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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1128975
異議申立番号 異議2003-73186  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-22 
確定日 2005-10-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3426488号「光弾性定数が小さい光学ガラス」の請求項1〜5に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3426488号の請求項1〜5に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3426488号は、平成9年12月26日に出願され、平成15年5月9日に特許の設定登録がなされたものであって、その特許につき、HOYA株式会社(以下、「異議申立人」という)より特許異議の申立がなされ、その特許異議申立の理由と証拠に基づき、取消理由を通知したところ、権利者より平成16年11月29日付けで訂正請求書及び特許異議意見書が提出され、その後、当該訂正請求書及び特許異議意見書を異議申立人に送付したところ異議申立人から回答書が提出されたものである。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
平成16年11月29日付け訂正請求は、本件明細書につき、訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおりの、次の〈イ〉〜〈ト〉の訂正を求めるものである。
以下、訂正前の明細書を「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された訂正明細書を「本件明細書」という。
〈イ〉特許明細書の請求項1における記載を、
「【請求項1】偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)、CaO 0〜30%、SrO 0-30%、BaO 31〜60%、およびLi2O 0〜0.2%を含有し、かつ重量%でMgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。」に訂正する。
〈ロ〉特許明細書の請求項2における記載を、
「【請求項2】偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、Li2O 0〜0.2およびB2O30.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。」に訂正する。
〈ハ〉特許明細書の請求項3における記載を、
「【請求項3】偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O3 0.1〜4%、P2O5 35〜60%、MgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、La2O3 0.5〜7%、Li2O 0〜0.2%、Na2O 0〜4%、K2O 0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。」に訂正する。
〈ニ〉特許明細書の請求項5における記載を、
「【請求項5】偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O3 0.1〜4%、Al2O3 0〜5%、P2O535〜60%、MgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、ZnO 0〜5%、La2O3 0.5〜7%、Y2O3 0〜7%、Gd2O30〜7%、Nb2O5 0〜5%、Ta2O5 0〜10%、WO3 0〜10%、ただし、Nb2O5+Ta2O5+WO3 0〜10%、Li2O 0〜4%、Na2O 0〜4%、K2O 0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%、Sb2O3 0〜4%の範囲の各成分からなり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。」に訂正する。
〈ホ〉特許明細書の段落0011における記載を、
「前記目的を達成するための本発明の構成は、請求項1に記載のとおり、偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)、CaO 0〜30%、SrO 0-30%、BaO 31〜60%、およびLi2O 0〜0.2%を含有し、かつ重量%でMgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする。また、本発明は、請求項2記載のとおり、偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、Li2O 0〜0.2およびB2O30.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする。また、本発明は、請求項3記載のとおり、偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O3 0.1〜4%、P2O5 35〜60%、MgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、La2O3 0.5〜7%、Li2O 0〜0.2%、Na2O 0〜4%、K2O 0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする。」に訂正する。
〈ヘ〉特許明細書の段落0013における記載を、
「また、本発明の好ましい態様の光学ガラスは、請求項5に記載のとおり、偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O3 0.1〜4%、Al2O3 0〜5%、P2O535〜60%、MgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、ZnO 0〜5%、La2O3 0.5〜7%、Y2O3 0〜7%、Gd2O30〜7%、Nb2O5 0〜5%、Ta2O5 0〜10%、WO3 0〜10%、ただし、Nb2O5+Ta2O5+WO3 0〜10%、Li2O 0〜4%、Na2O 0〜4%、K2O 0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%、Sb2O3 0〜4%の範囲の各成分からなり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする。」に訂正する。
〈ト〉特許明細書の段落0028の【表1】における、実施組成例9の列(実施組成9)を削除する。

II-2.訂正の適否の判断
上記〈イ〉の訂正は、具体的には、
〈イ-1〉請求項1における光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」との事項を付加し、
〈イ-2〉請求項1における光学ガラスにつき、「MgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)、CaO 0〜30%、SrO 0-30%、」との事項を付加し、
〈イ-3〉請求項1における光学ガラスにつき、「Li2O 0〜0.2%」との事項を付加し、
〈イ-4〉請求項1における光学ガラスの「MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%」につき、「(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)」との事項を付加するものである。
上記〈ロ〉の訂正は、具体的には、
〈ロ-1〉請求項2における光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」との事項を付加し、
〈ロ-2〉請求項2における光学ガラスにつき、「、Li2O 0〜0.2およびB2O30.1〜4%」との事項を付加するものである。
上記〈ハ〉の訂正は、具体的には、
〈ハ-1〉請求項3における光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」との事項を付加し、
〈ハ-2〉請求項3における光学ガラスのLi2Oにつき、「0〜0.4」を「0〜0.2」に訂正するものである。
上記〈ニ〉の訂正は、具体的には、
〈ニ-1〉請求項5における光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」との事項を付加し、
〈ニ-2〉請求項5における光学ガラスにつき、「屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、」との事項を付加し、
〈ニ-3〉請求項5における光学ガラスにつき、「各成分からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の」を「各成分からなり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする」に訂正するものである。
その他の〈ホ〉〜〈ト〉の訂正事項は上記したとおりである。
II-2-1.訂正の目的の適否
上記〈イ-1〉、〈ロ-1〉、〈ハ-1〉及び〈ニ-1〉の訂正は、光学ガラスの用途を限定するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈イ-2〉〜〈イ-4〉及び〈ロ-2〉の訂正は、光学ガラスを構成する成分及びその含有重量百分率を限定するものであり、また、上記〈ハ-2〉の訂正は、光学ガラスを構成するLi2Oの含有重合百分率を限定するものであるので、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈ニ-2〉及び〈ニ-3〉の訂正は、引用形式で記載されていた請求項5の記載を独立形式で表現するためになされるものであり、そして、その際に、請求項4の引用を実質上削除するものであるので、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈ホ〉〜〈ト〉の訂正は、上記請求項の訂正により不明瞭ないしは不一致となった発明の詳細な説明の記載を当該請求項の記載に整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
II-2-2.新規事項の有無
上記〈イ-1〉、〈ロ-1〉、〈ハ-1〉及び〈ニ-1〉の訂正は、特許明細書の段落0031及び0001の記載から自明なこととして導きだし得るものであり、これらの訂正は新規事項の追加には当たらない。
上記〈イ-2〉の訂正は、まず、「MgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)」については、特許明細書の段落0019及び実施例の表の記載からMgOを0〜4%とすることが自明なこととして導き出され、且つ、取消理由で引用された甲第3号証に記載される発明と同一となることを回避するためにその2%以上のものが除去されるものであるので、当該MgOに関する訂正は新規事項の追加には当たらないものであり、次いで、「CaO 0〜30%、SrO 0-30%」については、特許明細書の段落0018及び実施例の表の記載から自明なこととして導き出しうるものであり、そのCaO及びSrOに関する訂正は新規事項の追加には当たらない。
上記〈ロ-2〉、〈イ-3〉及び〈ハ-2〉の訂正は、まず、「Li2O 0〜0.2」については、特許明細書の「Li2O、・・・の各成分は、・・・、これら三成分の1種または2種以上の合計量を0.1〜4%とすることが好ましい。」(段落0024)の記載と実施例の表1でLi2Oを0.2重量%配合した光学ガラスが製造されている記載から自明なこととして導きだし得るものであり、次いで、「B2O30.1〜4%」については、特許明細書の「B2O3成分は、・・・0.1%以上添加することが好ましく、・・・その量を4%までとするのが好ましい。」(段落0016)の記載から自明なこととして導きだし得るものであり、したがって、これらの訂正は新規事項の追加には当たらない。
上記〈イ-4〉の訂正は、特許明細書の「BaO、CaO、SrOおよびMgOの各成分の・・・2種以上の合計量は、・・・、41〜60%の範囲とすることが好ましい。」(段落0020)と「本発明の構成は、請求項1に記載のとおり、・・・、重量%でBaO 31〜60%を含有し、・・・」(段落0011)の記載及び実施例の表1でBaOと他のアルカリ土類金属酸化物とから光学ガラスが製造されている記載から自明なこととして導きだし得るものであり、この訂正は新規事項の追加には当たらない。
上記〈ニ-2〉及び〈ニ-3〉の訂正は、引用形式で記載されていた請求項5の記載を独立形式で表現するためになされ、その際に請求項4の引用を削除するだけのものであるので、これらの訂正は特許明細書の記載に基づくものであることは明白であり、新規事項の追加には当たらない。
上記〈ホ〉〜〈ト〉の訂正は、発明の詳細な説明の記載を当該請求項の記載に整合させるだけのものであるので、これらの訂正は特許明細書の記載に基づくものであることは明白であり、新規事項の追加には当たらない。
II-2-3.拡張・変更の存否
上記〈イ-1〉〜〈ト〉の訂正は、発明の目的の範囲内で請求項に記載される発明を限定し、又は、明細書の記載を明瞭化するだけのものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しない。
II-2-4.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、及び、同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
特許明細書についての平成16年11月29日付け訂正請求は前記したとおり容認されたものであり、したがって、訂正後の本件特許第3426488号の請求項1〜5に係る発明(以下、必要に応じて、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明5」という)は、本件明細書の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)、CaO 0〜30%、SrO 0-30%、BaO 31〜60%、およびLi2O 0〜0.2%を含有し、かつ重量%でMgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。
【請求項2】偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、Li2O 0〜0.2およびB2O30.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。
【請求項3】偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O3 0.1〜4%、P2O5 35〜60%、MgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、La2O3 0.5〜7%、Li2O 0〜0.2%、Na2O 0〜4%、K2O 0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。
【請求項4】波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)が0.9×10-5nm/cm/Pa以下の値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光弾性定数が小さい光学ガラス。
【請求項5】偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O3 0.1〜4%、Al2O3 0〜5%、P2O535〜60%、MgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、ZnO 0〜5%、La2O3 0.5〜7%、Y2O3 0〜7%、Gd2O30〜7%、Nb2O5 0〜5%、Ta2O5 0〜10%、WO3 0〜10%、ただし、Nb2O5+Ta2O5+WO3 0〜10%、Li2O 0〜4%、Na2O 0〜4%、K2O 0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%、Sb2O3 0〜4%の範囲の各成分からなり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。

IV.特許異議申立及び取消理由の概要
IV-1.特許異議申立
異議申立人は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
【理由-1】特許明細書の請求項1、2及び4に係る発明(訂正後の本件発明1、2及び4)は、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。
【理由-2】特許明細書の請求項3及び5に係る発明(訂正後の本件発明3及び5)は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
【理由-3】特許明細書の請求項1及び2に係る発明は、甲第6号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。
【理由-4】特許明細書の請求項1〜4に係る発明は、甲第6号証及び参考資料1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、特許明細書の請求項1〜5に係る発明の特許は取り消されるべきものである。
甲第1号証:特公昭63-20775号公報
甲第2号証:平成15年12月18日、HOYA株式会社藤原康裕作成
による、「実験成績証明書1」
甲第3号証:特開平7-196336号公報
甲第4号証:平成15年12月18日、HOYA株式会社藤原康裕作成
による、「実験成績証明書2」
甲第5号証:平成15年12月18日、HOYA株式会社藤原康裕作成
による、「宣誓供述書」
甲第6号証:KAZUMASA MATUSITA他「Photoelastic Effects in
Phosphate Glasses」、J.Am.Ceram.Soc.,68[7]、JULY
1985、pp389-391(部分訳添付)
甲第7号証:平成15年12月18日、HOYA株式会社藤原康裕作成
による、「実験成績証明書3」
甲第8号証:特開平9-48631号公報
甲第9号証:特開平9-48633号公報
甲第10号証:特開平9-127461号公報
参考資料1:特開昭61-40839号公報
参考資料2:特開昭60-171244号公報
参考資料3:特開平9-48633号公報(甲第9号証と同じ)
参考資料4:特開平7-215732号公報
IV-2.取消理由
【理由-イ】取消理由は、異議申立の上記証拠及び理由-1及び理由-3により特許明細書の請求項1〜5に係る発明の特許は取り消されるべきものである。
【理由-ロ】特許明細書の請求項1〜5に係る発明は、甲第2、4、5及び7号証を必要に応じて参照すれば、甲第1、3、6及び8〜10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、それら特許は取り消されるべきものである。

V.証拠の記載内容
V-A.甲第1号証(特公昭63-20775号公報)には、以下のことが記載される。
(A-1)「モル%でP2O534〜45,B2O30〜4,Al2O30〜5,Li2O4〜20,BaO28〜45,SrO0〜8,ZnO0〜7,P2O5+B2O3+Al2O3≦45の組成を有する光学ガラス。」(第1頁左欄第2〜5行、特許請求の範囲)
(A-2)「本発明は屈折率ndが1.60以上でアツベ数νdが60以上である比較的低軟化点の中屈折低分散ガラスに関するものであって、その目的とするところはプレスレンズを得るのに好適なガラス組成を提供することにある。」(第1頁左欄第7〜11行)
(A-3)「屈折率をよく高くするための任意成分として、Y2O3,La2O3,・・・をそれぞれ2%以下の量で添加することができる。」(第2頁右欄第9〜13行)
(A-4)「本発明の実施例(No.1〜9)をモル%表示のガラス組成で示し、併せてそれらの光学恒数、化学的耐久性(DW)及びガラス転移点(Tg)を示す。
No.4:P2O540.5、Al2O31.5、B2O31.0、Li2O4.0、ZnO6.5、BaO41.4、SrO5.1、nd1.60866、νd63.27、Dw0.02
No.7:P2O543.0、Al2O31.5、B2O31.0、Li2O15.0、ZnO3.5、BaO32.0、SrO4.0、nd1.60269、νd64.21、Dw0.02
No.9:P2O540.5、Al2O31.5、B2O31.0、Li2O8.0、ZnO6.0、BaO38.2、SrO4.8、nd1.60433、νd63.61、Dw0.02」旨(第2頁右欄20行〜下から第5行の抜粋)

V-B.甲第2号証(前記「実験成績証明書1」)には、以下のことが記載される。
(B-1)「4.実験目的 特公昭63-20775号公報(以下、「甲第1号証」という)の実施例No.4、7、9のガラスを忠実に追試実験し、・・・追試品の光弾性定数がいずれも1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを確認する。」(第1頁第4〜8行)
(B-2)「6.実験結果
甲第1号証の 甲第1号証の 甲第1号証の
実施例No.4 実施例No.7 実施例No.9
光弾性定数 0.69 0.96 0.80
(1.0×10-5nm /cm/Pa)」旨(第2頁中段の抜粋)

V-C.甲第3号証(特開平7-196336号公報)には、以下のことが記載される。
(C-1)「以下の組成 MgO 2〜6 重量%・・・を有し・・・、スペクトルの青色領域で正異常部分分散を示し、屈折率nd>1.57,アッベ数νd>64で、結晶化安定性及び透過性に優れた光学燐酸塩ガラス。」(特許請求の範囲)
(C-2)「本発明の課題は、屈折率nd が1,57を越え、アッベ数νd が64を越える光学燐酸塩ガラスを見出すことである。また、このガラスは高い耐失透性と良好な透過能を特徴とし、簡単かつ安価に製造することができなければならない。」(段落0006)
(C-3)「以下、実施例を示して本発明の効果について具体的に示すが・・・正確に計量した重量比の慣用のガラス原料・・・で・・・調合した。・・・例として溶解した5種のガラスの組成と性質を表1に示す。
【表1】
1 MgO2.42、CaO0.91、SrO2.08、BaO45.67、P2O548.92、ΣRO51.08、nd1.5798、νd65.00」旨(段落0016及び0017の抜粋)

V-D.甲第4号証(前記「実験成績証明書2」)には、以下のことが記載される。
(D-1)「4.実験目的 特開平7-196336号公報(以下、「甲第3号証」という)の実施例、表1の酸化物No.1のガラスを忠実に追試実験し、・・・追試品の光弾性定数がいずれも1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを確認する。」(第1頁第4〜8行)
(D-2)「6.実験結果 甲第3号証の実施例、表1の酸化物No.1について・・・光弾性定数(β)を表Bに示す。
表B
光弾性定数(1.0×10-5nm /cm/Pa)0.77」旨(第2頁中段の抜粋)
V-E.甲第5号証(前記「宣誓供述書」)には、以下のことが記載される。
(E-1)「私は宣誓して次の事項(1)および(2)を供述します。
(1)特許第3426488号明細書(以下、本件特許明細書という)に記載の光学ガラスにおいて、波長0.4〜0.7μm(400〜700nm)における光弾性定数(β)の値は、私自身が作成した実験成績証明書1(以下、甲第2号証という)、実験成績証明書2(以下、甲第4号証という)および実験成績証明書3(以下、甲第7号証という)に記載された測定波長632.8nmにおける光弾性定数(β)の測定値で代表して表わすことができること、および、
(2)上記測定波長632.8nmにおける光弾性定数(β)の測定値は本件特許明細書の実施例における測定波長546nmにおける光弾性定数(β)の測定値と同等であること。」(第1頁第1〜10行)

V-F.甲第6号証(前記「Photoelastic Effects in Phosphate Glasses」)には、以下のことが記載される。
(F-1)「RO-P2O5ガラス(R=Mg,Ca,Sr,Ba及びZn)の応力光学係数(stress-optical coefficient)を測定し、光弾性機構を分析した」旨(第389頁左欄第1〜3)
(F-2)「先の報告において、我々は、応力光学係数C、シェア率G、と屈折率nの間の関係を示す次の方程式を導き出した。
C=(n3/4G)(p12-p11)=(n2/2G)(p-q)
p12とp11はPockels応力光学係数、pとqはNeumann応力光学係数」旨(第389頁左欄第21〜27行)
(F-3)「III.結論
表Iに応力光学係数Cと屈折率nを示す。図1に修飾酸化物成分の含有量に対する応力光学係数の変化を示す。先に報告されているRO-B2O3ガラスの応力光学係数を比較のために示す。ZnO-P2O5ガラスを除き、修飾酸化物の含有量が増加するにつれて応力光学係数は単調に減少することがもわかる。また、アルカリ土類金属陽イオンのイオン半径が増加すると応力光学係数が減少することもわかる。ZnOを含むガラスは、他のガラスに比べて応力光学係数が著しく高い。これらの現象は2成分からなるアルカリ硼酸塩ガラスやアルカリ珪酸塩ガラスでも同様に観測される。」旨(第389頁右欄第24〜36行)
(F-4)「表I
組成(モル%) C(ブルースター) n
BaO-P2O5
45 55 0.99 1.576
50 50 0.42 1.593
55 45 0.49 1.606
1ブルースター=1pm・Pa-1、n=屈折率」旨(第390頁上段の表Iの抜粋)

V-G.甲第7号証(前記「実験成績証明書3」)には、以下のことが記載される。
(G-1)「4.実験目的 Journal of American Ceramic Society 68巻389〜391ページ(以下、「甲第6号証」という)のTableI、BaO-P2O5よりなるガラス3種を忠実に追試実験し、・・・追試品の・・・光弾性定数が・・・1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを確認する。」(第1頁第4〜9頁)
(G-2)「6.実験結果 本件文献のTableI、BaO-P2O5ガラス3種について・・・光弾性定数(β)を表Bに示す。
表B
BaO45モル% BaO50モル% BaO55モル%
P2O555モル P2O550モル P2O545モル
%のガラスNo.1 %のガラスNo.2 のガラスNo.3
光弾性定数 0.72 0.6 0.3
(1.0×10-5nm /cm/Pa)」旨(第2頁中段の抜粋)

V-H.甲第8号証(特開平9-48631号公報)には、以下のことが記載される。
(H-1)「本発明は、偏光変調を行う空間光変調素子や偏光ビームスプリッタなどを用いた偏光光学系に使用される光弾性定数Cの小さい偏光光学系用光学ガラスに関する。」(段落0001)
V-J.甲第9号証(特開平9-48633号公報)には、以下のことが記載される。
(J-1)「【請求項1】屈折率ndが1.43〜1.65、アッベ数νdが62〜96の範囲の弗化物燐酸系光学ガラスであって、使用する光の波長における光弾性定数Cの絶対値が1.0×10-8cm2/N以下であることを特徴とする偏光光学系用光学ガラス。」(第2頁左欄第2〜6行)
V-K.甲第10号証(特開平9-127461号公報)には、以下のことが記載される。
(K-1)「ところで、本発明者らは、液体浸漬型の偏光ビームスプリッター及び従来考案された透光性材料ブロックによる前記偏光ビームスプリッターに関連する前記課題を解決するための方法に関して鋭意検討した結果、偏光ビームスプリッターあるいは偏光特性を高精度に保存するべき材料に用いる透光性材料に光弾性定数が小さな透光性材料を用いることが最も有効であることを見出した。」(段落0044)

VI.当審の判断
VI-1.理由-1について
VI-1-1.本件発明1
VI-1-1-1.甲第1号証に記載された発明との対比
甲第1号証にはその前記摘示(A-1)によれば光学ガラスに関する事項が記載され、そして、その前記摘示(A-4)により示される光学ガラス組成を重量百分率に換算したものをそこで示される物性値と共に表示すると、甲第1号証には、
「(1)重量%でP2O542.7、Al2O31.1、B2O30.5、Li20.9、ZnO3.9、BaO47.0及びSrO3.9からなり、nd1.60866、νd63.27及びDw0.02である物性を示す光学ガラス(以上、No.4)、
(2)重量%でP2O549.4、Al2O31.2、B2O30.6、Li2O3.6、ZnO2.3、BaO39.6及びSrO3.3からなり、nd1.60269、νd64.21、Dw0.02である物性を示す光学ガラス(以上、No.7)、
(3)重量%でP2O544.1、Al2O31.2、B2O30.5、Li2O1.8、ZnO3.8、BaO44.8及びSrO3.8からなり、nd1.60433、νd63.61、Dw0.02である物性を示す光学ガラス(以上、No.9)」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲第1号証発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本件発明1と上記の甲第1号証発明とを対比すると、両者は、光学ガラスであって、所定の屈折率(Nd)及び所定のアッベ数(νd)の数値を有し、かつ、「重量%でMgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、およびBaO 31〜60%を含有し、かつ重量%でMgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)を含有する燐酸塩系ガラス」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】本件発明1では、その燐酸塩系ガラスにつき、重量%で「Li2O 0〜0.2%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第1号発明ではLi2を0.9、3.6又は1.8重量%含有し、当該特定事項を具備しない点、
【相違点2】本件発明1では、光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第1号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
以下、相違点1につき検討する。
甲第1号証発明では、Li2Oを、No.4のガラスでは0.9重量、No.7のガラスでは3.6重量%、No.9のガラスでは1.8重量%含有するだけで、当該特定事項のようにすることについて示唆されるものはない。
また、甲第1号証の他の記載である前記摘示(A-1)をみても、光学ガラスにモル%でLi2Oを4〜20を含有させることが示されるだけであって、重量%で「Li2O 0〜0.2%」を含有させることについては何も教示されない。
この外、甲第1号証に関し提示される甲第2号証の記載をみても、そこには、光弾性定数(β)が示されるものの、当該Li2Oの含有量につき示唆するものは何もない。
そして、本件発明1は当該特定事項を具備することにより、その余の特定事項と相俟って、明細書記載の効果を奏したものである。
してみれば、他の相違点につき判断するまでもなく、本件発明1は、上記相違点1に係る特定事項を具備する点で、甲第1号証発明に対して別異の発明を構成するものである。
したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
VI-1-1-2.甲第3号証に記載された発明との対比
甲第3号証には、その前記摘示(C-3)及び(C-1)によれば、「重量%でMgO2.42、CaO0.91、SrO2.08、BaO45.67、P2O548.92及びΣRO51.08からなり、nd1.5798及びνd65.00の物性を示す光学燐酸塩ガラス」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲第3号証発明」という)が記載されているといえる。
そこで、本件発明1と甲第3号証発明とを対比すると、両者は、光学ガラスであって、所定の屈折率(Nd)及び所定のアッベ数(νd)の数値を有し、かつ、「重量%でCaO 0〜30%、SrO 0-30%、BaO 31〜60%、およびLi2O 0〜0.2%を含有し、かつ重量%でMgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)を含有する燐酸塩系ガラス」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】本件発明1では、その燐酸塩系ガラスの組成につき、重量%で「MgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第3号発明ではMgOを2.42重量%含有し、当該特定事項を具備しない点、
【相違点4】本件発明1では、光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第3号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
以下、相違点3につき検討する。
甲第3号証発明では、MgOを2.42重量%含有するだけで、当該特定事項のようにすることについて示唆されるものはない。
また、甲第3号証の他の記載である前記摘示(C-1)をみても、光学燐酸塩ガラスにMgOを重量%で2〜6含有させることが示されるだけであって、重量%で「MgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)」を含有させることについては何も教示するものはない。
この外、甲第3号証に関し提示される甲第4号証の記載をみても、そこには、光弾性定数(β)が示されるものの、当該Li2Oの含有量につき示唆するものは何もない。
そして、本件発明1は当該特定事項を具備することにより、その余の特定事項と相俟って、明細書記載の効果を奏したものである。
してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、上記相違点3に係る特定事項を具備する点で、甲第3号証発明に対して別異の発明を構成するものである。
したがって、本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるとすることはできない。
VI-1-2.本件発明2
VI-1-2-1.甲第1号証に記載された発明との対比
甲第1号証発明の構成は、上記VI-1-1-1.で説示したとおりのものである。
そこで、本件発明2と甲第1号証発明とを対比すると、両者は、光学ガラスであって、所定の屈折率(Nd)及び所定のアッベ数(νd)の数値を有し、かつ、「重量%でMgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%およびB2O30.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラス」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点5】本件発明2では、その燐酸塩系ガラスにつき、重量%で「Li2O 0〜0.2%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第1号発明ではLi2を0.9、3.6又は1.8重量%含有し、当該特定事項を具備しない点、
【相違点6】本件発明2では、光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第1号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
そして、相違点1につき上記VI-1-1-1.で説示したとおり、本件発明2は、上記相違点5に係る特定事項を具備する点で、甲第1号証発明に対して別異の発明を構成するものである。
したがって、本件発明2は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
VI-1-2-2.甲第3号証に記載された発明との対比
甲第3号証発明の構成は、上記VI-1-1-2.で説示したとおりのものである。
そこで、本件発明2と甲第3号証発明とを対比すると、両者は、光学ガラスであって、所定の屈折率(Nd)及び所定のアッベ数(νd)の数値を有し、かつ、「重量%でMgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、およびLi2O 0〜0.2を含有する燐酸塩系ガラス」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点7】本件発明2では、その燐酸塩系ガラスの組成につき、重量%で「B2O30.1〜4%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第3号発明ではB2O3成分を含有せず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点8】本件発明2では、光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第3号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
以下、相違点7につき検討する。
甲第3号証発明では、光学燐酸塩ガラスにつきB2O3を0.1〜4%重量%含有することについて示唆されるものはない。
また、甲第3号証の他の記載をみても当該特定事項につき教示するものはない。
この外、甲第3号証に関し提示される甲第4号証の記載をみても、そこには、光弾性定数(β)が示されるものの、当該B2O3の含有量につき示唆するものは何もない。
そして、本件発明2は当該特定事項を具備することにより、その余の特定事項と相俟って、明細書記載の効果を奏したものである。
してみれば、本件発明2は、上記相違点7に係る特定事項を具備する点で、甲第3号証発明に対して別異の発明を構成するものである。
したがって、本件発明2は甲第3号証に記載された発明であるとすることはできない。
VI-1-3.本件発明4
異議申立人の主張は、具体的には、特許明細書における請求項1及び2を引用する態様の請求項4に係る発明(訂正後の請求項1及び2を引用する態様の本件発明4)は、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号の規定に該当するというものであるので、その主張の範囲内で以下に検討する。
本件発明4の請求項1及び2を引用する態様のものにおいては、本件発明1及び2の特定事項を全て具備するものである。
そうであれば、上記VI-1-1.及びVI-1-2.で説示した理由と同じ理由により、本件発明4は甲第1又は3号証に記載された発明であるとすることはできないものである。

VI-2.理由-2について
VI-2-1.本件発明3
甲第1号証発明の構成は、上記VI-1-1-1.で説示したとおりのものである。
そこで、本件発明3と甲第1号証発明とを対比すると、両者は、光学ガラスであって、所定の屈折率(Nd)及び所定のアッベ数(νd)の数値を有し、かつ、「重量%で、B2O3 0.1〜4%、P2O5 35〜60%、MgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、Na2O 0〜4%、K2O 0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラス」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点イ】本件発明3では、その燐酸塩系ガラスにつき、重量%で「Li2O 0〜0.2%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第1号発明ではLi2を0.9、3.6又は1.8重量%含有し、当該特定事項を具備しない点、
【相違点ロ】本件発明3では、その燐酸塩系ガラスにつき、重量%で「La2O3 0.5〜7%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第1号発明ではLa2O3成分を含有せず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点ハ】本件発明3では、光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第1号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
以下、上記相違点に係る構成が容易に想到できるか否かにつき検討する。
相違点ハについて
本件明細書の記載(特に、段落0002〜0013、0031)によれば、本件発明3では、BaOを31〜60重量%含有する燐酸塩系ガラスである光学ガラスであって、「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい」光学ガラスを、「偏光光学系に使用される光学部品用」の用途に供することにより、その余の構成と相俟って、偏光光学系において従来問題となっていた光弾性効果による光学的異方性の問題を抑制できることから、所望の偏光特性を得ることができるという、有用な効果を奏したものである(本件発明1、2、及び5においても同じことがいえる)。
これに対して、甲第1号証発明では、その光学ガラスが、「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい」光学ガラスであることについては記載されるものは何もなく、出願後に甲第1号証発明の組成のガラスを作成し測定したところの甲第2号証をみることによって、はじめて、その物性を備えていたことが解るものである。
そうすると、甲第1号証に記載された発明である甲第1号証発明において、そのガラスを、出願前に、「偏光光学系に使用される光学部品用」の用途に供するところの動機付けがそもそも存在せず、したがって、当該用途の特定事項を含む当該相違点ハに係る特定事項が当業者といえども容易に想到できるものではない。
そうであれば、他の相違点につき判断するまでもなく、本件発明3は甲第2号証の記載を考慮したとしても甲第1号証に記載の発明から容易に発明をすることができたものであるということはできない。
VI-2-2.本件発明5
甲第1号証発明の構成は、上記VI-1-1-1.で説示したとおりのものである。
そこで、本件発明5と甲第1号証発明とを対比すると、両者は、光学ガラスであって、所定の屈折率(Nd)及び所定のアッベ数(νd)の数値を有し、かつ、「重量%で、B2O3 0.1〜4%、Al2O3 0〜5%、P2O535〜60%、MgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、ZnO 0〜5%、Y2O3 0〜7%、Gd2O30〜7%、Nb2O5 0〜5%、Ta2O5 0〜10%、WO3 0〜10%、ただし、Nb2O5+Ta2O5+WO3 0〜10%、Li2O 0〜4%、Na2O 0〜4%、K2O 0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%、Sb2O3 0〜4%の範囲の各成分からなる」光学ガラスである点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点ニ】本件発明5では、その光学ガラスにつき、重量%で「La2O3 0.5〜7%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第1号発明ではLa2O3成分を含有せず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点ホ】本件発明5では、光学ガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第1号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
そして、相違点ハにつきVI-2-1.で説示したとおり、上記相違点ホに係る特定事項については当業者といえども容易に想到できるものではない。
そうであれば、他の相違点につき判断するまでもなく、本件発明5は甲第2号証の記載を考慮したとしても甲第1号証に記載の発明から容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VI-3.理由-3について
VI-3-1.本件発明1
甲第6号証には、その前記摘示(F-4)及び(F-1)によれば、「BaO-P2O5の組成(モル%)が45と55、50と50、及び、55と45であって、その屈折率nがそれぞれ1.576、1.593、及び、1.606であって、その応力光学係数(stress-optical coefficient 1pm・Pa-1)がそれぞれ0.99、0.42、及び、0.49であるガラス」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲第6号証発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本件発明1と甲第6号証発明とを対比する。
甲第6号証発明のガラスの組成を重量%に換算すると、そのBaO-P2O5の組成は、それぞれ、46.9と53.1、51.9と48.1、及び、56.8と43.2になり、これらの含有重量%は、本件発明1の「重量%でMgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、およびLi2O 0〜0.2%を含有し、かつ重量%でMgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%を含有するガラス」を満たし、また、そのものは、燐酸塩系ガラスであるということができる。
また、甲第6号証発明のガラスは、その屈折率の数値が本件発明1の数値範囲に含まれる。
よって、両者は、
「屈折率(Nd)が1.55〜1.65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO 0〜4%(ただし2%以上を除く)、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、およびLi2O 0〜0.2%を含有し、かつ重量%でMgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%を含有する燐酸塩系ガラスであるガラス」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点A】本件発明1では、そのガラスが、「アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数」を有するのに対して、甲第6号証発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点B】本件発明1では、その燐酸塩系ガラスにつき、「(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)」との特定事項を具備するのに対して、甲第6号証発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点C】本件発明1では、そのガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第6号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
以下、上記相違点Bに係る特定事項につき検討する。
甲第6号証発明では、そのガラスにおいてアルカリ土類金属の酸化物を併用することにつき示唆するものは何もない。
この外、甲第6号証に関し提示される甲第7号証の記載をみても、そこには、アッベ数(νd)及び光弾性定数(β)につき示されるものの、当該BaO以外のアルカリ土類金属の酸化物を用いることにつき教示するものは何もない。
そして、本件発明1においては、当該特定事項を具備することにより、その余の特定事項と相俟って、明細書に記載の効果を奏したものである。
してみれば、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、上記相違点Bに係る特定事項を具備する点で、甲第6号証発明に対して別異の発明を構成するものである。
したがって、本件発明1は甲第6号証に記載された発明であるとすることはできない。
VI-3-2.本件発明2
甲第6号証発明の構成は、上記VI-3-1.で説示したとおりのものであって、上記VI-3-1.に準じて、本件発明2と甲第6号証発明とを対比すると、両者は以下の点で相違する。
【相違点D】本件発明2では、そのガラスが、「アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数」を有するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点E】本件発明2では、その燐酸塩系ガラスにつき、重量%で「B2O3 0.1〜4%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点F】本件発明2では、そのガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第6号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
以下、上記相違点Eに係る特定事項につき検討する。
甲第6号証発明においては、酸化硼素B2O3の配合につき示唆されるものは何もない。
この外、甲第6号証に関し提示される甲第7号証の記載をみても、そこには、アッベ数(νd)及び光弾性定数(β)につき示されるものの、当該B2O3を用いることにつき教示するものは何もない。
そして、本件発明2においては、当該特定事項を具備することにより、その余の特定事項と相俟って、明細書に記載の効果を奏したものである。
してみれば、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明2は、上記相違点Eに係る特定事項を具備する点で、甲第6号証発明に対して別異の発明を構成するものである。
したがって、本件発明2は甲第6号証に記載された発明であるとすることはできない。

VI-4.理由-4及び理由-ロについて
VI-4-1.本件発明1
甲第6号証発明の構成は、上記VI-3-1.で説示したとおりのものであって、本件発明1と甲第6号証発明とを対比すると、上記VI-3-1.で説示したとおり、両者は、相違点A〜Cにおいて相違する。
以下、上記相違点に係る特定事項が容易に想到できるか否かにつき検討する。
相違点Cについて
相違点ハにつき上記VI-2-1.の箇所で説示したとおり、本件発明1では、BaOを31〜60重量%含有する燐酸塩系ガラスである光学ガラスであって、「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい」光学ガラスを「偏光光学系に使用される光学部品用」の用途に供することにより、その余の構成と相俟って、偏光光学系において従来問題となっていた光弾性効果による光学的異方性の問題を抑制できることから、所望の偏光特性を得ることができるという、有用な効果を奏したものである。
これに対して、甲第6号証発明では、そこでのガラスの応力光学係数C(stress-optical coefficient 1pm・Pa-1)がそれぞれ0.99、0.42、及び、0.49であることが示されるものの、当該係数Cはその名称、単位及び数値の大きさが本件発明1の光弾性定数(β)とは異なり、光弾性定数(β)とは別異の係数ないしはパラメータを示すものである以上、上記数値の応力光学係数Cを保有するガラスであれば光弾性定数(β)の1.0×10-5nm/cm/Pa以下の数値を満たすとは直ちにいうことができないだけでなく、そのガラスが偏光光学系において従来問題となっていた光弾性効果による光学的異方性の問題を抑制し得る程度の物性を具備するか否かということについても具体的に把握することもできない(この点につき、異議申立人はその回答書においても具体的に説明するものはない)。
そして、甲第6号証発明のガラスが、「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であることについては、出願後において、甲第6号証発明の組成のガラスを作成し測定したところの甲第7号証をみることによって、はじめて、解るものである。
そうすると、甲第6号証に記載された発明である甲第6号証発明のガラスを、出願前に、「偏光光学系に使用される光学部品用」の用途に供するところの動機付けがそもそも存在しないことになる。
この外、異議申立人が他に提示する参考資料1〜4及び甲第1、3及び8〜10号証をみるも、甲第6号証発明のガラスが、「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であること、ないしは、偏光光学系において従来問題となっていた上記問題を抑制し得る程度の物性を具備することについて、具体的に、教示するものはない。
したがって、甲第6号証発明において、当該用途の特定事項を含む当該相違点Cに係る特定事項を具備するようにすることが当業者といえども容易に想到できるものではないものである。
相違点Bについて
当該特定事項に関し、甲第6号証の図1の記載をみると、そこでは、MgO、CaO、SrO及びBaOがそれぞれ約40〜60モル%の燐酸塩ガラスの応力光学係数Cが対比のうえで示されるものの、その燐酸塩ガラスにつき、BaO成分の外にBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有させることにつき教示するものはなく、しかも、そのようにBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有させた場合においても、なおも、本件発明1の他の特定事項である屈折率(Nd)、アッベ数(νd)及び光弾性定数(β)の数値を満たすようにすることが直ちになし得るものであるということができない。したがって、甲第6号証発明において、そのガラスにつき、「(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)」との特定事項を具備することが容易に導き出し得るものであるということはできない。
この外、異議申立人が他に提示する参考資料1〜4及び甲第1、3及び8〜10号証をみるも、甲第6号証発明において、そのガラスにつき、当該特定事項を具備することが直ちになし得るものであるいうことはできない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、必要に応じて甲第2、4、5及び7号証の記載を考慮したとしても、甲第6、1、3及び8〜10号証と参考資料1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
VI-4-2.本件発明2
甲第6号証発明の構成は、上記VI-3-1.で説示したとおりのものであって、本件発明2と甲第6号証発明とを対比すると、上記VI-3-2.で説示したとおり、両者は、上記相違点D〜Fにおいて相違する。
以下、上記相違点に係る特定事項が容易に想到できるか否かにつき検討する。
相違点Fについて
相違点CについてVI-4-1.で説示した理由と同じ理由により、甲第6号証発明において、「偏光光学系に使用される光学部品用」との用途に係る特定事項を含む当該相違点Fに係る特定事項が当業者といえども容易に想到できるものではないものである。
相違点Eについて
甲第6号証発明においては、BaO-P2O5の組成のガラスに対して他の成分を配合することにつき教示するものはなく、しかも、そのようにB2O3成分を所定量配合した場合において、本件発明2の他の特定事項である屈折率(Nd)、アッベ数(νd)及び光弾性定数(β)の数値を満たすようにすることが直ちになし得るものであるということができない。したがって、甲第6号証発明において、そのガラスにつき、重量%で「B2O3 0.1〜4%」を含有するとの特定事項を具備することが容易に導き出し得るものであるということはできない。
この外、異議申立人が他に提示する参考資料1〜4及び甲第1、3及び8〜10号証をみるも、甲第6号証発明において、そのガラスにつき、当該特定事項を具備することが直ちになし得るものであるいうことはできない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明2は、必要に応じて甲第2、4、5及び7号証の記載を考慮したとしても、甲第6、1、3及び8〜10号証と参考資料1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
VI-4-3.本件発明3
甲第6号証発明の構成は、上記VI-3-1.で説示したとおりのものであって、本件発明3と甲第6号証発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。
【相違点G】本件発明3では、そのガラスが、「アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数」を有するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点H】本件発明3では、その燐酸塩系ガラスにつき、重量%で「B2O3 0.1〜4%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点I】本件発明3では、その燐酸塩系ガラスにつき、重量%で「La2O3 0.5〜7%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点J】本件発明3では、その燐酸塩系ガラスにつき、重量%で「Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点K】本件発明3では、そのガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第6号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
以下、上記相違点に係る特定事項が容易に想到できるか否かにつき検討する。
相違点Kについて
相違点CについてVI-4-1.で説示した理由と同じ理由により、甲第6号証発明において、「偏光光学系に使用される光学部品用」との用途に係る特定事項を含む当該相違点Fに係る特定事項が当業者といえども容易に想到できるものではないものである。
相違点H〜Jについて
甲第6号証発明においては、BaO-P2O5の組成のガラスに対して他の成分を配合することにつき教示するものはなく、しかも、そのようにB2O3成分、La2O3成分及びLi2O+Na2O+K2O成分を所定量配合した場合において、本件発明3の他の特定事項である屈折率(Nd)、アッベ数(νd)及び光弾性定数(β)の数値を満たすようにすることが直ちになし得るものであるということができない。したがって、甲第6号証発明において、そのガラスにつき、相違点H〜Jに係る特定事項を具備することが容易に導き出し得るものであるということはできない。
この外、異議申立人が他に提示する参考資料1〜4及び甲第1、3及び8〜10号証をみるも、甲第6号証発明において、そのガラスにつき、当該特定事項を具備することが直ちになし得るものであるいうことはできない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明3は、必要に応じて甲第2、4、5及び7号証の記載を考慮したとしても、甲第6、1、3及び8〜10号証と参考資料1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
VI-4-4.本件発明4
本件発明4は、本件発明1、2又は3の特定事項を全て具備するものであり、したがって、上記VI-4-1.〜VI-4-3.で説示した理由と同じ理由により、本件発明4は、必要に応じて甲第2、4、5及び7号証の記載を考慮したとしても、甲第6、1、3及び8〜10号証と参考資料1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
VI-4-5.本件発明5
甲第6号証発明の構成は、上記VI-3-1.で説示したとおりのものであって、本件発明5と甲第6号証発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。
【相違点L】本件発明5では、そのガラスが、「アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数」を有するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点M】本件発明5では、そのガラスにつき、重量%で「B2O3 0.1〜4%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点N】本件発明5では、そのガラスにつき、重量%で「La2O3 0.5〜7%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点O】本件発明5では、そのガラスにつき、重量%で「Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%」を含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲第6号発明ではそのことは示されず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点P】本件発明5では、そのガラスにつき、「偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、」及び「波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下である光弾性定数が小さい光学ガラス」であるという特定事項を具備するのに対し、甲第6号証発明では、そのような用途及び光弾性定数(β)が示されず、当該特定事項を具備していない点
そして、相違点G〜KにつきVI-4-3.で説示した理由と同じ理由により、本件発明5は、必要に応じて甲第2、4、5及び7号証の記載を考慮したとしても、甲第6、1、3及び8〜10号証と参考資料1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VII. まとめ
特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜5に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光弾性定数が小さい光学ガラス
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO0〜4%(ただし2%以上を除く)、CaO0〜30%、SrO0-30%、BaO31〜60%、およびLi2O0〜0.2%を含有し、かつ重量%でMgO+CaO+SrO+BaO41〜60%(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。
【請求項2】
偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO0〜4%、CaO0〜30%、SrO0〜30%、BaO31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO41〜60%、Li2O0〜0.2%およびB2O30.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。
【請求項3】
偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O30.1〜4%、P2O535〜60%、MgO0〜4%、CaO0〜30%、SrO0〜30%、BaO31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO41〜60%、La2O30.5〜7%、Li2O0〜0.2%、Na2O0〜4%、K2O0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O0.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。
【請求項4】
波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)が0.9×10-5nm/cm/Pa以下の値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光弾性定数が小さい光学ガラス。
【請求項5】
偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O30.1〜4%、Al2O30〜5%、P2O535〜60%、MgO0〜4%、CaO0〜30%、SrO0〜30%、BaO31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO41〜60%、ZnO0〜5%、La2O30.5〜7%、Y2O30〜7%、Gd2O30〜7%、Nb2O50〜5%、Ta2O50〜10%、WO30〜10%、ただし、Nb2O5+Ta2O5+WO30〜10%、Li2O0〜4%、Na2O0〜4%、K2O0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O0.1〜4%、Sb2O30〜4%の範囲の各成分からなり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする光弾性定数が小さい光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、偏光変調を行う空間光変調素子や偏光ビームスプリッタ等の偏光光学系に使用するのに適した光弾性定数(β)が小さい光学ガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、偏光を利用した光学系、すなわち偏光光学系は液晶プロジェクタ等様々の分野において利用されている。たとえば、偏光を空間的に変調する空間光変調素子や、S偏光とP偏光とを分離する偏光ビームスプリッタ等が液晶プロジェクタ等に利用されており、これらの偏光光学系において、偏光特性をより高精度に制御することが望まれている。
【0003】
偏光光学系中の基板やプリズム等の光学部品のうち、偏光特性の保持が要求される部品に光学的に異方性を有する材料を用いると、透過した主光線とこれに直交する異常光線との間の位相差(光路差)が材料を透過する前と比較して変化し、偏光特性が保持できなくなるので、それらの部品には光学的に等方性を有する材料を使用する必要がある。
【0004】
充分に除歪されたガラス、特に光学ガラスは、光学的に等方性を有し、かつ、耐久性、強度および光線透過率等の点で他の材料より優れており、また、種々の光学定数を有する多種の光学ガラスが存在し、光学設計上の選択の幅が広いため、従来から、偏光光学系に用いられている。中でも、S-BSL7((株)オハラ商品名)は、安価で耐久性に優れ、分散も小さいので、偏光光学系に多用されている。
【0005】
しかし、光学的等方性を有する上記従来の光学ガラスを偏光光学系の光学部品に用いた場合でも、機械的応力や熱的応力がそれらの部品に加わると光弾性効果による光学的異方性、すなわち複屈折性を示すようになり、その結果、所望の偏光特性が得難くなるという問題があった。
【0006】
上記機械的応力は、たとえば、熱膨張率がガラスのそれと異なる材料をガラスと接合したりすることにより生じ、また、上記熱的応力は、たとえば、周辺機器の発熱や、透過光のエネルギーを吸収することによるガラス自体の発熱により生じる。これらの応力がガラスに加わることによりガラスが示す複屈折性の大きさは光路差で示すことができる。光路差をδ(nm)、ガラスの厚さをd(cm)、応力をF(Pa)とすると下記の式(1)が成り立ち、光路差が大きいほど複屈折性が大きいことを意味する。
【0007】
【数1】
δ=β・d・F (1)
【0008】
上記式(1)における比例定数(β)は光弾性定数と呼ばれており、その値はガラスの種類によって異なる。上記式に示すとおり、ガラスに加わる応力(F)およびガラスの厚さ(d)が同じ場合、光弾性定数(β)が小さいガラスほど光路差(δ)、すなわち複屈折性が小さい。上述のS-BSL7((株)オハラ商品名)では、波長546nmにおけるβの値が2.79と大きく、上述のように偏光光学系において偏光特性をより高精度に制御するために、光弾性定数(β)がより小さいガラスが求められている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記従来技術の実情に鑑み、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有する光弾性定数(β)が小さいガラスを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者は、鋭意試験研究を重ねた結果、BaOを含有する燐酸塩系のガラスにおいて、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、光弾性定数(β)の値が小さい光学ガラスが得られることを見いだし、本発明をなすに至った。
【0011】
前記目的を達成するための本発明の構成は、請求項1に記載のとおり、偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO0〜4%(ただし2%以上を除く)、CaO0〜30%、SrO0-30%、BaO31〜60%、およびLi2O0〜0.2%を含有し、かつ重量%でMgO+CaO+SrO+BaO41〜60%(ただしBaO以外のアルカリ土類金属酸化物を1成分以上含有する)を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする。また、本発明は、請求項2記載のとおり、偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%でMgO0〜4%、CaO0〜30%、SrO0〜30%、BaO31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO41〜60%、Li2O0〜0.2%およびB2O30.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする。また、本発明は、請求項3記載のとおり、偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O30.1〜4%、P2O535〜60%、MgO0〜4%、CaO0〜30%、SrO0〜30%、BaO31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO41〜60%、La2O30.5〜7%、Li2O0〜0.2%、Na2O0〜4%、K2O0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O0.1〜4%を含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、請求項4に記載のとおり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)が0.9×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の好ましい態様の光学ガラスは、請求項5に記載のとおり、偏光光学系に使用される光学部品用の光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、重量%で、B2O30.1〜4%、Al2O30〜5%、P2O535〜60%、MgO0〜4%、CaO0〜30%、SrO0〜30%、BaO31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO41〜60%、ZnO0〜5%、La2O30.5〜7%、Y2O30〜7%、Gd2O30〜7%、Nb2O50〜5%、Ta2O50〜10%、WO30〜10%、ただし、Nb2O5+Ta2O5+WO30〜10%、Li2O0〜4%、Na2O0〜4%、K2O0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O0.1〜4%、Sb2O30〜4%の範囲の各成分からなり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の好ましい態様の光学ガラスの各成分の組成範囲の限定理由は次のとおりである。P2O5成分は、ガラスを構成するために必須な成分であり35%以上添加することが好ましく、また、ガラスの化学的耐久性を維持するためにその量を60%までとすることが好ましい。
【0015】
Al2O3成分は、ガラスの化学的耐久性を向上させるのに有効であり、任意に添加しうるが、耐失透性維持のため5%までとするのが好ましい。
【0016】
B2O3成分は、ガラスを安定化させるのに有効な成分であり、0.1%以上添加することが好ましく、またガラスの化学的耐久性を維持するためにその量を4%までとするのが好ましい。
【0017】
BaO成分は、本発明において、ガラスの光弾性定数(β)の値を大幅に小さくする効果を見いだした重要な成分であるが、上記効果を発揮させるためには31%以上添加することが好ましく、またガラスの耐失透性を維持するために60%を限度とすることが好ましい。
【0018】
CaOおよびSrO成分は、光弾性定数(β)を小さくする効果があり任意に添加しうるが、目標とする光学定数およびガラスの化学的耐久性を維持するために、それらの量をそれぞれ30%までとすることが好ましい。
【0019】
MgO成分は、目標とする光学定数の調整および溶融性向上のために4%まで任意に添加するのが好ましい。
【0020】
ただし、BaO、CaO、SrOおよびMgOの各成分の1種または2種以上の合計量は、目標の光学定数とガラスの耐失透性を維持するため、41〜60%の範囲とすることが好ましい。
【0021】
La2O3成分は、ガラスの化学的耐久性を向上させるのに有効であるが、その量が0.5%未満ではその効果が小さく、また7%を超えると失透傾向が増大する。
【0022】
Y2O3およびGd2O3成分は、上記La2O3成分と同様の効果があり任意に添加しうるが、その量はそれぞれ7%までで十分である。
【0023】
Nb2O5、Ta2O5およびWO3の各成分は、光学定数の調整のため、それぞれ5%、10%および10%まで任意に添加することが好ましい。ただし、これら三成分の1種または2種以上の合計量が10%を超えるとガラスの耐失透性が悪化する。
【0024】
Li2O、Na2OおよびK2Oの各成分は、いずれもガラスの溶融性を促進するとともに、耐失透性を向上させる効果があり、これら三成分の1種または2種以上の合計量を0.1〜4%とすることが好ましい。
【0025】
Sb2O3成分は、ガラスの溶融の際の清澄剤であるとともに、光弾性定数(β)を小さくする効果があり任意に添加し得るが、その量は4%以下とすることがより好ましい。
【0026】
なお、本発明の好ましい態様の光学ガラスに、上記以外の成分、例えばSnO2成分を清澄剤として少量添加し得る。また、SiO2、Bi2O3およびIn2O3等の成分をそれぞれ5%程度まで光学定数の調整、ガラスの溶融性および耐失透性の改善のため、必要に応じて添加しても差し支えない。
【0027】
【実施例】
次に、本発明の好ましい態様の光学ガラスにかかる実施組成例(No.1〜No.9)および従来の光学ガラスの比較例(No.A)をそれらのガラスの屈折率(Nd)、アッべ数(νd)および光弾性定数(β)の測定結果と共に表1に示した。なお、光弾性定数(β)は、ガラス試料の光透過厚を0.8cmとし、外部からガラス試料に一定の応力を加えた状態で波長546nmの光を透過させたときに生じた複屈折による光路差を測定することによって前記式(1)により求めた。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、本発明の実施組成例の光学ガラスは、いずれも、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲内の光学定数を有し、かつ、光弾性定数(β)が従来公知の比較例のガラスよりも小さく、一段と改善されている。
【0030】
また、これらの実施組成例の光学ガラスはいずれも耐失透性に優れ化学的耐久性も良好で、かつ、均質化しやすい。これらの実施組成例の光学ガラスは、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等の通常の光学ガラス用原料を所定の割合で秤量、混合した後、白金坩堝に投入し、組成による溶融性に応じて1100〜1300℃の温度で約2〜4時間溶融し、攪拌、均質化した後、金型等に鋳込み、徐冷することにより容易に得ることができる。
【0031】
【発明の効果】
以上述べたとおり、本発明の光弾性定数が小さい光学ガラスは、屈折率(Nd)が1.55〜1.65、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学定数を有し、BaOを含有する燐酸塩系ガラスであり、波長0.4μm〜0.7μmにおける光弾性定数(β)の値が1.0×10-5nm/cm/Pa以下であるから、偏光変調を行う空間光変調素子や偏光ビームスプリッタ等の偏光光学系に使用するレンズ、プリズム等の光学部品用として有用である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-09-28 
出願番号 特願平9-368212
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C03C)
P 1 651・ 121- YA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 松本 貢
岡田 和加子
登録日 2003-05-09 
登録番号 特許第3426488号(P3426488)
権利者 株式会社オハラ
発明の名称 光弾性定数が小さい光学ガラス  
代理人 原田 卓治  
代理人 中村 静男  
代理人 坂本 徹  
代理人 坂本 徹  
代理人 原田 卓治  

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