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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1129597 |
審判番号 | 不服2004-1803 |
総通号数 | 75 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-07-13 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-01-26 |
確定日 | 2006-01-13 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第357945号「ハードディスクドライブのスピンドルモータ及び回転軸支持装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月13日出願公開、特開平11-191945〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成9年12月25日の出願であって、平成15年11月28日付けで手続補正がなされたところ、同年12月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年1月26日に審判請求がなされるとともに、同年2月25日に手続補正がなされたものである。 第2.平成16年2月25日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成16年2月25日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の請求項1に記載された発明 平成16年2月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、 「磁気ディスクを支持する回転軸と、この回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記回転軸または回転軸と共に回転する回転部材に設けられたロータと、静止部材に設けられたステータとを有するハードディスクドライブのスピンドルモータにおいて、 前記回転軸の直径が6mm以下であり、 前記軸受が、回転軸の外周面と軸受隙間を介して対向する軸受面を有する多孔質の焼結金属からなる軸受本体と、軸受本体に含浸された潤滑油または潤滑グリースと、軸受本体の軸受面に軸方向に対して傾斜させて設けられた動圧溝とを備え、軸受隙間に形成された潤滑油の動圧油膜によって回転軸を非接触支持すると共に、軸受本体表面の開孔部を介して油を軸受本体の内部と軸受隙間との間で循環させるものであり、 軸受面が、軸方向に対して一方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第1の溝領域と、第1の溝領域から軸方向に離隔し、軸方向に対して他方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第2の溝領域と、第1および第2の溝領域の間に位置する環状の平滑部とを有し、軸受面から油が軸受本体の内部に還流すると共に、軸受面の表面開孔率が2%以上12%以下であるハードディスクドライブのスピンドルモータ。」 と補正された。 上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定する事項である「軸受本体表面の開孔部を介して油を軸受本体の内部と軸受隙間との間で循環させるもの」について「軸受面から油が軸受本体の内部に還流する」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用した実願平4-83141号(実開平6-43338号)のCD-ROM(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。 ア.「【請求項1】 軸受本体と軸との摺動面間に流体潤滑剤を介在させると共に、前記軸と軸受本体との少なくともいずれか一方の摺動面には、摺動面間の相対回転によって流体潤滑剤に摺動面間を押し広げる方向の動圧を発生させる動圧発生部を設けた軸受において、 前記軸受本体と軸の少なくともいずれか一方の部材に、流体潤滑剤を含浸させた含浸体を備えた潤滑剤貯溜部を設けると共に該潤滑剤貯溜部を閉塞し流体潤滑剤を通さない構造のカバー部を設け、 該カバー部の表面を摺動面とし、さらに前記カバー部に前記潤滑剤貯溜部に連通する潤滑剤供給口を設けたことを特徴とする軸受。」 【請求項2】 カバー部に大気開放口を設けたことを特徴とする請求項1に記載の軸受。 【請求項3】 潤滑剤供給口を前記動圧発生部の負圧が発生する部位に対応させて配置したことを特徴とする請求項1に記載の軸受。 【請求項4】 前記カバー部に前記潤滑剤貯溜部に連通する潤滑剤戻し口を設け、該潤滑剤戻し口を前記動圧発生部の正圧が発生する部位に開口形成させた請求項3に記載の軸受。」 イ.「【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は摺動面間に流体潤滑剤を介在させた軸受に関し、特に摺動面に動圧発生部を設けた軸受に関するものである。」 ウ.「【0002】 【従来の技術】 従来の軸受としては、たとえば図6(a)に示すような含油軸受100や、図6(b)に示すような流体潤滑軸受101がある。 【0003】 すなわち、図6(a)に示す含油軸受100は、流体潤滑剤としての潤滑油を含浸させた多孔質の焼結金属102等によって構成されており、摺動面に滲み出す潤滑油によって自己潤滑を図るようになっていた。 【0004】 また、図6(b)に示す流体潤滑軸受101は、軸103と環状の軸受本体104との摺動面間に流体潤滑膜を構成する潤滑油が外部から供給されるもので、軸103あるいは軸受本体104の摺動面にレイリーステップ等の動圧発生部105が形成されていた。」 エ.「【0021】 【実施例】 以下に本考案を図示の実施例に基づいて説明する。 【0022】 図1は、本考案の第1実施例に係る軸受を示している。 【0023】 すなわち、この軸受1は、回転軸2に設けられた環状の段凸部3の外周面を取り囲むように配置され、段凸部3外周に対して微少なラジアル方向隙間4を介して対向する内周面を有する円筒状の軸受本体を構成するハウジング5と、このハウジング5の両端から半径方向内方に向かって延びて、段凸部3端面に対して微少なスラスト方向隙間6を介して対向するフランジ部7,8と、から構成されている。このラジアル方向隙間4およびスラスト方向隙間6に面する摺動面には、動圧発生部としてのレイリーステップ13aが設けられている。 【0024】 一方、ハウジング5の内周面とフランジ部7,8によって囲まれた断面コ字状の環状空間に潤滑油等の流体潤滑剤を含浸させた含浸体10が挿入固定されて潤滑剤貯溜部9を構成している。含浸体10は焼結金属等の多孔質金属や含油性樹脂等によって構成される。 【0025】 また、この潤滑剤貯溜部9を閉塞するカバー部11が設けられ、このカバー部11内面が回転軸2と摺動するようになっている。 【0026】 カバー部11は潤滑油を通さない構成で、この実施例では、焼結金属等の多孔質金属や含油性樹脂等の含浸体10自体の表面の大半を、切削,ロール等によって目止め加工を施すことによって形成している。目止め加工は多孔質の含浸体10の表面に開口する微細孔を封止する処理である。 【0027】 また、目止め加工の代わりに、コーティングあるいは、含浸体10とは別体の金属管等を嵌合するメタルインサート等を行ってもよい。 【0028】 このカバー部11に、潤滑剤貯溜部9に連通する潤滑剤の供給口12が一箇所以上に設けられている。目止めによりカバー部11を構成する場合には、目止めをしない部分を残しておけば、この非目止め部分が供給口となる。したがって、目止め加工は完全に行う必要はない。たとえば、押圧,切削加工等を行う場合、加工条件によっては部分的に供給口が生じる。」 オ.「【0030】 図1(c)は上記含浸体10を軸方向に2分割構成とし、中央の合わせ面10aに流体潤滑剤の供給口12を開口形成したものである。 【0031】 供給口12の成形は種々の方法が可能であり、図1(d),(e)には、供給口12の成形の一例である。 【0032】 この例では、予め、含浸体10の摺動面にプレスや切削等により目止め加工を施して潤滑剤を通さないカバー部11を形成し、その後、押圧加工型14を用いてカバー部11表面にレイリーステップ13aを押圧加工する。その場合、摺動面とレイリーステップ13aの境界面は、変形によりレイリーステップ13aの加工と同時に供給口12が開口することになり、容易に供給口の加工と動圧発生溝の加工を行うことができる。 【0033】 上記構成の軸受にあっては、回転軸2が回転すると、摺動面に設けられたレイリーステップ13aにおいて動圧が発生する。摺動面は流体潤滑剤を通さないカバー部11によって構成されているので、回転軸2を浮動支持するのに十分な大きさの動圧が得られる。 【0034】 また、カバー部11に潤滑剤貯溜部9に連通する供給口12が設けられているので、潤滑剤は適宜摺動面間に滲み出して自給される。」 カ.「【0058】 図5(c)は本考案の第8実施例を示している。 【0059】 この実施例は、図3,図4(a)と同じように回転軸2側に潤滑剤貯溜部19を設けた例であり、カバー部11表面に動圧発生部としてスパイラルグルーブ13bを形成したものである。このスパイラルグルーブ13bは中央部を境にして左右両側に互いに反対向きの螺旋溝である。そして、供給口12が含浸体の両端面側に形成され、中央に戻し口17が開口形成されている。」 キ.「【0062】 図5(e)は本考案の第10実施例を示している。 【0063】 この実施例も第8実施例と同様に軸側に動圧発生溝としてスパイラルグルーブ13bを形成したものである。ただ、潤滑剤貯溜部はハウジング側に設け、この潤滑剤貯溜部の含浸体内周面を目止めによるカバー部11によって被覆したものである。そして、カバー部11の中央部と両端部にそれぞれ潤滑剤の供給口12と戻し口17を設け、回転によってスパイラルグルーブ13bに生じる圧力で潤滑剤を循環させる。この潤滑剤の循環により摺動部の熱を分散させ、冷却できるので、潤滑剤の蒸発を抑制することができ、長寿命化が可能となる。」 ク.上記エ.、キ.より、潤滑剤は、含浸体表面の目止め加工を施されていない微細孔を介して含浸体10の内部とラジアル方向隙間との間で循環するものであって、含浸体の内周面から含浸体に還流するものであることが明らかである。 ケ.上記カ.、キ.、図5(c)及び(e)の記載より、回転軸2の外周面のスパイラルグルーブ13bは、中央部を境にして左右両側に形成された互いに反対向きの螺旋溝であって、かかる中央部は平滑部となっているといえる。 これらの記載及び図面を参照すると、引用例には次の発明が記載されているといえる。(以下、「引用発明」という。) 「回転軸2を回転自在に支持する軸受1において、 前記軸受1が、回転軸2の外周面とラジアル方向隙間4を介して対向する内周面を有する焼結金属等の多孔質金属からなる含浸体10と、含浸体10に含浸された潤滑剤と、回転軸2の外周面に軸方向に対して傾斜させて設けられたスパイラルグルーブ13bとを備え、ラジアル方向隙間4に形成された潤滑剤の流体潤滑膜によって回転軸2を浮動支持すると共に、含浸体10表面の目止め加工を施されていない微細孔である供給口12と戻し口17を介して潤滑剤を含浸体10の内部とラジアル方向隙間4との間で循環させるものであり、 回転軸2の外周面が、平滑部となっている中央部を境にして左右両側に形成された互いに反対向きのスパイラルグルーブ13b(螺旋溝)を有し、摺動面から潤滑剤が含浸体10の内部に還流する軸受。」 3.対比 本願補正発明と上記引用発明とを対比すると、その作用・機能からみて、後者における「ラジアル方向隙間」が前者の「軸受隙間」に相当し、以下同様に、「内周面」が「軸受面」に、「燒結金属等の多孔質金属」が「多孔質の焼結金属」に、「含浸体」が「軸受本体」に、「潤滑剤」が「潤滑油または潤滑グリース」あるいは「油」に、「流体潤滑膜」が「動圧油膜」に、「浮動支持」が「非接触支持」に、「含浸体10表面の目止め加工を施されていない微細孔」が「軸受本体表面の開孔部」にそれぞれ相当する。 また、本願補正発明の「軸受本体の軸受面に軸方向に対して傾斜させて設けられた動圧溝」と引用発明の「回転軸2の外周面に軸方向に対して傾斜させて設けられたスパイラルグルーブ」とは、いずれも軸受本体の軸受面または回転軸の外周面に対して傾斜させて設けられた動圧溝という概念で共通する。 さらに、本願補正発明の「軸受面が、軸方向に対して一方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第1の溝領域と、第1の溝領域から軸方向に離隔し、軸方向に対して他方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第2の溝領域と、第1および第2の溝領域の間に位置する環状の平滑部とを有」することと引用発明の「回転軸2の外周面が、平滑部となっている中央部を境にして左右両側に形成された互いに反対向きのスパイラルグルーブ13b(螺旋溝)を有」することは、いずれも軸受の軸受面または回転軸の外周面のいずれかが、軸方向に対して一方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第1の溝領域と、第1の溝領域から軸方向に離隔し、軸方向に対して他方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第2の溝領域と、第1および第2の溝領域の間に位置する環状の平滑部とを有することという概念で共通するとともに、本願補正発明の「ハードディスクドライブのスピンドルモータ」の「軸受」と引用発明の「軸受」とは、動圧軸受という概念で共通する。 したがって、両者は、 「回転軸を回転自在に支持する動圧軸受において、 前記動圧軸受が、回転軸の外周面と軸受隙間を介して対向する軸受面を有する多孔質の焼結金属からなる軸受本体と、軸受本体に含浸された潤滑油または潤滑グリースと、軸受本体の軸受面または回転軸の摺動面に対して傾斜させて設けられた動圧溝とを備え、軸受隙間に形成された潤滑油の動圧油膜によって回転軸を非接触支持すると共に、軸受本体表面の開孔部を介して油を軸受本体の内部と軸受隙間との間で循環させるものであり、 軸受の軸受面または回転軸の摺動面のいずれかが、軸方向に対して一方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第1の溝領域と、第1の溝領域から軸方向に離隔し、軸方向に対して他方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第2の溝領域と、第1および第2の溝領域の間に位置する環状の平滑部とを有し、軸受面から油が軸受本体の内部に還流する動圧軸受。」の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 動圧軸受に関して、本願補正発明は「磁気ディスクを支持する回転軸と、この回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記回転軸または回転軸と共に回転する回転部材に設けられたロータと、静止部材に設けられたステータとを有するハードディスクドライブのスピンドルモータ」における「軸受」であって、「回転軸の直径が6mm以下である」のに対し、引用発明はかかる限定がなされていない点。 [相違点2] 軸受面の表面開孔率に関して、本願補正発明は「2%以上12%以下」であるのに対し、引用発明はかかる限定がなされていない点。 [相違点3] 軸受本体の軸受面または回転軸の外周面に対して傾斜させて設けられた動圧溝に関して、本願補正発明においては「軸受本体の軸受面」に軸方向に対して傾斜させて設けられた動圧溝であるのに対し、引用発明においては、かかる動圧溝は回転軸2の外周面に設けられたものであり、軸受の軸受面または回転軸の外周面のいずれかが、軸方向に対して一方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第1の溝領域と、第1の溝領域から軸方向に離隔し、軸方向に対して他方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第2の溝領域と、第1および第2の溝領域の間に位置する環状の平滑部とを有することに関して、本願補正発明においては、「(軸受本体の)軸受面」が、かかる第1の溝領域、第2の溝領域及び平滑部を有するのに対し、引用発明においては、回転軸の外周面が、かかる第1の溝領域、第2の溝領域及び平滑部を有する点。 4.判断 (1)[相違点1]について ハードディスクドライブのスピンドルモータに動圧軸受を用いることは、例えば、原査定の拒絶の理由に引用した特開平8-308172号公報や、特開平9-151939号公報に記載されているように周知の技術であり、また、磁気ディスクを支持する回転軸と、回転軸または回転軸と共に回転する回転部材に設けられたロータと、静止部材に設けられたステータは、ハードディスクドライブのスピンドルモータが普通に備える構成であるところ、引用発明の動圧軸受を周知のハードディスクドライブのスピンドルモータに用いることに格別のものは見当たらず、その際、回転軸の直径を6mm以下に設定することは当業者が適宜なし得る程度のことである。 (2)[相違点2]について 引用例の【0008】に「しかし、このような含油軸受100に動圧発生部を設けた場合には、正圧部において、潤滑油が軸受中の含油部材に吸収されてしまい、軸103を安定させるために必要な動圧が得られず、高精度のものは期待できないという問題があった。」と記載されるとともに、【0010】には「本考案は、上記した従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、摺動面間に適正な動圧を発生させることができ、しかも配管等の外部設備を必要とすることなく自己潤滑が可能な軸受を提供することにある。」と記載されており、また、【0026】には「カバー部11は潤滑油を通さない構成で、この実施例では、焼結金属等の多孔質金属や含油性樹脂等の含浸体10自体の表面の大半を、切削,ロール等によって目止め加工を施すことによって形成している。目止め加工は多孔質の含浸体10の表面に開口する微細孔を封止する処理である。」と記載されるとともに、【0028】には「このカバー部11に、潤滑剤貯溜部9に連通する潤滑剤の供給口12が一箇所以上に設けられている。目止めによりカバー部11を構成する場合には、目止めをしない部分を残しておけば、この非目止め部分が供給口となる。したがって、目止め加工は完全に行う必要はない。たとえば、押圧,切削加工等を行う場合、加工条件によっては部分的に供給口が生じる。」と記載されており、さらに、【0045】には「このように含浸体10の表面にカバー部11を設けたために、レイリーステップ13aにより発生する動圧がそのまま回転軸2の安定に作用し、通常の油潤滑軸受と同様の精度が得られる。」と記載されるとともに、【0063】には「この実施例も第8実施例と同様に軸側に動圧発生溝としてスパイラルグルーブ13bを形成したものである。ただ、潤滑剤貯溜部はハウジング側に設け、この潤滑剤貯溜部の含浸体内周面を目止めによるカバー部11によって被覆したものである。そして、カバー部11の中央部と両端部にそれぞれ潤滑剤の供給口12と戻し口17を設け、回転によってスパイラルグルーブ13bに生じる圧力で潤滑剤を循環させる。」と記載されているように、引用発明は、適正な動圧を発生させるために潤滑油が含浸体に吸収されないように、含浸体の表面の微細孔に目止め加工を施して含浸体の表面開孔率を調節しているものであるといえる。 また、動圧軸受において、適切な動圧ないし動圧による油膜力を得るために、軸受本体の開孔率を適切に調節することは、例えば、特開平3-71944号公報、特開平9-151939号公報に記載されているように周知の技術でもある。 そして、引用発明において、軸受本体の表面開孔率、すなわち、目止めしない微細孔の割合は、動圧溝の有無や溝の形状などの諸条件を考慮しつつ、油が軸受本体内部と軸受面を循環して潤滑に充分な量の油が供給され、かつ、必要な動圧が得られるような値に適宜調節されるものであるところ、2%以上12%以下との数値範囲の内と外で、軸受本体内部と軸受面との油の循環量や得られる動圧に顕著な差異があるとは認められず、かかる数値限定に臨界的意義があるとはいえない。 また、上記した特開平3-71944号公報には、動圧発生みぞ加工前の多孔性の金属の軸受素材の気孔率を3〜10%にすることが示され、また、特開平9-117094号公報には、多孔質体軸受のグルーブ部の気孔分布レベルを5〜40%(面積百分率)にすることが示され、特開平9-112560号公報には、軸受面の表面開孔率を凸部表面で3〜15%、凹部表面で0〜10%とすることが示されるように、本願補正発明の2%以上12%以下という数値は、当業者が通常設定する範囲を出ないものでもある。 (3)[相違点3]について 動圧軸受において、軸受側に動圧溝を設けることは、例えば、実願昭62-78205号(実開昭63-187723号)のマイクロフィルム、実願昭61-103268号(実開昭63-9520号)のマイクロフィルム、特開平5-180217号公報に記載されているように周知技術であり、引用発明において、軸に動圧溝を設ける代わりに、周知技術のように、軸受側に設けることは、単なる設計的事項にすぎない。 (4)また、本願補正発明を全体として検討しても、引用例に記載された発明及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏するものとも認められない。 したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成16年2月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成15年11月28日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「磁気ディスクを支持する回転軸と、この回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記回転軸または回転軸と共に回転する回転部材に設けられたロータと、静止部材に設けられたステータとを有するハードディスクドライブのスピンドルモータにおいて、 前記回転軸の直径が6mm以下であり、 前記軸受が、回転軸の外周面と軸受隙間を介して対向する軸受面を有する多孔質の焼結金属からなる軸受本体と、軸受本体に含浸された潤滑油または潤滑グリースと、軸受本体の軸受面に軸方向に対して傾斜させて設けられた動圧溝とを備え、軸受隙間に形成された潤滑油の動圧油膜によって回転軸を非接触支持すると共に、軸受本体表面の開孔部を介して油を軸受本体の内部と軸受隙間との間で循環させるものであり、 軸受面が、軸方向に対して一方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第1の溝領域と、第1の溝領域から軸方向に離隔し、軸方向に対して他方に傾斜した複数の動圧溝を円周方向に配列した第2の溝領域と、第1および第2の溝領域の間に位置する環状の平滑部とを有し、軸受面の表面開孔率が2%以上12%以下であるハードディスクドライブのスピンドルモータ。」 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用した引用例、及びその記載事項は前記「第2.2.」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記「第2.」で検討した本願補正発明から「軸受本体表面の開孔部を介して油を軸受本体の内部と軸受隙間との間で循環させるもの」の限定事項である「軸受面から油が軸受本体の内部に還流する」を省くものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.4.」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-11-21 |
結審通知日 | 2005-11-21 |
審決日 | 2005-12-05 |
出願番号 | 特願平9-357945 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 野村 亨 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
佐々木 芳枝 田良島 潔 |
発明の名称 | ハードディスクドライブのスピンドルモータ及び回転軸支持装置 |
代理人 | 白石 吉之 |
代理人 | 江原 省吾 |
代理人 | 山根 広昭 |
代理人 | 田中 秀佳 |
代理人 | 熊野 剛 |
代理人 | 城村 邦彦 |