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審決分類 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F27D
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F27D
審判 全部無効 2項進歩性  F27D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F27D
審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件  F27D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  F27D
管理番号 1130174
審判番号 無効2004-80111  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-12-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-07-27 
確定日 2006-01-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第2135799号発明「シャフト状装填材料予熱装置付き溶解プラント」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2135799号の請求項1ないし12に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
特許出願(特願平2-504164号) 平成 2年 2月28日
(優先権主張、1989年3月2日、1989年12月7日、ドイツ)
出願公告(特公平6-46145号) 平成 6年 6月15日
設定登録 平成10年 4月10日
無効審判請求(平成11年審判35209号)平成11年 5月 7日
審決(無効請求不成立) 平成12年10月30日
出訴(平成12年(行ケ)483号) 平成12年12月18日
訂正審判(訂正2001-39134号) 平成13年 8月15日
審決(訂正容認) 平成13年 9月18日
東京高裁判決(審決取消) 平成15年 6月19日
上告受理申立(平成15年(行ノ)135号)平成15年 7月16日
訂正審判(訂正2003-39153号) 平成15年 7月31日
最高裁決定(平成15年(行ヒ)270号、上告審として不受理)
平成15年11月13日
審決(訂正容認) 平成16年 5月18日
審決(無効請求不成立) 平成16年 6月15日
無効審判請求(2004年審判80111号)平成16年 7月27日
答弁書 平成16年11月30日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成17年 3月 3日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成17年 3月10日
口頭審理(特許庁審判廷) 平成17年 3月10日
上申書(被請求人) 平成17年 4月25日
上申書(請求人) 平成17年 6月 8日

II.本件発明
本件特許の請求項1〜12に係る発明は、平成13年8月15日付け訂正審判(訂正2001-39134号)を容認する審決により訂正され、更に平成15年7月31日付け訂正審判(訂正2003-39153号)を容認する審決により訂正された特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された次のとおりのものと認める。
「1.炉床(4)、炉容器壁(5)および移動可能な炉容器蓋(6)を具えた炉容器(3)を含む電気アーク炉(1)と、
炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極昇降旋回装置(8)と、
前記炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し、
該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており、前記予熱装置は、さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する溶解プラントにおいて、
前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、前記装填材料予熱装置(2)の壁は、その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され、その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されており、
かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能であることを特徴とする溶解プラント。
2.前記容器蓋(6)は解放可能に前記保持構造体(27)に取り付けられていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の溶解プラント。
3.前記保持構造体(27)が昇降装置(56)によって前記炉容器に対して上昇可能であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の溶解プラント。
4.前記炉容器(3)が前記保持構造体(27)に対して下降可能であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の溶解プラント。
5.前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)が相互に水平方向に変位可能であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
6.前記相互の水平方向の変位の方向が前記炉容器蓋(6)の中央と前記シャフトの中心線との間を結ぶ線に平行であることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の溶解プラント。
7.前記シャフト(10)中には、少なくとも1個のブロッキング部材(51)が、該部材が前記装填材料の支持手段を形成する閉成位置から前記装填材料を前記炉容器(3)内へ装填するための解放位置へ移動可能な様に配設され、該解放位置においては前記ブロッキング部材は前記装填材料が前記シャフト(10)を通過させることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第6項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
8.電極昇降旋回装置(8)が前記炉容器(3)の傍で前記装填材料予熱装置(2)と反対側に配設されていることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第7項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
9.前記シャフト(10)の保持構造体(27)を移動させるための手段(23)が前記炉容器(3)の傍の前記装填材料予熱装置(2)の側に設けられていることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第8項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
10.前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、前記支持構造体(63)が移動可能であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第9項のいずれかの項に記載の溶解プラント。
11.前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、昇降部材(70,71)は装填材料予熱装置(2)の中央線と炉床(4)の中心を結ぶ線(22)の両側に配置され、一方の側の1個または複数の昇降部材(71)はフレーム(61)および支持構造体(63)中で線(22)に平行な回転軸のまわりに旋回可能に取り付けられ、一方、他方の側の1個または複数の昇降部材は垂直案内部材を有することを特徴とする請求の範囲第10項に記載の溶解プラント。
12.前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、前記支持構造体(63)が二つの平行横断受台(67,68)および該横断受台と接続する縦断受台(69)を含むことを特徴とする請求の範囲第10項あるいは第11項に記載の溶解プラント。」
(以下、特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された発明をそれぞれ「本件発明1〜12」という。)

III.請求人の主張及び証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、本件発明1〜12についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、無効理由として、審判請求書において、次のとおり主張している。
(1)無効理由1
本件明細書は記載が不備であるから、本件発明1〜12についての特許は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

(2)無効理由2
平成15年7月31日付け訂正審判(訂正2003-39153号)を容認する審決によりなされた本件特許の願書に添付した明細書の訂正は、特許法第126条第2項及び第3項の規定に違反してされたものであり、本件発明1〜12についての特許は、同法第123条第1項第8号の規定により無効とすべきものである。

(3)無効理由3
平成15年7月31日付け訂正審判を容認する審決によりなされた本件特許の願書に添付した明細書の訂正において、訂正後の請求項1〜12に記載された事項により構成される発明は、本件の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、訂正後の請求項1に記載された事項により構成される発明は、甲第5号証に記載された発明であるから、訂正後の請求項1〜12に記載された事項により構成される発明は、特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項の規定により、出願の際独立して特許を受けることができないものであり、したがって、上記訂正は、特許法第126条第4項の規定に違反してされたものであって、本件発明1〜12についての特許は、同法第123条第1項第8号の規定により無効とすべきものである。

2.証拠方法と証拠の記載事項
請求人は、証拠方法として、無効審判請求書に添付して甲第1〜6号証を、口頭審理後に提出された上申書に添付して参考資料1〜3をそれぞれ提出している。
そして、請求人が提出した証拠方法と証拠の主な記載事項は、次のとおりである。

2-1.審判請求時に提出された証拠
(1)甲第1号証:米国特許第3665085号明細書
(1a)「本発明になる装置では、溶融される製品は必ずしも溶融される材料の連続充填を要求されることなく溶融区域に連続的に到達させねばならない。この装置は、炉の炉体内へのくず鉄の給送期間中にその漸次加熱を防止し、かくしてくず鉄片どうしが互いにくっついてそのさらなる給送を阻止或いは少なくとも困難にしてしまう材料の軟化を阻止する仕方で製作してある。」(第1欄第26〜35行)
(1b)「基本的には、本発明は電気アーク炉内に投入する金属製品をその給送期間中に電気アークが放射する熱から保護し、これらの製品を炉の下部区域にて電気アークにより溶融させる工程を実行するプロセスならびに装置に関する。こうして投入される金属製品は、それらが電気アークによって生ずる熱にさらされるまで比較的低い温度のままとされる。この効果を得るため、耐火性材料からなる壁が電気アークを生成する炉の炉体を溶融される製品を投入する区画室から仕切っている。この壁は、炉床と区画室が炉の下部区域において互いに連通するよう、炉床に形成される溶湯浴の最大高さの上方数cmから約100cmの間で変動させることにできる距離まで、炉頂より延ばしてある。この区域では、区画室内に投入された金属製品はかくしてアークと溶融により急速に生ずる熱に突然さらされることになる。低温帯から溶融帯へのこの急速な遷移は、可塑変形とその結果である給送対象片の互いのくっつきで炉に対する適切な充填にとって有害な充填の中断を生み得る900〜1200℃の間の昇温領域における給送対象製品の長引く保留を防止する。加えて、くず鉄が溶融区域に達するまでそれを比較的低温に保つことで、処理の熱収支のみならず冶金学上も有害であるくず鉄の酸化もまた防止することができる。かくして、炉の生産性の増加が得られる。」(第2欄第10〜43行)
(1c)「図1及び図2は、炉体2と耐火性壁或いは遮蔽体4により炉体2の上部で仕切った区画室3を含むほぼ円形の横断面からなる電気アーク炉1を示す。炉体2は、耐火性材料からなる筒状壁5と底部6と同様に耐火性材料で形成した円蓋すなわち屋根7とで形成されている。3本の電極8a,8b,8cが屋根7内の適当な開口を通り炉体にほぼ垂直な方向に炉体内へ延びており、電極はそれぞれアーム9a,9b,9c上に支持してあり、同時にこれらのアームが図面には図示していないトランスからの公知の仕方で電極に電流を供給する役割を果たしている。」(第3欄第8〜19行)
(1d)「区画室3はかくして、支持アームを配設した区域と溶融製品の放出を行なう区域を除いて炉体を囲繞するほぼ環状の形状を有する。」(第3欄第24〜27行)
(1e)「区画室3は、屋根に当接する内側彎曲壁4と外側彎曲壁12と屋根から上方へのみ突出し炉体2内部へは延びていない二つの真すぐな壁13,14により画成してある。かくして、これらの壁は、屋根7の高さをほぼ越えて上方へ突出し、それによって充填操作を容易にする環状のホッパを形成している。壁12は、遮蔽体4により保護されていない区域において斜行部分12aによって途切れた輪郭を形成している。・・・この傾斜は、未だ固体である製品の摺動と溶融金属中へのそれらの放出を容易にする利点を有する。・・・区画室すなわちホッパ3の開口端15を介するくず鉄の充填は・・・電磁石16によってなされ、」(第3欄第31〜48行)
(1f)「ホッパ3内へのその下降期間中に、くず鉄は前述の如く耐火性材料から成るが故に伝熱性に乏しい壁4により電気アークからの放熱から保護される。それにも拘わらず、炉の操作期間中は、壁4は炉体底部の金属浴からの放熱にさらされ、より程度は低いが電気アークからの放熱にもさらされる。過熱による壁4の劣化を避けるため、壁には導管18を介して冷却水を供給し導管19を介して放出する内部冷却空間17が配設してある。冷却水に代え、壁4内に配設した通路を介して冷えた空気や別の冷却流体もまた還流させることができることは言うまでもない。保護用遮蔽体4の冷却の有無に関係なく、保護用遮蔽体4によって、くず鉄はくず鉄片が軟化して互いにくっつく温度を明確に下回る比較的低い温度で区画室3の底部へ到達する。そこで、突然くず鉄は電気アークの放熱にさらされ、炉床の底部で溶融する。」(第3欄第56行〜第4欄第1行)
(1g)「壁4は、炉体2と区画室3の間に通路20を形成するよう構成してあり、その通路が炉内部へ向かって矢印で示した方向に下方へ移動するくず鉄の斜面形成を可能にしている。この通路は、例示実施例では、炉床底部における溶融金属浴の最大高さAの上方約50cmの高さと環状のスロットの形を持っている」(第4欄第5〜14行)
(1h)「図4と図5は本発明になる炉の第3の実施例を示すものであり、ここでは炉は矩形の横断面を有する。2つの図に示した例では、中央の炉床2の両側に位置する矩形構造の2つの横方向の区画室3’、3”が備わっている。2つの横方向の区画室には、移送バンド21によって溶融されるべき材料が供給される。そのバンドの1つは、電極を支持し電極に電流を供給する少なくとも1つのアームの下側を延びている。」(第5欄第35〜44行)
(1i)「1.くず金属製品を連続的に溶融する炉であって、前記炉の炉体を形成する壁手段と、前記炉内へ下方に延びて前記炉体下部にて形成される溶融材料浴の上方に下端部を有する電極手段と、溶融されるくず金属を前記下側炉体部分へ給送し、該炉体の周縁の一部に隣接する少なくとも一つの区画室を構成する手段と、前記区画室と前記炉体の間に位置し、前記区画室を介して給送される前記くず金属を前記電極手段が放射する前記熱から遮蔽する耐火性材料からなる壁で、その下端が前記炉体内の前記浴の高さよりも若干高くかつ前記電極手段の下端部と前記浴の間に形成されるアーク領域に位置し、前記区画室と前記炉体の間に前記アークの領域内に位置する通路を形成し、ほぼ前記アークの高さで前記炉体内の前記区画室からくず金属を入来させ、その一方で前記区画室を介して降下する前記くず金属を耐火性材料からなる前記壁により前記アークから保護する前記壁手段を備えることを特徴とする炉。」(第6欄第17〜35行)

(2)甲第2号証:実願昭60-195478号(実開昭62-102991号)のマイクロフィルム
(2a)「(1)アーク式電気炉と,頂部に原料装入部と排ガス流出口・・・を有するシャフト炉とからなり,アーク式電気炉の側壁とシャフト炉のシャフト側壁下部とを,シャフト炉内の材料がアーク炉側に自然に流入するように連通させたことを特徴とする金属溶解炉。」(2.実用新案登録請求の範囲)

(3)甲第3号証:特開昭57-58070号公報
(3a)「図は本発明に係るスクラップ溶解炉の一実施例を示す断面図である。符号12は溶解炉本体で、・・・他方の端部上部には排ガスダクト16が立設されている。排ガスダクト16には・・・排ガス出口18と、頂部に設けられた原料投入口20がある。
スライド蓋22を開け・・・原料スクラップ26は排ガスダクト16内に充填される。・・・バーナ14により原料スクラップは加熱され溶解し溶解スクラップ28となって炉底に溜まる。高温の排ガスは排ガスダクト16を通る際、充填されている原料スクラップ26と熱交換し原料スクラップ24を予熱する。・・・原料スクラップ26は下部より順次溶解し自重により下降する。原料スクラップは適時補給する。」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第15行)
(3b)「排ガスダクトは垂直に設けたが、原料スクラップと排ガスダクト内面とのすべり角度以上の角度をつけて設けても良い。」(第2頁右上欄第6〜9行)

(4)甲第4号証:特開昭61-134578号公報
(4a)「溶解炉の側部上方に排ガスダクトを介してスクラッププリヒータを設け、そのプリヒータから直接予熱原料を溶解炉内に装入すべく溶解炉の炉体又はプレヒータを水平移動自在に設けたことを特徴とする溶解製錬炉」(特許請求の範囲)
(4b)「溶解中、炉体2で生じる排ガスは、炉内でのア-ク電極の燃焼・・・であり、その温度は500〜800℃程度である。」(第1頁右下欄第8〜11行)
(4c)「第1図において、1は三相アーク電極3によりスクラップ原料を溶解する溶解炉で、その炉体2上に炉蓋11が設けられ、その炉蓋11に三相アーク電極3が炉蓋11と共に炉体2に対して取外し自在に設けられる。」(第2頁右上欄第8〜12行)
(4d)「炉体2には溶融物4を排出する出鋼口12が設けられ、・・・溶融物4を排出するようになっている。この出鋼口12側の炉体2には排ガスダクト13が設けられ、その排ガスダクト13の上部にシュート14を介してスクラッププリヒータ15が設けられる。このスクラッププリヒータ15内には炉体2内に装入するスクラップ原料16が収容され、排ガスダクト13からシュート14を介して炉体2内の高温排ガスが、スクラッププリヒータ15内に導入されるようになっている。」(第2頁右上欄第13行〜左下欄第4行)
(4e)「溶解製錬を終えた溶融物4は出鋼口12から排出され、次にこのスクラッププリヒータ15で予熱したスクラップ原料16を炉体2内に装入する。この場合、先ず溶解炉1の炉蓋11、電極3を外し、次に炉体2を二点鎖線の位置から実線で示した前方の位置まで移動し、その状態でスクラッププリヒータ15のゲート・・・を開いて予熱したスクラップ原料16を炉体2内に投下し、その後、再び炉体2を図示の二点鎖線の位置まで後方に移動させると共に三相アーク電極3を炉蓋11と共に炉体2に装着し、そのスクラップ原料16の溶解製錬を行う。」(第2頁右下欄第2〜13行)

(5)甲第5号証:英国特許第895534号明細書
(5a)「本発明によれば、当該炉床間の鉛直軸の周りで一緒に回転可能な、二つの炉床、および二つの相互連結されて固定され、その下方に各炉床が回転させられるであろう頂部を備え、一方の頂部は、一方の炉床に対する電極を与え、且つ他方の頂部は、他方の炉床に向けられた給鉱シャフトおよびバーナーをも支持し、シャフトの上側部分を通して入れられた装填材料をシャフト内に支持させるための除去可能な支持手段とする電気アーク製鋼炉が提供される。」(第1頁第12〜24行)
(5b)「頂部B1は、シャフト6を支持しており、・・・導入される装填材料8を支持すべく引き込み格納式の冷却パイプ7が該シャフトの底部を横切っている。・・・バーナー11が、頂部B1のまわりに・・・環状に配列されており、・・・」(第1頁第43〜50行)
(5c)「頂部B2には、三相電極14 が設けられている。」(第1頁第55〜56行)
(5d)「装填材料がパイプ上に支持されている間に、該装填材料は、それを通って、一方の炉床にシャフト6からパイプ7の離脱により落下される前もって予熱された装填材料13の温度を増大させるのに役立つバーナーである、頂部B1のバーナー11からの残留廃ガス、および、電極14が、頂部B1の下方の位置から頂部B2の下方の位置へのダブル炉床ユニット1の回転によって運ばれる前にバーナー11によって上げられた温度を既に有している装填材料16の加熱および溶融をそこで完了する、他方の炉床からの残留廃ガス、の両方が、それを通る通路によって予熱される。頂部B2の下方の装填材料16 を溶融させるのにかかる時間の間、頂部B1の下方の装填材料13 は、それがシャフト 6 に残った装填材料 8 であったときに、前もって達している温度を実質的に超えて加熱されており、そしてそれと同時にさらなる装填材料 8 が予熱されている。」(第1頁第62〜84行)
(5e)「装填材料16 が排出されるとき(図示されていないが、各炉床A1,A2は、湯だし口(タップ・ホール)を有している)、ダブル炉床ユニット 1 の回転は、頂部B1の下に空の(しかし熱い)炉床を持ってくるとともに、他方の炉床内には、装填材料13 が頂部B2の下にもたらされる。パイプ 7 は、それから空の炉床に予熱された装填材料 10 を落下させるべく引き抜かれ、そしてシャフトは、再装填材料される。」(第2頁第1〜9行)
(5f)「例えば、約二時間毎にダブル炉床ユニット1の回転が起こるものとすると、残った装填材料8は、シャフト6において、二時間の間に(ほぼ)0℃から600℃に上げられ、同時に、予熱された装填材料13は、バーナー11によって、一方の炉床において、(ほぼ)600℃から1200℃ に加熱され、電極14 に、他方の半分における装填材料16を、(ほぼ)1200℃から 1600℃ に上げさせる。このことは、全熱入力の小さな部分のみについて供給されるべき電極の溶融のための電流を要求し、且つそれに応じて排出動作の間の時間を短縮する。」(第2頁第10〜23行)
(5g)「さらに、電気的に加熱された炉床からの排熱は、シャフト6における装填材料8の予熱を助ける。」(第2頁第26〜28行)

(6)甲第6号証:ヨーロッパ特許公開第0291680号公報
(6a)「本発明の課題は、請求項1の上位概念に従ったアーク炉の場合、装入物への熱の輸送を可能な限り拡大し、それによって、装入物の加熱時間を短縮することである。装入物を加熱する場合に、発生した高温炉ガスをより十分に利用可能とすべきであり,またそれによって熱効率を向上すべきである。その他、装入物のための収容空間から炉床への連続的な材料の流れを可能にすべきであり,それと共に一様な運転条件を可能にすべきである。溶融池の温度の変動及び化学組成の変動を減少すべきである。」(第1欄第47行〜第2欄第7行)、
(6b)「図1及び2に垂直断面と平面図で示された炉装置は,炉容器2と取り外し可能な蓋3からなるアーク炉1を含み、3つの電極4/1,4/2及び4/3によって実行される。炉容器2は、耐火性のレンガ積からなる炉床5及び好ましくは液体で冷却される転換装置成分6によって形成されている。前述の場合,図2に示すように円形の断面を有する炉容器の側面に、装入物のための収容空間(内部空間)8を有する縦穴状の装入物予熱器7が配置され、該収容空間8は、底9に隣接した領域において、接続ゾーン10を介して炉容器2の内部空間11に接続している。装入物予熱器7は、その上方領域で気密の装入装置12、例えば、公知の構造の二重の釣鐘状蓋と並びにガス排出口13とを備える。ガス排出口13に、図示されていない吸引装置が接続されている。
図2に示すように装入物予熱器7は、炉容器2の周囲のほぼ4分の1を超えて延び、その際、炉容器の方に向いた、装入物予熱器の縦穴壁14は、炉容器の外形に適合している。装入物予熱器7の内部空間8の断面が下方に向かって拡大していることは図1から明らかである。それによって、装入物予熱器への装入物の妨害のない降下が可能になる。接続ゾーン10において、酸素のような気体、又は石炭ないしは添加剤のような固体を吹き込むためのバーナ15及びノズルが接続されている。
装入物予熱器7に装入された投入物16は、金属のスクラップ、特に鋼のスクラップ、及び銑鉄塊、海綿鉄のような他の鉄含有物、並びにフラックス(Zuschlagen)からなる。装入物予熱器7に、装入円柱状物17として示されている気体透過性のばら積円柱状物(Schuettsaule)が形成されている。アーク炉1に形成された金属溶融物(ため)は18で、及び溶融鏡が19で示されている。
好ましくは、炉床5まで傾斜して形成された装入物予熱器7の床9は、融解プロセスの本質的な部分によって炉床に形成された液体だめ18が、装入円柱状物17の最下部ゾーン20に延び、及びそこで、直接的な物質の交換及び伝導による熱交換を可能にするような深さで配置される。炉床5の底に、偏心の溶融池湯出し21が設けられ、図2に断線で示されている。炉容器2は、前述の場合回転可能に形成されている。回転面,即ち、回転運動が行なわれる平面が22で示されている。装入物予熱器7が、炉容器の回転面に対し交差して延びた方向に配置されている。
電極4/1ないし4/3の夫々は、液体で冷却される金属製の上部23と、電極先端を形成する下部24とを含み、下部24は、黒鉛のような消散可能な材料からなり、上部23に取り外し可能に固定されている。夫々の電極4/1,4/2及び4/3の上部23は、電極担持体25/1,25/2及び25/3に繋がれている。該電極担持体は、電極押し上げ具26/1,26/2及び26/3によって、押し上げ可能且つ降下可能である。電極押し上げ具26/1,26/2及び26/3は、装入物の収容空間,即ち、縦穴状の装入物予熱器7に対向した側で、炉容器2の近くに配置されている。」(第3欄第10行〜第4欄第25行)

(6c)「[請求項1] 炉容器(2)の側面に備えられた装入物の収容空間(8)を具備し、該収容空間は炉容器(2)の内部空間(11)に接続しており、及び少なくとも部分的にアーク炉の照射領域において、少なくとも1つのアーク電極(4/1,4/2,4/3)が存在し、その際、装入物(16)のための収容空間(8)として、炉容器(2)の側面に配置された縦穴状の装入物予熱器(7)の内部空間が備えられており、及び該内部空間がその底(9)に隣接する領域で、接続ゾーン(10)を介して炉容器(2)の内部空間(11)に接続しており、装入物予熱器(7)に存在する装入円柱状物(17)の下方部分から炉床(5)に装入物が供給可能であり、及び高温炉ガスを装入物予熱器(7)に入れることが可能であり、更に、装入物予熱器(7)がその上方領域で、装入物のための装入装置(12)と、装入物との熱交換で冷却される炉ガスのための吸引装置を備える排出口(13)とを有したアーク炉であって、接続ゾーン(10)の領域で、少なくとも1つのバーナ(15)及び/又はノズルが配置されていることを特徴とするアーク炉。」(第5欄特許請求の範囲請求項1)

2-2.口頭審理後に提出された証拠
(7)参考資料1:特開昭56-501810号公報
(7a)「10.装入材料を予備加熱するために前記炉室の上方に設けた予備加熱器の床部が開閉可能な鉄格子によって形成され、この鉄格子が閉じられているとき、溶解室の排出ガスが前記予備加熱器中に流れうるようにされ、且つ前記鉄格子がその閉止状態にて溶解装置の中心にて互いに接合する複数の鉄格子部分・・・を有して成ることを特徴とする請求の範囲第1〜9項に記載の金属溶解精製装置」(請求の範囲10)
(7b)「13.装入材料を予備加熱する予備加熱器の全体が横方向に動き得るように設けられていることを特徴とする請求の範囲第1〜12項に記載の金属溶解精製装置。」(請求の範囲13)
(7c)「第3図及び第6図にて示した金属溶解精製装置21は炉室22を有し、この炉室22内に向けて第1のノズル24が・・・溶解面の下方以下に向けて燃料を噴出し、また第2ノズル25が溶解面の上方に向けて燃料を噴出する。・・・
炉室22の上方には溶解精製装置内に装入される物質をあらかじめ予備加熱するための予備加熱装置27が設けられており、この場合この予備加熱装置は排気ガス用煙突29に接続したフード28を備えた鉄くず用予備加熱装置である。なお、予備加熱装置27は炉室の全充填に要する容積を有する。鉄くず用予備加熱装置27の床部は・・・鉄格子によって形成され、」(第3頁左下欄第21行〜右下欄第14行)
(7d)「炉室に充填される鉄くずが各鉄格子の内側にて保持され、炉室内の溶解工程中に生じる温度の高い排気ガスにより所望の温度に予備加熱される。・・・鉄格子部分30、31を後退させることにより800°〜1000℃に予備加熱された鉄くずが炉室に装入される。」(第3頁右下欄第16〜21行)
(7e)「また予備加熱装置の全体が炉室を開放するために水平方向に動き得るならば溶解精製装置の可転性に関して有利である。」(第4頁右下欄第6〜8行)

(8)参考資料2:特開昭62-156218号公報
(8a)「(2)複数の炉体と、該炉体の少なくとも一つをアーク溶解部に位置させると共に、他方の炉体を予熱部に位置させ、且つ、予熱部からアーク溶解部へ、アーク溶解部から溶解処理後の空の炉体を上記予熱部へ移送するための移送手段と、・・・アーク溶解部に位置される炉体からの排ガスを予熱部に位置される炉体に導入して被溶解材料を予熱する予熱手段と、上記予熱部に位置される炉体上に被溶解材料を投入すべく移動自在に設けられ、予熱部の炉体からの排ガスにより予熱処理するように待機するスクラップパケットとを備えたことを特徴とする製鋼用アーク炉」(特許請求の範囲)
(8b)「アーク溶解部5には溶解用蓋体15が具備されており、油圧シリンダー等によって昇降するように成っている。」(第3頁左下欄第18行〜右下欄第1行)

(9)参考資料3:特開昭61-15906号公報
(9a)「本発明のリアクタ-製鉄装置は、図面に示すように・・・ガス排出口13を有し、上部に溶解原料投入時に開く蓋21をそなえた炉体1A、上部に燃焼ガス入口31、そして下部に排気ダクト33に連なる燃焼ガス出口32を有し、上記炉体に投入する原料を保持して燃焼ガスの熱でこれを加熱し、加熱された原料を間欠的に炉体に投入するための加熱シャフト3、ならびに上記加熱シャフトに原料を間欠的に供給するための原料パケット4を、下方から上方に向かってほぼ垂直に配列し、これらの傍らに空気吹き込み口51を有するガス燃焼塔5を設け、前記炉体のガス排出口13とガス燃焼塔入口52とを連絡し、かつ前記加熱シャフト上部の燃焼ガス入口31とガス燃焼塔出口53とを連絡した構造を特徴とする。」(第2頁左下欄第19行〜右下欄第15行)
(9b)「炉体1Aの溶鉄10に対して、・・・上羽口から酸素ガスを吹き込むと、Cの燃焼により発熱が起こって投入された原料が溶解し、COを含むガスがでる。このガスを・・・加熱シャフト3に・・・導入して、スクラップHSを加熱する。・・・加熱されたスクラップHSは、・・・炉体内へ投入する。」(第2頁右下欄第17行〜第3頁左上欄第8行)
(9c)「炉体は、たとえばレール9に支持させて、横方向・・・に移動させ、加熱シャフト3の直下に位置させたり、そこから動かしたりできるようにすると好都合である。」(第3頁右上欄第6〜9行)

IV.被請求人の反論と証拠方法
1.被請求人の反論
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、本件発明1〜12についての特許には、請求人が主張するような無効理由は存在しない旨主張している。
なお、被請求人の具体的な主張は、下記V.(V-1)1.の「1-5.被請求人の主張に対して」の項に記載のとおりである。

2.証拠方法
被請求人が提出した乙第1号証及び乙第2号証は、次のとおりである。
(1)乙第1号証:米国特許第3379426号明細書
(2)乙第2号証:米国特許第3533611号明細書
乙第1号証及び乙第2号証は、電気アーク炉において、吸引手段や通風手段を備えることにより炉内生成ガスを排出することが周知であることを示す文献である。
乙第1号証には、電気アーク炉の蓋に設けた吸引開口部から炉内生成ガスを吸引する吸引装置について記載され、乙第2号証には、電気アーク炉用のガス排出及び換気手段について記載されている。

V.当審の判断
(V-1)無効理由3について
無効理由3[訂正要件(独立特許要件)違反]について、甲第1号証を主引用例とした場合について検討する。

1.本件発明1について
1-1.甲第1号証記載の発明
甲第1号証には、図1及び図2に示された電気アーク炉1について、
「炉体2と耐火性壁或いは遮蔽体4により炉体2の上部で仕切った区画室3を含むほぼ円形の横断面からな」り(1c)、
「炉体2は、耐火性材料からなる筒状壁5と底部6と同様に耐火性材料で形成した円蓋すなわち屋根7とで形成」され(1c)、
「3本の電極8・・・が屋根7内の適当な開口を通り炉体にほぼ垂直な方向に炉体内へ延びており、電極はそれぞれアーム9・・・上に支持してあり」(1c)、
「溶融されるくず金属を前記下側炉体部分へ給送し、該炉体の周縁の一部に隣接する少なくとも一つの区画室を構成する手段」であって(1i)、「区画室3は、屋根に当接する内側彎曲壁4と外側彎曲壁12と屋根から上方へのみ突出し炉体2内部へは延びていない二つの真すぐな壁13,14により画成してあ」り(1e)、「これらの壁は、屋根7の高さをほぼ越えて上方へ突出し、それによって充填操作を容易にする環状のホッパを形成し」(1e)、「区画室すなわちホッパ3の開口端15を介するくず鉄の充填は・・・なされ」(1e)、さらに「壁4は、炉体2と区画室3の間に通路20を形成するよう構成してあり、その通路が炉内部へ向かって・・・下方へ移動するくず鉄の斜面形成を可能にして」おり(1g)、
「保護用遮蔽体4によって、くず鉄はくず鉄片が軟化して互いにくっつく温度を明確に下回る比較的低い温度で区画室3の底部へ到達する。そこで、突然くず鉄は電気アークの放熱にさらされ、炉床の底部で溶融する」(1f)、と記載されている。
以上をまとめると、甲第1号証には、
「くず鉄を溶融する電気アーク炉1であって、耐火性材料からなる筒状壁5と底部6と屋根7とで形成される炉体2と、電極8と、電極を支持する支持アーム9と、くず金属を下側炉体部分へ給送するために、該炉体の周縁の一部に隣接して設けられた区画室3とからなり、区画室3は、屋根に当接する内側彎曲壁(保護用遮蔽体)4と外側彎曲壁12と屋根から上方へのみ突出し炉体内部へは延びていない二つの真すぐな壁13,14により画成してあり、これらの壁は、屋根7の高さをほぼ越えて上方へ突出し、それによってくず鉄の充填操作を容易にする環状のホッパを形成し、くず鉄の充填は区画室の開口端15を介してなされるようになっており、内側彎曲壁4は、炉体2と区画室3の間に通路20を形成するよう構成してあり、その通路が炉内部へ向かって下方へ移動するくず鉄の斜面形成を可能にしている電気アーク炉。」という発明(以下、「甲1号証発明」という。)が記載されていると云える。

1-2.本件発明1と甲1号証発明との対比
甲1号証発明の「筒状壁5」、「底部6」、「炉体2」は、それぞれ、本件発明1の「炉容器壁(5)」、「炉床(4)」、「炉容器(3)」に相当する。また、甲1号証発明の電極支持アームは、炉体の傍に配置され、屋根を通して炉体に導入される電極を搬送するものであることは明らかであり、しかも、本件発明1の「電極昇降旋回装置(8)」と甲1号証発明の電極支持アームは、ともに「電極搬送装置」と言い換えることができるものである。
してみれば、甲1号証発明は、「炉床、炉容器壁および炉容器を含む電気アーク炉(1)と、 炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極搬送装置を有する」という点で本件発明1と相違はないと云える。
次に、甲1号証発明の「区画室」は、本件発明1の「シャフト(10)」に相当するものであるから、この「区画室」について、以下検討する。
この「区画室」は、くず鉄を下側炉体部分へ給送するホッパーであるから、本件発明1の「シャフト(10)」すなわち「材料装填装置」に相当するものであり、その区画室の開口端15は、その上部領域において設けられた材料装填のための装填入口(18)と云える。また、この「区画室」は、炉体の内側に配設されているものであり、その配設位置も、図1及び2を参照すると、炉体の筒状壁5の上方であって、炉の中心に対して横に配設されていると云えるから、本件発明1でいう「炉容器の上に横に配設されたシャフト状材料装填装置」であると云える。また、この「区画室」は、炉体2と通路20を介して連絡しており、しかも、この通路20は、炉の底部(炉床)の隣接領域において区画室の内部と電気アーク炉の内部とを連絡することも明らかであるから、通路20も、本件発明1の「連絡区域(17)」に相当すると云える。
また、この「区画室」の構造も、甲第1号証の「壁12は、遮蔽体4により保護されていない区域において斜行部分12a・・・を形成している。この傾斜は、未だ固体である製品の摺動と溶融金属中へのそれらの放出を容易にする利点を有する。」(1e)という記載や図1及び2を参照すると、本件発明1でいう「溶解段階の間、くず鉄(装填材料)を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように」形成されているものであり、そのための区画室の具体的な壁構造も、その外側部分が「筒状壁5」とこの筒状壁に連なって設けられた「外側彎曲壁12」とによって形成されたものである。そして、前者の「筒状壁5」は、炉本体を構成する壁の一部であって炉本体の上端縁の高さまでは区画室の壁の一部分を形成するものであるから、本件発明1の「炉容器壁の一部分」に相当し、後者の「外側湾曲壁12」は、区画室(シャフト)を構成するために設けられた壁であるから、本件発明1の「シャフトの壁」に相当すると云える。
そうすると、甲1号証発明のこれら記載を整理すると、甲1号証発明も、「材料装填装置が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器の炉容器壁内の空間内に装填するのに適するように、前記材料装填装置の壁は、その下部において前記炉容器の上端縁の高さまでは前記炉容器壁の一部分によって形成され、その上部の領域においてはシャフト(10)の壁によって形成されており、」というものであると云えるから、甲第1号証発明は、本件発明1と比べて、「炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状材料装填装置を有し、該装置の内部(15)は該装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており、前記材料装填装置は、さらにその上部領域において材料装填のための装填入口を有し、
さらに、前記材料装填装置が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、前記材料装填装置の壁は、その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され、その上部の領域においてはシャフト(10)の壁によって形成されており、」という点でも実質的に相違はないと云える。
次に、本件発明1の「溶解プラント」について検討すると、この「溶解プラント」の意味するところは、電気アーク炉、電極昇降旋回装置及び装填材料予熱装置を具備する溶解プラントという程度のことであり、一方、甲1号証発明の「電気アーク炉」も、電気アーク炉、電極搬送装置及び材料装填装置を具備するものであるから、甲1号証発明の「電気アーク炉」は、本件発明1の「溶解プラント」に相当すると云える。
以上の記載によれば、本件発明1と甲1号証発明とは、
「炉床(4)、炉容器壁(5)を具えた炉容器(3)を含む電気アーク炉(1)と、
炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極搬送装置と、
前記炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状材料装填装置を有し、
該装填装置の内部(15)は該装填装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており、前記材料装填装置は、さらにその上部領域において材料装填のための装填入口を有する溶解プラントにおいて、
前記材料装填装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、前記材料装填装置の壁は、その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され、その上部の領域においてはシャフト(10)の壁によって形成されている溶解プラント。」
という点で一致し、次の点で相違すると云える。
相違点:
(i)本件発明1は、「電気アーク炉(1)が移動可能な炉容器蓋を具える」のに対し、甲1号証発明は、屋根7を具える点。
(ii)本件発明1は、「電極搬送装置が、炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極昇降旋回装置(8)である」のに対し、甲1号証発明は、電極搬送装置が電極昇降旋回装置として形成されていない点。
(iii)本件発明1は、「材料装填装置がその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する装填材料予熱装置(2)である」のに対し、甲1号証発明は、その材料装填装置が装填入口を有するものの本件発明1のような閉じ可能な装填入口及びガス出口に相当するものはなく、装填材料予熱装置であるか明らかでない点。
(iv)本件発明1は、「そのシャフト(10)の壁が保持構造体(27)に固定され、かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)が互いに移動可能である」のに対し、甲1号証発明は、そのように形成されていない点。

1-3.当審の判断
(1)相違点(i)について
電気アーク炉において、移動可能な炉容器蓋を具えることは、甲第6号証の「図1及び2に垂直断面と平面図で示された炉装置は,炉容器2と取り外し可能な蓋3からなるアーク炉1を含み」(6b)という記載や、吾妻潔外編「金属工学講座4製錬編II 製銑・製鋼」(昭和35年2月25日 朝倉書店発行)の第269頁第3.8図「炉蓋旋回炉頂装入式電気弧光炉」にみられるように、周知事項であるから、甲1号証発明の屋根7を取り外し可能な蓋3として設計する程度のことは当業者が容易に想到できると云うべきである。
してみれば、本件発明1に係る相違点(i)は、電気アーク炉に係る上記周知事項から当業者が容易に想到できることである。

(2)相違点(ii)について
電極の搬送の利便性を考慮すれば、電極搬送装置を上下方向及び炉周方向に移動自在とすること、すなわち昇降旋回装置として設計することは、甲第6号証の図1〜4や上記「金属工学講座4製錬編II 製銑・製鋼」の第270頁第3.9図「炉蓋旋回・炉頂装入式電気弧光炉」に示されているように周知事項であるから、本件発明1に係る相違点(ii)も、移動可能な炉容器蓋の設計に付随して、上記周知事項から当業者が容易に想到できることである。

(3)相違点(iii)について
本件発明1の「装填材料予熱装置(2)」の予熱の態様(どのようにして装填材料を予熱するのか)については、請求項1に明確に記載されているわけではないから、本件明細書の「装填材料予熱装置2の上部位置には閉じ可能な装入口18とガス出口19を有する。ガス出口19はガスパイプ20によって煙突と、あるいは・・・予熱室と連通する。」(本件公告公報第8欄第35〜39行)及び「その充填材料は、精錬段階の期間に、炉容器3からは発生してシャフト10内に通過する熱いガスにより予熱される。」(本件公告公報第12欄第3〜5行)の記載を参酌すると、本件発明1の「装填材料予熱装置(2)」の予熱の態様は、シャフト10内を通過してガス出口19から排出される「熱いガス」によって予熱されるものであると認められるところ、甲1号証発明には、本件発明1の「ガス出口19」に相当する出口やこのガス出口19から熱いガスが排出され易くするための「閉じ可能な装填入口(18)」が見当たらないから、甲1号証発明は、炉容器から発生する「熱いガス」を材料装填装置に積極的に導くものではないと云える。この点に関し、甲第1号証の記載を改めて検討すると、甲第1号証には、くず鉄の加熱について次のように記載されている。
「投入される金属製品は、それらが電気アークによって生ずる熱にさらされるまで比較的低い温度のままとされる。」(1b)、
「低温帯から溶融帯へのこの急速な遷移は、可塑変形とその結果である送給対象片の互いのくっつきで炉に対する適切な充填にとって有害な充填の中断を生み得る900〜1200℃の間の昇温領域における送給対象製品の長引く保留を防止する。」(1b)、
「ホッパ3内へのその下降期間中に、くず鉄は前述の如く耐火性材料から成るが故に伝熱性に乏しい壁4により電気アークからの放熱から保護される。それにも拘わらず、炉の操作期間中は、壁4は炉体底部の金属浴からの放熱にさらされ、より程度は低いが電気アークからの放熱にもさらされる。過熱による壁4の劣化を避けるため、壁には・・・内部冷却空間17が配設してある。・・・保護用遮蔽体4の冷却の有無に関係なく、保護用遮蔽体4のお陰で、くず鉄はくず鉄片が軟化して互いにくっつく温度を明確に下回る比較的低い温度で区画室3の底部へ到達する。そこで、突然くず鉄は電気アークの放熱にさらされ、炉床の底部で溶融する。」(1f)。
以上の記載によれば、甲1号証発明は、装填材料であるくず鉄を壁4によって電気アークの放熱から保護して「くず鉄片が軟化して互いにくっつく温度を明確に下回る比較的低い温度」に抑制するものであるとはいえ、くず鉄片が互いにくっつかない限りにおいて、具体的には900℃以下の温度にくず鉄が電気アークからの放熱にさらされて加熱(予熱)されることを許容していると云うべきである。
そして、甲1号証発明も、屋根部分は閉じられているものの、区画室3(材料装填部)の上端は開口端とされた炉構造である以上、電気アーク等で加熱された炉内の「熱いガス」は、通路20から区画室(材料装填部)に入り区画室の上端の開口端から炉外に排出されると認められるから、甲1号証発明においても、排ガスを積極的に導くものではないものの、区画室内の鉄くずは、炉内で発生した「熱い排ガス」にさらされて、互いにくっつかない温度の限りにおいて加熱(予熱)されていると云うべきである。
そうすると、甲1号証発明の材料装填装置も、本件発明1の「装填材料予熱装置」に相当すると云えるから、本件発明1に係る上記相違点(iii)は、要するところ、本件発明1は、閉じ可能な装填入口(18)とは別個にガス出口(19)を有するのに対し、甲1号証発明は、装填入口がガス出口をも兼ねている点、と言い換えることができるところ、スクラップ溶解炉において、炉内で発生した「熱いガス」をスクラップの装填部分に導いてスクラップの予熱に利用すること、そのためにスクラップの装填入口を閉じ可能としこの装填入口とは別個に排ガス出口を設けることは、例えば甲第3号証及び甲第6号証に記載されているように、周知事項であるから、甲1号証発明の装填入口を閉じ可能としこの装填入口とは別個に排ガス出口を設けることは当業者が容易に設計することができると云うべきである。
してみれば、本件発明1に係る上記相違点(iii)も、スクラップ溶解炉における上記周知事項から当業者が容易に想到できることである。

(4)相違点(iv)について
この相違点(iv)の「シャフト(10)の壁が保持構造体(27)によって固定されている」という構成は、具体的にはシャフト(10)が炉容器から分離・移動可能なように設けられていることを意味すると認められるから、上記相違点(iv)は、要するところ、「保持構造体(27)及びシャフト(10)と炉容器(3)とが互いに移動可能である」というものと云える。
そこで、この相違点(iv)については、この観点から以下検討するに、鉄くずを溶解する溶解炉においては、参考資料1の「装入材料を予備加熱するために前記炉室の上方に設けた予備加熱器」(7a)に関する、「予備加熱装置の全体が炉室を開放するために水平方向に動き得るならば溶解精製装置の可転性に関して有利である」(7e)という記載にみられるように、また参考資料3の「加熱された原料を間欠的に炉体に投入するための加熱シャフト3」(9a)に関する、「炉体は、たとえばレール9に支持させて、横方向・・・に移動させ、加熱シャフト3の直下に位置させたり、そこから動かしたりできるようにした」(9c)という記載にもみられるように、鉄くず装填装置(「シャフト」に相当)を炉本体に対し相対的に移動可能に設けることは、周知事項であると云える。また、本件発明1の保持構造体(27)についても、この保持構造体は、その機能がシャフトを保持・固定するためのものであるが、シャフトを移動可能なように設計する場合にこのような保持構造体を設けることも当然の帰結であるから、シャフトの設計に付随した設計的事項にすぎないと云える。
してみると、本件発明1に係る上記相違点(iv)も、溶解炉に係る上記周知事項から当業者が容易に想到できることである。

1-4.本件発明1についてのまとめ
したがって、本件発明1に係る上記相違点(i)〜(iv)は、いずれも周知事項に基づいて当業者が容易に想到できることであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明と甲第3、6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。
よって、本件発明1は、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものである。

1-5.被請求人の主張に対して
(1)甲1号証発明の予熱について
被請求人は、上申書(第14頁第21行〜第16頁第8行)において、要するところ、甲第1号証に記載される電気アーク炉では、炉内ガスを区画室を通して排出する手段を設けた場合、「溶融対象材料は、アーク及び溶融槽から放射された熱で高温・・・となっている炉内生成ガスにさらされ、・・・900℃から1200℃の温度領域に加熱される事態が発生する。その結果、・・・溶融対象材料は、軟化して互いにくっつくことになる」から、このような炉内生成ガスを「区画室3に流して溶融対象材料を予熱することは全く意図されておらず、このような予熱は排除されている。」と主張している。
しかしながら、甲第1号証に記載されている溶融対象材料が「900℃から1200℃の温度領域に加熱される事態」とは、区画室に耐火性壁を設けない場合に鉄くず片などの溶融対象材料が電気アーク及び溶融槽から放射される熱に直接さらされるために発生する事態であって、単なる炉内生成ガスの熱にさらされるために発生する事態ではないから、被請求人の上記主張は、その前提において失当である。
また、電気アーク炉の炉内ガスは、アークや溶融槽から放射された熱によって「高温」に加熱されるとはいえ、くず鉄(溶融対象材料)のような常時電気アーク等の熱にさらされる固体材料と異なり、その流動性が富む「気体」であるから、くず鉄片の装填口上端が開放されている溶解炉では、炉内を流動的に流れるばかりでなく開放上端から炉外にも流出されるから、くず鉄片と同様の「900℃から1200℃」の温度まで加熱されるとは必ずしも断定できないし、甲第1号証にはその根拠となる記載も見当たらない。
仮に、炉内ガスが電気アーク等の熱によってくず鉄片と同様に「900℃から1200℃」の温度まで加熱されるとした場合でも、この加熱された炉内ガスは、区画室内を上昇する間に、耐火性壁によって「互いにくっつく温度を明確に下回る比較的低い温度」に保護された比較的多量の「くず鉄片」と熱交換して熱が奪われその温度が低下するから、このような炉内ガスは、区画室内に流入した当初一時的には「900℃から1200℃」の温度であっても、くず鉄片との熱交換によってその温度が低下するから、くず鉄片相互をくっつけることができる「900℃から1200℃」の温度に常時保持されているものではない。また、区画室内のくず鉄片も、炉内ガスとの熱交換によってその温度が上昇するとはいえ、炉内ガスと鉄くず片との質量差からみて、直ちに「900℃から1200℃」の温度まで加熱されるとは考えにくいし、その根拠となる記載も見当たらない。むしろ、甲1号証発明では、その「くず鉄を壁4によって電気アークの放熱から保護してくず鉄片が軟化して互いにくっつく温度を明確に下回る比較的低い温度に抑制する」という目的に鑑みれば、一時的に900℃から1200℃に加熱された炉内ガスが区画室内のくず鉄片と熱交換(なお、上記「1-3.(3)」の項では、この熱交換を予熱と称している)されるとした場合でも、区画室内のくず鉄片の温度が「互いにくっつく温度を下回る温度」に保持されているものであると解するのが合理的である。
してみれば、甲1号証発明において、「炉内ガスを区画室3に流して溶融対象材料を予熱することは全く意図されておらず、このような予熱は排除されている。」と断定することはできないと云えるから、被請求人の上記主張は、採用することができない。

(2)「保持構造体(27)および炉容器(3)は互いに移動可能である」点について
被請求人は、本件発明1は、その保持構造体を炉容器に対し移動可能とした理由、すなわちシャフト(10)を炉容器から移動可能とした理由について、「スクラップメタル籠の中身が炉容器の中に直接装填されるときに、スペース(作業空間)の問題が生ずるのである。そして、・・・この問題点を解決するためにシャフトに邪魔されることなく、作業空間を大きくできるようにしているものである。」(答弁書第14頁第23〜28行)と主張し、これに対し、甲1号証発明は、「屋根7を移動させて溶融されるべき材料を直接炉床2内に装填することを想定していないものである。」(答弁書第15頁第10〜11行)から、シャフトに相当する「区画室」を炉容器から移動可能にすることは想定外のことであると主張している。
しかしながら、甲1号証発明の屋根7(及び区画室)を移動可能とすることが甲第1号証の記載の限りでは想定されていないとしても、甲1号証発明の屋根7を移動可能な炉容器蓋に設計変更することが甲1号証発明において阻害されているとする根拠は見当たらないから、甲1号証発明の「屋根7」を移動可能な炉容器蓋とする点については、上記相違点(i)の項で言及したとおりであり、また、区画室(シャフト(10)に相当)を移動可能とする点についても、上記相違点(iv)の項で言及したとおりである。
したがって、被請求人の上記主張も、採用することができない。

2.本件発明2〜本件発明12について
2-1.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成に「前記容器蓋(6)は解放可能に前記保持構造体(27)に取り付けられていること」を追加するものであるが、この追加の構成は、移動可能な炉容器蓋も保持構造体に一体的に移動可能なように取り付けられていることを意味するから、本件発明2では、その炉容器蓋とシャフトとがこれらを保持する保持構造体に一体的に移動可能に設けられているものであると認められる。
しかしながら、炉容器蓋とシャフト(材料装填装置)とをそれぞれ別個に移動可能に設けることは、前示のとおり、当業者にとって容易に想到できることであるから、それぞれ別個に移動可能に設けられている炉容器蓋とシャフトとを一体的に移動可能に設けることも、いわば設計的な事項として当業者が容易に設計することができると云うべきである。
してみれば、本件発明2も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-2.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1または本件発明2の構成に「前記保持構造体(27)が昇降装置(56)によって前記炉容器に対して上昇可能であること」を追加するものであるが、この保持構造体(27)が炉容器蓋やシャフトを保持するための部材である以上、炉容器に対して上昇可能に設けることは設計上の当然の帰結であると云うべきである。すなわち、電気アーク炉において、炉容器蓋等は、これを昇降旋回装置によって支持し、炉本体に対して水平方向に移動しつつ上下方向に昇降して位置合わせすることは、上記「金属工学講座4製錬編II 製銑・製鋼」の第269頁第3.8図に、炉蓋昇降旋回装置が示されているように周知の事項であるから、それらを保持する保持構造体(27)を昇降装置(56)によって炉容器に対して上昇可能に設けることも、炉容器蓋等の移動態様をみれば当業者が容易に設計することができると云うべきである。
してみれば、本件発明3も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-3.本件発明4について
本件発明4は、本件発明1または本件発明2の構成に「前記炉容器(3)が前記保持構造体(27)に対して下降可能であること」を追加するものであるが、この構成は、炉容器と保持構造体の相互の動きを「前記炉容器(3)」の動きを主体に限定しただけであり、実質的には、本件発明3の「前記保持構造体(27)が・・・前記炉容器に対して上昇可能であること」と同様であると云える。
してみれば、本件発明4も、本件発明3と同様に、甲第1号証に記載の発明と甲第3、6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-4.本件発明5について
本件発明5は、本件発明1ないし本件発明4の構成に「前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)が相互に水平方向に変位可能であること」を追加するものであるが、前示のとおり、炉容器蓋等は、これを炉本体に配設する場合には炉本体に対して水平方向に運ばれて位置合わせされるのが通常であり、そして、この保持構造体(27)がこのような動きをする炉容器蓋等を保持する部材である以上、「保持構造体(27)および前記炉容器(3)が相互に水平方向に変位可能である」ように設計することは当然の帰結である。
してみれば、本件発明5も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-5.本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の構成に「前記相互の水平方向の変位の方向が前記炉容器蓋(6)の中央と前記シャフトの中心線との間を結ぶ線に平行であること」を追加するものであるが、この構成は、保持構造体(27)および炉容器(3)が、炉容器蓋(6)の中央とシャフトの中心線との間を結ぶ線に平行な直線上を相互に変位することを意味するものと云える。
しかしながら、上記参考資料3に「炉体は、たとえばレ-ル9に支持させて、横方向・・・に移動させ」(9c)と記載され、さらに、上記「金属工学講座4製錬編II 製銑・製鋼」の第274頁の「第3.18図炉体移動式電気炉」にも示されているように、炉容器を直線上を移動させることは周知の事項であり、また、保持構造体(27)および炉容器(3)相互の変位の方向は、設計的な事項であると云えるから、保持構造体(27)および炉容器(3)相互の水平方向の変位の方向が炉容器蓋(6)の中央とシャフトの中心線との間を結ぶ線に平行であるようにすることは、当業者が容易に想到できることである。
してみれば、本件発明6も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、5及び6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-6.本件発明7について
本件発明7は、本件発明1ないし本件発明6の構成に「前記シャフト(10)中には、少なくとも1個のブロッキング部材(51)が、該部材が前記装填材料の支持手段を形成する閉成位置から前記装填材料を前記炉容器(3)内へ装填するための解放位置へ移動可能な様に配設され、該解放位置においては前記ブロッキング部材は前記装填材料が前記シャフト(10)を通過させること」を追加するものである。
しかしながら、甲第5号証には、「炉床間の鉛直軸の周りで一緒に回転可能な、二つの炉床、および二つの相互連結されて固定され、その下方に各炉床が回転させられるであろう頂部を備え、一方の頂部は、一方の炉床に対する電極を与え、且つ他方の頂部は、他方の炉床に向けられた給鉱シャフトおよびバーナーをも支持し、シャフトの上側部分を通して入れられた装填材料をシャフト内に支持させるための除去可能な支持手段とする電気アーク製鋼炉」(5a)であって、「頂部B1は、シャフト6を支持しており、・・・導入される装填材料8を支持すべく引き込み格納式の冷却パイプ7が該シャフトの底部を横切って」(5b)おり、「パイプ 7 は、それから空の炉床に予熱された装填材料10を落下させるべく引き抜かれ、そしてシャフトは、再装填材料される」(5e)ようになっている電気アーク製鋼炉が記載されているから、これらの記載をまとめると、甲第5号証には、「電気アーク炉において、シャフト6の中には冷却パイプが配設され、そのパイプは、引き込み位置では装填材料10を支持し、引き抜かれた位置では予熱された装填材料10を炉床に落下させるようすること」が記載されていると云える。
そして、上記甲第5号証に記載の電気アーク炉において、そのシャフト6は装填材料予熱装置のシャフトであり、パイプは、装填材料の落下を阻止しているものであるから、ブロッキング部材と言い換えることができるし、更に、引き込み位置及び引き抜かれた位置はそれぞれ閉成位置と解放位置と言い換えることもできるから、甲第5号証には、本件発明7の記載に則して整理すると、装填材料予熱装置のシャフトに関し、「シャフト(10)中には、少なくとも1個のブロッキング部材(51)が、該部材が装填材料の支持手段を形成する閉成位置から装填材料を炉容器(3)内へ装填するための解放位置へ移動可能な様に配設され、該解放位置においてはブロッキング部材は装填材料がシャフト(10)を通過させること」という本件発明7に係る上記構成が記載されていると云える。
してみれば、本件発明7も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、5及び6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-7.本件発明8について
本件発明8は、本件発明1ないし本件発明7の構成に「電極昇降旋回装置(8)が前記炉容器(3)の傍で前記装填材料予熱装置(2)と反対側に配設されていること」を追加するものであるが、電極昇降旋回装置の配設位置については、単なる設計的な事項であると云える。
してみれば、本件発明8も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、5及び6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-8.本件発明9について
本件発明9は、本件発明1ないし本件発明8の構成に「前記シャフト(10)の保持構造体(27)を移動させるための手段(23)が前記炉容器(3)の傍の前記装填材料予熱装置(2)の側に設けられていること」を追加するものであるが、保持構造体(27)を移動させるための手段の配設位置についても、単なる設計的な事項であると云える。
してみれば、本件発明9も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、5及び6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-9.本件発明10について
本件発明10は、本件発明1ないし本件発明9の構成に「前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、前記支持構造体(63)が移動可能であること」を追加するものであるが、炉容器を移動可能及び昇降可能にすることは周知の事項であり、さらに、移動や昇降可能にするそのために、炉容器を台車等の支持構造体上に取り付けたり、また炉容器を昇降装置を介して支持構造体上に支持させることも、設計的な事項にすぎないと云える。
してみれば、本件発明10も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、5及び6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-10.本件発明11について
本件発明11は、本件発明10の構成に「前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、昇降部材(70,71)は装填材料予熱装置(2)の中央線と炉床(4)の中心を結ぶ線(22)の両側に配置され、一方の側の1個または複数の昇降部材(71)はフレーム(61)および支持構造体(63)中で線(22)に平行な回転軸のまわりに旋回可能に取り付けられ、一方、他方の側の1個または複数の昇降部材は垂直案内部材を有すること」を追加するものであるが、この構成は、(イ)炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、
(ロ)フレーム昇降装置(62)の昇降部材(70,71)は、装填材料予熱装置(2)の中央線と炉床(4)の中心を結ぶ線(22)の両側に配置され、
(ハ)一方の側の1個または複数の昇降部材(71)はフレーム(61)および支持構造体(63)中で線(22)に平行な回転軸のまわりに旋回可能に取り付けられ、一方、他方の側の1個または複数の昇降部材は垂直案内部材を有する、
というものである。
しかしながら、炉容器を支持構造体上に昇降可能に取付ける場合、シリンダなどを用いた昇降装置を直接に炉容器に取付けるのではなく、炉容器を支持するフレームを介して昇降装置を取付けることは、いわば設計的な事項として当業者が容易に設計することができると云うべきであり、また、シリンダなどの昇降部材を炉容器に対しどのように配置するかも単なる設計的な事項と云えるから、上記(イ)(ロ)は当業者が容易に想到できることである。
また、(ハ)は、昇降部材(70,71)の構造及びそのフレームなどへの取り付け構造に関するものであるが、昇降部材が、ピストンロッドのような「垂直案内部材」を有することは周知の事項であり、また、昇降部材により炉を傾動させるためには、昇降部材を、傾動の中心線と平行な回転軸のまわりに旋回可能にフレームなどに取り付けなければならないことは、上記「金属工学講座4製錬編II 製銑・製鋼」の第273頁の「第3.15図油圧式傾動機構」に示されているように、自明の事項であるから、(ハ)も当業者が容易に想到できることである。
してみれば、本件発明11も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、5及び6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-11.本件発明12について
本件発明12は、本件発明10または本件発明11の構成に「前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、前記支持構造体(63)が二つの平行横断受台(67,68)および該横断受台と接続する縦断受台(69)を含むこと」を追加するものであるが、この構成のうち、「炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ」る点は、本件発明11の上記(イ)の構成と同じであり、当業者が容易に想到できることである。また、「前記支持構造体(63)が二つの平行横断受台(67,68)および該横断受台と接続する縦断受台(69)を含むこと」は、本件図面の第10図のように、支持構造体(63)を、二つの平行横断受台(67,68)と横断受台の間に配置されてそれらを接続する縦断受台(69)とによってH形のフレーム構造とするものであるが、台車等の支持構造体のフレーム構造をH形にすることは、いわば設計的な事項として当業者が容易に設計することができると云うべきである。
してみれば、本件発明12も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、5及び6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものと云える。

2-12.本件発明2〜本件発明12についてのまとめ
以上のとおり、本件発明2〜本件発明12も、甲第1号証に記載の発明と甲第3、5及び6号証に記載された事項やその他の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものである。

(V-2)無効理由1について
請求人は、本件明細書の記載不備の理由として、特許請求の範囲の請求項1の「炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し」という構成や「前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように」という構成の意味するところが不明瞭で、かつ、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではない。また、発明の詳細な説明には上記構成が当業者が容易に実施をすることができる程度に十分に記載されていないとも主張している。
しかしながら、請求項1の「炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)」については、本件明細書の「装填材料予熱装置2は炉容器3上に横へ配列される。装填材料予熱装置の下部範囲において、この装置は炉壁5の上縁まで伸びており、装填材料予熱装置の外壁は容器壁5により形成される。その辺の範囲で装填材料予熱装置の壁はシャフト10で形成され、・・・第3図に特に示すように、平面図において炉容器3は片側が直線で限定された卵形(長円形)の形状をしている。真っ直ぐな壁部分11は、卵形の隣接部分12と共に装填材料予熱装置の下部部分の外側シャフト壁を形成する。」(本件公告公報第8欄第1〜11行)という記載や、また「本事例においては、シャフト10は平面に対しほぼ垂直な形状であり、また炉容器3の壁部分11と12により限定された装填材料予熱装置2の断面を上の方に伸ばしている。」(本件公告公報第8欄第20〜23行)という記載、さらには本件図面の第1図〜第3図によれば、シャフト状装填材料予熱装置が炉容器の側部に設けられたものではなく、炉容器の容器壁5の上方向でその内側部分に配設されていることが明らかであるから、本件発明1の「炉容器(3)上に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)」という構成が不明瞭であるとは云えない。また、上記「横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)」についても、本件明細書の記載や第1図等から、シャフト状装填材料予熱装置(2)が炉容器の中心に対して横に配設されることも明らかである。
してみれば、本件発明1の「炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し、」という構成に、請求人の主張する上記記載不備はないと云うべきである。
次に、請求項1の「前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、」について検討するに、この構成は、装填材料予熱装置の壁の構成を材料の装填という機能的な観点から限定したものであることが明らかである。そして、本件明細書の「装入される材料の柱はシャフトを通って装填されることができる。この装填材材料の柱はともに真下にある炉容器3の床と壁部分とで支えられる。」という記載(同明細書第17頁第3、4行)、また「装填材料の柱を溶解段階の期間においてシャフト10を用いて炉容器内に装填することができる。」という記載、さらには第1図等を参酌すれば、炉容器壁(5)の一部分とシャフト(10)の壁とから形成される装填材料予熱装置(2)の壁は、「材料の装填に適するように、」障害となるような段差などがない、連続的に連なって形成されているものを意味することも明らかであるから、請求項1の「前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、」という構成にも、請求人の主張する上記記載不備はないと云うべきである。
したがって、請求人の上記無効理由1は、理由がない。

(V-3)無効理由2について
請求人は、平成15年7月31日付け訂正審判(訂正2003-39153号)を容認する審決によってなされた訂正により、特許請求の範囲の請求項1に「前記装填材料予熱装置(2)が、溶解段階の間、装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように」という構成が追加されたが、この構成の「炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、」するための裏付けとなる記載が明細書中にはないと主張している。
しかしながら、請求項1の「装填材料を、炉容器(3)の炉容器壁(5)内の空間内に装填するのに適するように、」とは、上記「(V-2)無効理由1について」の項で言及したとおり、装填材料予熱装置の壁の構成を材料の装填という機能的な観点から限定したものである。そして、炉容器壁(5)の一部分とシャフト(10)の壁とから形成される装填材料予熱装置(2)の壁は、「材料の装填に適するように、」、すなわち炉容器壁(5)内の空間内に材料を適切に装填することができるように、障害となるような段差などがない、連続的に連なって形成されているものを意味することも、本件明細書の記載や図面から明らかであるから、上記訂正事項を含む訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないとは云えないし、また実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるとも云えない。
してみれば、平成15年7月31日付け訂正審判(訂正2003-39153号)を容認する審決によってなされた上記訂正は、特許法第126条第2項及び第3項の規定に違反してされたものではないと云える。
したがって、請求人の上記無効理由2も、理由がない。

VI.むすび
以上のとおりであるから、平成15年7月31日付け訂正審判を容認する審決によって訂正された請求項1〜12に記載された事項により構成される発明は、特許法第29条第2項の規定により、出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件特許の願書に添付した明細書の上記訂正は、特許法第126条第4項の規定に違反してされたものであり、本件発明1〜12についての特許は、同法第123条第1項第8号の規定により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-26 
結審通知日 2005-08-31 
審決日 2005-09-13 
出願番号 特願平2-504164
審決分類 P 1 113・ 536- Z (F27D)
P 1 113・ 856- Z (F27D)
P 1 113・ 537- Z (F27D)
P 1 113・ 853- Z (F27D)
P 1 113・ 121- Z (F27D)
P 1 113・ 841- Z (F27D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 酒井 美知子  
特許庁審判長 中村 朝幸
特許庁審判官 沼沢 幸雄
綿谷 晶廣
登録日 1998-04-10 
登録番号 特許第2135799号(P2135799)
発明の名称 シャフト状装填材料予熱装置付き溶解プラント  
代理人 西 義之  
代理人 阿部 和夫  
代理人 西澤 利夫  
代理人 岡崎 謙秀  
復代理人 佐藤 久容  
代理人 谷 義一  

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