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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1128303
審判番号 不服2002-7653  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-12-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-01 
確定日 2005-12-22 
事件の表示 平成11年特許願第164451号「湿し水循環処理装置および湿し水循環処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月19日出願公開、特開2000-351193〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成11年6月10日の出願であって、その請求項1乃至5に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「オフセット印刷に用いられる湿し水を循環させ浄化処理する湿し水循環処理装置であって、前記湿し水を循環させる循環路の途中に、ゼータ電位の吸着作用を利用した電位吸着フィルタ装置と、活性炭の吸着作用を利用した活性炭フィルタ装置とが備えられたことを特徴とする湿し水循環処理装置。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前の平成10年6月30日に頒布された特開平10-175284号公報(以下、「引用例」という。)には、本願発明に関連する事項として、以下の事項が記載されている。
ア.「印刷が行われている間に湿し水には各種の不純物が混入することになる。インキ練りローラ等からはインキミストが発生しており、それが湿し水に混入する。版面においても僅かづつではあるがインキまたはインキの成分が乳化等により湿し水に混入する。印刷用紙から発生する紙粉も湿し水に混入する。機械油の混入も完全には防ぐことができない。そのため、湿し水装置には湿し水を濾過し浄化するための濾過器が付属する。・・・ところが、従来の湿し水装置に用いられる濾過器はフィルターを使用し隙間を通り抜けようとする不純物粒子を物理的に補足する方式である。・・・物理的に濾過する方式であるため、粗大分散粒子(〜数10μm)、微細分散粒子(数10μm〜0.数μm)、コロイド(0.数μm〜)等の不純物を完全に除くことはできずアプリケータ、管理槽、配管等の壁面に汚れが付着する。それを除くため定期的に湿し水装置を清掃する必要があり、・・・また、その僅かに湿し水に残留する不純物のため印刷物に画線の太りや地汚れが発生し印刷品質不良の原因となる。・・・そこで本発明の目的は、設備コストとランニングコストが低く、粗大分散粒子、微細分散粒子、コロイド等の不純物をほぼ完全に除くことができ、アプリケータ、管理槽、配管等の壁面に付着する汚れが極めて少なく、画線の太り、地汚れ、刷りムラ、版面へのゴミ付き、等による不良が発生せず高品質の印刷物を得ることができる、湿し水濾過装置を提供することにある。」(段落【0004】〜【0006】参照)
イ.「オフセット印刷機に複数ある湿し水壺2をオーバーフローする湿し水は・・・混入した前記の不純物を除くため、濾過系統に供給される。・・・第1の濾過手段は・・・天然系吸油性材料8a,8bを収納した袋状フィルター9a,9bを収容する。・・・天然系吸油性材料8a,8bによって湿し水に含まれるインキ、機械油等の親油性の不純物が吸着され湿し水から除かれる。また、紙粉も天然系吸油性材料8a,8bに存在する隙間に物理的に補足される。具体的には、たとえば、天然系吸油性材料8a,8bとしては撥水加工を施した木皮を使用することができる。それが親油性の不純物を吸着する理由は、乾燥した天然の木皮は親油性のリグニン(Lignin)等を含みインキ、機械油等の親油性の不純物を基本的には吸着する。・・・湿し水は・・・第3の濾過手段14a,14bに供給される。・・・第3の濾過手段14a,14bは物質を吸着によって濾過する。濾材としては活性炭を含む濾材を使用することができる。・・・第3の濾過手段14a,14bを通過し不純物が除かれて浄化された湿し水は・・・オフセット印刷機の印刷ユニットの湿し水壺2に配管を介して供給され、上記の循環経路を循環する。」(段落【0017】〜【0021】参照)
ウ.「本発明によれば、設備コストとランニングコストが低く、粗大分散粒子、微細分散粒子、コロイド等の不純物をほぼ完全に除くことができ、アプリケータ、管理槽、配管等の壁面に付着する汚れが極めて少なく、画線の太り、地汚れ、刷りムラ、版面へのゴミ付き、等による不良が発生せず高品質の印刷物を得ることができる、湿し水濾過装置が提供される。また、撥水加工を施した木皮を前記天然系親油性材料として使用する本発明によれば、撥水加工を施した木皮が湿し水に含まれるインキ、機械油等の親油性の不純物が吸着し湿し水を浄化する。また、隙間を通過しようとする粒子を補足するの第2の濾過手段を有し、前記第1の濾過手段の下流に配置する本発明によれば、第1の濾過手段の容量を大幅に縮小することができ、また、第1の濾過手段により寸法の大きな不純物粒子や油性の粒子が大部分除かれているため、第2の濾過手段は目詰まりを起こし難く、併用により交換期間を大幅に長くすることができる。また、物質を吸着によって濾過する第3の濾過手段を有し、前記第2の濾過手段の下流に配置する本発明によれば、前述と同様の理由で第1の濾過手段、第2の濾過手段を含め各濾過器の特性が効果的にに発揮され、特に、粗大分散粒子、微細分散粒子、コロイド等を効果的に除去することができる。また、第3の濾過手段は櫓材として活性炭を含む本発明によれば、櫓材の活性炭の作用により、特に、粗大分散粒子、微細分散粒子、コロイド等を効果的に除去することができる。」(段落【0026】参照)
以上の記載を含む上記引用例には、以下の発明が記載されている。
「オフセット印刷に用いられる湿し水を循環させ浄化処理する湿し水循環処理装置であって、前記湿し水を循環させる循環路の途中に、湿し水に含まれるインキ、機械油等の親油性の不純物を吸着することにより湿し水から除く作用をする天然系吸油性材料を備えた第1の濾過手段と、該第1の濾過手段の下流に配置される、隙間を通過しようとする粒子を補足する第2の濾過手段及び該第2の濾過手段の下流に位置する、活性炭の吸着作用を利用した第3の濾過手段とが備えられた湿し水循環処理装置。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比・判断
本願発明と上記引用発明とを対比する。
引用発明の「活性炭の吸着作用を利用した第3の濾過手段」は、「活性炭の吸着作用を利用した活性炭フィルタ装置」ということができるから、両者の一致点と相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「オフセット印刷に用いられる湿し水を循環させ浄化処理する湿し水循環処理装置であって、前記湿し水を循環させる循環路の途中に、活性炭の吸着作用を利用した活性炭フィルタ装置とが備えられた湿し水循環処理装置。」
[相違点]
本願発明では、ゼータ電位の吸着作用を利用した電位吸着フィルタ装置が備えられているのに対して、引用発明では、当該フィルタ装置を備えられていない点。
[相違点の判断]
一般に、廃水等の液体中に分散している微細分散粒子はゼータ電位を示し、該ゼータ電位を示す微細分散粒子を反対のゼータ電位をもつ濾材に吸着させることにより廃水等から除くことができること、及びゼータ電位の吸着作用を利用した電位吸着フィルタ装置は、本願発明の出願当時周知である。
例えば、特開平7-185226号公報(以下、「周知例1」という。)の「フィルタ体Bは、繊維又は不織布等により、約10-6m以上のサイズの不純物粒径を濾過できるように構成され、すなわち、微細なコロイド粒子の通過を遮断できるように構成され、プラスのゼータ電位を帯電したものと、プラスのゼータ電位を帯電しないものとが存在している。該ゼータ電位とは、固体と液体の界面を横切って存在する電気的ポテンシャルである。一般に微細なコロイド粒子は、ゼータ電位がマイナスに帯電している。このため、プラスのゼータ電位を帯電するフィルタ体Bを通過させると、そのマイナスのゼータ電位に帯電している微細なコロイド粒子が、フィルタ体Bに吸着されるものであり、このような方法は、白濁に対して確実に効果のあることが確認されている。」(段落【0010】参照)、特開平9-173703号公報(以下、「周知例2」という。)の「この含油廃水フィルタ2の使用状態において、直径数μmの乳化油1が矢印A方向に供給されると、乳化油1は立体網目構造を形成する樹脂繊維3の間隔を通過して行く。この際、乳化油1は交錯する樹脂繊維3に接触または衝突しながら進むため、無機化合物の微粒子4とも接触する。この無機化合物の微粒子4はネルンスト(Nernst)型帯電または表面の解離によりその表面は正に帯電しており、一方の乳化油1は周囲を取りまく廃水との界面摩擦によりゼータ電位が発生し負に帯電しているため、乳化油1は電気的に無機化合物の微粒子4に引きつけられて捕獲される(図2参照)。」(段落【0008】参照)及び特開平4-197410号公報(以下、「周知例3」という。)の「本発明の単糸繊度は、・・・表面の帯電の大きさ(ゼータ電位ζ)が相対的に小さくてもよいが・・・本発明の液体用多層構造濾過布は、正および負に帯電した繊維集合体濾過層を交互に積層した構成をとっているので、細胞表面が正に帯電した細菌は負の帯電濾過層の繊維の表面に、一方細胞表面が負に帯電した細菌は正の帯電濾過層の繊維の表面に、何れも正と負の電荷に基づく静電気相互作用力によって、強く吸着される。」(2頁左下欄2〜16行)の各記載にみられるとおりである。
引用例には、湿し水に混入される、インキ、機械油等の親油性の不純物や印刷用紙から発生する紙粉には、フィルターを使用し隙間を通り抜けようとする不純物を物理的に補足する濾過方式では完全には除去できない微細分散粒子が含まれていること、また、湿し水循環処理装置において、湿し水から、上記微細分散粒子を含むの不純物をほぼ完全に除くために、撥水加工を施した木皮が湿し水に含まれるインキ、機械油等の親油性の不純物を吸着する第1の濾過手段、該第1の濾過手段の下流に配置される、隙間を通過しようとする粒子を補足する第2の濾過手段及び該第2の濾過手段の下流に位置する、活性炭の作用により不純物を吸着する第3の濾過手段を備えることが記載されている(上記2.ア.〜ウ.参照)。
そうすると、上記引用発明の湿し水循環処理装置における第1の濾過手段の濾材が吸着する微細分散粒子は、物理的に補足する濾過方式では完全には除去できないような微細粒子であり、そのような微細粒子は、通常、湿し水中でゼータ電位を示す微細分散粒子であると考えられる(このことは、本件明細書の発明の詳細な説明の「一般に異相の接触する界面にはある電位差を生じ、粒子界面に生じた電気二重層による電位のうち、動的な役割を演じない部分(固定層)と、動的な役割を演ずる部分(拡散層)がある。異相間において、相対運動がある場合にのみ、その界面に起こる電気的な現象を界面動電現象といい、そこに存在する電位を界面動電位またはゼータ電位といわれる。ゼータ電位は、チンダル現象やブラウン運動と同様、微細粒子の特性による物理現象であり、一般に液体中で微粒子や微生物等は、マイナスの電位を示す。湿し水に含まれるインキ、紙粉や油などもマイナスの電位を示し、これに対して電位吸着フィルタ装置2内のメディア21は、プラスのゼータ電位を持つ性質があるため、通常の0.2μmメンブランフィルタによっても除去できないこれらの微粒子を吸着し、除去することができる。」(段落【0023】〜【0024】)の記載にあるとおりである。)から、上記周知の、ゼータ電位の吸着作用を利用して、微細分散粒子を濾材に吸着させることにより廃水等から除くことができる電位吸着フィルタ装置を、上記第1の濾過手段に替えて使用することは、当業者が容易に想起できることであるといえ、しかも、ゼータ電位の吸着作用と第3の濾過手段の活性炭の吸着作用とは、その吸着原理が異なることにより吸着対象が異なる(電位吸着フィルタ装置の吸着対象が湿し水中で濾材のゼータ電位と反対のゼータ電位を示す不純物であるのに対して、活性炭の吸着作用を利用した活性炭フィルタ装置のそれは、色及び臭い成分である)ものであるから、両者の併用に格別問題が生じるものとは考えられない以上、その併用を阻害するものは何もないといえる。
実際、上記周知例3には、濾材の寿命を課題としてゼータ電位の吸着作用を利用した電位吸着フィルタ装置を採用することが記載され、また、特開平10-14799号公報、特開平9-308588号公報には、ゼータ電位の吸着作用を利用した電位吸着フィルタ装置が逆洗により再生可能であることが記載され、さらに、特開平9-313378号公報には濾材のコストが安くメンテナンスが容易であることが記載されている。
また、上記周知例1の「白濁について詳述すると、浴水中に、約10-9m〜約10m-6(ママ)のサイズの微細なコロイド粒子が安定した状態で分散している場合に白濁が生ずるものと考えられている。このサイズのコロイド粒子は、メインフィルタで濾過できるサイズの粒子と活性炭等が吸着除去できる粒子の中間のサイズであり、設置当初の装置では除去することが困難であった。」(段落【0003】)の記載によれば、ゼータ電位の吸着作用を利用した電位吸着フィルタ装置は、活性炭フィルタで吸着できる粒子をすべて吸着できるものでないことが記載されている。
そうすると、引用発明において、濾材の寿命を長くしたり、濾材のコストを安くしたり、メンテナンスを容易にする等の課題は、当然に当業者が想起することであるから、上記周知のゼータ電位の吸着作用を利用した電位吸着フィルタ装置を採用することは、当業者が適宜想到できることであり、そして、引用発明の湿し水には、最下流の濾過手段として濾材に活性炭を使用した活性炭フィルタ装置を使用している(上記2.ア.、イ.参照)ことからみて、ゼータ電位の吸着作用を利用した電位吸着フィルタ装置だけでは吸着できないが活性炭フィルタ装置で吸着できる微細分散粒子が含まれていると考えられるから、ゼータ電位の吸着作用を利用した電位吸着フィルタ装置と活性炭フィルタ装置の両者を併用することも、当業者が適宜想到できることであり、その作用効果も当業者が容易に予測できるものにすぎない。
したがって、本願発明は、引用発明と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-19 
結審通知日 2005-10-25 
審決日 2005-11-08 
出願番号 特願平11-164451
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畑井 順一  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 酒井 進
津田 俊明
発明の名称 湿し水循環処理装置および湿し水循環処理方法  
代理人 加藤 久  

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