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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1127956
審判番号 不服2002-5900  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-12-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-04-05 
確定日 2005-12-12 
事件の表示 平成 4年特許願第165398号「蛍光管の駆動回路」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年12月17日出願公開、特開平 5-335088号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願説明
本願は、平成4年6月1日の出願であって、その請求項1〜4に係る発明は、平成17年4月27日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)、及び、請求項3に係る発明(以下、「本件発明2」という。)はそれぞれ次のとおりのものである。

(A)本件発明1
「直流入力電圧を昇圧して直流出力電圧を出力する昇圧手段と、
上記直流入力電圧又は上記昇圧手段からの上記直流出力電圧のいずれかを選択する選択手段と、
電源投入直後から所定時間までは上記昇圧手段を駆動させると共に当該昇圧手段からの上記直流出力電圧を選択し、上記所定時間以降は上記直流入力電圧を選択するように上記選択手段の選択動作を制御する第1の制御手段と、
上記第1の制御手段の制御に応じて上記選択手段から出力される上記直流入力電圧又は上記直流出力電圧を昇圧した駆動電圧を蛍光管に対して印加するインバータ手段と
を具えることを特徴とする蛍光管の駆動回路。」

(B)本件発明2
「入力される第1の電源電圧又は上記第1の電源電圧を昇圧した第2の電源電圧のいずれかを出力する電圧出力手段と、
電源投入直後から所定時間まで上記第2の電源電圧が上記電圧出力手段から出力されるように、当該電圧出力手段の昇圧動作を制御する第1の制御手段と、
上記第1の制御手段の制御に応じて上記電圧出力手段から出力される上記第1の電源電圧又は上記第2の電源電圧を昇圧した駆動電圧を蛍光管に対して印加するインバータ手段と
を具えることを特徴とする蛍光管の駆動回路」

2.引用例
これに対して、当審が平成17年3月8日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭64-32777号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「第1図に本発明のビデオモニター装置に使用するバックライト点灯回路のブロック図を示す。電源2は電源1から供給された電圧から2種類の電圧A、電圧Bを作る。電圧Aと電圧Bとは電位が異り、電圧Aは点灯回路5の定格電圧で、電圧Bは電圧Aよりも高い。各電圧A、Bは、切替回路3に入り、電源1の電圧印加後、タイマ回路4によって一定時間、点灯回路5には、電圧Bを与えて、陰極蛍光放電管6を点灯させる。その後、切替回路3によって、点灯回路5へは定格電圧である電圧Bが印加される。」(第2頁右上欄第12行〜左下欄第2行)
(なお、下線部「電圧B」は「電圧A」の誤記であることは文意から自明である。)
(イ)「スイッチング電源8は電源7から供給された電圧から2種類の電圧A、Bを作る。電圧AとBとは電位が異り、電圧Aはインバータ回路26の定格電圧で、リレー16のノーマリコンタクト端子、即ち、リレー16の電磁巻線に電流を流さない時にセンター端子と接している端子に接続されている。一方、電圧Bは、電圧Aよりは高い電位となっており、リレー16のノーマリオープン端子、即ち、リレー16の電磁巻線に電流を流すとセンター端子と接する端子に接続されている。」(第2頁右下欄第7行〜第17行)
(ウ)「今、電源7が、第3図の100のように回路に印加された場合を考える。
スイッチング電源8は即座に電圧A、Bを出力する。コンデンサ11、抵抗10により構成されたタイマ回路の出力は、コンデンサ11、抵抗10の時定数により波形101のようになる。ダイオード9は電源7がオフとなった時、コンデンサ11と電荷を放電させる働きをする。
インバータ12のしきい値を超えるまでは、トランジスタ15はオン状態を続け、リレー16が動作する為、インバータ回路26へは高電圧である電圧Bが印加される。波形101がインバータ12のしきい値を超えると、トランジスタ15はオフ状態となり、リレー16はオフし、インバータ回路26へ供給される電圧は、定格電圧の電圧Aに切替られる。」(第2頁右下欄18行〜第3頁左上欄第13行)
(エ)「陰極蛍光放電管は、周囲温度が低温下、特に氷点下以下の場合、投入電力が低く、陰極蛍光放電管の自己発熱が低いと内部に封入されている水銀蒸気がガス化しない為、管インピーダンスが下がらず、電流が十分流れない。従って、その状態を続ける限り、状態変化が生じず、陰極蛍光放電管の輝度は上がらない。
それに対して本発明のように例え一定時間だけでも、投入電力を増して、陰極蛍光放電管の自己発熱を増大させると、内部に封入されている水銀蒸気がガス化して、 管インピーダンスが下がる為、電流が十分流れ、自己発熱が大きくなる、所謂正帰還ループとなり、以後投入電力を下げても、 周囲温度に左右されない位の輝度が得られる。」(第3頁左上欄第14行〜右上欄第8行)
(オ)「本発明の実施例の中で、電圧の切替回路に、リレーを用いたが、半導体スイッチであっても問題はない。又、本実施例で、電源A、Bを作り出す為にスイッチング電源を用いたのは、定格電圧に下げる時に、入力電源からみた損失を極力減少させる為であり、その必要がなければ、シリーズ型の電源を用いても同じ事が行える。 又、チョークコイルを用いたスイッチング電源でなくてもチョップ形のチョークコイルを使用しないパルス幅変調方式による電源であっても全く問題はない。」(第3頁右上欄第9行〜第19行)

上記(ア)〜(オ)の記載事項からみて、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。(以下、「引用発明」という。)

「電源1から供給された電圧から、インバータ回路26の定格電圧である電圧Aと、電圧Aよりも高い電圧Bの2種類の電圧を作るスイッチング電源8と、電圧Aまたは電圧Bのいずれかを選択する切替回路3と、電源1の電圧印加後の一定時間切替回路3に電圧Bを選択させ、その後は電圧Aを選択させるタイマ回路4と、選択された電圧が印加されて陰極蛍光放電管を点灯するインバータ回路26とを具えたバックライト点灯回路。」

3.本件発明1について
3-1.対比
本件発明1と引用発明とを比較すると、その機能、構成から、引用発明の「電源1から供給された電圧」、「切替回路3」、「陰極蛍光放電管」、「インバータ回路26」および「バックライト点灯回路」は、それぞれ、本件発明1の「直流入力電圧」、「選択手段」、「蛍光管」、「インバータ手段」および「蛍光管の駆動回路」に相当する。

ここで、引用発明において、電圧Aと電圧Bはインバータ26に入力されるものであるから一般的に直流電圧であると解され、定格電圧である電圧Aより電圧Bは高いものである。一方本件発明1では、直流入力電圧を昇圧したものが直流出力電圧であるから、直流入力電圧よりも直流出力電圧のほうが高電圧である。そして、引用発明は、切替回路により電圧Aと電圧Bとを切り換えるものであり、対して本件発明1は、選択手段により、直流入力電圧と直流出力電圧とを選択するものであるから、引用発明の「電圧A」と本件発明1の「直流入力電圧」は、選択手段により選択される低電圧の直流電圧であり、また、引用発明の「電圧B」と本件発明1の「直流出力電圧」は同じく高電圧の直流電圧である点で共通する。
さらに、引用発明において、「電源1の電圧印加後の一定時間切替回路3に電圧Bを選択させ、その後は電圧Aを選択させるタイマ回路4」は、電源投入後、所定時間は高電圧を印加し、所定時間以降は低電圧に切り換えて印加する点において、本件発明1の「電源投入直後から所定時間までは直流出力電圧を選択し、所定時間以降は直流入力電圧を選択するように選択手段の選択動作を制御する第1の制御手段」と同じ機能を有するものであるから、引用発明の「タイマ回路4」は、「電源投入直後から、所定時間までは高電圧の直流電圧を選択し、所定時間以降は低電圧の直流入力電圧を選択するように選択手段の選択動作を制御する第1の制御手段」である点で本願発明1の第1の制御手段と共通する。

したがって、本件発明1と引用発明とは、
「低電圧の直流電圧と高電圧の直流電圧のいずれかを選択する選択手段と、電源投入直後から所定時間までは高電圧の直流電圧を選択し、上記所定時間以降は低電圧の直流電圧を選択するように上記選択手段の選択動作を制御する第1の制御手段と、上記第1の制御手段の制御に応じて上記選択手段から出力される低電圧の直流電圧又は高電圧の直流電圧による駆動電圧を蛍光管に対して印加するインバータ手段を具えた蛍光管の駆動回路。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
低電圧の直流電圧と高電圧の直流電圧に関し、本件発明1は、「直流入力電圧」と「直流入力電圧を昇圧手段により昇圧した直流出力電圧」であるのに対し、引用発明では、共に電源電圧がスイッチング電源を用いて作った電圧Aと電圧Bである点。
<相違点2>
本件発明1は、第1の制御手段について、高電圧の直流電圧である直流出力電圧を出力する「昇圧手段」を「電源投入直後から所定時間までは昇圧手段を駆動させる」としているのに対して、引用発明はそのようなものではない点。
<相違点3>
選択手段から出力される、低電圧の直流電圧又は高電圧の直流電圧による駆動電圧をインバータ手段を介して蛍光管に対して印加するにあたり、本件発明1においては、直流入力電圧又は昇圧手段からの直流出力電圧を「昇圧した」駆動電圧を蛍光管に印加するのに対して、引用発明は、昇圧しているか否か不明である点。

3-2.当審の判断
<相違点1について>
放電灯をインバータ手段により点灯させる駆動回路として、直流電圧を昇圧せずに直接インバータに入力することも、昇圧手段を介して入力することも共によく知られた技術である。さらに、特開平2-187812号公報(第1図等)、特開平4-12495号公報(第1図等)に記載されているように、昇圧回路を必要な時のみ切り換えて用いることも知られている。
そうすると、高電圧及び低電圧を供給するに際して、通常は電源電圧をそのまま印加するよう接続し、必要時のみ昇圧手段を介するように切り換えることは、電源の設計上当業者が適宜選択する事項であるといえる。
<相違点2について>
一般に、切り換えて用いる回路を有する場合、用いるときのみこれを動作させることは、節電や雑音等の面から、当業者にとって通常考慮する程度の事項といえる。
また、先の特開平2-187812号公報でも、電源電圧レベル検出器の出力信号に基づき昇圧回路を起動し、電圧制御回路の出力の切換を実施する技術事項が開示され、昇圧回路がレベル検出器の出力信号により動作が制御される技術事項が開示されているように、昇圧回路においても、上記技術事項は格別とはいえない。
したがって、引用発明において必要時のみ昇圧手段を介するように切り換えるようなすにあたり、昇圧手段を用いるときだけ駆動するよう構成することは、当業者が当然考慮するべき設計事項といえ、係る構成により奏する効果も当業者の予測の範囲にすぎない。
<相違点3について>
一般にインバータ回路を用いて直流-交流変換を行うにあたり、必要に応じて出力電圧を昇圧したものとすることは周知の技術事項であり、このことは、放電管を駆動するインバータにおいても同様である。したがって、引用発明において、インバータ手段に入力される低電圧又は高電圧の直流電圧を昇圧して蛍光管に印加する構成とすることは当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
そして、上記相違点1〜3を合わせ考えても、本件発明1の効果が格別であるとはいえない。

4.本件発明2について
4-1.対比
本件発明2と引用発明とを比較すると、その機能、構成から、引用発明の「電圧A」、「電圧B」、「スイッチング電源8と切替回路3」、「陰極蛍光放電管」、「インバータ回路26」および「バックライト点灯回路」は、それぞれ本件発明2の「第1の電源電圧」、「第2の電源電圧」、「電圧出力手段」、「蛍光管」、「インバータ手段」および「蛍光管の駆動回路」に相当する。

ここで、引用発明において、電圧Aと電圧Bはインバータ26に入力されるものであるから直流電圧であると解され、定格電圧である電圧Aより電圧Bは高いものである。一方、本件発明2においては、第1の電源電圧を昇圧したものが第2の電源電圧であるから、第1の電源電圧よりも第2の電源電圧のほうが高電圧である。したがって、引用発明の「電圧A」と本件発明2の「第1の電源電圧」は、昇圧回路から出力される低電圧の直流電圧であり、また、引用発明の「電圧B」と本件発明2の「第2の電源電圧」は同じく高電圧の直流電圧である点で共通する。
さらに、引用発明において、「電源1の電圧印加後の一定時間切替回路3に電圧Bを選択させ、その後は電圧Aを選択させるタイマ回路4」は、電源投入後、所定時間は高電圧を印加し、所定時間経過後は低電圧に切り換えて印加する点において、本件発明2の「電源投入直後から所定時間まで第2の電源電圧が電圧出力手段から出力されるように、電圧出力手段の昇圧動作を制御する第1の制御手段」と出力される電圧について同じ機能を有するものであるから、引用発明の「タイマ回路4」は、「電源投入直後から、所定時間まで高電圧が出力されるように電圧出力手段を制御する第1の制御手段」である点で共通する。

したがって、本件発明2と引用発明は、
「低電圧の直流電圧と高電圧のいずれかを出力する電圧出力手段と、電源投入直後から所定時間まで高電圧が上記電圧出力手段から出力されるように、当該電圧出力手段を制御する第1の制御手段と、上記第1の制御手段の制御に応じて上記電圧出力手段から出力される低電圧又は高電圧による駆動電圧を蛍光管に対して印加するインバータ手段とを具えた蛍光管の駆動装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点4>
本件発明2では、電圧出力手段が、「入力される第1の電源電圧又は第1の電源電圧を昇圧した第2の電源電圧のいずれかを出力する」のに対し、引用発明では、入力される電源電圧と出力される電圧との関係が不明である点。
<相違点5>
電圧出力手段から低電圧又は高電圧を出力する手段として、本件発明2では昇圧動作を制御するのに対して、引用発明ではそうではない点。
<相違点6>
選択手段から出力される、低電圧のと高電圧をインバータ手段を介して蛍光管に対して印加するにあたり、本件発明2は低電圧又は高電圧を「昇圧した」駆動電圧を蛍光管に印加するのに対して、引用発明では、昇圧しているか否か不明である点。

4-2.当審の判断
<相違点4について>
1つの入力電圧から高低2つの電圧を形成するにあたって昇圧回路を用いることは、本願出願時において当業者にとっては周知(例えば、先に挙げた、特開平4-12495号公報(第1図等)のほか、特開平4-137499号公報(第1図等)参照。)の技術事項にすぎず、その際、入力電圧を低電圧と同じ電圧とすることは、当業者が適宜採用し得る程度の事項にすぎない。
<相違点5について>
引用発明は2種類の電圧を作るスイッチング電源8を用い、その電圧のいずれかを選択する切替回路3により出力するものであるが、スイッチング電源やDC-DCコンバータ等において、昇圧動作を制御して出力電圧を変えるものが周知である(例えば先に挙げた、特開平4-12495号等参照。)から、当該周知のものを用いることは、当業者にとって格別の困難性を有することなくなし得ることである。
<相違点6について>
一般にインバータ回路を用いて直流-交流変換を行うにあたり、必要に応じて出力電圧を昇圧したものとすることは周知の技術事項であり、このことは、放電灯を駆動するインバータにおいても同様である。したがって、引用発明において、インバータ素段に入力される低電圧又は高電圧を昇圧して蛍光管に印加する構成とすることは当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
そして、上記相違点4〜6を合わせ考えても、本件発明2の効果が格別であるとはいえない。

5.まとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-13 
結審通知日 2005-10-14 
審決日 2005-10-28 
出願番号 特願平4-165398
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁木 浩  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 下原 浩嗣
平上 悦司
発明の名称 蛍光管の駆動回路  
代理人 田辺 恵基  

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