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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41C
管理番号 1128678
審判番号 不服2003-11309  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-11-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-19 
確定日 2006-01-05 
事件の表示 特願2000-145776「感熱孔版製版方法および感熱孔版製版装置および感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月20日出願公開、特開2001-322229〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成12年5月17日の出願であって、平成13年3月29日、平成15年4月28日付けで手続補正が、平成15年5月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月19日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月22日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成15年7月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年7月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
平成15年7月22日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲は、平成15年4月28日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲(請求項数18)について、更に、新たに請求項2及び3を追加し、全請求項数を20に増加するものである。そして、該追加された請求項は、複数項引用形式の請求項を展開したものでもない。
してみると、平成15年4月28日の日付けの手続補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもなく、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下をすべきものである。

3.本願発明について
平成15年7月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年4月28日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
【請求項1】 エネルギーが任意の時間印加される高精細サーマルヘッドを用いて、融点が150℃以上240℃以下の熱可塑性樹脂フィルムを有する感熱孔版原紙の該フィルムに、主走査方向および副走査方向に配列される穿孔を形成する感熱孔版製版方法において、
前記エネルギーの印加開始時刻を基点として、前記エネルギーの印加開始から前記穿孔の拡大が完了するまでの時間の50%以上100%以下に達した時点で、前記エネルギーの印加を終了することを特徴とする感熱孔版製版方法。

4.刊行物に記載された発明
(刊行物)
特開2000-108296号公報(以下、「刊行物1」という。)
刊行物1には、感熱孔版の製版装置と題して、次のa〜hの事項が記載されている。(以下、「・・」は中略を表す。)
a. 【請求項1】 多数の発熱体から構成されたサーマルヘッドを備えた感熱孔版の製版装置において、前記発熱体が、該発熱体の主走査方向の長さが副走査方向の長さよりも長いものであることを特徴とする感熱孔版の製版装置。
b. 【0005】
原紙1のドット状の穿孔は、サーマルヘッド4に設けられた発熱体40への通電開始による発熱体40の発熱によってこの発熱体40と直接接触する状態におかれたフィルム12の温度が収縮開始温度を上回ると、フィルム12に先ず発熱体40中心部に対応する位置に微小穿孔が発生してこれが周囲に拡大成長し、発熱体40への通電終了による発熱体40の放熱によりフィルム12の温度が収縮停止温度を下回ると、フィルム12の穿孔の成長を停止させ、開口を固化するようになされている。
c. 【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、サーマルヘッドの発熱時間を長くしても独立穿孔を形成することがでる(当審注:「できる」の誤記である。)サーマルヘッドを使用した感熱孔版の製版装置を提供することを目的とするものである。また、高速製版時においても、ヘッド寿命を短くすることが無く独立穿孔を形成することが可能な製版装置を提供することを目的とするものである。
d. 【0022】
図1は、本発明による製版装置の一例を示す・・各発熱体50は・・駆動手段54から電力供給を受け発熱駆動されるようになっている。
e. 【0025】 上記製版装置で使用されるサーマルヘッド5は・・400dpi用のもの・・ようになっている。
f. 【0037】
これにより、発熱体50によって原紙1のフィルム12に施される各穿孔は副走査方向と主走査方向の何れにおいても独立した穿孔となり、各穿孔が独立していることによって印刷工程時、不必要なインキ転移が抑制され、裏写り現象が防止される。
g. 【0042】<実施例> ・・なお、感熱孔版原紙はポリエステルフィルム・・と多孔性支持体・・とを接着剤により貼合わせたものである(理想科学工業(株)・・)。
h. (図4において)「600dpi」

これらのa〜gの記載事項及び図1〜8によれば、刊行物1には、本願発明の構成に照応対置して認定すると、独立穿孔を形成することが可能な製版装置を提供することを目的として(当審注:前示の記載事項cに基づく。)、次の発明が記載されている。

「駆動手段54により発熱駆動される400dpi用ないし600dpi用のサーマルヘッドを用いて(当審注:前示の記載事項d、e、hに基づく。)、
ポリエステルフィルムと多孔性支持体とを接着剤により貼合わせたものである感熱孔版原紙の該フィルムに(当審注:前示の記載事項gに基づく。)、
主走査方向および副走査方向に配列される穿孔を形成する感熱孔版製版方法において、(当審注:前示の記載事項a、fに基づく。)
フィルム12の温度が収縮開始温度を上回ると、フィルム12に先ず発熱体40中心部に対応する位置に微小穿孔が発生してこれが周囲に拡大成長し、発熱体40への通電終了による発熱体40の放熱によりフィルム12の温度が収縮停止温度を下回ると、フィルム12の穿孔の成長を停止させ、開口を固化するようになされている、という態様で、(当審注:前示の記載事項bに基づく。)
製版する感熱孔版製版方法。」(以下、「引用発明1」という。)
なお、前示の記載事項bは、刊行物1においては、【従来の技術】と題する段落【0002】の記載を承けて段落【0005】において記載されている事項であるが、段落【0005】の記載は、刊行物1の感熱孔版製版方法に係る発明における穿孔の態様でもあるから、上記のとおりに認定したものである。

5.対比・判断
5-1.
本願発明と引用発明1を対比する。
まず、本願発明において、「エネルギーが任意の時間印加される高精細サーマルヘッド」とは、「400dpiや600dpiといった高精細サーマルヘッド」を指すものである(本願明細書段落【0004】)から、本願発明の「高精細サーマルヘッド」は引用発明1における「駆動手段54により発熱駆動される400dpi用ないし600dpi用のサーマルヘッド」に相当する。また、引用発明1の「駆動手段54により発熱駆動される400dpi用ないし600dpi用のサーマルヘッド」における「発熱駆動」は、当然に所定の時間発熱体が駆動するものであるから、本願発明の「エネルギーが任意の時間印加される」ことに相当するものである。また、引用発明1における「ポリエステルフィルム」は、本願発明の「熱可塑性樹脂フィルム」に相当する。
そうすると、双方の発明は、感熱孔版製版方法として、
「エネルギーが任意の時間印加される高精細サーマルヘッドを用いて、熱可塑性樹脂フィルムを有する感熱孔版原紙の該フィルムに、主走査方向および副走査方向に配列される穿孔を形成する感熱孔版製版方法」
である点において一致し、次の点において相違する。
第1に、使用する感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムの融点について、本願発明が、「150℃以上240℃以下」とするものであるのに対し、引用発明1においては、使用する感熱孔版原紙のフィルムの融点について規定されてはいない点。
第2に、サーマルヘッドへのエネルギーの印加を終了する時点について、本願発明が、「前記エネルギーの印加開始時刻を基点として、前記エネルギーの印加開始から前記穿孔の拡大が完了するまでの時間の50%以上100%以下に達した時点で」とするものであるのに対して、引用発明1においては、「フィルム12の温度が収縮開始温度を上回ると、フィルム12に先ず発熱体40中心部に対応する位置に微小穿孔が発生してこれが周囲に拡大成長し、発熱体40への通電終了による発熱体40の放熱によりフィルム12の温度が収縮停止温度を下回ると、フィルム12の穿孔の成長を停止させ、開口を固化するようになされている、という態様で」製版するものであって、本願発明のように「前記エネルギーの印加開始時刻を基点として、前記エネルギーの印加開始から前記穿孔の拡大が完了するまでの時間の50%以上100%以下に達した時点で」と規定しているものではない点。

5-2.
これらの相違点について検討する。
5-2-1. まず第1の相違点である使用する感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムの融点について検討すると、「融点が150℃以上240℃以下の熱可塑性樹脂フィルムを有する感熱孔版原紙」を用いることは、感熱孔版製版方法において周知慣用の技術的事項であるので(要すれば、原査定の理由に引用された特開平10-217422号公報の段落【0023】の「前記熱可塑性フィルム30は、厚さ・・溶融温度が140℃〜150℃の範囲にある。」及び段落【0066】の「感熱孔版原紙28の熱可塑性フィルム30の溶融温度(140℃〜150℃)」、あるいは、特開平8-244372号公報の段落【0008】の「融点が150〜240℃のポリエステル樹脂からなる厚み・・の二軸延伸フィルムであって・・ペーパーレス感熱孔版原紙用フィルム。」、あるいは、特開平9-300843号公報の段落【0008】の「融点が220℃以下・・であるポリエステルフィルムからなり、・・感熱孔版印刷原紙用二軸延伸ポリエステルフィルム。」、あるいは、特開平7-52572号公報の段落【0006】の「融点が150〜240℃・・二軸延伸ポリエステルフィルムであって、・・感熱孔版印刷原紙用フィルム」参照。)、「150℃以上240℃以下」の融点の点は当業者の通常の知識となっているものと推認され、したがってそのような知見を有する当業者が引用発明1に接した場合にあって、本願発明のように「融点が150℃以上240℃以下の熱可塑性樹脂フィルムを有する感熱孔版原紙の該フィルム」を用いることを想到することに困難性は存しない。

5-2-2. 次に、第2の相違点であるサーマルヘッドへのエネルギーの印加を終了する時点について検討する。
(ア) 引用発明1においては、
「フィルム12の温度が収縮開始温度を上回ると、フィルム12に先ず発熱体40中心部に対応する位置に微小穿孔が発生してこれが周囲に拡大成長し、発熱体40への通電終了による発熱体40の放熱によりフィルム12の温度が収縮停止温度を下回ると、フィルム12の穿孔の成長を停止させ、開口を固化するようになされている、という態様で」(以下、この態様を、便宜上「引用発明1の穿孔態様」ということがある。)前記サーマルヘッドへのエネルギーの印加を終了するものであるが、この引用発明1の穿孔態様は、経時的にみると、
(1)フィルム12の温度が収縮開始温度を上回ると、微小穿孔が発生する。
(2)微小穿孔が周囲に拡大成長する。
(3)発熱体40への通電終了による発熱体40が放熱し、次にフィルム12の温度が収縮停止温度を下回り、フィルム12の穿孔の成長を停止する。
(4)開口を固化する。
の段階を経るものであることが認められ、この(3)〜(4)の段階においては、発熱体40への通電終了後、フィルム12の温度は収縮停止温度を下回るまではフィルム12の溶融状態及び穿孔の成長状態を併せ続けながら、やがて、フィルム12の温度が収縮停止温度に至った時点から、フィルム12の穿孔の成長を停止し、開口を固化する状態に至るものと考えられる。
(イ) このことは、原査定の理由に引用された特開平10-217422号公報(以下、「刊行物2」という。)に開示されているように当業者に周知の事項である。
すなわち、同公報の段落【0011】には、「前記構成を有する本発明に係るスタンプユニットの穿孔装置では、スタンプユニットの印面部に所望の文字列パターンを穿孔する場合、サーマルヘッドに設けられた複数の各発熱素子に選択的に通電して発熱素子が第1温度に発熱され、その発熱された各発熱素子を介して、熱可塑性フィルムが溶融されつつ感熱性孔版原紙に対して文字列パターンに従って穿孔が行われる。かかる文字列パターンの穿孔時、熱可塑性フィルムは各発熱素子により溶融された後、発熱素子の温度が低下するに従って固化していく」と記載され、更に、段落【0067】に「・・図25において、ストローブ信号Cが発熱素子103に出力されると、発熱素子103の温度は、ストローブ信号Cの立ち上がりから徐々に上昇していき、ストローブ信号Cの立ち下がりの直前では200℃以上の温度に発熱されている。そして、ストローブ信号Cが立ち下がって(当審注:「下がった」の誤記と認められる。)後において、発熱素子103の温度は、急激に常温(約25℃)に低下していく。・・」、段落【0075】に「・・図26に示すように・・この状態で、前記したように、ヘッド駆動回路119によりサーマルヘッド90における発熱素子103を発熱駆動すると、発熱素子103の温度は、穿孔データにおけるデータA及びストローブ信号Cに基づき図25に示すように徐々に上昇し、熱可塑性フィルム30の溶融温度以上である200℃以上の温度となる。これにより、発熱素子103が当接している熱可塑性フィルムの部分は溶融され、同時に、接着剤層32の一部も溶融され、感熱性孔版原紙28に文字列に対応して穿孔Hが形成される。」、段落【0076】に「かかる状態においては、前記のように穿孔Hを形成する際に、熱可塑性フィルム30が溶融され、また、ストローブ信号Cの消失時点から発熱素子103の温度低下に伴って溶融フィルムも固化していく」との記載があり、刊行物2記載の「溶融温度」が、刊行物1記載の「収縮開始温度」及び「収縮停止温度」に相当することは自明であるから、これらの記載によっても、熱可塑性フィルム30が収縮開始温度以上である200℃以上の温度となることにより、穿孔Hが形成されること、すなわち、前示の(1)〜(4)と同様の段階を経るものであることが認められ、この(3)〜(4)の段階においては、フィルム12の温度が収縮停止温度を下回るまではフィルム12の溶融状態及び穿孔成長状態を併せ続けながら、やがて、フィルム12の温度が収縮停止温度に至る時点で、フィルム12の穿孔の成長を停止し、開口を固化する瞬間に至るものと考えられる。
(ウ) 上記(ア)(イ)のように、エネルギーの印加の終了後であっても、フィルム溶融状態は、フィルムの収縮停止温度以下に至るまでの一定の時間継続し、このフィルム溶融状態が継続し続ける間中においては穿孔が拡大し続けるものと認められる(但し、発熱体3への通電後のフィルム温度が最高温度に達する間の穿孔の成長度合いよりはゆるやかな穿孔の成長過程をとるものと推認される。)。
(エ) なお、特開平10-217422号公報(刊行物2)の図25には、フィルム溶融状態となるフィルムの収縮停止温度や溶融温度が明記されていないので、上記(ウ)のように認定される理由について更に詳述すると以下のとおりである。
すなわち、その理由は、前示の刊行物2と同様に周知の技術を開示し、刊行物2の図25と同様の事項がより詳細に開示されている特開平6-328655号公報(以下、「刊行物3」という。)には、その段落【0005】に「この点をさらに詳細に説明すると、図4に示すように、発熱体3は通電開始(時刻:T0)から温度が上昇し、ある時点(時刻:T1)でフィルム融点を越え、発熱体3への通電停止(時刻:T2)とほぼ同時に温度が最高に達し、その後温度は降下してある時点(時刻:T3)でフィルム融点以下になる。」と記載され、同公報の段落【0006】に「したがって、図5に示すように、発熱体3で加熱されるフィルムFは、通電開始時(t=T0)は未だ発熱体3がフィルム融点に達していないので、この時点では開孔されることはない(図5(a))。次に、発熱体3がフィルム融点を越えると(t=T1)、発熱体3に接する領域でフィルムの溶融が始まる(図5(b))。このフィルム溶融状態は、発熱体3への通電停止(t=T2)後も継続し、発熱体3がフィルム融点以下になった時点(t=T3)で終了する(図5(c))。そのため、副走査方向におけるフィルムFの溶融領域Faは発熱体3の副走査方向長さよりも長くなっている。したがって、1ラインの記録終了後に次の1ラインの記録が行われると、先の1ラインの溶融領域Faと後の1ラインの溶融領域Fbが重なり開孔が連続する。」と記載されており、これらの記載及び図1〜図7によれば、刊行物2の図25と同様な事項を開示する刊行物3の図4において、エネルギーの印加の終了後(発熱体3への通電停止(t=T2)後)であっても、フィルムは図4のフィルム融点(刊行物1記載の「収縮停止温度」に相当)以上の温度で溶融状態を少なくとも図4のT2からT3の間は暫時継続し(図5、7参照。)、すなわち、このフィルム溶融状態が継続し続ける間中において穿孔が拡大し続けるものと認められる、からである。
(オ) 以上のように、このフィルム溶融状態が継続し続ける間中において穿孔が拡大し続けることは、当業者の周知の知見になっている事項である。
(カ) 対するに、本願発明による印加方法によれば、
第1に、エネルギーの印加によって熱可塑性フィルムの収縮開始温度を超えることによる熱収縮応力の発生(段落【0025】)、
第2に、フィルムの最高温部付近における穿孔の発生(段落【0026】)、
第3に、熱収縮による穿孔の成長(段落【0027】)、
第4に、エネルギー印加終了の後にフィルムの穿孔の輪郭部分が熱収縮開始温度を下回った時点における穿孔の拡大の終了と固定化(段落【0028】)
という4段階からなる穿孔の一連の挙動を呈する。
(キ) そうすると、本願発明の第1〜第4の段階からなる穿孔の一連の挙動は、引用発明1の前示の(1)〜(4)ものにおいても当然に惹起されている現象であると認められる。
(ク) このように、エネルギーの印加の終了後であっても穿孔が拡大し続けること、すなわち、当該最終形状時の直径に至る以前であって、フィルム溶融状態が継続し続ける間中において穿孔が拡大し続ける現象、が当業者に共通の知見となっている本願の出願時の技術水準に鑑みて、本願発明のように、「前記エネルギーの印加開始時刻を基点として、前記エネルギーの印加開始から前記穿孔の拡大が完了するまでの時間の50%以上100%以下に達した時点で」と規定することについて検討する。
まず、当該穿孔の最終形状時において最適の穿孔態様(直径、面積等を含めて)が存在することは自明の事柄である。
次に、上述したように、エネルギーの印加の終了後であっても、フィルム収縮停止温度以下に至るまでの一定の時間、穿孔が拡大し続けることを考慮すれば、最終形状時の最適の穿孔態様より小さいエネルギーの印加終了時点の範囲が存在することが合理的に予見できるものである。
すなわち、この穿孔の拡大を見越して、予め、該穿孔の最終形状時の穿孔態様となる時間よりも前のエネルギーの印加を終了させる時点を確認し、確認されたエネルギー印加終了時点の中から、穿孔の最終形態が最終形状時の最適値の範囲内に収まる場合のエネルギーの印加を終了させる時点の数値を単なる実験の繰り返しによって多数選出することは容易にでき、その際に、その選出したの数値群から最適化ないしは好適化し得る範囲の値を単に特定すれば足りるものと考えられる数値限定に該当する時点が、本願発明において規定する「前記エネルギーの印加開始時刻を基点として、前記エネルギーの印加開始から前記穿孔の拡大が完了するまでの時間の50%以上100%以下に達した時点」である、と認められる。
そうとすると、この「前記エネルギーの印加開始時刻を基点として、前記エネルギーの印加開始から前記穿孔の拡大が完了するまでの時間の50%以上100%以下に達した時点」と規定することについて困難性は認められない。

5-2-3. なお、請求人は、審判請求書において、
「このように、本願発明における穿孔の挙動のうち第1から第3の段階までは引用例1と4に記載されているが、エネルギーの印加の終了後に穿孔が拡大しうるという第4の段階については、引用例3の記載を基礎にして解釈を試みたとしても、熱可塑性フィルムの溶融や固化と穿孔の拡大とを関係づけるような記載や示唆が各引用例にはない。したがって、引用例1から4を組み合わせて解釈したとしても、本願発明によるエネルギー印加時の穿孔の一連の挙動全体についての示唆はないと考える。」と主張するが、前示のとおり、本願発明の前示の第1〜第4の段階からなる穿孔の一連の挙動は、引用発明1の前示の(1)〜(4)の段階においても当然に惹起されている現象であると認められ、更に、前示のとおり、エネルギーの印加の終了後であっても穿孔が拡大し続けることが当業者に共通の知見となっている本願の出願時の技術水準に鑑みると、前示の(ア)〜(ク)のとおりであり、その主張は、理由がない。

5-2-4. また、本願発明の奏する「穿孔が独立して形成され、穿孔形状が安定しており、かつ良好な穿孔感度および穿孔の高速性を得ることができる」(【0030】)という効果については、刊行物1の「サーマルヘッドの発熱時間を長くしても独立穿孔を形成することができる」(記載事項c.段落【0013】)のように当業者が知悉していることであるから、当業者が推認できる程度にすぎない。

6.むすび
以上のとおりであって、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に国内において頒布された、特開2000-108296号公報及び上記の周知の技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に該当し特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-04 
結審通知日 2005-11-08 
審決日 2005-11-22 
出願番号 特願2000-145776(P2000-145776)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41C)
P 1 8・ 572- Z (B41C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 國田 正久
長島 和子
発明の名称 感熱孔版製版方法および感熱孔版製版装置および感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルム  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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