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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1128941 |
異議申立番号 | 異議2003-73542 |
総通号数 | 74 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-05-20 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-26 |
確定日 | 2005-10-14 |
異議申立件数 | 3 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3457477号「静電チャック」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3457477号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第3457477号の請求項1ないし8に係る発明についての出願は、平成8年8月20日(優先権主張平成7年9月6日)に特許出願され、平成15年8月1日にその特許権の設定の登録がされ、その後、特許異議申立人茂木治美及び京セラ株式会社により請求項1ないし8に係る特許について、また、村上慶子により請求項1ないし5に係る特許について特許異議の申立てがなされ、平成15年4月26日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成17年7月8日に意見書の提出及び訂正請求がなされたものである。 第2 訂正の適否 1.訂正請求の内容 (1)訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1に記載の 「【請求項1】 被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と前記絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、前記電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記基体と前記絶縁性誘電体層の材質が窒化アルミニウムであり、常温における前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×109 Ωcm以上、1×1016Ωcm以下であり、使用温度が常温以上、500℃以下の範囲内にあり、前記使用温度において前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×107 Ωcm以上、1×1013Ωcm以下、前記絶縁性誘電層の平均厚さが0.5mm以上、5.0mm以下、単位面積あたりの漏れ電流が0.027mA/cm2 以下、前記絶縁性誘電層の表面粗さの最大高さRmaxが3μm以下、気孔率が3%以下であることを特徴とする、静電チャック。」を、 「【請求項1】 被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と前記絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、前記電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記基体と前記絶縁性誘電体層の材質が窒化アルミニウムであり、常温における前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×109 Ωcm以上、1×1016Ωcm以下であり、使用温度が常温以上、500℃以下の範囲内にあり、前記使用温度において前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×107 Ωcm以上、1×1013Ωcm以下、前記絶縁性誘電層の平均厚さが0.5mm以上、5.0mm以下、単位面積あたりの漏れ電流が0.00067mA/cm2 以上、0.027mA/cm2 以下、前記絶縁性誘電層の表面粗さの最大高さRmaxが3μm以下、気孔率が3%以下であることを特徴とする、静電チャック。」と訂正する。 (2)訂正事項b 特許請求の範囲の請求項5に記載の 「【請求項5】 前記絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも前記絶縁性誘電層に形成されており、この絶縁性誘電層の前記吸着面側にガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、前記ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔が500μm以上、5.0mm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の静電チャック。」を、 「【請求項5】 前記絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも前記絶縁性誘電層に形成されており、この絶縁性誘電層の前記吸着面側に放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、前記ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔が500μm以上、5.0mm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の静電チャック。」と訂正する。 (3)訂正事項c 特許請求の範囲の請求項6の記載の 「【請求項6】 被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と前記絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、前記電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも前記絶縁性誘電層に形成されており、前記絶縁性誘電層の前記吸着面側に台状部およびこの台状部上の突起が形成されており、前記台状部によってガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、前記ガス分散用凹部の深さが100μm以上、5.0mm以下であることを特徴とする、静電チャック。」を、 「【請求項6】 被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と前記絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、前記電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも前記絶縁性誘電層に形成されており、前記絶縁性誘電層の前記吸着面側に台状部およびこの台状部上の突起が多数形成されており、前記台状部によって放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、前記ガス分散用凹部の前記吸着面からの深さが100μm以上、5.0mm以下であり、前記突起の高さが前記ガス分散用凹部の深さよりも低いことを特徴とする、静電チャック。」と訂正する。 (4)訂正事項d 特許請求の範囲の請求項7の記載の 「【請求項7】 前記吸着面側から平面的に見て、前記ガス分散用凹部と前記基体との間に前記電極が存在していることを特徴とする、請求項6記載の静電チャック。」を、 「【請求項7】 前記吸着面側から平面的に見て、前記ガス分散用凹部の底面と前記基体との間に前記電極が存在していることを特徴とする、請求項6記載の静電チャック。」と訂正する。 (5)訂正事項e 特許明細書の段落【0015】の記載の 「単位面積あたりの漏れ電流が0.027mA/cm2 以下」を、 「単位面積あたりの漏れ電流が0.00067mA/cm2 以上、0.027mA/cm2 以下」と訂正する。 (6)訂正事項f 特許明細書の段落【0016】の記載の 「突起が形成されており、台状部によってガス分散用凹部が形成されており、ガス分散用凹部がガス導入孔に連通しており、ガス分散用凹部の深さが100μm以上、5.0mm以下である」を、 「突起が多数形成されており、台状部によって放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、ガス分散用凹部がガス導入孔に連通しており、ガス分散用凹部の吸着面からの深さが100μm以上、5.0mm以下であり、突起の高さがガス分散用凹部の深さよりも低い」と訂正する。 なお、下線は訂正箇所を明示するために付されたものである。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無および拡張・変更の存否 (1)訂正事項aについて この訂正は、特許請求の範囲の請求項1において、「単位面積あたりの漏れ電流が0.027mA/cm2 以下」の「漏れ電流」の下限値について、「0.00067mA/cm2 以上」と規定して限定することから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、この訂正は、特許明細書の段落【0074】の表3における「絶縁性誘電層の厚さが請求項1に記載の上限値5.0mmのときの8インチサイズ漏れ電流が0.2mA」、及び段落【0073】の「・・・半導体ウエハーの面積は、8インチの場合、約300cm2 である・・・」という記載に基づいて、漏れ電流0.2mAを半導体ウエハーの面積300cm2 で除算することにより求められるものである。 したがって、漏れ電流の下限値が0.00067mA/cm2 であることは、特許明細書の記載から自明な事項であるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項bについて この訂正は、特許請求の範囲の請求項5において、「ガス分散用の凹部」について「放射状に延びる」と、その形成状態を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、この訂正は、特許明細書の段落【0062】及び図7の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項cについて この訂正は、特許請求の範囲の請求項6において、「突起」の数について「多数(形成され)」と、「ガス分散用凹部」について「放射状に延びる」と、その形成状態を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、この訂正は、特許明細書の段落【0061】、段落【0062】及び図6,7の記載に基づくものであり、また、「ガス分散用凹部の深さ」及び「突起の高さ」について、それぞれ、「吸着面からの」及び「ガス分散用凹部の深さよりも低い」ことを明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、この訂正は、明細書の段落【0033】、段落【0084】及び図6の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項dについて この訂正は、特許請求の範囲の請求項7において、「電極」の存在位置について、「ガス分散用凹部の底面と基体との間」であることを明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、この訂正は、特許明細書の段落【0034】及び図6の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (5)訂正事項e及びfについて これらの訂正は、訂正事項a及びcによる特許請求の範囲の請求項1及び6の訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載をこれに整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、前記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項において準用する特許法第126条第2項から第3項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.当審の通知した取消しの理由の概要 前記取消しの理由は、刊行物1(特開平5-36819号公報:特許異議申立人茂木治美の提出した甲第4号証、同京セラ株式会社の提出した甲第2号証及び同村上慶子の提出した甲第3号証)、刊行物2(特開平5-8140号公報:同茂木治美の提出した甲第6号証及び同村上慶子の提出した甲第5号証)、刊行物3(特開平6-177231号公報:同茂木治美の提出した甲第5号証及び同京セラ株式会社の提出した甲第1号証)、刊行物4(特開平7-226431号公報:同村上慶子の提出した甲第1号証)、刊行物5(特開平4-304942号公報:同茂木治美の提出した甲第1号証)、刊行物6(特開平5-267436号公報:同茂木治美の提出した甲第9号証)、刊行物7(実願平1-29637号(実開平2-120831号)のマイクロフィルム:同茂木治美の提出した甲第10号証)、刊行物8(特開平7-153825号公報:同茂木治美の提出した甲第11号証及び同村上慶子の提出した甲第4号証)、刊行物9(特開平7-86382号公報:同京セラ株式会社の提出した甲第4号証)、刊行物10(特開平4-304941号公報:同茂木治美の提出した甲第7号証)及び刊行物11(特開平2-160444号公報:本件特許明細書に記載の従来技術)を引用し、本件請求項1ないし5に係る発明は、前記刊行物1〜5、7、8、10、11に記載された発明に基づいて、本件請求項6ないし8に係る発明は、刊行物5〜9に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、 また、本件請求項1ないし5、並びに6ないし8に係る発明は、その記載が不備であるから、それぞれ特許法第36条第4項、並びに特許法第36条第4項及び同条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、特許を取り消すべきというものである。 2.本件発明 本件の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と前記絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、前記電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記基体と前記絶縁性誘電体層の材質が窒化アルミニウムであり、常温における前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×109 Ωcm以上、1×1016Ωcm以下であり、使用温度が常温以上、500℃以下の範囲内にあり、前記使用温度において前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×107 Ωcm以上、1×1013Ωcm以下、前記絶縁性誘電層の平均厚さが0.5mm以上、5.0mm以下、単位面積あたりの漏れ電流が0.00067mA/cm2 以上、0.027mA/cm2 以下、前記絶縁性誘電層の表面粗さの最大高さRmaxが3μm以下、気孔率が3%以下であることを特徴とする、静電チャック。 【請求項2】 前記基体が緻密質セラミックスからなり、前記電極が面状の金属バルク体からなり、前記基体、前記絶縁性誘電層および前記電極が一体に焼結されていることを特徴とする、請求項1記載の静電チャック。 【請求項3】 前記基体中に抵抗発熱体が埋設されていることを特徴とする、請求項1または2記載の静電チャック。 【請求項4】 前記被処理物上にプラズマを発生させるための高周波電力を前記電極に供給する、高周波電源を備えていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の静電チャック。 【請求項5】 前記絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも前記絶縁性誘電層に形成されており、この絶縁性誘電層の前記吸着面側に放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、前記ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔が500μm以上、5.0mm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の静電チャック。 【請求項6】 被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と前記絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、前記電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも前記絶縁性誘電層に形成されており、前記絶縁性誘電層の前記吸着面側に台状部およびこの台状部上の突起が多数形成されており、前記台状部によって放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、前記ガス分散用凹部の前記吸着面からの深さが100μm以上、5.0mm以下であり、前記突起の高さが前記ガス分散用凹部の深さよりも低いことを特徴とする、静電チャック。 【請求項7】 前記吸着面側から平面的に見て、前記ガス分散用凹部の底面と前記基体との間に前記電極が存在していることを特徴とする、請求項6記載の静電チャック。 【請求項8】 前記ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔が500μm以上、5.0mm以下であることを特徴とする、請求項6または7記載の静電チャック。」 3.引用刊行物記載の発明(事項) 当審が通知した取消しの理由に引用した刊行物1〜5、7〜11には、次の事項が記載されている。 (1)刊行物1 a.「【請求項1】窒化珪素、窒化アルミニウムなどの窒化物を主成分とするセラミック板状体に内部電極を備えるとともに、該セラミック板状体の表面に物体を吸着するための吸着面を形成してなる静電チャック。」(第1欄第2〜5行) b.「【作用】本発明によれば、静電チャックを構成する母材および絶縁膜が窒化アルミニウム、窒化珪素などの窒化物セラミックスから成るため、漏れ電流が極めて小さく、かつ機械的強度に優れているため、上記したセラミック製静電チャックの課題を解決することが可能である。」(第2欄第14〜19行) c.「さらに、上記セラミック板状体1の吸着面1aは、表面粗さ(Rmax)0.8s以下の滑らかな面としてあり、そのため、優れた吸着力を得ることができる。 また、本発明の静電チャックは、セラミック板状体1中の微小な漏れ電流によるジョンソン・ラーベック力によって吸着力を得るものであり、適正な吸着力を得るためには、セラミック板状体1の体積固有抵抗値が重要となる。そこで、この点に関し種々実験の結果、セラミック板状体1の体積固有抵抗が1011Ω・cmより小さいと、漏れ電流が大きすぎてシリコンウェハに形成した回路を破壊する恐れがあり、逆に体積固有抵抗が1015Ω・cmより大きいと必要な吸着力を得ることができなかった。したがって、セラミック板状体1の体積固有抵抗値は1011〜1015Ω・cm、好ましくは1012〜1014Ω・cmとしたものが良く、この範囲内のものは漏れ電流が小さく、かつ実用上充分な吸着力を有していた。例えば図3に3種類の体積固有抵抗値を持った材質からなる静電チャックの、印加電圧と吸着力の関係を示すように、体積固有抵抗値1012〜1014Ω・cmのものは実用上充分な吸着力を得ることができた。 さらに、本発明のセラミック板状体1を上記体積固有抵抗値とするためには、窒化珪素質セラミックスあるいは窒化アルミニウム質セラミックス単体でもよいが、さらに炭素(C)などの導電性物質を添加して、体積固有抵抗値を好適な範囲に調整することができる。」(第3欄第7〜33行) d.「そして、これらのセラミック原料をテープ成形法、乾式プレス成形法、静水圧プレス成形法等により板状に成形し、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などからなる内部電極2を形成した後、板状成形体を積層して一体焼成することにより、内部電極2を有するセラミック板状体1を得ることができる。また、上記シート状セラミック成形体を焼成した後、Ti基合金からなる活性金属を用いて接合し、この活性金属層を内部電極2とすることも可能である。さらに、この内部電極2は必ずしもセラミック板状体1中に埋設する必要はなく、図示していないが、セラミック板状体1の吸着面1aと反対側の面に内部電極2を形成し、この上に接合剤3を介してベース板4を固定することも可能である。」(第3欄第34行〜第4欄第7行) e.「セラミック板状体1として、99.5重量%のAlNと、0.5重量%のCからなるセラミック原料を乾式プレスで板状に成形し、この板状成形体上にAg-Pdによって内部電極2を形成し、他の板状成形体を積層して焼成一体化した(実施例3)。」(第4欄第21〜25行) f.「いずれも、大きさは直径150mmで、内部電極2と吸着面1aの距離は300μmとし、吸着面1aはラップ加工して、表面粗さ(Ra)0.2μmとした。」(第4欄第29〜32行) g.「HIPにより作成されたもの(実施例2)の方が吸着力が高かった。これはHIPにより、セラミック板状体1の表面及び内部に介在するポアが消滅し、静電チャックと被吸着物6との接触面積が増えているためであると考えられる。」(第5欄第8〜12行) h.「実験例2 次に、上記実施例2、3および比較例の静電チャックについて、窒素雰囲気中での吸着力を調べる試験を行った。条件は、印加電圧1kV、真空度10-2torr、温度150℃とした。それぞれ、窒素濃度と吸着力の関係を図5に示す。」(第5欄第13行〜第6欄第1行) i.「これに対し、窒化物セラミックスを用いた実施例2、3ではそのようなことがなく、安定した吸着力を示していた。 さらに、上記実施例2、3の静電チャックを単極で動作させて、被測定物6と内部電極2間を流れる電流を測定してみたところ、この漏れ電流は数十〜数μAの電流値であり問題とされるレベルではないことが確認された。」(第6欄第6〜13行) j.「また、窒化物セラミックスとして窒化アルミニウムを用いれば、放熱性に優れることから、エッチャー装置等に使用される静電チャックとして好適に用いられる。」(第7欄第19〜22行及び表1) 前記摘記事項a〜j及び表1の記載からみて、刊行物1には、「被吸着物6を吸着するための静電チャックであって、母材と、絶縁膜と、前記母材と前記絶縁膜との間に形成されている内部電極2とを備えており、前記内部電極2上に前記絶縁膜を介して前記被吸着物6を吸着するように構成されており、前記母材と前記絶縁膜の材質が窒化アルミニウムであり、前記絶縁膜の体積固有抵抗値が1×1011Ωcm以上、1×1015Ωcm以下、好ましくは1×1012Ωcm以上、1×1014Ωcm以下であり、前記絶縁膜の表面粗さ(Rmax)0.8s(μm)以下、前記絶縁膜の大きさは直径150mmで、内部電極2と吸着面1aの距離は300μmとし、表面粗さ(Ra)0.2μmとし、漏れ電流は数十〜数μAであり、 前記母材が緻密質セラミックスからなり、前記内部電極2を銀、パラジウム、白金などから形成し、前記基体、前記絶縁膜および前記内部電極2が一体に焼結されている静電チャック。」の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 (2)刊行物2 a.「図中1は膜状電極であり、円盤状セラミックス基体4の一方の主面4aに形成されている。そして、この膜状電極1を覆うように、円盤状セラミックス基体4の一方の主面4a上に、窒化珪素からなる絶縁性誘電層2が形成され、一体化されている。」(第3欄第1〜5行) b.「静電チャックにおいて大きな吸着力を得るには、ある程度誘電層の抵抗が低いことが条件となり、具体的には体積抵抗率が1010〜1012Ω・cm程度が最適とされている。 本実施例の絶縁性誘電層は窒化珪素から構成されているので、例えば熱CVD装置等の半導体製造装置に使用することができる。すなわち、熱CVD装置では、絶縁性誘電層は最大600℃にも加熱されるが、この温度に加熱されても窒化珪素で構成された絶縁性誘電層2の体積抵抗率は1010Ω・cmであり、静電的に吸着力を得るに好適な値に留まるからである。さらに、本実施例では絶縁性誘電層2として、気孔率が3%以下、最大気孔の気孔径が5μm以下の窒化珪素を用いていることから、600℃の高温でも、絶縁性誘電層2の絶縁耐圧が高いため、ウエハー等を吸着するに必要な直流電圧の印加が可能となり、十分な吸着力が得られる。絶縁性誘電層2に上記の窒化珪素を用いた本実施例では、誘電層2の膜厚を300μmとし、温度600度としたとき、印加直流電圧1000Vに対し1000g/cm2 の吸着力が得られた。」(第3欄第18〜37行) c.「高温、例えば600℃において、体積抵抗率が1010〜1012Ω・cm、比誘電率が窒化珪素と同等であれば、他の誘電性材料を使用できるものであることは、上記の説明から容易に推察されるところである。窒化珪素以外の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、ベリリア、マグネシア、スピネル、純度97%以上のアルミナ等を挙げることができる。・・・。 なお、本実施例では絶縁性誘電層の材料について示したが、図1に示すセラミックス基体4を上記絶縁性誘電層と同一の材料で構成することもできる。この場合は、絶縁性誘電層とセラミックス基体の熱膨脹が一致し、両者を一体に成形することが可能であるから、より好適である。」(第4欄第23〜38行) d.「円盤状のセラミックス基体4の内部に抵抗発熱体10が埋設されている。」(第5欄第44〜45行) 前記摘記事項a〜cから、刊行物2には、 「静電チャックにおける絶縁性誘電層が窒化珪素からなり、その体積抵抗率が600℃において1010〜1012Ωcm、また、絶縁性誘電層として窒化アルミニウムが使用できること」という技術的事項が記載されていると認める。 (3)刊行物3 a.「実験例1 本発明の静電チャックは微少な漏れ電流によって吸着力を得るものであり、適正な吸着力を得るためには体積固有抵抗が重要になってくる。そこで常温における体積固有抵抗が1014Ωcm以上のアルミナをセラミック体1として用い、図2に示すヒータ5を内蔵した単極型の静電チャックを作製して、10-1Torrの真空中において静電チャックの静電電極2と被吸着物3間に300Vの電圧4を印加し、昇温しながら被吸着物3を垂直に剥すことにより吸着力の測定を行った。」(第5欄第21〜30行) (4)刊行物4 a.「本発明の静電チャックは、少なくとも室温〜600℃における体積固有抵抗が1×108 〜1×1013Ω-cmの窒化アルミニウムを主体とする絶縁層により表面を形成することにより、安定した吸着力を有し、かつ印加電圧を切ったときには残留吸着力がなく、静電チャックとして良好な特性を示した。」(第2欄第27〜32行) b.「図1によれば、静電チャックは、絶縁体からなる基体1と、その基体1表面に形成された電極2および絶縁層3により構成される。絶縁層3は、少なくともシリコンウエハ4の載置面、あるいは半導体製造装置内に露出している基体面全体に形成される。なお、基体1内にヒータを内蔵させても何ら差し支えない。 本発明において、絶縁層3は、窒化アルミニウムからなり、しかも室温〜600℃における体積固有抵抗が1×108 〜1×1013Ω-cm、好ましくは1×109 〜1×1012Ω-cmの範囲にあるような特性を有するものであることが重要である。これは、絶縁層の体積固有抵抗が1×108 Ω-cmより小さいとリーク電流が大きくなり、1×1013Ω-cmより大きいと残留吸着力が発生するという問題が生じるためである。このうち、漏れ電流や耐電圧、応答性を考慮すれば1×1010〜5×1011Ω-cmが最も好ましい。更に安定した動作を行なうためには体積固有抵抗の変化が室温〜600℃の温度範囲において3桁以内、好ましくは2桁以内が良い。」(第2欄第34行〜第3欄第2行) (5)刊行物5 a.「【0005】 【発明が解決しようとする課題】したがって、この静電チャックについてはその残留静電力を低下させる目的において、絶縁性誘電体層の材質に酸化すず、酸化チタン、チタン酸鉛などの低抵抗な遷移金属を添加するという方法も提案されている(特開昭62-94953号公報参照)が、この場合には耐電圧が著しく低下するし、静電力を得るために電圧を印加すると、絶縁破壊による放電やチャック表面に流れるリーク電流によってデバイス機能にダメージが与えられるという不利が生じる。」(第2欄第4〜12行) b.「また、この静電チャック基板を構成する絶縁性誘電体層はアルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、石英、窒化ほう素、サイアロンあるいはこれらの混合物からなるセラミックスの焼結体あるいはこれらのセラミックスのプラズマによる溶射により作られたものとすればよいが、このセラミックスはその抵抗を低下させない範囲で高誘電体を添加したものであってもよい。なお、この絶縁性誘電体層については、この静電チャックの静電力は印加電圧の2乗に比例し、基板を吸着する絶縁性誘電体層の厚さの2乗に反比例することから、この厚さは薄ければ薄いほうがよいのであるが、加工のし易さ、基板と電極との間で放電が生じない範囲とするということから100〜4,000μmの範囲とすればよい。」(第2欄第46行〜第3欄第9行) (6)刊行物7 a.「1)ドライエッチング及びCVD等の処理装置に用いられる静電吸着装置に於いて、真空容器内に配設され、所要の熱授受手段で熱授受が行われる板状絶縁物に静電吸着用電極を埋設し、該静電吸着用電極に直流電源を接続し、前記板状絶縁物の被処理基板載置面に該被処理基板によって閉塞される溝を刻設し、該溝にヘリウムガスを供給するヘリウムガス供給装置を連通したことを特徴とする静電吸着装置。」(第1頁第5〜14行) b.「ウェーハ4が載置される範囲内に同心多重に円周溝18a を刻設し、又直径方向に全ての円周溝18a を連通せしめる経線溝18bを刻設する。 」(第7頁第16〜18行) c.経線溝18bは、放射状に延びていること。(第2図参照。) 前記摘記事項a〜cの記載から刊行物7には、 「静電吸着装置において、板状絶縁物に静電吸着用電極を埋設し、前記板状絶縁物の吸着面側に放射状に延びる経線溝が形成されており、該溝にヘリウムガス供給装置を連通したこと」の事項(以下、刊行物7記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 (7)刊行物8 a.「【請求項1】 誘電体層内に設けた内部電極に電圧を印加することで生じる静電力で半導体ウェハ等の被吸着体を吸着するようにした静電チャックにおいて、前記誘電体層の体積固有抵抗は109 Ωm以下で、また誘電体層の上面には多数の突起が設けられ、この突起の吸着面となる上面はRmax(最大高さ)が2.0μm以下またはRa(中心線平均粗さ)が0.25μm以下で、且つ突起の上面の合計面積の誘電体層の上面に対する面積比率が1%以上10%未満であることを特徴とする静電チャック。」(第1欄第2〜11行) b.「【作用】静電チャックを構成する誘電体層の体積固有抵抗を109 Ωm以下、突起上面のRmaxを2.0μm以下またはRaを0.25μm以下とすることにより、吸着力が大きく」(第2欄第36〜39行) c.「前記内部電極4には直流電源回路7が接続され、誘電体層3下面の導体部8には高周波電源回路9が接続されている。また、高周波電源回路9は内部電極4に接続してもよい。尚、プラズマ処理装置内において、静電チャック1上方にはアースされた対向電極10が位置している。而して、静電チャック1にウェハWを載置し、内部電極4に直流電圧を印加することで静電力が生じ、ウェハWは誘電体層3、具体的には突起5…の上面に吸着される。また、高周波電源回路9によって高周波を印加することで、対向電極10との間に活性なラジカル11が発生し、ウェハW表面のSi酸化膜等がエッチングされる。」(第3欄第14〜25行) (8)刊行物9 a.「冷却面の段差を冷却ガスの平均自由行程の100倍程度以下にすることで十分な冷却効果が得られる。さらに、基板と冷却面を全面的に接触させている従来の冷却方法に比較すると、基板裏面と冷却面間のギャップが大きい。このため、両面間のコンダクタンスが大きくなり、冷却ガスの供給および排気が容易に行われる、すなわち冷却ガスの吸排気時間が短くなり、基板処理時間を短縮することもできる。」(第7欄第11〜18行) b.「図2は、本発明の基板保持方法により基板を保持するための基板保持装置の断面を示したものである。基板1が基板の支持部材2の凸部3に載せられ、かつ支持部材2の凸部3は静電吸着回路(後述)に接続されており、凸部3で基板1は支持部材2に係止される。・・・また、支持部材2の中央には冷却ガス7の流路が設けられており、冷却ガス7の供給及び排気を行う。基板1の温度コントロールは、支持部材2の凹部8に充填された冷却ガス7が温度コントロールされた支持部材2と基板1の熱伝導を担うことにより達成される。静電吸着力は、支持部材2の表面に貼付あるいは形成された誘電体18によって発生される。」(第8欄第31〜45行) c.「係止された基板1の裏面に、冷却ガス7が供給される。冷却ガス7は、支持部材2の凹部8に充填されるが、その圧力は、数トールから数10トールの範囲とする。また、凹部8のギャップは、15μmから0.1ないし0.2mmとすれば、冷却効率の低下も無視できるほどとなる。」(第9欄第11〜16行) d.「基板保持装置9をリング状としたのが図5に示した実施例である。・・・なお、凹部8への冷却ガス7の給排気を速やかに行うため、リング状凸部22の一部を切りかき、冷却ガス7が通り易くなるようにしてある。」(第11欄第11〜19行) e.リング状凸部22によって切りかきが形成されており、前記切りかきは径方向に延びており、また、リング状凸部22の内側の凹部8の中央に冷却ガス7の流路の冷却ガス吸排気口21が設けられていて、前記切りかきが冷却ガス7の流路に連通している。(図5参照。) 前記摘記事項a〜eの記載から、刊行物9には、 「基板1を静電吸着力により保持する基板保持装置9であって、誘電体18の吸着面に冷却ガス吸排気口21により開口する冷却ガス7の流路が誘電体18に形成されており、この誘電体18の吸着面側にリング状凸部22及び凹部8が形成されており、前記リング状凸部22によって径方向に延びる切りかきが形成されており、前記切りかきが前記冷却ガス流路に連通していること。」の事項(以下、刊行物9記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 (9)刊行物10 a.「静電チャックを高温下で使用するためには、少なくとも静電チャック表面の誘電体層を、窒化珪素、アルミナ等の緻密質セラミックスで形成する必要がある。」(第1欄第34〜37行) b.「円盤状のセラミックス基体1の内部には抵抗発熱体2が埋設され、・・・。 円盤状のセラミックス基体1の一方の主面1bに沿って、例えば円形の膜状電極5が形成されている。そして、この膜状電極5を覆うように、一方の主面1b上にセラミックス誘電体層6が形成され、一体化されている。これにより、膜状電極5は、セラミックス基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵される。この膜状電極5は、パンチングメタルのような穴明き形状とすると、」(第2欄第第25〜42行) c.「図6は、本発明の方法によって凹部を形成した静電チャックの一例を示す概略断面図である。円盤状セラミックス基体21の一方の主面21a に沿って、例えば円形の膜状電極5が形成されている。そして、この膜状電極5を覆うように、一方の主面21a 上にセラミックス誘電体層6が形成され、一体化されている。これにより、膜状電極5は、セラミックス基体21とセラミックス誘電体層6との間に内蔵される。この膜状電極5は、パンチングメタルのような穴明きの形状とすると、誘電体層6の密着性が良好となる。・・・そして、半導体ウエハー9をウエハー設置面22B に設置し、吸着する。・・・。 このウエハー設置面22B の平面形状の一部を拡大して図7に示す。平面略正方形の突起18が図7において上下方向及び左右方向に一定間隔で基盤目状に設けられており、各突起18の間の領域に凹部19が形成されている。この凹部19によって、前述したように、半導体ウエハー9のチャック解除後の残留吸着力を減らし、かつ温度上昇時の応答性を高める。」(第6欄第34行〜第7欄第7行) d.「深さ数10μm 程度以下の凹部・・・また、この凹部にガスを残し、また、ガスを供給する・・・この凹部による半導体ウエハーの吸着力が安定し、温度上昇時の応答性が良くなり、半導体ウエハーの均熱性が向上する。」(第7欄第14行〜第8欄第1行) 前記摘記事項c及びdの記載から、図6,7を参照すると、刊行物10には、 「半導体ウエハー9を吸着するための静電チャックであって、セラミックス基体21と、セラミックス誘電体層6と、前記セラミックス基体21と前記セラミックス誘電体層6との間に形成されている膜状電極5とを備えており、前記膜状電極5上に前記セラミックス誘電体層6を介して前記半導体ウエハー9を吸着するように構成されており、前記セラミックス誘電体層6の前記ウエハー載置面22B側に突起18が多数形成されており、前記各突起18の間に、該突起18の間の領域に凹部19が形成されており、該凹部19にガスを供給し、前記凹部19の前記吸着面からの深さが数10μm程度以下であり、 ウエハー載置面22B(吸着面)側から平面的に見て、前記凹部19の底面と前記セラミックス基体21との間に前記膜状電極5が存在している静電チャック。」の発明(以下、「刊行物10記載の発明」という。)が記載されていると認める。 (10)刊行物11 a.「絶縁誘電層をセラミックスにて構成した場合、セラミックスは温度が高くなるにつれて絶縁抵抗値(体積固有抵抗)が低くなる特性があるため、上記した適当な抵抗値よりも低くなり、リーク電流が大きくなり」(第2頁左上欄第1〜5行) b.「尚、絶縁抵抗Rと体積固有抵抗ρとは以下の関係がある。 R=ρ・l/S l:絶縁距離 S:絶縁面積」(第2頁左下欄第5〜8行) 4.対比・判断 (本件発明1について) 本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「被吸着物6」は前者の「被処理物」に、同様に、「母材」は「基体」に、「絶縁膜」は「絶縁性誘電層」に、「内部電極2」は「電極」に、「体積固有抵抗値」は「体積抵抗率」に、それぞれ相当することは明らかである。また、後者の漏れ電流数十〜数μAを0.002〜0.02mAとし、被処理物の直径150mmから算出した面積で除算すると、単位面積あたりの漏れ電流は、0.000011〜0.00011mA/cm2 となる。 そうすると、両者は、 「被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と前記絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、前記電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記基体と前記絶縁性誘電層の材質が窒化アルミニウムである静電チャック。」である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1:前者では、常温における絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×109 Ωcm以上、1×1016Ωcm以下であり、使用温度が常温以上、500℃以下の範囲内にあり、前記使用温度において前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×107 Ωcm以上、1×1013Ωcm以下であるのに対して、後者では、絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×1011Ωcm以上、1×1015Ωcm以下、好ましくは1×1012Ωcm以上、1×1014Ωcm以下であるものの、使用温度が不明であり、また、前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が何れの温度のものであるか不明である点。 相違点2:前者では、絶縁性誘電層の平均厚さが0.5mm以上、5.0mm以下であって、単位面積あたりの漏れ電流が0.00067mA/cm2 以上0.027mA/cm2 以下であるのに対して、後者では、絶縁性誘電層の厚さが300μmであって、単位面積あたりの漏れ電流が0.000011〜0.00011mA/cm2 である点。 相違点3:前者では、絶縁性誘電層の表面粗さの最大高さ(Rmax)が3μm以下であって、気孔率が3%以下であるのに対して、後者では、絶縁性誘電層の表面粗さ(Rmax)が0.8μm(s)以下であって、気孔率が不明である点。 そこで、各相違点について検討すると、 相違点1については、刊行物4には、静電チャックにおける絶縁層の材質が窒化アルミニウムであり、その体積抵抗率(体積固有抵抗)が少なくとも室温〜600℃において1×108 〜1×1013Ωcmであること(前記摘記事項3(4)b参照。)、また、刊行物2には、静電チャックにおける絶縁性誘電層が窒化珪素からなり、その体積抵抗率が600℃において1010〜1012Ωcm、また、絶縁性誘電層として窒化アルミニウムが使用できること(前記摘記事項3(2)b,c参照。)が記載されている。また、使用温度が高くなると体積抵抗率が小さくなることは従来周知の事項である(前記摘記事項3(10)a参照。)。 刊行物1記載の発明と、刊行物4及び刊行物2記載の技術的事項とは、静電チャックにおいて、絶縁性誘電層の材質が窒化アルミニウムであり、その体積抵抗率が低下する温度領域でも吸着力を高く保持する点で技術課題が一致し、しかも、刊行物1記載の発明に刊行物4及び刊行物2記載の技術的事項の摘要を阻害する特段の事由も見出せない。 そうすると、前記周知の技術的事項を参酌して刊行物1記載の発明の絶縁性誘電層の体積抵抗率として前記刊行物2及び4に記載のものを採用することにより、刊行物1記載の発明の静電チャックの使用温度及び絶縁性誘電層の体積抵抗率を本件発明1のような数値範囲とすることは、当業者であれば容易になし得た設計的事項である。 相違点2については、使用温度が高くなると体積抵抗率が小さくなり、その結果漏れ電流が増大すること、また、絶縁抵抗と体積固有抵抗とは以下の関係にあることは、いずれも従来周知の事項である。 R=ρ・l/S(R:絶縁抵抗、ρ:体積固有抵抗、l:絶縁距離、S:絶縁面積)(前記摘記事項3(10)コa,b参照。) したがって、漏れ電流を減少させるために、絶縁性誘電層の絶縁抵抗Rを大きくすべく絶縁距離、即ち、絶縁性誘電層の厚さを大きくすることは当業者が容易になし得ることである。 また、刊行物5には、静電チャックにおいて、絶縁性誘電層(絶縁性誘電体層)の材質が窒化アルミニウムであり、また、静電チャックの吸着力については、絶縁性誘電層の厚さは薄ければ薄いほうがよいのであるが、被処理物(基板)との間で放電が生じない範囲とするということから、その厚さを100〜4,000μmの範囲とすることが記載されている(前記摘記事項3(5)a,b参照。)。 そして、刊行物1記載の発明と、刊行物5記載の技術的事項とは、静電チャックにおいて、絶縁性誘電層が窒化アルミニウムであり、洩れ電流による被処理物への悪影響を防止する点で技術課題が共通し、しかも、刊行物1記載の発明に刊行物5記載の技術的事項の適用を阻害する特段の事由も見出せない。 そうすると、前記周知の技術的事項を参酌して刊行物1記載の発明に前記刊行物5に記載の技術的事項を適用することにより、刊行物1記載の発明の絶縁性誘電層の平均厚さを、本件発明1のような数値範囲とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 相違点3については、例えば、刊行物8には、静電チャックの吸着面のRmax(最大高さ)を2.0μm以下またはRa(中心線平均粗さ)が0.25μm以下とすることにより吸着力を大きくする旨記載され(前記摘記事項3(7)a,b参照。)、また、刊行物2には、十分な吸着力を得るために、絶縁性誘電層として気孔率が3%以下、最大気孔の気孔径が5μm以下としたことが記載されている(前記摘記事項3(2)b参照。)ように、絶縁性誘電層の表面粗さの最大高さ(Rmax)が3μm以下であって、気孔率が3%以下とすることは、静電チャックの分野において、従来周知の事項である。 そうすると、刊行物1記載の発明に前記周知の技術的事項を採用して刊行物1記載の発明の絶縁性誘電層の表面粗さの最大高さ及び気孔率を本件発明1のような数値範囲とすることは、当業者が適宜なし得た設計変更にすぎないことである。 また、本件発明1の奏する効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5に記載の技術的事項及び前記各周知技術から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものでもない。 したがって、本件発明1は、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5に記載の技術的事項及び前記各周知の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (本件発明2について) 本件発明2と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、前記相違点1ないし3に加えて更に次の点で相違している。 相違点4:前者では、電極が面状の金属バルク体からなり、緻密質セラミックスからなる基体、絶縁性誘電層及び前記電極が一体に焼結されているのに対して、後者では、基体が緻密質セラミックスからなり、基体、絶縁性誘電層及び前記電極が一体に焼結されているものの、電極が面状の金属バルク体であることについては不明である点。 そこで相違点4について検討すると、基体が緻密質セラミックスからなり、前記基体、絶縁性誘電層および電極が一体化され、前記電極が面状の金属バルク体からなるものは、例えば、刊行物10にも記載されているように、静電チャックの分野において、従来周知の事項である(前記摘記事項3(9)a,b参照。)。 そうすると、刊行物1記載の発明に前記周知の技術的事項を適用して、刊行物1記載の発明の電極を本願発明2のように面状の金属バルク体とすることは当業者が容易になし得た設計的事項にすぎないことである。 また、本件発明2の奏する効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5に記載の技術的事項及び前記各周知の技術的事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものでもない。 したがって、本件発明2は、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5に記載の技術的事項及び前記各周知の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (本件発明3について) 本件発明3と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、前記相違点1ないし3に加えて更に次の点で相違している。 相違点5:前者では、基体中に抵抗発熱体が埋設されているのに対して、後者では、基体中に抵抗発熱体が埋設されていない点。 そこで相違点5について検討すると、例えば、刊行物2及び刊行物10にも記載されている(それぞれ、前記摘記事項3(2)d及び3(9)b参照。)ように、静電チャックの分野において、静電チャックの基体中に抵抗発熱体を埋設することは、従来周知の事項である。 そうすると、刊行物1記載の発明に前記周知の技術的事項を採用して、刊行物1記載の発明の基体中に抵抗発熱体を埋設することは当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎないことである。 また、本件発明3の奏する効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5に記載の技術的事項及び前記各周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものでもない。 したがって、本件発明3は、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5に記載の技術的事項及び前記各周知の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (本件発明4について) 本件発明4と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、前記相違点1ないし3に加えて更に次の点で相違している。 相違点6:前者では、被処理物上にプラズマを発生させるための高周波電力を(基体と絶縁性誘電層との間に形成されている)電極に供給する、高周波電源を備えているのに対して、後者では、そのようにされていない点。 そこで相違点6について検討すると、刊行物8には、静電チャックにおいて、内部電極には直流電源回路が接続され、誘電体層下面の導体部には高周波電源回路が接続されていて、この高周波電源回路は内部電極に接続してもよい旨が記載されている(前記摘記事項3(7)c参照。)。 そして、刊行物1記載の発明と前記刊行物8に記載の技術的事項は、静電チャックである点で技術分野が一致し、刊行物1記載の発明に刊行物8記載の技術的事項の適用を阻害する特段の事由も見出せない。 そうすると、刊行物1記載の発明に前記刊行物8に記載の技術的事項を適用して、刊行物1記載の発明の電極に被処理物上にプラズマを発生させるための高周波電源を接続して該電源を備えるようにすることは当業者であれば容易になし得たことである。 また、本件発明4の奏する効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5,8に記載の技術的事項及び前記各周知の技術的事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものでもない。 したがって、本件発明4は、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5,8に記載の技術的事項及び前記各周知の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (本件発明5について) 本件発明5と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、前記相違点1ないし3に加えて更に次の点で相違している。 相違点7:前者では、絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも絶縁性誘電層に形成されており、この絶縁性誘電層の前記吸着面側に放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、前記ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔が500μm以上、5.0mm以下であるのに対して、後者では、そのようにされていない点。 そこで、相違点7について検討すると、 刊行物9記載の技術的事項の「基板1」は本件発明6の「被処理物」に、同様に、「基板保持装置9」は「静電チャック」に、「冷却ガス7の流路」は「ガス導入孔」に、「誘電体18」は「絶縁性誘電層」に、それぞれ、相当することは明らかである。 また、「切りかき」は、リング状凸部22の内側の凹部8から外側へ冷却ガスの給排気を速やかに行うため冷却ガス7が通り易くなるように形成したものであるから、「ガス分散用凹部」ということができる。 そうすると、刊行物9には、「被処理物を吸着するための静電チャックであって、絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が絶縁性誘電層に形成されており、この絶縁性導電層の吸着面側に径方向に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通している」という技術的事項が記載されていると認められる。 また、静電チャックの分野において、絶縁性誘電層の吸着面側に径方向に延びる又はその数を増やして放射状に延びるガス分散用凹部が形成され、前記ガス分散用凹部がガス導入孔に連通しているものは、前記刊行物9、及び刊行物7にも記載されている(前記刊行物7記載の技術的事項では「経線溝18b」が「ガス分散用凹部」に相当する。)ように従来周知の事項である。 そして、刊行物1記載の発明と刊行物9記載の発明及び前記周知技術は静電チャックである点で技術分野が共通し、しかも、刊行物1記載の発明に前記刊行物9記載の技術的事項及び前記周知技術の適用を阻害する特段の事由も見出せない。 したがって、刊行物1記載の発明に前記周知技術を適用することにより、刊行物1記載の発明において、絶縁性誘電層の吸着面側に放射状に延びるガス分散用凹部が形成され、前記ガス分散用凹部がガス導入孔に連通するようになすことは当業者であれば容易になし得たことであり、その際に、刊行物9記載の技術的事項のようにガス導入孔を絶縁性誘電層の吸着面に開口するように絶縁性誘電層に形成することは、当業者が適宜なし得た設計変更にすぎず、 また、前記相違点2について検討したように、刊行物1記載の発明において、絶縁性誘電層の平均厚さを0.5mm以上、5.0mm以下とすることは当業者が容易に想到し得たことから、該絶縁性誘電層の平均厚さから前記ガス分散用凹部の何ら規定されていない深さを減算して算出されるガス分散用凹部の底面と電極との間隔を、本件発明5のような0.5mm以上、5.0mm以下とすることは、絶縁破壊等を考慮することにより当業者が容易になし得た設計的事項にすぎないことである。 そして、本件発明5の奏する効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5,9に記載の技術的事項及び前記各周知の技術的事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものでもない。 したがって、本件発明5は、刊行物1記載の発明、刊行物2,4,5,9に記載の技術的事項及び前記各周知の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (本件発明6について) 本件発明6と刊行物10記載の発明とを対比すると、後者の「半導体ウエハー9」は前者の「被処理物」に、同様に、「セラミックス基体1」は「基体」に、「セラミックス誘電体層6」は「絶縁性誘電層」に、「膜状電極5」は「電極」に、「ウエハー載置面22B」は「吸着面」に、「突起18」は「突起」に、それぞれ、相当することは明らかである。 そうすると、両者は、 「被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記絶縁性誘電層の前記吸着面側に突起が多数形成されており、前記多数の突起の間にガスが供給される静電チャック。」である点で一致し、次の点で相違している。 相違点8:前者では、絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも前記絶縁性誘電層に形成されており、多数の突起が台状部上に形成され、前記台状部によって放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、ガス分散用凹部の深さが100μm以上、5.0mm以下であり、前記突起の高さが前記ガス分散用凹部の深さよりも低いのに対して、後者では、絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が絶縁性誘電層に形成されているのか否か不明であり、また、高さが数10μm程度以下である多数の突起が絶縁性誘電層の吸着面側に形成されているものの放射状に延びるガス分散用凹部が形成されていない点。 そこで、相違点8について検討すると、 前記相違点7において示したように、刊行物9には、 「被処理物を吸着するための静電チャックであって、絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が絶縁性誘電層に形成されており、この絶縁性導電層の吸着面側に径方向に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通している」という技術的事項が記載されていると認められる。 そして、刊行物10記載の発明と刊行物9に記載された技術的事項とは静電チャックにおいて、被処理物と吸着面との間にガスを供給して熱伝達を均一化する点で技術課題が共通しており、しかも両者を組み合わせることを妨げる特段の事情も見出せない。 してみると、刊行物10記載の発明の突起が多数形成された吸着面に、刊行物9記載の技術的事項を適用し、その際に、ガス分散用凹部が冷却ガスの給排気を速やかに行うためのものであるから、径方向の数を増やして放射状とすることや、その吸着面からの深さを100μm〜5mmとすることは、吸着面と電極との間隔等を勘案して当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎないことである。 また、突起の高さが数10μm程度以下であることから、前記ガス分散用凹部の深さよりも低くなることは自明である。 そして、本件発明6の奏する効果も、刊行物10記載の発明及び刊行物9記載の技術的事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものでもない。 したがって、本件発明6は、刊行物10記載の発明および刊行物9記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (本件発明7について) 本件発明7と刊行物10記載の発明とを対比すると、両者は、前記相違点8に加えて更に次の点で相違している。 相違点9:前者では、吸着面側から平面的に見て、前記ガス分散用凹部の底面と前記基体との間に前記電極が存在しているのに対して、後者では、吸着面側から平面的に見て、多数の突起によって形成された空間の底面と基体との間に電極が存在しているものの、ガス分散用凹部が形成されていない点。 そこで相違点9について検討すると、前記相違点8において検討したように、絶縁性誘電層の吸着面側にガス分散用凹部を形成することは、当業者が容易になし得たことであって、前記ガス分散用凹部を形成する際に、刊行物10記載の発明において存在している電極をそのままにして、吸着面の全体にわたって吸着力を発生させ、より吸着力を高めるようにする程度のことは、当業者が必要により適宜なし得た設計的事項にすぎないことである。 また、本件発明7の奏する効果も、刊行物10記載の発明及び刊行物9記載の技術的事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものでもない。 したがって、本件発明7は、刊行物10記載の発明及び刊行物9記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (本件発明8について) 本件発明8と刊行物10記載の発明とを対比すると、両者は、前記相違点8に加えて更に次の点で相違している。 相違点10:前者では、ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔が500μm以上、5.0mm以下であるのに対して、後者では、ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔については特定されていない点。 そこで相違点10について検討すると、前記相違点8において検討したように、絶縁性誘電層の吸着面側にガス分散用凹部を形成することは、当業者が容易になし得たことであって、前記ガス分散用凹部を形成する際に、ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔を500μm以上、5.0mm以下であるようにすることは、当業者が絶縁破壊等を考慮することによって容易になしえた設計的事項にすぎないことである。 そして、本件発明8の奏する効果も、刊行物10記載の発明及び刊行物9記載の技術的事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものでもない。 したがって、本件発明8は、刊行物10記載の発明及び刊行物9記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1ないし8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件発明1ないし8についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 静電チャック (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と前記絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、前記電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記基体と前記絶縁性誘電体層の材質が窒化アルミニウムであり、常温における前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×109Ωcm以上、1×1016Ωcm以下であり、使用温度が常温以上、500℃以下の範囲内にあり、前記使用温度において前記絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×107Ωcm以上、1×1013Ωcm以下、前記絶縁性誘電層の平均厚さが0.5mm以上、5.0mm以下、単位面積あたりの漏れ電流が0.00067mA/cm2以上、0.027mA/cm2以下、前記絶縁性誘電層の表面粗さの最大高さRmaxが3μm以下、気孔率が3%以下であることを特徴とする、静電チャック。 【請求項2】前記基体が緻密質セラミックスからなり、前記電極が面状の金属バルク体からなり、前記基体、前記絶縁性誘電層および前記電極が一体に焼結されていることを特徴とする、請求項1記載の静電チャック。 【請求項3】前記基体中に抵抗発熱体が埋設されていることを特徴とする、請求項1または2記載の静電チャック。 【請求項4】前記被処理物上にプラズマを発生させるための高周波電力を前記電極に供給する、高周波電源を備えていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の静電チャック。 【請求項5】前記絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも前記絶縁性誘電層に形成されており、この絶縁性誘電層の前記吸着面側に放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、前記ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔が500μm以上、5.0mm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の静電チャック。 【請求項6】被処理物を吸着するための静電チャックであって、基体と、絶縁性誘電層と、前記基体と前記絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、前記電極上に前記絶縁性誘電層を介して前記被処理物を吸着するように構成されており、前記絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも前記絶縁性誘電層に形成されており、前記絶縁性誘電層の前記吸着面側に台状部およびこの台状部上の突起が多数形成されており、前記台状部によって放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、前記ガス分散用凹部が前記ガス導入孔に連通しており、前記ガス分散用凹部の前記吸着面からの深さが100μm以上、5.0mm以下であり、前記突起の高さが前記ガス分散用凹部の深さよりも低いことを特徴とする、静電チャック。 【請求項7】前記吸着面側から平面的に見て、前記ガス分散用凹部の底面と前記基体との間に前記電極が存在していることを特徴とする、請求項6記載の静電チャック。 【請求項8】前記ガス分散用凹部の底面と前記電極との間隔が500μm以上、5.0mm以下であることを特徴とする、請求項6または7記載の静電チャック。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、静電チャックに関するものである。 【0002】 【従来の技術】 現在、半導体ウエハーの搬送、露光、CVD、スパッタリング等の成膜プロセス、微細加工、洗浄、エッチング、ダイシング等の工程において、半導体ウエハーを吸着し、保持するために、静電チャックが使用されている。特公平5-87177号公報においては、第一の絶縁層、第一の接着層、電極層、第二の接着層および第二の絶縁層を順次に積層して、膜厚30〜400μmの積層体を作成し、この積層体を金属基板に対して接着することで、静電チャックを作成している。電極層と被処理物との間に第一の絶縁層が位置するが、この絶縁層の厚さは5〜75μmとすることが好ましく、印加電圧に耐えうる限りできる限り絶縁層を薄くすることを目指している。これは、絶縁性誘電層の厚さが小さく、薄い静電チャックの方が、吸着力が高いという理論に従ったものである。 【0003】 この点について更に説明すると、静電吸着力(クーロン力)は、この力が働く物体の距離の二乗に反比例する。静電チャックにおいては、絶縁性誘電層の厚さが大きくなると、これに比例して電極と被処理物との間隔が大きくなる。これに伴って、絶縁性誘電層の厚さの二乗に反比例して、静電吸着力が減少してくる。このために、可能な限り絶縁膜を薄くして、静電吸着力を増大させる必要がある。 【0004】 特開平2-160444号公報においては、電極と絶縁膜とからなる積層構造を、基体の上に2層以上形成しており、各々の絶縁膜の絶縁抵抗を互いに異ならせ、各々の電極に対する印加電圧を、選択的に制御可能としている。この際、各々の絶縁膜の厚さは、300μm程度が適当であると記載されている。なぜなら、上記したように静電吸着力を増大させるためには絶縁膜を薄くする必要があるが、高い電圧を印加しても絶縁破壊が生じないようにするためには、ある程度の厚さを必要とするため、この相反する条件によって数十μmから300μm程度の厚さが適当であった。また、特開平2-160444号公報に記載されているように、温度が上昇するのに従って、絶縁膜の体積抵抗が低下してくるので、温度が上昇すると絶縁膜における漏れ電流が増大し、半導体ウエハーの既に成膜された半導体膜を破壊するといった問題を生ずる。 【0005】 また、実開平2-120831号公報によれば、半導体ウエハーの載置面に溝を形成し、この溝の中にヘリウムガスを供給することが開示されている。即ち、半導体ウエハー等の被処理基板は、そのプロセスの目的に応じて、加熱または冷却する必要がある。そのためには、静電チャックの基体の下側に加熱源や冷却源を設置し、これらと基体との間で熱の授受を行わせる必要がある。この際、半導体ウエハーと静電チャックの吸着面との間は、単に接触するのみであるので、半導体製造装置の真空チャンバー内では真空断熱状態である。即ち、対流による熱伝導がないために、熱伝達が極めて低い。このため、上記したように、溝中にヘリウムガスを充満させ、このヘリウムガスを通して、半導体ウエハーと吸着面との間で熱の伝達を良好に行わせるようにしている。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、例えば半導体ウエハーを静電チャックによって吸着し、処理する際には、静電チャックが幅広い温度範囲で使用される。前述したように、数十μm〜300μm程度の厚さの絶縁膜を使用していると、例えば常温では極めて高い吸着力が得られる場合にも、300℃を越えると、絶縁膜における漏れ電流が著しく増大し、半導体ウエハーの既に成膜された半導体膜を破壊することがあることがわかった。このため、高温領域で静電チャックを使用するためには、特開平2-160444号に記載されているような特定の構成を採用する必要があったが、これは構成がきわめて複雑であるし、上記の問題点に対して直接に解決を与えるものではない。 【0007】 また、高温でも高い体積抵抗率を保持するような材料を選定したり、開発したりすることも考えられる。しかし、体積抵抗率の高いプラスチック系の材料は、一般に耐熱性が低く、高温領域ではもともと使用が難しい。耐熱性の高いセラミックスの多くは、高温領域では体積抵抗率が減少してくる。しかも、静電チャックの基材は、この他に機械的強度等の他の条件を満足しなければならず、このような材料の開発や選定は一般に困難である。実開平2-120831号公報においても、これとまったく同様の問題がある。 【0008】 特に、本発明者は、種々のセラミックス材料によって、数十μm〜300μm程度の厚さの絶縁性誘電層を形成し、その吸着力および漏れ電流について検討した。一般には、十分に高い吸着力を得るためには、使用温度範囲で1×1013Ω・cm以下の体積抵抗率を有する必要がある。 【0009】 例えば、常温での体積抵抗率が1×1011〜1×1013Ω・cmである絶縁性誘電層を有する静電チャックの場合には、常温〜200℃では高い吸着力を有しているが、200℃以上となると、漏れ電流が著しく上昇し、半導体ウエハーに損傷を与えうることがわかった。常温での体積抵抗率が1×1014Ω・cm〜1×1016Ω・cmである絶縁性誘電層を有する静電チャックにおいては、100〜500℃の温度範囲では高い吸着力を有しているが、500℃以上となると、漏れ電流が著しく上昇し、半導体ウエハーに損傷を与えうることがわかった。常温での体積抵抗率が1×109Ω・cm〜1×1010Ω・cmである絶縁性誘電層を有する静電チャックにおいては、-20℃〜100℃の温度範囲では高い吸着力を有しているが、100℃以上となると、漏れ電流が著しく上昇し、半導体ウエハーに損傷を与えうることがわかった。 【0010】 このように、従来のセラミックス静電チャックは、いずれも最適温度範囲においては十分に高い吸着力を有しているが、その使用温度が上昇し、セラミックス絶縁性誘電層の体積抵抗率が109Ω・cm以下になると、漏れ電流が著しく上昇することが判明した。このため、従来の静電チャックは、特に半導体ウエハーをチャックして種々の処理を行う用途のように、使用温度範囲が広い用途では問題があることがわかった。 【0011】 また、実開平2-120831号公報では、更に、半導体ウエハーと静電チャックとの熱伝達を、吸着面の方から平面的に見て均一に行う必要がある。なぜなら、溝内にヘリウムガスが充満している部分と充満していない部分との間では、たとえ静電チャックの吸着面の温度が同じであったとしても、半導体ウエハーの面内に著しい温度差が発生し、このために半導体膜の膜質に差が生じて、製造段階で不良品の原因となるからである。このため、溝内の各部分において、ヘリウムガスの圧力を一定に保持する必要がある。 【0012】 しかし、実際の静電チャックにおいては、ヘリウムガスの供給箇所は限られており、各供給口の位置も離れているので、ヘリウムガスの吹き出し口から離れるのにつれてガスの圧力が急激に低下する。特に、前記したように絶縁性誘電層の厚さは数十〜300μm程度しかなく、特に必要な絶縁破壊強度を保持するために最低限必要な厚さしか通常は有していない。そして、この絶縁破壊強度は、絶縁性誘電層の厚さが最も小さい部分の値となる。これらの理由から、溝の深さは数μm〜数十μmとする他はない。しかし、数μm〜数十μm程度の深さの溝では、ガスの拡散に対する抵抗が大きく、十分にガスが拡散しないために、溝の中で顕著な圧力差が発生し、その結果、半導体ウエハー内に温度差が生じて、成膜された膜質が不均一になることがわかった。これと同時に、溝の深さを大きくしてくるのにつれて、この部分と電極との間での絶縁破壊の可能性も大きくなるという二律背反があった。 【0013】 本発明の課題は、被処理物を吸着するための静電チャックにおいて、絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×109Ω・cm以下、更には1×108以下にまで低下する温度領域で静電チャックを使用する場合においても、絶縁膜における漏れ電流を減少させ、これによる被処理物への悪影響を防止できるようにすることであり、これと同時に、被処理物の吸着力を十分に高く保持できるようにすることである。 【0014】 また、本発明の課題は、被処理物を吸着するための静電チャックにおいて、静電チャックの絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔を設け、この吸着面側の溝にガスを供給した場合に、吸着面と被処理物との隙間におけるガス圧力差を減少させることによって、被処理物と吸着面との間の熱伝達を均一化できるようにすることである。 【0015】 【課題を解決するための手段】 本発明に係る静電チャックは、基体と、絶縁性誘電層と、基体と絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、電極上に絶縁性誘電層を介して被処理物を吸着するように構成されており、基体と絶縁性誘電体層の材質が窒化アルミニウムであり、常温における絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×109Ωcm以上、1×1016Ωcm以下であり、使用温度が常温以上、500℃以下の範囲内にあり、この使用温度において絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×107Ωcm以上、1×1013Ωcm以下、絶縁性誘電層の平均厚さが0.5mm以上、5.0mm以下、単位面積あたりの漏れ電流が0.00067mA/cm2以上、0.027mA/cm2以下、絶縁性誘電層の表面粗さの最大高さRmaxが3μm以下、気孔率が3%以下であることを特徴とする。 【0016】 また、本発明に係る静電チャックは、被処理物を吸着するためのものであり、基体と、絶縁性誘電層と、基体と絶縁性誘電層との間に形成されている電極とを備えており、電極上に絶縁性誘電層を介して被処理物を吸着するように構成されており、絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔が少なくとも絶縁性誘電層に形成されており、絶縁性誘電層の前記吸着面側に台状部およびこの台状部上の突起が多数形成されており、台状部によって放射状に延びるガス分散用凹部が形成されており、ガス分散用凹部がガス導入孔に連通しており、ガス分散用凹部の吸着面からの深さが100μm以上、5.0mm以下であり、突起の高さがガス分散用凹部の深さよりも低いことを特徴とする。 【0017】 本発明においては、ガス分散用凹部の底面と電極との間隔を500μm以上、5.0mm以下とすることが好ましい。 【0018】 本発明者は、絶縁性セラミックスからなる基材を備えた静電チャックによって、真空条件下で種々の温度領域で、漏れ電流を減少させ、吸着力を向上させる研究に取り組んでいた。この過程で、絶縁性誘電層の厚さを500μm以上に厚くすることによって、漏れ電流を低く抑制できることを見いだした。これは、従来の静電チャックの絶縁性誘電層の厚さの約10倍であるので、同一の材料を使用した場合には、漏れ電流の量を約10分の1に減少させることができる。 【0019】 しかも、これと同時に、絶縁性誘電層の厚さを500μm以上に大きくしても、半導体ウエハーの吸着力は、顕著には減少せず、半導体ウエハーを吸着するのには十分な吸着力を確保できることを見いだし、本発明に到達した。即ち、従来は、絶縁性誘電層の厚さを厚くすると、この厚さの二乗に反比例して吸着力が減少していくために、このような厚さの大きい絶縁性誘電層を有する静電チャックは使用できないと考えられていた。 【0020】 絶縁性誘電層の体積抵抗率が低い静電チャックを用いると、電圧を印加したとき、電極から電荷が移動し、誘電層の表面に現れ、半導体ウエハーとの間に強い静電力が生じるという機構があるといわれている。しかし、絶縁性誘電層の厚さと吸着力との関係は、これまで定式化されておらず、予見できなかった。従って、従来理論と合わせて、絶縁性誘電層の厚さが従来よりも極めて大きい静電チャックは検討すらされていなかった。 【0021】 しかしながら、本発明者は、実際には500μm〜5.0mmの範囲内の厚さの絶縁性誘電層を有する静電チャックによって、前記のように絶縁性誘電層の体積抵抗率が低下する温度領域で、十分に高い吸着力が得られることを発見し、本発明を完成するに至った。しかも、これによって漏れ電流は著しく減少し、被吸着物に対して損傷を与える可能性はなくなった。 【0022】 具体的には、常温での体積抵抗率が1×1011〜1×1013Ω・cmである絶縁性誘電層を有する静電チャックの場合には、常温〜200℃では高い吸着力を有しており、200℃以上でも、半導体ウエハーを安定して吸着することができ、半導体ウエハーと吸着面との間に10〜20torrの圧力のガスを通常のように流しても、半導体ウエハーが脱着しないことを見いだした。常温での体積抵抗率が1×1014Ω・cm〜1×1016Ω・cmである絶縁性誘電層を有する静電チャックにおいても、500℃以上であっても、同様の結果が得られることがわかった。また、常温での体積抵抗率が1×109Ω・cm〜1×1010Ω・cmである絶縁性誘電層を有する静電チャックにおいても、100℃以上でも、同様の結果が得られることがわかった。 【0023】 このように、従来当業者が想到しなかった厚さの絶縁性誘電層を有する静電チャックでも、良好な吸着力を得ることができ、これと同時に漏れ電流を顕著に減少させうることを確認した。 【0024】 また、特に、静電チャックが半導体製造装置に使用される場合には、エッチングガスやクリーニングガス等としてハロゲン系腐食性ガスにさらされる。また、スパッタ、CVD、エッチング等のプロセスでは、プラズマにさらされる。絶縁性誘電層がセラミックスであっても、ハロゲン系腐食性ガスにさらされると、表面に反応物が生成し、かつ、プラズマにさらされると、長時間の使用中に、反応物層のいずれかを起点として、絶縁破壊等が発生する場合がある。こうした耐腐食性、耐プラズマ性という点からも、絶縁性誘電層の厚さを500μm以上とすることによって、絶縁破壊を確実に防止できるようになった。 【0025】 本発明においては、絶縁性誘電層の厚さを1.0mm以上とすることによって、漏れ電流が一層顕著に減少し、絶縁性誘電層の厚さを3.0mm以下とすることによって、前記の吸着力は一層高くなる。 【0026】 また、本発明の静電チャックにおいては、絶縁性誘電層の表面粗さ(最大高さ)Rmaxを3μm以下とすることが好ましく、これによって特に吸着力が増大した。絶縁性誘電層の表面粗さ(最大高さ)Rmaxが4μm以上であると、絶縁性誘電層に印加される電圧を上昇させても、吸着力の向上はほとんど見られないのに対して、表面粗さ(最大高さ)Rmaxが3μm以下であると、吸着力が著しく向上するだけでなく、絶縁性誘電層への印加電圧の増大に対して、吸着力が鋭敏に反応することがわかった。 【0027】 また、絶縁性誘電層の最大気孔径を5μm以下とすることによって、その表面粗さ(最大高さ)Rmaxを3μm以下に制御することができ、最大気孔径が5μmを越えると、いかに精密研磨加工を行っても、絶縁性誘電層の表面の表面粗さ(最大高さ)Rmaxを3μmとすることはできなかった。 【0028】 また、絶縁性誘電層の気孔率は3%以下とすることが好ましかった。なぜなら、絶縁性誘電層の厚さを本願発明の範囲内とし、かつ表面粗さ(最大高さ)Rmaxを3μm以下とした場合に、気孔率を3%以下とすることによって、やはり吸着力が最も向上することがわかったからである。この気孔率が3%を越えると、いかに絶縁性誘電層の厚さおよびRmaxを前述の範囲内に制御しても、吸着力の向上は顕著にはならなかった。 【0029】 本発明の静電チャックにおいては、絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×1013Ω・cm以下の範囲内で、高い吸着力を得ることができ、良好に使用できる。特に、前述したように、絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×109Ω・cm以下、1×107Ω・cm以上の範囲内でも、十分に高い吸着力が得られるのと共に、漏れ電流を顕著に減少させることができる。 【0030】 なお、絶縁性誘電層の体積抵抗率は、漏れ電流の減少という点では1×108Ω・cm以上とすることが一層好ましい。しかし、8インチウエハーで10mA程度までの漏れ電流が許容される場合には、絶縁性誘電層の体積抵抗率が1×107〜1×108Ω・cmである場合も、本発明に従って良好な結果が得られる。 【0031】 また、本発明の静電チャックにおいては、前記したように絶縁性誘電層の吸着面に台状部を設け、台状部の隙間にガス分散用凹部を形成し、この凹部の深さを100μm以上とすると共に、台状部上に突起を設け、突起上に被処理物を吸着する。これによって、被処理物と吸着面との間の隙間にガスを均一に分散、拡散させ、半導体ウエハー等の被処理物において温度を均一化できるようになった。また、前記したように絶縁性誘電層の厚さが5.0mmを越えると吸着力の低下が見られたので、ガス分散用凹部の厚さを5.0mm以下とすることが好ましい。 【0032】 ここで、本発明を、図1に示すような態様の静電チャックに対して適用できる。ここで、基体31上に電極33が形成されており、電極33上に絶縁性誘電層32が積層されている。絶縁性誘電層32の表面側にガス分散用凹部34が開口しており、ガス分散用凹部34に対してガス導入孔35が連通しており、ガス導入孔35が基体31の表面側に開口し、図示しないガス供給装置に連結されている。ガス導入孔35から矢印Eのようにガスを流し、ガス分散用凹部34中に分散させる。 【0033】 ガス分散用凹部34の吸着面から見た深さtは、電極33の吸着面から見た深さgよりも大きく、この結果、ガス分散用凹部34の領域を避けるように電極33が形成され、基材中に埋設されている。この際、ガス分散用凹部34の存在する領域中では電極33を削除し、かつ電極33の周縁部分がガス分散用凹部に対して露出しないように、電極33を基材中に埋設する。この際、電極33の周縁部分とガス分散用凹部34との間隔lは、絶縁破壊を防止するために、1mm程度の大きさを有していなければならない。このため、電極33がガス分散用凹部34およびその周辺を含む広い領域で存在しないことになり、この部分で吸着力がまったく得られなくなる。 【0034】 従って、好ましくは、ガス分散用凹部の下にも電極が存在するようにする。これによって、吸着面の全体にわたって、ガス分散用凹部の領域を含んで吸着力を発生させることができる。この際、ガス分散用凹部の底面と電極との間の間隔を500μm以上とすることによって、絶縁破壊を確実に防止することができる。 【0035】 本発明の特に好適な態様においては、絶縁性誘電層の厚さを1mm以上とし、ガス分散用凹部の深さを100μm以上、特に好ましくは500μm以上とし、同時にガス分散用凹部の下側に電極を設け、電極とガス分散用凹部の底面との間隔を500μm以上と厚くする。このように絶縁性誘電層を厚くすると、ガス分散用凹部の深さをガスの良好な拡散に対して十分なほどに大きくしても、電極を削除する必要はなく、広い範囲で静電吸着力を発生させることができる。この態様において更に好ましくは、絶縁性誘電層の厚さを5.0mm以下、更に好ましくは3.0mm以下とし、ガス分散用凹部の深さを3.0mm以下、特に好ましくは2.0mm以下とし、電極とガス分散用凹部の底面との間隔を3.0mm以下、特に好ましくは2.0mm以下とする。 【0036】 従来は、絶縁性誘電層の厚さが300μm以下であったので、セラミックのグリーンシート積層法、気相成長法、プラズマ溶射法を採用する必要があったが、これらの方法は製造コストが高いという問題があった。しかし、本発明においては、厚さ数mmの絶縁性誘電体を焼結法によって製造し、この絶縁性誘電体を平面研削加工によって研削し、絶縁性誘電層の吸着面を平坦とし、かつ機械加工によってガス分散用凹部を形成することができ、これによって製造コストを顕著に減少させることができる。 【0037】 【発明の実施の形態】 電極に対して高周波電源を接続し、この電極に対して直流電圧と同時に高周波電圧を供給することによって、本発明の静電チャックをプラズマ発生用電極として使用することができる。この場合には、例えば電極がタングステンであり、周波数が13.56MHzの場合、電極の厚さは430μm以上が望ましい。しかし、この厚さの電極を、スクリーン印刷法で形成することは困難であるので、電極を金属バルク体によって構成することが好ましい。また、絶縁性誘電層の厚さが0.5mm〜5.0mmの範囲内では、誘電正接が当該周波数で0.1以下であれば、誘電体損失による自己発熱はさほど大きくなく、高周波電極として問題なく使用できる。 【0038】 本発明の静電チャックが、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置される場合には、ClF3等のハロゲン系腐食性ガスによって、静電チャック電極が腐食することがあった。このようにハロゲン系腐食性ガスに暴露される静電チッャクにおいては、緻密質セラミックスからなる基体と、緻密質セラミックスからなる絶縁性誘電層と、面状の金属バルク体からなる電極とが一体に焼結された静電チャックを使用することが好ましい。この静電チャックにおいては、電極を包囲する基体が、接合面のない一体焼結品であるので、電極の腐食を防止することができる。 【0039】 基体および絶縁性誘電層を構成するセラミックスとしては、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、サイアロン等の窒化物系セラミックス、炭化珪素及びアルミナ-炭化珪素複合材料が好ましい。耐熱衝撃性の観点からは、窒化珪素が特に好ましく、ハロゲン系腐食性ガス等に対する耐蝕性の点では、窒化アルミニウムが特に好ましい。 【0040】 ただし、窒化アルミニウムは特に焼結しにくい材料である。このため、特に従来の常圧焼結方法では、高い相対密度を有する焼結体を得ることは困難である。従って、従来は、窒化アルミニウム粉末中に多量の焼結助材を含有させてその焼結を促進することが行われていた。しかし、特に半導体製造装置内に設置される場合には、こうした焼結助材等が不純物となり、半導体汚染の原因になりうる。 【0041】 ところが、窒化アルミニウム粉末に5%のイットリアを焼結助剤として加え、ホットプレス焼結した焼結体は、相対密度が99%を越え、かつハロゲン系腐食性ガスに対して良好な耐蝕性を示した。更に、窒化アルミニウムにおける不純物の含有量が1%以下の粉末を使用した場合にも、この粉末をホットプレス焼結させることによって、相対密度が99%を越える緻密な焼結体を得ることができた。これにより、耐食性が良好な純度95%以上、特に好ましくは99%以上の窒化アルミニウム製の静電チャックを製造できるようになった。 【0042】 本発明の静電チャックは、次の方法によって製造できる。まず、セラミックス成形体に、金属バルク体からなる面状の電極を埋設する。この過程では、次の方法を例示できる。 方法(1)予備成形体を製造し、この予備成形体の上に前記電極を設置する。次いで、この予備成形体及び電極の上にセラミックス粉末を充填し、一軸プレス成形する。 方法(2)コールドアイソスタティックプレス法によって、平板状の成形体を2つ製造し、2つの平板状成形体の間に電極を挟む。この状態で2つの成形体及び電極をホットプレスする。 【0043】 方法(2)においては、コールドアイソスタティックプレス法によって、予め成形体の密度が大きくなっており、かつ成形体中における密度のバラツキが、方法(1)の場合に比べて少なくなっている。従って、方法(1)の場合に比べて、ホットプレス時における成形体の収縮量が小さくなり、かつ焼成後におけるバラツキも小さい。この結果、基体の平均絶縁耐圧が、相対的に大きくなる。 【0044】 この作用効果は、静電チャックにおいては特に重要である。なぜなら、上記した理由から、静電チャックの誘電体層における平均絶縁耐圧を、より一層大きくし、その信頼性を飛躍的に向上させることができるからである。 【0045】 この意味で、コールドアイソスタティックプレス法によって得られた成形体の相対密度は、60%以上とすることが最も好ましい。 【0046】 更に、コールドアイソスタティックプレス法によって得られた成形体の表面に、電極をスクリーン印刷する方法は、印刷後、非酸化性雰囲気下において長時間の脱脂工程を実施する必要がある。この点、コールドアイソスタティックプレス法によって得られた成形体の間に電極を挟む態様では、こうした長時間の脱脂工程が存在しないので、量産の観点から有利である。 【0047】 更に、仮にスクリーン印刷によって電極膜を形成したと仮定すると、ホットプレス工程の際に電極膜が変形し、この結果、電極膜の上にある誘電体層の厚さが不均一となるという問題が生ずると考えられる。この点、面状の金属バルク体からなる電極を埋設すれば、ホットプレスの際に電極の剛性によって電極の変形を防止できるので、誘電体層の厚さの不均一を防止できる。静電チャックの場合には、この誘電体層の厚さがチャック性能を決定するので、重要である。ここで言う「面状の金属バルク体」とは、例えば、線体あるいは板体をらせん状、蛇行状に配置することなく、例えば、図3、図4、図5に示すように、金属を一体の面状として形成したものをいう。 【0048】 電極としては、その厚さ方向に向かってホットプレスをするため、ホットプレス時の歪みを防止するという観点から、平板形状の電極が好ましい。この電極としては、最高600℃以上の高温にまで温度が上昇する用途においては、高融点金属で形成することが好ましい。 【0049】 こうした高融点金属としては、タンタル,タングステン,モリブデン,白金,レニウム、ハフニウム及びこれらの合金を例示できる。半導体汚染防止の観点から、更に、タンタル、タングステン、モリブデン、白金及びこれらの合金が好ましい。被処理物としては、半導体ウエハーの他、アルミニウムウエハー等を例示できる。 【0050】 電極の形態は、薄板からなる面状の電極の他、多数の小孔を有する板状体からなる面状の電極や、網状の電極をも含む。電極が、多数の小孔を有する板状体である場合や網状の電極である場合には、これらの多数の小孔や網目にセラミックス粉末が流動して回り込むので、電極の両側における基体と絶縁性誘電層との接合力が大きくなり、基体の強度が向上する。また、電極の形態が薄板である場合には、電極と基体との熱膨張係数の差によって、電極の周縁部分に特に大きな応力が加わり、この応力のために基体が破損することがあった。しかし、電極が、多数の小孔を有する板状体である場合や網状体であるには、この応力が多数の小孔や編目によって分散される。 【0051】 多数の小孔を有する板状体としてはパンチングメタルを例示できる。ただし、電極が高融点金属からなり、かつパンチングメタルである場合には、高融点金属の硬度が高いので、高融点金属からなる板に多数の小孔をパンチによって開けることは困難であり、加工コストも非常に高くなる。 【0052】 この点、電極が金網である場合には、高融点金属からなる線材が容易に入手できるので、この線材を編組すれば金網を製造できる。従って、電極の製造が容易である。 【0053】 こうした金網のメッシュ形状、線径等は特に限定しない。しかし、線径φ0.03mm、150メッシュ〜線径φ0.5mm、6メッシュにおいて、特に問題なく使用できた。また、金網を構成する線材の幅方向断面形状は、円形の他、楕円形、長方形等、種々の圧延形状であってよい。 【0054】 以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態を説明する。図2は、静電チャックを概略的に示す断面図である。図3は、図2の静電チャックのうち一部を切り欠いて示す斜視図である。図4は、金網からなる電極3を示す斜視図である。 【0055】 略円盤形状の基体1の側周面1dにリング状のフランジ1cが設けられており、基体1の内部に、金網3からなる電極9が埋設されている。半導体ウエハー等の被処理物の設置面1a側には、所定厚さの絶縁性誘電層4が形成されている。この厚さを本発明に従って選択する。支持部分8側には端子10が埋設されており、端子10が電極9に接続されている。端子10の端面が、基体1の裏面1bに露出している。基体1の所定箇所に、半導体ウエハーを昇降するためのピンを通す孔2が形成されている。 【0056】 端子10に電線5Aを介して直流電源7が接続されている。吸着力を測定する目的で、ステンレス製おもり6を吸着面1a上に設置し、ステンレス製おもり6に電線(アース線)5Bを接触させた。ステンレス製おもり6を、荷重測定用のロードセル11に接続し、ステッピングモーター12によって、ロードセル11に接続されたステンレス製おもり6を、矢印A方向へと引き上げる。吸着力は、(おもりが剥離したときの荷重-おもりの質量)/(おもりの吸着面の断面積)によって求めることができる。 【0057】 この電極9は、図3、図4に示すような金網3によって形成されている。金網3は、円形の枠線3aと、枠線3aの内部に縦横に形成されている線3bとからなっており、これらの間に網目13が形成されている。 【0058】 図5(a)は、電極9として使用できるパンチングメタル14を示す斜視図である。パンチングメタル14は円形をしており、円形の平板14a内に多数の円形孔14bが、碁盤目形状に多数形成されている。 【0059】 図5(b)は、電極9として使用できる円形の薄板15を示す斜視図である。図5(c)は、電極9として使用できる薄板16を示す平面図である。薄板16内には、細長い直線状の切り込み16b、16cが、互いに平行に合計6列形成されている。このうち、3列の切り込み16bは、図5(c)において下側に開口しており、残り3列の切り込み16cは、上側に開口している。切り込み16bと16cとは、交互に配置されている。こうした形状を採用した結果、薄板によって細長い導電路が形成されている。この導電路の両端16aに端子を接続する。 【0060】 図6は、本発明の他の好適な実施形態に係る静電チャック17を概略的に示す断面図であり、図7は、図6の静電チャックを概略的に示す平面図である。略円盤形状の基体18の側周面18dにリング状のフランジ18cが設けられており、基体18の内部に電極9が埋設されている。半導体ウエハー等の被処理物の設置面18a側には、絶縁性誘電層40が形成されている。支持部分8側には端子10が埋設されており、端子10が電極9に接続されている。端子10の端面が、基体18の裏面18bに露出している。 【0061】 端子10に電線5Aを介して直流電源7が接続されている。吸着面18a側に被処理物41が設置されており、被処理物41が電線5Bを介して直流電源7の負極およびアース23に対して接続されている。基体18の所定箇所にガス導入孔42が形成されており、ガス導入孔42がガス分散用凹部に連続している。本実施形態では、ガス分散用凹部24Aが円形台状部27を取り囲むように形成されており、ガス分散用凹部24Aに対して開口するように、ガス導入孔が対称的な位置に等間隔に4箇所形成されている。円形台状部27には、円形の小さい突起26が多数規則的に形成されている。 【0062】 ガス分散用凹部24Aから外側に向かって放射状に延びるように、それぞれ直線状のガス分散用凹部24Bが形成されている。各ガス分散用凹部24Bの間の領域には、それぞれ台状部29が形成されており、台状部29は合計で8個形成されている。各台状部29には小さい円形突起26が多数規則的に形成されている。各台状部29の外側には、円環形状の突起25が吸着面の全体を取り囲むように形成されており、各ガス分散用凹部24Bの外側の末端が突起25によって区画されている。 【0063】 各ガス導入孔42の背面18b側の開口に供給管22が接続されており、これが図示しない供給装置に接続されている。基体18の支持部分8側には抵抗発熱体19が埋設されており、抵抗発熱体19の両端部分に端子20が接続されている。各端子に対して電力供給用のケーブル21が接続されており、このケーブル21は、図示しない電源に接続されている。 【0064】 本発明に従って、絶縁性誘電層40の厚さgは、500μm〜5.0mmの範囲内で選択する。また、ガス分散用凹部24A、24Bの深さtおよびガス分散用凹部の底面と電極との間隔sは、本発明に従って選択する。この静電チャックを稼働させるときには、供給管22から矢印Bのようにガスを供給し、ガス導入孔42内を通過させ、ガス導入孔42の吸着面側の出口から矢印C、Dのように吹き出させる。このガスは、矢印Dのようにガス分散用凹部24A内を、平面的に見て円形に流れ、同時に、矢印Cのように各ガス分散用凹部24B内を突起25の方へと向かって流れる。そして、ガスは台状部27、29の円形の突起26を除く部分にも分散し、被処理物の裏面全体にわたりガスが均一に分散する。 【0065】 また、各突起26によって、被処理物の吸着面への残留吸着力が大きくなりすぎないように、制御することができる。 【0066】 【実施例】 以下、更に具体的な実験結果について述べる。 (実施例1) 図6および図7に示すような形態の静電チャックを製造した。純度99.9%の窒化アルミニウムの粉末からなる成形体の中に電極を埋設し、この成形体をホットプレス焼結させて焼結体を製造した。ホットプレス温度を1910℃とし、絶縁性誘電層の常温での体積抵抗率を1×1011Ω・cmに制御した。 【0067】 電極としては、モリブデン製の金網を使用した。金網は、直径φ0.12mmのモリブデン線を、1インチ当たり50本の密度で編んだ金網を使用した。絶縁性誘電層の表面を機械加工し、絶縁性誘電層の厚さを調節した。背面側からマシニングセンターによって孔を形成し、また端子を電極に接合した。基体および絶縁性誘電層を構成する窒化アルミニウム焼結体の相対密度は99%であった。 【0068】 絶縁性誘電層の平均厚さを、表1に示すように変更した。各静電チャックを真空チャンバー内に設置し、抵抗発熱体19に電力を供給し、静電チャックが200℃となるように制御した。200℃での絶縁性誘電層の体積抵抗率は、2×108Ω・cmである。図2を参照しつつ説明した前記の方法に従って、吸着力を測定した。電圧の値は500Vまたは1000Vとした。電圧が500Vの場合について表1に示し、電圧が1000Vの場合について表2に示す。ただし、測定値は5g/cm2単位に丸めた。 【0069】 【表1】 【0070】 【表2】 【0071】 この結果からわかるように、絶縁性誘電層の厚さが0.5〜5.0mmの範囲、特に好ましくは1.0〜3.0mmの範囲内では、絶縁性誘電層の厚さが大きくなっても、吸着力の低下は相対的に少ないことが判明した。特に、半導体ウエハーと絶縁性誘電層との間に流すガスの圧力が20torr程度の場合には、半導体ウエハーを十分に安定して吸着することが可能であった。 【0072】 (実施例2) 実施例1と同様にして静電チャックを製造し、実施例1と同様に吸着力を試験した。ただし、ホットプレス温度を1800℃とし、絶縁性誘電層の常温での体積抵抗率を1×1015Ω・cmに制御した。 【0073】 静電チャックを半導体製造用のチャンバー中に設置し、抵抗発熱体内に電力を供給し、400℃にまで温度を上昇させた。400℃における絶縁性誘電層の体積抵抗率は、5×108Ω・cmであった。静電チャック電極への印加電圧は500Vとした。絶縁性誘電層の平均厚さを種々変更した結果を表3に示す。吸着力を試験するために使用したステンレス製おもり6の吸着部の面積は1cm2であり、これに流れる漏れ電流も同時に測定した。半導体ウエハーの面積は、8インチの場合、約300cm2であるので、測定値を300倍して8インチウエハーに流れる漏れ電流を予測し、表3に表示した。 【0074】 【表3】 【0075】 表3からわかるように、絶縁性誘電層の厚さが小さいと、電界強度(電圧/厚さ)が大きいが、電界強度が大きいほど、電流が流れやすいらしく、電流は厚さと反比例の関係になかった。 【0076】 このように、絶縁性誘電層の体積抵抗率が108Ω・cmにまで低下した場合にも、本願発明によれば、8インチウエハーといった大面積のウエハーにおける漏れ電流を著しく減少させることができ、かつ吸着力もこうした大面積のウエハーを保持するのに十分であった。 【0077】 (実施例3) 実施例1と同様にして、図6および図7に示すような形態の静電チャックを製造した。ただし、ホットプレス温度を1910℃とし、絶縁性誘電層の常温での体積抵抗率を1×1011Ω・cmに制御した。絶縁性誘電層の厚さを1.0mmに調節した。 【0078】 絶縁性誘電層の気孔率、最大気孔径、表面粗さ(最大高さ)を、表4、5に示すように制御した。ホットプレス圧力を200kg/cm2に設定することにより、気孔率0.1%、最大気孔径0.5μmを得た。また、ホットプレス圧力を50kg/cm2以下にして緻密化を抑制し、気孔率が3%または5%、最大気孔径が1μmまたは2μmの焼結体を得た。また、原料粉末中に、金属アルミニウムを造孔剤として混入させ、最大気孔径5μmまたは10μmの焼結体を得、加工条件による表面粗さ(最大高さ)Rmaxへの影響を種々検討した。 【0079】 各静電チャックを真空チャンバー内に設置し、抵抗発熱体19に電力を供給し、静電チャックが100℃となるように制御した。100℃での絶縁性誘電層の体積抵抗率は、8×109Ω・cmである。図2を参照しつつ説明した前記の方法に従って、吸着力を測定した。電圧の値は250V、500Vまたは750Vとした。吸着力の測定結果を、表4、5および図8に示す。 【0080】 【表4】 【0081】 【表5】 【0082】 この結果から判るように、絶縁性誘電層の表面粗さ(最大高さ)Rmaxが4μm以上であると、絶縁性誘電層に印加される電圧を上昇させても、吸着力の向上はほとんど見られないのに対して、表面粗さ(最大高さ)Rmaxが3μm以下であると、吸着力が著しく向上するだけでなく、絶縁性誘電層への印加電圧の増大に対して、吸着力が鋭敏に反応することがわかった。また、表面粗さ(最大高さ)Rmaxを3μm以下とした場合に気孔率を3%以下とすることによって、やはり吸着力が最も向上することがわかった。また、種々の表面加工条件を試みた結果、絶縁性誘電層の最大気孔径を5μm以下とすることによって、その表面粗さ(最大高さ)Rmaxを3μm以下に制御することができた。 【0083】 (実施例4) 図6および図7に示すような静電チャックを製造した。ただし、焼結助剤としてイットリアを含有する純度95%の窒化アルミニウム粉末を使用し、この粉末からなる成形体の中に電極を埋設し、この成形体をホットプレス焼結させて焼結体を製造した。電極としては、モリブデン製の金網を使用した。金網は、直径φ0.3mmのモリブデン線を、1インチ当たり20本の密度で編んだ金網を使用した。抵抗発熱体としてモリブデン製のワイヤーを埋設した。絶縁性誘電層表面を機械加工し、絶縁性誘電層の厚さを3.0mmとした。背面側からマシニングセンターによって孔を形成し、また端子を電極に接合した。 【0084】 円形突起26および台状部はサンドブラストによって形成し、円形突起26の台状部からの高さは20μmとした。ガス分散用凹部の幅は3.0mmとし、深さは1.0mmとした。ガス分散用凹部の底面から電極までの深さは2.0mmとした。 【0085】 基体および絶縁性誘電層を構成する窒化アルミニウム焼結体の相対密度は99.9%であった。この場合には、絶縁破壊耐圧は少なくとも10kV/mmであり、ガス分散用凹部の底面と電極との間隔が500μmであれば、絶縁破壊耐圧は5kV以上となる。これは、静電チャック駆動電圧である500V〜1000Vから見て5倍以上の安全率がある。また、絶縁性誘電層の平均厚さを3.0mmとしたことで、ガス分散用凹部の深さを1.0mmとしても、ガス分散用凹部の底面と電極との間隔を2.0mmとることができ、この部分で電極を削除する必要はない。 【0086】 【発明の効果】 以上述べたように、本発明によれば、被処理物を吸着するための静電チャックにおいて、絶縁性誘電層の体積抵抗率が低下する温度領域で静電チャックを使用する場合においても、絶縁膜における漏れ電流を減少させ、これと同時に、被処理物の吸着力を十分に高く保持できる。 【0087】 また、静電チャックの絶縁性誘電層の吸着面に開口するガス導入孔を設け、この吸着面側の溝等にガスを供給した場合に、この溝等の内部における圧力差を減少させることによって、被処理物の各部分と吸着面との間の熱伝達を均一化でき、また、この溝等と電極との間での絶縁破壊を防止できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の実施例に係る静電チャックの一部分を概略的に示す断面図である。 【図2】本発明の他の実施例に係る静電チャックを概略的に示す断面図である。 【図3】図2の静電チャックの電極およびその周辺を示す破断斜視図である。 【図4】電極として好適な網状電極を示す斜視図である。 【図5】(a)は、電極として好適なパンチングメタル14を示す斜視図である。(b)は、電極として使用できる円形の薄板15を示す斜視図である。(c)は、電極として使用できる薄板16を示す平面図である。 【図6】本発明の更に他の実施例に係る静電チャックを概略的に示す断面図である。 【図7】図6の静電チャックを概略的に示す平面図である。 【図8】絶縁性誘電層の表面粗さRmax、絶縁性誘電層への印加電圧と静電チャックの吸着力との関係を示すグラフである。 【符号の説明】 1、18 基体 1a、18a 吸着面 4、32、40 絶縁性誘電層 7 静電チャック電源 9、33 静電チャック電極 10 静電チャックの端子 21 電力供給用のケーブル 22 ガス供給管 24A、24B ガス分散用凹部 26 円形の小突起 27、29 台状部 B、C、D、E ガスの流れ s ガス分散用凹部の底面と電極との間隔 t ガス分散用凹部の深さ g 絶縁性誘電層の平均厚さ |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-08-24 |
出願番号 | 特願平8-218259 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
ZA
(H01L)
P 1 651・ 121- ZA (H01L) P 1 651・ 536- ZA (H01L) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 柴沼 雅樹 |
特許庁審判長 |
西川 恵雄 |
特許庁審判官 |
鈴木 孝幸 豊原 邦雄 |
登録日 | 2003-08-01 |
登録番号 | 特許第3457477号(P3457477) |
権利者 | 日本碍子株式会社 |
発明の名称 | 静電チャック |
代理人 | 西舘 和之 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 岩崎 幸邦 |
代理人 | 伊藤 由布子 |
代理人 | 樋口 外治 |
代理人 | 鈴木 壯兵衛 |
代理人 | 岩崎 幸邦 |
代理人 | 鈴木 壯兵衞 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 伊藤 由布子 |