• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1127384
異議申立番号 異議2003-73328  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-02-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-22 
確定日 2005-11-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第3454027号「熱間加工性および耐クリープ特性に優れたボイラー用鋼およびボイラー用継目無鋼管」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3454027号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3454027号の請求項1乃至6に係る発明についての出願は、平成8年7月29日に特許出願され、平成15年7月25日にその特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、岩下由美子より請求項1乃至6に係る発明についての特許に対し、特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明1乃至本件発明6
本件請求項1乃至6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1乃至6」という)は、本件明細書の請求項1乃至6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】重量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:1.5〜3.5%、Mo:0.1〜0.25%、W:0.5〜3.0%、V:0.03〜0.5%、Nb:0.01〜0.25%、Al:0.05%以下、N:0.005〜0.05%(0.005%は除く)、B:0.0003〜0.01%、Ca:0.001〜0.007%を含み、かつCa/S:0.3以上を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる熱間加工性および耐クリープ特性に優れたボイラー用鋼。
【請求項2】重量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:1.5〜3.5%、Mo:0.1〜0.25%、W:0.5〜3.0%、V:0.03〜0.5%、Nb:0.01〜0.25%、Al:0.05%以下、N:0.005〜0.05%(0.005%は除く)、B:0.0003〜0.01%、Ca:0.001〜0.007%を含み、かつCa/S:0.3以上を満足し、さらに、下記A〜C群の少なくとも1群から選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる熱間加工性および耐クリープ特性に優れたボイラー用鋼。

A群:Ni:1.5%以下、Cu:1.5%以下
B群:Ti:0.2%以下、Zr:0.2%以下、Ta:0.15%以下、
C群:REM:0.05%以下
【請求項3】重量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:1.5〜3.5%、Mo:0.1〜0.25%、W:0.5〜3.0%、V:0.03〜0.5%、Nb:0.01〜0.25%、Al:0.05%以下、N:0.005〜0.05%(0.005%は除く)、B:0.0003〜0.01%、Ca:0.001〜0.007%を含み、かつCa/S:0.3以上を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、マンネスマンミル等の傾斜圧延方式により製造された熱間加工性および耐クリープ特性に優れたボイラー用継目無鋼管。
【請求項4】重量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:1.5〜3.5%、Mo:0.1〜0.25%、W:0.5〜3.0%、V:0.03〜0.5%、Nb:0.01〜0.25%、Al:0.05%以下、N:0.005〜0.05%(0.005%は除く)、B:0.0003〜0.01%、Ca:0.001〜0.007%を含み、かつCa/S:0.3以上を満足し、さらに、下記A〜C群の少なくとも1群から選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、マンネスマンミル等の傾斜圧延方式により製造された熱間加工性および耐クリープ特性に優れたボイラー用継目無鋼管。

A群:Ni:1.5%以下、Cu:1.5%以下
B群:Ti:0.2%以下、Zr:0.2%以下、Ta:0.15%以下、
C群:REM:0.05%以下
【請求項5】重量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:1.5〜3.5%、Mo:0.1〜0.25%、W:0.5〜3.0%、V:0.03〜0.5%、Nb:0.01〜0.25%、Al:0.05%以下、N:0.005〜0.05%(0.005%は除く)、B:0.0003〜0.01%、Ca:0.001〜0.007%を含み、かつCa/S:0.3以上を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる素材を、マンネスマンミル等の傾斜圧延方式により継目無鋼管とすることを特徴とする熱間加工性および耐クリープ特性に優れたボイラー用継目無鋼管の製造方法。
【請求項6】重量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:1.5〜3.5%、Mo:0.1〜0.25%、W:0.5〜3.0%、V:0.03〜0.5%、Nb:0.01〜0.25%、Al:0.05%以下、N:0.005〜0.05%(0.005%は除く)、B:0.0003〜0.01%、Ca:0.001〜0.007%を含み、かつCa/S:0.3以上を満足し、さらに、下記A〜C群の少なくとも1群から選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる素材を、マンネスマンミル等の傾斜圧延方式により継目無鋼管とすることを特徴とする熱間加工性および耐クリープ特性に優れたボイラー用継目無鋼管の製造方法。

A群:Ni:1.5%以下、Cu:1.5%以下
B群:Ti:0.2%以下、Zr:0.2%以下、Ta:0.15%以下、
C群:REM:0.05%以下」

3.特許異議申立てについて
3-1.取消理由の概要
当審の取消理由の概要は、本件発明1乃至6は、引用例1乃至4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1乃至6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきである、というものである。

3-2.引用例とその主な記載事項
引用例1、2及び4には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)引用例1:特開昭63-18038号公報
(1a)「4.C:0.05〜0.20wt%、Si:0.50wt%以下、Mn:1.5wt%以下、Cr:2.0〜8.0wt%、Mo:0.1〜1.6wt%、W:0.1〜2.5wt%、V:0.05〜0.50%、Al:0.06wt%以下、N:0.0050wt%以下、P:0.010wt%以下およびS:0.004wt%以下を含み、さらにNi:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.08wt%、Nb:0.005〜0.10wt%、B:0.0003〜0.006wt%、Cu:0.05〜1.0wt%、Zr:0.005〜0.06wt%の1種または2種以上、およびREM:0.001〜0.10wt%、Ca:0.001〜0.005wt%の1種又は2種を含有し、残部Fe及び不可避不純物よりなるクリープ特性および耐水素侵食特性の優れた低合金鋼。」(第2頁特許請求の範囲第4項)
(1b)「石油精製工業、石油化学工業および一般化学工業における各種圧力容器や管類など、高温、高圧水素下で長期間使用されるプラントの各部位材料に有利に適合するクリープ特性および耐水素侵食特性の優れた低合金鋼に関する。」(第2頁右上欄14〜18行)
(1c)「発明者らはCr含有低合金鋼のクリープ強さおよび水素侵食特性に及ぼす添加成分の影響を巾広く検討した結果、Cr鋼をベースとした鋼にV,Wを複合添加するとともに低N、低Sにした場合、クリープ強さおよび耐水素侵食特性ともに優れた材料が得られることを見い出し、この発明に至った。」(第2頁右下欄16行〜第3頁左上欄1行)
(1d)「Ca:0.001〜0.05%
CaもREMと同様に0.001%以上の含有によりSを固定して耐水素侵食特性および耐SR割れ性を向上させる。しかし0.05%以上の含有の場合鋼中の介在物が多くなり、じん性等に悪影響を及ぼすので、0.001〜0.05%の範囲とする。」(第4頁右下欄13〜18行)
(2)引用例2:特開平2-217438号公報
(2a)「(1)重量%で、C:0.03〜0.14%、Si:0.7%以下、Mn:0.1〜1.5%、Ni:0.8%以下、Cr:1.5〜3.5%、Mo:0.01〜0.4%、W:1〜3%、V:0.05〜0.3%、Nb:0.01〜0.1%、N:0.005〜0.05%、Al:0.005〜0.05%、Mg:0.0005〜0.5%を含み残部は鉄および不可避的不純物からなり、WのMoに対する重量比(W/Mo)が6以上である高温クリープ強度の高い耐熱鋼。
(2)請求項(1)の成分に加えて、B:0.0001〜0.02重量%を含有する高温クリープ強度の高い耐熱鋼。
(3)請求項(1)の成分に加えて、それぞれ0.01〜0.2重量%のLa、Ce、Y、Ca、Ti、Zr、Taのうちの1種以上を含有する高温クリープ強度の高い耐熱鋼。」(特許請求の範囲)
(2b)「この発明は、550℃以上の高温でのクリープ強度が高く、ボイラ、化学工業、原子力用などの分野で熱交換器管、配管用管、耐熱バルブ、接続継ぎ手等の鋳鍛鋼品として使用される低Cr-Mo-W系耐熱鋼に関する。」(第1頁右欄4〜8行)
(2c)「N(窒素):
NはV、Nbとの炭窒化物形成に必要であるが、0.005%未満ではその効果がない。しかしNの含有量が0.05%を超えると鋼の組織が著しく細粒化するとともに、窒化物が粗大化し強度、靱性、溶接性、加工性を損なう。よってNの含有量は0.005〜0.05%、好ましくは0.005〜0.015%の低めがよい。」(第5頁左上欄1〜8行)
(2d)「不可避不純物の中では、PとSの上限を抑えることが大切である。これらはいずれも鋼の靱性、加工性、溶接性を損なう有害元素であり、特にWを多量に含有する本発明鋼においては、靱性改善のためにもこれらを少なくして清浄化しておくのが望ましい。Pは0.025%以下、Sは0.015%以下にそれぞれ抑えるべきである。」(第5頁左下欄2〜8行)
(3)引用例4:特開昭64-56854号公報
(3a)「C:0.04〜0.15%(重量%以下同じ)、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.30〜0.60%、Cr:2.00〜5.30%、Mo:0.45〜1.10%、Al:0.005〜0.02%を含有するとともに、Pを0.03%以下、Sを0.012%以下含有し、さらにCaをCa≦0.01%、かつ%S-(32/40)(%Ca)≦0.004%を満足する範囲内で含有し、残部が実質的にFeよりなることを特徴とする熱間穿孔性の優れた継目無鋼管用Cr-Mo鋼。」(特許請求の範囲)
(3b)「本発明は、主としてボイラー、熱交換器用として使用されるCr-Mo鋼STBA24,STBA25等の改良鋼に関する。Cr-Mo鋼は、普通鋼に比べて熱間加工性が悪く、そのためプラグミル方式やマンドレルミル方式等の傾斜圧延法を用いて継目無鋼管を製造する場合、管の外面または内面の欠陥を発生することがある。」(第1頁右欄1〜7行)
(3c)「本発明者等は、プラグミル方式あるいはマンドレルミル方式によってCr-Mo鋼の継目無鋼管を製造するにあたって欠陥発生要因について調査研究を重ねた結果、この種の欠陥発生には鋼中不純物としてのP、Sが大きな影響を及ぼしていることを見出し、さらに研究を重ねたところ、Pを0.03%以下に規制し、かつ適当量のCaを添加することにより、鋼中の固溶S量を減少させ、継目無鋼管を上述のような欠陥を生じることなく、プラグミル方式やマンドレルミル方式により製造し得ることを知見し、本発明をなすに至ったのである。」(第2頁左上欄6〜16行)

3-3.当審の判断
(1)本件発明1について
引用例1の(1a)には、「C:0.05〜0.20wt%、Si:0.50wt%以下、Mn:1.5wt%以下、Cr:2.0〜8.0wt%、Mo:0.1〜1.6wt%、W:0.1〜2.5wt%、V:0.05〜0.50wt%、Al:0.06wt%以下、N:0.0050wt%以下、P:0.010wt%以下およびS:0.004wt%以下を含み、さらにNi:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.08wt%、Nb:0.005〜0.10wt%、B:0.0003〜0.006wt%、Cu:0.05〜1.0wt%、Zr:0.005〜0.06wt%の1種または2種以上、およびREM:0.001〜0.10wt%、Ca:0.001〜0.005wt%の1種又は2種を含有し、残部Fe及び不可避不純物よりなるクリープ特性および耐水素侵食特性の優れた低合金鋼。」と記載され、上記(1b)には、この低合金鋼が「石油精製工業、石油化学工業および一般化学工業における各種圧力容器や管類など、高温、高圧水素下で長期間使用されるプラントの各部位材料に有利に適合する」ことができると記載されているから、この「低合金鋼」の選択成分の「Ni:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.08wt%、Nb:0.005〜0.10wt%、B:0.0003〜0.006wt%、Cu:0.05〜1.0wt%、Zr:0.005〜0.06wt%の1種または2種以上」の中から「Nb:0.005〜0.10wt%、B:0.0003〜0.006wt%」の2種を選択し、また、「REM:0.001〜0.10wt%、Ca:0.001〜0.005wt%の1種又は2種」の中から「Ca:0.001〜0.005wt%」の1種を選択すれば、引用例1には、「C:0.05〜0.20wt%、Si:0.50wt%以下、Mn:1.5wt%以下、Cr:2.0〜8.0wt%、Mo:0.1〜1.6wt%、W:0.1〜2.5wt%、V:0.05〜0.50wt%、Al:0.06wt%以下、N:0.0050wt%以下、P:0.010wt%以下およびS:0.004wt%以下を含み、さらにNb:0.005〜0.10wt%、B:0.0003〜0.006wt%、Ca:0.001〜0.005wt%を含有し、残部Fe及び不可避不純物よりなるクリープ特性および耐水素侵食特性の優れた高温、高圧水素下で長期間使用されるプラント用低合金鋼。」という発明(以下、「引用例1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と引用例1発明とを対比すると、両者は、「重量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.01%以下、S:0.004%以下、Cr:2.0〜3.5%、Mo:0.1〜0.25%、W:0.5〜2.5%、V:0.05〜0.5%、Nb:0.01〜0.1%、Al:0.05%以下、B:0.0003〜0.006%、Ca:0.001〜0.005%及びNを含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる耐クリープ特性に優れた鋼。」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:
(イ)本件発明1は、「N:0.005〜0.05%(0.005%は除く)」であるのに対し、引用例1発明は、「N:0.0050wt%以下」である点
(ロ)本件発明1は、「Ca/S:0.3以上」であるのに対し、引用例1発明は、このCa/Sが明らかでない点
(ハ)本件発明1は、「熱間加工性に優れた」ものであるのに対し、引用例1発明は、この熱間加工性に優れているか否か明らかでない点
(ニ)本件発明1は、「ボイラー用鋼」であるのに対し、引用例1発明は、「高温、高圧水素下で長期間使用されるプラント用鋼」である点
次に、これら相違点について検討する。
(i)相違点(イ)について
本件発明1の「N」の含有量は、本件明細書の「Nは、窒化物形成元素と結合し、窒化物を形成して高温クリープ強度を増加する。」(段落【0020】)という記載によれば、高温クリープ強度の増加のためであり、一方、引用例1発明は、「低N化により耐水素侵食性が向上し、さらにクリープ強さが向上すること、また0.0050%をこえて含有させた場合、ブローホールの発生により製造性が阻害され、溶接性も劣化するため、0.0050%以下とする。」(第3頁右下欄末行〜第4頁左上欄4行)という記載によれば、クリープ強度の向上のみならず溶接性や耐水素侵食性の改善をも考慮しているために本件発明1の「N」含有量より少なめとしているが、もっぱら高温クリープ強度の向上のみを目的とした場合には、そのN含有量を「0.005〜0.05%」とすることも、例えば引用例2の上記(2c)に記載されているように、本件出願前に既に知られた事項であるから、引用例1発明の「N」含有量をやや多めの「0.005〜0.05%」とする程度のことは、上記引用例2の記載から当業者が容易に想到することができたと云える。
(ii)相違点(ロ)について
本件発明1の「Ca/S:0.3以上」と規制する意味は、本件明細書の「熱間加工性に有害な硫化物を減少させるために、Ca/Sが0.3以上となるように、Caの添加量を調整する。」(段落【0022】)という記載から明らかなように、熱間加工性に有害な「S」をCaSとして固定して鋼中の固溶Sを減少させる点にあると認められるところ、このような目的でCaを含有することは、例えば引用例1、2及び4にも記載されているように、周知の事項である。また、その場合のCa含有量についても、引用例1や引用例4に記載の具体例が示すとおり、「Ca/S:0.3以上」とすることも周知の事項であるから、本件発明1に係る上記相違点(ロ)も、引用例1、2及び4に記載された上記周知事項から当業者が容易に想到することができたと云える。
(iii)相違点(ハ)について
引用例1には、引用例1発明が熱間加工性に優れているとする明示的な記載はないが、「Mn」に関する「1.5%をこえる過度の含有は硬化による加工性の劣化をまねき」(第3頁左下欄)という記載や「Al」に関する「また熱間加工性の劣化が懸念されるため、0.06%以下とする。」(第3頁右下欄)という記載に照らせば、引用例1発明も、その熱間加工性に配慮された合金設計がなされていると云うべきである。このことは、引用例1の「次いで16mm厚に熱間圧延後1050℃で2時間保持して・・・」(第5頁左上欄)という記載にみられるように、16mm厚まで(本件発明1の実施例では15mm厚まで)熱間圧延することができるという事実からも窺えることである。加えて、引用例1発明も、前示のとおり、本件発明1と熱間加工性の改善のために調整した、特にCa、S等の合金成分組成の点で実質的な差異がないのであるから、引用例1発明も、同様に「熱間加工性に優れた鋼」であると云うべきであるから、本件発明1に係る上記相違点(ハ)は、引用例1発明の属性である「熱間加工性」を単に確認したにすぎないものであり、実質的な相違点ではないと云うべきである。
(iv)相違点(ニ)について
本件発明1の「ボイラー」は、引用例1発明の「高温、高圧水素下で長期間使用されるプラント用」のいわば代表的なものであるから、本件発明1に係る上記相違点(ニ)は、引用例1発明の代表的な用途を単に限定しただけのものであり、実質的な相違点ではないと云うべきである。
(v)小括
してみると、本件発明1に係る上記相違点(イ)乃至(ニ)は、引用例1、2及び4に記載された上記周知事項から当業者が容易に想到することができたものであるから、本件発明1は、引用例1、2及び4に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項に「A〜C群の少なくとも1群から選ばれた1種または2種以上を含有し」という特定事項を追加したものであるが、この「A〜C群」に示された選択成分は、引用例1の上記(1a)に記載された「低合金鋼」でも選択成分として含有することができるものであるから、本件発明2も、同様に引用例1、2及び4に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。

(3)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1と本件発明2の特定事項に、それぞれ「マンネスマンミル等の傾斜圧延方式により製造された」という特定事項を追加して「ボイラー用鋼」の発明から「ボイラー用継目無鋼管」という発明とするものであるが、引用例1発明のような「Cr-Mo鋼」がマンネスマンミル等の傾斜圧延方式により製造される「継目無鋼管」の鋼種として利用されることも、例えば上記引用例4に記載されているように、周知の事項であるから、本件発明3及び4も、同様に引用例1、2及び4に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。

(4)本件発明5及び6について
本件発明5及び6は、本件発明3及び4の「ボイラー用継目無鋼管」の発明をその表現振りを方法的に言い換えて「ボイラー用継目無鋼管の製造方法」という発明とするものであるが、その特定事項は、本件発明3及び4と実質的な差異はないから、本件発明5及び6も、同様に引用例1、2及び4に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。

4.むすび
したがって、本件発明1乃至6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-09-12 
出願番号 特願平8-198862
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C22C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中村 朝幸  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 綿谷 晶廣
平塚 義三
登録日 2003-07-25 
登録番号 特許第3454027号(P3454027)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 熱間加工性および耐クリープ特性に優れたボイラー用鋼およびボイラー用継目無鋼管  
代理人 小林 英一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ