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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1128903
異議申立番号 異議2003-70804  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-08-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-26 
確定日 2005-10-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3329615号「履帯ゴム組成物」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3329615号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許3329615号の発明は、平成7年2月28日(優先権主張、平成6年12月7日、日本)に出願され、平成14年7月19日にその特許権の設定登録がなされ、その後、オーツタイヤ株式会社(以下、「異議申立人A」という。)、松本亮壮(以下、「異議申立人B」という。)、小泉昭夫(以下、「異議申立人C」という。)及び田中英博(以下、「異議申立人D」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、それに対して、その指定期間内である平成15年11月11日に、特許異議意見書及び訂正請求書が提出され、さらに、取消理由通知がなされ、それに対して、その指定期間内である平成17年7月28日に、特許異議意見書及び訂正請求書が提出されるとともに、先の訂正請求書が取り下げられたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア、訂正の内容
訂正事項a:特許請求の範囲の訂正
a-1、請求項1の
「【請求項1】(1)SBR60重量部〜100重量部と、その他のジエン系ポリマー0重量部〜40重量部をブレンドしたゴム組成物100重量部に対して、(2)補強剤として、粒子径が35μm以下のカーボンブラック(HAF級以上)を50〜100重量部を加え、(3)且つ上記(1)記載のブレンドしたゴム組成物100重量部の内、0〜40重量部を上限度としてハイスチレンポリマーに置換使用することを特徴とする履帯ゴム組成物。」を、
「【請求項1】(1)スチレンコンテントが20%以上50%未満、ブタジエンコンテントが50%以上80%未満のSBR60重量部〜100重量部と、その他のジエン系ポリマー0重量部〜40重量部をブレンドしたゴム組成物100重量部に対して、(2)補強剤として、粒子径が35μm以下のカーボンブラック(HAF級以上)を60〜80重量部を加え、(3)且つ上記(1)記載のブレンドしたゴム組成物100重量部の内、20〜30重量部を上限度としてスチレンコンテント67%以上のハイスチレンポリマーに置換使用した、加硫ゴムの動的損失率E”が71.2kg/cm2 以上であることを特徴とする履帯ゴム組成物。」と訂正する。
a-2、請求項2〜5を削除する。
訂正事項b:発明の詳細な説明の訂正
b-1:明細書の段落【0009】を、
「こうした状況の下で、本発明らは種々検討の結果、請求項1において(1)SBR60〜100重量部とその他のジエン系ポリマー0重量部、好ましくは5重量部〜40重量部をブレンドしたゴム組成物100重量部に対して、(2)補強剤として、粒子径が35μm以下のカーボンブラック(HAF級以上)を60〜80重量部添加し、(3)且つ上記(1)記載のブレンドしたゴム組成物100重量部の内、20〜30重量部を上限度としてハイスチレンポリマーを置換使用することを特徴とする履帯ゴム組成物であり、上記通常のSBRはスチレンコンテントが20%以上50%未満で、ブタジエンコンテントが50%以上80%未満ものであるものを使用することが好適であり、又、上記ハイスチレンポリマーがスチレンコンテント67%以上のものを使用することを特徴とした履帯ゴム組成物である。更に、上記組成物からなる加硫ゴムの動的損失率E”が71.2kg/cm2 以上であることを特徴とする履帯ゴム組成物である。」と訂正する。
b-2:明細書の段落【0012】を、
「又、ハイスチレンポリマーは、スチレンコンテントが67%以上のポリマーのものであり、該ポリマーとしては特に限定されないが、好ましくはハイスチレンSBRが好適に用いられる。また、その配合量は、上記請求項1に記載の(1)ブレンドしたゴム組成物100重量部の内、(3)20〜30重量部を上限としてハイスチレンポリマーに置換使用することがE”向上のために好適である。ハイスチレンポリマーの置換部数が20重量部未満の置換では、E’(E”)を明らかに向上させる効果が少なく、耐カット性の改善効果が小さい。また30重量部を越えて上記ブレンドしたゴム組成物100重量部の内置換使用した場合は、混練り作業が著しく低下すると共に、引張強度も低下する。」と訂正する。
b-3:明細書の段落【0013】中の
「スチレンコンテント50%以上」を、
「スチレンコンテント67%以上」と訂正する。
b-4:明細書の段落【0017】の【表1】中の、「実-1」及び「実-2」をそれぞれ「比-9」及び「比-10」と訂正するとともに、「実-3」〜「実-6」を、それぞれ「実-1」〜「実-4」と訂正する。
b-5:明細書の段落【0019】を、
「【発明の効果】本発明は、上記の如く、(1)スチレンコンテントが20%以上50%未満、ブタジエンコンテントが50%以上80%未満のSBR60〜100重量部とその他のジエン系ポリマー0〜40重量部をブレンドしたゴム100重量部に対して、(2)補強剤として、粒子径が35μm以下のカーボンブラック(HAF級以上)を60〜80重量部を加え、(3)且つ上記(1)記載のブレンドしたゴム組成物100重量部の内、20〜30重量部を上限度としてハイスチレンポリマー(スチレンコンテントが67%以上)を置換使用したことを特徴とする履帯ゴム組成物であり、同ゴム組成物の加硫ゴムの動的損失率E”が71.2kg/cm2 以上であることを特徴とする履帯ゴム組成物としたことで、従来に比して、耐カット性に優れたゴム組成物を得ることができた。尚、本ゴム組成物は、履帯シューのみならず、履帯ゴムシューと同じ特性が要求される弾性ゴムクローラ等にも適用されることは言うまでもない。」と訂正する。
ウ、訂正の適否
訂正事項aは、特許請求の範囲に関する訂正であり、訂正a-1には、以下の5箇所の訂正が認められる。
1)「SBR」を「スチレンコンテントが20%以上50%未満、ブタジエンコンテントが50%以上80%未満のSBR」とする訂正
2)「50〜100重量部」を「60〜80重量部」とする訂正
3)「0〜40重量部」を「20〜30重量部」とする訂正
4)「ハイスチレンポリマー」を「スチレンコンテント67%以上のハイスチレンポリマー」とする訂正
5)「置換使用すること」を「置換使用した、加硫ゴムの動的損失率E”が71.2kg/cm2 以上であること」とする訂正
上記の1)は、訂正前の請求項3及び明細書の段落【0009】の記載に基づいて、SBRの組成を限定するものであり、2)は、明細書の段落【0014】の記載に基づいてカーボンブラックの含有量をより好ましいものに限定するものであり、3)及び4)は、ハイスチレンポリマーについて、明細書の段落【0017】の【表1】における訂正前の実-3〜実-6(訂正後の実-1〜実-4)に基づいて、ハイスチレンポリマーの含有量を限定するとともに、スチレンコンテントの下限を、その注(*2)に記載されるスチレンコンテントの量に限定するものであり、さらに、5)は、同じく【表1】における訂正前の実-4(訂正後の実-2)の記載に基づいて、ゴム組成物における加硫ゴムの動的損失率E”の下限を限定するものであるから、いずれの訂正も、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認められる。
訂正a-2は、請求項2〜5を削除するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認められる。
訂正事項bは、発明の詳細な説明の訂正であり、訂正b-1〜b-5は、特許請求の範囲の訂正である訂正事項a(a-1及びa-2)に伴い、特許請求の範囲との整合をはかるため、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、上記訂正事項a(a-1、a-2)及び訂正事項b(b-1〜b-5)は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
ア、申立て理由の概要
1)異議申立人Aは、甲第1号証(特開平1-165637号公報)、甲第2号証(特開平2-64139号公報)、甲第3号証(「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」、ラバーダイジェスト社、昭和49年10月15日、第213〜217、567頁)、甲第4号証(「ゴム試験法」、社団法人日本ゴム協会、昭和38年5月1日、資料編、第14頁)及び甲第5号証(特開平5-117450号公報)を提出し、訂正前の請求項1〜5に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、取り消されるべき旨主張している。
2)異議申立人Bは、甲第1号証(特開平5-111680号公報)、甲第2号証(実願平4-14200号(実開平5-75080号)の明細書全文及び図面)、甲第3号証(特開平3-72538号公報)、甲第4号証(特開平4-208679号公報)、甲第5号証(特開平4-345583号公報)、甲第6号証(特開平4-362481号公報)、甲第7号証(特開平5-98077号公報)、甲第8号証(「ゴム配合データハンドブック」、日刊工業新聞社、昭和62年4月25日、第96、98、110、111、120、121、125、126、132、133頁)、甲第9号証(「ゴム技術の基礎」社団法人日本ゴム協会、昭和62年4月1日、第5、6、51、52、63〜65、104〜109、273、274、277頁)、甲第10号証(特公昭62-34340号公報)、甲第11号証(特開平6-24367号公報)、甲第12号証(特開平6-9826号公報)及び参考資料(「カーボンブラック便覧(第三版)」、カーボンブラック協会、平成7年4月15日、第63頁)を提出し、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、甲第1〜12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、取り消されるべき旨主張している。
3)異議申立人Cは、甲第1号証(特開平1-164602号公報)、甲第2号証(特開平3-281550号公報)、甲第3号証の1(「履帯用ゴム材の摩耗特性」、愛媛大学工学部紀要、第12巻、第3号、1992年2月、155〜166頁)、甲第3号証の2(米国特許第5006603号明細書)、甲第3号証の3(甲第3号証の2の和訳)、甲第3号証の4〜9(科学技術文献速報の抄録)、甲第4号証(「カーボンブラック年鑑」、No.43、カーボンブラック協会、1993年、第68頁)、甲第5号証(「カーボンブラック年鑑」、No.43、カーボンブラック協会、1993年、第70頁)、甲第6号証(「カーボンブラック年鑑」、No.43、カーボンブラック協会、1993年、第74頁)及び甲第7号証(「カーボンブラック年鑑」、No.43、カーボンブラック協会、1993年、第55頁)を提出し、訂正前の請求項1〜5に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、取り消されるべき旨主張している。
4)異議申立人Dは、甲第1号証(特開昭60-61311号公報)、甲第2号証(特開平6-32943号公報)及び参考資料1(「カーボンブラック年鑑」、カーボンブラック協会、平成4年7月25日、第57頁)を提出し、訂正前の請求項1及び3に係る発明は、甲第1及び2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、訂正前の請求項1及び3に係る発明の特許は、取り消されるべき旨主張している。
イ、訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】(1)スチレンコンテントが20%以上50%未満、ブタジエンコンテントが50%以上80%未満のSBR60重量部〜100重量部と、その他のジエン系ポリマー0重量部〜40重量部をブレンドしたゴム組成物100重量部に対して、(2)補強剤として、粒子径が35μm以下のカーボンブラック(HAF級以上)を60〜80重量部を加え、(3)且つ上記(1)記載のブレンドしたゴム組成物100重量部の内、20〜30重量部を上限度としてスチレンコンテント67%以上のハイスチレンポリマーに置換使用した、加硫ゴムの動的損失率E”が71.2kg/cm2 以上であることを特徴とする履帯ゴム組成物。」
ウ、刊行物等に記載された事項
異議申立人A〜Dの提出した各甲号証及び参考資料について、以下、次のとおり略記する。
刊行物1:異議申立人Aが提出した甲第1号証(特開平1-165637号公報)
刊行物2:同甲第2号証(特開平2-64139号公報)
刊行物3:同甲第3号証(「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」、ラバーダイジェスト社、昭和49年10月15日、第213〜217、567頁)
刊行物4:同甲第4号証(「ゴム試験法」、社団法人日本ゴム協会、昭和38年5月1日、資料編、第14頁)
刊行物5:同甲第5号証(特開平5-117450号公報)
刊行物6:異議申立人Bが提出した甲第1号証(特開平5-111680号公報)
刊行物7:同甲第2号証(実願平4-14200号(実開平5-75080号)の明細書全文及び図面)
刊行物8:同甲第3号証(特開平3-72538号公報)
刊行物9:同甲第4号証(特開平4-208679号公報)
刊行物10:同甲第5号証(特開平4-345583号公報)
刊行物11:同甲第6号証(特開平4-362481号公報)
刊行物12:同甲第7号証(特開平5-98077号公報)
刊行物13:同甲第8号証(「ゴム配合データハンドブック」、日刊工業新聞社、昭和62年4月25日、第96、98、110、111、120、121、125、126、132、133頁)
刊行物14:同甲第9号証(「ゴム技術の基礎」、社団法人日本ゴム協会、昭和62年4月1日、第5、6、51、52、63〜65、104〜109、273、274、277頁)
刊行物15:同甲第10号証(特公昭62-34340号公報)
刊行物16:同甲第11号証(特開平6-24367号公報)
刊行物17:同甲第12号証(特開平6-9826号公報)
刊行物18:異議申立人Cが提出した甲第1号証(特開平1-164602号公報)
刊行物19:同甲第2号証(特開平3-281550号公報)
刊行物20:同甲第3号証の1(「履帯用ゴム材の摩耗特性」、愛媛大学工学部紀要、第12巻、第3号、1992年2月、155〜166頁)
刊行物21:同甲第3号証の2(米国特許第5006603号明細書)
刊行物22:同甲第3号証の4〜9(科学技術文献速報の抄録)
刊行物23:同甲第4号証(「カーボンブラック年鑑」、No.43、カーボンブラック協会、1993年、第68頁)
刊行物24:同甲第5号証(「カーボンブラック年鑑」、No.43、カーボンブラック協会、1993年、第70頁)
刊行物25:同甲第6号証(「カーボンブラック年鑑」、No.43、カーボンブラック協会、1993年、第74頁)
刊行物26:同甲第7号証(「カーボンブラック年鑑」、No.43、カーボンブラック協会、1993年、第55頁)
刊行物27:異議申立人Dが提出した甲第1号証(特開昭60-61311号公報)
刊行物28:同甲第2号証(特開平6-32943号公報)
参考資料1:異議申立人Bが提出した参考資料(「カーボンブラック便覧(第三版)」、カーボンブラック協会、平成7年4月15日、第63頁)
参考資料2:異議申立人Dが提出した参考資料1(「カーボンブラック年鑑」、カーボンブラック協会、平成4年7月25日、第57頁
上記刊行物1〜28及び参考資料1、2に記載された事項は次のとおりである。
a、刊行物1
「スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを25〜100重量部とジエン系ゴムの中から選ばれた1種以上のゴム75重量部以下よりなる原料ゴム100重量部に対し、カーボンブラックを45〜120重量部、軟化剤を20〜120重量部、および天然ゴムラテックス漿液の粉末乾燥物を該粉末乾燥物中の非ゴム成分量に換算して2〜15重量部配合してなることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。」(特許請求の範囲)
b、刊行物2
「1.ゴム成分がスチレン-ブタジエン共重合体ゴム単独か又は少なくとも50重量%以上のスチレン-ブタジエン共重合体ゴムと他のジエン系ゴムから成り、該スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの10重量%以上がスチレン含量として25乃至35重量%、ブタジエン部分のビニル結合含有率として30%以下なる高スチレン含量のスチレン-ブタジエン共重合体ゴムであるゴム成分100重量部に対し、窒素吸着比表面積(N2SA)が110乃至170m2/g、ジブチルフタレート吸収量(DBP)が85乃至150ml/100gであるカーボンブラックを40乃至75重量部かつジシクロペンタジエン系樹脂を0.5乃至20重量部配合してなるゴム組成物により構成したタイヤトレッド部に有することを特徴とする建設車輌用タイヤ。」(特許請求の範囲請求項1)
「本発明は耐カット性及び外観性を著しく向上させた建設車輌用タイヤに関するものである。」(第1頁右下欄10〜11行)
c、刊行物3
第214〜215頁には、ファーネスブラックのSAFの平均粒径が18〜22mμであり、同じくISAFの平均粒径が19〜29mμであること、第567頁には、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムのNipol 1502の結合スチレン量が23.5%であることが記載されている。
d、刊行物4
資料編の第14頁に、コールドSBRの結合スチレン量が23.5%であることが記載されている。
e、刊行物5
「【請求項1】 有機リチウム化合物を重合反応開始剤として重合されてなり、結合スチレン含有量が25〜50重量%、ブタジエン部分中のビニル結合含有量が15〜35重量%である溶液重合スチレン‐ブタジエン共重合体ゴムを30〜60重量部、天然ゴムおよび/またはポリイソプレンゴムを40〜70重量部、およびポリブタジエンゴムを0〜30重量部よりなるゴム成分100重量部に対して、
窒素吸着比表面積(N2 SA)が150〜200m2 /g、ジブチルフタレート吸油量(DBP)が90〜130ml/100g、であるカーボンブラックを40〜65重量部配合してなり、
加硫後の物性として、JIS K 6301-75 破壊時伸び(Eb)が500%以上、JIS 6301-75 スプリング硬さ(A形)が60以上、ダンロップ式トリプソメーターによる(レジリエンス)(反発弾性)が40以上である悪路向大型空気入りタイヤ用ドレッドゴム組成物。」(特許請求の範囲請求項1)
f、刊行物6
「ゴムクローラ廃棄物中の芯金の再利用方法」の発明が記載され、段落【0003】に、従来の建機用ゴムクローラ本体のゴム質の配合例として、天然ゴム60部、SBR40部、カーボンブラック60部とすることが記載されている。
g、刊行物7
「ゴムクローラー」の考案が記載され、段落【0012】に、ゴムクローラーのゴム素材としてスチレン-ブタジエンゴムが記載されている。
h、刊行物8
「ゴムクローラ」の発明が記載され、従来技術として「農業用車輌、建設機械用車輌等に装着される弾性無限軌道帯、即ち、ゴムクローラの構成材料には、一般にタイヤ用ゴム組成物が適用されている。」(第1頁右下欄14〜17行)と記載されている。
i、刊行物9
「ゴムクローラ」の発明が記載され、ゴムクローラに用いられるゴム組成物を構成する原料として合成ゴムが用いられること、これらの原料ゴムにカーボンブラック等の通常の配合剤を配合することが記載されている。(段落【0016】及び【0017】)
j、刊行物10
「装軌式車輌の履帯」の発明が記載され、ゴムの材質として合成ゴムが記載され、ゴムへのカーボンブラックの添加も記載されている。(段落【0011】)
k、刊行物11
「クローラ用無端履帯」の発明が記載され、従来技術として、ジエン系ゴムにカーボンブラックを配合した黒色系ゴム材料が使用されていると記載されている。(段落【0002】)
l、刊行物12
「【請求項1】 スチレン含有量が40%〜50%でブタジエン部のビニル含有量が15%以下のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム (SBR) とガラス転移温度-70℃以下のハイシスポリブタジエンゴム (BR) からなるSBR/BR比が95/5〜50/50の原料ゴム100重量部に対し、カーボンブラック70〜100重量部およびプロセス油40〜100重量部を配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物。」(特許請求の範囲)
m、刊行物13
タイヤトレッドの配合例としてSBR96.25部とBR30部に、HAF(N-330)(注:カーボンブラック)85部を配合する例が記載されている。(第120、121頁)
n、刊行物14
タイヤトレッドの配合例として、SBR75部、NR25部、カーボンブラック50部とすること記載されている。(第274頁)
o、刊行物15
「1 結合スチレン量が30〜50重量%以上で、ブタジエン部の結合様式が1,2ビニル結合20%以上、シス1,4結合15%以上のスチレンブタジエン共重合体ゴム10〜50重量%と結合スチレン量が22〜25重量%のスチレンブタジエン共重合体ゴム90〜50重量%とからなるゴム分100重量部に対し、カーボンブラツクを75重量部以上配合したゴム組成物をキヤツプトレツド部に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。」(特許請求の範囲)
第3頁に、比較例として、SBR(結合スチレン量23重量%)137.5部、ハイスチレン樹脂(結合スチレン量55重量%)10部、カーボンブラック(N220)85部とするゴム組成物が記載されている。
p、刊行物16
「ゴムクローラの構造」の発明が記載され、段落【0007】に、「かかるtanδの限定は、ゴム基体となるポリマ-種を変更することによって可能であり、一方、ポリマ-中に充填されるカ-ボン種、カ-ボン量を変更することによっても可能である。更には、場合によってはいわゆる低ロス化剤を添加することもその一方法であり、これらポリマ-、カ-ボン種、カ-ボン量、低ロス化剤を適宜選択して配合することによりtanδの値をコントロ-ルでき、しかも、ゴムクロ-ラの必要特性である耐摩耗性、耐カット性、耐屈曲疲労性、その他ゴムの伸度、強力、モジュラス、更には芯金やスチ-ルコ-ドにて代表される抗張体等との接着性等の各性状を任意に選定したゴムを得ることができることとなったのである。」と記載されている。
q、刊行物17
「ゴム混合物」の発明が記載され、段落【0002】に、「これらの研究および言及されていないその後の研究のすべての結果は、車輌用タイヤの転がり抵抗およびスキッド特性は、ゴム混合物の粘弾性パラメーターに基づいて評価されうるということであった。貯蔵弾性率G' または損失弾性率G" および動的損失率d=tanδ=G"/G' が上記の意味における適当なパラメーターであることが立証され、そしてそれぞれ温度の関数として決定される。これらの知見から、比較的低い温度(例えば0〜30℃またはおそらくそれ以下)におけるG"(またはd)の高い値は、高い横滑り抵抗をもたらし、そして比較的高い温度(70〜90℃)におけるG"(またはd)の低い値は、低い転がり抵抗をもたらすということができる。」と記載されている。
また、SBRゴム90部、NBRゴム10部、カーボンブラック50部の例が記載されている。(段落【0025】)
r、刊行物18
「窒素比表面積(N2SA)140〜160m2/g、ジブチルフタレート吸油量(DBP吸油量)120ml/100g以上、ΔDBP(DBP吸油量-24M4DPB吸油量)30ml/100g以上であって、遠心沈降法により測定される凝集体分布の半値幅(ΔDst)が50mμ以下であるカーボンブラックを、ゴム100重量部に対して50〜150重量部含有してなることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。」(特許請求の範囲)
s、刊行物19
「(1)結合スチレン含量が20〜50%のスチレン-ブタジエンゴムの1種以上30〜100重量部、他のジエン系ゴム0〜70重量部からなり、そのトータル結合スチレン含量が15〜45%であるゴム成分に、下記特性(省略)を有するカーボンブラツクを配合したゴム組成物より得られるトレツドを使用したことを特徴とする乗用車用タイヤ。」(特許請求の範囲)
t、刊行物20
「耐摩耗ゴム材料はダンプトラック、ホイールローダのタイヤとして、最近ではミニパワーショベル、ブルドーザの履帯として使用され、ますます用途が広がりつつある。」(第155頁、「1.まえがき」の1〜2行)
u、刊行物21
第6欄58行〜第7欄19行には、耐裂け成長性を改良したゴム組成物が記載され、このゴム組成物を、自動車用タイヤ及びゴム・クローラに適用することが記載されている。
v、刊行物22
科学技術文献速報に基づいた文献の抄録のKW(キーワード)の欄に、履帯とタイヤが併記されている。
w、刊行物23
第68頁に、東海カーボン株式会社のカーボンブラックのSAFの算術平均粒子径が19mμと記載されている。
x、刊行物24
第70頁に、三菱化成株式会社のカーボンブラックのSAFの平均粒子径が19mμと記載されている。
y、刊行物25
第74頁に、新日鐵化学株式会社のカーボンブラックのISAFの算術平均粒子径が23nmと記載されている。
z、刊行物26
第55頁の「B表 カーボンブラックの品種の分類」には、ゴム用カーボンブラックとして、ASTMコード「N100」の一般呼称が「SAF」と記載され、粒子径が11〜19nm、「N200」が「ISAF」と記載され、粒子径が20〜25nm、「N300」が「HAF」と記載され、粒子径が26〜30nmと記載されている。
z-1、刊行物27
「キャツプ・トレツドにスチレン・ブタジエン共重合体ゴムを70重量部以上と補強剤とを含有させてなり、前記スチレン・ブタジエン共重合体ゴムのうち20重量部以上が、下記式(省略)で示される原子団の少なくとも1個を炭素-炭素結合で分子鎖に結合させたスチレン・ブタジエン共重合体ゴムであり、前記補強剤としてI2吸着量70〜130mg/gのカーボンブラツクを原料ゴム100重量部に対して45〜70重量部含有させたことを特徴とする重荷重車両用空気入りタイヤ。」(特許請求の範囲)
z-2、刊行物28
「【請求項1】 天然ゴム、合成ゴム又はこれらの混合ゴムからなるゴム 100重量部に対し、カーボンブラック30〜100 重量部を配合すると共に、スチレンブタジエン共重合体にカーボンブラックを混合してなるマスターバッチスチレンブタジエン共重合体を配合したことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】 ゴム 100重量部に対して、マスターバッチスチレンブタジエン共重合体2〜30重量部を配合したことを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】 マスターバッチスチレンブタジエン共重合体が、スチレンブタジエン共重合体 100重量部に対して、カーボンブラック30〜200 重量部を含有してなることを特徴とする請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】 スチレンブタジエン共重合体が、結合スチレン量の多いハイスチレンポリマーとこれより結合スチレン量の少ないベースポリマーとよりなることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】 スチレンブタジエン共重合体が、ハイスチレンポリマーを少なくとも30重量%含有してなることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】 ハイスチレンポリマーが、結合スチレン量65〜98%であることを特徴とする請求項4または5記載のゴム組成物。
【請求項7】 ベースポリマーが、結合スチレン量10〜35%であることを特徴とする請求項4記載のゴム組成物。」(特許請求の範囲)
「【発明の効果】本発明によると、予めスチレンブタジエン共重合体にカーボンブラックをマスターバッチして、配合時、加硫時の粘度を低下させることにより、作業性、省エネルギー化を向上させると共に、高弾性化と耐破壊性を両立させて、加硫ゴムの機械的強度を高めることができる。また、このゴム組成物はタイヤのトレッドゴム等として極めて有用である。」(段落【0020】)
z-3、参考資料1
第63頁に、ASTM番号N-220(ISAF)の幾何平均粒子径が22nmと記載されている。
z-4、参考資料2
第57頁に、刊行物26と同一内容のものが記載されている。
エ、対比・判断
本件発明とゴム組成物の組成において近似する刊行物15に記載された発明とを対比する。
刊行物15の比較例6には、結合スチレン量が23重量%のSBR137.5重量部、結合スチレン量が55重量%のハイスチレン樹脂10重量部及びカーボンブラック(N220)85重量部を含有するゴム組成物が記載され、カーボンブラックのN220は、参考資料1によれば、ISAF級で、平均粒径が22nmとあると記載されている。
そうすると、両者は、スチレンコンテントが20%以上50%未満、ブタジエンコンテントが50%以上80%未満のSBRのゴム組成物に、補強剤として、粒子径が35μm以下のカーボンブラック(HAF級以上)を加え、且つゴム組成物100重量部の内の一部をハイスチレンポリマーに置換使用したゴム組成物である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
相違点1:本件発明では、ハイスチレンポリマーのスチレンコンテントが67%以上とするのに対し、刊行物15では、スチレンコンテントが55%である点、
相違点2:本件発明では、SBR60〜100重量部、カーボンブラック60〜80重量部及びハイスチレンポリマーが、SBRを含むゴム組成物100重量部の内、20〜30重量部とするのに対し、刊行物15では、SBR137.5(重量)部、カーボンブラック10(重量)部及びハイスチレンポリマー10(重量)部としている点、
相違点3:本件発明では、加硫ゴムの動的損失率E”が71.2kg/cm2 以上であるとするのに対し、刊行物15には、加硫ゴムの動的損失率E”についての記載がない点、
相違点4:本件発明では、ゴム組成物を履帯に用いるとするのに対し、刊行物15では、タイヤ用である点。
そこで、上記相違点1、2及び4について検討する。
刊行物1、2、5、12〜15、17〜19及び27は、タイヤ用のゴム組成物が記載されているが、スチレンコンテントが67%以上のハイスチレンポリマーを加えることについての記載はなく、同じく刊行物6〜11、16、20〜22には、ゴムクローラあるいは履帯用のゴム組成物が記載されているが、ハイスチレンポリマーを加えることの記載はなく、また、刊行物3、4、23〜26及び参考資料1、2にはカーボンブラックあるいはSBRゴムについての記載があるものの、ハイスチレンポリマーを加えたゴム組成物の記載は認められない。
また、刊行物28には、結合スチレン量が65〜98%のハイスチレンポリマーが記載されているが、そのハイスチレンポリマーは、ゴム100重量部に対してマスターバッチスチレンブタジエン共重合体2〜30重量部配合するゴム組成物におけるマスターバッチの成分のひとつとして使用されるものであり、ゴム組成物中のSBR及びハイスチレンポリマーの量が本件発明と相違し、また、ゴム組成物がタイヤ用との記載はあるものの、履帯ゴムとすることの記載は認められない。
そうすると、刊行物15を含めた刊行物1〜27にはスチレンコンテント67%以上のハイスチレンポリマーの記載はなく、スチレンコンテント67%以上のハイスチレンポリマーが記載された刊行物28を組み合わせても、SBR60重量部以上のゴム組成物100重量部の内、スチレンコンテント67%以上のハイスチレンポリマーを20〜30重量部を含む履帯ゴム組成物とすることは当業者が容易になし得たものとすることはできない。
そして、スチレンコンテントが67%以上のハイスチレンポリマーを20〜30重量部とすることにより、本件発明は、加工性が良く、耐久性に優れる履帯ゴム組成物が得られるという明細書記載の作用効果を奏するものと認められる。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明は、刊行物1〜28に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、本件各特許異議申立人の提出した証拠方法によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
履帯ゴム組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)スチレンコンテントが20%以上50%未満、ブタジエンコンテントが50%以上80%未満のSBR60重量部〜100重量部と、その他のジエン系ポリマー0重量部〜40重量部をブレンドしたゴム組成物100重量部に対して、(2)補強剤として、粒子径が35μm以下のカーボンブラック(HAF級以上)を60〜80重量部を加え、(3)且つ上記(1)記載のブレンドしたゴム組成物100重量部の内、20〜30重量部を上限度としてスチレンコンテント67%以上のハイスチレンポリマーに置換使用した、加硫ゴムの動的損失率E”が71.2kg/cm2以上であることを特徴とする履帯ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、建設機械、土木作業機械、或は農業機械等に用いられる、主としてゴム等の弾性材料からなる履帯ゴムシューに関する。
【0002】
【従来の技術】
履帯シューを備えた建設機械や土木作業機械等は、従来は、主として不整地での走行に供されていたため、これを用いる履帯シューは、金属製のものが殆どであった。しかるに、近年になって都市内や繁華街等での諸工事にも、これらの機械類が広く使用されるようになり、この為従来のような金属製の履帯シューを用いた場合は、舗装路面を傷つける等といった欠点があった。又走行時に機械操縦者の受ける振動等の負担も大きく、更には走行時の騒音発生といった問題を惹起した。これらの問題点を解消させるべく、最近のこれらの機械類の履帯は、履帯の全面又は一部を加硫ゴムで覆った、いわゆる履帯ゴムシューが好んで用いられるようになった。
【0003】
これら履帯ゴムシューを装着した建設機械や土木作業機械等は、通常過酷な条件下で使用されることが多い為、履帯ゴムシューは、常に高荷重の負荷を受け、特に鋭利な岩石や縁石等との接触や衝突、或は摩擦等によってゴム部にカッティングが著しく生じ、ゴム部に欠けや割れが生じて耐久寿命が早まるという欠点があり、更に近年、益々このような機械の大型化が進む現在、この履帯用ゴムシューは、より高い耐久性能が要求されている。
【0004】
しかしながら、この耐カット性を向上させるためには、通常、天然ゴム、スチレン-ブタジエン(SBR)等の最適なジエン系ポリマーの選択、及びカーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤を多量に配合する方法、さらにはジシクロペンタジエンを主体とする石油系樹脂を補強剤として添加する方法等が提唱されている。しかしながら、いずれの方法も十分に満足させ得る耐久性能の優れたゴム組成物は得られていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記履帯ゴムシューなどに使用される耐久性、耐カット性の優れた履帯ゴム組成物を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
履帯ゴムシューのゴム部(トレッド部)と岩石との接触や衝突あるいは、摩擦等によって生じるゴム部の欠けや割れの程度を評価する方法として悪路走行耐久試験や衝撃カット試験が有用である。本発明者らは、各種数多くのゴム配合組成物を作成して、上記評価試験を通じて鋭意検討を進めた結果、耐カット性及び耐久性と各種ゴム配合組成物の加硫ゴムのE”(E’×tanδ)値との間に相関関係があることを見いだした。即ち、E”の値が大きくなるにつれ、耐カット性及び耐久性が優れることを見出した。図1及び図2に、E”と耐カット性及びE”と耐久テスト(欠損体積)との関係グラフを示す。
【0007】
ここで、E’は履帯ゴムシューのラグ部が走行時、岩石から受ける衝撃(所謂圧壞特性)に、どの程度耐え得るかの指標となる。また、tanδは履帯ゴムシューのラグ部が走行時、岩石から受ける衝撃エネルギーをどの程度ゴムが吸収するかの指標となる。尚、上記E”は動的性質における次の関係式から得られる値である。
E”=E’×tanδ
E”:動的損失率(kg/cm2)
E’:動的弾性率(kg/cm2)
tanδ:損失正接
【0008】
そこで、E”(E’×tanδ)の値を大きくするための配合処方を鋭意検討した。先ずE’をアップさせるには、通常カーボンブラック(グレード、量)、ハイスチレンポリマー、或は樹脂ブレンド、カットファイバー等が効果があり、又tanδをアップさせるには、石油系の樹脂若しくは天然の樹脂をブレンドすることで対応可能であるが、いずれも混練作業性(加工性)が悪く、なお満足する効果が得られない、コストが高い等の問題を有する場合が多い。
【0009】
こうした状況の下で、本発明らは種々検討の結果、請求項1において(1)SBR60重量部〜100重量部とその他のジエン系ポリマー0重量部、好ましくは5重量部〜40重量部をブレンドしたゴム組成物100重量部に対して、(2)補強剤として、粒子径が35μm以下のカーボンブラック(HAF級以上)を60〜80重量部添加し、(3)且つ上記(1)記載のブレンドしたゴム組成物100重量部の内、20〜30重量部を上限度としてハイスチレンポリマーに置換使用することを特徴とする履帯ゴム組成物であり、上記通常のSBRはスチレンコンテントが20%以上50%未満で、ブタジエンコンテントが50%以上80%未満ものであるものを使用することが好適であり、又、上記ハイスチレンポリマーがスチレンコンテント67%以上のものを使用することを特徴とした履帯ゴム組成物である。更に、上記組成物からなる加硫ゴムの動的損失率E”が71.2kg/cm2以上であることを特徴とする履帯ゴム組成物である。
【0010】
先ず、本発明で使用するSBRは、乳化重合タイプと溶液重合タイプがあるが、そのどちらでも使用が可能である。
【0011】
一方、上記SBRにブレンドするジエン系ポリマーとしては、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、NBR、イソプレンゴム等及びこれらの混合物が好適に用いられる。
【0012】
又、ハイスチレンポリマーは、スチレンコンテントが67%以上のポリマーのものであり、該ポリマーとしては特に限定されないが、好ましくはハイスチレンSBRが好適に用いられる。また、その配合量は、上記請求項1に記載の(1)ブレンドしたゴム組成物100重量部の内、(3)20〜30重量部を上限としてハイスチレンポリマーに置換使用することがE”向上のために好適である。ハイスチレンポリマーの置換部数が20重量部未満の置換では、E’(E”)を明らかに向上させる効果が少なく、耐カット性の改善効果が小さい。また30重量部を越えて上記ブレンドしたゴム組成物100重量部の内置換使用した場合は、混練り作業が著しく低下すると共に、引張強度も低下する。
【0013】
【作用】上記スチレンコンテント67%以上のハイスチレンポリマーが本発明において使用されたのは、通常使用温度付近でtanδが高く、かつ、高弾性率の配合が得られ、E”が大きいからである。
【0014】
補強剤としては上記の如く粒子径が35μm以下の微細なカーボンブラックが望ましく、それ以上大きい粒子径を有するカーボンブラックでは補強性に難がある。又カーボン量は、請求項1(1)に記載のブレンドしたゴム100重量部に対し、50〜100重量部の範囲が望ましく、より好ましくは60〜80重量部が好適である。50重量部ゴム以下ではゴム補強性が弱く又カット性も劣る。又100重量部以上では混練作業性が著しく困難である。又、E’(E”)を向上させる手段として、カーボンブラックの他、カーボンとシリカ、或はナイロン、ケブラー、ビニロン等のカットファイバー、ポリプロピレン等の樹脂を併用することも出来るが、本発明で使用するハイスチレンポリマーを採用した方が、より容易にE”を向上させる効果が大きい。
【0015】
尚、本発明のゴム組成物においては加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、粘着付与剤等が適宜配合される。また本発明のゴム組成物は、上記成分を通常の加工装置、例えばロール、バンバリーミキサー、ニーダー等により混練りすることにより得られる。
【0016】
【実施例】
以下に本発明の詳細を多くの実施例を示して説明するが、勿論本実施例に限定されるものではない。本発明において、多くの実験を行い、その結果に基づいて各請求項に示すような本発明に至ったが、以下の表1にそれぞれ耐カット性、耐久性向上の目的に向かって行った実施例、比較例の処方及びそれらの評価(特に耐カット性)結果を示す。
【0017】
【表1】

【0018】
尚、本発明に際して各実施例、比較例の各試料の作成方法及び評価方法については下記の如くに行った。
(1)試料の作成。
FARREL型ラボバンバリーにて、ノンプロゴムは、ポリマー、カーボン、ステアリン酸、老化防止剤等を混合し、2分間練った。プロゴムは、ノンプロゴムに硫黄、加硫促進剤、亜鉛華を混合し1分間練った。
得られた練りゴムを用いて、通常の加硫を行い試料を作成し、そして下記のような各種評価試験を行った。
(2)評価の方法。
(ア)TB(引張強度)
JIS K6301に準じて、25℃にて引張破断強度を測定した。
(イ)動特性
東洋精機製レオグラフ「ソリッドL-1R」を用いて動的剪断歪み振幅2.0%、振動15Hz、及び測定温度25℃にて測定した。
(ウ)耐カット性
15kgの重りに、角度60度の刃を取り付け、厚さ30mmの加硫したゴム組成物上に一定距離より自然落下、衝突させその時の傷の深さを求め、これを次式に従い指数で評価した。
【数1】

この値が大きいほど耐カット性が良い。
(エ)悪路走行耐久試験
弊社悪路走行耐久試験場で、1サイクル10時間の走行試験を10サイクル(100時間)実施した後、ゴムの欠損体積(長さ×幅×深さを1mm単位で求めた)及びカット傷のみでまだ欠損に至っていない場合は、カット傷の長さ×深さを測定し、幅を1mmとして欠損体積(mm3)とした。
【0019】
【発明の効果】
本発明は、上記の如く、(1)スチレンコンテントが20%以上50%未満、ブタジエンコンテントが50%以上80%未満のSBR60〜100重量部とその他のジエン系ポリマー0〜40重量部をブレンドしたゴム100重量部に対して、(2)補強剤として、粒子径が35μm以下のカーボンブラック(HAF級以上)を60〜80重量部を加え、(3)且つ上記(1)記載のブレンドしたゴム組成物100重量部の内、20〜30重量部を上限度としてハイスチレンポリマー(スチレンコンテントが67%以上)を置換使用したことを特徴とする履帯ゴム組成物であり、同ゴム組成物の加硫ゴムの動的損失率E”が71.2kg/cm2以上であることを特徴とする履帯ゴム組成物としたことで、従来に比して、耐カット性に優れたゴム組成物を得ることができた。尚、本ゴム組成物は、履帯シューのみならず、履帯ゴムシューと同じ特性が要求される弾性ゴムクローラ等にも適用されることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】各種ゴム組成物の加硫ゴムにおけるE”/耐カット性の関係グラフ。
【図2】各種ゴム組成物の加硫ゴムにおけるE”/耐久性との関係グラフ。
【図3】履帯ゴムシューの概略正面図を示す一例図である。
【図4】履帯ゴムシューの概略平面図を示す一例図である。
【符号の説明】
1 ゴム
2 芯金
3 建機本体への取り付け孔
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-10-06 
出願番号 特願平7-40979
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 大熊 幸治
佐野 整博
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3329615号(P3329615)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 履帯ゴム組成物  
代理人 大谷 保  
代理人 中野 収二  
代理人 大谷 保  

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