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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1127104
審判番号 不服2003-7138  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-04-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-25 
確定日 2005-11-25 
事件の表示 平成10年特許願第263119号「圧電振動子ユニット、及びインクジェット式記録ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 4月 4日出願公開、特開2000- 94677〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成10年9月17日の出願であって、平成15年3月20日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年4月25日付けで本件審判請求がされるとともに、同年5月26日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年5月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項
本件補正後の【請求項1】及び【請求項9】は、本件補正前の【請求項1】及び【請求項11】に対応するものであり、これら請求項の補正は次の補正事項からなっている。
補正事項1:本件補正前【請求項1】及び【請求項11】の「前記スリットの底面の後端面の端部が、前記圧電振動板の表面側に位置している」との発明特定事項を削除。
補正事項2:本件補正前【請求項1】及び【請求項11】の「後端側が連続領域となり、かつ駆動用圧電振動子を形成すべき領域では前記導電層を相互に分離できるスリットにより歯割するとともに、」を「前記駆動用圧電振動子を形成すべき領域では前記導電層を相互に分離できるスリットにより前記後端側に露出する全ての前記共通内部電極及び前記接続用電極が導通可能な連続領域を残して歯割され、前記ダミーの圧電振動子の導電層により、前記駆動用圧電振動子の全ての前記共通内部電極及び前記接続用電極と、前記ダミーの圧電振動子の全ての前記共通内部電極、前記接続用電極、及び前記個別内部電極が導通されているとともに、」と補正する。
補正事項3:本件補正前【請求項1】及び【請求項11】の「駆動用圧電振動子の形成領域では先端面から固定領域の表面まで、またダミーの圧電振動子の形成領域では先端面から後端面まで延びる導電層が形成された圧電振動板」を「駆動用圧電振動子の形成領域では前記個別内部電極と接続するように先端面から固定領域の表面まで延びる導電層が形成され、またダミーの圧電振動子の形成領域では先端面の全面から後端面の全面まで延びる導電層が形成された圧電振動板」(下線部は、補正による追加記載)と補正する。
補正事項4:本件補正前【請求項1】に「前記導電層の前記圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で駆動信号を供給する可撓性ケーブルが接続される」との発明特定事項を追加する。
補正事項5:本件補正前【請求項11】の「前記駆動用圧電振動子と、前記ダミーの圧電振動子との表面に形成された導電層に接続して駆動信号を供給する可撓性ケーブル」を「前記駆動用圧電振動子と、前記ダミーの圧電振動子との表面に形成された導電層の、前記圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で接続された駆動信号を供給する可撓性ケーブル」(下線部が補正箇所)と補正する。

2.補正目的
補正事項1〜5が、請求項削除(特許法17条の2第4項1号)や誤記の訂正(同項3号)を目的とするものでないことは明らかである。
(1)補正事項1,2について
本件補正前の【請求項1】及び【請求項11】では、「ダミーの圧電振動子の導電層」は先端面から後端面まで延びて形成されており、ダミーの圧電振動子の「共通内部電極」及び「接続用電極」は固定端側の後端面に露出しているから、これら電極はダミーの圧電振動子の導電層と導通している。また、「スリット」は「駆動用圧電振動子を形成すべき領域では前記導電層を相互に分離」するだけでなく、駆動用圧電振動子を形成すべき領域では駆動用圧電振動子全体を分離することは明らかである。そして、「前記スリットの底面の後端面の端部が、前記圧電振動板の表面側に位置している」(削除前の補正事項1)によれば、スリットの底面よりも後端側ではすべての(駆動用圧電振動子及びダミーの圧電振動子の)「共通内部電極」及び「接続用電極」は、スリットにより分離されず連続して形成されているから、駆動用圧電振動子の「共通内部電極」及び「接続用電極」はダミーの圧電振動子の「共通内部電極」及び「接続用電極」と導通し、その結果ダミーの圧電振動子の導電層とも導通している。ダミーの圧電振動子の個別内部電極は先端面に露出しており、ダミーの圧電振動子の導電層は先端面から後端面まで延びているのだから、先端面において、ダミーの圧電振動子の個別内部電極とダミーの圧電振動子の導電層は導通している。すなわち、補正事項2は本件補正前請求項1に係る発明において既に採用されていると解すべきであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とすると認めることはできない。
逆に、補正事項2によれば、本件補正前の【請求項1】及び【請求項9】では、駆動用圧電振動子を形成すべき領域では、後端側に露出する全ての共通内部電極及び接続用電極が連続領域を残して歯割されているのだから、スリットの底面の後端面の端部は、圧電振動板の表面側に位置していなければならない(スリットの底面の後端面の端部が後端面に位置するとすると、連続領域をなさない共通内部電極又は接続用電極があることになる。)。
すなわち、補正事項1,2は、補正事項1によって削除された発明特定事項を、補正事項2として表現を変更しただけである。
したがって、補正事項1,2が特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号)を目的とすると認めることはできない。この表現変更の前後において、どちらの表現がより明りようであるかは一概にいうことができないから、明りようでない記載の釈明(特許法17条の2第4項4号)を目的とすると認めることもできない。仮に、本件補正後の表現がより明りようであるとしても、特許法17条の2第4項4号は明りようでない記載の釈明を無条件に許可しているのではなく、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」との条件を付しており、補正前の表現が明りようでない旨の拒絶理由は通知されていないから、特許法17条の2第4項4号の規定に該当しない。

(2)補正事項3について
補正事項3のうち、「前記個別内部電極と接続するように」との文言があろうとなかろうと、駆動用圧電振動子の形成領域の導電層が「前記個別内部電極と接続する」ものであることは補正前においても自明である。
また、補正事項3のうち、ダミーの圧電振動子の形成領域の導電層が「先端面の全面から後端面の全面まで延びる」ことは、形式的には特許請求の範囲の限定的減縮に該当するが、補正前【請求項1】及び【請求項11】においても、先端面及び後端面において、表面から裏面に至る全部分に導電層が形成されていることは明らかである。「全面」の意味が表面から裏面に至る全部分の意味であるとすれば、限定的減縮に該当しない。「全面」の意味が表面から裏面に至る全部分だけではなく、圧電振動子配列方向についても全部分の意味だとすると、限定的減縮ではあるが、新規事項追加になり、特許法17条の2第3項の規定に違反する。なぜなら、「全面」との文言は願書に最初に添付した明細書には記載されておらず、添付の【図3】には先端面とはともかくとして、後端面では、ダミーの圧電振動子の形成領域と目される範囲全体(後端面にはスリットがないから、ダミー圧電振動子と駆動用圧電振動子の境界をなすスリットを延長したものの外側が「ダミーの圧電振動子の形成領域」と解される。)には、導電層が形成されていないからである。添付の【図6】では、ダミーの圧電振動子形成領域において後端面全面に導電層が形成されているが、これは駆動用圧電振動子形成領域の後端面にも導電層を形成する(本件補正後【請求項4】に該当する。)からであり、本件補正後の【請求項1】及び【請求項9】には同限定がないから、新規事項となる。
補正事項3により、より明りような記載になるとしても(「全面」の意味が不明確になるから、そのように認めることはできないが)、明りようでない旨の拒絶理由は通知されていない。

(3)補正事項4について
本件補正後の請求項1に係る発明は「圧電振動子ユニット」の発明であるから、「可撓性ケーブル」自体は発明特定事項とならない。すなわち、補正事項4は「同一線上で駆動信号を供給する可撓性ケーブル」と圧電振動子ユニットが、導電層の圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で接続できることだけをいうものである。ところが、本件補正前の請求項1では、導電層につき「駆動用圧電振動子の形成領域では先端面から固定領域の表面まで」及び「ダミーの圧電振動子の形成領域では先端面から後端面まで」延びる旨限定しているのであるから、「先端面から固定領域の表面まで」は「駆動用圧電振動子の形成領域」及び「ダミーの圧電振動子の形成領域」に共通して導電層が形成されている。そうであれば、本件補正前の請求項1に係る発明においても、共通して導電層が形成されている先端面から固定領域の表面までの適宜位置を利用して「前記導電層の前記圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で駆動信号を供給する可撓性ケーブルが接続される」ようにすることは可能である。
したがって、補正事項4は特許請求の範囲を減縮するものではなく、明りようでない記載の釈明を目的とするものでもない。

(4)補正事項5について
本件補正後の請求項9に係る発明は「インクジェット式記録ヘッド」の発明であるから、請求項1に係る発明とは異なり、「可撓性ケーブル」自体及び圧電振動子ユニットとの接続形態は発明特定事項となる。そうである以上、補正事項5は特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

(5)補正目的についての結論
補正事項3のうち「全面」とすることを除き、特許法17条の2第4項の規定に違反している。「全面」とすることが、特許請求の範囲の減縮である(補正前請求項1及び11の減縮)とすると、特許法17条の2第3項の規定に違反している。
補正前請求項1については、形式的には減縮と受けとれる補正(補正事項3の一部)がされており、補正前請求項11については、そのことに加えて、明らかに減縮となる補正(補正事項5)がされているから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明1」という。)及び請求項9に係る発明(以下「補正発明9」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

3.補正発明1,9の認定
補正発明1,9は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】及び【請求項9】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
補正発明1:「共通内部電極と、個別内部電極とを圧電材料を介して積層し、共通内部電極を固定端側の後端面に、また個別内部電極を自由端側の先端面に露出させ、また各内部電極とは絶縁されて後端面に露出する接続用電極を形成するとともに、駆動用圧電振動子の形成領域では前記個別内部電極と接続するように先端面から固定領域の表面まで延びる導電層が形成され、またダミーの圧電振動子の形成領域では先端面の全面から後端面の全面まで延びる導電層が形成された圧電振動板を、非振動領域を固定基板に固定し、前記駆動用圧電振動子を形成すべき領域では前記導電層を相互に分離できるスリットにより前記後端側に露出する全ての前記共通内部電極及び前記接続用電極が導通可能な連続領域を残して歯割され、前記ダミーの圧電振動子の導電層により、前記駆動用圧電振動子の全ての前記共通内部電極及び前記接続用電極と、前記ダミーの圧電振動子の全ての前記共通内部電極、前記接続用電極、及び前記個別内部電極が導通されているとともに、前記導電層の前記圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で駆動信号を供給する可撓性ケーブルが接続される圧電振動子ユニット。」
補正発明9:「共通内部電極と、個別内部電極とを圧電材料を介して積層し、共通内部電極を固定端側の後端面に、また個別内部電極を自由端側の先端面に露出させ、また各内部電極とは絶縁されて後端面に露出する接続用電極を形成するとともに、駆動用圧電振動子の形成領域では前記個別内部電極と接続するように先端面から固定領域の表面まで延びる導電層が形成され、またダミーの圧電振動子の形成領域では先端面の全面から後端面の全面まで延びる導電層が形成された圧電振動板を、非振動領域を固定基板に固定し、前記駆動用圧電振動子を形成すべき領域では前記導電層を相互に分離できるスリットにより前記後端側に露出する全ての前記共通電極及び前記接続用電極が導通可能な連続領域を残して歯割され、前記ダミーの圧電振動子の導電層により、前記駆動用圧電振動子の全ての前記共通内部電極及び前記接続用電極と、前記ダミーの圧電振動子の全ての前記共通内部電極、前記接続用電極、及び前記個別内部電極が導通された圧電振動子ユニットと、ノズル開口とリザーバとに連通して前記圧電振動子により加圧される圧力発生室を備えた流路ユニットと、前記駆動用圧電振動子と、前記ダミーの圧電振動子との表面に形成された導電層の、前記圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で接続された駆動信号を供給する可撓性ケーブルとからなるインクジェット式記録ヘッド。」

4.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-186383号公報(以下「引用例1」という。)には、次のア〜ケの記載又は図示がある。
ア.「圧電材層と内部電極層とを交互に積層し、かつ少なくとも自由端側の端面及び上面と、被支持部側の端面及び上面とに外部電極を施して、上記自由端側を活性部、被支持部側を不活性部となした圧電プレートに対し、上記自由端側下面の活性部後端縁近傍と上記被支持部側上面の後端部近傍とを結ぶ斜めの線を境にして、該圧電プレートの活性部側に多数の圧電振動子を切割り形成したことを特徴とするインクジェット記録ヘッド用の圧電駆動体。」(【請求項1】)
イ.「図において符号1は、圧電駆動体としての圧電振動子組立体で、この組立体1は、自由端側を櫛歯状に分割形成した圧電プレート2と、この圧電プレート2をインクジェット記録ヘッドに取付けるべく、その後端に固定した支持プレート15とによって構成されている。」(段落【0008】)
ウ.「圧電プレート2は、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムのようなペースト状の圧電材料層3に内部導電層4として銀パラジウムを塗着もしくは蒸着し、これらを数層積層することによって、自由端側を活性部5、被支持部側、つまり基端側を非活性部6となし、さらに、基端側の非活性部6に、例えば圧電材料と同一材料よりなるペースト状の快削性セラミックス材によって形成した支持プレート15を積層した上、これら全体を焼結により一体的に成形したものである。」(段落【0009】)
エ.「圧電プレート2には、また図1、図2に示したように、活性部5の下面から先端面を経てその上面の非活性部6領域までの部分に、内部導電層4と導通する外部信号電極8が被覆され、また、若干の非導電面9を介在させてその非活性部には、後端面からその上面にかけての部分に外部共通電極11が蒸着等により被覆形成される。」(段落【0010】)
オ.「圧電振動子組立体1には、支持プレート15との接合端縁Aから少なくとも圧電プレート2の外部信号電極8の後端部とを結ぶ斜めの線、この実施例では、支持プレート15との接合端縁Aから圧電プレート2の後端面上半部Bを結ぶ斜めの切割り線L-Lを境として、圧電プレート2の活性部5の全ての部分と、基端側の非活性部6のうち支持プレート15上の上半部分を、ワイヤーソーやダイシングソーによりノズルの配設ピッチに相当する間隙をもって櫛歯状に分割して多数の圧電振動子12を形成する。」(段落【0012】)
カ.「この実施例においては、圧電プレート2の両側に若干の巾をもって切割りしない部分を形成し、組付けの際に、この部分を圧電振動子保持ブロックの両側に設けた溝内に挿入して圧電振動子組立体1を位置決めするダミー振動子13を形成するようにしている。」(段落【0014】)
キ.「フレキシブル回路基板16は、圧電プレート2とほぼ同じ巾に形成され、その巾方向中央部分には、各圧電振動子12とともに切割られた外部信号電極8のそれぞれに非活性部6領域で接続する多数のリード線17が各圧電振動子と対応するように形成され、またこの両側には、ダミー振動子13の基端部に形成された外部共通電極11に接続するリード線18が、先端を圧電プレート2の上記した非導電面9よりも後方に位置するようにして添着される。」(段落【0017】)
ク.【図1】には、圧電プレートの自由端側から内部導電層が支持プレート15との接合端手前まで形成され、同一面に上記導電層と隔離された導電層が圧電プレート被支持部側端面まで延びていること、上記面と交互に圧電プレート被支持部側端面から自由端手前まで導電層が形成された面があることが図示されている。
ケ.【図2】及び【図3】には、ダミー振動子13においても、【図1】と同じ導電層が形成されていることが図示されている。

5.引用例1記載の発明の認定
記載ウ,エの「導電層」が記載アの「内部電極層」に当たるものであり、以下では、圧電プレートの自由端側から支持プレート15との接合端手前まで形成されているものを、「第1内部電極層」と、それと隔離されて同一面にあり圧電プレート被支持部側(記載オの「基端側」と同義と認め、以下では「基端側」という。)端面まで延びているものを「第2内部電極層」と、及び基端側端面から自由端手前まで延びているものを「第3内部電極層」ということにする。
そうすると、記載又は図示ア〜ケを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には次の発明が記載されていると認めることができる。
「圧電材層と内部電極層とを交互に積層した圧電駆動体であって、
内部電極層は、自由端側から支持プレートとの接合端手前まで延びる第1内部電極層と、これと隔離され同一面にあって基端部側端面まで延びる第2内部電極層からなる層と、基端側端面から自由端手前まで延びる第3内部電極層とが交互に形成されたものであり、
自由端側の端面及び上面と、基端側の端面及び上面とに若干の非導電面を介在させて外部電極を施して、上記自由端側を活性部、基端側を不活性部となした圧電プレートに対し、上記自由端側下面の活性部後端縁近傍と上記基端側上面の後端部近傍とを結ぶ斜めの線を境にして、該圧電プレートの活性部側に多数の圧電振動子を切割り形成したものであり、
切割り形成された両端の圧電振動子はダミー振動子であるインクジェット記録ヘッド用の圧電駆動体。」(以下「引用発明1」という。)

6.補正発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
引用発明1の「第1内部電極層」が自由端側の端面(補正発明1の「自由端側の先端面」に相当する。)に露出していること、並びに「第3内部電極層」及び「第2内部電極層」が基端側端面(補正発明1の「固定端側の後端面」に相当する。)に露出していることは自明である。引用発明1の「第2内部電極層」は「第1内部電極層」と隔離しており、「第3内部電極層」とは同一面にないから、第1及び第3内部電極層とは絶縁されている。さらに、引用発明1の「第3内部電極層」及び「第2内部電極層」が露出した基端側端面は、「上記自由端側下面の活性部後端縁近傍と上記基端側上面の後端部近傍とを結ぶ斜めの線」により完全に分離されておらず、同面には「外部電極」が形成されているから、「第3内部電極層」及び「第2内部電極層」は共通電位に接続されるものであり、補正発明1の「共通内部電極」及び「接続用電極」にそれぞれ相当する。そうである以上、引用発明1の「第1内部電極層」は、補正発明1の「個別内部電極」に相当する。
引用発明1の「圧電プレート」は補正発明1の「圧電振動板」に相当し、「ダミー振動子」は補正発明1の「ダミーの圧電振動子」に相当し、及び「ダミー振動子」を除く「圧電振動子」は補正発明1の「駆動用圧電振動子」に相当する。
引用発明1の「第1内部電極層」は支持プレートとの接合端手前まで延びており、「第1内部電極層」の存在する部分が「活性部」であり、存在しない部分が「不活性部」でありそれは補正発明1の「非振動領域」に相当する。また、引用発明1で多数の圧電振動子を切割り形成することと、補正発明1の「スリットにより・・・歯割」することに相違はなく、引用発明1では「上記自由端側下面の活性部後端縁近傍と上記基端側上面(審決注;補正前請求項1記載の「表面」に相当するものと認め、以下引用発明1及び補正発明1に共通して、同面を「表面」という。)の後端部近傍とを結ぶ斜めの線」より後端側には切割りがなく、同部分は連続領域といえる。したがって、補正発明1と引用発明1とは「圧電振動板を、非振動領域を固定基板に固定し、駆動用圧電振動子を形成すべき領域では導電層を相互に分離できるスリットにより前記後端側に露出する前記共通内部電極及び接続用電極が導通可能な連続領域を残して歯割され」た点では一致するが、全ての共通内部電極及び接続用電極が連続領域を残されるかどうかの点では相違する。
引用発明1では、「ダミー振動子」の形成領域であるかどうかに関係なく、自由端側の端面及び表面と、基端側の端面及び表面とに外部電極を施している。「駆動用圧電振動子の形成領域」につき、外部電極(補正発明1の「導電層」に相当する。)を比較すると、「先端面から固定領域の表面まで」形成されており、当然第1内部電極層(個別内部電極)と接続するように形成したものであるから、両者に相違はない(引用発明1において、外部電極が、若干の非導電面を介して表面から基端側の端面まで延びていることは相違点にはならない。そのことは、本願の【請求項1】を引用する【請求項4】に「前記ダミーの圧電振動子の表面、先端面、側面、及び前記ダミーの圧電振動子と駆動用圧電振動子との後端面に導電層が形成されている」とあり、実施例に当たる【図6】には駆動用圧電振動子の形成領域において、絶縁部を介して表面にも導電層が形成されていることからも明らかである。)。他方、「ダミーの圧電振動子の形成領域」につき同比較を行うと、先端面全面から表面にかけて及び後端面の全面から表面にかけて導電層を形成する点で一致するものの、「先端面の全面から後端面の全面まで延びる導電層」は引用発明1では形成されていない。
引用発明1では、基端側端面は完全には切割りされておらず、基端側端面に形成された外部電極は、ダミー振動子の形成領域と駆動用圧電振動子の形成領域において連続している(導通している)から、すべての(駆動用圧電振動子及びダミーの圧電振動子の)第3内部電極層(共通内部電極)及び第2内部電極層(接続用電極)は「ダミーの圧電振動子の導電層」と導通している。
したがって、補正発明1と引用発明1とは、
「共通内部電極と、個別内部電極とを圧電材料を介して積層し、共通内部電極を固定端側の後端面に、また個別内部電極を自由端側の先端面に露出させ、また各内部電極とは絶縁されて後端面に露出する接続用電極を形成するとともに、駆動用圧電振動子の形成領域では前記個別内部電極と接続するように先端面から固定領域の表面まで延びる導電層が形成され、またダミーの圧電振動子の形成領域では先端面の全面から表面にかけて及び後端面の全面から表面にかけて導電層が形成された圧電振動板を、非振動領域を固定基板に固定し、前記駆動用圧電振動子を形成すべき領域では前記導電層を相互に分離できるスリットにより前記後端側に露出する前記共通内部電極及び前記接続用電極が導通可能な連続領域を残して歯割され、前記ダミーの圧電振動子の導電層により、前記駆動用圧電振動子及び前記ダミーの圧電振動子の前記共通内部電極及び前記接続用電極が導通されている圧電振動子ユニット。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉ダミーの圧電振動子の形成領域における導電層につき、補正発明1では「先端面の全面から後端面の全面まで延びる、すなわち表面の端から端まで形成されているのに対し、引用発明1では若干の非導電面を介在させており、それに伴い補正発明1ではダミーの圧電振動子の導電層によりダミーの圧電振動子の全ての個別内部電極が導通されるのに対し、引用発明1ではダミーの圧電振動子の導電層とダミーの圧電振動子の個別内部電極は導通されない点。
〈相違点2〉補正発明1では、「スリットにより前記後端側に露出する全ての前記共通内部電極及び前記接続用電極が導通可能な連続領域を残して歯割され」ているのに対し、引用発明1では全ての前記共通内部電極及び前記接続用電極が導通可能な連続領域を残して歯割され」ているとまではいえない点。
〈相違点3〉補正発明1では「前記導電層の前記圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で駆動信号を供給する可撓性ケーブルが接続される」のに対し、引用発明1では、そのような可撓性ケーブルを接続することはできない点。

7.相違点についての判断及び補正発明1の独立特許要件の判断
(1)相違点1について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-330038号公報(以下「引用例2」という。)には、「列状に配置された複数の変換器22は、その並び方向に直交する面に電気接点28と29を有し、この一方の電気接点28は導電性部材23で連結され、変換器22bは2つの電気接点28と29が電気的に導通しているダミー変換器であることを特徴とする。」(1頁【要約】の【構成】欄)、「圧電性素子のブロックは36部の電極が除去されているため、両端を除く内側の積層圧電素子22aは個別電極29と共通電極28が分離するが、両端の積層圧電素子22bは個別電極と共通電極が一つの電極30として電気的に接続される。」(段落【0022】)及び「図6に示すように圧電素子のブロック32の電極38、39が36部で切れているため、・・・両端の積層圧電素子22bの個別電極と共通電極も分離される。従って、図7に示すように本実施例では共通電極28を連結する導電性部材23がコの字型をしており、この導電性部材23によって両端の積層圧電素子22bの個別電極と共通電極を接続している。」(段落【0025】)との各記載があり、「両端の積層圧電素子22b」は補正発明1にいう「ダミーの圧電振動子」であるから、引用例2にはダミーの圧電振動子において、個別電極と共通電極を電気的に接続することが記載されている。
さらに、引用例2には「圧電素子のブロック32・・・の表面にはスパッタリングによってNiとAuからなる電極38が形成され、更に36部と図2に示すように反対面の35部に対応する部分の電極がエッチングによって除去されている。」(段落【0021】)との記載があり、【図4】には「両端の積層圧電素子22b」に相当する部位の電極は除去されない様子が図示されている。
引用例1の【図3】には、フレキシブル回路基板16が図示されているところ、同図には「ダミー振動子13」の「第1の内部電極層」と接続されるリード線は描かれていないから、ダミー振動子の第1の内部電極層は、ダミー振動子の自由端側外部電極に接続されるだけで、フレキシブル回路基板16のどのリード線とも接続されていない。しかし、ダミー振動子(ダミーの圧電振動子)において、個別電極と共通電極を電気的に接続することは引用例2に記載されている(とりわけ、【図6】,【図7】及び段落【0025】の記載によれば、わざわざコの字型の導電性部材23を用いて、両端の積層圧電素子22bの個別電極と共通電極を接続しているのであるから、ダミー振動子において個別電極と共通電極を電気的接続することの必要性は十分認識されている。)のだから、引用発明1においてもそのようにすることは当業者にとって想到容易である。他方、引用発明1のダミー振動子(ダミーの圧電振動子)において、第3の内部電極層(共通内部電極)は外部共通電極11を介してフレキシブル回路基板16のリード線18と接続される(記載キ参照)のであるから、ダミー振動子の第1の内部電極層と第3の内部電極層を電気的に接続するためには、自由端側外部電極と基端側外部電極(外部共通電極11)とを接続すれば十分であることは明らかであり、さらに引用例2の【図4】はダミー振動子に相当する部位の電極38が除去されず、先端面から後端面まで延びているのであるから、引用発明1に引用例2記載の技術を適用して、相違点1に係る補正発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易といわざるを得ない。
この点請求人は「引用文献B(審決注;審決の「引用例2」)には、ダミーの積層圧電振動子(22b)には、先端面、後端面、及び表面に連続する電極30を形成して、ダミーの積層圧電振動子に形成されている複数の積層電極からなる共通電極(26)、及び個別電極(27)を導通可能に接続することが記載されているが、駆動用圧電振動子、及びダミーの圧電振動子は、圧電振動板の先端から後端まで貫通するスリットにより完全に分割されているから、圧電振動板の内部に形成された積層電極によるダミーの圧電振動子と駆動用圧電振動子との相互間の導通関係は絶たれている。」(平成15年5月26日付け手続補正書(方式)5頁5〜11行)と主張するが、圧電振動子をスリットにより完全に分割しないことは、引用発明1が備える構成であって、引用例2を引用する趣旨は、請求人も認めるとおりの「先端面、後端面、及び表面に連続する電極30を形成して、ダミーの積層圧電振動子に形成されている複数の積層電極からなる共通電極(26)、及び個別電極(27)を導通可能に接続すること」が公知技術であることの立証にある。したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(2)相違点2について
引用例1の実施例では、「スリットの底面の後端面の端部」は圧電振動板の表面側ではなく、基端部側端面に位置しているが、引用例1の記載オに「支持プレート15との接合端縁Aから少なくとも圧電プレート2の外部信号電極8の後端部とを結ぶ斜めの線」とあるとおり、「圧電プレート2の外部信号電極8の後端部」よりも基端側であることだけが必要とされている(外部信号電極8の後端部よりも先端側であると、スリットにより外部信号電極8を分離できないからである。)。
そして、引用発明1では「自由端側の端面及び上面と、基端側の端面及び上面とに若干の非導電面を介在させて外部電極を施して、上記自由端側を活性部、被支持部側を不活性部となし」たのであり、記載オの「外部信号電極8」とは「自由端側の端面及び上面」に形成した外部電極であるから、圧電プレートの表面には、「外部信号電極8」の後端部よりも基端側の部分が十分残っている。
引用発明1において「スリットの底面の後端面の端部」位置を「基端側表面の後端部近傍」とした趣旨も、基端側表面を含む趣旨と解すべきである。
そうである以上、引用発明1において「スリットの底面の後端面の端部」を基端側表面に位置させることはせいぜい設計事項というべきであり、かかる構成を採用すれば「スリットにより前記後端側に露出する全ての前記共通内部電極及び前記接続用電極が導通可能な連続領域を残して歯割され」との、相違点2に係る補正発明1の構成に至ることは明らかである。

(3)相違点3について
相違点1に係る補正発明1の構成を採用することが当業者にとって想到容易であることは(1)で述べたとおりである。かかる構成を採用すれば、ダミーの圧電振動子の形成領域では表面の端から端まで導電層が形成され、駆動用圧電振動子の形成領域では先端面から固定領域の表面まで導電層が形成されるのだから、先端面から固定領域の表面までは、ダミーの圧電振動子と駆動用圧電振動子の形成領域に共通して導電層が形成されることになり、同共通領域の導電層は当然に「前記導電層の前記圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で駆動信号を供給する可撓性ケーブルが接続される」ものである。
すなわち、相違点3は相違点1に付随する相違点にすぎず、独立した相違点ではないから、相違点1に係る補正発明1の構成を採用することが当業者にとって想到容易である以上、相違点3に係る補正発明1の構成を採用することも当業者にとって想到容易である。

(4)補正発明1の独立特許要件の判断
相違点1〜相違点3に係る補正発明1の構成を採用することは、せいぜい設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明1は、引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

8.補正発明9の独立特許要件の判断
本件補正後の【請求項1】と【請求項9】の記載によれば、補正発明9の「圧電振動子ユニット」は補正発明1そのものであるから、補正発明9は「補正発明1の圧電振動子ユニットと、ノズル開口とリザーバとに連通して圧電振動子により加圧される圧力発生室を備えた流路ユニットと、駆動用圧電振動子と、ダミーの圧電振動子との表面に形成された導電層の、前記圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で接続された駆動信号を供給する可撓性ケーブルとからなるインクジェット式記録ヘッド。」であると認定できる。
補正発明1が引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは既に述べたとおりであり、引用発明1は「インクジェット記録ヘッド用の圧電駆動体」であるから、「ノズル開口とリザーバとに連通して圧電振動子により加圧される圧力発生室を備えた流路ユニット」と組み合わされて「インクジェット式記録ヘッド」となることが予定されている。さらに、引用例1の記載キにあるとおり「フレキシブル回路基板」(補正発明9の「可撓性ケーブル」に相当する。)と接続されるものである。
もっとも、引用発明1ではダミーの圧電振動子の形成領域における導電層が表面の端から端まで形成されておらず、そのため「圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で接続された駆動信号を供給する可撓性ケーブル」と接続することはできない(補正発明1との相違点3として認定したとおりである。)けれども、補正発明1と引用発明1との相違点1,3に係る構成が当業者にとって想到容易であることは既に述べたとおりである。そして、圧電振動子の列設方向に延びる同一線上に、可撓性ケーブルと接続すべき導電層があれば、圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で、駆動信号を供給する可撓性ケーブルと接続することは極めて自然である。実際、特開平7-195688号公報には、引用発明1における「若干の非導電面」の位置を、ダミーの圧電振動子の形成領域と駆動用圧電振動子の形成領域とで異ならせることにより「駆動用圧電振動子と、ダミーの圧電振動子との表面に形成された導電層の、前記圧電振動子の列設方向に延びる同一線上で接続された駆動信号を供給する可撓性ケーブル」との構成を採用することが記載されている。
以上を総合すれば、補正発明9も引用発明1(を用いたインクジェット式記録ヘッド)及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上述べたとおり、本件補正は平成14年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反するとともに、一部の補正事項(補正事項3,5)が同項2号に該当するとすれば(補正後請求項1については疑義があるが、補正後請求項5については補正事項5があるため明らかに該当する。)、そのさらに一部の補正事項(補正事項3)は同条3項の規定に違反するとともに、同条5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。
したがって、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1及び請求項11に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明11」という。)は、平成15年2月24日手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】及び【請求項11】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
本願発明1:「共通内部電極と、個別内部電極とを圧電材料を介して積層し、共通内部電極を固定端側の後端面に、また個別内部電極を自由端側の先端面に露出させ、また各内部電極とは絶縁されて後端面に露出する接続用電極を形成するとともに、駆動用圧電振動子の形成領域では先端面から固定領域の表面まで、またダミーの圧電振動子の形成領域では先端面から後端面まで延びる導電層が形成された圧電振動板を、非振動領域を固定基板に固定し、後端側が連続領域となり、かつ駆動用圧電振動子を形成すべき領域では前記導電層を相互に分離できるスリットにより歯割するとともに、前記スリットの底面の後端面の端部が、前記圧電振動板の表面側に位置している圧電振動子ユニット。」
本願発明11:「共通内部電極と、個別内部電極とを圧電材料を介して積層し、共通内部電極を固定端側の後端面に、また個別内部電極を自由端側の先端面に露出させ、また各内部電極とは絶縁されて後端面に露出する接続用電極を形成するとともに、駆動用圧電振動子の形成領域では先端面から固定領域の表面まで、またダミーの圧電振動子の形成領域では先端面から後端面まで延びる導電層が形成された圧電振動板を、非振動領域を固定基板に固定し、後端側が連続領域となり、かつ駆動用圧電振動子を形成すべき領域では前記導電層を相互に分離できるスリットにより歯割するとともに、前記スリットの底面の後端面の端部が、前記圧電振動板の表面側に位置している圧電振動子ユニットと、
ノズル開口とリザーバとに連通して前記圧電振動子により加圧される圧力発生室を備えた流路ユニットと、
前記駆動用圧電振動子と、前記ダミーの圧電振動子との表面に形成された導電層に接続して駆動信号を供給する可撓性ケーブルとからなるインクジェット式記録ヘッド。」

2.本願発明1の進歩性の判断
本願発明1と引用発明1とを比較すると、
「共通内部電極と、個別内部電極とを圧電材料を介して積層し、共通内部電極を固定端側の後端面に、また個別内部電極を自由端側の先端面に露出させ、また各内部電極とは絶縁されて後端面に露出する接続用電極を形成するとともに、駆動用圧電振動子の形成領域では先端面から固定領域の表面まで導電層が形成された圧電振動板を、非振動領域を固定基板に固定し、後端側が連続領域となり、かつ駆動用圧電振動子を形成すべき領域では前記導電層を相互に分離できるスリットにより歯割した圧電振動子ユニット。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1’〉ダミーの圧電振動子の形成領域において、本願発明1では先端面から後端面まで延びる導電層が形成されているのに対し、引用発明1では先端面から固定領域の表面まで及び絶縁部を介して表面から後端面まで導電層が形成されている点。
〈相違点2’〉本願発明1では「スリットの底面の後端面の端部が、前記圧電振動板の表面側に位置している」のに対し、引用発明1で「スリットの底面の後端面の端部」に相当するのは「斜めの線」の一端であるところ、それは「基端側上面の後端部近傍」とされている点。

これら相違点について検討すると、「第2 [理由]7」において、相違点1及び相違点2として検討したと同様の理由により、相違点1’に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、相違点2’に係る本願発明の構成を採用することはせいぜい設計事項である。また、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3.本願発明11の進歩性の判断
【請求項1】と【請求項11】の記載によれば、本願発明11の「圧電振動子ユニット」は本願発明1そのものであるから、本願発明11は「本願発明1の圧電振動子ユニットと、ノズル開口とリザーバとに連通して圧電振動子により加圧される圧力発生室を備えた流路ユニットと、駆動用圧電振動子と、ダミーの圧電振動子との表面に形成された導電層に接続して駆動信号を供給する可撓性ケーブルとからなるインクジェット式記録ヘッド。」であると認めることができる。
本願発明1が引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは既に述べたとおりであり、引用発明1は「インクジェット記録ヘッド用の圧電駆動体」であるから、「ノズル開口とリザーバとに連通して圧電振動子により加圧される圧力発生室を備えた流路ユニット」と組み合わされて「インクジェット式記録ヘッド」となることが予定されている。さらに、引用例1の記載キにあるとおり「フレキシブル回路基板」(本願発明11の「可撓性ケーブル」に相当する。)と接続されるものであり、「インクジェット式記録ヘッド」としては「駆動用圧電振動子と、ダミーの圧電振動子との表面に形成された導電層に接続して駆動信号を供給する可撓性ケーブル」も備えるものである。
したがって、本願発明11は引用発明1(を用いたインクジェット式記録ヘッド)及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明1及び本願発明11が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-21 
結審通知日 2005-09-28 
審決日 2005-10-12 
出願番号 特願平10-263119
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 56- Z (B41J)
P 1 8・ 561- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大元 修二後藤 時男  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 酒井 進
藤本 義仁
発明の名称 圧電振動子ユニット、及びインクジェット式記録ヘッド  
代理人 木村 勝彦  

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