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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1128729
審判番号 不服2003-1205  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-10-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-01-20 
確定日 2006-01-04 
事件の表示 平成 8年特許願第 99638号「ディスペンサー」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月14日出願公開、特開平 9-267855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成8年3月29日の出願であって、平成14年12月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年1月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成15年2月17日に手続補正がなされたものである。

2 平成15年2月17日にした手続補正(以下、「本件手続補正」という。)についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
本件手続補正を却下する。
〔理由〕
(1)補正後の本願発明
本件手続補正により、明細書の特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 加圧プランジャーの下部にピストンを取付け、該ピストンの一部をシリンダーの内壁面に対し上下方向に摺接動できるように構成し、前記加圧プランジャーの上端及びシリンダーの下端付近に逆流防止弁を備えたディスペンサーにおいて、容器本体の口部にスクリューキャップを冠設し、このスクリューキャップにリングを冠設し、このリングとノズルヘッド間にピストンの復帰スプリングを介挿し、前記ピストンとシリンダー下部間に蛇腹状の水密遮蔽膜を掛け渡し、この水密遮蔽膜で仕切られた中味貯溜室側と反対側方向のシリンダー内部を隔離収納空間となし、この隔離収納空間の内部にシリンダー内壁面と、ピストンにおけるシリンダー内壁面に摺接動する部分とを位置させ、前記中味貯溜室内の中央付近にピストンの上止点位置を規制するポペットを立設するようにしたことを特徴とするディスペンサー。」と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定する事項である「ディスペンサー」について、「容器本体の口部にスクリューキャップを冠設し、このスクリューキャップにリングを冠設し」との限定事項を付加し、「ピストンの復帰スプリングをピストンとシリンダーに囲まれて容積変化する空間の外部に位置させ」について、「このリングとノズルヘッド間にピストンの復帰スプリングを介挿し」と限定するものであり、これらの限定した事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されている。しかも、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。
したがって、上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正後の上記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭48-10611号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の記載がある。
a:「容器(1)内の上部に支架したシリンダー(2)中にピストン(3)を嵌挿し、前記シリンダー(2)内に嵌挿しコイルばね(4)を内蔵したベローズ(5)の一端を前記ピストン(3)に連結し、他端を前記シリンダー(2)の下端に固定し、前記シリンダー(2)の下端に形成し弁(6)を収納した弁室(7)の一端を弁口(8)を介して前記ベローズ(5)内と連通させ、前記弁室(7)の他端に弁口(9)を介して吸上管(10)を連通させ、前記ピストン(3)より前記容器(1)の上方に突出した中空突軸(11)に連通させて噴霧用トツプボタン(12)を取付け、前記突軸(11)中に形成した弁室(13)にばね(14)で押される弁(15)を収納し、前記ピストン(3)に穿設し前記ベローズ(5)中に開口した吸上孔(16)を弁口(17)を介して前記弁室(13)と連通させた手動式ポンプスプレーヤー。」(特許請求の範囲)

b:「従来、この種の噴霧容器においては、容器中に支架したシリンダーにピストンを収納し、このピストンの進退動作のみで液を吸い上げて噴霧するようにしたため、シリンダーとピストンとの摺動部より液が漏れ易い欠点があつた。本発明はこのような欠点を除去するために、シリンダー(2)内のピストン(3)にベローズ(5)を連結し、ピストン(3)の進退運動とベローズ(5)の伸縮動作によりピストン(3)で吸い上げた液を漏れないように導出噴霧させるようにしたものである。」(1頁右下欄9行ないし2頁左上欄4行)

c:「次に本発明の実施の一例を説明する。容器(1)の上方に突出した突口(18)中に周壁の上下に通孔(19)(20)を穿設したシリンダー(2)を挿入し、このシリンダー(2)の上端縁より突設した突鍔(21)をパツキング板(22)を介して前記突口(18)の上端面にのせ、この突口(18)に螺着した螺蓋(23)で締着する。又前記シリンダー(2)内に嵌挿したピストン(3)より突出した中空突軸(11)を前記螺蓋(23)の通孔(24)より上方に突出させ、上端にトツプボタン(12)を嵌着する。前記ピストン(3)の上端面と螺蓋(23)の内面間にはパツキング板(25)を介装する。前記トツプボタン(12)に形成した通路(26)の先端を噴霧口(27)で開口させ、下端を前記突軸(11)内の弁室(13)に連通させる。更に弁室(13)中にはコイルばね(14)で押される鋼球弁(15)を収納し、この鋼球弁(15)を前記ピストン(3)の上端弁口(17)に臨ませ、この弁口(17)と連通させてピストン(3)に軸方向の吸上孔(16)を穿設し、この吸上孔(16)を前記シリンダー(2)内でピストン(3)を囲繞したベローズ(5)中に開口させる。更にこのベローズ(5)の上部螺糸部(28)を前記ピストン(3)の先端螺筒部(29)に螺着し、ベローズ(5)の上端面はピストン(3)の下端面に当着される。又前記ベローズ(5)の下端に形成した突鍔(30)を前記シリンダー(2)の下部内周に形成した環状段部(31)に係合し、この環状段部(31)の下方のシリンダー(2)周壁に形成した螺糸部(32)に螺着した吹上管接続体(33)の上端面で前記ベローズ(5)の突鍔(30)を前記環状段部(31)に圧着し、ベローズ(5)内にはコイルばね(4)を介装させる。更に吹上管接続体(33)の中心部に下端より穿り込んだ円筒凹所(34)に円筒形中子(35)を嵌着し、この中子(35)の上端より軸方向に穿設した弁室(7)に鋼球弁(6)を収納し、この弁室(7)に弁口(9)を介して連通する吸上管嵌着口(38)を前記中子(35)の下端より軸方向に穿設し、嵌着口(38)に吸上管(10)の上端を嵌着する。又前記下方の弁室(7)は前記接続体(33)の上端中心に穿設した弁口(8)を介して前記ベローズ(5)内と連通させる。」(2頁左上欄5行ないし左下欄12行)

d:「次にこの実施例の作用を説明する。最初トツプボタン(12)を押し下げるとピストン(3)がベローズ(5)を圧縮しながらシリンダー(2)中を下方に摺動し、下方の鋼球弁(6)は弁口(9)を閉じ、ベローズ(5)内の空気は圧縮されてピストン(3)の吸上孔(16)より上方の綱球弁(15)をばね(14)に抗して押し上げ、弁口(17)、弁室(13)、通路(26)を経て噴霧口(27)より排出される。このときシリンダー(2)とベローズ(5)間の空気はシリンダー(2)の下方の通孔(20)より容器(1)内に排除される。次にトツプボタン(12)の押圧力を解くとベローズ(5)はばね(4)に押し上げられて復帰するが、このときベローズ(5)内は減圧になっているから吸上管(10)を介して容器(1)内の液が吸い上げられ、下方の鋼球弁(6)が押し上げられてベローズ(5)内に液が吸い上げられる。ピストン(3)の復帰時にシリンダー(2)とピストン(3)間の空気は、シリンダー(2)の上方の通孔(19)より容器(1)中に排除される。次に再びトツプボタン(12)を押し下げるとベローズ(5)の圧縮によりベローズ(5)中に吸い上げられていた液が上方の鋼球弁(15)を押し上げて弁室(13)、通路(26)を経て噴霧口(27)より噴霧され、」(2頁左下欄末行〜3頁左上欄6行)

e:「本発明は上述のようにして、容器(1)中に架設したシリンダー(2)中にピストン(3)を嵌挿し、このピストン(3)にベローズ(5)を連結し、ベローズ(5)中に液を吸い上げるようにしたため、シリンダー(2)とピストン(3)の摺擦部には液が介入されることがなく、この部分からの液の漏れを防止することが出来るものである。」(3頁右上欄3行ないし9行)

以上の記載及び図面によれば、引用例1には、
「中空突軸(11)の下部にピストン(3)を取付け、該ピストンの一部をシリンダー(2)の内壁面に対し上下方向に摺接動できるように構成し、前記中空突軸(11)の下端及びシリンダーの下端付近に鋼球弁(15)(6)を備えた手動式ポンプスプレーヤーにおいて、容器(1)の突口(18)に螺蓋(23)を冠設し、前記ピストンとシリンダー下部間にベローズ(5)を掛け渡し、べローズにより仕切られたシリンダー(2)内部のべローズ(5)とシリンダー内壁面との間の空間に、ピストン(3)におけるシリンダー内壁面に摺接動する部分を位置させ、べローズ(5)内にコイルばね(4)を介装した、手動式ポンプスプレーヤー」
が記載されていると認められる。

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平3-112350号(実開平5-49652号)のCD-ROM(以下、「引用例2」という。)には、次の記載がある。
f:「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】収縮可能容器用蓋と押ボタン式噴射頭部と前記蓋と前記噴射頭部との間に介在するピストン機構からなり、前記蓋に設けた収縮可能容器内の内容物の流入口からシリンダ部分とピストン部分のそれぞれの部分を流路にして前記噴射頭部の噴射口に連通させうるようにし、常時は逆止弁により閉鎖し、噴射頭部の操作時には逆止弁を開いて前記蓋に設けた収縮可能容器内の内容物を外部に泡状にして噴出させうるようにしてなる手動式ポンプ。
……
【請求項3】収縮可能容器用蓋のピストン機構用シリンダ部分の根元部に設けた吸気孔およびピストン頭部支持用管状部案内孔を有する蓋状部により押ボタン式噴射頭部の上向き付勢用ばねの下端部を支持してなる請求項1記載の手動式ポンプ。
……
【請求項6】その下端部にピストン頭部を有し、その上端部に開口部を有するピストン頭部支持用管状部の上端部に押ボタン式噴射頭部を冠着し、その噴射頭部の噴射口に通じる空間部を弁室にし、その弁室にボール状逆止弁を配設し、常時は、ピストン頭部支持用管状部の上端部の開口部を前記ボール状逆止弁により閉鎖し、押ボタン式噴射頭部の作動時、前記ボール状逆止弁を開口しうるようにしてなる請求項1記載の手動式ポンプ。
……
【請求項9】ピストン頭部支持用管状部の周囲に筍形状のコイルばねを配設し、前記管状部の上端に固着した噴射頭部を押圧すると前記コイルばねによつて復帰させうるようにしてなる請求項1記載の手動式ポンプ。」

g:「【符号の説明】1 収縮可能容器用蓋 2 押ボタン式噴射頭部 3 ピストン機構用シリンダ部分 4 ピストン部分 5 ボール状逆止弁 6 ボール状逆止弁 7 円筒状下向き突出部 8 吸気孔 9 ピストン頭部支持用管状部 10 ピストン頭部支持用管状部案内孔 11 ピストン頭部 …… 17 螺旋部 20 吸液管 18 ばね座 21 押ボタン式噴射頭部案内用上向き突出部 19 ピストン室 22 噴射口」

以上の記載及び図1によれば、引用例2には、
「シリンダ部分とピストン部分のそれぞれの部分を流路にして噴射頭部の噴射口に連通させうるようにし、常時は逆止弁により閉鎖し、噴射頭部の操作時には逆止弁を開いて、容器内の内容物を外部に噴出させうるようにし、ピストン頭部支持用管状部の周囲に、押ボタン式噴射頭部及びピストン頭部を上向き付勢するコイルばねを配設し、押ボタン式噴射頭部と蓋状部との間にコイルばねを支持した手動式ポンプ」
が記載されていると認められる。

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平4-9397号(実開平5-62453号)のCD-ROM(以下、「引用例3」という。)には、次の記載がある。
h:「【0001】 【産業上の利用分野】 この考案は、シャンプーやリンスのような液体や粘液状物の如き流動性を有する液状物を収納したボトルの口部に装着し、液状物を外部へ注出するためのディスペンサーに関する。」

i:「【0010】 ディスペンサー(3)は、容器の口部(2)にパッキン(5)を介してキャップ(4)により固着されたシリンダ(6)を備え、該シリンダ(6)の下部開口(7)に容器(1)の底に向かって延びるパイプ(8)が接続される。シリンダ(6)内にはピストン(9)が往復動自在に収納される。ピストン(9)には口部(2)から容器の外方へ延び出す中空のステム(10)が一体に連結され、該ステム(10)の上端にハンドルを兼ねる注出ノズル(11)が固着される。注出ノズル(11)内には前記中空のステム(10)内に連通する注出通路(12)が形成されると共に、ステム(10)と注出通路(12)との接続部に例えばボール弁からなる逆止弁(13)が配設され、注出通路(12)からの液状物の逆流を防止している。」

j:「【0011】 (14)は、シリンダ(6)内に配設されたポペットであり、該ポペット(14)に前記ピストン(9)が往復動自在に案内されると共に、ポペット(14)の底部とピストン(9)との間にピストン(9)を上死点方向へ付勢するスプリング(15)が張設される。ポペット(14)の上端には、ピストン(9)の上昇を限定する大径の鍔状ストッパー(16)が形成され、下部には開口(17)が形成される。シリンダ(6)の下部開口(7)にはシリンダ(6)内の液状物がパイプ(8)に逆流するのを阻止する例えばボール弁から成る逆止弁(18)が配設される。」

以上の記載及び図1によれば、引用例3には、
「シリンダ(6)内に、ピストン(9)の上昇を限定する大径の鍔状ストッパー(16)が形成されたポペット(14)を立設し、容器の口部(2)に螺子付きのキャップ(4)を取り付け、この螺子付きのキャップ(4)に取付リング(22)を取り付け、ステム(10)の上端とシリンダ(6)の下端付近に逆止弁(13)(18)を備えたディスペンサー」
が記載されていると認められる。

(3)対比
本願補正発明と引用例1記載の発明とを対比する。
引用例1記載の発明の「中空突軸(11)」、「鋼球弁(15)(6)」、「手動式ポンプスプレーヤー」、「容器(1)の突口(18)」、「螺蓋(23)」、「コイルばね(4)」及び「べローズ(5)内」は、それぞれ本願補正発明の「加圧プランジャー」、「逆流防止弁」、「ディスペンサー」、「容器本体の口部」、「スクリューキャップ」、「ピストンの復帰スプリング」及び「中味貯溜室」に相当する。
引用例1記載の発明の「ベローズ(5)」は、引用例1の「ベローズ(5)中に液を吸い上げるようにしたため、シリンダー(2)とピストン(3)の摺擦部には液が介入されることがなく、この部分からの液の漏れを防止することが出来る」(上記記載e参照。)との記載によると、液をベローズの外に漏らすことがないから、水密遮蔽膜であると解され、本願補正発明の「蛇腹状の水密遮蔽膜」に相当する。
引用例1記載の発明の「べローズにより仕切られたシリンダー(2)内部のべローズ(5)とシリンダー内壁面との間の空間」は、同じく上記記載eによると、上記のようにベローズは水密遮蔽膜であると解され、ベローズから外に液が漏れ出ることがなく、シリンダーとピストンの摺擦部に液が介入されることがなく、摺擦部からの液漏れが防止されているから、本願補正発明でいう「水密遮蔽膜で仕切られた中味貯溜室側と反対側方向のシリンダー内部」であって、「隔離収納空間」に相当する。
そうすると、本願補正発明と引用例1記載の発明とは、
「加圧プランジャーの下部にピストンを取付け、該ピストンの一部をシリンダーの内壁面に対し上下方向に摺接動できるように構成し、前記加圧プランジャーとシリンダーに逆流防止弁を備えたディスペンサーにおいて、容器本体の口部にスクリューキャップを冠設し、前記ピストンとシリンダー下部間に蛇腹状の水密遮蔽膜を掛け渡し、この水密遮蔽膜で仕切られた中味貯溜室側と反対側方向のシリンダー内部を隔離収納空間となし、この隔離収納空間の内部にシリンダー内壁面と、ピストンにおけるシリンダー内壁面に摺接動する部分とを位置させたディスペンサー」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1
本願補正発明では、加圧プランジャーの上端及びシリンダーの下端付近に逆流防止弁を備えたのに対し、引用例1記載の発明では、加圧プランジャーの下端及びシリンダーの下端付近に逆流防止弁を備えた点。
相違点2
本願補正発明では、スクリューキャップにリングを冠設したのに対し、引用例1記載の発明では、スクリューキャップにリングを冠設していない点。
相違点3
本願補正発明では、リングとノズルヘッド間にピストンの復帰スプリングを介挿したのに対し、引用例1記載の発明では、水密遮蔽膜で仕切られた中味貯溜室内に復帰スプリングを介挿した点。
相違点4
本願補正発明では、中味貯溜室内の中央付近にピストンの上止点位置を規制するポペットを立設するようにしたのに対し、引用例1記載の発明では、そのようなポペットを設けていない点。

(4)相違点の検討
そこで、上記各相違点について検討する。
《相違点1について》
ディスペンサーにおいて、逆流防止弁を加圧プランジャーの上端とシリンダーの下端付近に配設することは、例えば、引用例2、3にも示されているように、本願の出願前に周知の技術であるから、引用例1記載の発明において、この周知技術を採用して相違点1に挙げた本願補正発明の事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
《相違点2について》
引用例3には、ディスペンサーにおいて、容器の口部(2)に螺子付きのキャップ(4)を取り付け、この螺子付きのキャップ(4)に取付リング(22)を取り付けるという技術的事項が記載されているから、引用例1記載の発明にこの技術的事項を適用して相違点2に挙げた本願補正発明の事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
《相違点3について》
本願補正発明が、リングとノズルヘッド間にピストンの復帰スプリングを介挿したことの技術的意義は、本願明細書の段落【0025】の「なお本発明の復帰スプリング16は、ピストン10とシリンダーで囲まれた容積変化する空間の外部に位置しているので、復帰スプリング自体も中味14に接することはなく、復帰スプリング16からのイオン溶出等が防げる特徴がある。」、同段落【0026】の「また本発明の復帰スプリング16は、リング6とノズルヘッド17間に介挿されるので、水密遮蔽膜15で仕切られる中味貯留室Bの内容積が復帰スプリング16の存在で小さくなってしまうという事態はまったく起こらない。」との記載によれば、復帰スプリングをピストンとシリンダーで囲まれた容積変化する空間の外部に位置させることにより、復帰スプリングが中味に接することによる復帰スプリングからのイオン溶出等を防ぎ、中味貯留室の内容積が復帰スプリングの存在で小さくなることを防ぐことであると解される。
引用例2には、「シリンダ部分とピストン部分のそれぞれの部分を流路にして噴射頭部の噴射口に連通させうるようにし、常時は逆止弁により閉鎖し、噴射頭部の操作時には逆止弁を開いて、容器内の内容物を外部に噴出させうるようにし、ピストン頭部支持用管状部の周囲に、押ボタン式噴射頭部及びピストン頭部を上向き付勢するコイルばねを配設し、押ボタン式噴射頭部と蓋状部との間にコイルばねを支持した手動式ポンプ」が記載されており、上記「押ボタン式噴射頭部」は本願補正発明の「ノズルヘッド」に相当し、上記「押ボタン式噴射頭部及びピストン頭部を上向き付勢するコイルばね」は本願補正発明の「ピストンの復帰スプリング」に相当し、上記「手動式ポンプ」は本願補正発明の「ディスペンサー」に相当するから、引用例2には、ディスペンサーにおいて、ピストンとシリンダーで囲まれた容積変化する空間の外部である、ノズルヘッドと蓋状部との間にピストンの復帰スプリングを配設するという技術的事項が記載されているといえる。引用例2記載のディスペンサーにおいても、復帰スプリングがピストンとシリンダーで囲まれた容積変化する空間の外部に配設されているから、復帰スプリングが中味に接することがないし、中味貯留室の内容積が小さくなることがないことは、当業者にとって自明である。
そして、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明は、共にピストンの復帰スプリングを有するディスペンサーに関するものであり、上記引用例2記載の技術的事項を引用例1記載の発明に適用することは、当業者であれば容易に着想することである。
ここで、本願補正発明は、「リングとノズルヘッド間」にピストンの復帰スプリングを介挿しているが、そうしたことによる技術的意義は認められず、「リングとノズルヘッド間に」としたことは、スクリューキャップにリングを冠設した場合に必然的に採用する設計的事項にすぎない。
そうすると、引用例1記載の発明に引用例2記載の技術的事項を適用して相違点3に挙げた本願補正発明の事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
《相違点4について》
引用例3には、「シリンダ(6)内に、ピストン(9)の上昇を限定する大径の鍔状ストッパー(16)が形成されたポペット(14)を立設し、容器の口部(2)に螺子付きのキャップ(4)を取り付け、この螺子付きのキャップ(4)に取付リング(22)を取り付け、ステム(10)の上端とシリンダ(6)の下端付近に逆止弁(13)(18)を備え、ピストン(9)がポペット(14)に往復動自在に案内されるディスペンサー」が記載されており、上記「ピストン(9)の上昇を限定する大径の鍔状ストッパー(16)が形成されたポペット(14)」は、本願補正発明の「ピストンの上止点位置を規制するポペット」に相当する。
そして、引用例1記載の発明と引用例3記載の発明は共に、ピストンがシリンダー内を上下動する構成のディスペンサーに関するものであるから、引用例1記載の発明において、引用例3記載のピストンを案内させるポペットを採用し相違点4で挙げた本願補正発明の事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
しかも、本願補正発明が奏する効果も、引用例1ないし3記載の発明及び周知技術から予測できる範囲のものであって、格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用例1ないし3記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)まとめ
以上のとおり、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり、本件手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年11月5日に補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1は、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】 加圧プランジャーの下部にピストンを取付け、該ピストンの一部をシリンダーの内壁面に対し上下方向に摺接動できるように構成し、前記加圧プランジャーの上端及びシリンダーの下端付近に逆流防止弁を備えたディスペンサーにおいて、前記ピストンとシリンダー下部間に蛇腹状の水密遮蔽膜を掛け渡し、この水密遮蔽膜で仕切られた中味貯溜室側と反対側方向のシリンダー内部を隔離収納空間となし、この隔離収納空間の内部にシリンダー内壁面と、ピストンにおけるシリンダー内壁面に摺接動する部分とを位置させ、ピストンの復帰スプリングをピストンとシリンダーに囲まれて容積変化する空間の外部に位置させ、前記中味貯溜室内の中央付近にピストンの上止点位置を規制するポペットを立設するようにしたことを特徴とするディスペンサー。」

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記2(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記2(1)で検討した本願補正発明の「容器本体の口部にスクリューキャップを冠設し、このスクリューキャップにリングを冠設し、このリングとノズルヘッド間にピストンの復帰スプリングを介挿し」との限定事項から、「容器本体の口部にスクリューキャップを冠設し、」との事項を省き、「このリングとノズルヘッド間にピストンの復帰スプリングを介挿し」を、その上位概念である「ピストンの復帰スプリングをピストンとシリンダーに囲まれて容積変化する空間の外部に位置させ」との事項としたものである。
そうすると、本願発明を特定する事項の一部を限定し、さらに他の特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2(4)に記載したとおり、引用例1ないし3記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1ないし3記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-17 
結審通知日 2005-10-25 
審決日 2005-11-08 
出願番号 特願平8-99638
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 溝渕 良一  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 豊永 茂弘
宮崎 敏長
発明の名称 ディスペンサー  
代理人 松浦 恵治  

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