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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F15B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F15B |
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管理番号 | 1128673 |
審判番号 | 不服2003-10117 |
総通号数 | 74 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-03-16 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-06-05 |
確定日 | 2006-01-05 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第249373号「油圧シリンダの戻り油回路装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月16日出願公開、特開平11- 72101〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要 本願は、平成9年8月28日の出願であって、平成15年4月28日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成15年6月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成15年7月7日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成15年7月7日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成15年7月7日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の請求項1に係る発明 本件補正により、請求項1に係る発明は、 「【請求項1】油圧ポンプからの圧油を、パイロット圧によって操作される方向切換弁を介して油圧シリンダのヘッド側油室とロッド側油室に対し交互に給排することにより、前記油圧シリンダの伸縮作動を行うようにしている油圧回路において、 前記ヘッド側油室から作動油タンクに通じる主戻り管路に対して分岐戻り管路を分岐せしめて前記作動油タンクに連通するとともに、その分岐戻り管路に前記パイロット圧によって操作される分岐戻り油用切換弁を別に設け、前記方向切換弁を前記油圧シリンダ縮小側に操作するパイロット圧をその分岐戻り油用切換弁のパイロットポートに導入することにより、前記主戻り管路における前記方向切換弁の開通・遮断作動と前記分岐戻り油用切換弁の開通・遮断作動とが連動するように構成したことを特徴とする油圧シリンダの戻り油回路装置。」 と補正された。(なお、下線は、請求人が付与したものであり、本件補正による補正箇所を示す。) 上記補正は、平成15年1月15日付け手続補正書によって補正した特許請求の範囲の請求項2に係る発明の技術事項である分岐戻り用切換弁のパイロットポートに導入するパイロット圧について「前記油圧シリンダ縮小側に操作する」との限定を附加したものである。 そうすると、上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭56-131806号公報(以下、「刊行物1」という。)には、油圧シリンダを駆動する油圧回路に関して下記の事項ア〜ウが図面とともに記載されている。 ア;「この発明は上述の問題点を解決するためになされたもので、大形の方向切換弁を用いず、かつ油圧シリンダを縮小するときの圧力損失が小さい油圧シリンダの駆動油圧回路を提供することを目的とする。 この目的を達成するため、この発明においては油圧シリンダのボトム側室とタンクとを接続するバイパス管路を設け、そのバイパス管路に開閉弁を設け、方向切換弁と上記油圧シリンダのボトム側室とを接続する管路に絞りを設け、その絞りの前後と上記開閉弁の両パイロットポートとを接続するとともに、上記絞りと並列に逆止弁を設ける。 第2図はこの発明に係る油圧シリンダの駆動油圧回路を示す図である。図において5は油圧シリンダ1のボトム側室1aとタンク4とを接続するバイパス管路、6はバイパス管路5に設けられた開閉弁、7は方向切換弁3と油圧シリンダ1のボトム側室1aとを接続する管路、8は管路7に設けられた絞りで、絞り8の前後は開閉弁6のパイロットポートと接続されている。9は絞り8と並列に設けられた逆止弁である。」(第2頁右上欄6行〜左下欄6行) イ;「この油圧回路においては、方向切換弁3がN位置のときには、油圧ポンプ2の吐出油がタンク4に戻され、油圧シリンダ1は作動しない。また、方向切換弁3をA位置にすると、油圧ポンプ2の吐出油が逆止弁9を介して油圧シリンダ1のボトム側室1aに供給され、ロッド側室1bの油がタンク4に戻されるから、油圧シリンダ1が伸長する。この場合、絞り8の前後に差圧が生じないから、開閉弁6は閉である。さらに、方向切換弁3をB位置にすると、油圧ポンプ2の吐出油が油圧シリンダ1のロッド側室1bに供給され、ボトム側室1a内の油が絞り8を介してタンク4に戻り、油圧シリンダ1が縮小する。このとき、絞り8の前後に差圧が生ずるので、開閉弁6が開となるから、油圧シリンダ1のボトム側室1aからの戻り油の大部分はバイパス管路5を介してタンク4に戻り、方向切換弁3を通る油の量はわずかである。したがって、方向切換弁3を大形にしなくとも、方向切換弁3における圧力損失は非常に小さい。」(第2頁左下欄7行〜右下欄6行) ウ;「以上説明したように、この発明に係る油圧シリンダの駆動油圧回路においては、方向切換弁を大形にしなくとも、油圧シリンダを縮小するときの方向切換弁における圧力損失を非常に小さくすることができるから、油圧ポンプの吐出圧力が上昇することはない。したがって、油圧ポンプとして自己圧制御式のものを用いたときには、油圧ポンプの吐出量が大幅に低下することがないので、油圧シリンダの速度が低下せず、作業性が悪化することがなく、かつ効率が低下することもない。また、油圧ポンプとして定量量形のものを用いたときには、油圧ポンプの吐出油がリリーフ弁を介してタンクに戻ることがなく、油圧ポンプの吐出油がすべて油圧シリンダのロッド側室に供給されるから、油圧シリンダの速度が低下することがないので、作業性が悪化することはなく、かつ効率が低下することはない。さらに、方向切換弁と油圧シリンダのボトム側室とを接続する管路に絞りを設け、その絞りの前後差圧によって開閉弁を開にするように構成したので、操作性がよい。このように、この発明の効果は顕著である。」(第2頁右下欄7行〜第3頁左上欄7行) (3)対比・判断 刊行物1に記載された上記記載事項ア〜ウからみて、刊行物1に記載された発明の「油圧ポンプ2」は本願補正発明の「油圧ポンプ」に機能的に相当し、以下同様に、「油圧シリンダ1のボトム側室1aとロッド側室1b」が「油圧シリンダのヘッド側室とロッド側室」に、「方向切換弁3」が「方向切換弁」に、「タンク4」が「作動油タンク」に、「バイパス管路5」が「分岐戻り管路」に、「開閉弁6」が「分岐戻り油用切換弁」に、「管路7」が「主戻り管路」に機能的に相当するものと認める。 そこで、本願補正発明の用語を使用して本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「油圧ポンプからの圧油を、方向切換弁を介して油圧シリンダのヘッド側油室とロッド側油室に対し交互に給排することにより、前記油圧シリンダの伸縮作動を行うようにしている油圧回路において、前記ヘッド側油室から作動油タンクに通じる主戻り管路に対して分岐戻り管路を分岐せしめて前記作動油タンクに連通するとともに、その分岐戻り管路に分岐戻り油用切換弁を別に設け、前記主戻り管路における前記方向切換弁の開通・遮断作動と前記分岐戻り油用切換弁の開通・遮断作動とを行うように構成した油圧シリンダの戻り油回路装置。」で一致しており、下記の点で相違している。 相違点;本願補正発明では、方向切換弁がパイロット圧によって操作されるものであって、前記方向切換弁を油圧シリンダ縮小側に操作するパイロット圧をその分岐戻り油用切換弁のパイロットポートに導入することにより、主戻り管路における方向切換弁の開通・遮断作動と前記分岐戻り油用切換弁の開通・遮断作動とが連動するように構成したものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、方向切換弁3をどのような手段で操作するか不明であり、方向切換弁3を油圧シリンダ1を縮小側に操作することによって、管路7(主戻り管路)に設けた絞り8の前後で発生する差圧をバイパス管路5(分岐戻り管路)に設けた開閉弁6(分岐戻り油用切換弁)のパイロットポートに導入することにより、方向切換弁3の開通・遮断作動と開閉弁6の開通・遮断作動とが実質的に連動するように構成したものである点。 上記相違点について検討するに、刊行物1に記載された発明も、本願補正発明と同様に、方向切換弁3を通過する戻り油による圧力損失を低減することを解決しようとする課題としたものであって、油圧シリンダ1を縮小側に操作することに伴い方向切換弁3を通過する戻り油の量が増大して圧力損失が生じることを防止するために、方向切換弁3を通過する戻り油の量を減少させるとともに、大部分の戻り油をバイパス管路5(分岐戻り管路)からタンク4へ戻すことにある。 そして、刊行物1に記載された発明において管路7(主戻り管路)に絞り8と逆止弁9を設けることの技術的意義は、方向切換弁3を油圧シリンダ1が伸長するように切換作動する際には、開閉弁6を閉じたままとし、方向切換弁3を油圧シリンダ1が縮小するように切換作動する際には、絞り8の前後差圧を開閉弁6にパイロット圧として供給することによって方向切換弁3を切換作動と開閉弁6の開放作動とを実質的に連動させることであって、開閉弁6の開放動作を方向切換弁3の切換動作と実質的に連動できるものであれば、刊行物1に記載された絞り8と逆止弁9に格別限定されるものではなく、本願出願前当業者に知られた適宜な切換手段を採用できることは当業者であれば容易に理解できる技術事項といいうるものである。 ところで、油圧回路における方向切換弁等の切換操作にパイロット圧を利用することは本願出願前普通に採用されている技術事項にすぎないものであり、また、パイロット圧の油圧回路を適宜分岐して2つの切換弁に供給することによって、2つの切換弁を連動させることも原査定の備考欄で周知例として引用された実願昭61-106711号(実開昭63-14001号)のマイクロフィルムにも記載(第1図で蓄圧用切換弁12と供給用切換弁15の切換動作を連動するようパイロット圧を供給できるように油圧回路が構成されていることを参照すること。)されているように、本願出願前普通に採用されている技術事項にすぎないものである。 そうすると、上記刊行物1に記載された事項及び上記本願出願前周知のパイロット圧を利用した油圧回路における切換弁手段を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明の駆動油圧回路の方向切換弁3の切換手段にパイロット圧を利用するように構成するとともに、方向切換弁3のシリンダ1を縮小させるための切換作動と開閉弁6の開放作動が連動するように方向切換弁3をシリンダ1の縮小側に操作する際のパイロット圧を開閉弁6にも供給するようにして上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度のことであって、格別創意を要することではない。 また、本願補正発明の効果について検討しても、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものあるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 ところで、請求人は、審判請求書中において、概略「引用文献1(上記刊行物1)には、本願請求項1記載の分岐戻り用切換弁に相当するものとして『分岐戻り管路とその分岐管に設けられた開閉弁』の構成が一応記載されていますが、本願発明の特徴部分である『油圧シリンダからの戻り油を主戻り管路と分岐戻り管路とに分流させてタンクに戻すように構成され、かつ連動する方向切換弁と分岐戻り用切換弁』の構成については記載も示唆もされていません。」(平成15年7月7日付け手続補正書(方式)の【請求の理由】の【本願発明が特許されるべき理由】の4.本願発明と引用文献との対比の項参照)旨主張している。 しかしながら、刊行物1に記載された発明において、管路7(主戻り管路)に絞り8と逆止弁9を設けた技術的意義は、方向切換弁3がシリンダ1を縮小するために切り換えられることに伴い、管路7に流れる油圧シリンダ1からの戻り油の増大を検出して(絞り8の前後の差圧を開放弁6にパイロット圧として供給することにより)バイパス管路5(分岐戻り管路)に設けた開閉弁6を方向切換弁3の切換作動に実質的に連動して開放することにあることは、当業者であれば容易に理解できることである。 そして、方向切換弁の切換手段にパイロット圧を利用すること、及び、複数の切換弁にパイロット圧を供給して連動動作させることが、本願出願前当業者に普通に採用されている技術事項であることは、上記のとおりである。 そうすると、刊行物1に記載された発明の方向切換弁3の切換手段としてパイロット圧を採用するとともに、方向切換弁3をシリンダ1の縮小側に操作する際のパイロット圧を開閉弁6にも供給して、本願補正発明のように管路7に設けた方向切換弁3の開通・遮断作動とバイパス管路5に設けた開閉弁6の開通・遮断作動とを連動させることが当業者であれば格別創意を要することでないことは、上記のとおりである。 よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。 (4)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明2 平成15年7月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は、平成15年1月15日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項2】油圧ポンプからの圧油を、パイロット圧によって操作される方向切換弁を介して油圧シリンダのヘッド側油室とロッド側油室に対し交互に給排することにより、前記油圧シリンダの伸縮作動を行うようにしている油圧回路において、 前記ヘッド側油室から作動油タンクに通じる主戻り管路に対して分岐戻り管路を分岐せしめて前記作動油タンクに連通するとともに、その分岐戻り管路に前記パイロット圧によって操作される分岐戻り油用切換弁を別に設け、前記方向切換弁を操作するパイロット圧をその分岐戻り油用切換弁のパイロットポートに導入することにより、前記主戻り管路における前記方向切換弁の開通・遮断作動と前記分岐戻り油用切換弁の開通・遮断作動とが連動するように構成したことを特徴とする油圧シリンダの戻り油回路装置。」 (2)引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭56-131806号公報(以下、「刊行物1」という。)の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (3)対比・判断 本願発明2は、前記2.で検討した本願補正発明の技術事項である分岐戻り用切換弁のパイロットポートに導入するパイロット圧について「前記油圧シリンダ縮小側に操作する」との限定を省いたものに実質的に相当する。 そうすると、本願発明2の構成を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)むすび 以上のとおり、本願の請求項2に係る発明(本願発明2)は、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項2に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-11-02 |
結審通知日 | 2005-11-08 |
審決日 | 2005-11-22 |
出願番号 | 特願平9-249373 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F15B)
P 1 8・ 575- Z (F15B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森本 康正、窪田 治彦 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
藤村 泰智 亀丸 広司 |
発明の名称 | 油圧シリンダの戻り油回路装置 |
代理人 | 村松 敏郎 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 村松 敏郎 |