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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1130278
審判番号 不服2003-3952  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-10 
確定日 2006-02-02 
事件の表示 特願2001-298282「プリント方式」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月28日出願公開、特開2002-154203〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成4年4月23日に出願された(パリ条約に基づく優先権主張1991年4月24日 米国)特願平4-129287号の一部を特許法44条1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成14年12月3日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成15年3月10日付けで本件審判請求がされるとともに、同年4月9日付けで明細書についての手続補正がされたものである。
したがって、本願の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年4月9日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項3】に記載されたとおりの次のものと認める。
「インクジェットプリント装置におけるインクの液滴を射出する方法において、
a.振動面に透孔を配設する工程と、
b.50kHz以上の振動周波数で前記振動面を振動させる工程と、
c.インクを前記透孔に供給する工程
とを備えることを特徴とするインクの液滴射出方法。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭59-95158号公報(以下「引用例1」という。)には、次のア〜エの記載が図示とともにある。
ア.「インクの液滴を射出するためのノズルを有する壁体にインクを接触させて成るインクジェット印刷方法において、各インク液滴の射出に対して、壁体をインクの方へ急激に動かして壁体の運動を追従しようとするインクの慣性による反作用によりインク液滴を射出させて成ることを特徴とするインクジェット印刷方法。」(1頁左下欄特許請求の範囲(1))
イ.「特許請求の範囲(1)項に記載の印刷方法において、前記壁体が、電気パルスにより、この壁体に連結したトランスジューサを選択的に附勢することによって動かされることを特徴とする印刷方法。」(1頁左下欄特許請求の範囲(2))
ウ.「本発明の印刷方法を第1図に略示する。容器10は、容易に乾燥可能で液滴ジェットとなって印刷を行なえるインクの如き液体11を収容している。ノズル13を具備した板にて構成した壁体12が通常インク11の液面に接触している。壁体12はシリンダ16に固定したアーム14に担持されている。シリンダ16は管状トランスジューサ18の一端17に連結され、トランスジューサの他端19は固定構造体21に固定してある。トランスジューサ18は電圧を受けたときに収縮する圧電材料のスリーブから成る。この目的のため、トランスジューサ18をパルス発生器22に接続してある。」(2頁右下欄14行〜3頁左上欄6行)
エ.「発生器22からパルスが到達する毎にスリーブの材料が急激に収縮し、その軸方向成分のためスリーブ18自体が短縮する。このため、シリンダ16は、アーム14及び壁体12と共に急激に下方へ動く。インク11には慣性があるから、インクは壁体12の動きを瞬時に追従できない。また、ノズルの横断面(径)は壁体12が作用しているインクの面積よりかなり小さい。従って、インクの反作用によりインク11の液滴23(第1図に破線で示す)がノズル13を通つて高速で射出せしめられる。この液滴23は23’にて示すように印刷媒体24上に付着する。」(3頁左上欄7〜18行)

2.引用例1記載の発明の認定
記載ア〜エを含む引用例1の全記載によれば、引用例1には次の発明が記載されていると認めることができる。
「ノズルを有する壁体をインク液面に接触させ、前記壁体に連結したトランスジューサを電気パルスにより選択的に附勢することによって、前記壁体をインクの方へ急激に動かして、前記壁体の運動を追従しようとするインクの慣性による反作用により、前記ノズルを通つてインク液滴を射出させて成るインクジェット印刷方法。」(以下「引用発明1」という。)

3.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1の「壁体」はトランスジューサを電気パルスにより附勢することによって急激に動かされるのだから、「壁体」は振動すると解さねばならない(急激に動かされて振動しないものは想定できない。)。したがって、引用発明1の「壁体」は本願発明の「振動面」に相当し、同じく「前記壁体に連結したトランスジューサを電気パルスにより選択的に附勢することによって、前記壁体をインクの方へ急激に動か」すことは本願発明の「振動面を振動させる工程」に相当する。
引用発明1の「ノズル」は本願発明の「透孔」に相当し、「ノズルを有する」以上製造段階において壁体にノズルを配設する工程を備えるものと解さねばならない。
引用発明1において、インク液滴はノズルを通って射出するのだから、引用発明1は本願発明の「インクを前記透孔に供給する工程」を備える。
そして、引用発明1の「インクジェット印刷方法」と本願発明の「インクの液滴射出方法」に相違はなく、引用発明1も「インクジェットプリント装置におけるインクの液滴を射出する方法」であるといえる。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「インクジェットプリント装置におけるインクの液滴を射出する方法において、
a.振動面に透孔を配設する工程と、
b.前記振動面を振動させる工程と、
c.インクを前記透孔に供給する工程
とを備えるインクの液滴射出方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉「振動面を振動させる工程」につき、本願発明では「50kHz以上の振動周波数」と限定しているのに対し、引用発明1の振動周波数は不明である点。

4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
原査定の拒絶の理由に引用された欧州特許出願公開第432992号明細書(以下「引用例2」という。)には、次のオ〜キの記載が図示とともにある。
オ.“It is known to produce a stream of liquid droplets by vibrating a perforate membrane having a rear face contracted by liquid such that droplets are expelled from holes in the membrane at each cycle of vibration."(1欄5〜8行)(訳文「液体によって後面が制限されている穴のあいた薄膜部材を振動させることにより、振動の各周期において液体の液滴を穴から射出し、液滴の流れを形成することは知られている。」)
カ.“An electro acoustic transducer 8 of the piezoelectric type is mounted on the housing 2 and is powerd and contorolled by the control circuit 6."(3欄31〜33行)(訳文「圧電型電気音響変換器8は、ハウジング2に取り付けられ、制御回路6により動力の供給を受けるとともに、制御されている。」)
キ.“The control circuit 6 includes a simple oscillator circuit arranged to drive the transducer 8 at a frequency typically in the range of 3KHz to 1Mhz selected to be at resonant frequency of the transducer in order to maximise efficiency."(8欄34〜38行)(訳文「最大限の効果を引き出すために、変換器8の共振周波数である3KHz〜1MHzの範囲の周波数で、変換器8を駆動するために設けられた簡単な構成の発振回路を制御回路6は備えている。」)

引用例2のこれら記載によると、薄膜部材を振動させることにより、薄膜部材の穴から液体を射出するのであるから、引用例2記載の「薄膜部材13」、「薄膜部材の穴」及び「変換器8」と、引用例1記載の「壁体」、「ノズル」及び「トランスジューサ18」に、液体射出機能に関連して格別の相違があると解することはできない。そうである以上、引用例1記載の「トランスジューサ18」を駆動するための「パルス発生器22」のパルス周波数を、引用例2の記載キにおける「3KHz〜1MHzの範囲」とすることに困難性があるということはできない。
また、引用発明1は「インクジェット印刷方法」の発明であり、インクジェット印刷方法としては、高速印刷が望まれることは改めていうまでもないことであるから、「3KHz〜1MHzの範囲」の中でも、インク吐出に支障がない限り、高い周波数を選択することは設計事項というべきである。そして、引用例2記載の周波数の上限値は1MHzであり、それは本願発明の振動周波数の下限値である50kHzの20倍であるから、インク吐出特性を良好に保つことを前提とした場合でも、振動周波数を1MHzの1/20である50kHz以上とすることに支障があると理解することはできない。
したがって、引用発明1において、振動面(壁体)を振動させるに当たっての振動数を、引用例2記載の「3KHz〜1MHzの範囲」の中から、可能な限り高い周波数を選択し、50kHz以上とすること、すなわち相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易といわざるを得ない。また、かかる構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
すなわち、本願発明は引用発明1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-25 
結審通知日 2005-08-30 
審決日 2005-09-13 
出願番号 特願2001-298282(P2001-298282)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 酒井 進
砂川 克
発明の名称 プリント方式  
代理人 依田 孝次郎  
代理人 薬師 稔  

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