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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C11D
管理番号 1127188
審判番号 不服2003-18614  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-10-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-24 
確定日 2005-11-28 
事件の表示 平成 9年特許願第 91779号「汚損物の洗浄方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月20日出願公開、特開平10-279999〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成9年4月10日の出願であって、平成14年11月12日付けで手続補正書が提出され、拒絶理由通知に対し平成15年7月25日付けで意見書が提出され、平成15年9月24日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成15年10月23日付けで手続補正書及び審判請求書の手続補正書が提出され、さらに、当審の拒絶理由通知に対し平成17年9月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明について

本願の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」〜「本願発明3」という。)は、平成14年11月12日付け手続補正書、平成15年10月23日付け手続補正書、及び、平成17年9月5日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定された以下のとおりのものである。

「【請求項1】 界面活性剤を添加しイオン性汚損物と油性汚損物を除去できるアルコール水溶液に表面の汚損物が除去された洗浄物を浸漬して前記洗浄物を洗浄する一次洗浄工程と、前記洗浄物を前記界面活性剤を含まないアルコール水溶液を流水状態にして洗浄する二次洗浄工程と、前記洗浄物に付着したアルコール水溶液を除去する液切り工程と、前記洗浄物を乾燥する乾燥工程とよりなる汚損物の洗浄方法とからなり、
前記界面活性剤を非イオン性界面活性剤又は陰イオン性界面活性剤としたことを特徴とする汚損物の洗浄方法。
【請求項2】 界面活性剤を添加しイオン性汚損物と油性汚損物を除去できるアルコール水溶液に表面の汚損物が除去された洗浄物を浸漬して前記洗浄物を洗浄する一次洗浄工程と、前記洗浄物を前記界面活性剤を含まないアルコール水溶液を流水状態にして洗浄する二次洗浄工程と、前記洗浄物に付着したアルコール水溶液を除去する液切り工程と、前記洗浄物を乾燥する乾燥工程とよりなる汚損物の洗浄方法とからなり、
前記界面活性剤を非イオン性界面活性剤又は陰イオン性界面活性剤としたことを特徴とする汚損物の洗浄方法。
【請求項3】前記アルコール水溶液への前記界面活性剤の添加量を0.1 重量%〜3重量%としたことを特徴とする請求項1または請求項2野いずれかに記載の汚損物の洗浄方法。」

3.刊行物及びその記載事項

これに対して、当審の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平06-254519号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開平07-090656号公報(以下、「刊行物2」という。)、特開平05-175641号公報(以下、「刊行物3」という。)、又は、特開平07-214014号公報(以下、「刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、刊行物1〜4は、いずれも原査定の拒絶の理由にも引用されている。)。

刊行物1には、以下の事項が記載されている。
摘示事項(1-1)「【請求項1】1分子を構成する炭素原子の数が1個から3個である、飽和1価アルコールの濃度が60重量%未満の水溶液に、3から30重量%のモルフォリンを溶解した原液を主剤としたアルコール系洗浄剤。
【請求項2】上記原液は、界面活性剤または防錆剤、あるいはこれら両者を助剤とし、添加して用いることを特徴とする請求項1記載のアルコール系洗浄剤。」(請求項1〜2)
摘示事項(1-2)「【0003】上記ハロゲン化炭化水素の代替として、界面活性剤や各種アルカリなどを配合した水系洗浄剤が見直されるようになってきたが、これらの水系洗浄剤は、洗浄の工程であるすすぎや乾燥、あるいは排水処理などに対し、それぞれ弱点をもっている。また、アルコールは親水性の溶剤であって、単体における洗浄力はあまりよくないが、すすぎ用媒液や乾燥用媒液としてはすぐれた性質をもっており、かつ、無公害であるという面で上記水系洗浄剤よりもすぐれている。しかし、上記アルコールには可燃性であるという弱点があった。
【0004】ところで、平成元年に改訂された消防法によると、1分子を構成する炭素原子の数が1個から3個の飽和1価アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)は、濃度60重量%未満の水溶液にしたときに、危険物扱いから除外されることになった。アルコールを低濃度にして用いることにより安全性を高めることができるが、それに伴い洗浄力も低下してしまうという欠点を生じることになる。」(段落0003、段落0004)
摘示事項(1-3)「低濃度にし、安全性を高めたアルコールの洗浄性能を補強するためその洗浄剤としての長所を損うことがないモルフォリンを、助剤として配合することにより洗浄力を向上させるものである。」(段落0006)
摘示事項(1-4)「上記モルフォリンはアンモニア臭を有する液体で、水に極めてよく溶け、動植物性油脂や樹脂およびロジンなどに対する溶剤であるが、単独で使用する場合には炭化水素系溶剤に較べて溶解力が劣る。しかし、発明者らは、上記モルフォリンが60重量%未満アルコールの脱脂洗浄力の強化には適していることに着目し、その結果を実験的に確認することができた。また、モルフォリンは沸点が128.3℃の揮発性物質であるため、乾燥工程で容易に除去することができる。このような利点をもつ反面、可燃性であり、弱い毒性をもっているが、低濃度で使用するかぎりにおいては、危険性は少なくなるものと考えられる。」(段落0009)
摘示事項(1-5)「【0012】
【実施例】
つぎに本発明の実施例を図面とともに説明する。図1は本発明によるアルコール系洗浄剤の洗浄性能評価に使用した装置のプロセスフローを示す図で、(a)は本発明のアルコール系洗浄剤に用いた装置を示す図、(b)は従来のハロゲン化炭化水素系溶剤に用いた装置をそれぞれ示す図である。
【0013】第1実施例
本発明の第1実施例は、はんだフラックスの洗浄について、本発明によるアルコール系洗浄剤と従来用いられていたハロゲン化炭化水素系溶剤との、洗浄性能評価を行ったものである。評価試験に使用した試料は、70mm×70mmの大きさで1.6mm厚さのガラス繊維入りエポキシ樹脂プリント基板に、電子部品をはんだ付けしたものであって、上記基板の表面には約200mgのはんだフラックスが付着している。
【0014】本発明によるアルコール系洗浄剤の洗浄性能評価試験には図1(a)に示す装置を使用し、従来のハロゲン化炭化水素系溶剤の洗浄性能評価試験には図1(b)に示す装置を使用した。上記のように、本発明のアルコール系洗浄剤と従来のハロゲン化炭化水素系溶剤とで洗浄のプロセスフローが異なるのは、水系である上記アルコール系洗浄剤に用いた方法では、低沸点の揮発性溶剤であるハロゲン化炭化水素系溶剤の場合に洗浄することができないので、それぞれの洗浄剤に適した洗浄方法を用いて洗浄評価を行った。すなわち、本発明によるアルコール系洗浄剤の場合には、第1槽で常温の超音波洗浄を行い、第2槽および第3槽では脱イオン水によるすすぎをつづけて行い、第4槽において120℃の温風により乾燥した。これに対し、ハロゲン化炭化水素系溶剤の場合には、第1槽で常温の超音波洗浄を行ったのち、第2槽で再び洗浄を実施し、第3槽で沸点における蒸気洗浄を行った。
【0015】上記の各プロセスフローによりそれぞれ洗浄試験を行った結果を表1に示す。
【0016】
【表1】


【0017】洗浄後におけるはんだフラックスの量は、清浄な媒体(イソプロパノール)に抽出してイオン濃度を測定し、Naイオンの濃度に換算して示してある。上記表1に示す結果から、本発明によるアルコール系洗浄剤を使用してはんだフラックスを洗浄したときの残留汚れが、従来のハロゲン化炭化水素系溶剤によるはんだフラックスの洗浄における残留汚れと、同等程度であることが明らかである。」(段落0012〜段落0017)
摘示事項(1-6)「【0025】第4実施例
上記第3実施例で用いたアルコール系洗浄剤に界面活性剤を僅かに添加した場合の油汚れ洗浄試験を第4実施例とし、その試験結果を表4に示す。
【0026】
【表4】


【0027】本実施例では表3に示す第3実施例よりも油汚れ除去率が僅かによくなっているにすぎないが、上記界面活性剤添加による洗浄効果は汚れの種類によって異なるため、洗浄対象物によってはさらに大きな効果を期待できる。また、防錆剤についても上記界面活性剤と同様の効果が得られる。なお、上記実施例に用いた界面活性剤は防錆効果を有している。」(段落0025〜段落0027)
摘示事項(1-7)「


」(図1)
摘示事項(1-8)「洗浄槽から取り出した試料には、汚れを含んだ洗浄液が付着している。この付着した洗浄液を清浄なすすぎ媒液で洗い流す工程がすすぎである。精密洗浄では微量の洗浄液分子が試料表面に吸着残留することも問題とし、上記すすぎ工程が重視される。」(段落0007)
摘示事項(1-9)「試料表面から分離した汚れを多量に含む上記洗い工程の媒液は、洗浄力が低下するから、定期的に交換する必要がある。すすぎ液にも洗浄剤と汚れとが含まれているので、同様に交換しなければならない。」(段落0008)

刊行物2には、以下の事項が記載されている。
摘示事項(2-1)「実装プリント基板をアルコール水溶液で洗浄する第1の工程と、この実装プリント基板に窒素ガスを吹きつけて乾燥することにより前記実装プリント基板上の水分を除去する第2の工程とを有する実装プリント基板の再生方法。」(請求項1)
摘示事項(2-2)「以下、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。本実施例における再生方法では、まず比較的大きい塵埃を静電ブラシで払いながら掃除機でその埃を吸い取ることにより、物理的に表面の塵埃の再付着を最小限にしつつ除去する。」(段落0007)
摘示事項(2-3)「【0008】次に、洗浄液(例えば、約50%エタノール水溶液)により、イオン性の汚損物質を洗い流す。このとき、図1に示すように、第1、2洗浄槽において槽内に洗浄液2を溜めておき、はけ1を使いながら洗い(同図(a),(b))、第3槽で洗浄液2を洗ビン3などを使って濯ぐことで、より効果を向上させている。
【0009】そして、窒素ガスボンベから約3MPa(約3kgf /cm2 )に減圧した窒素ガスを用いて、実装部品、例えばICや後付け部品の足の部分やコネクターピンの穴に入り込んだ洗浄液を吹き飛ばす。ところで窒素ガスを利用した理由は、本発明者等の研究によりアルカリ含浸ろ紙を窒素ガス環境に暴露しても何も検出されなかったことが判明したことから、周囲の腐食性ガスや塵埃の影響を受けることなく上記のような残留洗浄液を吹きとばすことができるからである。」(段落0008〜段落0009)

刊行物3には、以下の事項が記載されている。
摘示事項(3-1)「ロジン系ハンダフラックスが付着した基板に、一般式(1):
【化1】(省略)
で表されるグリコールエーテル系化合物の少なくとも一種を有効成分として含有してなる非ハロゲン系のロジン系ハンダフラックス洗浄剤を接触せしめ、該基板よりフラックスを洗浄除去し、次いですすぎ剤として低級アルコールもしくはその水溶液または低級アルキルエーテルを接触せしめることを特徴とする基板の洗浄処理方法。」(請求項1)
摘示事項(3-2)「かかるグリコールエーテル系化合物は単独で使用することもでき、またノニオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレンリン酸エステル系界面活性剤や、水等を適宜に組み合わせて混合物としても使用できる。」(段落0013)
摘示事項(3-3)「本発明では、上記のように非ハロゲン系洗浄剤により基板からロジン系ハンダフラックスを洗浄除去した後、さらに、すすぎ剤として低級アルコールもしくはその水溶液または低級アルキルエーテルを接触させる。かかるすすぎ剤は、残留している可能性のある前記非ハロゲン系の洗浄剤を完全に除去できるものである。また、乾燥性に優れたものであり、乾燥時間を短縮できる。」(段落0023)
摘示事項(3-4)「参考例1
ジエチレングリコールジメチルエーテル65重量部とポリエチレングリコールアルキルエーテル型ノニオン性界面活性剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「ノイゲンET-135」、一般式(2)においてR4 は炭素数12〜14の分岐鎖アルキル基、mが9のものである)20重量部および純水15重量部を混合して洗浄剤Aを調製した。」(段落0029)
摘示事項(3-5)「


」(表3)

刊行物4には、以下の事項が記載されている。
摘示事項(4-1)「被洗浄物を洗浄する洗浄液が満たされる洗浄槽と、上記洗浄後の被洗浄物のリンスを行うリンス液が満たされるリンス槽と、上記リンス後の被洗浄物の乾燥を行う乾燥槽と、がその順に並べられ1ユニット化されたことを特徴とする洗浄装置。」(請求項1)
摘示事項(4-2)「本発明は、加工後のワーク等の被洗浄物を洗浄する洗浄装置に関する。」(段落0001)
摘示事項(4-3)「【0029】洗浄液1aとしては、本実施例では、洗浄液1aの原液を水で希釈したものを使用している。洗浄液1aの原液の成分は、下記の通りのものを使用する。
【0030】
水 79.11%
エチレングリコール 9.27%
イソプロピルアルコール 2.08%
ビルダー 4.16%
陰イオン界面活性剤 1.48%
非イオン界面活性剤 1.05%
金属アセテート 2.31%
水酸化カリウム 0.18%
青色着色剤 0.36%」(段落0029、段落0030)

4.対比・判断

刊行物1には、アルコール水溶液にモルフォリンを溶解した原液を主剤とし、界面活性剤を添加してなるアルコール系洗浄剤、及び、これを用いて、洗浄・すすぎ・乾燥の3工程を行うことにより、被洗浄物を洗浄する方法が記載されているところ(摘示事項(1-1)、(1-7))、刊行物1には、洗浄後におけるはんだフラックスの量は、イオン濃度を測定しNaイオンの濃度に換算して示すこと、表1にはんだフラックスを洗浄したときの「残留汚れNaイオン換算」が示されていること、及び、表4には「油汚れの除去率」と「洗浄後の残留汚れ」が記載されていることから、刊行物1に記載された発明においては、イオン性汚れと油汚れがともに除去されるものと認められる(摘示事項(1-5)、摘示事項(1-6))。また、刊行物1に記載の発明においては、洗浄時に槽内で超音波を用いていることから、被洗浄物が洗浄液に浸漬されていることは明らかである(摘示事項(1-7))。よって、刊行物1には、「被洗浄物を、アルコール、モルフォリン、界面活性剤及び水を含有するイオン性汚れと油汚れを除去できる洗浄剤に浸漬して洗浄を行い、すすぎを行い、乾燥させてなる洗浄方法」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める(摘示事項(1-1)、(1-5)〜(1-7))。

そこで、刊行物1発明と本願発明1とを比較する。
本願明細書段落0011、及び、段落0020〜0022の記載からみて、本願発明1における「二次洗浄工程」とは、「すすぎ洗浄工程」であって、刊行物1発明のすすぎ工程と実質的に同じものであるから、刊行物1発明の「アルコール、モルフォリン、界面活性剤及び水を含有する洗浄剤」、及び、「被洗浄物」、並びに、「洗浄を行い、すすぎを行い及び乾燥させる各工程」は、それぞれ、本願発明1の「界面活性剤を添加しイオン性汚損物と油性汚損物を除去できるアルコール水溶液」、及び、「洗浄物」、並びに、「一次洗浄工程、二次洗浄工程及び乾燥工程」に相当する。
よって、両者は、「界面活性剤を添加しイオン性汚損物と油性汚損物を除去できるアルコール水溶液に洗浄物を浸漬して前記洗浄物を洗浄する一次洗浄工程と、前記洗浄物を洗浄する二次洗浄工程と、前記洗浄物を乾燥する乾燥工程とよりなる汚損物の洗浄方法。」という点で一致する。
しかしながら、洗浄物が、本願発明1においては、その表面の汚損物が除去されているのに対し、刊行物1発明においては、これが除去されていない点(以下、「相違点1」という。)、乾燥工程の前に、本願発明1においては、液切り工程が設けられているのに対し、刊行物1発明においては、これが設けられていない点(以下、「相違点2」という。)、二次洗浄工程で、本願発明1においては、界面活性剤を含まないアルコール水溶液を流水状態で用いるのに対し、刊行物1発明においてはこのようなことは特定されていない点(以下、「相違点3」という。)、及び、洗浄液が、本願発明1においては、モルフォリンを含有せず、特定の界面活性剤を含有するのに対し、刊行物1発明の洗浄液は、モルフォリンを必須成分として含有し、界面活性剤を特定していない点(以下、「相違点4」という。)で相違する。

これらの相違点について検討する。
相違点1について検討する。
刊行物2には、洗浄前に、実装プリント基板の表面の塵埃を除去することが記載されており(摘示事項(2-2))、刊行物1発明及び刊行物2に記載の発明は、プリント基板等の洗浄方法という同じ技術分野に属するものであり、これらを組み合わせることを妨げる特段の事情も存在しないから、刊行物1発明において、刊行物2に記載のとおり、洗浄前に、洗浄物の表面の汚損物を除去することは、当業者が普通に行う範囲内のものである。

相違点2について検討する。
刊行物2には、実装プリント基板をアルコール水溶液で洗浄する第1の工程と、この実装プリント基板に窒素ガスを吹きつけて、前記実装プリント基板上の残留洗浄液(注:アルコール水溶液)を除去する第2の工程とを有する実装プリント基板の再生方法が記載されており(摘示事項(2-1)、(2-3))、刊行物1発明及び刊行物2に記載の発明は、上記したようにプリント基板等の洗浄方法という同じ技術分野に属するものであり、これらを組み合わせることを妨げる特段の事情も存在しないから、刊行物1発明において、刊行物2に記載のとおり、窒素ガスを吹きつけて、洗浄物上のアルコール水溶液を除去することは、当業者が容易になしえたことである。

相違点3について検討する。
まず、二次洗浄工程において用いる物質(界面活性剤を含まないアルコール水溶液)については、刊行物1には、洗浄性能評価に使用した装置においては、すすぎを脱イオン水で行っているが(摘示事項(1-7))、アルコールがすすぎ用媒液として優れた性質をもっていること、可燃性であるという弱点があったが、一定濃度未満の水溶液にすれば安全性を高められることが記載されており(摘示事項(1-2))、刊行物2にもエタノール水溶液を用いて濯ぐことが記載されており(摘示事項(2-3))、更に、刊行物3には、基板に、グリコールエーテル系化合物の少なくとも一種を有効成分として、ノニオン性界面活性剤や、水等を適宜に組み合わせて混合物とした洗浄剤を接触せしめ、該基板よりフラックスを洗浄除去し、次いですすぎ剤として低級アルコール水溶液を接触させてなる基板の洗浄処理方法が記載されている(摘示事項(3-1)、(3-2))。また、刊行物1〜3に記載の発明は、プリント基板等の洗浄方法という同じ技術分野に属するものであり、すすぎ前の洗浄液の成分も類似しており、これらを組み合わせることを妨げる特段の事情も存在しないことからみて、刊行物1発明において、すすぎ剤として、刊行物2、3に記載されている低級アルコール水溶液を接触させることは、当業者が容易になしえたことである。
つぎに、洗浄方法(流水状態での洗浄)については、すすぎ工程は、清浄なすすぎ液を用いて洗浄物に付着した汚れを含んだ洗浄液を除去する工程であり(摘示事項(1-8))、すすぎ液には洗浄剤と汚れが含まれているので、定期的に交換する必要があることが知られており(摘示事項(1-9))、新たなすすぎ剤を供給するために、すすぎ剤を単に流水状態とすることも周知慣用技術というべきものであるから、刊行物1発明において、流水状態で洗浄することは、当業者が容易になしえたことである。

相違点4について検討する。
まず、モルフォリンについては、刊行物1発明において、モルフォリンは、アルコールの洗浄力を向上させるために配合される助剤である(摘示事項(1-2))。ところで、刊行物1には、更に界面活性剤を加えたものが、アルコールとモルフォリンと水からなる洗浄剤よりも、若干であるが油汚れとイオン汚れの除去に優れることが記載され(摘示事項(1-6))、また、刊行物2には、モルフォリンを含有しないアルコール水溶液である洗浄液がイオン性の汚損物質を洗い流すことができると記載され(摘示事項(2-3))、更に刊行物3には、グリコールエーテルと併用したものではあるが、界面活性剤の配合により、イオン性汚れの除去において優れる場合があることが記載されている(摘示事項(3-5))。そうしてみると、刊行物1発明におけるアルコール系洗浄剤において、界面活性剤及びアルコールの種類や配合のしかた等を考慮することで、アンモニア臭を有し、可燃性であり、弱い毒性をもっているとの欠点を有するモルフォリン(摘示事項(1-4))の添加を要しないものとすることは、当業者が試みる範囲内のものと認められる。
つぎに、界面活性剤については、刊行物4には、ワーク等の被洗浄物を洗浄する洗浄装置において、洗浄液として、水、イソプロピルアルコール、陰イオン界面活性剤、及び、非イオン界面活性剤を含有してなるものを使用し得ることが記載されている(摘示事項(4-1)〜(4-3))。刊行物1発明及び刊行物4に記載の発明は、プリント基板等の洗浄方法という同じ技術分野に属するものであるから、刊行物1発明の洗浄液の界面活性剤として、刊行物4に記載の陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤を使用することは、当業者の通常行うところと認められる。

以上のとおりであるから、上記相違点1〜4は格別の創意を要したものとは認められない。

なお、本願発明2は、本願発明1と同一であるから、上記と同様に判断されるものであり、本願発明3は、本願発明1において、アルコール水溶液への界面活性剤の添加量を0.1重量%〜3重量%とするものであるが、刊行物1には、洗浄剤における界面活性剤の添加量が1重量%と記載されている(摘示事項(1-4))ので、この点については、実質的な相違点ではなく、その他の点については、本願発明1と同様に判断されるものである。

5.効果について

本願発明1〜3の効果は、イオン性や油性の汚損物質を効果的に除去できることにある(本願明細書段落0046)。
刊行物1には、洗浄によって、油汚れ及び残留汚れNaイオン換算を少なくすることができると記載されている(摘示事項(1-4))。刊行物2には、洗浄液により、イオン性の汚損物質を洗い流すことが記載されている(摘示事項(2-3))。刊行物3には、洗浄によって、フラックス及び当量NaCl汚染を少なくすることができると記載されている(摘示事項(3-5))。残留汚れNaイオン換算又は当量NaCl汚染は、イオン性の汚損物質とみるべきである。よって、刊行物1〜3には、洗浄によって、油汚れ及び/又はイオン性の汚損物質を少なくすることができるという効果が記載されており、本願発明1〜3の効果は、刊行物1〜3の効果の単純な総和の域を出ないとみるほかない。

6.請求人の主張

請求人は、平成17年9月5日付け意見書において、刊行物1〜4には、すすぎを流水状態にして洗浄すること、また、流水状態とすることで腐食の原因となる界面活性剤を洗い流し、完全に除去できることが記載されていなので、本願発明1〜3は、刊行物1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨(同意見書2頁(4))主張している。
これについて、当審の見解を述べることにする。
上記4.で述べたとおり、すすぎ工程において、すすぎ剤は交換する必要があるものであって、新たなすすぎ剤を供給するために、すすぎ剤を単に流水状態とすることは周知慣用技術というべきものであるから、この点は、格別の創意を要しないものであり、すすぎ剤として、アルコールを用いると残留している可能性のある(界面活性剤を含有する)洗浄剤を完全に除去できる旨の記載もされているのであるから(摘示事項(3-2)、(3-3))、請求人の主張する上記効果もここから予測しうるところである。そして、上記5.で述べたとおり、本願発明1〜3の効果は、刊行物1〜3の効果の単純な総和の域を出ないのであるから、当然、すすぎ剤を流水状態とすることの効果についても同様のことがいえる。

したがって、請求人のかかる主張は採用できない。

7.むすび

以上のとおり、本願発明1〜3は、刊行物1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-03 
結審通知日 2005-10-04 
審決日 2005-10-17 
出願番号 特願平9-91779
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 冨永 保
原田 隆興
発明の名称 汚損物の洗浄方法  
代理人 堀口 浩  
代理人 堀口 浩  

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