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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1127332
異議申立番号 異議2003-70563  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-08-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-03 
確定日 2005-10-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3321009号「プロピレン系樹脂組成物」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3321009号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3321009号の発明は、平成9年1月17日に特許出願され平成14年6月21日にその特許の設定登録がなされたものであり、その後、近藤 武より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、平成15年9月1日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出されたものである。
[2]訂正の適否についての判断
[訂正の内容]
訂正請求書による訂正事項は次のとおりである。
訂正事項a:
「【請求項1】下記の成分(a)及び成分(b)からなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
成分(a);結晶性ポリプロピレン単独重合部分(A単位部)を60〜80重量%と、エチレン含量が30〜60重量%で、且つ重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分(B単位部)を20〜40重量%含有し、この成分(a)全体のメルトフローレートが25〜100g/10分である、プロピレン・エチレンブロック共重合体 100重量部
成分(b):炭素数3〜16のα-オレフィンを20〜50重量%含有するエチレン・α-オレフィン共重合ゴム1〜60重量部」を、
「【請求項1】下記の成分(a)及び成分(b)からなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
成分(a);結晶性ポリプロピレン単独重合部分(A単位部)を60〜78重量%と、エチレン含量が30〜60重量%で、且つ重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分(B単位部)を22〜40重量%含有し、この成分(a)全体のメルトフローレートが25〜100g/10分である、プロピレン・エチレンブロック共重合体 100重量部
成分(b):炭素数3〜16のα-オレフィンを20〜50重量%含有するエチレン・α-オレフィン共重合ゴム1〜60重量部」と訂正する。
訂正事項b:
「【請求項4】成分(b)が、エチレン・1-ブテン共重合ゴム又はエチレン・1-オクテン共重合ゴムである、請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。」を、
「【請求項4】成分(b)が、エチレン・1-ブテン共重合ゴムである、請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。」と訂正する。
訂正事項c:
特許明細書の段落【0004】を、
「【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決するために、種々の研究を重ねた結果、特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体に、特定のエチレン・α-オレフィン共重合ゴムを特定の比率で配合することにより得られたプロピレン系樹脂組成物は、トリクロロエタン脱脂処理が不要で、且つ高水準な耐温水塗装性、一段と優れた射出成形加工性(具体的には、優れた流動性やフローマーク・ヒケ・ブツを発生し難い良好な成形品外観)と、高度な物性バランス(耐熱性と低温衝撃強度)とを備えているとの知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明のプロピレン系樹脂組成物は、下記の成分(a)及び成分(b)からなることを特徴とするものである。
成分(a):結晶性ポリプロピレン単独重合部分(A単位部)を60〜78重量%と、エチレン含量が30〜60重量%で、且つ重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分(B単位部)を22〜40重量%含有し、この成分(a)全体のメルトフローレートが25〜100g/10分である、プロピレン・エチレンブロック共重合体 100重量部
成分(b):炭素数3〜16のα-オレフィンを20〜50重量%含有するエチレン・α一オレフィン共重合ゴム1〜60重量部」と訂正する。
訂正事項d:
特許明細書の段落【0005】を、
「【発明の実施の形態】
[I]プロピレン系樹脂組成物
(1)構成成分
(A)プロピレン・エチレンブロック共重合体[成分(a)]
(a)構造
本発明のプロピレン系樹脂組成物において用いられる成分(a)のプロピレン.エチレンブロック共重合体は、プロピレンの単独重合によって得られる結晶性プロピレン単独重合部分(A単位部)60〜78重量%、特に好ましくは62〜76重量%と、エチレンとプロピレンとの共重合によって得られるエチレン含量が30〜60重量%、好ましくは33〜60重量%、特に好ましくは34〜55重量%であって、且つその重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000、好ましくは220,000〜380,000、特に好ましくは240,000〜360,000のエチレン・プロピレンランダム共重合体部(B単位部)22〜40重量%、特に好ましくは24〜38重量%とを含有し、この成分(a)全体のMFRが25〜100g/10分、好ましくは27〜100g/10分、特に好ましくは28〜80g/10分であるブロック共重合体である。」と訂正する。
[訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否、拡張・変更の存否]
訂正事項aは、請求項1に係る成分(a)の結晶性プロピレン単独重合部分(A単位部)とエチレン・プロピレンランダム共重合部分(B単位部)の組成割合を「60〜78重量%」と「22〜40重量%」という好ましい範囲に限定したものであり、本件特許明細書第2頁第4欄第43〜44行目に記載の「好ましくは60〜78重量%」、同第3頁第5欄第2行目に記載の「好ましくは22〜40重量%」に基づくものである。
したがって、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項bは、請求項4で選択した成分(b)を「エチレン・1-ブテン共重合ゴム」のみに限定したものであり、特許明細書第4頁第7欄第3〜10行目に記載されているエチレン・1-ブテン共重合ゴムとエチレン・1-オクテン共重合ゴムの中でも、エチレン・1-ブテン共重合体の方が-30℃のアイゾット衝撃強度が優れていることから(実施例1、2と実施例3、5を比較)、より優れた組成構成のみに限定したものである。
したがって、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項c及び訂正事項dは、訂正事項aにより特許請求の範囲を訂正したことに伴い、明細書中の発明の詳細な説明の記載を整理・整合したものである。
したがって、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、いずれの訂正事項も実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
[3]特許異議の申立についての判断
(訂正後の本件特許発明)
訂正後の請求項1〜6に係る本件特許発明(以下、「訂正後の本件発明1〜6」という。)は、訂正明細書の請求項1〜6に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】下記の成分(a)及び成分(b)からなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
成分(a):結晶性ポリプロピレン単独重合部分(A単位部)を60〜78重量%と、エチレン含量が30〜60重量%で、且つ重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分(B単位部)を22〜40重量%含有し、この成分(a)全体のメルトフローレートが25へ100g/10分である、プロピレン・エチレンブロック共重合体 100重量部
成分(b):炭素数3〜16のα-オレフィンを20〜50重量%含有するエチレン・α-オレフィン共重合ゴム1〜60重量部
【請求項2】成分(b)の含有量が、3〜15重量部である、請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】成分(b)が、メルトフローレート4〜100g/10分である、請求項1又は2に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】成分(b)が、エチレン・1-ブテン共重合ゴムである、請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】プロピレン系樹脂組成物の物性が、メルトフローレートが25g/10分以上、耐温水ビール強度が1,500g/cm以上、曲げ弾性率が800MPa以上、一30℃アイゾット衝撃強度が6KJ/m2以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5に記載のプロピレン系樹脂組成物を用いて射出成形法又は射出圧縮成形法により成形加工されて得られる自動車用バンパー。」
(特許異議申立の理由の概要)
[理由1]
本件訂正前の請求項1〜6に係る発明は、参考資料4及び参考資料5を参酌すると、その出願前日本国内において頒布された下記刊行物1〜3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
[理由2]
本件訂正前の請求項1〜6に係る発明は、参考資料4及び参考資料5を参酌すると、その出願前日本国内において頒布された下記刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
[理由3]
本件訂正前の特許明細書の記載は不備なので、その特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記
刊行物1:特開平5-98122号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開平6-9852号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開平9-12831号公報(甲第3号証)
参考資料4:JSR HANDBOOK、編集日本合成ゴム株式会社合成ゴム第二事業部、日本合成ゴム株式会社、1993年9月改訂新版第5版、第117頁(甲第4号証)
参考資料5:ASTM D256-93a(甲第5号証)
(刊行物1〜3、参考資料4,5の記載事項)
刊行物1:
「メルトインデックスが30〜120g/10minのエチレンープロピレンブロック共重合体(A)100重量部、・・・(A)が・・・エチレン含有量が0〜2Wt%のホモまたはプロピレンーエチレン共重合部(a)80〜99Wt%と・・・エチレン・プロピレン共重体合部(b)1〜20wt%からなる
・・・ポリプロピレン樹脂組成物」(請求項1)
「共重合体エラストマー(B)がエチレン含有量が80〜90wt%であるエチレン・ブテン-1共重合体エラストマー(d)、エチレン含有量が75〜85wt%であるエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(e)を3:7〜7:3の重量比で配合・・・請求項1記載のポリプロピレン樹脂組成物。」(請求項2)
「ポリプロピレン樹脂組成物は、・・・射出成形法による大型成形品・・・に最適である。」(段落【0015】)
「エチレン-ブテン-1共重合体エラストマーとして”EBM1041P”(日本合成ゴム(株)製、エチレン含有量85wt%、M(メルトインデックス)5.8g/10min)」(段落【0017】)
「本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、流動性・・・に優れ、自動車のバンパー等の大型成形品の材料として最適であり、・・・、成形時に流動性の不足から生じるフローマーク等の成形上の不都合が生じ難い。・・・また、特定のエチレンーブテン-1共重合体エラストマーとエチレンープロピレン共重合体エラストマーを特定の比率で使用することにより、表面硬度、耐衝撃強さに優れる材料が得られ、・・・自動車の軟質バンパー等の材料として最適である。」(段落【0034】)
刊行物2:
「(A)・・・高結晶性エチレン-プロピレンブロック共重合体45〜80重量% 、(B)・・・無定形エチレンープロピレン共重合体10〜20重量%、(C)・・・、(D)・・・無定形エチレンーブテン共重合体1〜10重量%、並びに(E)・・・タルク8重量%未満から成り、・・・バンパー用樹脂組成物。」(請求項1)
「炭素数4〜10・・・で、メルトフローインデックス・・・2.2〜50g/10分のエチレン-α-オレフィン共重合体・・・。」(段落【0005】)
「エチレンープロピレンブロック共重合体・・・の含有量が・・・80重量%を超える場合には塗装性が悪くなる。・・・無定形エチレン-プロピレン共重合体・・・は10重量%未満の場合は・・・塗装性が不足し」(段落【0008】〜【0009】)
実施例2には、「メルトフローインデックス(230℃)25.6(g/10分)、アイゾット衝撃強度=9.8(kg・cm/cm)及び曲げ弾性率=12、600(kg/cm2)の樹脂組成物」が記載されている。
表1から、「エチレン・αオレフィン共重合体のαオレフィンの含有量が少なすぎると、塗装性が劣り、エチレン・αオレフィン共重合体のMFRが低いと塗装性が低下する」ことが読み取れる。(段落【0020】)
「本発明に係る・・・樹脂組成物は、・・・流動性と表面硬度が高く、剛性と耐衝撃性のバランスが良好で機械的特性も良く、しかも・・・塗装性が良好であり、大型バンパー用樹脂組成物として最適である。」(段落【0030】)
刊行物3:
「下記(A)〜(C)各成文の合計量が100重量部となる様に配合されてなることを特徴とするプロピレン樹脂組成物。
(A)・・・エチレン・プロピレンランダム共重合部分を5〜30重量%含有し、・・・プロピレン・エチレンブロック共重合体・・・・50〜80重量部
(B)・・・エチレン・αオレフィン共重合体・・・・・5〜25重量部
(C)・・・無機フィラー・・・・13〜35重量部」(請求項1)
「・・・メルトフローレート:5g/10分超過〜70g/10分未満 曲げ弾性率:20,000kg/cm2超過〜35,00okg/cm2未満 IZOD衝撃強度:15cm・kg/cm2超過・・・」(請求項4)
「本発明は、・・・射出成形性が良好なゆえに特に自動車内装材等の射出成形品に好適なプロピレン樹脂組成物に関する。」(段落【0001】)
「エチレン-α-オレフィン共重合体は、・・・・共重合コモノマーが炭素数8以上のα-オレフィン・・・である。」段落【0010】
「・・・炭素数8以上のα-オレフィンとしては、・・・1-オクテン・・・を挙げることができる。」(段落【0011】)
「この様にして得られる樹脂組成物・・・、射出成形法、射出圧縮成形法にて成形される場合に本発明の効果が大きく奏される。」(段落【0024】)
「本発明によれば、剛性-耐衝撃性のバランスが改良され、射出成形性が良好なゆえに特に自動車内装材等の射出成形品に好適なプロピレン樹脂組成物が得られると言った顕著な効果が奏される。」(段落【0032】)
参考資料4:
第117頁には、エチレン60モル%-プロピレン共重合体について、135℃、テトラリン中で測定した極限粘度([η])とMw(重量平均分子量)との関係式、[η]=3.15〜3.36×10-4Mw0・74〜0.70が記載されている。
参考資料5:
プラスチックの耐衝撃強度の標準試験方法について記載されている。
(対比・判断)
[理由1]、[理由2]について:
訂正後の本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、プロピレン・エチレンブロック共重合体とエチレン・α-オレフィン共重合ゴム(刊行物1のエチレンとプロピレンまたはブテンー1の二元共重合体エラストマーに該当)の組成物であり、その組成割合は重複する点で一致しているが、訂正後の本件発明1では、プロピレン・エチレンブロック共重合体が、重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分を22〜40重量%と特定しているのに対し、刊行物1に記載された発明では、それが1〜20重量%である点で相違するものといえる。
また、訂正後の本件発明1と刊行物2に記載された発明とは、プロピレン・エチレンブロック共重合体とエチレン・α-オレフィン共重合ゴム(刊行物2の3種類のエチレン・αーオレフィン共重合体に該当)の組成物であり、その組成割合は重複する点で一致しているが、訂正後の本件発明1では、プロピレン・エチレンブロック共重合体が、重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分を22〜40重量%と特定しているのに対し、刊行物2に記載された発明では、それが5〜20重量%である点で相違するものといえる。
したがって、訂正後の本件発明1は、刊行物1に記載された発明とも、刊行物2に記載された発明ともいえない。
また、訂正後の本件発明1と刊行物3に記載された発明とは、プロピレン・エチレンブロック共重合体とエチレン・α-オレフィン共重合ゴム(刊行物3のエチレン・αーオレフィン共重合体に該当)の組成物であり、その組成割合は重複する点で一致しているが、訂正後の本件発明1では、プロピレン・エチレンブロック共重合体が、重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分を22〜40重量%と特定しているのに対し、刊行物3に記載された発明では、それが重量平均分子量(Mw)の記載がない、エチレン・プロピレンランダム共重合部分を5〜30重量%である点で相違するものといえる。
ところで、特許権者の提出した、平成15年9月1日付けの特許異議意見書に添付された実験成績証明書(平成15年8月28日、日本ポリケム株式会社、材料開発センター 残華 幸仁、触媒開発センター 水上 茂雄)によると、比較として、その重量平均分子量(Mw)が、15万と45万という本件特定の範囲外のものの実験結果が記載されているが、本件特定の範囲内のものに比べ、15万のものは耐衝撃強度の大幅低下、45万のものは耐湿水性ピール強度が大幅低下しており、その重量平均分子量(Mw)の本件の特定による訂正後の本件発明1の格別の効果が裏付けられており、上記相違点は選択性のある格別のものといえる。
したがって、訂正後の本件発明1は、刊行物3に記載された発明とはいえない。
そして、刊行物1〜3に記載された発明を組み合わせても、プロピレン・エチレンブロック共重合体が、特定の重量平均分子量(Mw)であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分を特定量とするものであるとの、訂正後の本件発明1の構成は容易に推考できるものとはいえない。
そして、訂正後の本件発明1は、上記格別の構成である特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体を成分とすることにより、トリクロロエタン樹脂処理を必要とせずに優れた耐湿水塗装性を維持しつつ、優れた流動性やフローマーク・ヒケ・ブツを発生し難い良好な成形品外観と物性バランス(高剛性と低温衝撃強度)とを有しているという訂正後の特許明細書とおりの効果を奏するものである。
したがって、訂正後の本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
訂正後の本件発明2〜6は、訂正後の本件発明1を引用しその構成を限定するものであるから、訂正後の本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜3に記載された発明であるとはいえないし、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
[理由3]について
特許異議申立の記載不備の理由は、概略次のとおりである。
「本件特許明細書には、プロピレン・エチレンブロック共重合体は、・・・結晶性プロピレン単独重合部分(A単位部)60〜80重量%・・・と、エチレンとプロピレンとの共重合によって得られるエチレン含量が30〜60重量%・・・且つその重量平均分子量(Mw)が200、000〜400、000・・・のエチレン・プロピレンランダム共重合体部(B単位部)20〜40重量%・・・とを含有し、この成分(a)全体のMFRが25〜100g/10分・・・であるブロック共重合体である。更に、上記A単位部の密度は、・・・0.9070g/cm3以上・・・である・・・。」(本件特許明細書段落【0005】〜【0006】)という記載がある。しかしながら、本件特許明細書には、プロピレン・エチレンブロック共重合体の結晶性ポリプロピレン単独重合部分の割合、エチレン・プロピレンランダム共重合部分のエチレン含量、重量平均分子量(Mw)及びその割合、共重合体のメルトフローレートの制御法について一切記載されていない。本来、当業者が本件特許発明を実施するためには、特許明細書においてプロピレン・エチレンブロック共重合体の製造方法について、これらを考慮した、具体的且つ十分な説明がなされる必要がある。してみると、本件特許明細書は、「発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」とする特許法第36条第4項の規定を満たさないものである。」
しかしながら、訂正後の本件特許明細書には、段落【0008】〜【0009】に、プロピレン・エチレンブロック共重合体の一般的製造法や調整法が記載され、実施例では具体的に本件発明に規定するプロピレン・エチレンブロック共重合体が開示されているのであるから、当分野の本件出願時のゴム含有量の多いプロピレン・エチレンブロック共重合体についての技術常識(例えば、特開平6-306129号公報、特開平7-25960号公報、特開平8-12732号公報等参照)を加味すれば、その実施ができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているといえる。
したがって、特許異議申立人の記載不備の主張は採用できない。
[4]結び
したがって、特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1〜6についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の発明1〜6についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プロピレン系樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】下記の成分(a)及び成分(b)からなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
成分(a):結晶性ポリプロピレン単独重合部分(A単位部)を60〜78重量%と、エチレン含量が30〜60重量%で、且つ重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分(B単位部)を22〜40重量%含有し、この成分(a)全体のメルトフローレートが25〜100g/10分である、プロピレン・エチレンブロック共重合体100重量部
成分(b):炭素数3〜16のα-オレフィンを20〜50重量%含有するエチレン・α-オレフィン共重合ゴム1〜60重量部
【請求項2】成分(b)の含有量が、3〜15重量部である、請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】成分(b)が、メルトフローレート4〜100g/10分である、請求項1又は2に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】成分(b)が、エチレン・1-ブテン共重合ゴムである、請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】プロピレン系樹脂組成物の物性が、メルトフローレートが25g/10分以上、耐温水ピール強度が1,500g/cm以上、曲げ弾性率が800MPa以上、-30℃アイゾット衝撃強度が6KJ/m2以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5に記載のプロピレン系樹脂組成物を用いて射出成形法又は射出圧縮成形法により成形加工されて得られる自動車用バンパー。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた塗装性(耐温水性)、一段と優れた射出成形加工性(流動性と成形品外観)並びに物性バランス(高い剛性と低温衝撃強度)を有するプロピレン系樹脂組成物に関するものであり、自動車部品等の各種工業部品用の素材として好適なプロピレン系樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、工業部品の分野に於ける各種成形品、例えば、バンパー、インストルメントパネル、ファンシュラウド、グローブボックス、ガーニッシュ等の自動車部品や、テレビ、VTR、洗濯機、掃除機等の家庭電化機器製品等の各種工業部品用の成形用材料として、タルクやゴム成分を複合・強化したプロピレン系樹脂組成物が、その優れた成形性、塗装性、機械的強度及び経済性を備えていることから、その特性を活かして、多数の工業用部品として実用化されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、近年、上記各種用途の高機能化や大型化に連れて、成形品の薄肉化が求められたり、複雑なデザインへの成形が必要になる等、急速に要求性能が高水準化されている。この様な要求性能の高水準化に対しては、原材料となるポリプロピレン、ゴム成分及びタルクに様々な工夫がなされ、例えば、エチレン・プロピレン共重合ゴムの性能アップ化やタルクの微粒子化等にて対処し、改良がなされて来た。しかし、更なる高水準化への要求、例えば、トリクロロエタン脱脂処理を必要とせずに優れた塗装性を維持しつつ、一段と優れた射出成形加工性(具体的には、優れた流動性やフローマーク・ヒケ・ブツを発生し難い良好な成形品外観)と、高度な物性バランス(耐熱性と低温衝撃強度)とを、特にタルク等の無機フィラーを含有することなく発現する等の課題に対しては、有効な解決策は提案されていない。従って、本発明は、トリクロロエタン脱脂処理を必要とせずに優れた耐温水塗装性を維持しつつ、一段と優れた射出成形加工性(具体的には、優れた流動性やフローマーク・ヒケ・ブツを発生し難い良好な成形品外観)と、高度な物性バランス(耐熱性と低温衝撃強度)とを、タルク等の無機フィラーを含有することなくプロピレン系樹脂組成物に付与することを課題とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために、種々の研究を重ねた結果、特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体に、特定のエチレン・α-オレフィン共重合ゴムを特定の比率で配合することにより得られたプロピレン系樹脂組成物は、トリクロロエタン脱脂処理が不要で、且つ高水準な耐温水塗装性、一段と優れた射出成形加工性(具体的には、優れた流動性やフローマーク・ヒケ・ブツを発生し難い良好な成形品外観)と、高度な物性バランス(耐熱性と低温衝撃強度)とを備えているとの知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明のプロピレン系樹脂組成物は、下記の成分(a)及び成分(b)からなることを特徴とするものである。
成分(a):結晶性ポリプロピレン単独重合部分(A単位部)を60〜78重量%と、エチレン含量が30〜60重量%で、且つ重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分(B単位部)を22〜40重量%含有し、この成分(a)全体のメルトフローレートが25〜100g/10分である、プロピレン・エチレンブロック共重合体100重量部
成分(b):炭素数3〜16のα-オレフィンを20〜50重量%含有するエチレン・α-オレフィン共重合ゴム1〜60重量部
【0005】
【発明の実施の形態】
[I]プロピレン系樹脂組成物
(1)構成成分
(A)プロピレン・エチレンブロック共重合体[成分(a)]
(a)構造
本発明のプロピレン系樹脂組成物において用いられる成分(a)のプロピレン・エチレンブロック共重合体は、プロピレンの単独重合によって得られる結晶性プロピレン単独重合部分(A単位部)60〜78重量%、特に好ましくは62〜76重量%と、エチレンとプロピレンとの共重合によって得られるエチレン含量が30〜60重量%、好ましくは33〜60重量%、特に好ましくは34〜55重量%であって、且つその重量平均分子量(Mw)が200,000〜400,000、好ましくは220,000〜380,000、特に好ましくは240,000〜360,000のエチレン・プロピレンランダム共重合体部(B単位部)22〜40重量%、特に好ましくは24〜38重量%とを含有し、この成分(a)全体のMFRが25〜100g/10分、好ましくは27〜100g/10分、特に好ましくは28〜80g/10分であるブロック共重合体である。
【0006】
更に、上記A単位部の密度は、耐熱剛性の点から0.9070g/cm3以上、特に0.9080g/cm3以上であることが好ましい。上記結晶性プロピレン単独重合部分(A単位部)の含有割合が上記範囲より少な過ぎると剛性が不足し、一方、上記範囲より多過ぎると衝撃強度や塗装性が不良となる。また、上記エチレン・プロピレンランダム共重合体部(B単位部)のエチレン含量が上記範囲より少な過ぎると衝撃強度が不足し、一方、上記範囲を超過すると剛性が不良となる。更に、上記成分(a)全体のメルトフローレート(MFR)が上記範囲より小さ過ぎると射出成形加工性が不良となり、一方、上記範囲より大き過ぎると衝撃強度が不満足となる。
【0007】
測定法
上記プロピレン・エチレンブロック共重合体中のB単位部の含量の測定は、2gの試料を沸騰キシレン300g中に20分間浸漬して溶解させた後、室温まで冷却して、それによって析出した固相をガラスフィルターで瀘過・乾燥して求めた、固相重量から逆算した値である。上記エチレン含量は、赤外スペクトル分析法等により測定された値である。また、MFRはJIS-K7210(230℃、2.16kg)に準拠して測定されたものである。更に、B単位部の重量平均分子量(Mw)は、上記のガラスフィルターで瀘過(通過)した溶解物を別途濃縮乾燥し、それをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatograhy)に供して測定されたものである。
【0008】
MFRの調整
この成分(a)のプロピレン・エチレンブロック共重合体のMFRは、良好な射出成形加工性と、物性バランスを付与させるため27〜100g/10分とするのが好ましく、特に28〜80g/10分とするのが好ましい。プロピレン・エチレンブロック共重合体のMFRは、通常、重合時の温度や圧力等の各種条件の制御を通じて調整を行なう。ここで重合を終えたポリマーを各種過酸化物を用いて処理調整し設定する方法も差し支えないが、どちらかと言うと、前者の方法が好ましい。
【0009】
(b)プロピレン・エチレンブロック共重合体の製造
このような成分(a)のプロピレン・エチレンブロック共重合体は、高立体規則性触媒を用いて、スラリー重合法、気相重合法或いは液相塊状重合法により製造されるものであるが、どちらかと言えば、塗装性やコストの点から気相重合法により製造することが好ましい。なお、重合方式としてはバッチ重合、連続重合のどちらの方式をも採用することができるが、連続重合により製造することが好ましい。このプロピレン・エチレンブロック共重合体を製造するに際しては、最初にプロピレンの単独重合によって結晶性プロピレン単独重合部分(A単位部)を形成し、次にプロピレンとエチレンとのランダム共重合によってエチレン・プロピレンランダム共重合部(B単位部)を形成したものが品質上から好ましい。具体的な製造方法としては、塩化マグネシウムに四塩化チタン、有機酸ハライド及び有機珪素化合物を接触させて形成した固体成分に、有機アルミニウム化合物成分を組み合わせた触媒を用いてプロピレンの単独重合を行ない、次いで、プロピレンとエチレンとのランダム共重合を行なうことによって製造することができる。また、このプロピレン・エチレンブロック共重合体は、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で他の不飽和化合物、例えば、1-ブテン等のα-オレフィン、酢酸ビニルの如きビニルエステル等を含有する三元以上の共重合体であっても、これらの混合物であっても良い。
【0010】
(B)エチレン・α-オレフィン共重合ゴム[成分(b)]
(a)構造
本発明のプロピレン系樹脂組成物を構成する成分(b)のエチレン・α-オレフィン共重合ゴムは、α-オレフィンを20〜50重量%、好ましくは20〜45重量%、特に好ましくは20〜40重量%含有するものである。含有する具体的なα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等を挙げることができる。これらの中でも、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが好ましく、特に、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。α-オレフィンの含有量が上記範囲よりも少なすぎると本発明樹脂組成物の塗装性や衝撃強度が劣り、一方、多すぎると剛性が低下するばかりでなく、この共重合ゴムの形状をペレット状に保持し難くなり、本発明樹脂組成物の製造に際しての生産ハンドリングが著しく低下するため、各々不適当である。
【0011】
また、このエチレン・α-オレフィン共重合ゴムのMFR(230℃、2.16kg)は0.5〜100g/10分のものが好ましく、特に4〜100g/10分のものが好ましい。更に、密度は0.85〜0.89g/cm3のものが好ましく、特に0.85〜0.88g/cm3のものが好ましい。MFRが上記範囲未満のものは射出成形加工性や塗装性が低下する傾向があり、一方、上記範囲を超過するものは衝撃強度が低下する傾向がある。更に、密度が上記範囲未満のものはそれ自体のペレット化が困難になる傾向があり、一方、上記範囲を超過するものは塗装性と衝撃強度が低下する傾向がある。中でも次に挙げるエチレン・α-オレフィン共重合ゴムは最も好ましいものである。すなわち、1-ブテン含量25〜40重量%、MFR(230℃、2.16kg)4〜100g/10分、密度0.85〜0.88g/cm3のエチレン・1-ブテン共重合ゴムと、1-オクテン含量20〜40重量%、MFR(230℃、2.16kg)4〜100g/10分、密度0.85〜0.88g/cm3のエチレン・1-オクテン共重合ゴムである。これらは本発明樹脂組成物の射出成形加工性、塗装性及び低温衝撃強度(脆性)物性バランスを一段と向上せしめる。また、これらはバナジウム化合物系やWO-91/04257号公報等に示される様なメタロセン系触媒を用いて製造されたものが好ましい。
【0012】
測定法
ここでα-オレフィンの含有量は、赤外スペクトル分析法13C-NMR法等の常法(一般に赤外スペクトル分析法で得られる値は、13C-NMR法に比べて低密度ほど小さく(約10〜50%)なる傾向がある。)により測定された値である。上記MFRは、JIS-K7210(230℃、2.16kg)に準拠して測定された値である。また、密度は、JIS-K7112に準拠して測定された値である。
【0013】
(b)エチレン・α-オレフィン共重合ゴムの製造
重合法
上記エチレン・α-オレフィン共重合ゴムは、その重合法として、例えば、気相流動床法、溶液法、スラリー法や高圧重合法等を挙げることができる。また、重合に際しては、少量のジエン成分、例えば、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン等を共重合させても良い。
重合触媒
重合触媒としては、ハロゲン化チタンの様なチタン化合物、バナジウム化合物、アルキルアルミニウム・マグネシウム錯体、アルキルアルコキシアルミニウム・マグネシウム錯体の様な有機アルミニウム・マグネシウム錯体や、アルキルアルミニウム或いはアルキルアルミニウムクロリド等の有機金属化合物との組み合わせによる、いわゆるチーグラー型触媒、若しくは、国際公表公報WO-91/04257号明細書等に記載されている様なメタロセン触媒を挙げることができる。なお、このメタロセン触媒と称せられる触媒は、アルモキサンを含まなくても良いが、好ましくはメタロセン化合物とアルモキサンとを組み合わせた触媒、カミンスキー系触媒のことである。
【0014】
(C)その他の配合成分(任意成分)[成分(c)]
本発明のプロピレン系樹脂組成物においては、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、或いは、更に性能の向上を計るために、上記成分(a)及び成分(b)の必須成分以外に、以下に示す任意の添加剤や配合剤成分を配合することができる。具体的には、タルク、マイカ等の各種フィラー、着色するための顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、光安定剤、有機アルミ・タルク等の各種核剤、上記成分(a)及び(b)以外の各種樹脂、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合ゴム等の各種ゴム等の配合材を挙げることができる。これらの中でも、例えば、タルク等のフィラー、各種核剤、各種ゴムの配合は、剛性や衝撃強度等の物性バランスや寸法安定性の向上に効果的であり、また、例えば、ヒンダードアミン系安定剤の配合は、耐候性や耐久性の向上に有効である。
【0015】
(2)配合割合
成分(a)
本発明のプロピレン系樹脂組成物中に配合される成分(a)〜成分(b)、場合により配合される成分(c)の各成分は、成分(a)100重量部を基準として配合される。
成分(b)
本発明のプロピレン系樹脂組成物中に配合される成分(b)のエチレン・α-オレフィン共重合ゴムの配合割合は、成分(a)100重量部に対して、1〜60重量部、好ましくは2〜30重量部、特に好ましくは3〜15重量部にて配合される。成分(b)の配合割合が、上記範囲未満では衝撃強度や塗装性が劣り、一方、上記範囲を超えると剛性や射出成形加工性、特に成形品外観が劣るようになり実用性がない。
【0016】
(3)プロピレン系樹脂組成物の製造
(A)混練・造粒
上記成分(a)、成分(b)、場合により配合される成分(c)を上記配合割合で配合して、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブレンダー等の通常の混練機を用いて混練し、好ましくは造粒することによって本発明のプロピレン系樹脂組成物を得ることができる。この場合、各成分の分散を良好にすることができる混練・造粒方法を選択することが好ましく、通常は二軸押出機を用いて混練・造粒が行なわれる。この混練・造粒の際には、上記成分(a)、成分(b)、場合により配合される成分(c)の配合物を同時に混練しても良く、また、更なる性能の向上を計るべく各成分を分割、例えば、先ず成分(a)と成分(c)の一部又は全部を混練し、その後に残りの成分を混練し、その後に残りの成分を混練することもできる。
【0017】
(4)物性
この様にして得られたプロピレン系樹脂組成物は、優れた塗装性(耐温水性)、一段と優れた射出成形加工性(流動性と成形品外観)並びに物性バランス(高い剛性と低温衝撃強度)を有するが、中でも、メルトフローレートが25g/10分以上、耐温水ピール強度が1,500g/cm以上、曲げ弾性率が800Mpa以上、-30℃アイゾット衝撃強度が6KJ/m2以上の性能を有するものであることが好ましい。
【0018】
(5)プロピレン系樹脂組成物の成形
上記プロピレン系樹脂組成物は、各種成形方法、すなわち、射出成形、射出圧縮成形(プレスインジェクション成形)、圧縮成形、押出成形(シート成形、フィルム成形、ブロー成形)等にて成形することによって各種成形品を得ることができるが、これら各種成形法の中でも射出成形(ガス射出成形も含む)又は射出圧縮成形(プレスインジェクション成形)により成形することが好ましい。
【0019】
[II]用途
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、トリクロロエタン脱脂処理を必要とせずに優れた耐温水塗装性を維持しつつ、一段と優れた射出成形加工性(具体的には、優れた流動性やフローマーク・ヒケ・ブツを発生し難い良好な成形品外観)と、高度な物性バランス(高剛性と低温衝撃強度)とを、タルク等の無機フィラーを含有することなく発現することができるため、各種の工業用部品分野の、特に薄肉化、高機能化、大型化された各種成形品、例えば、バンパー、インストルメントパネル、ファンシュラウド、グローブボックス、ガーニッシュ等の自動車部品や、テレビ、VTR、洗濯機、掃除機等の家庭電化機器製品等の各種工業部品用の成形用材料として実用十分な性能を有している。
【0020】
【実施例】
以下に示す実施例及び比較例によって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例及び比較例によって限定されるものではない。
[1]材料
ここでの原材料は以下に示すものを使用した。
(1)成分(a):いずれも酸化防止剤配合済みペレット
a-1:密度が0.9092g/cm3のA単位部を72重量%、エチレン含量が40重量%、重量平均分子量(Mw)が310,000のB単位部28重量%をそれぞれ含有し、成分(a)全体の重合MFRが32g/10分の、気相重合により製造したプロピレン・エチレンブロック共重合体
a-2:密度が0.9089g/cm3のA単位部を61重量%、エチレン含量が38重量%、重量平均分子量(Mw)が280,000のB単位部39重量%をそれぞれ含有し、成分(a)全体の重合MFRが30g/10分の、気相重合により製造したプロピレン・エチレンブロック共重合体
a-3:密度が0.9081g/cm3のA単位部を83重量%、エチレン含量が35重量%、重量平均分子量(Mw)が270,000のB単位部17重量%をそれぞれ含有し、成分(a)全体の重合MFRが20g/10分の、気相重合により製造したプロピレン・エチレンブロック共重合体
a-4:密度が0.9076g/cm3のA単位部を84重量%、エチレン含量が40重量%、重量平均分子量(Mw)が510,000のB単位部16重量%をそれぞれ含有し、成分(a)全体の重合MFRが20g/10分の、気相重合により製造したプロピレン・エチレンブロック共重合体
a-5:密度が0.9083g/cm3のA単位部を90重量%、エチレン含量が36重量%、重量平均分子量(Mw)が330,000のB単位部10重量%をそれぞれ含有し、成分(a)全体の重合MFRが22g/10分の、気相重合により製造したプロピレン・エチレンブロック共重合体
【0021】
(2)成分(b):いずれもペレット状
b-1:1-ブテンを32.6重量%含有(赤外法)し、MFRが5.8g/10分、密度が0.863g/cm3のバナジウム化合物系触媒を用いて溶液重合法により製造されたエチレン・1-ブテン共重合ゴム
b-2:1-ブテンを34.4重量%含有(赤外法)し、MFRが30.9g/10分、密度が0.863g/cm3のバナジウム化合物系触媒を用いて溶液重合法により製造されたエチレン・1-ブテン共重合ゴム
b-3:1-オクテンを24.4重量%含有(赤外法)し、MFRが11.3g/10分、密度が0.872g/cm3のメタロセン系触媒を用いて溶液重合法により製造されたエチレン・1-オクテン共重合ゴム
b-4:1-オクテンを24.1重量%含有(赤外法)し、MFRが59.3g/10分、密度が0.872g/cm3のメタロセン系触媒を用いて溶液重合法により製造されたエチレン・1-オクテン共重合ゴム
b-5:プロピレンを22.5重量%含有(赤外法)し、MFRが8.2g/10分、密度が0.870g/cm3のバナジウム化合物系触媒を用いて溶液重合法により製造されたエチレン・プロピレン共重合ゴム
b-6:1-ブテンを17.1重量%含有(赤外法)し、MFRが1.2g/10分、密度が0.885g/cm3のバナジウム化合物系触媒を用いて溶液重合法により製造されたエチレン・1-ブテン共重合ゴム
【0022】
[II]評価方法
評価は以下に示す方法によって行なった。
[射出成形加工性]
(流動性:MFR)成形加工性の目安として、MFRをJIS-K7210(230℃、2.16kg)に準拠し、測定した。その値が20g/10分以上のものは成形流動性が良好であり、25g/10分以上のものは特に成形流動性が良好である。
(成形品外観)スクリューインライン式射出成形機を用いて、シート状金型(350×100×2.5mm、梨地シボ、ピンポイントゲート)を成形し、その表面のフローマーク(波状流れ模様)、ヒケ(表面の微凹部)、ブツ(微斑点)の各有無、目立ち易さを目視で観察し、下記基準でその外観を判定評価した。この際の成形条件は、成形温度:210℃、射出圧力:600kg/cm2、金型冷却温度:40℃である。
◎:フローマーク、ヒケ、ブツが全く認められないか、そのいずれかが僅かに認められる程度で、実用上極めて良好なもの。
○:フローマーク、ヒケ、ブツのいずれかが、一部に認められるが、実用上問題ないレベルのもの。
△:フローマーク、ヒケ、ブツのいずれかが、部分的に留まるもののはっきり目立ち、実用上問題となるもの。
×:フローマーク、ヒケ、ブツのいずれか又はいずれもが広い範囲に目立ち、実用不可能なもの。
【0023】
[塗装性]
(塗装方法)成形した平板に、前処理を全く施さず、エアースプレーガンを用いて、先ずプライマーを塗膜厚さが約20μmとなるように塗布し、焼付後、二液型ウレタン塗料を約15μmとなるようにそれぞれ塗布した。
(焼付け処理)塗装した平板を、105℃で30分間、焼付け乾燥した。その後、48時間室温で放置した。
(温水処理条件)上記放置後の平板を、40℃の温水中に240時間浸漬した後、48時間室温で放置した。
(ピール強度試験)温水処理した塗装済み試験片の表面に、片刃剃刀を用い、10mm幅で直線カットを施し、その塗膜の帯状部分を引張試験機にて10mm/分の速度で180度裏返す形で引っ張り、その剥離荷重を読み取った。この値が大きいほど実用性に優れ、1,500g/cm以上であれば特に実用性に優れている。
【0024】
[物性バランス]
(剛性:曲げ弾性率)JIS-K7203に準拠して測定した(測定温度:23℃)。この値が800MPa以上であれば特に優れる。
(衝撃強度:アイゾット衝撃強度)JIS-K7110に準拠して測定した(測定温度:-30℃)。この値が6kJ/m2以上あれば特に優れる。
【0025】
[III]実験例
実施例1〜7及び比較例1〜5
上記の成分(a)及び成分(b)を表1に示す割合で配合し、タンブラーミキサーにて十分混合した。その後、(株)神戸製鋼所製高速二軸押出機(KCM)を用い混練・造粒し、得られたペレットを射出成形機へ供給し、射出成形加工性を評価すると共に、物性試験片及び塗装用シート試験片を成形して評価を行なった。その評価結果を表1に示す。表1に示す様に、実施例1〜7に示す組成を持ったプロピレン系樹脂組成物は、いずれも良好な射出成形加工性、耐温水塗装性及び物性バランスを示すものであった。一方、比較例1〜5に示したものは、これらの性能バランスが不良なものであった。
【0026】
実施例8
(株)日本製鋼所製スクリューインライン射出成形機(J4000EV)にて、上記の実施例2の樹脂組成物を用い、概略寸法:長手幅1,370mm、側面幅330mm、高さ295mm、肉厚3.3mmの小型自動車用バンパーを、成形温度210℃、射出圧力600kg/cm2の条件下で成形した。その際、流動性・外観共に特に問題がなく、その成形品は塗装性・物性バランス共に自動車用バンパーとして実用が十分なものであった。
【0027】
【表1】

【0028】
【発明の効果】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、トリクロロエタン脱脂処理を必要とせずに優れた耐温水塗装性を維持しつつ、一段と優れた射出成形加工性(具体的には、優れた流動性やフローマーク・ヒケ・ブツを発生し難い良好な成形品外観)と、高度な物性バランス(高剛性と低温衝撃強度)とを有しているので、バンパー等の自動車部品を初めとする各種工業部品用の素材として極めて重要なものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-09-12 
出願番号 特願平9-6946
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 536- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
石井 あき子
登録日 2002-06-21 
登録番号 特許第3321009号(P3321009)
権利者 日本ポリプロ株式会社
発明の名称 プロピレン系樹脂組成物  
代理人 河備 健二  
代理人 河備 健二  

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