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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1129993
審判番号 不服2004-15917  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-11-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-30 
確定日 2006-01-19 
事件の表示 平成10年特許願第106151号「多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 5日出願公開、特開平11-307263〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年4月16日の出願であって、平成16年6月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成16年7月30日に審判請求がなされるとともに、平成16年8月23日付けで手続補正がなされ、その後、当審からの審尋に対して平成17年10月17日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成16年8月23日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年8月23日付け手続補正を却下する。
[理由]新規事項追加
(1)補正後の本願発明
平成16年8月23日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「透明な支持基板上に形成した色変換フィルターの層上に、電荷を注入することにより発光する有機発光層を配設する有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記色変換フィルター層と前記有機発光層との間に、該色変換フィルターの保護層が配設され、かつ前記色変換フィルターが表示部分の周縁部を超えて連続的に存在する、表示に使用されない色変換フィルター部分が存在することを特徴とする多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子。」
と補正された。
つまり、本件補正により、表示に使用されない色変換フィルター部分に関して、補正前の「表示部分の周縁部を超えて」に「連続的に存在する」なる発明特定事項を付加し「表示部分の周縁部を超えて連続的に存在する」と補正された。

(2)補正の適否の検討
表示に使用されない色変換フィルター部分に関して、「表示部分の周縁部を超えて連続的に存在する」と補正することが新規事項を追加する補正に該当するか否かを検討する。
本願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「当初明細書」という。)には、上記補正に関連して、以下の事項が記載されている。
記載1
「【請求項1】
透明な支持基板上に形成した色変換フィルターの層上に、電荷を注入することにより発光する有機発光層を配設する有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子において、 前記色変換フィルター層と前記有機発光層との間に、該色変換フィルターの保護層が配設され、かつ前記色変換フィルターが表示部分の周縁部を超えて、表示に使用されない色変換フィルター部分が存在することを特徴とする多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子。」(【請求項1】)
記載2
「【0013】
即ち、本発明の多色発光有機EL素子は、透明な支持基板上に形成した色変換フィルターの層上に、電荷を注入することにより発光する有機発光層を配設する有機EL素子を備えた多色発光有機EL素子において、 前記色変換フィルター層と前記有機発光層との間に、該色変換フィルターの保護層が配設され、かつ前記色変換フィルターが表示部分の周縁部を超えて、表示に使用されない色変換フィルター部分が存在することを特徴とするものである。」(段落【0013】)
記載3
「【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面に基づき具体的に説明する。 本発明の多色発光有機EL素子では、図1に示すように、透明支持基板1上に形成された表示部分2の周縁部を超えて、表示に使用されない色変換フィルター部分3が存在し、好ましくは、表示部分2の周縁部を0.5mm以上超えて、表示に使用されない色変換フィルター部分3が存在するようにする。」(段落【0016】)
記載4
「【0028】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
実施例1
1.25インチ(19.8×26.4mm)サイズパネルの多色発光有機EL素子を以下のようにして作製した。
【0029】
色変換フィルター形成
ガラス基板1としてフュージョンガラス(143×112×1.1mm)上に、カラーフィルターブルー材料(富士ハントエレクトロニクステクノロジー(株)製:カラーモザイクCB-7001)をスピンコート法にて塗布後、フォトリソグラフ法によりパターニングを実施し、青色色素層7の1mm×22mmライン、2.75mmギャップのラインパターンを得た。次いで、クマリン6(アルドリッヒ製)/ポリ塩化ビニル樹脂をスクリーン印刷法を用いて基板上へ印刷し、150℃でベークして緑色色素層6の1mm×22mmライン、2.75mmギャップ、膜厚12μmのラインパターンを得た。更に、ローダミン6G(アルドリッヒ製)/ポリ塩化ビニル樹脂をスクリーン印刷法を用いて基板上へ印刷し
、100℃でベークして赤色色素層5の1mm×22mmライン、2.75mmギャップ、膜厚30μmのラインパターンを得た。
【0030】
完成した色変換フィルターは図1に示す通り、表示部(19.8×26.4mm)の周縁に対して縦横共に約1.2mmの、実際の表示には使用されない色変換フィルター部分3の、所謂ダミーパターンが存在する。」(段落【0028】〜【0030】)
記載5
「【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る、所謂ダミーパターンを含む色変換フィルターを透明基板上に形成した際の基板平面図である。
【図2】(略)
【図3】
色変換フィルターの断面概略図である。
【図4】
保護層および色変換フィルターの変形により表示不良が発生する領域を示す説明図である。
【図5】(略)
【図6】
色変換フィルター端部付近の断面概略図である。
【図7】
一例素子構造の断面概略図である。
【図8】
実施例で用いた有機EL層の断面概略図である。
【図9】(略)」(【図面の簡単な説明】)

そこで、当初明細書の上記記載1〜5について検討する。
表示に使用されない色変換フィルター部分に関して、「表示部分の周縁部を超えて連続的に存在する」点は、当初明細書の上記記載1〜5及び図1〜9のいずれにも記載されておらず、また、それらの記載から自明なことともいえない。
また、表示に使用されない色変換フィルター部分に関する上記の点は、当初明細書のその他の記載にも記載されておらず、また、それらの記載から自明なことともいえない。

したがって、表示に使用されない色変換フィルター部分に関して、「表示部分の周縁部を超えて連続的に存在する」点は、当初明細書に記載されておらず、また、該当初明細書の記載から自明なこととはいえないので、本件補正は、当初明細書の記載された事項の範囲内においてなされたものではない。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年8月23日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、当初明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項により特定されるものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「透明な支持基板上に形成した色変換フィルターの層上に、電荷を注入することにより発光する有機発光層を配設する有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記色変換フィルター層と前記有機発光層との間に、該色変換フィルターの保護層が配設され、かつ前記色変換フィルターが表示部分の周縁部を超えて、表示に使用されない色変換フィルター部分が存在することを特徴とする多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子。」

4.引用刊行物に記載された発明
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された国際公開96/34514号パンフレット(1996)(以下、「引用刊行物」という。)には、「有機エレクトロルミネセンス」の発明に関して、以下の事項が記載されている。
<記載事項1>
「背景技術
エレクトロルミネセンス装置には、無機エレクトロルミネセンス装置と有機エレクトロルミネセンス装置とがある。一般に、無機エレクトロルミネセンス装置は、薄膜型・分散型とも、発光させるのに数十V以上の高い交流電圧の印加が必要となる。これに対し、有機エレクトロルミネセンス装置は、10V程度あるいはそれ以下の直流電圧で、高輝度に発光するという利点がある。
一般に、有機エレクトロルミネセンス装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層,発光層,および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
有機エレクトロルミネセンス装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物質を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。」(第1ページ第6〜26行)
<記載事項2>
「さて、このような構成の有機エレクトロルミネセンス装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機エレクトロルミネセンス装置の表示面が鏡面のように見える。
そして、有機エレクトロルミネセンス装置を発光素子や表示素子として用いる場合、非発光時に表示面が鏡面のように見えることはきわめて不自然であり、用途がいちじるしく限定される。特に周囲が明るい環境下で、この問題はより深刻である。
発明の開示
この発明は、上述した従来の有機エレクトロルミネセンス装置の課題を解消するためになされたもので、非発光時に金属電極から反射してくる光によって、表示面が鏡面に見えるのを防止することを主な目的とする。
この目的達成のため、第1の発明は、電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体(以下、有機EL発光体と省略することもある)を含む有機エレクトロルミネセンス装置において、有機エレクトロルミネセンス発光体の透明電極を透明基板の裏面側に形成するとともに、この透明基板の表面側に光拡散性を有する拡散板を設けた構成としている。
なお、この明細書および請求の範囲において、各部材の「表面」とは、外部から見られる表示面に近い側の面をいい、逆に各部材の「裏面」とは、表面の反対にある面(金属電極に近い側の面)をいうものとする。
拡散板としては、セラミック薄板等を用いることができる。このように、透明基板の表面に拡散板を形成した本発明によれば、有機EL発光体が発光していないとき(非発光時)、外部から照射された光の一部が拡散板の表面あるいはその内部で拡散的に反射し、残りの光が拡散板を透過する。そして、この拡散板を透過した光は、金属電極で反射し、再び拡散板に入射して拡散される。その結果、金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。」(第2ページ第10行〜3ページ第14行)
<記載事項3>
「〔第3の実施形態〕
第7図は、この発明による有機エレクトロルミネセンス装置の第3の実施形態を示す断面図である。この実施形態の有機エレクトロルミネセンス装置は、第1の実施形態(第1図参照)で示した透明電極14を、複数のセグメント14a,14b,14c,…に分割し、例えば第8図に示すような特定のパターンに配置した構成となっている。なお、有機発光層17および金属電極19の構成は、第1の実施形態と同様であり、また透明基板12および拡散板11も、第1の実施形態と同様に備えている。
【0065】複数のセグメントに分割された各透明電極14a,14b,14c,…は、それぞれ独立に通電可能なように電源に接続される。そして、各透明電極14a,14b,14c,…を選択的に通電することにより、通電された透明電極14a等と金属電極19の間に挟まれた有機発光層17の部分が発光し、例えば、文字,数字等の表示パターンを適宜内容を変えて発光表示する。このように表示パターンを発光表示する用途に適用される構造とした場合、装置の表面側から見たとき、発光した表示パターンの輪郭が明瞭になっていることが好ましい。」(第16ページ第4〜22行)
<記載事項4>
「〔第11の実施形態〕
第21図は、この発明による有機エレクトロルミネセンス装置の第11の実施形態を示す断面図である。
この有機エレクトロルミネセンス装置では、透明基板12の裏面側に拡散層21、複数のカラーフィルタ26a,26b,26c,…、透明コート層22、有機EL発光体10を順に積層して形成してある。
ここで、各カラーフィルタ26a,26b,26c,…は、おおむね透明電極14a,14b,14c,…と対向する位置にそれぞれ配置してある。これら各カラーフィルタ26a,26b,26c,…は、同一色とすることもできるが、複数種類の色に分けてもよい。
この実施形態では、透明電極14a,14b,14c,…を、例えばマトリクス状に配置するとともに、これら透明電極14a,14b,14c,…とほぼ対応する位置にカラーフィルタ26a,26b,26c,…を配置した。ここで、カラーフィルタ26a,26b,26c,…は、一定規則のもとに複数種類の色のものを選択配置してある。例えば、赤色のカラーフィルタ,黄色のカラーフィルタとを交互に配置する。
カラーフィルタ26の厚さは、着色可能な範囲においてなるべく薄い方が好ましく、おおむね0.1〜1μm程度の厚さとすることが好ましい。カラーフィルタ26a,26b,26c,…の形成によって、拡散層21の裏面側には凹凸ができる。透明コート層22は、この凹凸をなくし有機EL発光体10の形成面を平滑化する。」(第28ページ第5〜28行)
<記載事項5>
「この実施形態の構成によれば、有機発光層17の発光色が一種類であっても、発光部分に対応するカラーフィルタ26a,26b,26c,…の色に応じて、複数の色表示を実現することができる。
すなわち、認識される表示パターンの色は、有機EL発光体10の発光の分光曲線と、カラーフィルタ26a,26b,26c,…の透過率の分光曲線とを重ね合わせて得られる分光曲線の光の色となる。このような分光曲線の組み合わせは、目的に応じて任意に設計することができ、それによって種々の色表示が実現できる。
ここで、有機EL発光体10の発光色を、白色に近づければ、認識される発光表示の色は、ほぼ対応するカラーフィルタ26a,26b,26c,…の色となる。
有機EL発光体10を白色に近い発光色とするには、有機発光層17を、例えばPVK(ポリビニルカルバゾール)中に三原色であるDCM1(赤)、クマリン6(緑)、テトラフェニルブタジエン(青)の3色の蛍光色素をドープした膜で形成すればよい。
また、例えば、有機EL発光体10の発光色を短波長の青色とし、カラーフィルタ26a,26b,26c,…として、緑や赤に波長変換する蛍光色素をドープした膜を用いてもよい。
この実施形態の有機エレクトロルミネセンス装置は、外部から拡散層21を見ることになり、有機EL発光体10の非発光時には、おおむね表示面全体が拡散層21の色である白色に見える。
ただし、拡散層21の裏面側にあるカラーフィルタ26a,26b,26c,…の色もある程度認識できるので、表示面を均一な色としたい場合には、カラーフィルタ26a,26b,26c,…を細かく分割して、各カラーフィルタ26a,26b,26c,…の色が混合して認識されるようにすればよい。」(第28ページ第29行〜第29ページ第25行)
<記載事項6>
「また、カラーフィルタ26a,26b,26c,…を有機EL発光体10と対向する部分にのみ配置した場合、有機EL発光体10の非発光時に、有機EL発光体10の対向部分とそこから外れた周辺部分とで、カラーフィルタ26a,26b,26c,…の有無による色の不均一が生じるおそれがある。
そこで、有機EL発光体10の非発光時に、表示面全体を均一な色としておくには、さらに上記周辺部分(有機EL発光体10と対向していない部分)にも、ダミーのカラーフィルタ26x、26yを形成しておくことが好ましい。」(第29ページ第26行〜第30ページ第4行)
<記載事項7>
第21図において、基板12には、透明電極14a、…、14fのおおむね対応する位置にカラーフィルタ26a,…、26fが形成されるとともに、カラーフィルタ26a,…、26fの外側にダミーのカラーフィルタ26x、26yが形成されている点、並びに上記カラーフィルタ26a,…、26f及びダミーのカラーフィルタ26x、26yは、透明コート層22が施されている点が記載されている。

そして、引用刊行物には「カラーフィルタ26a,26b,26c,…の形成によって、拡散層21の裏面側には凹凸ができる。透明コート層22には、この凹凸をなくし有機EL発光体10の形成面を平滑化する。」との記載がなされ(記載事項3)、また、カラーフィルタ26a,…、26fに透明コート層22を施すことが記載されているので(記載事項7)、上記透明コート層22はカラーフィルタ26a,…、26fを保護する機能を有するといえる。

したがって、上記記載事項1〜7及びそこで参照している第7,21図の記載に基づけば、引用刊行物には、
「透明基板12上に拡散層21、複数のカラーフィルタ26a,26b,26c、電荷を注入することにより発光する有機発光層17を備えた有機EL発光体10を順に積層して形成した有機エレクトロルミネセンス装置において、前記カラーフィルタ26a,…,26fと前記有機発光層17との間に該カラーフィルタ26a,…,26fを保護する透明コート層22が配設され、かつ該カラーフィルタ26a,…,26fは透明電極14a,…,14fと対向しており、該カラーフィルタ26a,…,26fより外側にダミーのカラーフィルタ26x、26yを形成することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

5.対比
本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「透明基板12」は本願発明の「透明な支持基板」に、以下、「カラーフィルタ26a,…、26f」は「色変換フィルター」に、「有機発光層」は「有機発光層17」に、「有機エレクトロルミネセンス装置」は「有機エレクトロルミネッセンス素子」に、「カラーフィルタ26a,…、26fを保護する透明コート層22」は「色変換フィルターの保護層」に、「ダミーのカラーフィルタ26x、26y」は「表示に使用されない色変換フィルター部分」にそれぞれ相当する。

また、記載事項3の「【0065】複数のセグメントに分割された各透明電極14a,14b,14c,…は、それぞれ独立に通電可能なように電源に接続される。そして、各透明電極14a,14b,14c,…を選択的に通電することにより、通電された透明電極14a等と金属電極19の間に挟まれた有機発光層17の部分が発光し、例えば、文字,数字等の表示パターンを適宜内容を変えて発光表示する。」との記載からみて、引用発明の「透明電極14a,…,14f」の範囲(カラーフィルタ26a,…,26fの範囲でもある)は、引用発明の「表示部分」に相当し、引用発明の「カラーフィルタ26a,…,26fより外側」は、本願発明の「表示部分の周縁部を超え」た部分に相当する。
してみると、本願発明の「表示に使用されない色変換フィルター部分」に相当する引用発明の「ダミーのカラーフィルタ26x、26y」は、表示部分の周縁部を超えて存在するといえる。

したがって、両者は、
「透明な支持基板上に形成した色変換フィルターの層上に、電荷を注入することにより発光する有機発光層を配設する有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記色変換フィルター層と前記有機発光層との間に、該色変換フィルターの保護層が配設され、かつ前記色変換フィルターが表示部分の周縁部を超えて、表示に使用されない色変換フィルター部分が存在することを特徴とする多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子。」の点で一致するが、以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、透明な支持基板上に色変換フィルターを形成するのに対して、引用発明は、透明な支持基板上に拡散層21を介して色変換フィルターを形成する点。

6.当審の判断
引用発明の「拡散層21」を設けた理由は、有機エレクトロルミネセンス装置において、外部から視認したとき、有機エレクトロルミネセンス装置の表示面が鏡面のように見えるのを防止するためである(記載事項2)。
してみると、色変換フイルタの機能を果たす上で拡散層21が必須の構成でないことは当業者であれば普通に理解できることであるから、本願発明のように「透明な支持基板上に色変換フィルターを形成する」ことは、必要に応じて適宜になし得る設計事項であるといえる。

そして、本願発明の効果は、引用刊行物の記載から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用刊行物の記載に基づいて当業者が容易になし得たものである。


7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-16 
結審通知日 2005-11-22 
審決日 2005-12-05 
出願番号 特願平10-106151
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 561- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 里村 利光  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 柏崎 正男
辻 徹二
発明の名称 多色発光有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 篠部 正治  

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