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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1130087
審判番号 不服2003-7400  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-10-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-30 
確定日 2006-01-26 
事件の表示 平成 7年特許願第 73421号「多重管形放電灯および光化学反応装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月18日出願公開、特開平 8-273594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年3月30日の出願であって、平成15年2月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成15年5月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
「補正却下の決定の結論」
平成15年5月26日付けの手続補正を却下する。
「理由」
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、以下のとおり補正された。
【請求項1】 内部に発光物質および放電媒体が封入された全長が250mm以上の円筒状のセラミックス管、このセラミックス管の両端を閉塞した各栓体に基部がそれぞれ固定保持され先端部の横断面面積の電流密度が0.1〜1.5A/mm2である電極軸棒およびこの電極軸棒の長手方向に沿って複数層巻回され、かつ、軸棒先端側において軸棒に近い側の層の巻き始めが、軸棒に遠い側の層の巻き始めよりも軸棒先端側に位置するように形成された多重コイルを有する電極が配設されるとともに上記電極軸棒および軸棒に複数層巻回されたコイルの外表面露出部を除く部分に電子放射性物質を保持した発光管と;この発光管および発光管を支持するサポート部材を収容した外管と;この外管内において発光管軸に沿い対称的に対向して設けられ外管の基端部より遠い側の発光管の電極に接続した給電線と;を具備し定格ランプ電流が20A以上で点灯されることを特徴とする多重管形放電灯。
【請求項2】 上記発光管の電極は、電極軸棒の先端部周辺が丸味を帯びた面取部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の多重管形放電灯。
【請求項3】 上記発光管の電極は、円柱状をなす電極軸棒の端部に前記栓体に固定された排気管を兼ねる細管に螺合するねじ部が形成されるとともに、外側の一部に軸方向と交差する方向に対向して偏平部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の多重管形放電灯。
【請求項4】 上記発光管の電極は、電極軸棒およびこの電極軸棒の長手方向に沿って複数層巻回され、かつ、軸棒先端側において先端部形状が包絡的なテーパー面を呈する複数コイルを有していることを特徴とする請求項3に記載の多重管形放電灯。
【請求項5】 上記発光管の電極の多重コイル先端の各始端部は、隣接したほぼ揃った位置にあることを特徴とする請求項4に記載の多重管形放電灯。
【請求項6】 上記発光管の両電極軸棒先端部間の電位傾度が3〜6V/cmであることを特徴とする請求項5に記載の多重管形放電灯。
【請求項7】 上記請求項1ないし請求項6に記載の多重管形放電灯からなる光源と;この光源を収容する反応槽本体と;を具備していることを特徴とする光化学反応装置。
(当審注:アンダーラインは、補正された補正箇所を示すために付したものである。)
実質的な補正がなされた特許請求の範囲の請求項3と、請求項3を直接、間接に引用する各請求項について補正の適否を判断する。

(2)当審の判断
(2)-1〈補正の目的の適否について〉
請求項3についての補正は、補正前の請求項3に記載した発明の構成に欠くことのできない事項である「電極棒」について、「端部に前記栓体に固定された排気管を兼ねる細管に螺合するねじ部が形成される」との限定を附加するものであり、特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項3を直接、間接に引用する各請求項についても、同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)-2〈独立特許要件について〉
上記補正後の請求項3に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

ア.引用刊行物及び引用刊行物に記載された発明
刊行物1:特開平6-223786号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用例a、以下、「引用刊行物1」という。)
この出願の前に頒布された刊行物である引用刊行物1には、以下の事項が図面と共に記載されている。

a.「本発明は、・・・2重管形放電灯およびこれを用いた光化学反応装置ならびに照明装置に関する。」(段落「0001」)
b.「光化学反応などのような産業分野の光源として使用される高圧ナトリウムランプや高圧水銀ランプは、10kW〜20kWの高出力で点灯される場合があり」(段落「0004」)
c.「本発明について、図1ないし図5に示す第1の実施例にもとづき説明する。 図面は光化学反応装置およびこの光源として用いられる高圧ナトリウムランプを示し、図1ないし図4は高圧ナトリウムランプの図、図5はこれを光源として用いた光化学反応装置全体の図である。」(段落「0010」)
d.「高圧ナトリウムランプ10について、図1ないし図4にもとづき説明する。図において符号11は外管、12は中間保護管、13発光管であり、よってこのランプ10は3重管構造をなしている。・・・発光管13は、詳しい説明を省略するが、アルミナからなる発光管バルブの両端に電極14、14を封装するとともに、このバルブ内に発光金属としての所定量のナトリウムと、水銀と、例えば50Torr程度のキセノン等からなる始動用希ガスが封入されている。・・・このような発光管13は、上記中間保護管12に収容されている。」(段落「0014〜0016」)
e.「中間保護管12は外管11内に機械的に支持されている。外管11は、例えば硬質ガラスからなり、内部は窒素などのような不活性ガスの雰囲気に保たれ、例えば450Torr程度の圧力に維持されている。上記中間保護管12は、両端部が上側ホルダー15a、下側ホルダー15bにより支持されており、これらホルダー15a、15bには板ばね16、16が取り付けられている。これら板ばね16、16は外管11の内面に弾着しており、よって中間保護管12は、ホルダー15a、15bおよび板ばね16、16を介して外管11内に機械的に取着されている。・・・上側のホルダー15aはステンレスなどからなるサポートロッド17、17に連結されており、これらサポートロッド17、17はアルミナなどからなる絶縁碍子18、18を介してバイポストリード19、19に連結されている。バイポストリード19、19は黄銅等のような導電性に優れた金属部材からなり、外管11の上端閉塞部を気密に貫通している。これらバイポストリード19、19の導出端部は、前記ソケット6、6が脱着可能に接続される給電端子20、20をなしている。」(段落「0017、0018」)
f.「バイポストリード19、19の下部にはリード端子21、21が接続されており、これらリード端子21、21にはそれぞれリード線22、22が接続されている。リード線22、22は中間保護管12の両端からこの中間保護管12内に気密に導入されており、それぞれ発光管11の電極14、14に接続されている。・・・なお、下側の電極14に接続されるリード線22は中間保護管12の外側をこの中間保護管12に沿って下向きに導かれており、この途中の部分は石英ガラスなどから絶縁チューブ23により覆われている。」(段落「0020、0021」)
g.「ランプが正常に作動する場合は、電源側の電力がソケット6、6から給電端子20、20を通じて、それぞれ圧力応動型電流遮断機構30、30の接点31、32を経てバイポストリード19、19に供給される。このためリード線22、22を通じて発光管13の電極14、14に電力が供給され、発光管13が点灯する。」(段落「0027」)
h.「上記実施例においては、光化学反応装置の光源として3重管構造の高圧ナトリウムランプ10を用いた場合を説明したが、ランプ構造は3重管に限らず、発光管を外管に収容した2重管構造であってもよい。また、ランプは高圧ナトリウムランプに限らず、紫外線を効果的に放出する高圧水銀ランプであってもよい。」(段落「0036」)

そして、上記各摘記事項の記載及び図面の記載から引用刊行物1について以下の事項が明らかである。
・上記摘記事項d、e及び図1の記載から、引用刊行物1のものは、発光管13が中間保護管12に支持され、中間保護管12は外管11に機械的に支持されていることが見て取れるから、外管11は発光管13および発光管13を支持するサポート部材を収容しているといえる。
・上記摘記事項bによると、多重管放電灯は10kW〜20kWの高出力で点灯されるものであるから、所定の定格ランプ電流で点灯されていることは明らかである。

そうすると、引用刊行物1には次の発明が記載されている。
「内部に発光金属および水銀・始動用ガスが封入された円筒状のアルミナからなる発光管バルブ、この発光管バルブの両端に封装された電極14、14を有する発光管13と;この発光管13および発光管13を支持するサポート部材を収容した外管11と;この外管11内において発光管軸に沿って設けられ外管11の基端部より遠い側の発光管13の電極14に接続したリード線22と;を具備し所定の定格電流で点灯される多重管放電灯」(以下、「引用発明1」という。)

刊行物2:特開平2-94352号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用例c、以下、「引用刊行物2」という。)
この出願の前に頒布された刊行物である引用刊行物2には、「本発明は、外管内に始動装置を内蔵して高圧水銀ランプ用の汎用安定器で使用される高圧ナトリウムランプに関する。」(公報第1頁右下欄第7〜9行)、「(実験2) 次に、上記短絡電流Ishが2.5Aの単チョークコイル形安定器18を用いて、電極軸12の直径d、電極コイル部13の直径Dおよび電極軸12の突出長さhが異なるランプ電流ILが1.7Aの発光管について、定格電源電圧の90%で点灯させた場合の試験結果を第1表に示す。」(公報第4頁右下欄第9〜15行)と記載され、第1表のIL(A)=1.7、Ish(A)=2.5、h(mm)=0.2、d(mm)=1.4、1.2の欄を参照すると、ランプ電流IL(A)を電極軸の断面積π・d2/4で割った値である電流密度が、d=1.4mmでは1.07A/mm2で、d=1.2mmでは1.50A/mm2であると理解できる。
そうすると、引用刊行物2には、次の発明が記載されている。
「電流密度を1.07又は1.50A/mm2とする高圧ナトリウムランプランプ(放電ランプに相当)」(以下、「引用発明2」という。)

刊行物3:特開昭56-76155号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用例b、以下、「引用刊行物3」という。)
この出願の前に頒布された刊行物である引用刊行物3には、第2図とともに、「本発明は高圧ナトリウムランプ、特にその電極に関するものである。」(公報第1頁左下欄第19、20行)、「電極芯棒6の突出部の突出長hとして2.5mmを残してタングステンからなる線径0.5mmの内側コイル7が巻回されているとともに、内側コイル7の外周には、タングステンからなる線径0.5mmの外側コイル8が巻回されている。電極芯棒6と内側コイル7とによって形成された空隙部10、および内側コイル7と外側コイル8とによって形成された空隙部11には、・・・電子放射物質9が充填されている。」(公報第2頁左下欄第6〜15行)と記載されている。
第2図によると、内側コイル7の巻き始めが外側コイル8の巻き始めよりも電極芯棒6先端側に位置していることが見て取れる。
そうすると、引用刊行物3には、次の発明が記載されている。
「電極芯棒6(電極軸棒に相当)は、電極芯棒6の長手方向に沿って内側コイル7と外側コイル8(複数層に相当)が巻回され、かつ、芯棒先端側において内側コイル7(芯棒に近い側の層に相当)の巻き始めが、外側コイル8(芯棒に遠い側の層に相当)の巻き始めよりも芯棒先端側に位置するように形成された多重コイルを有し、電極芯棒6および芯棒に巻回された内側コイル7と外側コイル8(複数層巻回されたコイルに相当)により形成される空隙部10、11(外表面露出部を除く部分に相当)に電子放射物質9(電子放射性物質に相当)を保持している電極」(以下、「引用発明3」という。)

イ.対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1のものにおける「発光金属」、「水銀・始動用ガス」、「アルミナからなる発光管バルブ」、「電極14、14」、「発光管13」、「外管11」、「リード線22」及び「多重管放電灯」は、それぞれ、本願補正発明の「発光物質」、「放電媒体」、「セラミックス管」、「電極」、「発光管」、「外管」、「給電線」及び「多重管形放電灯」に相当する。
してみると、両者は、次の一致点で一致し、相違点(イ)〜(ニ)で相違する。
【一致点】
内部に発光物質および放電媒体が封入された円筒状のセラミックス管、このセラミックス管の両端に封装された電極を有した発光管と;この発光管および発光管を支持するサポート部材を収容した外管と;この外管内において発光管軸に沿って設けられ外管の基端部より遠い側の発光管の電極に接続した給電線と;を具備し定格ランプ電流で点灯される多重管形放電灯。
【相違点】
(イ)本願発明では、セラミックス管の全長が250mm以上とされているのに対し、引用発明1では、アルミナからなる発光管バルブ(セラミックス管に相当)の全長は明記されていない点
(ロ)本願発明では、電極に関し以下の事項が特定されている;
(i)電極軸棒の基部がセラミックス管の両端を閉塞した各栓体に固定保持されていること
(ii)電極軸棒の先端部の横断面面積の電流密度が0.1〜1.5A/mm2であること
(iii)電極軸棒は、電極軸棒の長手方向に沿って複数層巻回され、かつ、軸棒先端側において軸棒に近い側の層の巻き始めが、軸棒に遠い側の層の巻き始めよりも軸棒先端側に位置するように形成された多重コイルを有し、電極軸棒および軸棒に複数層巻回されたコイルの外表面露出部を除く部分に電子放射性物質を保持していること
(iv)円柱状をなす電極軸棒の端部に前記栓体に固定された排気管を兼ねる細管に螺合するねじ部が形成されるとともに、外側の一部に軸方向と交差する方向に対向して偏平部が形成されていること
これに対し、引用発明1では、電極に関し当該特定事項については明記されていない点
(ハ)本願発明では、給電線は発光管軸に沿い対称的に対向して設けられているのに対し、引用発明1では、発光管軸に沿うリード線22(給電線に相当)は一本であって、該リード線22は発光管軸に沿い対称的に対向して設けられていない点
(ニ)本願発明では、定格電流が20A以上と特定されているのに対し、引用発明1では定格電流の値は明記されていない点

ウ.判断
上記相違点について検討する。
相違点(イ)について;
当該技術分野において、セラミック発光管の全長を250mm以上とすることは周知{例えば、特開昭62-115642号公報、実願昭62-179691号(実開平1-86061号)のマイクロフィルム等参照}であり、また、本願発明における発光管の全長を250mm以上と特定することによる臨界的意義も特に認められないから、該周知技術に基づき引用発明1の発光管の全長を250mm以上として本願補正発明のように構成することに格別の困難性は認められない。
相違点(ロ)について;
(i)、(iv)に関して;当該技術分野において、セラミック発光管の両端を閉塞した栓体に基部が固定された円柱状をなす電極軸棒であって、その端部に栓体に固定された排気管を兼ねる細管に螺合するねじ部を形成することは周知{例えば、実願昭60-69321号(実開昭61-186161号)のマイクロフィルム、実願昭62-179691号(実開平1-86061号)のマイクロフィルム:当該公報における閉塞体、電極軸、金属管及びねじ山はそれぞれ栓体、電極軸棒、細管及びねじ部に相当し、金属管は排気管としても機能することが記載されている。、等参照}であり、また、ねじ部を有する円柱状軸部に螺合回転のための扁平部を形成することは機械設計上の技術常識にすぎないから、引用発明1の当該相違点に関し、該周知技術及び技術常識に基づき本願補正発明のように構成する点に格別の困難性は認められない。
(ii)に関して;当該技術分野において、電流密度を0.1〜1.5A/mm2の間の数値である1.07、1.05A/mm2とすることは引用発明2に記載されている。また、本願発明において、電流密度を0.1〜1.5A/mm2の数値とすることに臨界的意義も特に認められない。したがって、引用発明1のものに引用発明2を適用して本願補正発明の電流密度範囲とすることは、適宜に行いうる設計的事項にすぎず、格別の困難性は認められない。
(iii)に関して;引用発明1および引用発明3はともに金属蒸気放電ランプという同一の技術分野に属するものであるから、引用発明1の電極として引用発明3の電極を適用して本願補正発明のものを構成する点に格別の困難性は認められない。
相違点(ハ)について;
当該技術分野において、給電線を発光管軸に沿い対称的に設けて、アーク放電の偏位を防ぐことは周知{例えば、特開昭60-86752号公報:リード線40,40に留意、実願昭58-91703号(実開昭59-195664号)のマイクロフィルム:フィラメント3,3に留意、等参照}にすぎないから、引用発明1の発光管13の電極14への給電手段として、該周知技術を適用して本願補正発明のものを構成する点に格別の困難性は認められない。
なお、審判請求人は、請求の理由において『本願発明は、上記のように、「外管内において発光管軸に沿い対称的に対向して設けられ外管の基端部より遠い側の発光管の電極に接続した給電線」を設けたことにより、発光管を構成するセラミックス管の管壁の黒化現象あるいはひび割れ等、かかる大電力の多重管型放電灯に特有な問題点を除去できるという顕著な効果を有するものであります。』と主張し、また、平成17年8月29日付けの当審審尋に対する同年10月17日付けの回答書において『請求項1に記載の発明における重要な特徴のひとつは、「外管内において、発光管軸に沿い対称的に対向して設けられ、外管の基端部より遠い側の発光管の電極に接続した給電線」を設けたことにより、発光管を構成するセラミックス管の管壁の黒化現象あるいはひび割れを防止できることであります。かかるセラミックス管の管壁の黒化現象あるいはひび割れ等の問題は、本願発明が対象とする大電力で全長が250mm以上のセラミックス管からなる放電灯において固有なものであり、小型で低電力の放電灯ではまったく問題になりません。請求項1に記載の発明はこのような大電力かつ大型の放電灯に固有な問題点を解決したものであります。』と主張しているが、前記周知技術として提示した特開昭60-86752号公報には、実施例としてランプ電流が30Aの大電力、かつ、全長が200mmのセラミック管である透光性多結晶アルミナからなる発光管で形成された大型の放電灯において本願発明と同様の作用効果を達成することが示されており、発光管の全長を250mm以上と特定することによる臨界的意義も特に認められないことは上記したとおりであるから、250mm以上のセラミックス管に関して上記請求人の主張する作用効果は、大型の放電灯として発光管の全長が200mmのものの有する作用効果から当業者が容易に予測しうる範囲内ものと認められ、審判請求人の主張は採用できない。
相違点(ニ)について;
当該技術分野において、ランプ電流を15A以上とすることは周知{例えば、特開昭60-86752号公報:15A以上に留意、実願昭62-179691号(実開平1-86061号)のマイクロフィルム:20Aに留意、等参照}であり、また、本願発明における定格ランプ電流を20A以上と特定することによる臨界的意義も特に認められないから、該周知技術に基づき引用発明1の定格ランプ電流を20A以上として本願補正発明のよう構成することに格別の困難性は認められない。
そして、本願補正発明の作用効果についても引用発明1〜3及び周知技術のものから予測可能なものにすぎない。

エ.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、上記引用発明1〜3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成15年5月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜7に係る発明は、平成12年12月4日付け、及び平成14年12月24日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載されたとおりのものと認められるところ、本願の請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「内部に発光物質および放電媒体が封入された全長が250mm以上の円筒状のセラミックス管、このセラミックス管の両端を閉塞した各栓体に基部がそれぞれ固定保持され先端部の横断面面積の電流密度が0.1〜1.5A/mm2である電極軸棒およびこの電極軸棒の長手方向に沿って複数層巻回され、かつ、軸棒先端側において軸棒に近い側の層の巻き始めが、軸棒に遠い側の層の巻き始めよりも軸棒先端側に位置するように形成された多重コイルを有する電極が配設されるとともに上記電極軸棒および軸棒に複数層巻回されたコイルの外表面露出部を除く部分に電子放射性物質を保持した発光管と;この発光管および発光管を支持するサポート部材を収容した外管と;この外管内において発光管軸に沿い対称的に対向して設けられ外管の基端部より遠い側の発光管の電極に接続した給電線と;を具備し定格ランプ電流が20A以上で点灯される多重管形放電灯において、上記発光管の電極は、円柱状をなす電極軸棒の外側の一部に軸方向と交差する方向に対向して偏平部が形成されている多重管形放電灯。」
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、「(2)-2〈独立特許要件について〉 ア.引用刊行物及び引用刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。
(2)対比・判断
本願発明は、「(2)-2〈独立特許要件について〉」で検討した本願補正発明の構成において、「上記発光管の電極は、円柱状をなす電極軸棒の端部に前記栓体に固定された排気管を兼ねる細管に螺合するねじ部が形成されるとともに、外側の一部に軸方向と交差する方向に対向して偏平部が形成されている」に関し「端部に前記栓体に固定された排気管を兼ねる細管に螺合するねじ部が形成されるとともに、」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含みさらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、「(2)-2〈独立特許要件について〉」に記載したとおり引用発明1〜3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1〜3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1〜3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
上記のとおり、本願の請求項3に係る発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について審究するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-25 
結審通知日 2005-11-29 
審決日 2005-12-12 
出願番号 特願平7-73421
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 向後 晋一河原 英雄  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 下中 義之
山口 敦司
発明の名称 多重管形放電灯および光化学反応装置  
代理人 竹花 喜久男  
代理人 大胡 典夫  
代理人 大胡 典夫  

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