルムを得ることが困難となる。」(段落【0012】)
また、実施例において滑剤粒子を約0.05重量%添加することが記載されている。
(6)訂正発明1の容易性
刊行物3には訂正発明1にて使用されるものと同一の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)を包装用フィルムに使用することが記載されている。
刊行物1において、段落【0012】には、SRaはハンドリング性と走行性に関与するものとして記載されており、また、実施例においても透明性(ヘーズ値)の良好なものが得られている。刊行物1及び3に記載された発明は、共に熱可塑性樹脂を用いた包装用フィルムに関するものであり、包装用フィルムとして使用しうる刊行物1に記載された発明において実施されるハンドリング性や透明性の改善のための技術を、同様に包装用フィルムの原料として用いられる熱可塑性樹脂である刊行物3に記載の脂肪族ポリエステルに転用することを排除する理由はない。
刊行物2において、段落【0006】はあくまでも「特に好ましい」ものとしてエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルを例示しているにすぎず、「本発明を構成するポリエステルは特に限定されない」と記載されていることからみて、芳香族ポリエステルに限定する理由はなく、脂肪族ポリエステルもその対象として包含するものと認められる。
また、刊行物2にはSRa及びPCC値に関する記載はないが、段落【0030】〜【0036】において、SRaに関連する「表面の平均突起高さ」、PCC値に関連する「突起個数」が走行性と透明性の改善に影響を及ぼすことを指摘している。
刊行物4において、訂正発明1と刊行物4に記載された発明の両者とも包装用フィルムの原料となるポリエステルとしては極めて一般的なものである。また、刊行物4に記載された発明において、SRaに関連する「中心線平均粗さ(Ra)」にしても、フィルム表面の突起高さの指標を示しており、測定方法を比較しても測定対象箇所が格別異なるものとは言えない。そしてRaは、フィルム製造時の巻き特性や作業性、及び、フィルムの透明性に影響を及ぼすことが段落【0014】に記載されており、この巻き特性は訂正発明の効果とされる「ハンドリング性(巻き性)」に相当するものと認められ、この巻き特性や透明性の改善のためにフィルム表面の粗さを制御する技術概念を刊行物3に記載の脂肪族ポリエステル製包装用フィルムに転用することを排除する理由はない。
刊行物5において、フィルム原料として訂正発明の脂肪族ポリエステルとは異なるシンジオタクチックポリスチレンが記載されている。しかし、両者とも包装用フィルムの原料となる熱可塑性樹脂としては一般的なものであり、また、包装用フィルムとして使用しうる刊行物5に記載された発明において実施されるハンドリング性や透明性の改善のための技術を脂肪族ポリエステルに転用することを排除する理由はない。
また、刊行物5にはSRaとPCC値によりフィルムの走行性や透明性の改善に影響を及ぼすことが記載されている。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルを用いた包装材において、該ポリエステルにシーラント層を積層して使用することは、本出願前周知である(必要であれば、特開平10-138433号公報、特開平10-138371号公報、特開平10-80990号公報等参照)。また、上記のとおり、刊行物1〜2及び4〜5には、包装用フィルムの原料となる熱可塑性樹脂に粒状物を0.01〜0.5重量%加えることでフィルムに表面加工を施し、ハンドリング性や透明性の改善を図ることが記載されており、刊行物3に記載の包装用に用いられる脂肪族ポリエステルフィルムのハンドリング性や透明性の改善のために、刊行物1〜2及び4〜5に記載された技術を転用し、シーラント層を積層してみることは、当業者であれば容易に想到しうることである。刊行物5段落【0012】の記載によればPCC値が透明性に関与しうるものと認められる。また、ハンドリング性を本件明細書の記載のとおり巻き性として捉えても、既に述べたとおり、刊行物4にはSRaと同一の技術概念として捉えることができるRaが関与していることが記載されていることからみて、SRaがハンドリング性(巻き性)に影響を及ぼしうることは当業者が容易に類推することができるものと認められる。そして、その効果においてもハンドリング性、透明性は刊行物1、5に記載されたものと同程度のものであるから、訂正発明1の効果が格別顕著なものということはできない。
請求人は意見書(特に、21頁24行〜22頁27行)において、特開平10-138371号公報に記載された発明は包装用を意図した脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムの発明とは関係がない旨、また、特開平10-138433号公報及び特開平10-80990号公報に記載された発明は、シーラント層との接着性に優れた脂肪族ヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルフィルムを如何にして取得するかということについて何らの解決手段も示しておらず、本件発明とは関係がない旨主張するが、この周知例は上記のとおり、「脂肪族ヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルを用いた包装材において、該ポリエステルにシーラント層を積層して使用」しうることからみて、刊行物3に記載の脂肪族ポリエステルフィルムはシーラント層の積層を行いうるものと解するのが相当である。
したがって、訂正発明1は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものと認められる。
(7)訂正発明2の容易性
刊行物2に記載された発明において、突起個数はフィルム表面の突起の密度の指標を示しており、測定方法を比較しても測定対象箇所が格別異なるものとは言えない。また、刊行物2には、突起個数とハンドリング特性の関係が明示されていないが、SRaに関連する「表面の平均突起高さ」、PCC値に関連する「突起個数」が走行性と透明性の改善に影響を及ぼすことが記載されている。訂正発明2によるとされる効果は刊行物1〜5の記載からみて格別のものを見出せないのは前述のとおりである。したがって、訂正発明2は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものと認められる。
(8)訂正発明3の容易性
刊行物3にはポリ乳酸からなる脂肪族ポリエステルフィルムが記載されている。したがって、訂正発明3は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものと認められる。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは言えず、特許法第126条第5項の規定に適合しないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-11-30 
結審通知日 2004-12-02 
審決日 2004-12-14 
出願番号 特願平11-212321
審決分類 P 1 41・ 856- Z (C08J)
P 1 41・ 121- Z (C08J)
P 1 41・ 536- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 船岡 嘉彦
大熊 幸治
登録日 2001-06-08 
登録番号 特許第3196895号(P3196895)
発明の名称 脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム  
代理人 高島 一  
代理人 山本 健二  
代理人 幸 芳  
代理人 栗原 弘幸  
代理人 土井 京子  
代理人 天野 浩治  
代理人 谷口 操  
代理人 田村 弥栄子  

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