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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K |
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管理番号 | 1128630 |
審判番号 | 不服2003-15922 |
総通号数 | 74 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-06-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-08-18 |
確定日 | 2006-01-06 |
事件の表示 | 平成10年特許願第346382号「スピンドルモータの動圧軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月23日出願公開、特開2000-175399〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件出願は、平成10年12月7日の出願であって、平成15年6月30日付けで拒絶査定がなされ、同年8月18日に前記拒絶査定に対する審判の請求がなされるとともに、同年9月11日付けで手続補正がなされた。その後、平成17年6月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月14日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。 第2.本願発明について 本件出願の請求項1に係る発明は、平成17年9月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる(以下「本願発明」という。)。 「シャフト(4)を回転自在に支持するもので動圧を発生しない中間部分(9a)を間にして上下に一対の動圧発生部分を備えた軸受部(9)と、この軸受部を支持する軸受ハウジング(10)からなるスピンドルモータの動圧軸受であって、 前記軸受ハウジングは、前記シャフトの基端を支える底部が閉じられ、前記軸受部の中間部分(9a)のみに対応した位置の内周を突出させて凸部(10a)にすることによって、前記軸受部の外径よりわずかに小径に形成されており、 前記凸部(10a)に前記軸受部の中間部分の外周が圧入され、前記軸受部が前記軸受ハウジングに固定された状態において、前記軸受部と前記軸受ハウジングとの間に、前記凸部(10a)を挟んで前記軸受部(9)の外周全周に上下両端まで延びる一対の空隙(10c,10c)が形成されており、 前記凸部(10a)に設けられた通気溝(10b)によって、前記一対の空隙(10c,10c)が連通していることを特徴とするスピンドルモータの動圧軸受。」 第3.引用文献 1.これに対して、当審における平成17年6月30日付けの拒絶の理由に引用した実願昭58-48596号(実開昭59-153720号)のマイクロフィルム(以下「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。 a.「この考案は、合成樹脂製動圧形すべり軸受に関し、とくに、動圧発生用のみぞが内周面に形成された筒状の動圧形すべり軸受の外周面に、ハウジングに対する微小高さの当接部を形成し、該当接部に対応する位置の内周面に逃げ部を形成することにより、ハウジングへの組付け時における軸受すき間の精度を確保するとともに、組付けの作業性を改善するものである。」(明細書2頁8-15行) b.「第1図は、この考案をラジアルすべり軸受に適用した実施例であり、ハウジング30にラジアルすべり軸受10が組付けられた状態を示す。 このラジアルすべり軸受10の内周面には、ヘリングボーン状の動圧発生用のみぞ12が、円周方向に2列形成されている。この動圧発生用のみぞ12の矢先方向は、2列とも円周方向左向きであり、各列のみぞ12は、内側端縁の相互間に適宜の間隔をおいて配列し、外側端縁は、軸受10の両側端面から適宜の長さを隔てた内側の位置までとしてある。 この軸受10に組込まれる軸体(図示せず)は、上端からみて左回り(反時計方向)に回転することにより、みぞ12のポンピング作用によって動圧が発生する。」(明細書5頁1-15行) c.「上記軸受10の外周面には、軸方向両端および中央を、円周方向に数10μmの微小な高さで隆起させて、ハウジング30に対する当接部14,15,16が形成されている。両端側の当接部14,15の端面から内側縁までの軸方向幅は、みぞ12の外側端縁までの長さよりも短かく、中央の当接部16の軸方向幅は、各列のみぞ12の相互間の中間位置にあって、みぞ12の内側端縁間の間隔よりも短かい幅にしてある(第2図参照)。 上記の両端側の当接部14,15の隆起位置に対応する軸受10の内周面には、当接部14,15の内側縁とほぼ等しい位置から端面側に向って面取り状に窪ませて、逃げ部18,19を形成している。また、中央の当接部16の隆起位置に対応する軸受10の内周面には、当接部16とほぼ同等の幅で環状の凹面上に窪ませて、逃げ部20を形成している。」(明細書5頁16行-6頁12行) d.「上記構成の軸受10を、しまりばめによりハウジング30に圧入して組付けると、軸受10の外周面に形成された当接部14,15,16とハウジング30の内周面との間に圧着力が働いて固定される。ハウジング30に固定された軸受10の内周面は、当接部14,15,16に対応する部分が、締めしろの影響を受けて内側に膨出変形することになるが、当接部14,15,16に対応する内周面には、逃げ部18,19,20が形成されているため、締めしろの影響は逃げ部18,19,20のみが受けるから、逃げ部18,19,20以外の内周面の内径が縮少することはない。 このように、軸受10の内周面においてみぞ12が形成された部分は、ハウジング30への組付け時における締めしろの影響を全く受けることがないから、この軸受10に組込まれた軸体の外周面との間に、高精度の軸受すき間を確保することができる。 当接部14,15,16の隆起高さは、微小な高さであり、ハウジング30に対して剛性的に支持されているので、小さなラジアル荷重のもとで使用する軸受であれば、長期間使用しても当接部14,15,16がクリープ変形するようなことはない。」(明細書6頁17行-7頁20行) e.「第3図は、この発明の軸受の当接部の変形例を示し、当接部14,15,16を円周方向に複数等分して不連続状とし、各当接部相互間に軸方向のすき間21を設けたものである。このようにすると、軸受10をハウジング30に圧入するときに、軸受とハウジングとの間に入った空気がすき間21から排出され、より円滑な組付けが可能となる。」(明細書9頁3-10行) 2.以上の記載及び図面の記載、並びに技術常識を参酌すると、引用文献において以下のことがいえる。 ア.ラジアルすべり軸受10によって、軸体が回転自在に支持されることは明らかである。 イ.ラジアルすべり軸受10とハウジング30の両者を併せて、動圧軸受のユニットと呼ぶことができる。 ウ.上記(1)c及びdの記載から、当接部14,15,16の外径よりハウジング内径の方が微小に小径とされている。 エ.ハウジング内周面とラジアルすべり軸受10の当接部以外の外周面との間には、当接部16を挟んで一対の微小空間が存在していることは明らかであり、また上記(1)e及び図3の記載から、すき間21によって前記一対の微小空間は連通している。 3.以上から、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。 「軸体を回転自在に支持するもので動圧を発生しない中央部分を間にして上下に一対の動圧発生用のみぞ12の部分を備えたラジアルすべり軸受10と、このラジアルすべり軸受10を支持するハウジング30からなる動圧軸受のユニットであって、 前記ラジアルすべり軸受10は、前記ラジアルすべり軸受10の両端側及び中央部分に対応した位置の外周を隆起させて当接部14,15,16にすることによって、ハウジング30の内径がラジアルすべり軸受10の外径より微小に小径に形成されており、 前記ハウジング30内周に前記ラジアルすべり軸受10の両端側及び中央部分の外周における当接部14,15,16が圧入され、前記ラジアルすべり軸受10が前記ハウジング30に固定された状態において、前記ラジアルすべり軸受10と前記ハウジング30との間に、前記中央部分に対応した当接部16を挟んで前記ラジアルすべり軸受10の外周に一対の微小空間が形成されており、 前記中央部分に対応した当接部16に設けられたすき間21によって、前記一対の微小空間が連通している動圧軸受のユニット。」(以下「引用発明」という) 第4.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「軸体」は、前者の「シャフト(4)」に相当する。以下同様に、「中央部分」は「中間部分(9a)」に、「動圧発生用のみぞ12の部分」は「動圧発生部分」に、「ラジアルすべり軸受10」は「軸受部(9)」に、「中央部分に対応した当接部16」は「凸部(10a)」に、「微小」は「わずか」に、「微小空間」は「空隙(10c,10c)」に、「すき間21」は「通気溝(10b)」に、それぞれ相当する。 また、後者の「ハウジング30」も前者の「軸受ハウジング(10)」も「ハウジング」である点で共通し、「動圧軸受のユニット」も「スピンドルモータの動圧軸受」も「動圧軸受」である点で共通する。 また、後者の「ラジアルすべり軸受10の両端側、及び中央部分に対応した位置の外周を隆起させて当接部14,15,16にすることによって、ハウジング30の内径がラジアルすべり軸受10の外径より微小に小径に形成されており、ハウジング30内周に前記ラジアルすべり軸受10の両端側及び中央部分の外周における当接部14,15,16が圧入され、」も、前者の「(軸受ハウジングは)軸受部の中間部分(9a)のみに対応した位置の内周を突出させて凸部(10a)にすることによって、前記軸受部の外径よりわずかに小径に形成されており、前記凸部(10a)に前記軸受部の中間部分の外周が圧入され」も、「軸受部の中間部分に対応した位置において、凸部によって、ハウジング内径が軸受部の外径よりわずかに小径に形成されており、前記凸部の位置で前記軸受部の中間部分の外周が圧入され」ている点で共通する。 したがって、両者は [一致点] 「シャフトを回転自在に支持するもので動圧を発生しない中間部分を間にして上下に一対の動圧発生部分を備えた軸受部と、この軸受部を支持するハウジングからなる動圧軸受であって、 軸受部の中間部分に対応した位置において、凸部によって、ハウジング内径が軸受部の外径よりわずかに小径に形成されており、 前記凸部の位置で前記軸受部の中間部分の外周が圧入され、前記軸受部が前記ハウジングに固定された状態において、前記軸受部と前記ハウジングとの間に、前記凸部を挟んで前記軸受部の外周に一対の空隙が形成されており、 前記凸部に設けられた通気溝によって、前記一対の空隙が連通している動圧軸受。」 で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 「動圧軸受」に関し、本願発明では「スピンドルモータの動圧軸受」であるのに対し、引用発明では、「スピンドルモータ」との用途限定はされていない点。 [相違点2] 「ハウジング」に関し、本願発明では「軸受ハウジング(10)」であり、「シャフトの基端を支える底部が閉じられ」ているのに対し、引用発明では、かかる構成を備えていない点。 [相違点3] 「軸受部の中間部分に対応した位置において、凸部によって、ハウジング内径が軸受部の外径よりわずかに小径に形成されており、前記凸部の位置で前記軸受部の中間部分の外周が圧入され」との構成に関し、本願発明では、「(軸受ハウジングは)軸受部の中間部分(9a)のみに対応した位置の内周を突出させて凸部(10a)にすることによって、前記軸受部の外径よりわずかに小径に形成され」ており、「凸部(10a)に軸受部の中間部分の外周が圧入され」ているのに対し、引用発明では「ラジアルすべり軸受10の両端側及び中央部分に対応した位置の外周を隆起させて当接部14,15,16にすることによって、ハウジング30の内径がラジアルすべり軸受10の外径より微小に小径に形成され」ており、「ハウジング30内周にラジアルすべり軸受10の両端側及び中央部分の外周における当接部14,15,16が圧入され」ている点。 [相違点4] 「一対の空隙」に関し、本願発明では「軸受部(9)の外周全周に上下両端まで延びる」構成であるのに対し、引用発明では「(両端側の)当接部14,15」が存在し、ラジアルすべり軸受10の外周全周に上下両端まで延びてはいない点。 第5.判断 1.上記相違点1について検討する。 動圧軸受を備えたスピンドルモータは、例えば、特開平6-178490号公報、特開平8-74867号公報等に記載があるように周知の技術(以下、「周知技術1」という。)である。そして、用途の限定がされていない引用発明の「動圧軸受」を、前記周知技術1に基づきスピンドルモータ用とすることは、これを阻害する特段の理由もないから、当業者が容易になし得たものである。 2.上記相違点2について検討する。 シャフトの基端を支える底部が閉じられた軸受ハウジングは、以下に示すように従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。)である。 ア.実願平4-83150号(実開平6-40445号)のCD-ROMの図1,4及び5、並びにそれらに関連する明細書中の説明箇所には、軸受を保持する外套(本願発明の「軸受ハウジング」に相当する。以下同様。)の底部が閉じられ回転軸の基端が支えられている構成が記載されている。 イ.特開平8-74867号公報の図4及びそれに関連する明細書中の説明箇所には、軸受2を保持する軸受ホルダー1aを含むフレーム1(「軸受ハウジング」)の底部が閉塞し、中心軸の端面が支えられている構成が記載されている。 したがって、引用発明に前記周知技術2を適用し、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることに格別の困難性はない。 3.上記相違点3及び4について 軸受部外周の中間部のみを凸部として、軸受ハウジングに圧入することは、以下に示すように従来周知の技術(以下、「周知技術3」という。)である。 ア.実願平3-113714号(実開平5-57441号)のCD-ROMの図4及びそれに関連する明細書中の説明箇所には、外周の中間部のみを凸部とした軸受、及び当該軸受を軸受ハウジングに圧入することが記載されている。 イ.特開平7-243449号公報の図1ないし3、並びにそれらに関連する明細書中の説明箇所には、軸受の中間部外周を軸受一端部の外周より大径とし、軸受ホルダー(「軸受ハウジング」)に圧入したものが記載されている。また、同公報の段落【0018】には、「なお、図示の実施例では含油軸受1の軸孔の一端部に対応する外周部のみを他の部分の外周部よりも小径にしていたが、上記軸孔の他端部に対応する外周部分も小径にしてもよい。」との記載があり、中間部外周のみを大径として凸部とすることも記載されている。 また、圧入のための凸部を、軸受部外周に設けるか軸受ハウジング内周に設けるかは、当業者が適宜選択し得る設計事項に過ぎないものである。 以上から、引用発明に前記周知技術3を適用し、凸部を軸受部の中間部のみに対応した位置だけにすると共に軸受ハウジング内周に設けるようにして、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。また、その際、引用発明の両端側の凸部である当接部14,15は省略されて、空隙部分が軸受部の上下両端まで連続することとなるので、上記相違点4に係る本願発明の構成は、引用発明に周知技術3を適用したことにより必然的に得られる構成に過ぎないものである。 4.また、本願発明を全体としてみても、引用発明、並びに周知技術1ないし3から予測される以上の格別の効果を奏するものでもない。 第6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、並びに周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する |
審理終結日 | 2005-09-28 |
結審通知日 | 2005-10-18 |
審決日 | 2005-10-31 |
出願番号 | 特願平10-346382 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H02K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 米山 毅 |
特許庁審判長 |
田良島 潔 |
特許庁審判官 |
安池 一貴 佐々木 芳枝 |
発明の名称 | スピンドルモータの動圧軸受 |