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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 D21H 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D21H 審判 全部申し立て 2項進歩性 D21H |
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管理番号 | 1130818 |
異議申立番号 | 異議2003-71546 |
総通号数 | 75 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-12-20 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-06-12 |
確定日 | 2005-12-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3358000号「生分解性複合紙およびシートの製造法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3358000号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続きの経緯 本件特許第3358000号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成5年6月4日に特許出願され、平成14年10月11日に特許権の設定登録がなされ、その後、その請求項1〜3に係る特許について、特許異議申立人 大和紡績株式会社より特許異議の申立てがなされ、平成16年10月27日付で特許権者に対して審尋がなされ、同年12月27日付で回答書が提出された後、平成17年2月10日付で取消しの理由が通知され、特許異議意見書と訂正請求書が提出された後、同年6月14日付で取消しの理由が通知され、特許異議意見書と訂正請求書が提出された後、さらに同年10月7日付で取消の理由の理由が通知され、その指定期間内である同年10月17日付で、先の訂正請求をいずれも取り下げると共に、新たな訂正請求(平成17年11月9日付で方式補正)がなされたものである。 [2]訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 (1)訂正事項a 訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を削除すると共に、訂正前の請求項3を、「【請求項1】800μm以下の粒径または50mm以下の繊維長を有する熱可塑性の生分解性樹脂から成る粉末および/または繊維5〜90重量%とパルプまたはセルロース系繊維95〜10重量%とを水中で混合、解繊して水懸濁液とし、これを抄造・乾燥することにより得られたシートを、生分解性樹脂の融点以上、250℃以下で加熱圧縮成形することを特徴とする生分解性複合シートの製造法。」と訂正する。 (2)訂正事項b 明細書段落【0001】の「【産業上の利用分野】本発明は、包装材などの分野等で使用され、廃棄された後、微生物などの作用により生分解し、地球上の炭素循環系に還る、すなわち「地球に優しい」生分解性複合紙およびシートの製造法に関するものである。」を、 「【産業上の利用分野】本発明は、包装材などの分野等で使用され、廃棄された後、微生物などの作用により生分解し、地球上の炭素循環系に還る、すなわち「地球に優しい」生分解性複合シートの製造法に関するものである。」と訂正する。 (3)訂正事項c 明細書段落【0011】の記載を削除し、明細書段落【0010】の「 【課題を解決するための手段】本発明は、800μm以下の粒径または50mm以下の繊維長を有する熱可塑性の生分解性樹脂から成る粉末および/または繊維5〜90重量%を、実質的に単繊維に解繊されてなる高アスペクト比のパルプまたはセルロース系繊維95〜10重量%と複合化したことを特徴とする生分解性複合紙である。なお、生分解性複合紙の目付けが3000g/m2 以下であることが望ましい。」を、 「【課題を解決するための手段】本発明は、800μm以下の粒径または50mmの繊維長を有する熱可塑性の生分解性樹脂から成る粉末および/または繊維5〜90重量%とパルプまたはセルロース系繊維95〜10重量%とを水中で混合、解繊して水懸濁液とし、これを抄造・乾燥することにより得られたシートを、生分解性樹脂の融点以上、250℃以下で加熱圧縮成形することを特徴とする生分解性複合シートの製造法である。」と訂正する。 (4)訂正事項d 明細書段落【0017】の「本発明の生分解性複合紙またはシートの製造法において、上記の熱可塑性の生分解性樹脂とパルプまたはセルロース系繊維とより紙ないしシートを抄造するには、一般の製紙技術および機械によるが、特に原料調製では樹脂の均一分散に留意すべきで、一般の分散剤はもちろん、油剤や粘剤の適切な選択が肝要である。また、機械的な撹拌も重要で粉末は沈降したり浮上したりしないように、繊維はフロックにならないように撹拌状態をコントロールする必要がある。紙層形成には汎用の抄紙機が適用されるが、1000g/m2 以上のシートの抄造には巻取板紙抄紙機を適用することが望ましい。」を、 「本発明の生分解性複合シートの製造法において、上記の熱可塑性の生分解性樹脂とパルプまたはセルロース系繊維とより紙ないしシートを抄造するには、一般の製紙技術および機械によるが、特に原料調製では樹脂の均一分散に留意すべきで、一般の分散剤はもちろん、油剤や粘剤の適切な選択が肝要である。また、機械的な撹拌も重要で粉末は沈降したり浮上したりしないように、繊維はフロックにならないように撹拌状態をコントロールする必要がある。紙層形成には汎用の抄紙機が適用されるが、1000g/m2 以上のシートの抄造には巻取板紙抄紙機を適用することが望ましい。」と訂正する。 (5)訂正事項e 明細書段落【0021】の「この様な紙ないしシートでは乾燥または加熱によってもパルプ等の繊維間は充分な隔たりを有し、繊維表面同士で水素結合を形成することはない。したがって、パルプ等の繊維間に介在する生分解性樹脂が溶融、軟化して流動する時は容易に紙層構造を解き、塑性変形を起こすことができ、様々な形状に成形することも可能である。特に真空成形では前述の如く、本発明に準拠して既に熱圧処理したシートでは、パルプなどが個々の短繊維に独立して充填された連続層として挙動する。この連続層は成形に際して再び予熱で可塑化されると、繊維はマトリックスの樹脂と一体となって流動する。この塑性流動は成形金型の表面を覆うに充分な面積にまで伸びる。」を、「この様な紙ないしシートでは乾燥または加熱によってもパルプ等の繊維間は充分な隔たりを有し、繊維表面同士で水素結合を形成することはない。したがって、パルプ等の繊維間に介在する生分解性樹脂が溶融、軟化して流動する時は容易に紙層構造を解き、塑性変形を起こすことができ、様々な形状に成形することも可能である。特に真空成形では前述の如く、本発明に準拠して既に熱圧処理したシートでは、パルプなどが個々の単繊維に独立して充填された連続層として挙動する。この連続層は成形に際して再び予熱で可塑化されると、繊維はマトリックスの樹脂と一体となって流動する。この塑性流動は成形金型の表面を覆うに充分な面積にまで伸びる。」と訂正する。 (6)訂正事項f 明細書段落【0028】の「【発明の効果】本発明によれば、本来生分解性で安価であるパルプまたはセルロース系繊維の長所を損なうことなく、しかもパルプまたはセルロース系繊維を実質的に単繊維に解繊されてなる高アスペクト比の繊維とし、その間隙に樹脂を均一に介在させることができ、加熱圧縮成形加工工程で充分な流動性や成形加工性を発揮することのできる生分解生複合紙およびシートを製造することが可能となる。」を 「【発明の効果】本発明によれば、本来生分解性で安価であるパルプまたはセルロース系繊維の長所を損なうことなく、しかもパルプまたはセルロース系繊維を実質的に単繊維に解繊されてなる高アスペクト比の繊維とし、その間隙に樹脂を均一に介在させることができ、加熱圧縮成形加工工程で充分な流動性や成形加工性を発揮することのできる生分解性複合シートを製造することが可能となる。」と訂正する。 (7)訂正事項g 発明の名称欄の記載「生分解性複合紙およびシートの製造法」を「生分解性複合シートの製造法」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項a 訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を削除すると共に、訂正前の請求項3を新たな請求項1として繰り上げるものである。 よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項b〜d、g及びf 訂正事項b〜d及びgは、特許請求の範囲が訂正事項aにより訂正されたことに伴い、その訂正事項aと整合を図るものであり、訂正事項fはその訂正と併せて「生分解生」の誤記を「生分解性」に訂正するものである。 したがって、訂正事項b〜d及びgは、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、訂正事項fは上記目的及び誤記の訂正を目的とする明細書の訂正に該当し、訂正事項aと同様に、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項e 訂正事項eは、「短繊維」の誤記を「単繊維」に訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とする明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 [3]本件発明 本件特許第3358000号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記〔2〕に記載のとおり訂正が認められるので、平成17年10月17日付け訂正請求書に添付された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】800μm以下の粒径または50mmの繊維長を有する熱可塑性の生分解性樹脂から成る粉末および/または繊維5〜90重量%とパルプまたはセルロース系繊維95〜10重量%とを水中で混合、解繊して水懸濁液とし、これを抄造・乾燥することにより得られたシートを、生分解性樹脂の融点以上、250℃以下で加熱圧縮成形することを特徴とする生分解性複合シートの製造法。」 [4]特許異議の申立ての理由及び取消しの理由の概要 (1)特許異議の申立ての理由の概要 特許異議申立人は、以下の甲第1〜4号証及び参考資料1を提出し、 1)訂正前の請求項1〜3に係る発明は、甲第2〜3号証の1及び2の記載を参酌すれば、いずれも甲第1号証に記載された発明であって、上記請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、 2)訂正前の請求項1〜3に係る発明は、いずれも甲第1〜3号証の1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、上記請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、 3)訂正前の請求項1〜3に係る発明は、いずれも甲第4号証の出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明であって、上記請求項に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、 4)訂正前の請求項1〜3に係る特許は、請求項1及びそれを引用する請求項2に係る発明の「高アスペクト比」の記載が不明りょうであり、その明細書が特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり(なお、異議申立人は特許法第36条第4項及び第6項1〜2号に規定する要件を満たさない旨主張しているが、本件特許の出願年及び主張内容から前記のとおり判断した。)、取り消されるべきものであるというものである。 甲第1号証:特開平3-146754号公報 甲第2号証:欧州特許出願公開0534562号明細書 甲第3号証の1:国際公開第92/05311号パンフレット(1992) 甲第3号証の2:特表平6-500603号公報 甲第4号証:特願平5-33632号(特開平6-248552号公報) 参考資料1:ユニオンカーバイド社発行の製品カタログ (2)平成17年2月10日付けの取消しの理由は、異議申立の理由1)及び3)と同様の理由であり、また、平成17年6月14日付けの取消しの理由は、異議申立の理由2)と同様の理由であって、いずれも訂正前の請求項1及び2に係る発明に対してのみ通知されたものである。 また、平成17年10月7日付けの取消の理由は、明細書の軽微な記載不備に関するものである。 [5]甲各号証の記載 甲第1号証:特開平3-146754号公報 (1-1) 「セルロース系繊維と、炭素数4以上の直鎖脂肪族成分を含み、…低融点結晶性ポリエステル系バインダ繊維とからなる繊維積層物。」(特許請求の範囲(1)) (1-2) 「(産業上の利用分野) 本発明は…自然界に置かれたとき生分解をする不織布…繊維積層物に関するものである。」(1頁右下欄2〜6行) (1-3) 「生分解性を考えると、直鎖脂肪族エステル結合を多く含有するものが好ましい。」(3頁左上欄5〜7行) (1-4) 「ポリエステル系バインダ繊維は、…この繊維の混合比(重量比)は必要に応じて適宜定められるが、通常、全繊維の重量に対し5重量%以上70重量%以下とするとよい。 次に、繊維積層物は、セルロース系繊維とポリエステル系バインダ繊維とを…湿式抄紙法等により接着することにより製造することができ、… 不織布又は固綿は、得られた繊維積層物を、前記ポリエステル系バインダ繊維の融点以上の温度で…熱処理装置を使用して熱処理することにより製造することができる。」(3頁右上欄1行〜左下欄2行) (1-5) 「実施例1〜3 モル比が10/13のテトラデカン-1,14ジカルボン酸/1,4-ブタンジオール…ポリエステル重合体Aを得た。」(4頁左上欄4〜13行) (1-6) 「実施例9 実施例1の…ポリエステル重合体Aのチップを…溶融紡出して未延伸繊維糸条を得、…長さ10mmに切断して単糸繊度4デニールの単成分ポリエステル系バインダ繊維を得た。 次いで、このバインダ繊維と木材パルプとを混合比(重量比)50/50で湿式抄紙機に通して目付け20g/m2で混抄し、温度140℃の回転乾燥機を使用し1分間熱処理して不織布を作製した。得られた不織布の強力は1730gであった。 この不織布を日陰の樹木の脇に10cmの深さで埋め、2個月経過後に掘り出して土を落とし乾燥した。この不織布の強力は210g、強力保持率は約12%であった。」(5頁右上欄14〜左下欄14行) (1-7) 「特に直鎖脂肪族エステル結合を多く含有する単成分ポリエステル系バインダ繊維を使用すると、自然界に置かれたとき生分解をするため、環境を汚したりすることがない。」(5頁右下欄10〜13行) 甲第2号証:欧州特許出願公開0534562号明細書 (2-1) 「この不織布は、微生物分解性を有し、しかも衛生材料、ふき取り布、包装材料などに代表される使い捨て型の一般生活資材用の素材として好適に使用できる。使用後微生物が存在する環境に放置しておけば生分解されるため、特別な廃棄物処理を必要とせず、地球環境保全面からも極めて有用である。」(2頁51〜54行) (2-2) 「さらにまた本発明の微生物分解性不織布は、ポリ-ε-カプロラクトンおよび/またはポリ-β-プロピオラクトンからなり且つ単糸繊度が0.8〜6デニールの繊維20重量%以上と、天然繊維またはセルロース繊維80重量%以下とからなることを特徴とする。」(3頁1〜3行) (2-3) 「本発明で用いる天然繊維またはセルロース繊維とは、土中に埋め立てたときにいずれは腐敗分解して土に還元する素材のことであり、例えば、木綿、麻に代表される天然繊維や、木材パルプから得られるレーヨンなどのセルロース系繊維が挙げられる。天然繊維またはセルロース系繊維(以下、「天然繊維など」と称す)との混合不織布における混合割合を、PCLおよび/またはPPL繊維が20重量%以上でしかも天然繊維などが80重量%以下であることに限定した理由は、不織布化の手段として熱圧着法および熱融着法の採用が可能であることに起因している。」(3頁33〜39行) (2-4) 「本発明の不織布は、目付が10〜150g/m2」(3頁48行) (2-5) 「未捲縮の短繊維を湿式抄紙法でウェブ化して、不織布を得ることもできる。」(5頁7〜8行) (2-6) 「微生物分解性の評価については、不織布を土壌中に3ヶ月埋設した後取り出し、不織布がその形態を保っていないか、あるいは形態を保っていても引張強力が初期の50%以下に低下している場合を、微生物分解性が良好であると判断した。」(8頁32〜33行) (2-7) 「熱圧着法では、加熱した金属エンボスロールと金属フラットロールとを用いて、線圧30kg/cm、圧縮面積率20%、熱処理温度55℃にて加熱処理して、目付30g/m2の不織布を得た。」(9頁56行〜末行) 甲第3号証の1:国際公開第92/05311号パンフレット(1992) 甲第3号証の2:特表平6-500603号公報 甲第3号証の2は甲第3号証の1の翻訳文に相当するものなので、甲第3号証の1の記載内容は甲第3号証の2を援用する。 (3-1) 「1.…ヒドロキシ酸ユニットからなるポリマーを含むポリマー樹脂によって結合されたセルロース系繊維を含有する紙生成物。 … 2.ポリマーが少なくとも50%のポリ乳酸を含む請求の範囲第1項に記載の生成物。 3.ポリマーが少なくとも70%のポリ乳酸を含む請求の範囲第1項に記載の生成物。 … 7.セルロース系繊維がクラフトパルプである請求の範囲第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の生成物。 … 14.…ヒドロキシ酸ユニットからなるポリマー樹脂と、セルロール系パルプ繊維とを混合する工程を具備する、結合されたセルロース系パルプ生成物の製造方法。…」(特許請求の範囲) (3-2) 「結合剤は、生成物の5〜50重量%である。パルプ繊維及びPHAが湿式混合されるべきならば、…」(4頁左下欄6〜7行) (3-3) 「ポリヒドロキシ酸に関して用いられる”分解可能な”とは、分解可能な物質のポリヒドロキシ酸部分が生分解可能であること、特に、加水分解によって分解することを意味する。」(5頁左上欄22〜末行) (3-4) 「PHA樹脂は、粒子状、繊維状、噴出した繊維状、又はシート材のような任意の所望の形状でパルプ中に直接導入される。繊維は、短くても、連続したフィラメントでもよく、フィブリル化したものでもよい。…樹脂は…パルプの湿式処理の任意の段階においてパルプ中に導入することができる。」(5頁右上欄15〜22行) (3-5) 「長さ1/4インチの押出されたポリラクチドフィラメント(オーブン乾燥したパルプに対して20重量%)を漂白クラフトパルプ(…)、345mlのCSFと混合し、TAPPI標準ハンドシートに形成した。」(6頁右下欄下から6〜2行) (3-6) 「混合物は、25%の噴出されたPHA繊維と、75%のクラフト軟質パルプとを含む。その後、この乾燥混合物を空気中に置いてパットを形成し、175℃に加熱して結合した。得られたパットは、おむつの裏張りを製造するために使用された。これらのおむつは、優れた吸収性を有する。地中に完全に埋めて捨てた場合、このパット材料は容易に分解する。」(7頁左下欄1〜7行) 甲第4号証:特願平5-33632号(特開平6-248552号公報) (4-1) 「【請求項1】第一成分と第二成分とから少なくとも構成される複合繊維からなる熱接着性繊維を少なくとも30重量%含み、前記熱接着性繊維によって接着一体化している繊維組成物であって、前記第一成分の融点(Tm1 ℃)が、50<Tm1 <200の温度範囲にあり、かつ微生物によって捕食可能な熱可塑性樹脂からなる熱接着成分で繊維表面の少なくとも30%を占め、前記第二成分の熱可塑性樹脂が、その融点(Tm2 ℃)を100<Tm2 <230、かつTm1 +20≦Tm2 の温度範囲である複合繊維であることを特徴とする生物分解性繊維組成物。 【請求項2】熱接着性繊維以外の繊維が、レーヨン、木綿およびパルプなどのセルロース繊維、キチン繊維、蛋白繊維及び脂肪族ポリエステルから選ばれる少なくとも一つの微生物崩壊性繊維である請求項1に記載の生物分解性繊維組成物。 【請求項3】繊維組成物の実質的なすべてが微生物崩壊性材料で構成されて いる請求項1に記載の生物分解性繊維組成物。」(特許請求の範囲請求項1〜3) (4-2) 「特に主成分繊維をレーヨンあるいはパルプなどとすると、数ヵ月の内に浄化槽内で消化され特に都合が良い。無論土中に埋めても同様である。」(段落0017) (4-3) 「【実施例】以下実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。本発明の熱接着性繊維とは、紙用短カット繊維、…など溶融紡糸手法によって得られる繊維状物をいう。」(段落0018) (4-4) 「本発明の繊維組成物とは、…および紙などをいう。」(段落0019) (4-5) 「本発明の熱接着性繊維の繊度(デニール、d)は、一般には、0.5〜500dであり、機械捲縮をしていない紙用短カット繊維は、0.5〜10d(繊維長3〜20mm)、…が都合良い。」(段落0028) (4-6) 「本発明の生物分解性繊維組成物は、本発明の熱接着性繊維のみで構成されるのが好ましいが、用途によると100%でなくても良い場合も多い。この場合は本発明の熱接着性繊維を熱接着繊維として用い、他の繊維(主体繊維)と混合使用するが、熱接着性繊維の比率を少なくとも30重量%とするのが好ましい。 主体繊維は、レーヨン、木綿およびパルプなどのセルロース繊維、…などの、一般に繊維と言われているものをいう。」(段落0030,0031) (4-7) 「また、紙の場合はパルプおよびSWP(合成パルプ)などの繊維状物をいう。」(段落0032) (4-8) 「実施例1 UC社の融点60℃、メルトインデックス(以下、MIという)30g/10min.の微生物崩壊性脂肪族ポリエステル「TONE」P767Eを鞘成分とし、融点160℃、MI23g/10min.のポリプロピレンを芯成分とする鞘芯型複合繊維を、210℃で溶融紡糸し30℃の水の中で3.0倍に延伸して延伸糸となし、繊維処理剤を付与した。そののち、氷冷したスタフィングボックスで機械捲縮し冷風貫通型乾燥機で乾かし切断して、繊度5d、長さ51mmのステープルとした。このステープル40重量部と、繊度2d、長さ51mmのレーヨンステープル60重量部とを混合し、ローラーカードで60g/m2 目付のカードウェッブとし、90℃の、熱風貫通型熱加工機を用いて熱接着不織布とした。この不織布は嵩だかい不織布であった。 この不織布を無菌水に一昼夜浸漬したが、不織布の形態を保持しており、不織布強力も変化がなかった。また、この不織布をエアーポンプで曝気している潅漑用溜め池の泥水に1か月間漬けておいたところ、レーヨンステープルは消失し、芯成分繊維の単なる固まりとなっていた。 また、この不織布で市販の野菜苗の根を土と共にくるみ、畑に埋め、3か月後掘り起こしたところ、いずれも不織布の形態を保たず繊維がばらけた状態となっており、レーヨンステープルはほとんど見当たらなかった。」(段落0034〜0036) (4-9) 「実施例2 実施例1の延伸糸に繊維処理をほどこし、5mm長さに切断して短カット繊維とした。この繊維20重量部と、繊度2d、長さ5mmのレーヨン短カット80重量部を水中に分散させて抄紙し、70℃のフェロ板に挟んで乾燥し紙とした。これを実施例1と同様にして試験した所、同様の結果を得た。」(段落0041) 参考資料1:ユニオンカーバイド社発行の製品カタログ 参考資料1は1988年に作成され、甲第4号証の実施例1に記載されている微生物崩壊性脂肪族ポリエステル「TONE」は、「ポリ-ε-カプロラクトン」であることを示している。 [6]対比・判断 (1)特許法第29条第1項及び第2項の判断について 甲第1号証の記載事項(1-1)〜(1-7)から、甲第1号証には「長さ10mmの繊維長を有する熱可塑性の生分解性ポリエステル系バインダ繊維50重量%とセルロース系繊維50重量%とを混合して湿式で抄造し、得られたシート状物を140℃の乾燥機で熱処理する不織布の製造方法」の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されているものと認める。 本件発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「熱可塑性の生分解性ポリエステル系バインダ繊維」は本件発明1の「熱可塑性の生分解性樹脂からなる繊維」に相当し、その繊維長及び配合量も両者で一致する。 また、引用発明1は、熱可塑性の生分解性ポリエステル系バインダ繊維以外にセルロース系繊維も使用しており、シート状物化する方法は、その両者を湿式で抄造・乾燥するものであるから、両繊維を水中で混合、解繊した水懸濁液を抄造・乾燥しているものと認められ、この点でも本件発明と差異はない。 しかし、本件発明は、上記要件に加え、さらに「抄造・乾燥することにより得られたシートを、生分解性樹脂の融点以上、250℃以下で加熱圧縮成形すること」を要件とするものである。 これに対し、引用発明1では、乾燥時に140℃で熱処理はするものの(摘示(1-6))、加熱圧縮成形することは要件とはなっておらず、この点で、本件発明と引用発明1とは相違する。 また、甲第2号証には、加熱した金属エンボスロールと金属フラットロールとを用いて、線圧30kg/cm、圧縮面積率20%、熱処理温度55℃にて加熱処理して不織布を得ることが(摘示(2-7))記載されているものの、「抄造・乾燥することにより得られたシートを、生分解性樹脂の融点以上、250℃以下で加熱圧縮成形すること」は記載されておらず、甲第3号証の1及び2にもこの点は記載されていない。 そして、本件発明では、上記の相違点により、流動性や成形加工性において明細書記載の効果を奏するものと認める。 したがって、本件発明は、甲第2〜3号証の1及び2の記載を参酌しても、甲第1号証に記載された発明に該当しないし、それら各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。 (2)特許法第29条の2の判断について 甲第4号証には、「第一成分と第二成分とから少なくとも構成される複合繊維からなる熱接着性繊維を少なくとも30重量%含み、前記熱接着性繊維によって接着一体化している繊維組成物であって、前記第一成分の融点(Tm1 ℃)が、50<Tm1 <200の温度範囲にあり、かつ微生物によって捕食可能な熱可塑性樹脂からなる熱接着成分で繊維表面の少なくとも30%を占め、前記第二成分の熱可塑性樹脂が、その融点(Tm2 ℃)を100<Tm2 <230、かつTm1 +20≦Tm2 の温度範囲である複合繊維であることを特徴とする生物分解性繊維組成物。」の発明が記載され(摘示(4-1))、その実施例にはレーヨン短カット糸と共に抄紙・乾燥し紙とする例も記載されているが(摘示(4-8)、(4-9))、本件発明の要件である「抄造・乾燥することにより得られたシートを、生分解性樹脂の融点以上、250℃以下で加熱圧縮成形すること」の点については記載されておらず、かつ、該要件が自明の事項であるとも認められない。 なお、参考資料1は、甲第4号証の実施例1に記載されている微生物崩壊性脂肪族ポリエステル「TONE」が、「ポリ-ε-カプロラクトン」であることを示すものである。 そして、本件発明1では、上記の要件により、流動性や成形加工性において明細書記載の効果を奏するものと認める。 したがって、参考資料1の記載を参酌しても、本件発明は甲第4号証に記載された発明と同一のものとは認められない。 (3)明細書の記載要件について 本件は、[2]訂正の適否についての判断で検討したとおり、訂正が認められ、その結果、明細書の記載不備に基づく取消しの理由は解消した。 (4)取消しの理由について 本件は、[2]訂正の適否についての判断で検討したとおり、訂正が認められ、その結果、取消しの理由の対象となった請求項1及び2が削除され、その取消しの理由は解消した。 [7]むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 生分解性複合シートの製造法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】800μm以下の粒径または50mm以下の繊維長を有する熱可塑性の生分解性樹脂から成る粉末および/または繊維5〜90重量%とパルプまたはセルロース系繊維95〜10重量%とを水中で混合、解繊して水懸濁液とし、これを抄造・乾燥することにより得られたシートを、生分解性樹脂の融点以上、250℃以下で加熱圧縮成形することを特徴とする生分解性複合シートの製造法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、包装材などの分野等で使用され、廃棄された後、微生物などの作用により生分解し、地球上の炭素循環系に還る、すなわち「地球に優しい」生分解性複合シートの製造法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 現在、特に食品関係のトレイなどの包装材はプラスチックの真空成形などにより大量に生産、消費されており、その使用後のプラスチック廃棄物は環境に重大な負荷を与えている。すなわち、プラスチック廃棄物は焼却しても、その際に生ずる過大な燃焼カロリーは焼却炉の損耗を著しくし、その排気ガスは大気を汚染する。また、プラスチック廃棄物は埋め立てても容易に自然分解して土に戻ることがないため、何時までも埋め立て地の地盤が安定しないなどの欠点を有する。 【0003】 現在、この環境対策として微生物などの作用により生分解し得る生分解性プラスチックが鋭意開発されているが、未だ高価であり、包装材などに簡易に使用できる価格ではない。また、性能的にも、現在使用されている汎用樹脂と比べて一般的に融点が低いため、耐熱性などの物性面で劣っている。したがって、高温時の剛性(熱変形温度)が劣るので、その欠点を厚さの増大で補完することになり、製品コストや廃棄後の分解速度に悪影響を及ぼすこととなる。 【0004】 他方、包装材としてプラスチックと共に広く使用されている紙・板紙は本来生分解性である木材パルプを用いているので、当然生分解性である。しかし、最近に至り、物理的特性のみならず印刷適性、加工適性、その他実用特性などのより高度な要求を満たすために紙・板紙への品質的要求が高まりつつあり、そのために支持体としての紙に合成樹脂を使用した高機能付与加工が、内添、含浸、塗工、積層などの形で行われている。一般に、品質的要求のレベルの高いほど、その使用する樹脂量も多くなる傾向にあり、その結果、例えば包装紙においては、樹脂加工によって紙本来の性質よりも加工樹脂の性質が強調されることになり、使用後に廃棄されても、微生物によって容易に生分解されず、プラスチックと同様な廃棄物処理問題が生じている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 上述の如く従来技術では、1)生分解性のプラスチックにおいては、廃棄後の公害問題は解決することができても、性能面、価格面で問題が残る。また、2)本来、比較的安価で生分解性である紙が、要求品質の向上に伴ってその性質が限りなく樹脂のそれに接近しており、本来の生分解性から隔たりつつある。 【0006】 また、従来の紙の高機能付与加工技術において、熱可塑性合成樹脂にパルプを複合させる場合には、通常、溶融状態の樹脂に粉砕したパルプを混練して造るが、溶融状態の樹脂は普通200℃位あるいはそれ以上であるため、パルプは混練状態で保有する水分を失い、絶乾状態になる。パルプの主成分であるセルロースは最適の可塑剤である水を失うので、この混練状態ではパルプは可塑性を失い脆くなり、強い剪断力によって殆ど粉末化してしまう。しかも、使用する粉砕パルプそのものが、すでにかなり短繊維化したものであることが多い。それは、成紙を乾燥状態で機械的に粉砕しても、繊維の切断なしに単繊維に解繊することはほとんど不可能であるからである。したがって、この場合パルプを複合化させたとはいえ、製品中に存在するのはほとんど繊維形態をとどめない粉末状のパルプで、繊維形態としての高いアスペクト比による補強・改質効果は期待できない。 【0007】 他方、紙加工技術的に内添、含浸、塗工、積層などの手段では、充分な加工性を示す素材が得られない。それは、内添以外の手段では繊維間結合が完成されたいわば成紙である原紙に樹脂を加工するために、繊維間に十分樹脂を介在させることができないためである。この場合の繊維間結合とは、パルプ繊維すなわちセルロース繊維表面のOH基による繊維間水素結合を意味している。この結合は含有水分によって水分子を介在させる場合が多いが、上述の如く溶融樹脂との混練状態では絶乾状態となり、このOH基同士の水素結合から更に脱水されてエーテル結合にいたる可能性もあると言われている。したがって、この混練状態で繊維間結合を弛緩させるという期待はほとんどできない。この水素結合を緩めるためには、水分子をより多く介在させて繊維間隙に水の多分子層を形成させるしかない。 【0008】 一般に、含浸、塗工、積層などの樹脂加工においては、充分にこの繊維間結合を緩める工程ではないので、緩んだ繊維間隙に水素結合の代わりに樹脂層を形成することは不可能である。また、樹脂の内添による樹脂加工においては、一般にコロイドタイプまたはエマルジョンタイプの水分散性樹脂液をパルプスラリーに添加する。この場合、分散した樹脂のコロイドまたはエマルジョン粒子は、製紙技術一般の定着方法で繊維表面に定着、被覆することができるので、樹脂層を介在させた繊維構造のものとすることができる。しかし、この方法で充分な加工成形性が得られるほどのものを得ようとすれば、製紙技術では異常な程、多量の樹脂を添加しなければならない。したがって、この場合には用品汚れや操業トラブルを覚悟しなければならず、工業的に安定的な品質を保証することができない。 【0009】 本発明は、かかる現状に鑑み、本来生分解性で安価である紙の長所を損なうことなく、しかもこれに対する高度の性能的・品質的要求を満たすとともに、シート状のプラスチックに匹敵する加工性を持つ高機能性かつ高性能の紙ないしシートを提供することを目的とするものである。 【0010】 【課題を解決するための手段】 本発明は、800μm以下の粒径または50mm以下の繊維長を有する熱可塑性の生分解性樹脂から成る粉末および/または繊維5〜90重量%とパルプまたはセルロース系繊維95〜10重量%とを水中で混合、解繊して水懸濁液とし、これを抄造・乾燥することにより得られたシートを、生分解性樹脂の融点以上、250℃以下で加熱圧縮成形することを特徴とする生分解性複合シートの製造法である。 【0011】 (削除) 【0012】 本発明において使用するパルプまたはセルロース系繊維は、木材からのバージンパルプや古紙から回収したパルプなどのパルプまたは銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨンや溶剤紡糸レーヨンなどのセルロース系繊維を短くカットした繊維などである。 【0013】 本発明において使用する熱可塑性の生分解性樹脂の代表的なものとして、脂肪族ポリエステルが挙げられる。例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸のようなポリ(α-ヒドロキシ酸)からなる重合体またはこれらの共重合体が、また、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(β-プロピオラクトン)のようなポリ(ω-ヒドロキシアルカノエート)が、さらに、ポリ-3-ヒドロキシプロピオネート、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリ-3-ヒドロキシカプロレート、ポリ-3-ヒドロキシヘプタノエート、ポリ-3-ヒドロキシオクタノエート及びこれらとポリ-3-ヒドロキシバリレートやポリ-4-ヒドロキシブチレートとの共重合体のようなポリ(β-ヒドロキシアルカノエート)が挙げられる。また、グリコールとジカルボン酸の縮重合体からなるものとして、例えば、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケートポリネオペンチルオキサレートまたはこれらの共重合体が挙げられる。さらに、前記脂肪族ポリエステルと、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカナミド(ナイロン11)、ポリラウラミド(ナイロン12)のような脂肪族ポリアミドとの共縮重合体である脂肪族ポリエステルアミド系共重合体が挙げられる。本発明においては、生分解性を有する熱可塑性樹脂として前述した以外の熱可塑性重合体であっても、それが生分解性を有するものであれば用いることができる。 【0014】 これら生分解性熱可塑性樹脂から800μm以下の粒径の粉末を得るためには、これらの樹脂を溶剤に溶解後、非溶剤中に撹拌しながら沈澱させ、これらを回収後乾燥する方法が一般的であるが、これらに限定されるものではない。また、繊維は溶融紡糸後、50mm以下にカットすることにより得ることができる。 【0015】 本発明において使用する熱可塑性の生分解性樹脂の粉末の粒径は、800μm以下であることが必要であり、それを越える場合は紙層を形成しても樹脂粒子が脱落しやすく、均質な製品が得がたくなり、また熱可塑性の生分解性樹脂の繊維長は50mm以下であることが必要であり、それを越える場合は抄紙原料として水懸濁液に分散しがたく、フロックを形成して均一な地合の紙層から成る製品が得がたい。なお、本発明で言う粉末と繊維の区分はアスペクト比が5未満のものを粉末、5以上のものを繊維と言う。また、粉末の粒径はその長軸の長さを指す。ここで、アスペクト比とは、繊維の長さをl、直径をdとしたとき、l/dをいう。 【0016】 本発明の熱可塑性の生分解性樹脂とパルプまたはセルロース系繊維との配合割合は、5〜90重量%:95〜10重量%であることが必要であって、生分解性樹脂が5重量%未満では製品の加工性が乏しく、使用に耐える加工品が得がたい。また、90重量%を越えるものではコストや剛性、熱変形温度の品質面での改善が不十分である。 【0017】 本発明の生分解性複合シートの製造法において、上記の熱可塑性の生分解性樹脂とパルプまたはセルロース系繊維とより紙ないしシートを抄造するには、一般の製紙技術および機械によるが、特に原料調製では樹脂の均一分散に留意すべきで、一般の分散剤はもちろん、油剤や粘剤の適切な選択が肝要である。また、機械的な撹拌も重要で粉末は沈降したり浮上したりしないように、繊維はフロックにならないように撹拌状態をコントロールする必要がある。紙層形成には汎用の抄紙機が適用されるが、1000g/m2以上のシートの抄造には巻取板紙抄紙機を適用することが望ましい。 【0018】 また、加熱圧縮成形法としては、紙様のプリプレグを予熱した後コールドプレスする方法や予熱することなくホットプレスする方法がある。たとえば、一般のスタンパブルシートと同様に予熱してコールドプレスにより成形できることは勿論であるほか、スタンパブルシートでは不可能な薄物領域の製品の製作も真空成形により可能である。真空成形の場合、予めシートを熱圧処理する必要がある。それによって紙層中の繊維および粉末状の樹脂は溶融してフィルム状となる。このようにして形成されたフィルム状物は深絞り成形時の伸びを助長させるのに有効であり、かつ成形時の真空に気密性を保つ上で有効である。この場合、熱可塑性の生分解性樹脂の加工温度は生分解性樹脂の融点以上、250℃以下であることが必要であって、融点未満の温度では生分解性樹脂の溶融が生ぜず、250℃を越える温度では加工時のパルプ繊維の熱劣化が著しく、その補強効果が低減する。 【0019】 本発明において、目付が3000g/m2以下の紙ないしシートとすることが望ましいが、これは3000g/m2を越えた場合は紙厚が約6mm以上となり、加工時の予熱工程で厚さ方向で均一な予熱が困難となり、紙表面が焦げても中間層の樹脂に充分な熱可塑性が付与されないためである。 【0020】 【作用】 本発明では、先ずパルプまたはセルロース系繊維の完全な解繊を考えて、合成樹脂加工技術の分野では忌避物質である水で繊維間結合を緩めることを優先して水中での離解、解繊を基本的前提とした。生分解性樹脂の特定された粉末または繊維をパルプ等と複合させた原料で紙層を形成することで、パルプ等の繊維を実質的に単繊維に解繊されてなる高アスペクト比(パルプの有するアスペクト比を高度に保持している)の繊維とし、その間隙に樹脂の粉末または繊維をミクロに均一に介在させることができ、しかも後続する加熱圧縮成形加工工程で充分な流動性や成形加工性を発揮するに充分な樹脂量を紙ないしシートに複合させることができる。 【0021】 この様な紙ないしシートでは乾燥または加熱によってもパルプ等の繊維間は充分な隔たりを有し、繊維表面同士で水素結合を形成することはない。したがって、パルプ等の繊維間に介在する生分解性樹脂が溶融、軟化して流動する時は容易に紙層構造を解き、塑性変形を起こすことができ、様々な形状に成形することも可能である。特に真空成形では前述の如く、本発明に準拠して既に熱圧処理したシートでは、パルプなどが個々の単繊維に独立して充填された連続層として挙動する。この連続層は成形に際して再び予熱で可塑化されると、繊維はマトリックスの樹脂と一体となって流動する。この塑性流動は成形金型の表面を覆うに充分な面積にまで伸びる。 【0022】 本発明によるシートでは、加熱によって流動相に変わる樹脂マトリックスの中にパルプまたはセルロース系繊維が均一に、しかも単繊維がそれぞれ孤立した状態で分散している状態にある。 【0023】 【実施例】 次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。 実施例1 叩解したパルプ(LBKP)を9.4g採取し、これを水750ml中で十分に離解した。これに単糸繊度3デニール、平均カット長5mmのポリカプロラクトン(PCL)繊維7.2gと界面活性剤0.1g/lを加え、パルプとPCL繊維を含む水分散液を形成させ、JIS法(JIS P8209)に準じて抄造した。得られた紙の目付は521g/m2で、PCL繊維とパルプの混合・分散性は良好であった。この紙を風乾した後、120℃に予熱し、コールドプレスしたところ、厚さ0.4mmの均一なシート状成形物を得た。これについてJIS K7127に準じた引張り試験およびJIS K7203に準じた曲げ試験を行った結果を表1に示す。なお、得られた成形品におけるパルプの分散状態は良好であった。 【0024】 比較例1 Tダイ法により溶融押出しされた厚さ0.3mmのPCLフィルムについて、実施例1と同じ引張り試験ならびに曲げ試験を行ったところ、表1に示す結果が得られた。すなわち、実施例1に対し引張り強度で約42%、引張り弾性率で約18%、曲げ弾性率で約16%のレベルにとどまっていた。 【0025】 【表1】 【0026】 実施例2 100〜800μmのランダムな粒子径のPCL粉末を用いて実施例1と同様に行った。得られた紙の目付は450g/m2で、PCL粉末とパルプの混合・分散性は良好であった。 【0027】 実施例3 実施例1において得られた紙を予熱した後、冷ローラ間でカレンダー加工を施し、厚さ0.45mmのシート状プリプレグを得た。次に、これを真空度5torr、温度130℃で真空成形したところ、極めて良好な深絞り成形物を得ることができた。 【0028】 【発明の効果】 本発明によれば、本来生分解性で安価であるパルプまたはセルロース系繊維の長所を損なうことなく、しかもパルプまたはセルロース系繊維を実質的に単繊維に解繊されてなる高アスペクト比の繊維とし、その間隙に樹脂を均一に介在させることができ、加熱圧縮成形加工工程で充分な流動性や成形加工性を発揮することのできる生分解性複合シートを製造することが可能となる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-11-16 |
出願番号 | 特願平5-158047 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(D21H)
P 1 651・ 113- YA (D21H) P 1 651・ 161- YA (D21H) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
松井 佳章 |
特許庁審判官 |
石井 克彦 野村 康秀 |
登録日 | 2002-10-11 |
登録番号 | 特許第3358000号(P3358000) |
権利者 | 北越製紙株式会社 ユニチカ株式会社 |
発明の名称 | 生分解性複合シートの製造法 |
代理人 | 原田 洋平 |
代理人 | 板垣 孝夫 |
代理人 | 森本 義弘 |
代理人 | 笹原 敏司 |
代理人 | 板垣 孝夫 |
代理人 | 原田 洋平 |
代理人 | 原田 洋平 |
代理人 | 森本 義弘 |
代理人 | 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ |
代理人 | 板垣 孝夫 |
代理人 | 笹原 敏司 |
代理人 | 笹原 敏司 |
代理人 | 森本 義弘 |