• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1129697
審判番号 不服2004-5443  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-07-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-18 
確定日 2006-01-12 
事件の表示 特願2001- 3349「アーク溶接用ロボット」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月23日出願公開、特開2002-205167〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成13年1月11日の特許出願であって、同15年1月27日付で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同15年4月4日に意見書とともに明細書について手続補正書が提出されたが、同16年2月9日付で拒絶をすべき旨の査定がされ、同16年3月18日に本件審判の請求がされ、その後、同16年4月19日に明細書について再度手続補正書が提出されたものである。

第2 平成16年4月19日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年4月19日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容の概要
本件補正は、特許請求の範囲を含む明細書全体について補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)補正前の請求項1
「溶接ワイヤ(1)を供給するトーチ(2)と、このトーチ(2)を支持するアーム(3)と、このアーム(3)を駆動する駆動機構(5)と、この駆動機構(5)を制御して上記トーチ(2)をワーク(W)の被溶接部位に沿って移動させる制御手段(6)と、上記溶接ワイヤ(1)に電流を供給する溶接電源部(7)とを備えたアーク溶接用ロボットであって、溶接運転中のエラー発生による運転停止を検出する検出手段(20)と、停止したことによってエラー原因の除去を行うエラー原因除去手段(21)と、溶接運転中のエラー発生による運転停止時に、上記トーチ(2)を溶接線に倣って移動してきた経路を逆に戻してワーク(W)から退避させ、上記エラー原因除去手段(21)によるエラー原因の除去後、再びその溶接線に倣って復帰させる退避・復帰手段(24)と、復帰後に再開信号を上記制御手段(6)と上記溶接電源部(7)に供給して運転再開を行わせる運転再開手段(25)とを設け、この退避・復帰手段(24)と上記運転再開手段(25)とによる運転再開を自動的に行わせることを特徴とするアーク溶接用ロボット。」

(2)補正後の請求項1
「溶接ワイヤ(1)を供給するトーチ(2)と、このトーチ(2)を支持すると共に連結された複数の腕(8)(9)を備えたアーム(3)と、このアーム(3)を駆動する駆動機構(5)と、この駆動機構(5)を制御して上記アーム(3)を揺動させると共に上記トーチ(2)をワーク(W)の被溶接部位に沿って移動させる制御手段(6)と、上記溶接ワイヤ(1)に電流を供給する溶接電源部(7)とを備えたアーク溶接用ロボットであって、溶接運転中のエラー発生による運転停止を検出する検出手段(20)と、停止したことによってエラー原因の除去を行うエラー原因除去手段(21)と、溶接運転中のエラー発生による運転停止時に、上記トーチ(2)を溶接線に倣って移動してきた経路を逆に戻してワーク(W)から退避させ、上記エラー原因除去手段(21)によりエラー原因を除去した後、再びその溶接線に倣って復帰させる退避・復帰手段(24)と、復帰後に再開信号を上記制御手段(6)と上記溶接電源部(7)に供給して運転再開を行わせる運転再開手段(25)とをそれぞれ設け、上記退避・復帰手段(24)と上記運転再開手段(25)とによる運転再開を自動的に行わせることを特徴とするアーク溶接用ロボット。」

2.補正の適否
本件補正のうち、特許請求の範囲の請求項1についての補正は、アーク溶接用ロボットのアーム(3)について「連結された複数の腕(8)(9)を備えた」という事項を付加すると共に駆動機構(5)を制御することにより「アーム(3)を揺動させる」という事項を付加するものであり、少なくとも特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかである。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「アーク溶接用ロボット」であると認める。

(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭62-240163号公報(以下「引用例」という。)には以下の事項が記載されている。

ア.第1頁右下欄第6〜13行
「アーク溶接ロボットを用いる自動溶接では、アーク溶接実行中にチップ摩耗、ワイヤ送給不良、ワイヤ切れ等に起因して、アーク不安定やアーク切れが発生すると、溶接電源には基準値以下の溶接電流が流れることとなり、当該溶接電源はこれを検出して溶接ロボットへ異常信号を出力し、当該異常信号の入力する溶接ロボットは異常表示等の動作とともに進行を停止する。」

イ.第2頁左上欄第5〜12行
「従来、上記の如く溶接ロボットWRが停止した場合には、チップ交換、ワイヤ送給系のチェック、ワイヤ交換等を行うため、溶接ロボットWRを溶接線から手動で離脱して上記作業を実施し、当該作業終了後に溶接ロボットWRを自動で停止位置Bへ復帰させるか、手動で目視される溶接再開位置Aに移動するかして、位置決めのうえ溶接を再開するようにしていた。」

ウ .第3頁左上欄第6〜10行
「異常が排除され、再起動YESと判断されると、溶接ロボツトWRに復帰位置=位置座標PAへの移動指令が出され、復帰位置確認のうえ溶接指令がONとなり、溶接ロボツトWRは移動を開始して溶接が実行される。」

上記記載事項及び図面の記載からみて、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
[引用発明]
ワイヤと、溶接電源とを備えたアーク溶接ロボットであって、溶接実行中にアーク不安定やアーク切れ等の異常が発生すると、異常表示等の動作とともに進行を停止し、チップ交換、ワイヤ送給系のチェック、ワイヤ交換等の作業を行うため、溶接ロボットを溶接線から離脱させ、上記作業終了後に停止位置へ復帰させ溶接を再開するアーク溶接ロボット。

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると以下のとおりである。
引用発明における「ワイヤ」及び「溶接電源」は、技術常識からみてそれぞれ本件補正発明における「溶接ワイヤ」及び「溶接ワイヤに電流を供給する溶接電源部」に相当することが明らかである。
また、引用発明における溶接実行中の「アーク不安定やアーク切れ等の異常」は、本件補正発明における「溶接運転中のエラー」に相当し、引用発明において「異常が発生すると、異常表示等の動作とともに進行を停止」することは、異常表示等の動作により、溶接運転中のエラー発生による運転停止を検出するということができ、引用発明も本件補正発明と同様に「溶接運転中のエラー発生による運転停止を検出する検出手段」を有しているということができる。
また、引用発明において「チップ交換、ワイヤ送給系のチェック、ワイヤ交換等の作業を行う」ことは、停止したことによってエラー原因の除去を行うことにほかならず、引用発明も本件補正発明と同様にそのための「エラー原因除去手段」を有しているということができる。
また、引用発明において「溶接ロボットを溶接線から離脱させ、上記作業終了後に停止位置へ復帰させ」ることは、溶接運転中のエラー発生による運転停止時に、溶接ロボットをワークから退避させ、エラー原因除去手段によりエラー原因を除去した後、再び復帰させることであり、引用発明もその限りにおいて本件補正発明と共通する「退避・復帰手段」を有しているということができる。
また、引用発明において復帰した後「溶接を再開する」ためには上記(2)ウに示唆されているように再開信号を供給して運転再開を行わせる運転再開手段を要することが明らかであり、引用発明も当該手段を有しているということができる。
そして、引用発明においても、本件補正発明と同様、「上記退避・復帰手段と上記運転再開手段とによる運転再開を自動的に行わせる」ことが明らかである。
さらに、引用発明は「アーク溶接ロボット」として表現されているが、「アーク溶接用ロボット」としても表現できることは明らかである。
したがって、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
[一致点]
「溶接ワイヤに電流を供給する溶接電源部を備えたアーク溶接用ロボットであって、溶接運転中のエラー発生による運転停止を検出する検出手段と、停止したことによってエラー原因の除去を行うエラー原因除去手段と、溶接運転中のエラー発生による運転停止時に、上記ロボットをワークから退避させ、上記エラー原因除去手段によりエラー原因を除去した後、再び復帰させる退避・復帰手段と、復帰後に再開信号を供給して運転再開を行わせる運転再開手段とをそれぞれ設け、上記退避・復帰手段と上記運転再開手段とによる運転再開を自動的に行わせるアーク溶接用ロボット。」である点。
[相違点1]
本件補正発明では、アーク溶接用ロボットが、溶接ワイヤに電流を供給する溶接電源部の他に、溶接ワイヤを供給するトーチと、このトーチを支持すると共に連結された複数の腕を備えたアームと、このアームを駆動する駆動機構と、この駆動機構を制御して上記アームを揺動させると共に上記トーチをワークの被溶接部位に沿って移動させる制御手段とを備えているのに対して、引用発明では、それらのものを備えているのかどうか明らかでない点。
[相違点2]
退避・復帰手段が、本件補正発明では、トーチを溶接線に倣って移動してきた経路を逆に戻して退避させ、再びその溶接線に倣って復帰させるものであるのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。
[相違点3]
本件補正発明では、再開信号を制御手段と溶接電源部に供給しているのに対して、引用発明では、そのようになっているのかどうか明らかでない点。

(4)相違点についての検討
ア.相違点1について
アーク溶接用ロボットにおいて、溶接ワイヤに電流を供給する溶接電源部の他に、溶接ワイヤを供給するトーチと、このトーチを支持すると共に連結された複数の腕を備えたアームと、このアームを駆動する駆動機構と、この駆動機構を制御して上記アームを揺動させると共に上記トーチをワークの被溶接部位に沿って移動させる制御手段とを備えることは、特に例示するまでもなく従来周知であり、この従来周知の事項を引用発明に適用して相違点1に係る本件補正発明のように構成することに格別の困難性は見当らない。

イ.相違点2について
アーク溶接用ロボットを含む産業用ロボットにおいて、予め決められた移動経路の中途での運転停止時に、ロボットを基準位置に安全に退避させるために、移動してきた経路を逆に戻して退避させること、ないし、その復帰時に上記移動経路に沿って中途停止位置に復帰させることは、例えば、特開平8-47880号公報(特に、【請求項1】、段落【0032】〜【0034】及び【0039】参照。)、特開平6-102917号公報(特に、段落【0008】及び【0009】参照。)、特開昭60-44184号公報(特に、第3頁右上欄第16行〜同頁左下欄第2行、第4頁左下欄第4〜10行及び第5図参照。)等に記載されているように従来周知であり、上記従来周知の事項を引用発明に適用して相違点2に係る本件補正発明のように構成することは当業者が容易になし得たことである。

ウ.相違点3について
アーク溶接用ロボットを起動する際に起動信号を制御手段と溶接電源部に供給することはごく普通に行われていることからみて、運転再開時に再開信号を制御手段と溶接電源部に供給することに格別の困難性は見出せない。

そして、本件補正発明によってもたらされる効果も、引用発明及び上記従来周知の各事項から当業者であれば十分予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおりであり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について
1.本件発明
平成16年4月19日付の補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成15年4月4日付手続補正書により補正された明細書及び願書に最初に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「アーク溶接用ロボット」である。

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載内容は、上記第2の2(2)に示したとおりである。

3.対比・検討
本件発明は、上記第2の2で検討した本件補正発明からアーク溶接用ロボットのアーム(3)について「連結された複数の腕(8)(9)を備えた」という事項を削除するとともに、駆動機構(5)を制御することにより「アーム(3)を揺動させる」という事項を削除したものである。
そうすると、本件発明を特定する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2(4)に示したとおり、引用発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであり、本件発明は、引用発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-09 
結審通知日 2005-11-15 
審決日 2005-11-28 
出願番号 特願2001-3349(P2001-3349)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 成就神崎 孝之  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
豊原 邦雄
発明の名称 アーク溶接用ロボット  
代理人 西森 正博  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ