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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1128974
異議申立番号 異議2003-72124  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-21 
確定日 2005-10-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3380271号「炭素繊維強化炭素複合材の製造方法」の請求項1〜3に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3380271号の請求項1に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3380271号は、平成4年9月8日に出願され、平成14年12月13日に特許の設定登録がなされたものであって、その特許につき、中村弘美(以下、「異議申立人」という)より特許異議の申立がなされ、その特許異議申立の理由と証拠に基づき、取消理由を通知したところ、権利者より平成16年1月16日付けで訂正請求書及び特許異議意見書が提出され、その後、再度、特許法第36条をその理由とする取消理由を通知したところ、権利者より、平成17年9月29日付けで訂正請求書及び特許異議意見書が提出され、先の平成16年1月16日付け訂正請求書が取り下げられたものである。
なお、上記の平成16年1月16日付け訂正請求書及び特許異議意見書を異議申立人に送付したところ異議申立人から何等の回答も得られなかったものである。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
平成17年9月29日付け訂正請求は、本件明細書につき、訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおりの、次の〈イ〉〜〈ハ〉の訂正を求めるものである。
以下、訂正前の明細書を「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された訂正明細書を「本件明細書」という。
〈イ〉特許明細書の請求項1における記載を、
「【請求項1】ブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の成形工程において、成形金型内に、複数枚の成形体を形成するように、炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されているプリプレグを、一成形体分のプリプレグ毎に間に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層を介在させながら導入し、150〜300℃で押圧成形することにより、同時に多数枚の成形体を得ることを特徴とするブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。」に訂正する。
〈ロ〉特許明細書の請求項2及び3の記載を削除する。
〈ハ〉特許明細書の段落0005における記載を、
「【課題を解決するための手段】本発明は、ブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の成形工程において、成形金型内に、複数枚の成形体を形成するように、炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されているプリプレグを、一成形体分のプリプレグ毎に間に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層を介在させながら導入し、150〜300℃で押圧成形することにより、同時に多数枚の成形体を得ることを特徴とするブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の製造方法を提供する。」に訂正する。

II-2.訂正の適否の判断
II-2-1.訂正の目的の適否
上記〈イ〉の訂正は、具体的には、
〈イ-1〉請求項1における「炭素繊維強化炭素複合材」につき、「ブレーキ用の」との事項を付加(2箇所)し、
〈イ-2〉請求項1における「複数枚の成形体を形成するためのプリプレグを各プリプレグ間に離型層を介在させながら導入し」を、「複数枚の成形体を形成するように、炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されているプリプレグを、一成形体分のプリプレグ毎に間に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層を介在させながら導入し」に訂正するものであって、当該〈イ-1〉の訂正は炭素繊維強化複合材の用途を限定するものであり、また、当該〈イ-2〉の訂正は、プリプレグを「炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されている」ものに限定し、プリプレグの成形金型内への導入方法を「複数枚の成形体を形成するように、一成形体分のプリプレグ毎に間に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層を介在させながら」実施するものに限定するものであり、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈ロ〉の訂正は、請求項の記載を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈ハ〉の訂正は、上記請求項の訂正により不明瞭ないしは不一致となった発明の詳細な説明の記載を当該請求項の記載に整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
II-2-2.新規事項の有無
上記〈イ-1〉の訂正は、特許明細書の段落0003の記載により特許明細書に記載されている発明がブレーキの用途に適用することを意図していることが明らかであるから、自明なこととして導きだし得るものである。
上記〈イ-2〉の訂正は、特許明細書の段落0006に記載される発明の態様に関するの記載内容、同段落0008〜0012に記載される発明の実施例の記載内容から自明なこととして導き出されるものである。
上記〈ロ〉及び〈ハ〉は、単に請求項を削除し、又は、発明の詳細な説明の記載を当該請求項の記載に整合させるだけのものであるので、これらの訂正は特許明細書の記載に基づくものであることは明白である。
II-2-3.拡張・変更の存否
上記〈イ-2〉の訂正においては、特許明細書の請求項1における「複数枚の成形体を形成するためのプリプレグ」から「複数枚の成形体を形成するための」との事項が削除されているものの、訂正後の請求項1においては、そのプリプレグにより「多数枚の成形体を得る」こととしており且つそのプリプレグを「複数枚の成形体を形成するように」金型内に導入することが規定されていることからみると、上記訂正後のプリプレグが複数枚の成形体を形成するためのものとして実質上規定されていることは明らかであり、したがって、上記〈イ-2〉の訂正における当該訂正は、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものに該当しない。
その他の〈イ-1〉〜〈ハ〉の訂正は、請求項に記載される発明を限定し、請求項を削除し、又は、明細書の記載を明瞭化するだけのものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しない。
II-2-4.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
特許明細書についての訂正請求は前記したとおり容認されたものであり、したがって、訂正後の本件特許第3380271号の請求項1に係る発明(以下、必要に応じて、「本件発明」という)は、本件明細書の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】ブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の成形工程において、成形金型内に、複数枚の成形体を形成するように、炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されているプリプレグを、一成形体分のプリプレグ毎に間に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層を介在させながら導入し、150〜300℃で押圧成形することにより、同時に多数枚の成形体を得ることを特徴とするブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。

IV.特許異議申立及び取消理由の概要
IV-1.特許異議申立
異議申立人は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
【理由-1】特許明細書の請求項1及び3に係る発明(訂正後の本件発明)は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、また、特許明細書の請求項1〜3に係る発明(訂正後の本件発明)は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
【理由-2】特許明細書の請求項2に係る発明(訂正により削除)の特許は、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
したがって、特許明細書の請求項1〜5に係る発明の特許は取り消されるべきものである。
甲第1号証:特公平3-35262号公報(以下、「引用例1」という)
甲第2号証:特開昭58-94450号公報(以下、「引用例2」という)
IV-2.取消理由
【理由-イ】取消理由は、異議申立の上記理由-2により特許明細書の請求項2に係る発明の特許は取り消されるべきものである。
【理由-ロ】特許明細書の請求項1〜3に係る発明は、下記の引用例1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、それら特許は取り消されるべきものである。
引用例1:上記甲第1号証
引用例2:上記甲第2号証
引用例3:特開昭56-9271号公報
引用例4:特開昭63-210065号公報
引用例5:特開平3-150266号公報
引用例6:特開平3-205361号公報
引用例7:特開昭64-33068号公報
引用例8:特開平2-129229号公報
引用例9:特開平3-243309号公報
引用例10:特開平1-268188号公報

V.証拠の記載内容
V-A.引用例1(特公平3-35262号公報)には、以下のことが記載されている。
(A-1)「少なくとも熱硬化性樹脂ポリマー、炭素質フイラーを含む混練物から、プレートを成形し、これを樹脂シートの離型性材料を介して多段積層し、次いで積層されたプレートを50〜100℃で10時間以上加熱する工程、150〜200℃の加熱下で1〜10Kg/cm2の圧力を加えながら1〜30分処理する工程、180〜300℃で5時間以上加熱する工程からなる多段硬化処理に付し、硬化後プレートを非酸化性雰囲気下で炭化焼成することを特徴とする不透過性炭素プレートの製造方法。」(第1頁左欄第2〜11行、特許請求の範囲)
(A-2)「本発明における炭素質フイラーとは、コークス粉、黒鉛粉、ガラス状カーボン粉、カーボンブラック等の炭素質粉末が使用される。」(第2頁左欄第10〜12行)
(A-3)「このプレートを多段に積層して硬化工程にはいるが、積層されたプレート同志が相互に粘着しないようにプレート間に離型性材料を介在させる。このような離型材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂シートが好ましく用いられる。」(第2頁左欄第34〜39行)
(A-4)「本発明により・・・、さらに、従来に比してたとえば40段程度の多段に積層することが可能であり、コストの大幅な低減を図ることができる。」(第2頁右欄第26〜31行)
(A-5)「実施例1
黒鉛微粉(平均粒径4μm)100重量部に粉末フェノール樹脂(・・・)48重量部、液状フェノール樹脂(・・・)52重量部およびカルボキシメチルセルロース2重量部を混合し、・・・圧延機を用いて・・・プレート状に成形された。
得られた未硬化プレートはポリエチレンシートを介してアルミ板にてはさみ、熱風循環式オーブン内に20段積層した。オーブン内において、80℃×15hrの処理を行つたのち、熱圧プレスを用いて2Kg/cm2の圧力を加え、180℃×5分の処理を行う。ついで、上記加熱オーブン内で220℃×7hrの後硬化処理を行い、プレートの硬化を完結させる。
さらに、電気炉中でプレートを黒鉛板ではさみ、コークス炉で周囲を被包し電気炉内を非酸化性雰囲気にしたのち、8℃/hrで1300℃まで焼成を行う。」(第2頁右欄第42行〜第3頁右欄第3行)

V-B.引用例2(特開昭58-94450号公報)には、以下のことが記載されている。
(B-1)「(1)金属層を含まないプリプレグ層の上下面に、離型フィルムを介してプリプレグ層を設け、金属プレート間で加熱加圧することを特徴とする積層板の製造方法。
(2)離型フィルムを介してプリプレグ層を反復して設けることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の積層板の製造方法。」(第1頁左下欄第5〜11行)
(B-2)「金属層を含まないプリプレグ層の上下面に、離型フィルムを介してプリプレグ層を設け、金属プレート間で加熱加圧するため加圧クッション力が大きくなり、気泡を内蔵しない積層板を金属プレート間で一度に複数枚得ることができるものである。」(第1頁右下欄第5〜10行)
(B-3)「本発明に用いる積層板用基材は、ガラス、アスベスト等の無機繊維やポリエステル、・・・等の有機合成繊維や木綿等の天然繊維からなる織布、不織布又はマット、紙或はこれらの組合せ基材等の積層板用基材全般である。」(第1頁右下欄第11〜17行)
(B-4)「積層板用樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、・・・等の単独又は変性物又は混合物等が用いられ、・・・等の溶媒を必要に応じて添加したワニスで、上記積層板用基材に上記ワニスを含浸、乾燥してプリプレグを得るものである。」(第1頁右下欄第17行〜第2頁左上欄第6行)
(B-5)「離型フィルムとしてはポリエステル、ポリプロピレン、弗化樹脂、トリアセテート、ナイロン等の耐熱性と離型性を併せもつフィルム、シートであるならば特に限定するするものではない。」(第2頁第6〜10行)
(B-6)「1は金属層を含まない厚さ0.2mmの紙基材フェノール樹脂プリプレグ層で、該プリプレグ1の上下面に厚さ0.035mmのポリエステルフィルム2、2´を介して厚さ0.2mmの紙基材フェノール樹脂プリプレグ層3、3´を設け金属プレート4、4´間で成形圧力100Kg/cm2、成形温度160℃で60分間加熱加圧して金属プレート間で一度に3枚の気泡の内蔵しない積層板を得た。」(第2頁右上欄第6〜13行)

V-C.引用例3(特開昭56-9271号公報)には、以下のことが記載されている。
(C-1)「本発明は向上された強度を有する炭素-炭素繊維複合体に関する。さらに詳細には本発明はその中で個々の繊維が最適の強度を達成するために円周方向に配向されている航空機ブレーキデイスクに使用するための炭素-炭素繊維複合体の改良製造法に関する。」(第2頁左下欄末行〜右下欄第5行)

V-D.引用例4(特開昭63-210065号公報)には、以下のことが記載されている。
(D-1)「東レ株式会社製炭素繊維“トレカ”平織物CO6343(・・・)にフェノール樹脂の30重量%メタノール溶液を含浸し、・・・。一方、東レ株式会社製炭素繊維単繊維・・・(平均繊維長6mm)と上記溶液とを混合し、シート状に広げ、乾燥して短繊維プリプレグを得た。次に、金型内に、上記短繊維プリプレグを5枚積層し、その上に上記織物プリプレグをその織糸の方向を45°づつずらせて25枚積層し、さらにその上に上記短繊維プリプレグを5枚積層し、10Kg/cm2の圧力下に170℃で加熱してフェノール樹脂を硬化させ、成形板を得た。次に、・・・フェノール樹脂を炭化した後」(第3頁右下欄第11行〜第4頁左上欄第7行)

V-E.引用例5(特開平3-150266号公報)には、以下のことが記載されている。
(E-1)「(産業上の利用分野)この発明は炭素密度・高強度を有する炭素/炭素複合材料の製造方法に関するものである。」
(従来の技術)炭素/炭素複合材料(以下c/cコンポジットと称す)は、高い機械強度,耐熱性,耐衝撃性,化学安定性などの優れた特性を有する炭素繊維で強化された炭素材料であり、近年ではロケットノズルブレーキ材,熱間構造材料などとして利用されてきている。」(第1頁右下欄第8〜17行)
(E-2)「実施例1.
PAN系炭素繊維(・・・)直径7μm,繊維長6mmを40重量%、人造黒鉛粉末、平均粒径12μmを20重量%、及びフェノール樹脂粉末(・・・)を40重量%を湿式抄紙法にて混抄紙とし、・・・乾燥してプリプレーグとした。・・・このプリプレーグを120×120mmに切断し、30枚積層して160℃に加熱した金型中に250Kg/cm2の圧力で成形し、成形体を得、さらに200℃のオーブン中に24時間放置し後硬化した。・・・炭素化焼成しc/cコンポジットを得た。」(第4頁左上欄第16行〜右上欄第12行)
(E-3)「比較例1
実施例1と同様のPAN系炭素繊維のみで湿式抄紙し、厚さ0.42mm,秤量60g/m2の抄紙を得た。この抄紙に実施例1と同様の人造黒鉛粉末とフェノール樹脂粉末を重量比1:2で混合し、さらにN-メチル・2・ピロリドンを溶剤としてマトリックス前駆体樹脂混合液とし塗布した後、実施例1と同様の配合比となるよう過剰マトリックス前駆体樹脂混合液をローラーを通し除去した。そしてマトリックス前駆体が含浸された炭素繊維抄紙を100℃のドライヤー中、30分放置し、プリプレーグとし、後に実施例1と同様の行程を経てc/cコンポジットを得た。」(第4頁右上欄第13行〜左下欄第5行)

V-F.引用例6(特開平3-205361号公報)には、以下のことが記載されている。
(F-1)「〔産業上の利用分野〕本発明は、炭素繊維/炭素複合材料の製造方法に関する。
〔従来の技術〕炭素繊維/炭素複合材料は、炭素繊維を強化材とし、炭素をマトリックスとした複合材料であり、常温、高温での機械的特性に優れているため、摩擦材、るつぼ、電極、シーリング材等多数の用途に用いられている。」(第1頁右下欄第19行〜第2頁左上欄第7行)
(F-2)「液体レゾール型フェノール樹脂(・・・)100重量部に、平均粒径20μmの人造黒鉛80重量部と酸触媒8重量部を常温で混合して混合物とした。
この混合物を離型剤を塗布したフィルム上に、1,300g/m2となるように均一に塗布した。更に、この上に繊維長さ12.5mmの炭素繊維チョップを800g/m2となるように均一に分散させた。これを2枚つくり、フィルムが外側になるように張り合わせたのち、両側をゴムシートで挟んで、加圧ロールを通して炭素繊維層にフェノール樹脂を含浸させて、完全に一体化させ、厚み約2mmのシート状の積層体とした。
この積層体を内寸法が300×300×10mmの簡易型に沿って張り付けることにより予備成形し、継ぎ目が重ならないように2枚用いて所定の厚みとした。予備成形したものを、金型に入れ、温度150℃、圧力50Kg/cm2でプレス成形して4mm厚みのトレイ状の炭素繊維/炭素複合材料成形品とした。
このトレイ状成形品を、・・・・2,000℃まで昇温して炭素繊維/炭素複合材料製品とした。」(第3頁右下欄第8行〜第4頁左上欄第15行)

V-G.引用例9(特開平3-243309号公報)には、以下のことが記載されている。
(G-1)「シート状に配列された強化繊維束の各面に、少なくとも一方が一面に樹脂を担持している離型シートをその樹脂担持面において重ね合せ、該重ね合せ体を少なくとも一対のロール端に通して加圧することにより、前記樹脂の強化繊維束への転移、含浸と前記強化繊維束の押し拡げとを行うプリプレグの製造方法において、・・・プリプレグの製造方法。」(第1頁左下欄第5〜17行、特許請求の範囲第1項)
(G-2)「本発明で用いられる離型シートは、離型紙、たとえば厚みが0.05〜0.2mm程度のクラフト紙、ロール紙、グラシン紙などの紙の両面に、・・・塗布層を設け、更にその各塗布層の上にシリコーン系または非シリコーン系の離型剤、・・・塗布したようなものである。・・・離型剤を塗布した合成樹脂フィルムを使用することもできる(ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等)。」(第3頁左上欄末行〜右上欄第13行)

V-H.引用例10(特開平1-268188号公報)には、以下のことが記載されている。
(H-1)「金属板に電気絶縁性のセラミックを溶射してセラミック層を形成する第1行程、該セラミック層の表面に穴のあいた離型フィルム、離型シートまたは離型紙を介してプリプレグを載置、熱圧成形する第2工程、硬化したプリプレグ及び離型フィルム、離型シートまたは離型紙をセラミック層からはがして除去する第3工程、セラミック層の表面を研磨して表面の樹脂層を除去する第4工程、セラミック層の表面に無電解銅めっきを施して銅メッキ層を形成する第5工程からなることを特徴とする金属ベース基板の製造方法。」(第1頁左下欄第4〜14行)
(H-2)「本発明に使用し得る離型性材料としては、・・・ガラス布基材シリコーン樹脂シート、・・・、あるいは紙、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムなどの表面にテフロンコーティング、シリコーンコーティングなどの離型処理を施したものを用いることができる。」(第3頁左下欄第16行〜右下欄第4行)

VI.当審の判断
VI-1.理由-1について
引用例1の前記摘示(A-1)及び(A-5)によれば一連の不透過性炭素プレートの製造方法に関する事項が記載されており、また、前記摘示(A-3)によればその製造方法において使用される離型性材料として樹脂シートが好ましく用いられることが記載されており、以上のことから、引用例1には、「熱硬化性樹脂ポリマー、炭素質フイラーを含む混練物から、プレートを成形し、これを樹脂シートからなる離型性材料を介してアルミ板にてはさみ多段積層し、次いで150〜200℃の加熱下で1〜10Kg/cm2の圧力を加えながら1〜30分処理する工程を含む多段硬化処理に付し、硬化後プレートを非酸化性雰囲気下で炭化焼成する不透過性炭素プレートの製造方法」に関する発明(以下、必要に応じて、「引用例1発明」という)が記載されているものである。
そこで、本件発明と引用例発明1とを対比する。
引用例1発明では熱硬化性ポリマーと炭素質フィラーを含むプレートを炭化焼成するのであるから、これにより得られた引用例1発明の不透過性炭素プレートは、炭素のみからなる炭素複合材となっているということができる。
また、引用例1発明では、プレートを樹脂シートからなる離型性材料を介してアルミ板にてはさみ多段積層し、次いで150〜200℃の加熱下で1〜10Kg/cm2の圧力を加えながら硬化処理するものであるので、一対のアルミ板である金型内にプレートを一硬化体分のプレート毎に離型層を介在させながら導入し、150〜200℃の加熱下で押圧処理しているということができる。
更に、引用例1発明では、その前記摘示(A-3)によれば、プレート同志が相互に粘着しないようにプレート間に離型性材料が介在されるのであるから、同時に多数枚の硬化後プレートを得ることができるものである。
この場合、引用例1発明の「(一対の)アルミ板」、「樹脂シートからなる離型性材料」は本件発明の「金型」、「離型層」にそれぞれ相当し、また、その熱条件である150〜200℃は本件発明の温度範囲の数値に含まれる。
そして、本件発明の「プリプレグ」も引用例1発明の「プレート」も共に成形ないしは硬化処理を受ける予定のものであるから「処理前体」ということができるものであり、また、本件発明の「押圧成形」及び「押圧成形を伴う成形」も引用例1発明の上記「硬化処理」も共に圧力を伴う処理であるから「押圧処理」ということができるものであり、更に、本件発明の「成形体」も引用例1発明の「硬化後プレート」も共に当該成形ないしは硬化処理を受けた後に得られるものであるから「処理後体」ということができるものである。
よって、両者は、
「炭素複合材の押圧処理工程において、金型内に、複数枚の処理後体を形成するように、処理前体を、一処理後体分の処理前体毎に間に離型層を介在させながら導入し、150〜300℃で押圧処理することにより、同時に多数枚の処理後体を得る、炭素複合材の製造方法」である点で共通し、以下の点で相違する。
【相違点1】当該炭素複合材が、本件発明では「ブレーキ用の」ものであるのに対して、引用例1発明ではそのことが示されない点
【相違点2】当該炭素複合材が、本件発明では「炭素繊維強化」のものであるのに対して、引用例1発明ではそのことが示されない点
【相違点3】当該押圧処理が、本件発明では「成形」又は「押圧成形」であるのに対し、引用例1発明ではそのことが示されない点
【相違点4】当該処理前体が、本件発明では「炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されているプリプレグ」であるのに対して、引用例1発明ではそのことが示されない点
【相違点5】当該離型層が、本件発明では「離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した」ものであるのに対して、引用例1発明ではそのことが示されない点
【相違点6】当該金型が、本件発明では「成形」の金型であるのに対して、引用例1発明ではそのことが示されない点
そして、上記相違点1〜6に係る本件発明の構成は、引用例1発明のその他の事項及び周知技術を考慮したとしても自明なこととして導き出せるものではない。
したがって、本件発明は引用例1に記載された発明であるということはできない。
次に、上記相違点のうち、まず、相違点5に係る構成が容易に想到できるか否かにつき検討する。
本件明細書の記載(特に実施例の箇所の記載)及び平成17年9月29日付け特許異議意見書の記載(第1頁下から第6行〜第2頁末行)によれば、本件発明では、通常空隙に富み嵩高いというブレーキ用のプリプレグを押圧成形するに際して、プリプレグ間に介在される離型層につき、「離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した」ものとするとの構成を採択することにより、その余の構成と相俟って、プリプレグに対して通気性と剥離性に優れた離型層を提供することができることから、同時に多数枚の成形体を得ることができるだけでなく、一枚毎に押圧成形されたものと同等の物性の成形体ないしは炭素繊維強化炭素複合材を得ることができたという、有用な効果を奏してものである。
これに対して、引用例1発明では、当該離型層として樹脂シートが好ましく用いられるだけであり、そこからは上記相違点5に係る構成を容易に導き出せるものではない。
次に、引用例2に記載のものをみると、そこでは、前記摘示(B-1)及び(B-6)によれば、「プリプレグ層の上下面に、離型フィルムを介してプリプレグ層を設け、金属プレート間で加熱加圧する」ことが記載され、その離型層として、前記摘示(B-5)によれば、離型フィルムとしてはポリエステル、ポリプロピレン、弗化樹脂、トリアセテート、ナイロン等の耐熱性と離型性を併せもつフィルム、シートが例示されるだけであり、離型紙と離型織物からなる離型層の使用につき教示されるものはない。
してみれば、引用例1発明に対して引用例2の記載のものを併せてみても、上記相違点5に係る構成が容易に導き出せるものではない。
そうすると、他の相違点については判断するまでもなく、本件発明は引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VI-2.理由-2について
ここでの異議申立人の主張は、特許明細書の請求項2に係る発明が発明の詳細な説明に記載されていないというものである。
しかし、上記訂正請求により、特許明細書の請求項2は削除され、その結果、取り消すべき請求項がもはや存在しないことになったものであるから、この理由については、これ以上審及しない。

VI-3.理由-ロについて
引用例5には、その前記摘示(E-3)、(E-2)及び(E-1)によれば、
「PAN系炭素繊維のみで湿式抄紙し抄紙を得て、この抄紙にフェノール樹脂粉末を含有するマトリックス前駆体樹脂混合液を塗布・含浸して、プリプレーグとし、このプリプレーグを、160℃に加熱した金型中で250Kg/cm2の圧力で成形し、さらに当該成形体を炭素化焼成してなる、炭素/炭素複合材料の製造方法」に関する発明(以下、必要に応じて、「引用例5発明」という)が記載されているものである。
そこで、本件発明と引用例5発明とを対比する。
引用例5発明の「炭素/炭素複合材料」、「プリプレーグ」及び「PAN系炭素繊維」は、本件発明の「炭素繊維強化炭素複合材」、「プリプレグ」及び「炭素繊維」にそれぞれ相当する。
また、引用例5発明のプリプレーグは炭素繊維を湿式抄紙することにより製造されるものであるから、その炭素繊維は特定の方向に配向するものでなく、通常、本件発明と同じように2次元ランダムに配向しているということができるものであり、そして、そのプリプレーグには本件発明と同じように炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されている。
そしてまた、引用例5発明のプリプレーグは、本件発明と同じように成形金型内に押圧成形されるものであり、その場合の160℃の熱条件は、本件発明の温度範囲に含まれる。
よって、両者は、
「炭素繊維強化炭素複合材の成形工程において、成形金型内に、成形体を形成するように、炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されているプリプレグを導入し、150〜300℃で押圧成形する、炭素繊維強化炭素複合材の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点イ】当該炭素繊維強化炭素複合材が、本件発明では「ブレーキ用の」ものであるのに対して、引用例5発明では当該構成が明示されない点
【相違点ロ】当該製造方法において、本件発明では「複数枚の」成形体を形成するようにするとの構成を具備しているのに対して、引用例5発明ではそれが示されない点
【相違点ハ】当該製造方法において、本件発明では、成形金型内にプリプレグを「一成形体分のプリプレグ毎に間に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層を介在させながら」導入するとの構成を具備するのに対して、引用例5発明は、成形金型内にプリプレグを導入するものの、複数枚の成形体を形成するものでなく、また、離型層を設けるものでなく、したがって、当該構成を具備しない点
【相違点ニ】当該製造方法において、本件発明では「同時に多数枚の成形体を得ること」との構成を具備しているのに対して、引用例5発明ではそれが示されない点
以下、上記相違点のうち、相違点ハにつき検討する。
本件発明が相違点ハを採択する意義については、前記VI-1.で説示したとおりである。
一方、引用例5発明は、複数枚の成形体を形成するものでなく、そこに離型層を設ける必要はなく、したがって、当該相違点ハに係る構成を容易に導き出せるものではない。
次に、その他の引用例の記載を順次みる。
引用例1及び2には、前記VI-1.で説示したとおり、離型性材料ないしは離型フィルムを介して、熱硬化性樹脂を含有するプレート又プリプレグを、押圧処理ないしは加熱加圧(成形)することが示されるものの、離型層につきそれ以上のことは示唆されない。
引用例3では炭素-炭素繊維複合体を航空機ブレーキデスクに供すること等が示され、引用例4では、織物プリプレグと短繊維プリプレグとを積層して成形板を製造すること等が示され、引用例6〜8では炭素繊維/炭素複合材又は炭素繊維チョップドストランドに関することが示されるものの、離型層につき示されるものは何もない。
引用例9ではプリプレグを製造する際に用いる離型シートとして離型紙を用いること、また、引用例10では、金属基板を製造する際に用いる穴あき離型フィルムとしてガラス布基材シリコーン樹脂シートを用いることが記載されるだけであって、プリプレグを押圧成形する際に、両者の剥離材料を、同時に、用いることにつき具体的に示唆するものはなく、また、離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層をプリプレグの押圧成形に用いた場合の利点につき教示するものでもない。
してみれば、引用例1〜4及び6〜10の記載を引用例5発明に併せてみても、引用例5発明において、上記相違点の構成である、成形金型内にプリプレグを「一成形体分のプリプレグ毎に間に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層を介在させながら」導入することが容易に導き出せるものではない。
そうすると、他の相違点については判断するまでもなく、本件発明は引用例5、1〜4及び6〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VII. まとめ
特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
炭素繊維強化炭素複合材の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の成形工程において、成形金型内に、複数枚の成形体を形成するように、炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されているプリプレグを、一成形体分のプリプレグ毎に間に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層を介在させながら導入し、150〜300℃で押圧成形することにより、同時に多数枚の成形体を得ることを特徴とするブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、炭素繊維強化炭素複合材の成形工程において、1つの金型内で同時に複数枚の成形体を得る方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に炭素繊維強化炭素複合材(以下「C/C複合材」という)は、PAN系、ピッチ系、あるいはレーヨン系などの長短炭素繊維にフェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂あるいはピッチ類などの熱可塑性樹脂等を含浸、または混合して得られたプリプレグを加熱成形し、ついで非酸化性雰囲気中で焼成し、さらに緻密化、黒鉛化処理して製造される。
【0003】
C/C複合材は、摩擦特性、機械特性、耐熱性に優れ、かつ軽量であることから航空機や車両用のブレーキとしても用いられている。炭素繊維は、2次元織物である織布や短繊維の形状でC/C複合材に用いられる。短繊維状であると、均一な摩擦面が容易に得られること、安価であること等の理由により、摩擦材用としては、短繊維で強化したC/C複合材が一般に用いられている。短繊維強化型C/C複合材の成形方法としては、短繊維状炭素繊維を溶媒中で均一に分散した後、該溶媒を除去する抄紙法により作製したプリプレグを金型へ充填して成形する方法、長繊維に樹脂を含浸した後チョップしたいわゆるトウプリプレグを金型に充填して成形する方法、さらには、短繊維のマットやウエブに樹脂を含浸したプリプレグを金型に積層充填して成形する方法等がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし繊維を強化材とする複数枚のプリプレグを金型内で同時に成形する場合には、プリプレグ同士が剥離できず一体化してしまうため、1回の成形で1枚の成形体しか得ることができないという問題があった。本発明の目的は、C/C複合材の製造において、該複合材用成形体の量産可能な方法を提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の成形工程において、成形金型内に、複数枚の成形体を形成するように、炭素繊維が2次元ランダムに配向したものに樹脂が含浸されているプリプレグを、一成形体分のプリプレグ毎に間に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層した離型層を介在させながら導入し、150〜300℃で押圧成形することにより、同時に多数枚の成形体を得ることを特徴とするブレーキ用の炭素繊維強化炭素複合材の製造方法を提供する。
【0006】
本発明で用いられる炭素繊維を強化材とするプリプレグは、抄紙法で作製したプリプレグ、トウプリプレグ、あるいは織物、2次元ランダム配列材、一方向配列材、ニードルタイプ等の強化材に樹脂を含浸したプリプレグ等のいずれでもよい。上記プリプレグを金型へ一成形体分充填し、その上に離型層を重ね、さらにその上に一成形体分のプリプレグを重ねる、という操作を繰り返して、金型内にプリプレグを積層し、ついで押圧成形する。離型層としては、成形体の離型を容易とするものであれば特に限定はなく、例えば、紙にシリコーンを塗布した離型紙、紙をポリエチレンで被覆した後シリコーンを塗布した離型紙、真空バッグ成形で一般に用いられているテフロンフィルムやポリイミドフィルム、PETフィルムにシリコーンを塗布した離型フィルム、ガラスクロスにシリコーンを含浸あるいは塗布した離型織物、ステンレス板等が例示される。これらを単独で、あるいは組み合わせて使用してもよい。
【0007】
離型層を介在させて積層したプリプレグは、ホットプレスを用いて、150〜300℃、好ましくは180〜280℃で押圧、成形される。本発明の方法によれば、各プリプレグには同一の面圧をかけることができるので、各成形体は同一の圧力および温度条件下で成形されるという利点がある。また各プリプレグの充填量を変えることにより、厚みの異なる成形体を同時に得ることもできる。得られた繊維強化成形体(FRP)は、その内部に離型層を持つため、容易に複数枚の成形体に分離できる。分離された成形体を焼成、緻密化、さらに必要に応じて黒鉛化することにより、容易に複数枚のC/C複合体を製造することができる。なお、積層されたプリプレグにそのまま焼成、緻密化等の処理を加え、ついで個々のプリプレグに剥離することもできる。このC/C複合体は、金型内で1枚づつ成形して得られた成形体からのC/C複合体と同様な特性を有する。以下本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。
【0008】
実施例1
フィラメント数4000のピッチ系炭素繊維を30mm長さに切断し、これをランダムウエバーを用いて解繊し、2次元ランダムに配向した目付200g/m2のシートを得た。このシートにエタノールで希釈したフェノール樹脂を含浸させた後乾燥し、200g/m2の炭素繊維に対し130g/m2のフェノール樹脂を含浸したシートを作製した。次に金型に紙の表面にシリコーンを塗布した離型紙を置き、この上に該シート一成形体分を積層した。ついで該シート上に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層し、この上に一成形体分のシートを積層し、さらにこの上に離型紙および離型織物を順次積層した。
【0009】
この積層物を面圧100kg/cm2、250℃で加圧成形し、Vf≒45%の2枚の成形体を得た。この2枚の成形体の表面は、通常の1枚毎に成形した成形体の表面と変わらず良好であった。この2枚の成形体をそれぞれ焼成、緻密化、黒鉛化して気孔率8%のC/C複合材を得た。この物の物性は、1枚毎に成形して得られた成形体を焼成、緻密化、黒鉛化して得られたC/C複合材と同等であった。
【0010】
実施例2
フィラメント数4000のピッチ系炭素繊維を30mm長さに切断し、これをランダムウエバーを用いて解繊し、2次元ランダムに配向した目付200g/m2のシートを得た。このシートにエタノールで希釈したフェノール樹脂を含浸させた後乾燥し、200g/m2の炭素繊維に対し130g/m2のフェノール樹脂を含浸したシートを作製した。次に金型に紙の表面にシリコーンを塗布した離型紙を置き、この上に該シート一成形体分を積層した。ついで該シート上に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層し、この上に一成形体分のシートを積層し、さらにこの上に離型紙および離型織物を順次積層した。
【0011】
この積層物を面圧150kg/cm2、250℃で加圧成形し、Vf≒50%の2枚の成形体を得た。この2枚の成形体の表面は、通常の1枚毎に成形した成形体の表面と変わらず良好であった。この2枚の成形体をそれぞれ焼成、緻密化、黒鉛化して気孔率8%のC/C複合材を得た。この物の物性は1枚毎に成形して得られた成形体を焼成、緻密化、黒鉛化して得られたC/C複合材と同等であった。
【0012】
実施例3
フィラメント数4000のピッチ系炭素繊維を30mm長さに切断したもの340gを、10リットルのフェノール樹脂-アルコール溶液中に均一に分散してスラリー状にした。このスラリーを外筒215mm、内筒50mmであり、外筒と内筒間の底部に網目150メッシュのスクリーンおよびスクリーンの下側に底板を有する成形用型の外筒と内筒の間に投入した。さらに均一に撹拌した後、底板を引き抜き、炭素繊維が均一に分散したドーナツ状のプリフォームを得た。該プリフォームを同一内外径を有する容器内で、70℃で2時間乾燥し、650gの一成形体分のプリプレグとした。次に金型に紙の表面にシリコーンを塗布した離型紙を置き、この上に該プリプレグを充填した。ついで該プリプレグ上に離型紙およびガラスクロスにシリコーンを含浸した離型織物を順次積層し、さらにこの上に金型と同一内外径を持つ2mm厚さのステンレス板を置き、さらに離型紙を重ね、さらにこの上にプリプレグを重ね、さらにこの上に離型紙および離型織物を順次積層した。
【0013】
この積層物を面圧150kg/cm2、250℃で加圧成形し、Vf≒50%の2枚の成形体を得た。この2枚の成形体の表面は、通常の1枚毎に成形した成形体の表面と変わらず良好であった。この2枚の成形体をそれぞれ焼成、緻密化、黒鉛化して気孔率8%のC/C複合材を得た。この物の物性は1枚毎に成形して得られた成形体を焼成、緻密化、黒鉛化して得られたC/C複合材と同等であった。
【0014】
【発明の効果】
本発明によれば、炭素繊維強化炭素複合材の成形工程において、一つの金型内で同時に複数枚の成形体を容易に得ることができる炭素繊維強化炭素複合材の製造方法が提供される。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-10-04 
出願番号 特願平4-264093
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C04B)
P 1 651・ 113- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 松本 貢
野田 直人
登録日 2002-12-13 
登録番号 特許第3380271号(P3380271)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 炭素繊維強化炭素複合材の製造方法  
代理人 長谷川 曉司  
代理人 長谷川 曉司  

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