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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
管理番号 1127304
異議申立番号 異議2003-72943  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-04-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-03 
確定日 2005-10-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3412682号「インクジェット式記録ヘッドの駆動方法及びインクジェット式記録装置」の請求項1ないし29に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3412682号の請求項1ないし29に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・平成10年9月22日 特許権者により本件出願
・平成15年3月28日 特許第3412682号として設定登録(請求項1〜29)
・平成15年12月3日 特許異議申立人渡辺等(以下「渡辺」という。)より請求項1〜29に係る特許に対して特許異議申立
・同日 特許異議申立人東芝テック株式会社(以下「東芝テック」という。)より請求項1,2,4〜12,14,15,17〜25に係る特許に対して特許異議申立
・平成17年6月28日付け 当審にて取消理由を通知
・同年9月6日 特許権者より意見書及び訂正請求書提出

第2 訂正の許否の判断
1.訂正の内容
平成17年9月6日付け訂正請求による訂正事項は次のとおりである。
訂正事項1:訂正前請求項3記載の「請求項1又は2において」を「請求項2において」と訂正する。
訂正事項2:訂正前請求項16記載の「請求項14又は15において」を「請求項15において」と訂正する。
訂正事項3:明細書の段落【0012】記載の「第1又は2の態様において」を「第2の態様において」と訂正する。
訂正事項4:明細書の段落【0040】記載の「第14又は15の態様において」を「第15の態様において」と訂正する。

2.訂正目的、特許請求の範囲の拡張・変更の有無、及び新規事項の存否
訂正事項1,2は従属形式で記載された請求項において引用される請求項を訂正前の2項から1項に減縮するものであり、訂正事項3は訂正事項1に、訂正事項4は訂正事項2に単に付随して記載を改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする(平成15年改正前特許法120条の4第1項ただし書き1号該当)ものと認める。あるいは、削除された被引用請求項(請求項1,14)には、請求項3,16記載の「前記準備工程」に該当する工程が特定されていないから、訂正前において請求項1,14を引用したことが誤記であり、誤記の訂正を目的とする(平成15年改正前特許法120条の4第1項ただし書き2号該当)と考えることもできる。
訂正事項1〜4が実質上特許請求の範囲の拡張・変更するものでないこと、及び願書に添付した明細書又は図面に記載の範囲内の訂正であることは明らかである。

3.結論
以上のとおり、平成17年9月6日付け訂正請求は平成15年改正前特許法120条の4第1項ただし書き並びに同条3項で準用する同法126条2項及び3項の規定に適合する。
よって、訂正を認める。

第3 特許異議申立についての判断
1.本件発明の認定
訂正が認められるから、本件の請求項1〜29に係る発明(以下、請求項番号に応じて「本件発明1」〜「本件発明29」という。)は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】〜【請求項29】に記載された事項によって特定されるものであり、【請求項1】〜【請求項29】の記載は次のとおりである。
【請求項1】 ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、
前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口からインクを吐出させる第1の収縮工程と、この第1の収縮工程の反動によるメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを具備し、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項2】 請求項1において、前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを後退させ、インク吐出の準備を行う準備工程を具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項3】 請求項2において、前記第1の収縮工程の収縮量が前記準備工程での膨張量の50%以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項4】 請求項1〜3の何れかにおいて、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2前後であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項5】 請求項1〜4の何れかにおいて、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から最も深く後退する時点t2までの間であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項6】 請求項5において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)×3/4]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項7】 請求項6において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)/2]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項8】 請求項1〜7の何れかにおいて、前記第1の収縮工程での駆動信号の印加時間及び前記第2の収縮工程での駆動信号の印加時間が、それぞれ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項9】 請求項1〜8の何れかにおいて、前記第2の収縮工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程を具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項10】 請求項9において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第1の膨張工程が開始されるまでの時間が、実質的に前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項11】 請求項9又は10において、前記第1の膨張工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが最も深く後退する時点t2であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項12】 請求項9〜11の何れかにおいて、前記第1の膨張工程で前記圧力発生室を膨張させるための駆動信号の印加時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項13】 請求項9〜12の何れかにおいて、前記第1の膨張工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を収縮させる第3の収縮工程を具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項14】 ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドと、
前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口からインクを吐出させる第1の収縮工程と、この第1の収縮工程の反動によるメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間となるように実行する駆動信号を前記圧電素子に出力する駆動手段とを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項15】 請求項14において、前記駆動手段は、前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを後退させ、インク吐出の準備を行う準備工程を実行することを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項16】 請求項15において、前記第1の収縮工程の収縮量が前記準備工程での膨張量の50%以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項17】 請求項14〜16の何れかにおいて、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2前後であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項18】 請求項14〜17の何れかにおいて、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から最も深く後退する時点t2までの間であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項19】 請求項18において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)×3/4]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項20】 請求項19において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)/2]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項21】 請求項14〜20の何れかにおいて、前記第1の収縮工程での駆動信号の印加時間及び前記第2の収縮工程での駆動信号の印加時間が、それぞれ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項22】 請求項14〜21の何れかにおいて、前記第2の収縮工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程を具備するインクジェット式記録装置。
【請求項23】 請求項22において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第1の膨張工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項24】 請求項22又は23において、前記第1の膨張工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが最も深く後退する時点t2であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項25】 請求項22〜24の何れかにおいて、前記第1の膨張工程で前記圧力発生室を膨張させるための駆動信号の印加時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項26】 請求項22〜25の何れかにおいて、前記第1の膨張工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を収縮させる第3の収縮工程を具備するインクジェット式記録装置。
【請求項27】 請求項14〜26の何れかにおいて、前記駆動手段が実行する一連の前記各工程の開始前後の状態では、前記圧電アクチュエータに所定の電圧が印加されていることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項28】 請求項14〜27の何れかにおいて、前記圧力発生室の収縮は、前記圧電アクチュエータに所定の電圧を印加して変形させることにより行うことを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項29】 請求項14〜27の何れかにおいて、前記圧力発生室の収縮は、前記圧電アクチュエータに印加した所定の電圧を解除して変形させることにより行うことを特徴とするインクジェット式記録装置。

2.特許異議申立理由の骨子
(1)渡辺が主張する取消理由
以下の取消理由1〜10のとおり、請求項1〜29に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされた特許であるから、特許法113条2号の規定により、これら特許は取り消されるべきである。
取消理由1:請求項1,14に係る発明は特開平6-286131号公報(以下「引用例1」という。渡辺等が添付した甲第1号証はそれに対応するものを特許庁が提供するホームページからプリントアウトしたものである。)又は特開平2-506号公報(甲第2号証、以下「引用例2」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
取消理由2:請求項2,15に係る発明は、引用例1記載の発明に基づいて、又は引用例1若しくは引用例2に記載の発明に国際公開パンフレット97/37852号(以下「引用例4」という。添付した甲第4号証はその再公表公報である。)記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものである。
取消理由3:請求項3,16に係る発明は、引用例1又は引用例2に記載の発明に引用例4記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものである。
取消理由4:請求項4,17係る発明は、引用例1若しくは引用例2に記載の発明に基づいて、又はこれら発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものである。
取消理由5:請求項5,18に係る発明は、引用例1若しくは引用例2に記載の発明に基づいて、又は引用例1若しくは引用例2に記載の発明に引用例4若しくは特開平7-148920号公報(甲第5号証)記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものである。
取消理由6:請求項6〜8,19〜21,28に係る発明は、引用例1記載の発明に基づいて、又は引用例1及び引用例2に記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものである。
取消理由7:請求項9〜12,22〜25に係る発明は、引用例1記載の発明に基づいて、又は引用例1若しくは引用例2に記載の発明に特開平10-202875号公報(甲第6号証。以下「引用例6」という。)記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものである。
取消理由8:請求項13,26に係る発明は、引用例1又は引用例2に記載の発明に特開平1-113252号公報(甲第3号証。以下「引用例3」という。)記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものである。
取消理由9:請求項27に係る発明は、引用例1若しくは引用例2に記載の発明に引用例4若しくは引用例6記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものである。
取消理由10:請求項29に係る発明は、引用例1記載の発明に基づいて、又は引用例1若しくは引用例2に記載の発明に引用例4若しくは引用例6記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものである。

(2)東芝テックの主張する取消理由
取消理由11:請求項1,2,4,8〜12,14,15,17,21〜25に係る発明は、特開平9-29961号公報(以下「引用例7」という。)に記載された発明であるから、これら請求項の特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号の規定により、これら特許は取り消されるべきである。
取消理由12:請求項5〜7,18〜20の記載は不明確であり、これら請求項の特許は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法113条4号の規定により、これら特許は取り消されるべきである。

3.当審の判断
(1)取消理由1(引用例1記載の発明に基づく進歩性)について
引用例1には、次のア〜エの記載が図示とともにある。
ア.「図2のインク室4bからインクを噴射するために、当該インク室4に対し図13(a)で示す噴射用電圧パルスBを与える」(段落【0019】)
イ.「上記ALはインク室4内の圧力波がインク室4の長手方向(マニホールド18からノズルプレート14まで、またはその逆)に対して、片道伝播するに必要な時間であり、インク室4の長さとインク中での音速によって決まる。」(段落【0020】)
ウ.「圧力波の伝播理論によると、圧力波の立ち上げからちょうどALの時間が立つとインク室4b内の圧力が逆転し、正の圧力に転じるが、このタイミングに合わせてインク室4bに印加されている電圧を0Vに戻す(図13(a))。すると、側壁6bおよび6cは変形前の状態に戻り、インクに圧力が加えられる。その時、前記正に転じた圧力と、側壁6b,6cが変形前の状態に戻って発生した圧力とがたし合わされ、図13(d)に示すような比較的高い圧力Pbがインク室4b内のインクに与えられて、インクがノズル12から噴出される。」(段落【0021】)
エ.「残留圧力変動をインク噴射後に消去する駆動方法、いわゆるキャンセル波形が種々提案されている。一例を説明すると、図13(a)の破線で示すキャンセルパルスKを噴射用パルスBの立ち下がりからAL後に印加し、その幅はALに等しく、極性はBと反対である。・・・このキャンセルパルスKを与えることによって側壁6b及び6cはインク噴射時と反対の動きをし、残留圧力変動と位相が反対の圧力波を与えて、残留圧力変動を消去する。」(段落【0024】)

渡辺は、引用例1【図13】の噴射用パルスBの立ち下がりに基づいてインクを吐出させる工程及びキャンセルパルスKの立ち下がりに基づいてインク室を収縮させる工程が、本件発明1,14の「第1の収縮工程」及び「第2の収縮工程」に相当すると主張しており、その限度において主張に誤りがあるとはいえない。この主張によれば、本件発明1,14の「前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間」には、引用例【図13】の噴射用パルスBの立ち下がりからキャンセルパルスKの立ち下がりまでの時間が相当することになる。
渡辺はまた、パルスBの立ち下がりからパルスKの立ち下がりまでの時間は「インク室4内の圧力波がインク室4の長手方向(マニホールド18からノズルプレート14まで、またはその逆)に対して、片道伝播するに必要な時間」(段落【0020】)であり、本件発明1,14の「ヘルムホルツ振動周期Tc」の1/2であると主張しているので検討する。
引用例3には、「インクジェット式記録ヘッドは、圧力発生室2のインクの圧縮性に起因する流体コンプライアンスをCi、また圧力発生室2を形成している弾性板8、ノズルプレート7等の材料自体による剛性コンプライアンスをCv、ノズル開口6のイナータンスをMn、インク供給口4のイナータンスをMSとすると、圧力発生室2のヘルムホルツ共振振動の周波数fは次式で示される。
f=1/2π×√{(Mn+MS)/(Mn×MS)(Ci+Cv)}」(再公表公報13頁5〜1行)との記載があり、この表式からすると、1/f(本件発明1,14の「ヘルムホルツ振動周期Tc」)がインク室の長手方向の距離に比例する(片道伝播時間であれば、同距離に比例する。)と認めることはできない。実際、特開平9-309207号公報には、「図4(A)に示す駆動パルス21により圧電素子10を駆動したとき、図4(B)に示すインクの慣性流れによって生ずるメニスカスの位置振動23を説明する。図4(A)において、電圧波形21の立ち上り期間Tにおいて圧力室4の容積が縮小してインク滴が噴射されると、圧力室4内には減少したインクを補うためのノズル1に向うインクの慣性流れが発生し、この慣性流れは、ノズル1のインク表面張力と釣合を保ちながらメニスカスの振動を発生させる。この振動は、ノズル1のインク表面張力によるコンプライヤンスとインクの慣性によって決まる周期τの固有振動を有する。この固有振動は、図3(B)に示すメニスカス位置を示す曲線となる。以後この曲線を慣性振動23と記す。」(段落【0026】)及び「図4(C)に示すインク圧力波の残留振動24は、圧力発生素子10に印加される第二パルス21bが切断される時間t2において、インクの圧力波により発生する振動であり、圧力波の残留振動24による周期τ0は、インクの慣性流れによる慣性振動23の周期τに比較して短く振幅も小さい。図4(B)に示した慣性振動23と圧力残留振動24とは、重なり合って図4(D)に示す重畳波25となり、重畳波25によりインクのメニスカス位置14が決定される。」(段落【0027】)との記載があり、これら記載中の「慣性振動」がヘルムホルツ振動に対応し、圧力波の残留振動による周期がインク室の長手方向往復伝播時間に対応すると理解することができる。
そうであれば、引用例1【図13】におけるパルスBの立ち下がりからパルスKの立ち下がりまでの時間が、ヘルムホルツ振動周期Tcの1/2であるとも、ヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間であるとも認めることができない。
前掲特開平9-309207号公報によれば、メニスカスの挙動を支配する振動が2種類あり、引用例3の第7図,第11図,第15図,第18図及び第20図には、圧力残留振動ではなくヘルムホルツ振動が支配的な様子が図示されているから、引用例1の圧力波残留振動をヘルムホルツ振動に置き換えたものが当業者にとって想到容易かどうかは一応検討しなければならない。
引用例1の記載ウによれば、正の圧力に転じた際に噴射用パルスBを立ち下げるのであるから、噴射用パルスBの立ち上げから立ち下げまでの時間を変更することはできない。そして、噴射用パルスBの立ち下げ時だけでなく立ち上げ時にもヘルムホルツ振動は発生するのであるから、それらが重なった振動がどうなっているのか全く不明である以上、メニスカスの挙動が主としてヘルムホルツ振動に支配されるとしても、噴射用パルスBの立ち下げからキャンセルパルス立ち下げまでの時間をヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間に設定することが当業者にとって想到容易と認めることはできない。

(2)取消理由1(引用例2記載の発明に基づく進歩性)について
渡辺は、引用例2第1〜3図に記載された時刻0により立ち上げられたメインパルスにより発生した圧縮波によりインクを吐出させる工程、及び時刻t1に立ち上げられたパルスにより発生した圧縮波により膨脹波の圧力を減衰させる工程が、本件発明1,14の「第1の収縮工程」及び「第2の収縮工程」にそれぞれ相当すると主張している。
本件発明1,14は「圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口からインクを吐出させる第1の収縮工程と、この第1の収縮工程の反動によるメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを具備」することを構成要件(以下「本件構成」という。)としている。
ところで、上記構成要件のうち、「第1の収縮工程の反動によるメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程」について解釈するに、「第1の収縮工程の反動によるメニスカスの後退」と規定されている以上、メニスカスの後退原因が「第1の収縮工程の反動」にあるものとされている。ところで、圧力発生室を膨張させれば、メニスカスが後退することは明らかであるから、「第1の収縮工程」と「第2の収縮工程」間に膨張工程があったのでは、「メニスカスの後退」が「第1の収縮工程の反動による」ものか膨張工程によるものか特定できなくなる。また、「第1の収縮工程」と「第2の収縮工程」間に別途の収縮工程があったのでは、「第2の収縮工程」と別途の収縮工程を区別できなくなるし、「メニスカスの後退」が「第1の収縮工程の反動による」ものか別途の取縮工程の反動によるものか特定できなくなる。したがって、「第1の収縮工程」と「第2の収縮工程」の間には、膨張工程も収縮工程もないものと解するのが相当である。
ところが、引用例2第1〜3図には、時刻0と時刻1の間に印加電圧が低下する(圧力発生室を膨張させる)様子が図示されているから、引用例2記載の発明は本件構成を備えない。
そればかりか、時刻0と時刻1までの時間は「ノズルの長さ(吐出口からインク路へのインク供給口、すなわちフィルタの右端までの長さ)をl、インク中の圧力波の伝播速度をcとしたとき、t1=2l/cで表わされる。」(4頁右上欄16〜19行)とあり、圧力波の伝播とヘルムホルツ振動が別異の現象であることは既に述べたとおりであるから、同時間がヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間であるということはできないし、そのように設定することが容易であると認めることもできない。

以上のとおりであるから、本件発明1,14は、引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも、引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認めることができず、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明を組み合わせたとしても、本件発明1,14に至ることが当業者にとって容易であると認めることはできない。したがって、取消理由1には理由がない。

(3)取消理由2〜10について
本件発明2〜13は本件発明1に何らかの限定を加えたものであり、本件発明15〜29は本件発明14に何らかの限定を加えたものである。
渡辺の主張は、取消理由1に理由があることを前提として、本件発明2〜13又は本件発明15〜29の限定事項を加えても、これら発明には進歩性がない旨の主張であるところ、その前提に誤りがあることは(1)及び(2)で述べたとおりである。
したがって、取消理由2〜10にも理由がない。

(4)取消理由11について
引用例7には、「残留圧力変動のキャンセルを実現するための駆動回路を説明する。図9に示す出力信号X、Y、Zは、それぞれインク流路613の電極619に与える電圧をV、0、-0.6×Vにするための信号である。出力信号Xがオンになると、インクを噴射するための電圧パルス(図8中のC)を発生させる。また、出力信号Zがオンになると、キャンセル用の圧力変動をおこすための電圧パルス(図8中のD)を発生させる。また、上記以外のときは出力信号Yがオンになり、出力電圧を0にする。コンデンサ91はインク流路613のアクチュエータ壁603とその両側に形成された電極615、619によって構成される。」(段落【0013】)との記載があり、東芝テックは、電圧パルスCの立ち下がり及び電圧パルスDの立ち下がりが、本件各発明の「第1の収縮工程」及び「第2の収縮工程」に相当し、電圧パルスCの立ち下がりから電圧パルスDの立ち下がりまでの時間がヘルムホルツ振動周期Tcの1/2であると主張している。電圧パルスCの立ち下がりから電圧パルスDの立ち下がりまでの時間は図8によれば「T」であり、「片道伝播時間Tはインク流路613内の圧力波が、インク流路613の長手方向に伝播するのに必要な時間であり、インク流路613の長さLとこのインク流路613内部のインク中での音速aとによりT=L/aと決まる。」(段落【0009】)との記載を考慮すると、この主張は取消理由1における渡辺の主張(引用例1に基づく主張)と実質的に何も異ならない。
したがって、(1)で述べたと同様の理由により、本件発明1,14が引用例7記載の発明と同一であると認めることはできないばかりか、引用例7記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認めることもできない。
本件発明2,4,8〜12,15,17,21〜25は本件発明1又は本件発明14に何らかの限定を加えたものであるから、これら発明も引用例7記載の発明と同一であると認めることはできないばかりか、引用例7記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認めることもできない。
したがって、取消理由11には理由がない。

(5)取消理由12について
東芝テックの主張は概略次のようなものである。
ア.第2の収縮工程の開始時点につき、請求項5,18では、t1(ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点)からt2(最も深く後退する時点)の間と限定しているが、t1とは第1の収縮工程が開始されてからTc/2経過した時点であり、t2とはTc経過した時点であるから、Tc/2からTcまでと特定したに等しい。ところが、請求項5,18が引用する請求項では、第1の収縮工程の開始から第2の収縮工程の開始までの時間につき「Tcの1/4から3/4の間」(請求項1〜3,14〜16)又は「Tcの1/2前後」(請求項4,17)と特定しているから、「Tc/2からTc」は被引用請求項の特定範囲外のものを含んでいる。
イ.第2の収縮工程の開始時点につき、請求項6,19では「t1から[t1+(t2-t1)×3/4]の範囲」としており、これは第1の収縮工程が開始から第2の収縮工程の開始までの時間をTc/2から7Tc/8までと特定したに等しいが、アと同様の理由により、被引用請求項の特定範囲外のものを含んでいる。
ウ.第2の収縮工程の開始時点につき、請求項7,20ではt1から[t1+(t2-t1)/2]の範囲としており、これは第1の収縮工程が開始から第2の収縮工程の開始までの時間をTc/2から3Tc/4までと特定したに等しいが、請求項7,20は請求項4,17を引用しておりこれら被引用請求項では第1の収縮工程が開始から第2の収縮工程の開始までの時間を「Tcの1/2前後」と特定しているから、被引用請求項の特定範囲外のものを含んでいる。

東芝テックの主張(ア〜ウに共通)は、t1とは第1の収縮工程が開始されてからTc/2経過した時点であり、t2とはTc経過した時点であることを前提としている。しかし、メニスカスの振動(ヘルムホルツ振動)は第1の収縮工程によってのみ発生するのではなく、請求項2,15記載の「前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを後退させ、インク吐出の準備を行う準備工程」(準備工程についての限定がない請求項も、準備工程を有するものを含む。)によっても当然発生する。そして、準備工程が原因となってのメニスカス振動と第1の収縮工程が原因となってのメニスカス振動が重なることによって「ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点」が定まるのであるから、必ずしも同時点が第1の収縮工程が開始されてからTc/2経過した時点に等しく、メニスカスが最も深く後退する時点t2が第1の収縮工程が開始されてからTc経過した時点に等しいとはいえない。
すなわち、東芝テックの主張は前提を欠く主張であるから、この主張によって請求項5〜7,18〜20の記載に不備があると認めることはできない。
したがって、取消理由12にも理由がない。

第4 むすび
以上のとおり、特許異議申立人が主張する理由によって、請求項1〜29に係る特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェット式記録ヘッドの駆動方法及びインクジェット式記録装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、
前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口からインクを吐出させる第1の収縮工程と、この第1の収縮工程の反動によるメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを具備し、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項2】請求項1において、前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを後退させ、インク吐出の準備を行う準備工程を具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項3】請求項2において、前記第1の収縮工程の収縮量が前記準備工程での膨張量の50%以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項4】請求項1〜3の何れかにおいて、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2前後であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項5】請求項1〜4の何れかにおいて、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から最も深く後退する時点t2までの間であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項6】請求項5において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)×3/4]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項7】請求項6において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)/2]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項8】請求項1〜7の何れかにおいて、前記第1の収縮工程での駆動信号の印加時間及び前記第2の収縮工程での駆動信号の印加時間が、それぞれ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項9】請求項1〜8の何れかにおいて、前記第2の収縮工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程を具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項10】請求項9において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第1の膨張工程が開始されるまでの時間が、実質的に前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項11】請求項9又は10において、前記第1の膨張工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが最も深く後退する時点t2であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項12】請求項9〜11の何れかにおいて、前記第1の膨張工程で前記圧力発生室を膨張させるための駆動信号の印加時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項13】請求項9〜12の何れかにおいて、前記第1の膨張工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を収縮させる第3の収縮工程を具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項14】ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドと、
前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口からインクを吐出させる第1の収縮工程と、この第1の収縮工程の反動によるメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間となるように実行する駆動信号を前記圧電素子に出力する駆動手段とを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項15】請求項14において、前記駆動手段は、前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを後退させ、インク吐出の準備を行う準備工程を実行することを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項16】請求項15において、前記第1の収縮工程の収縮量が前記準備工程での膨張量の50%以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項17】請求項14〜16の何れかにおいて、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2前後であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項18】請求項14〜17の何れかにおいて、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から最も深く後退する時点t2までの間であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項19】請求項18において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)×3/4]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項20】請求項19において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)/2]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項21】請求項14〜20の何れかにおいて、前記第1の収縮工程での駆動信号の印加時間及び前記第2の収縮工程での駆動信号の印加時間が、それぞれ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項22】請求項14〜21の何れかにおいて、前記第2の収縮工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程を具備するインクジェット式記録装置。
【請求項23】請求項22において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第1の膨張工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項24】請求項22又は23において、前記第1の膨張工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが最も深く後退する時点t2であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項25】請求項22〜24の何れかにおいて、前記第1の膨張工程で前記圧力発生室を膨張させるための駆動信号の印加時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項26】請求項22〜25の何れかにおいて、前記第1の膨張工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を収縮させる第3の収縮工程を具備するインクジェット式記録装置。
【請求項27】請求項14〜26の何れかにおいて、前記駆動手段が実行する一連の前記各工程の開始前後の状態では、前記圧電アクチュエータに所定の電圧が印加されていることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項28】請求項14〜27の何れかにおいて、前記圧力発生室の収縮は、前記圧電アクチュエータに所定の電圧を印加して変形させることにより行うことを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項29】請求項14〜27の何れかにおいて、前記圧力発生室の収縮は、前記圧電アクチュエータに印加した所定の電圧を解除して変形させることにより行うことを特徴とするインクジェット式記録装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部に振動板を介して圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法及びインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて、圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子が軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるという利点を有する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、たわみモードの圧電アクチュエータは、縦振動モードの圧電アクチュエータと比較して大きな変位面積を必要として圧力発生室の容積が大きくなり、吐出するインク滴のインク量も多くなるため、グラフィック印刷等のように微小サイズのドット形成が困難であるという不都合を抱えている。
【0006】
また、インク滴吐出後のメニスカスの振動の影響が次のインク滴吐出に影響するという問題もある。このような問題を解決するものとして、振動を抑えるための駆動方法を追加するものが提案されているが、全体の駆動方法が長くなり高周波数印刷に対応できないという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、駆動周期を短く保ちつつインク吐出後のメニスカスの振動を回避することができるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法及びインクジェット式記録装置を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口からインクを吐出させる第1の収縮工程と、この第1の収縮工程の反動によるメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを具備し、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0009】
かかる第1の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを抑えて次のインク吐出に備えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを後退させ、インク吐出の準備を行う準備工程を具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0011】
かかる第2の態様では、前記第1の収縮工程の前に圧力発生室を膨張させることにより、ノズル開口のメニスカスを下げて吐出の準備を行い、インク滴を高速で吐出させることができる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記第1の収縮工程の収縮量が前記準備工程での膨張量の50%以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0013】
かかる第3の態様では、小さなインク滴を効果的に吐出することができる。
【0014】
【0015】
【0016】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2前後であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0017】
かかる第4の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みをさらに有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から最も深く後退する時点t2までの間であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0019】
かかる第5の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)×3/4]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0021】
かかる第6の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みをさらに有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第6の態様において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)/2]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0023】
かかる第7の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みをさらに有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0024】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記第1の収縮工程での駆動信号の印加時間及び前記第2の収縮工程での駆動信号の印加時間が、それぞれ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0025】
かかる第8の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを有効に抑えることができ、且つ高速安定駆動が実現できる。
【0026】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様において、前記第2の収縮工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程を具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0027】
かかる第9の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動を有効に抑えて次のインク吐出に備えることができる。
【0028】
本発明の第10の態様は、第9の態様において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第1の膨張工程が開始されるまでの時間が、実質的に前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0029】
かかる第10の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動を有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0030】
本発明の第11の態様は、第9又は10の態様において、前記第1の膨張工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが最も深く後退する時点t2であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0031】
かかる第11の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動をさらに有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0032】
本発明の第12の態様は、第9〜11の何れかの態様において、前記第1の膨張工程で前記圧力発生室を膨張させるための駆動信号の印加時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0033】
かかる第12の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動を有効に抑えて次のインク吐出に備えることができる。
【0034】
本発明の第13の態様は、第9〜12の何れかの態様において、前記第1の膨張工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を収縮させる第3の収縮工程を具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0035】
かかる第13の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動をさらに有効に抑えて次のインク吐出に備えることができる。
【0036】
本発明の第14の態様は、ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドと、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口からインクを吐出させる第1の収縮工程と、この第1の収縮工程の反動によるメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間となるように実行する駆動信号を前記圧電素子に出力する駆動手段とを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0037】
かかる第14の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを抑えて次のインク吐出に備えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0038】
本発明の第15の態様は、第14の態様において、前記駆動手段は、前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを後退させ、インク吐出の準備を行う準備工程を実行することを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0039】
かかる第15の態様では、前記第1の収縮工程の前に圧力発生室を膨張させることにより、ノズル開口のメニスカスを下げて吐出の準備を行い、インク滴を高速で吐出させることができる。
【0040】
本発明の第16の態様は、第15の態様において、前記第1の収縮工程の収縮量が前記準備工程での膨張量の50%以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0041】
かかる第16の態様では、小さなインク滴を効果的に吐出することができる。
【0042】
【0043】
【0044】
本発明の第17の態様は、第14〜16の何れかの態様において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2前後であることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0045】
かかる第17の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みをさらに有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0046】
本発明の第18の態様は、第14〜17の何れかの態様において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から最も深く後退する時点t2までの間であることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0047】
かかる第18の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0048】
本発明の第19の態様は、第18の態様において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)×3/4]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0049】
かかる第19の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みをさらに有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0050】
本発明の第20の態様は、第19の態様において、前記第2の収縮工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から[t1+(t2-t1)/2]の範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0051】
かかる第20の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みをさらに有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0052】
本発明の第21の態様は、第14〜20の何れかの態様において、前記第1の収縮工程での駆動信号の印加時間及び前記第2の収縮工程での駆動信号の印加時間が、それぞれ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0053】
かかる第21の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを有効に抑えることができ、且つ高速安定駆動が実現できる。
【0054】
本発明の第22の態様は、第14〜21の何れかの態様において、前記第2の収縮工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程を具備するインクジェット式記録装置にある。
【0055】
かかる第22の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動を有効に抑えて次のインク吐出に備えることができる。
【0056】
本発明の第23の態様は、第22の態様において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第1の膨張工程が開始されるまでの時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0057】
かかる第23の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動を有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0058】
本発明の第24の態様は、第22又は23の態様において、前記第1の膨張工程の開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが最も深く後退する時点t2であることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0059】
かかる第24の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動をさらに有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0060】
本発明の第25の態様は、第22〜24の何れかの態様において、前記第1の膨張工程で前記圧力発生室を膨張させるための駆動信号の印加時間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0061】
かかる第25の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動を有効に抑えて次のインク吐出に備えることができる。
【0062】
本発明の第26の態様は、第22〜25の何れかの態様において、前記第1の膨張工程の後、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を収縮させる第3の収縮工程を具備するインクジェット式記録装置にある。
【0063】
かかる第26の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動をさらに有効に抑えて次のインク吐出に備えることができる。
【0064】
本発明の第27の態様は、第14〜26の何れかの態様において、前記駆動手段が実行する一連の前記各工程の開始前後の状態では、前記圧電アクチュエータに所定の電圧が印加されていることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0065】
かかる第27の態様では、圧電素子への電圧の印加又は解除による変形により、圧力発生室を収縮させ、インクを吐出する。
【0066】
本発明の第28の態様は、第14〜27の何れかの態様において、前記圧力発生室の収縮は、前記圧電アクチュエータに所定の電圧を印加して変形させることにより行うことを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0067】
かかる第28の態様では、圧電素子への電圧の印加により膨張させた圧力発生室を、電圧の解除により収縮させることにより、インクを吐出する。
【0068】
本発明の第29の態様は、第14〜27の何れかの態様において、前記圧力発生室の収縮は、前記圧電アクチュエータに印加した所定の電圧を解除して変形させることにより行うことを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0069】
かかる第29の態様では、圧電素子への電圧の印加により膨張させた圧力発生室を、電圧の解除により収縮させることにより、インクを吐出する。
【0070】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0071】
(実施形態1)
図1には、本実施形態のインクジェット式記録装置の概略構成を示す。図1に示すように、インクジェット式記録装置は、プリンタコントローラ101とプリントエンジン102とから概略構成してある。
【0072】
プリンタコントローラ101は、外部インターフェース103(以下、外部I/F103という)と、各種データを一時的に記憶するRAM104と、制御プログラム等を記憶したROM105と、CPU等を含んで構成した制御部106と、クロック信号を発生する発振回路107と、インクジェット式記録ヘッド108へ供給するための駆動信号を発生する駆動信号発生回路109と、駆動信号や印刷データに基づいて展開されたドットパターンデータ(ビットマップデータ)等をプリントエンジン102に送信する内部インターフェース110(以下、内部I/F110という)とを備えている。
【0073】
外部I/F103は、例えば、キャラクタコード、グラフィック関数、イメージデータ等によって構成される印刷データを、図示しないホストコンピュータ等から受信する。また、この外部I/F103を通じてビジー信号(BUSY)やアクノレッジ信号(ACK)が、ホストコンピュータ等に対して出力される。
【0074】
RAM104は、受信バッファ111、中間バッファ112、出力バッファ113、及び、図示しないワークメモリとして機能する。そして、受信バッファ111は外部I/F103によって受信された印刷データを一時的に記憶し、中間バッファ112は制御部106が変換した中間コードデータを記憶し、出力バッファ113はドットパターンデータを記憶する。なお、このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成してある。なお、後述するように、本実施形態における印字データは4ビットの信号により構成してある。
【0075】
また、ROM105には、各種データ処理を行わせるための制御プログラム(制御ルーチン)の他に、フォントデータ、グラフィック関数等を記憶させてある。
【0076】
制御部106は、受信バッファ111内の印刷データを読み出すと共に、この印刷データを変換して得た中間コードデータを中間バッファ112に記憶させる。また、中間バッファ112から読み出した中間コードデータを解析し、ROM105に記憶させているフォントデータ及びグラフィック関数等を参照して、中間コードデータをドットパターンデータに展開する。そして、制御部106は、必要な装飾処理を施した後に、この展開したドットパターンデータを出力バッファ113に記憶させる。
【0077】
そして、インクジェット式記録ヘッド108の1行分に相当するドットパターンデータが得られたならば、この1行分のドットパターンデータは、内部I/F110を通じてインクジェット式記録ヘッド108に出力される。また、出力バッファ113から1行分のドットパターンデータが出力されると、展開済みの中間コードデータは中間バッファ112から消去され、次の中間コードデータについての展開処理が行われる。
【0078】
プリントエンジン102は、インクジェット式記録ヘッド108と、紙送り機構114と、キャリッジ機構115とを含んで構成してある。
【0079】
紙送り機構114は、紙送りモータと紙送りローラ等から構成してあり、記録紙等の印刷記憶媒体をインクジェット式記録ヘッド108の記録動作に連動させて順次送り出す。即ち、この紙送り機構114は、印刷記憶媒体を副走査方向に相対移動させる。
【0080】
キャリッジ機構115は、インクジェット式記録ヘッド108を搭載可能なキャリッジと、このキャリッジを主走査方向に沿って走行させるキャリッジ駆動部とから構成してあり、キャリッジを走行させることによりインクジェット式記録ヘッド108を主走査方向に移動させる。なお、キャリッジ駆動部は、タイミングベルトを用いたもの等、キャリッジを走行させ得る機構であれば任意の構成を採り得る。
【0081】
インクジェット式記録ヘッド108は、副走査方向に沿って多数のノズル開口を有し、ドットパターンデータ等によって規定されるタイミングで各ノズル開口からインク滴を吐出する。
【0082】
以下、かかるインクジェット式記録ヘッド108について詳細に説明する。まず、要部断面を示す図3を参照して、インクジェット式記録ヘッド108の機械的構成について説明する。
【0083】
図示するように、圧力発生室を形成する基板となるスペーサ1は、例えば、150μm程度の厚みを有するジルコニア(ZrO2)などのセラミックス板で、圧力発生室2となる貫通孔を形成して構成される。
【0084】
スペーサ1の一方面は、例えば、厚さ10μmのジルコニアの薄板からなる弾性板3により封止され、弾性板3の表面には下電極4が形成されている。また、下電極4の上には、圧力発生室2毎に独立して圧電体層5が固定されている。この圧電体層5は、圧電材料からなるグリーンシートを貼付したり、圧電材料をスパッタリングする等の方法により形成される。さらに、各圧電体層5の表面には、それぞれ上電極6が形成されている。従って、下電極4と、各圧力発生室2毎に設けられた圧電体層5上の上電極6との間に、印刷データに基づいて電圧を印加することにより、各圧電体層5は弾性板3と共にたわみ変形する。
【0085】
スペーサ1の他方面は、厚さ150μmのジルコニアの薄板からなるインク供給口形成基板7により封止されている。インク供給口形成基板7は、ノズルプレートのノズル開口と圧力発生室2とを接続するノズル連通孔8と、後述するリザーバ11と圧力発生室2とを接続するインク供給口9を穿設して構成されている。
【0086】
一方、リザーバ形成基板10は、インク流路を構成するに適した、例えば、150μmのステンレス鋼などの耐食性を備えた板材に、外部のインクタンクからインクの供給を受けて圧力発生室2にインクを供給するリザーバ11と、圧力発生室2と後述するノズル開口13とを連通するノズル連通孔12とを有する。リザーバ形成基板10のスペーサ1の反対側は、圧力発生室2と同一の配列ピッチでノズル開口13が形成されたノズルプレート14により封止されている。
【0087】
ここで、上述したセラミックス製の各部材は積層された後焼結されて一体的に形成されており、リザーバ形成基板10及びノズルプレート14は、接着剤層15及び16を介して固着されている。なお、リザーバ形成基板10及びノズルプレート14もセラミックスとして一体的に形成することもできる。
【0088】
このように形成されたインクジェット式記録ヘッド108は、各圧力発生室12に対向してたわみ振動モードの圧電素子18を有する。また、この圧電素子2には、図示しないフレキシブルケーブルを介して電気信号、例えば、後述する駆動信号(COM)や印字データ(SI)等を供給する。
【0089】
そして、このような構成を有するインクジェット式記録ヘッド108では、充電されることにより圧電素子18は下に凸にたわみ変形して圧力発生室2が収縮する。この収縮に伴って圧力発生室2におけるインク圧力が高くなる。一方、放電することにより圧電素子18のたわみ変形が引き戻され、収縮した圧力発生室2が膨張する。この膨張に伴ってリザーバ11のインクがインク供給口9を通って圧力発生室2内に流入する。このように、圧電素子18を充放電させることにより圧力発生室2の容積が変化するので、各圧電素子18に対して充放電を制御することにより、所望のノズル開口13から所望の大きさのインク滴を吐出させることができる。
【0090】
次に、このインクジェット式記録ヘッド108の電気的構成について説明する。
【0091】
このインクジェット式記録ヘッド108は、図1に示すように、シフトレジスタ141、ラッチ回路142、レベルシフタ143、スイッチ144及び圧電素子18等を備えている。さらに、図2に示すように、これらのシフトレジスタ141、ラッチ回路142、レベルシフタ143、スイッチ144及び圧電素子18は、それぞれ、インクジェット式記録ヘッド108の各ノズル開口13毎に設けたシフトレジスタ素子141A〜141N、ラッチ素子142A〜142N、レベルシフタ素子143A〜143N、スイッチ素子144A〜144N、圧電素子18A〜18Nから構成してあり、シフトレジスタ141、ラッチ回路142、レベルシフタ143、スイッチ144、圧電素子18の順で電気的に接続してある。
【0092】
なお、これらのシフトレジスタ141、ラッチ回路142、レベルシフタ143及びスイッチ144は、駆動信号発生回路109が発生した駆動信号から駆動パルスを生成する。ここで、駆動パルスとは実際に圧電素子18に印加される印加パルスのことであり、そして、駆動信号とは駆動パルスを生成するために必要な元波形により構成される一連のパルス信号(元駆動パルス)のことである。また、スイッチ144はスイッチ手段としても機能する。
【0093】
このような電気的構成を有するプリントヘッド108では、図4(a)に示すように、発振回路107からのクロック信号(CK)に同期して、ドットパターンデータを構成する印字データ(SI)が出力バッファ113からシフトレジスタ141へシリアル伝送され、順次セットされる。この場合、まず、全ノズル開口13の印字データにおける最上位ビットのデータがシリアル伝送され、この最上位ビットのデータシリアル伝送が終了したならば、上位から2番目のビットのデータがシリアル伝送される。以下同様に、下位ビットのデータが順次シリアル伝送される。
【0094】
そして、当該ビットの印字データが全ノズル分シフトレジスタ素子141A〜141Nにセットされたならば、制御部106は、所定のタイミングでラッチ回路142へラッチ信号(LAT)を出力させる。このラッチ信号により、ラッチ回路142は、シフトレジスタ141にセットされた印字データをラッチする。このラッチ回路142がラッチした印字データ(LATout)は、電圧増幅器であるレベルシフタ143に印加される。このレベルシフタ143は、印字データが例えば「1」の場合に、スイッチ144が駆動可能な電圧値、例えば、数十ボルトまでこの印字データを昇圧する。そして、この昇圧された印字データはスイッチ素子144A〜144Nに印加され、スイッチ素子144A〜144Nは、当該印字データにより接続状態になる。
【0095】
そして、各スイッチ素子144A〜144Nには、駆動信号発生回路109が発生した基本駆動信号(COM)も印加されており、スイッチ素子144A〜144Nが接続状態になると、このスイッチ素子144A〜144Nに接続された圧電素子18A〜18Nに駆動信号が印加される。
【0096】
このように、例示したインクジェット式記録ヘッド108では、印字データによって圧電素子18に駆動信号を印加するか否かを制御することができる。例えば、印字データが「1」の期間においてはラッチ信号(LAT)により、スイッチ144が接続状態となるので、駆動信号(COMout)を圧電素子18に供給することができ、この供給された駆動信号(COMout)により圧電素子18が変位(変形)する。また、印字データが「0」の期間においてはスイッチ144が非接続状態となるので、圧電素子18への駆動信号(COMout)の供給は遮断される。なお、この印字データが「0」の期間において、各圧電素子18は直前の電荷を保持するので、直前の変位状態が維持される。
【0097】
図4(b)に詳細を示す駆動信号(COMout)の波形の一例は、ノーマルドットのインク滴を吐出させる駆動波形である。この駆動信号は、下電極4と上電極6との間の電圧を、印字状態に入る前に0Vから第2中間電圧VM2、例えば、15V程度にゆっくり立ち上げて電界を印加し、圧力発生室2が最も収縮した状態と最も膨張した状態の略中間を保持する第1のホールド工程aを有する。なお、この駆動信号は第2中間電圧VM2から始まり、後述するように印字中、必要に応じて所定の電圧を印加し、印字終了後に第2中間電圧VM2から0Vに電圧を下げる。
【0098】
次に、駆動波形は、両電極間の電圧を最低電圧VL、例えば、0V程度に下げて図5(a)に示すように、ノズル開口13のメニスカス101aを圧力発生室2側に最大限引き込む準備の膨張工程bと、この状態を保持してインク滴の吐出のタイミングを図る第2のホールド工程cを有する。
【0099】
続いて、駆動波形は、第1の収縮工程dでは、両電極間の電圧を第1中間電圧VM1、例えば25V程度に上げて、圧力発生室2を収縮させる。この工程では、図5(b)に示すように、メニスカス101bの引き込みの反動と、圧力発生室2の収縮によってインク滴が吐出される。
【0100】
そして、駆動波形は、第1の収縮工程dの後、第3のホールド工程eを経て、両電極間の電圧を最高電圧VH、例えば30V程度に上げて、圧力発生室2を収縮させる第2の収縮工程fを有する。この工程では、図5(c)に示すように、第1の収縮工程dの反動によるメニスカス101cの引き込みが低減される。また、図5(d)に示すようにインク滴吐出後のメニスカス101dの盛り上がりも小さい。これは、この盛り上がりが主に引き込みの反動によって生じるためである。なお、図5(c′),(d′)は第2の収縮工程fを有しない場合のメニスカスの引き込みと盛り上がりを示す図であり、第1の収縮工程dの反動によるメニスカス101c′の引き込みが大きく、インク吐出後のメニスカス101d′の盛り上がりも大きい。
【0101】
そして次に、駆動波形は、第2の収縮工程fの後、第4のホールド工程gを経て、両電極間の電圧を第2中間電圧VM2に下げてメニスカスの振動を抑える第1の膨張工程hを有する。
【0102】
以上説明した駆動波形によると、インク滴を吐出させる第1の収縮工程dの後に第2の収縮工程fを有するので、第1の収縮工程dの後に引き込まれるメニスカス101cの引き込みを低減することができ、ノズルからの気泡の混入などを排除でき、吐出の安定性を大幅に改善できる。
【0103】
ここで、第2の収縮工程fの開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが後退し始める時点t1から最も深く後退する時点t2までの間である。好ましくはt1から〔t1+(t2-t1)×3/4〕までの間、さらに好ましくは、t1から〔t1+(t2-t1)/2〕までの間である。このような時点で第2の収縮工程fを開始すれば、メニスカスの引き込みを有効に抑えることができる。
【0104】
また、第1の収縮工程dでの駆動信号の印加時間及び前記第2の収縮工程fでの駆動信号の印加時間は、それぞれ圧力発生室2のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であるのが好ましい。第1の収縮工程dが開始されてから第2の収縮工程fが開始されるまでの時間は、前記圧力発生室2のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間であるのが好ましく、さらに好ましくはTcの1/2前後である。これにより高周波数でインク滴を吐出することができる。
【0105】
また、本実施形態では、第2の収縮工程fの後に第1の膨張工程hを有することにより、吐出後のメニスカスの振動を抑制している。
【0106】
ここで、第1の収縮工程dが開始されてから第1の膨張工程hが開始されるまでの時間は、圧力発生室2のヘルムホルツ振動周期Tcと実質的に同一、すなわちTcの整数倍とすると効果が大きい。また、第1の膨張工程hの開始時点は、前記ノズル開口からインク滴の先端が吐出された後、メニスカスが最も深く後退する時点とするのが好ましい。さらにまた、第1の膨張工程hの駆動信号の印加時間は、前記圧力発生室2のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であるのが好ましい。これは、有効に振動を抑えるためである。
【0107】
また、このような駆動方法は、駆動信号の波形の種類を制限するものではなく、図示した台形波形の他、矩形の波形などでもよい。
【0108】
また、本発明の駆動方法を実現できるインクジェット式記録ヘッドの構造も特に限定されない。例えば、セラミック基板の代わりに、シリコン基板に薄膜プロセスで圧電アクチュエータを形成するとともに異方性エッチングにより圧力発生室を形成したインクジェット式記録ヘッドにも適応できるし、また、ノズル開口の位置、リザーバの位置などのインク供給の構造なども特に限定されない。
【0109】
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係る駆動信号の波形である。
【0110】
この駆動波形は、下電極4と上電極6との間の電圧を最低電圧VL、例えば0V程度に維持し、圧力発生室2が最も膨張した状態を保持する第1のホールド工程a1を有する。次に、準備の膨張工程bと第2のホールド工程cを省略し、両電極間の電圧を第1中間電圧VM1にあげて圧力発生室2を収縮させ、インク滴を吐出する収縮工程dを実行する。その後、第3のホールド工程eを経て、両電極間の電圧を最高電圧VH、例えば30V程度に上げて第2の収縮工程fを行い、第4のホールド工程gの後、第1の膨張工程h1で両電極間の電圧を最低電圧VLに下げ、再び圧力発生室2が最も膨張した状態を保持するホールド工程i1を有する。
【0111】
この実施形態でも、インク滴を高速で吐出することができると共に、インク吐出後のメニスカスの振動を防止することができることにかわりはなく、実施形態1に比べ形状のよいインク滴が得られ、インク滴の飛翔速度は小さくなる。
【0112】
(実施形態3)
図7は、実施形態3に係る駆動信号の波形である。
【0113】
この駆動波形は、下電極4と上電極6との間の電圧を最高電圧VH、例えば30V程度に維持し、圧力発生室2が最も収縮した状態を保持する第1のホールド工程a2を有する。次に、両電極間の電圧を最低電圧VL、例えば0V程度に下げてノズル開口13のメニスカスを圧力発生室2側に最大限引き込む準備の膨張工程b2を実行する。
【0114】
続いて、第2のホールド工程cの後、第1の収縮工程d2では、両電極間の電圧を第3中間電位VM3、例えば5V程度に上げて、メニスカス101bの引き込みの反動と、圧力発生室2の収縮によってインク滴が吐出される。その後、第3のホールド工程e2を経て、再び両電極間の電圧を最高電圧VHに上げて第2の収縮工程f2を行い、圧力発生室2が最も収縮した状態を保持するホールド工程i2を有する。
【0115】
かかる駆動波形は、第1の収縮工程d2での収縮量が準備の膨張工程b2での膨張量の50%以下とすることにより、膨張の反動と収縮の力で比較的高速で小さなインク滴を吐出するものである。また、この場合、第1の収縮工程d2の後に、第2の収縮工程f2を有するので、インク滴吐出後のメニスカスの引き込みを低減することができる。
【0116】
(実施形態4)
図8は、実施形態4に係る駆動信号の波形である。
【0117】
この駆動波形は、実施形態3と同様な小さなインク滴を吐出してメニスカスの引き込みを防止した後、振動防止の波形を加えたものである。すなわち、第2の収縮工程f3の後、両電極間の電圧を第1中間電位VM1、例えば25V程度に維持する第4のホールド工程g3を経て、第1の膨張工程h31を実行し、両電極間の電圧を第3中間電位VM3に維持する第5のホールド工程h32、両電極間の電圧を最高電圧VHに上げる第3の収縮工程h33を実行することにより、インク滴吐出後のメニスカスの引き込みを低減することができる。
【0118】
(実施形態5)
図9は、実施形態5に係る駆動信号の波形である。
【0119】
この駆動波形は、実施形態3と同様な小さなインク滴を吐出してメニスカスの引き込みを防止した後、振動防止の波形を加えたものである。すなわち下電極4と上電極6との間の電圧を第2中間電圧VM2、例えば15V程度に維持し、圧力発生室2が最も収縮した状態と最も膨張した状態の略中間を保持する第1のホールド工程aを有する。次に、両電極間の電圧を最高電圧VH、例えば30V程度に上げて圧力発生室2を収縮させる準備の収縮工程b41、準備のホールド工程b42を経て、両電極間の電圧を最低電圧VL、例えば0V程度に下げて圧力発生室2を膨張させる準備の膨張工程b43、第1のホールド工程cを実行する。続いて、両電極間の電圧を第3中間電位VM3、例えば5V程度に上げる第1の収縮工程d4を実行することによって小さなインク滴を吐出し、さらに両電極間の電圧を第1中間電位VM1、例えば25V程度に上げる第2の収縮工程f4を実行する。その後、第4のホールド工程g、第1の膨張工程hを経て、両電極間の電圧を第2中間電位VM2にして、圧力発生室2が最も収縮した状態と最も膨張した状態の略中間を保持する第5のホールド工程iを実行することにより、インク滴吐出後のメニスカスの引き込みを低減することができる。
【0120】
この実施形態では、第2中間電位VM2から始まり、終わるので、駆動信号が印加されない場合、中間の電圧しか印加されず、実施形態3,4に比べて印加電圧が低く、圧電素子の信頼性及び長寿命に効果がある。
【0121】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の実施形態は、たわみ変位型圧電アクチュエータによるインクジェット式記録ヘッドに限定されず、縦変位型インクジェット式記録ヘッドの駆動にも適用できる。
【0122】
図10には、縦振動型圧電アクチュエータを有するインクジェット式記録ヘッドの一例を示す。図示するように、スペーサ21には、圧力発生室22が形成され、スペーサ21の両側は、ノズル開口23を有するノズルプレート24と、弾性板25とにより封止されている。また、スペーサ21には、圧力発生室22にインク供給口26を介して連通するリザーバ27が形成されており、リザーバ27には、図示しないインクタンクが接続される。
【0123】
一方、弾性板25の圧力発生室22とは反対側には、圧電素子28の先端が当接している。圧電素子28は、圧電材料29と、電極形成材料30及び31とを交互にサンドイッチ状に挟んで積層構造になるように構成され、振動に寄与しない不活性領域が固定基板32に固着されている。なお、固定基板32と、弾性板25,スペーサ21及びノズルプレート24とは、基台33を介して一体的に固定されている。
【0124】
このように構成されたインクジェット式記録ヘッドは、圧電素子28の電極形成材料30及び31に電圧が印加されると、圧電素子28がノズルプレート24側に伸張するから、弾性板25が変位し、圧力発生室22の容積が圧縮される。従って、例えば、予め電圧を除去した状態から電圧を30V程度印加し、圧電素子28を収縮させてインクをリザーバ27からインク供給口26を介して圧力発生室22に流れ込ませることができる。また、その後、電圧を印加することにより、圧電素子28を伸張させて弾性板25により圧力発生室22を収縮させ、ノズル開口23からインク滴を吐出させることができる。
【0125】
よって、かかるインクジェット式記録ヘッドを駆動する場合でも、上述した駆動方法を用いることにより、速度を低下させることなく、比較的小さなインク滴を吐出することができる。
【0126】
また、以上説明したインクジェット式記録ヘッドでは、電圧を印加することにより、圧力発生室を収縮させるものを例示したが、電圧を印加することにより、圧力発生室を膨張させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にも本発明の駆動方法を適用することができる。
【0127】
このような構造のインクジェット式記録ヘッドの一例を図11に示す。図11のインクジェット式記録ヘッドは、図10の圧電素子28の代わりに圧電素子28Aを有する以外は同様な構造を有する。圧電素子28Aは、圧電体材料29Aの中に電極形成材料30A及び31Aを交互に縦に配置して積層したものである。従って、両電極型性材料30A及び31Aに電圧を印加すると圧電素子28Aが収縮して圧力発生室22が膨張し、この状態から電圧の印加を解除すると圧力発生室22が収縮し、ノズル開口23からインク滴を吐出させることができる。上述した駆動方法の収縮及び膨張の際の電圧の印加及び解除を逆に行うことにより、同様な駆動方法を実施できる。
【0128】
図12及び図13には、かかるインクジェット式記録ヘッドでの駆動信号の例を示す。図12及び図13は、図4及び図6〜図9に対応し、同様の作用を有する工程には同じ符号を付して説明は省略する。この場合に異なるのは、例えば、準備の膨張工程b及び第1の膨張工程hでは、上述した場合と異なって電圧を印加し、逆に、例えば、第1の収縮工程dでは、電圧の印加を解除するという点であり、作用効果は上述した場合と同様である。
【0129】
【発明の効果】
以上説明したように本発明においては、インク滴を吐出させるための収縮工程の反動によるメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程を有する。したがって、インク吐出後のメニスカスの振動を抑えて次のインク吐出に備えることができるため、インク滴の飛行速度を低下させることなく、インク滴を構成するインク量を可及的に少なくしてグラフィック印刷に適したドットを形成することができ、且つ残留振動を大幅に低減するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】
本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの回路構成を示す回路図である。
【図3】
本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図である。
【図4】
本発明の実施形態1に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図5】
ノズル開口から吐出されるインク滴の形状を示す断面図である。
【図6】
本発明の実施形態2に係る駆動信号の波形の他の例を示す図である。
【図7】
本発明の実施形態3に係る駆動信号の波形の他の例を示す図である。
【図8】
本発明の実施形態4に係る駆動信号の波形の他の例を示す図である。
【図9】
本発明の実施形態5に係る駆動信号の波形の他の例を示す図である。
【図10】
本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの例を示す断面図である。
【図11】
本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの例を示す断面図である。
【図12】
本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図13】
本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 スペーサ
2 圧力発生室
3 弾性板
5 圧電体層
7 インク供給口形成基板
11 リザーバ
13 ノズル開口
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-09-21 
出願番号 特願平10-268786
審決分類 P 1 651・ 113- YA (B41J)
P 1 651・ 121- YA (B41J)
P 1 651・ 537- YA (B41J)
最終処分 維持  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 酒井 進
谷山 稔男
登録日 2003-03-28 
登録番号 特許第3412682号(P3412682)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 インクジェット式記録ヘッドの駆動方法及びインクジェット式記録装置  
代理人 栗原 浩之  
代理人 栗原 浩之  
代理人 井上 正則  
代理人 村中 克年  
代理人 村中 克年  
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