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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1127353
異議申立番号 異議2003-72515  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-02-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-14 
確定日 2005-10-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3395846号「水の膜浄化方法及びその装置の運転方法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3395846号の訂正後の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3395846号の請求項1〜7に係る発明についての出願は、平成4年7月21日に特許出願され、平成15年2月7日にその特許の設定登録がなされたところ、鈴木明(以下、「申立人A」という)、木平ゆう子(以下、「申立人B」という)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年4月27日に訂正請求がなされ、その後、当審より申立人A、Bに審尋がなされ、申立人A、Bから回答書が提出され、その後、平成17年5月31日に訂正拒絶理由兼取消理由通知がなされ、その指定期間内に意見書が提出され、その後、再度取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成17年9月9日に新たな訂正請求がなされ、同日付けで上記平成16年4月27日付け訂正請求が取り下げられたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を平成17年9月9日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a〜dのとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
請求項1を削除する。
(2)訂正事項b
請求項2を、請求項1に繰り上げ、「【請求項1】限外又は精密濾過膜モジュールを用いてクロスフロー濾過により水を浄化する方法において、前記濾過膜モジュールが中空糸型濾過膜モジュールであり、原水流入量に対してゼロを越え6倍以下の循環量で、かつ膜面線速が0.005m/sec以上0.5m/sec未満でクロスフローを行いながら濃縮水を排出せずに濾過し、前記中空糸型濾過膜モジュールは、該濾過膜モジュールからの透過水または別途供給される清浄水により、圧力制御またはあらかじめ定められた周期で、逆洗圧が通常運転時の1.3〜1.5倍の圧力で間欠的な逆洗を行い、透過水の流量をP、逆洗水の排出量をCとしたときの回収率、100×(P-C)/P(%)を90%以上95%以下で濾過することを特徴とする水の膜浄化方法。」と訂正する。
(3)訂正事項c
請求項3〜5を請求項2〜4に繰り上げ、請求項6、7を削除する。
(4)訂正事項d
明細書中の段落【0010】の記載(第3頁第5欄第6〜20行)を、「【課題を解決するための手段】本発明によれば、限外又は精密濾過膜モジュールを用いてクロスフロー濾過により水を浄化する方法において、前記濾過膜モジュールが中空糸型濾過膜モジュールであり、原水流入量に対してゼロを越え6倍以下の循環量で、かつ膜面線速が0.005m/sec以上0.5m/sec未満でクロスフローを行いながら濃縮水を排出せずに濾過し、前記中空糸型濾過膜モジュールは、該濾過膜モジュールからの透過水または別途供給される清浄水により、圧力制御またはあらかじめ定められた周期で、逆洗圧が通常運転時の運転圧の1.3〜1.5倍の圧力で間欠的な逆洗を行い、透過水の流量をP、逆洗水の排出量をCとしたときの回収率、100×(P-C)/P(%)を90%以上95%以下で濾過することを特徴とする水の膜浄化方法が提供される。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
(1)上記訂正事項a、cについて
上記訂正事項a、cは請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)上記訂正事項bについて
訂正前の請求項2は請求項1を引用したものであるから、引用形式でなく独立形式に直して上記訂正事項bを詳細にみると、b-1.「圧力制御またはあらかじめ定められた周期で間欠的な逆洗を行い」を、「圧力制御またはあらかじめ定められた周期で、逆洗圧が通常運転時の運転圧の1.3〜1.5倍の圧力で間欠的な逆洗を行い」と訂正する、b-2.「90%以上99%以下」を、「90%以上95%以下」と訂正する、というものである。
上記b-1.は、逆洗圧を特定の数値範囲に限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正前の請求項2の「逆洗圧が通常運転時の運転圧の1.0〜1.5倍の圧力」の記載や、明細書中の「従って平均運転圧の1.3倍以上とするのが好ましい」(本件特許掲載公報第4頁第8欄第15〜16行)の記載からみて、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記b-2.は、数値範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、明細書中の「回収率は95%程度が好ましい」(本件特許掲載公報第4頁第8欄第2行)の記載からみて、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)上記訂正事項dについて
上記訂正事項dは、特許請求の範囲を減縮する上記訂正事項bの訂正に伴って、減縮された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合するために訂正されたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
3-1.取消理由通知の概要
当審の上記平成17年5月31日付け取消理由通知の概要は、請求項1〜7に係る発明は、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜7に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである、というものである。

3-2.本件発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明は平成17年9月9日付け訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件訂正発明1〜4」という。)。
「【請求項1】限外又は精密濾過膜モジュールを用いてクロスフロー濾過により水を浄化する方法において、前記濾過膜モジュールが中空糸型濾過膜モジュールであり、原水流入量に対してゼロを越え6倍以下の循環量で、かつ膜面線速が0.005m/sec以上0.5m/sec未満でクロスフローを行いながら濃縮水を排出せずに濾過し、前記中空糸型濾過膜モジュールは、該濾過膜モジュールからの透過水または別途供給される清浄水により、圧力制御またはあらかじめ定められた周期で、逆洗圧が通常運転時の1.3〜1.5倍の圧力で間欠的な逆洗を行い、透過水の流量をP、逆洗水の排出量をCとしたときの回収率、100×(P-C)/P(%)を90%以上95%以下で濾過することを特徴とする水の膜浄化方法。
【請求項2】請求項1記載の水の膜浄化方法において、前記水が表流水であることを特徴とする水の膜浄化方法。
【請求項3】請求項1又は2に記載の水の膜浄化方法において、前記濾過膜モジュールは、その膜材質が酢酸セルロースであることを特徴とする水の膜浄化方法。
【請求項4】請求項1〜3のいずれかに記載の水の膜浄化方法において、前記中空糸型濾過膜モジュールを用いたクロスフロー濾過は、内圧方式であることを特徴とする水の膜浄化方法。」

3-3.刊行物の記載内容
(1)刊行物1:「第42回全国水道研究発表会講演集」社団法人日本水道協会 第100〜102頁 (平成3年4月25日):申立人Aの提出した甲第1号証、申立人Bの提出した甲第1号証
(a)「本研究では、定期的な自動逆洗機能をつけた限外濾(原文はさんずいに戸であるが、この字に対して、以下、「濾」を使用する)過装置を用い、河川水の濾過を行い、処理量(透過流束:膜1m2、1日当たりの透過水量m3)や処理水質を調べ、膜を用いた浄水処理システムの可能性と課題を検討した。 2.実験 1)試料水 試料水には、神奈川県内の相模川下流の河川水を用いた。」(第100頁)
(b)第100頁 表1 中空糸型モジュール仕様には、膜Aが、モジュール有効長さ300mm、中空糸内径400μm、有効膜面積(内径基準)2.4m2であることが記載されている。
(c)「2)膜処理システム 膜モジュールには表1に示したD社製の中空糸型限外濾過膜モジュールを中心に4種類のモジュールを用いた。また、実験した膜処理システムを図1に示す。今回は中空糸型モジュールで内圧式濾過を行ったため、膜モジュールの閉塞を避けるため、プレフィルターとして孔径300μmのカートリッジフィルターを設けた。3)実験方法 限外濾過はクロスフロー方式で行い、循環流量は100〜300l/hとし、限外濾過圧力(PI-3とPI-5の平均値)は、約1kgf/cm2とした。また、透過流束の低下を少なくするために、定期的に蓄圧フラッシング方式または水道水により逆洗した。蓄圧フラッシング方式の逆洗機構を図2に示す。蓄圧時 には、モジュールの外にある2.5 lの蓄圧タンクに高圧力状態で水を貯め、フラッシング時にバルブを開放して貯った水により逆洗する。・・・3.結果と考察 膜Bで、蓄圧フラッシング逆洗を30分毎に行い、1度の逆洗で3回の蓄圧フラッシングを行った場合の透過流束の変化の様子を図3に示す。」(第101頁)
(d)第100頁の図2蓄圧フラッシング機構 a)濾過時では、濃縮排水磁弁は閉止されている。
(e)第101頁の図4 透過流束の経時変化では、膜Aが7.1〜0.9m3/m2/dであることが図示されている。
(2)刊行物2:「第43回全国水道研究発表会講演集」社団法人日本水道協会 第310〜312頁 (平成4年4月20日):申立人Aの提出した甲第2号証、申立人Bの提出した甲第2号証
(a)「そこで、本研究では、前報に引続き、河川水を限外濾過膜で直接濾過紙、透過流束(膜1m2、1日当りの透過水量m3)や処理水質を調べ、分画分子量や材質の異なる膜を比較すると共に、逆洗や薬洗方法について検討を行った。」(第310頁1.はじめに)
(b)「試料水には、神奈川県内の相模川下流の河川水を用いた。」(第310頁2.実験1)試料水)
(c)「限外濾過膜モジュールには、表1に示したD社製の3種類の中空糸型膜モジュールと1種類のスパイラル型モジュールを用いた。また、実験した膜処理システムを図1に示す。主に中空糸型モジュールで内圧式濾過を行ったので、膜モジュールの閉塞を避けるため、プレフィルターとして孔径300μmのカートリッジフィルターを設けた。」(第310頁2)膜処理システム)
(d)「限外濾過はクロスフロー方式で行い、循環流量は100〜300l/h、膜面流速0.03〜0.10m/sとし、限外濾過圧力(PI-3とPI-5の平均値)は、約1kgf/cm2とした。また、膜面に蓄積したSSを除去し、透過流束の低下を少なくするために、定期的に蓄圧フラッシングまたは水道水により逆洗した。逆洗機構は図2に示す通りである。1)の蓄圧フラッシングでは、蓄圧時には、モジュールの外にある 2.5lの蓄圧タンクに1.0〜2.3kgf/cm2で透過水を貯め、フラッシング時にバルブを開放して貯まった水により逆洗した。 2)の水道水逆洗では、圧力を2.3kgf/cm2とした水道水で逆洗した。」(第311頁3)実験方法)
(e)「膜Bで蓄圧フラッシング逆洗と水道水逆洗の比較実験を行った結果を図4に示す。逆洗間隔はいずれの逆洗の場合も30分毎に行った。」(第311〜312頁3.結果と考察)
(3)刊行物3:「化学工学」第45巻 第6号 第26〜32頁(1981):申立人Aの提出した甲第3号証
(a)「定期的に逆洗をかけて、膜面付近の濃度分極層を除去し、ゲル化を防止することも安定な性能維持に有効である。最適逆洗条件は、濾過-洗浄の繰り返しにおける濾水流量の経時変化から実験的に求められるが、われわれはこれまでの経験から、たとえばカチオン電着塗料の処理においては30分毎に30秒間、濾水による逆洗を標準条件として決めている。逆洗に使用する濾水量は濾過によって得る流水の7%前後であり、安定運転を考えれば決して大きい量ではない。」(第31頁左欄)
(b)第32頁図16には、カチオン電着塗料用UFシステムの運転状況例として、「モジュール入口/出口圧力=2.3/0.2kg/cm2G、逆洗圧力=2.5kg/cm2G、30分毎に30秒間自動逆洗、濾水中のNV:0.3%」と記載されている。
(4)刊行物4:「Journal AWWA DECEMBAR 1991」第81〜91頁:申立人Aの提出した甲第4号証
(a)「中空糸限外濾過(UF)システムにおける粉末活性炭(PAC)の挙動が 、自然水から、全有機炭素及び代表的な合成有機化合物2,4,6-トリクロロフェノールを除去することに関し成功裡に予測及び測定された。小粒のPAC粒子の吸着動作は大粒の粒子に比べて著しく速いので、小粒の粒子を用いることにより、PAC粒子の接触時間を短縮することができる。有機化合物の除去についてのモデル予測がPAC-UFシステムの設計において使用され得る。」(第81頁左上欄第1〜7行、訳文、以下同じ)
(b)「UF膜 セルロース誘導体よりなる分画分子量約100,000の親水性膜が用いられた。各モジュールは、内径0.93mm、長さ1.1mの20本の膜を有し、全表面積は0.064m2である。製造会社は、最大UF圧力200kPa(29psi)、最大逆洗圧力240kPa(35psi)を推奨している。」(第84頁第11〜20行)
(5)刊行物5:「化学装置」1977年2月号 第83〜87頁:申立人Aの提出した甲第5号証
(a)「逆洗は30〜60minに1minの割合で自動的に行われるように設計されている。」(第85頁)
(6)刊行物6:「ケミカル・エンジニアリング」1973年7月号 第117〜122頁:申立人Aの提出した甲第6号証
(a)「この濾過装置の場合、初圧は0.1〜0.2kg/cm2くらいからスタートし、2〜3kg/cm2になった時逆洗工程に切換わるように制御されるのが普通で、逆洗圧は5〜6kg/cm2で操作される。」(第118頁)
(7)刊行物7:「jounal」Vol.81、No.11 第68〜75頁(November1989):申立人Bの提出した甲第3号証
(a)「実験方法 原水 2種類の北カリフォルニアの原水、即ちモケルム川及びサクラメントーサンジョアキンデルタの水がイーストベイ・マニシパルユーティリティ地区及びコントラコスタウォーター地区にそれぞれ供給されている。」(第69頁右欄第11〜17行、訳文、以下同じ)
(b)「このUF膜がMokelume用の水に試されたときには、200μmのプレフィルタが用いられ、Deltaの水に対しては、38μmのプレフィルタが用いられた。プレフィルタを通った後、水は循環ループに流れ込む。第2の再循環ポンプが選択された流量を供給する。この調査に用いられた中空糸モジュールは、Lyonnaiise des Eauxにより供給された。膜は、セルロース誘導体よりなるものであるが、有効長は47.2インチ(1.2m)であり、有効濾過面積は77.5平方フィート(7.2m2)であり、分画分子量は約100,000であった。それは、逆洗水やMokelume川の原水にて濾過する塩素レベルに対し長期にわたって耐久力を有するように指定されている。膜ユニットから生産された濾過水は、生産水タンクに集められた。この水は、膜を逆洗するのに使用されたか、或いは生産水タンク内の水の容積が70ガロン(215l)を超えたときにオーバーフロー流出口から廃棄された。生産水として膜を通過しなかった水は、プレフィルタの直前に濃縮水としてループに再循環されると共に、追加の原水と混合される。膜を詰まらせる固形分や他の物質の濃度を調整するために、再循環ループに放出弁が設置された。この調査の間、原水の約85%が再循環された。しかしながら、いずれの濃縮物質の排出も必要ないことがわかった。」(第70頁右欄第1〜40行)
(c)「膜の目詰まりを減少させるために、定期的な逆洗が行われた。タービンポンプが、生産水タンクからの水を、膜モジュールを通して中空糸の外側からその内孔に注入した。次亜塩素酸ナトリウムが、遊離塩素として、3.5mg/Lの濃度で逆洗水に添加された。逆洗の圧力は、流量が約9gpm(34L/min)である状態で19〜22psiの範囲とされた。すべての逆洗水が廃棄された。初めの作業は、この処理の頻度と継続時間を最適にすることに重点が置かれた。Mokelumeの水が用いられた場合、膜逆洗の最適条件は、30分運転した後、毎回1分間継続することであることがわかった。Deltaに関しては、15分ごとに15秒の逆洗が行われた。」(第71頁左欄第19〜38行)
(8)刊行物8:特公昭63-82号公報:申立人Bの提出した甲第4号証
(a)「限外濾過性の壁を持つ多数本の中空糸がその両端で注型成形材料で整束固定されかつその端部で開口されたモジュールカートリッジが上記整束固定された端部において中空糸壁をへだてて被処理液室と中空糸膜透過液室が液密になるように、かつ中空糸壁を通してのみ被処理液室から中空糸膜透過液室へ透過液が透過するようにケーシング内に納められている内圧式モジュールと、中空糸膜透過液を逆洗水としてモジュールの透過液室に送り返すモジュールに連結した逆洗ポンプおよび逆洗用透過液貯蔵タンクを有する逆洗装置と、シーケンス制御装置とからなることを特徴とする限外濾過装置。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「逆洗装置は、逆洗水タンク(透過液貯蔵タンク)と、あとで詳しく述べるシーケンス制御装置により作動する逆洗ポンプを有する。逆洗水として最も好ましいのは中空糸膜を透過した濾水である。したがって、透過液貯蔵タンクが逆洗水タンクである。逆洗ポンプはこのの逆洗水タンクから逆洗水をモジュールに向って圧力するものである。 逆洗操作は定期的かつ自動的に行えるよう設計されている。すなわち、逆洗ポンプ、供給ボンプ、自動開閉弁が定期的かつ自動的にON-OFFして、供給ポンプを停止するか、または逆洗ポンプ稼働時に供給ポンプを稼働したままで放圧弁を開けるか、または供給ポンプを稼働したまま放圧弁を閉じ濾過以上の圧力をかけるかして逆洗操作が行われる。」(第3頁第5欄第38行〜第6欄第9行)
(c)「第4図は内圧式で逆洗時に供給ポンプが停止するタイプのものである。供給ポンプ14もにより被処理液は内圧式モジュール15に送入される。モジュール内に送入された被処理液は中空糸内部に導入されそのうち中空糸壁を透過する成分の一部は中空糸壁を透過し、中空糸の外側へ浸み出し、透過液出口16に集められ逆洗用透過液貯蔵タンク17を満したオーバーフローし、透過液取り出しパイプ18よりシステム外に取り出される。一方、中空糸膜の非透過成分濃縮液は背圧弁19を通り、非透過成分濃縮液取出しパイプ20より取り出される。濾過圧の設定は圧力調節弁21によって行なう。1bathの濃縮倍率の設定は背圧弁19によって行なう。逆洗時には供給ポンプ14が停止し、電磁弁22が閉じ逆洗ポンプ23が作動し、逆洗用透過液貯蔵タンク17より逆洗液を点線の矢印の方向へモジュールに向けて圧入し、中空糸の外側から内側へ逆洗する。24は逆止弁で点線の矢印の方向へのみ流れるような構造になっており、逆洗ポンプ停止時の逆洗ポンプへの空気の流入を防いでいる。逆洗時に逆洗水は一部圧力調節弁21あるいは供給ポンプ14を通って被処理液側にもどり、一部は非透過成分濃縮取出しパイプ20を通って濃縮液側に混入される。25は逆洗圧力を調節するための弁である。第5図は26の電磁弁以外はすべて第4図と同じであるが、このシステムは中空糸内面に沈積する濾滓がとれにくい被処理液に適した内圧式システムである。27は原液タンク、28はシーケンス制御回路、29は濃縮液もどり配管である。最適の逆洗の間隔は、濾過曲線(透水率と時間の関係)を測定し、コンピューターによる図式積分により濾過方程式を求めて計算することができ、15分ないし2時間に1回程度であり、逆洗時間は通常1分間行なわれる。」(第4頁第7欄第10〜44行)
(9)刊行物9:「衛生工学研究論文集」社団法人土木学会 第28巻(1992) 第131〜138頁(平成4年1月6日):申立人A提出平成16年7月16日付け回答書添付参考資料1
(a)「2.実験方法 実験に供した膜は中空糸タイプの限外ろ過膜(PAN(ポアクリルニトリル)系共重合体:旭化成製:ACL-1050)で、内径1.4mm、外径2.3mm、分画分子量は13,000で有効膜面積は0.145m2である。膜分離実験装置の概要をFig.1に示す。」(第131頁)
(b)「操作条件は内圧式で、ろ過圧力が80kPa(モジュール入口圧力が100kPa、出口圧力が60kPa)、クロスフロー流速1.0m/s、逆洗圧力は約80及び150kPaとした。」(第132頁)
(c)第132頁のTable1 Experimental condition and results には、Back washing pressure Pb(kPa)の欄に、75、140、150が記載されている。
(10)刊行物10:「第43回全国水道研究発表会講演集」社団法人日本水道協会 第307〜309頁(平成4年4月20日):申立人A提出平成16年7月16日付け回答書添付参考資料2
(a)「2.実験方法 実験に用いた膜は中空糸タイプの限外ろ過膜(PAN(ポリアクリルニトリル)系共重合体:旭化成製:ACL-1050)で、内径1.4mm、外径2.3mm、分画分子量は13,000で、有効膜面積0.145m2である。」(第307頁)
(b)「また、操作条件は内圧式で、ろ過圧力が80kPa(モジュール入口圧力が100kPa、出口圧力が60kPa)、クロスフロー流速1.0m/s、逆洗圧力は約40、80及び150kPaとした。」(第307頁)

3-4.対比・判断
(1)本件訂正発明1について
刊行物1の上記(1)(a)には、「定期的な自動逆洗機能をつけた限外濾過装置」、上記(1)(c)には、「中空糸型限外濾過膜モジュール」、「クロスフロー方式」、「蓄圧フラッシング方式」が記載されている。
上記(1)(c)から、「循環流量は100〜300 l/h」である。また、上記(1)(b)から、膜Aの有効膜面積(内径基準)は2.4m2である。
ここで上記(1)(e)から、膜Aの透過流速は7.1〜0.9m3/m2/dである。
そうすると、膜Aを使用した中空糸型限外濾過膜モジュール(有効膜面積(内径基準)は2.4m2)の1日当たりの透過水量は17.04〜2.16m3/dであり、これを換算すると、710〜90 l/hである。
ここで、濾過時に濃縮排水磁弁が閉止している(上記(1)(d))ことは、河川水流入量と透過水量が一致すると云うことであるから、膜Aを使用した中空糸型限外濾過膜モジュールでは、河川水流入量710〜90 l/hに対して、循環流量が100〜300 l/hであるということである。
そうすると、河川水流入量に対して循環流量は、0.14〜3.33倍ということである。
また、膜Aを使用した中空糸型限外濾過膜モジュールでは、有効膜面積(内径基準)は2.4m2であり、その場合のモジュール有効長さ300mm、中空糸内径400μmであるから(上記(1)(b))、中空糸一本の有効膜面積は376.8mm2と計算でき、そうすると、使用されている中空糸本数は6370本である。
そして、中空糸一本の断面積は1.256×10-7mm2であるから、膜モジュールの総断面積は9.2×10-4m2となる。そして、クロスフロー方式の膜面線速とは、循環流量(100〜300 l/h)を総断面積で除した値であるから、膜Aを使用した中空糸型限外濾過膜モジュールの膜面線速は0.03〜0.11m/secとなる。
これら記載を本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には「限外濾過膜モジュールを用いてクロスフロー濾過により河川水を浄化する方法において、前記濾過膜モジュールが中空糸型濾過膜モジュールであり、河川水流入量に対して0.14〜3.33倍の循環量で、かつ膜面線速が0.03〜0.11m/secでクロスフローを行いながら濃縮水排水を行わずに濾過し、前記中空糸型濾過膜モジュールは蓄圧フラッシング方式で透過水により定期的な自動逆洗を行う、河川水の膜浄化方法」という発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明1と刊行物1発明とを対比すると、両者は「限外濾過膜モジュールを用いてクロスフロー濾過により水を浄化する方法において、前記濾過膜モジュールが中空糸型濾過膜モジュールであり、クロスフローを行いながら濃縮水を排出せずに濾過し、前記中空糸型濾過膜モジュールは、該濾過膜モジュールからの透過水により、あらかじめ定められた周期で、間欠的な逆洗を行う、水の膜浄化方法」という点で一致し、さらに「原水流入量に対しての循環量」や「膜面線速」の数値範囲が本件訂正発明1と刊行物1発明との両者で重複するものの、次の点で相違している。

相違点:本件訂正発明1では、逆洗を「逆洗圧が通常運転時の1.3〜1.5倍の圧力で」で行い、「透過水の流量をP、逆洗水の排出量をCとしたときの回収率、100×(P-C)/P(%)を90%以上95%以下で濾過する」のに対して、刊行物1発明では、それらの点が不明である点

次に、この相違点を検討する。
刊行物2には、「限外濾過圧力は、約1kgf/cm2とし、蓄圧フラッシングでは、1.0〜2.3kgf/cm2で逆洗し、水道水逆洗では、圧力を2.3kgf/cm2で逆洗した」(上記(2)(d))ことが記載されており、これらの数値から、逆洗圧は、蓄圧フラッシングでは、通常運転時の1〜2.3倍の圧力、水道水逆洗では2.3倍ということは云えるが、本件訂正発明1の「1.3〜1.5倍」という特定の数値範囲が選択されているわけではないし、さらには回収率については記載もされていないし、示唆もされていない。
刊行物3には、「逆洗に使用する濾水量は濾過によって得る流水の7%」(上記(3)(a))と記載されており、この記載から回収率は93%と解されるが、逆洗圧については「モジュール入口/出口圧力=2.3/0.2kg/cm2G、逆洗圧力=2.5kg/cm2G」(上記(3)(b))という記載からみて、濾過圧力が(2.3+0.2)/2=1.25kg/cm2Gであるから、逆洗圧は通常運転時の2倍と解されるが、この数値は本件訂正発明1の数値範囲外の数値である。してみると、刊行物3には、上記相違点の逆洗圧と回収率の組み合わせの構成は記載も示唆もされていないと云える。
刊行物4には、「最大UF圧力200kPa(29psi)、最大逆洗圧力240kPa(35psi)」(上記(4)(b))と記載されており、この記載から、逆洗圧は通常運転時の1.2倍と解される。この数値は本件訂正発明1の数値範囲外の数値である。そして、回収率については記載もされていないし、示唆もされていない。してみると、刊行物4には、上記相違点の逆洗圧と回収率の組み合わせの構成は記載も示唆もされていないと云える。
刊行物5、7、8には、逆洗圧や回収率について記載も示唆もされていない。
刊行物6には、「2〜3kg/cm2になった時、逆洗圧は5〜6kg/cm2」(上記(6)(a))と記載されており、この記載から、逆洗圧は通常運転時の2.5〜3倍と解されるが、この数値は本件訂正発明1の数値範囲外の数値である。さらには、回収率については記載もされていないし、示唆もされていない。
刊行物9には、「ろ過圧力が80kPa、逆洗圧力は約80及び150kPa」(上記(9)(b))と記載されており、この記載から、逆洗圧は通常運転時の1、1.87倍と解される。しかしながら、回収率については記載もされていないし、示唆もされていない。
刊行物10には、「ろ過圧力が80kPa、逆洗圧力は約40、80及び150kPa」(上記(10)(b))と記載されており、この記載から、逆洗圧は通常運転時の0.5、1、1.87倍と解される。しかしながら、回収率については記載もされていないし、示唆もされていない。
なお、申立人Aは、平成16年7月16日付け回答書(第4頁第23行〜第5頁第19行)において、刊行物1の一回の逆洗における蓄圧フラッシングの繰り返し回数を3回として回収率を計算すると、91.7%となると主張している。この計算において、一回の逆洗における逆洗水は蓄圧タンクの容量2.5リットルの3回分の7.5リットルが使用されているとして計算されているが、蓄圧フラッシング機構の詳細が不明のため、上記計算の根拠としたであろう刊行物1の「1度の逆洗で続けて3回の蓄圧フラッシングを行った」(上記(1)(c))記載からだけでは1回の逆洗水の使用量が2.5×3=7.5リットルであると断定することができない。また、仮に、申立人Aの主張のとおり、91.7%であるとしても、蓄圧フラッシングの逆洗圧は、上述のとおり、上記刊行物2には、1〜2.3倍とされているから、刊行物1発明の蓄圧フラッシングの逆洗圧を「1.3〜1.5倍」という特定の数値範囲とすることは、上記刊行物2からみて容易に想到し得ることであるとは云えない。
以上のことから、刊行物1〜10を組み合わせても、上記相違点の構成は当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
そして、本件訂正発明1は、「本発明による浄化方法は、実質的に全量濾過に近い方式で無駄に排出される水量が非常に少なく、高回収率が達成できる。しかも、従来のような凝集池や沈澱池を必要としない省スペースタイプで設置も容易であり、使用するUFモジュール又は精密濾過膜モジュールに対するクロスフロー量(循環量)も従来方式に比べてはるかに少なくて済むので、UFモジュール又は精密濾過モジュールに原水を供給すると共にクロスフローを行うためのポンプも大容量のものを必要とせず小型のものでよく、ポンプの電力消費量を大幅に減らすことが出来る。従って、従来の大循環量によるクロスフローに比し、ランニングコストが小さくなり、さらに長時間の運転が可能になる。」(本件特許掲載公報第4頁第8欄第42行〜第5頁第9欄第4行)という効果を奏すると云える。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本件訂正発明2〜4について
本件発明2〜4は、請求項1を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)と同じ理由で、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願にされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水の膜浄化方法及びその装置の運転方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
限外又は精密濾過膜モジュールを用いてクロスフロー濾過により水を浄化する方法において、前記濾過膜モジュールが中空糸型濾過膜モジュールであり、
原水流入量に対してゼロを越え6倍以下の循環量で、かつ膜面線速が0.005m/sec以上0.5m/sec未満でクロスフローを行いながら濃縮水を排出せずに濾過し、
前記中空糸型濾過膜モジュールは、該濾過膜モジュールからの透過水または別途供給される清浄水により、圧力制御またはあらかじめ定められた周期で、逆洗圧が通常運転時の運転圧の1.3〜1.5倍の圧力で間欠的な逆洗を行い、
透過水の流量をP、逆洗水の排出量をCとしたときの回収率、100×(P-C)/P(%)を90%以上95%以下で濾過することを特徴とする水の膜浄化方法。
【請求項2】
請求項1記載の水の膜浄化方法において、前記水が表流水であることを特徴とする水の膜浄化方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水の膜浄化方法において、前記濾過膜モジュールは、その膜材質が酢酸セルロースであることを特徴とする水の膜浄化方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水の膜浄化方法において、前記中空糸型濾過膜モジュールを用いたクロスフロー濾過は、内圧方式であることを特徴とする水の膜浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、限外又は精密瀘過膜モジュールを利用した水の浄化方法に関し、特に河川水や湖沼水等の表流水の浄化方法及びその装置の運転方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、河川水や湖沼水等の表流水から水道水を得るための浄水処理システムとしては、凝集-沈澱-砂濾過-塩素滅菌工程を経るのが一般的である。このような工程を実現するためには、凝集池、沈澱池、砂濾過池、塩素滅菌設備が必要であり、大きな設置スペースを要するという問題点がある。加えて、近年河川等の水源の汚濁が進んでいるため、これに対する新しい高度浄水処理システムの開発が求められ、上記工程に活性炭処理システムやオゾン処理システムを付加することが提案されている。
【0003】
しかしながら、従来の浄水処理システムに上述した活性炭処理システムやオゾン処理システムを付加することは、設置スペースの更なる増加を招き、複雑な計測制御技術をも必要とする新たな問題点が生ずる。
【0004】
これに対し、限外又は精密濾過膜と呼ばれる新しい材料の利用技術が多方面にわたって提案されており、その一例として中空糸型限外又は精密濾過膜モジュールを使用した浄水処理システムの実用化が検討されている。
【0005】
その一例を図6を参照して説明する。図6において、逆止弁30を経て導入された河川水等の原水は、ポンプ31により昇圧されて中空糸型限外濾過膜モジュール(以下、UFモジュールと呼ぶことがある)32に供給される。UFモジュール32は、簡単に言えば、中空糸状の限外濾過膜を多数集合させたものであり、この中空糸膜の内側に濁質成分を含む原水を供給すると、濁質成分を除去された透過水が中空糸膜外に得られる。このようにして、UFモジュール32では、限外濾過膜の濾過作用により濁質成分を除去した透過水を、透過水自動弁33を通して次段の処理施設に供給する。
【0006】
ところで、UFモジュール32内では中空糸膜の内側表面に透過されない濁質成分が蓄積し、詰まって処理能力の低下、ひいては運転停止の原因となるので、これを排出する処理が必要である。これは、UFモジュール32の中空糸膜に供給する水流を高速とすることで実現されている。すなわち、中空糸膜の内表面に糸の長さ方向と平行に高速の水流(クロスフロー)を与えることで中空糸膜の内表面に付着している濁質成分を、いわばはぎとるものである。
【0007】
このため、UFモジュール32内における中空糸膜の内側に連通する出口には、濁質成分を大量に含んだ濃縮水を濃縮水排出自動弁34を通してその一部を常時排出する経路35と、高速の水流を得るためにUFモジュール32に供給された原水をポンプ31のサクション側に戻すための循環経路36が接続される。ポンプ31のサクション側に戻される循環流量は、逆止弁30を経て供給される原水の流量に比べて通常10倍程度以上とはるかに多い。このようにしてUFモジュール32からポンプ31のサクション側に原水を戻す処理方式はクロスフロー方式と呼ばれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このようなクロスフローのため、ポンプ31の容量は、同程度の処理能力を持つ従来の凝集ー沈澱ー砂濾過による浄水処理システムにおけるポンプの容量に比べてはるかに大きく、従って電力消費量も従来方式のポンプの電力消費量に比べてはるかに多く、ランニングコストが高くなるという問題点がある。加えて、濃縮水の排出は連続して行われており、例えば原水の流入量を1としたとき、透過水を0.3得る場合は、濃縮水の割合は0.7となり、水の大部分を捨てていることになるので、回収率は30%と悪いという問題点もある。なお、ここでは透過水の流量をP、濃縮水の排出流量をCとすると、回収率は100×P/(P+C)(%)で表される。
【0009】
それゆえ、本発明の課題は限外又は精密濾過膜モジュールを利用した表流水の浄化処理システムにおいてランニングコストの低減化を図ると共に、全量濾過に近い回収率が得られる膜浄化方法および膜浄化装置の運転方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、限外又は精密濾過膜モジュールを用いてクロスフロー濾過により水を浄化する方法において、前記濾過膜モジュールが中空糸型濾過膜モジュールであり、原水流入量に対してゼロを越え6倍以下の循環量で、かつ膜面線速が0.005m/sec以上0.5m/sec未満でクロスフローを行いながら濃縮水を排出せずに濾過し、前記中空糸型濾過膜モジュールは、該濾過膜モジュールからの透過水または別途供給される清浄水により、圧力制御またはあらかじめ定められた周期で、逆洗圧が通常運転時の運転圧の1.3〜1.5倍の圧力で間欠的な逆洗を行い、透過水の流量をP、逆洗水の排出量をCとしたときの回収率、100×(P-C)/P(%)を90%以上95%以下で濾過することを特徴とする水の膜浄化方法が提供される。
【0011】
本発明によればまた、中空糸型限外又は精密濾過膜モジュールを用い、原水を昇圧するポンプのサクションラインに非透過水を還流させるクロスフロー濾過により表流水を浄化する膜浄化装置の運転方法において、前記濾過膜モジュールの透過水の出口経路には透過水自動弁を設けると共に、該透過水自動弁の下流側に前記透過水を貯留するタンクを設け、前記透過水の出口経路には更に、前記タンクの前記透過水を前記濾過膜モジュールの前記透過水の出口に戻す逆洗用ポンプ及び逆洗自動弁を設け、前記濾過膜モジュールには洗浄水排出自動弁を有する洗浄水の排出経路を接続し、通常運転においては前記透過水自動弁を開、前記逆洗自動弁、前記洗浄水排出自動弁は閉として原水流入量に対してゼロを越え6倍以下の循環量で、かつ膜面線速が0.005m/sec以上0.5m/sec未満でクロスフローを行いながら濃縮水を排出せずに濾過し、前記濾過膜モジュールからの透過水を前記タンクに貯留し、前記濾過膜モジュールの逆洗に際しては、前記透過水自動弁を閉、前記逆洗自動弁、前記洗浄水排出自動弁は開とすると共に、前記原水流入を止め、前記タンクに貯留された透過水をまたは別途供給される清浄水を膜の透過側から原水側へ逆洗を行うことを特徴とする表流水の浄化装置の運転方法が提供される。
【0012】
なお、前記濾過膜モジュールはその膜材質が酢酸セルロースであるのが最適であり、その形状としてはプレート・アンド・フレーム型、プリーツ型、スパイラル型、チューブラー(管状)型、中空糸型等が挙げられるが、中空糸型が好ましい。また、中空糸型濾過膜モジュールを用いる場合は、中空糸膜の内側に原水を供給する内圧方式が好ましい。
【0013】
また、前記洗浄時の圧力は、前記通常運転時の運転圧の実質上1.0倍以上1.5倍以下とすることが望ましい。また、透過水の流量をP、逆洗水の排出量をCとしたときの回収率、100×(P-C)/P(%)を90%以上99%以下で濾過運転することが好ましい。
【0014】
逆洗に用いられる水は、膜透過水であってもよく、あるいはまた最終的に得られる水道水等の清浄水を別途供給してもよい。逆洗はあらかじめ定められた周期による時間制御でも圧力制御であってもよく、圧力制御の場合は運転圧の実質上1.3倍以上で動作する様にすればよい。本発明において透過水の流量をP、洗浄水の排出流量をCとすると、回収率は100×(P-C)/P(%)で表され、本発明によれば、回収率90%以上99%以下で運転することが可能である。
【0015】
【作用】
本発明において、前述の課題は通常運転中は濾過膜モジュールへ戻すクロスフローの水量(循環量)は極限まで減らし、濾過膜表面に付着した濁質成分の除去は主に圧力制御または定時間間隔で行われる逆洗によって実現される。すなわち、逆洗により、濾過膜表面に付着した濁質成分は中空糸膜の外面側からの逆流により洗浄されることになる。また、通常運転中は濃縮水を排出せず、見かけ上の全量濾過とし、逆洗時のみ一定量の洗浄水をシステム外に排出する。従って、本発明による膜浄化方式は、低循環量のクロスフロー濾過方式を併用した見かけ上の全量濾過方式といえるものである。
【0016】
【実施例】
以下にUFモジュールを用いた場合の本発明の一実施例について、図面を参照して説明するが、精密濾過膜モジュールを用いても同様に行うことが出来る。図1は本発明による浄化方法を実施するための構成を示す模式図であり、従来例と同様の逆止弁10、ポンプ11、UFモジュール12、透過水自動弁13、洗浄水排出自動弁14の構成に加えて、透過水を蓄積するための透過水タンク17、蓄積された透過水をUFモジュール12の出口側に戻して逆洗を行うためのポンプ18、逆洗自動弁19とを設けている。
【0017】
この処理システムの運転は次のようにして行われる。通常運転に際しては、透過水自動弁13を開、洗浄水排出自動弁14、逆洗自動弁19は共に閉とし、ポンプ18を停止状態におく。このようにして、逆止弁10を経て導入された河川水等の原水は、ポンプ11により昇圧されてUFモジュール12に供給される。UFモジュール12では、限外濾過膜の濾過作用により濁質成分を除去した透過水を、透過水自動弁13を通して透過水タンク17に蓄積する。なお、この通常運転の間、循環経路16を通して原水の流入量に対してゼロを越え6倍以下程度の量のクロスフローが行われるが、透過水量は原水量に等しい。
【0018】
逆洗は、例えば30分ないし1時間程度の定時間間隔で30〜60秒の間行われる。この場合、原水の供給を停止すると共に透過水自動弁13を閉、洗浄水排出自動弁14、逆洗自動弁19は共に開とし、ポンプ11を停止状態、ポンプ18を運転する。このようにして、透過水タンク17に蓄積された透過水の一部を利用してUFモジュール12に対する逆洗が行われ、逆洗により中空糸膜の内表面からはぎとられた濁質成分は、洗浄水として洗浄水排出自動弁14を通してシステム外に排出される。逆洗水量は洗浄水排出水量に等しい。
【0019】
以下、図1の膜浄化装置を用いて行った各種の測定結果を参照しながら説明する。図2は横軸の運転日数、縦軸のフラックスとも称される単位面積・時間当たりの流量(以下、単に「流量」と略す、単位はリットル/m2・h、但し25℃、1kg/cm2換算)変化との関係を示した図で、運転条件としては、UFモジュール12の材質に分画分子量30000のポリエーテルスルホンを使用し、膜面積は2.2m2、平均運転圧は1kg/cm2とした。
【0020】
図2から明らかなように、比較例として示すクロスフローなしの通常の全量濾過方式で運転した場合(図中、白丸の曲線イ)には、逆洗を行っても濁質成分の除去が不十分で目詰りを生じ時間経過と共に流量の低下が著しい。また1m/secの膜面線速(原水流入量に対する循環量の倍率約8倍)でクロスフローを行う従来法(回収率20%で運転)で、逆洗はなしの場合(図中、黒三角の曲線ハ)は、曲線イより流量低下は改善される。これに対し0.01m/secの遅い膜面線速(前記循環倍率約0.4倍)でもクロスフローを行いながら定周期で逆洗も行う本発明方法の場合(図中、白三角の曲線ロ)、曲線イよりは流量の低下は抑制される。更に、逆洗を行いながら0.1m/secの線速(前記循環倍率約4倍)でクロスフローを行う本発明方法によると(図中、黒丸の曲線ニ)、曲線ハよりも流量低下が改善される。このような結果から本発明によれば、逆洗の効果がより発揮されることが理解できる。
【0021】
図3は運転日数(横軸)と流量(縦軸、15℃で測定)との関係に及ぼす回収率の影響を示した図で、運転条件としては、UFモジュール12の材質に酢酸セルロースを使用し、膜面積は1.3m2、平均運転圧は1kg/cm2、原水の流入量は100リットル/h、膜循環水量は300リットル/h、逆洗圧は1.5kg/cm2とした。回収率を98%とすると、これは逆洗時に排出される洗浄水中の濁質成分は50倍程度に濃縮されることを意味し、回収率を95%とすると、これは逆洗時に排出される洗浄水の濁質成分は20倍程度に濃縮されることを意味する。回収率を高め、逆洗時に排出される洗浄水中の濁質成分の濃度を高めて排水量を少なくすることがより好ましいが、回収率を上げると流量低下が早まるので、バランス上回収率はある限界値を定めてこの値に維持することが必要であり、図3より、回収率は95%程度が好ましいことがわかる。この値は図6で説明した方式に比べて、濃縮水として無駄に排出される水量が大幅に少なくて済むことを表わしている。
【0022】
図4は運転日数(横軸)と流量(縦軸、15℃で測定)との関係に及ぼす逆洗圧の影響を示した図で、運転条件としては、UFモジュール12の材質に酢酸セルロースを使用し、膜面積は1.3m2、平均運転圧は1kg/cm2、原水の流入量は100リットル/h、膜循環水量は300リットル/h、回収率は94〜95%とした。本結果により、逆洗圧は高いほうが流量の経時的低下が低く、しかも平均運転圧より高い方が良いことが理解できる。逆洗圧は1.5kg/cm2程度が最適で、1.3kg/cm2程度でも十分な効果が期待でき、従って平均運転圧の1.3倍以上とするのが好ましい。
【0023】
図5は、運転日数(横軸)とUFモジュール12の膜素材による流量(縦軸、15℃で測定)の変化との関係を示した図である。運転条件としては、UFモジュール12の平均運転圧は1kg/cm2、原水の流入量は100リットル/h、膜循環水量は300リットル/h、逆洗圧は1.0kg/cm2とした。図から明らかなように、分画分子量150000の酢酸セルロース(CA)が最も流量が大きく、経時的低下も低いことが理解できる。なお、河川水には疎水性の濁質成分が多く含まれていることが多く、疎水性の濁質成分除去には親水性の膜素材が好ましいと考えられる。以上の点からUFモジュール12の膜素材としては、酢酸セルロースが好ましい。
【0024】
以上、本発明の実施例を説明してきたが、本発明は表流水のみならず各種の水に適用できることはいうまでも無い。また、本発明の浄化方法及びそれに用いる装置の運転方法によれば、濁質成分の除去に特に効果を発揮するので、イオンなどの溶解性物質や低分子有機物を除去するためには、前述した活性炭処理システムやオゾン処理システムを付加することが好ましい。勿論、従来の浄水処理システムに追加するかたちで利用することも出来、この場合大きな増設スペースを必要としない利点がある。
【0025】
【発明の効果】
以上UFモジュールを例にして説明してきたように、本発明による浄化方法は、実質的に全量濾過に近い方式で無駄に排出される水量が非常に少なく、高回収率が達成できる。しかも、従来のような凝集池や沈澱池を必要としない省スペースタイプで設置も容易であり、使用するUFモジュール又は精密濾過膜モジュールに対するクロスフロー量(循環量)も従来方式に比べてはるかに少なくて済むので、UFモジュール又は精密濾過モジュールに原水を供給すると共にクロスフローを行うためのポンプも大容量のものを必要とせず小型のものでよく、ポンプの電力消費量を大幅に減らすことが出来る。従って、従来の大循環量によるクロスフローに比し、ランニングコストが小さくなり、さらに長時間の運転が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による浄化方法を実施するための浄化装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1に示された構成において各種条件を設定して運転した場合の運転日数と流量変化との関係を示した図である。
【図3】図1に示された構成において各種条件を設定して運転した場合の運転日数と流量の関係に及ぼす回収率の影響を示した図である。
【図4】図1に示された構成において各種条件を設定して運転した場合の運転日数と流量の関係に及ぼす逆洗圧の影響を示した図である。
【図5】図1に示された構成において各種条件を設定して運転した場合の運転日数と流量の関係に及ぼすUFモジュール12の膜素材による影響を示した図である。
【図6】UFモジュール利用による従来の浄化方法を実施するための構成を示す模式図である。
【符号の説明】
10、30 逆止弁
11、18、31 ポンプ
12、32 UFモジュール
13、33 透過水自動弁
14 洗浄水排出自動弁
17 透過水タンク
19 逆洗自動弁
34 濃縮水排出自動弁
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-09-16 
出願番号 特願平4-215443
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉江 渉  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 中村 泰三
野田 直人
登録日 2003-02-07 
登録番号 特許第3395846号(P3395846)
権利者 ダイセル化学工業株式会社
発明の名称 水の膜浄化方法及びその装置の運転方法  
代理人 古谷 聡  
代理人 古谷 聡  
代理人 持田 信二  
代理人 持田 信二  
代理人 義経 和昌  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 義経 和昌  
代理人 溝部 孝彦  

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