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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1130824
異議申立番号 異議2003-70447  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-19 
確定日 2005-12-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3315229号「ALC用改良ポルトランドセメントの製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3315229号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3315229号は、平成5年12月28日に特許出願され、平成14年6月7日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人天野景昭(以下「申立人」という)より、特許異議の申立てがなされ、取消通知がなされ、その指定期間内の平成15年12月8日付けで訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否

2-1.訂正の内容

本件訂正の内容は、本件特許明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正すること、即ち、下記訂正事項(a)ないし(i)のとおりに訂正しようとするものである。

訂正事項(a)
【特許請求の範囲】の【請求項1】の
「3CaO・SiO2含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントであり、セメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上であるALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。」

「振動式粉砕機を使用して改良ポルトランドセメントを得るALC用改良ポルトランドセメントの製造方法であって、
3CaO・SiO2含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントであり、セメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上であるALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。」
に訂正をする。

訂正事項(b)
【特許請求の範囲】の【請求項2】の
「請求項1記載の改良ポルトランドセメントにおいて、
セメントの粒度調整によるセメントのn値が1.100以上〜1.500以下であり、かつ粉末度がブレーン比表面積で3000cm2/g〜10000cm2/gであるALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。」

「請求項1記載の改良ポルトランドセメントにおいて、
セメントの粒度調整によるセメントのn値が1.100以上かつ1.500以下であり、かつブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gであるALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。」
に訂正をする。

訂正事項(c)
【特許請求の範囲】の【請求項4】を削除する。

訂正事項(d)
段落【0009】【課題を解決するための手段】の
「・・・セメントのn値が1.100以上〜1.500以下の範囲内であり、かつ粉末度がブレーン比表面積で3000cm2/g〜10000cm2/gである・・・」(特許公報第2頁右欄第13〜15行)

「・・・セメントのn値が1.100以上かつ1.500以下の範囲内であり、かつブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gである・・・」
に訂正する。

訂正事項(e)
段落【0010】の
「すなわち、本発明の請求項1記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、3CaO・SiO2含有量が・・・」(特許公報第2頁右欄第21〜23行)

「すなわち、本発明の請求項1記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、振動式粉砕機を使用して改良ポルトランドセメントを得るALC用改良ポルトランドセメントの製造方法であって、3CaO・SiO2含有量が・・・」
に、
また、
「・・・セメントのn値が1.100以上〜1.500以下の範囲内であり、かつ粉末度がブレーン比表面積で3000cm2/g〜10000cm2/gである・・・」(特許公報第2頁右欄第27〜30行)

「・・・セメントのn値が1.100以上かつ1.500以下であり、かつブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gである・・・」
に訂正し、
かつ、
「請求項4記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は・・・解決手段とした。」(特許公報第2頁右欄第35〜38行)
を削除する。

訂正事項(f)
段落【0012】の
「・・・セメントのn値が1.100以上〜1.500以下となるので・・・」(特許公報第3頁左欄第5〜6行)

「・・・セメントのn値が1.100以上かつ1.500以下となるので、・・・」
に、
また、
「粉末度がブレーン比表面積で3000cm2/g以上であるので・・・」(特許公報第3頁左欄第8〜9行)

「ブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gであるので、・・・」
に訂正する。

訂正事項(g)
段落【0013】の
「請求項4記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法によれば・・・得ることができる。」(特許公報第3頁左欄第18〜23行)
を削除する。

訂正事項(h)
段落【0019】の
「したがって生産性、作業性に優れたものとなる。」(特許公報第3頁右欄第49〜50行)と「請求項2記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は・・・」(特許公報第3頁右欄第50行〜第4頁左欄第1行)との間に
「また、振動式粉砕機を使用するから、簡素な製造設備を使用して、セメントのn値が1.100から1.500という高い値を持つALC用改良ポルトランドセメントを得ることができる。」
を挿入する。
また、
「請求項2記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は・・・粉末度が・・・であるので、」(特許公報第3頁右欄第50行〜第4頁左欄第5行)

「請求項2記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、セメントの粒度調整によりセメントのn値が1.100以上かつ1.500以下の範囲内であり、かつブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gであるので、」
に訂正する。

訂正事項(i)
段落【0020】の
「請求項4記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、・・・得ることができる。」
を削除する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

上記訂正事項(a)は、訂正前の【請求項1】においてセメントの粒度を調整するための粉砕機とし「振動式粉砕機」を使用すると限定したものであるから、上記訂正事項(a)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
上記訂正事項(b)は、【請求項2】の表現を整理したものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものである。
上記訂正事項(c)は、訂正前の【請求項4】を削除するものであるから、上記訂正事項(c)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
上記訂正事項(d)ないし(i)は、上記訂正事項(a)ないし(c)に対応して、【請求項1】及び【請求項2】の訂正に整合させるためであって、明りようでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものである。
そして、上記訂正事項(a)にかかる粉砕機は、訂正前の【請求項4】に記載されており、上記訂正事項(a)ないし(i)は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3.まとめ

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断

3-1.本件発明

訂正後の本件請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1ないし3」という)は、上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(上記2-1.の訂正事項参照)
「【請求項1】
振動式粉砕機を使用して改良ポルトランドセメントを得るALC用改良ポルトランドセメントの製造方法であって、
3CaO・SiO2含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントであり、セメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上であるALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の改良ポルトランドセメントにおいて、
セメントの粒度調整によるセメントのn値が1.100以上かつ1.500以下であり、かつブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gであるALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。
【請求項3】
請求項2記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法において、 分級機を使用してセメントの一部を分級除去することがないALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。」

3-2.特許異議申立ての理由の概要

申立人は、証拠として甲第1ないし3号証を提示し、下記の理由により、訂正前の本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきと主張する。
【理由1】訂正前の本件請求項1ないし3に係る発明は、下記刊行物1ないし3の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

刊行物1:特開昭59-35050号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開平3-183646号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開平3-290338号公報(甲第3号証)

【理由2】訂正前の本件請求項4に係る特許は、その明細書の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項の規定に適合していない出願になされたものである。

3-3.刊行物の記載

3-3-1.上記刊行物1には、下記の事項が記載されている。

(a)「ポルトランドセメントクリンカに二水石膏を添加し、この混合物を粉砕、分級してセメントを造るに際し、(イ)鉱物組成が、3CaO・SiO2 40〜60%、2CaO・SiO2 15〜40%、3CaO・Al2O3 10%以下なるポルトランドセメントクリンカを用い、(ロ)セメントの粒子組成を、20μ残分15%以下、5μ残分80〜90%の分級範囲に保つと共に、(ハ)添加した二水石膏がセメント中で二水塩を保つよう100℃以下の乾燥状態で粉砕分級することを特徴とする早強性ポルトランドセメントの製造方法。」(特許請求の範囲)
(b)「本発明は3CaO・SiO2含有量およびセメント粒子の分級組成を特定の範囲に構成し、かつセメント中の二水石膏が二水塩の結晶形態を保持するようにして品質の安定性と水密性とを高めた早強性ポルトランドセメントの製造方法に関する。」(第1頁左下欄下から4行〜同頁右下欄第2行)
(c)「次にセメントの水密性は粒子組成のみならず粉砕時の石膏の変質によっても不良になる。本発明は鉱物組成と粒子組成と共に石膏の結晶形態を二水塩に保持することにより早期強度および水密性を高めたものである。・・・尚、このように添加石膏を二水塩に保持しつつ上記粒子組成のセメントを得るには従前の粉砕分級手段では不充分である。従来セメント製造に汎用されている粉砕分級システムは、粉砕機としてボールミルを用い、分級機としてゲーコ型セパレータ、スターテバンド型セパレータ、サイクロン型セパレータ等を用いるものが大部分である。このため従来の粉砕システムでは・・・粉砕中にミル内温度が上昇し、添加した二水塩石膏が脱水を起す。・・・又従来の平均的な早強セメント粉砕の例では・・・水を散水しており粉砕時の湿度も高くセメントの変質を生じ易い。一方・・・渦流式分級機を用いれば、ミルを通過する再循環微粉量が大巾に減少し、かつ分級機の冷却に有効な風量が多い。・・・上記渦流式分級機を用いれば・・・粉砕時のミル内温度を高くすることなくシャープな分級性能と相俟って本発明に係わる粒子組成を実現することができる。」(第3頁左上欄下から4行〜同頁左下欄第11行)

3-3-2.上記刊行物2には、下記の事項が記載されている。

(a)「式(1)によって得られる粒度分布指数(DI値)が0.5以下になるように、粒度分布を空気分級機によって調製してなる改善されたコンクリート流動性を有するポルトランドセメント。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「C3Sを40〜60重量%・・・含むセメントクリンカーを使用し、尚且つブレーン比表面積が3700cm2/g以上である請求項1に記載のポルトランドセメント。」(特許請求の範囲第2項)
(c)「コンクリート構造物にとって低水セメント比(または単位水量)でコンクリートの施工を行い密実な硬化体を得ることは、強度及び耐久性の観点から極めて重要である。しかし、コンクリートは作業性の面から一定限度以上の流動性が要求されるため、むやみに水セメント比を低減することはできない。特に近年では、建築構造物の施工方法としてポンプ工法が一般的に使用されるようになったこともあって、流動性に対する要求はより厳しいものとなっている。」(第2頁左上欄第7〜16行)
(d)「コンクリートの物性は流動性ばかりでなく、強度発現や耐久性も重要な物性因子である。このため、セメントの構造は、セメントの強度面での品質管理に用いられるJISモルタル強さの増大と、製造効率のアップとを主眼に置いて、所定の粉末度及び粒子組成に調製されているのが実情であり、粉末度及び粒子組成は主としてブレーン比表面積とN値等で管理され、ブレーン比表面積は3000〜4500cm2/g、N値は1.2〜1.4程度の範囲に調製されている。ここでN値はセメントの粒度分布をRosin-Rammler式で近似したときに求められる定数で、粒度分布の広さを表わす。」(第2頁右上欄第4〜16行)

3-3-3.上記刊行物3には、下記の事項が記載されている。

(a)「水硬性セメントの必須粒群が次の粒度範囲にあるALC製造用セメント:(イ)1μm未満・・・0〜30容量%、(ロ)1μm以上〜5μm未満・・・20〜90容量%、(ハ)5μm以上〜10μm未満・・・10〜40容量%、(ニ)10μm以上・・・0〜20容量%、ただし、前記容量%の和は100容量%とする。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「[セメントの製造法]まず、市販されているJIS・R5210の早強ポルトランドセメント(ブランク)を・・・ジェットミル・・・に2回(実験例1)及び3回(実験例2)通過させて微粉砕した。・・・セメントの比表面積を・・・粉末度試験法により測定したら・・・実験例1のセメントは6500cm2/g、実験例2のセメントは11000cm2/gであった。」(第2頁左下欄第16行〜同頁右下欄第9行)
(c)「本発明を例えば次の態様に変更して実施することができる。(1)粒度分布の相異なる2種のセメントを混合して本発明の粒度分布を有するセメント混合物としてALCの製造に使用することができる。・・・(2)前記2種のセメントとしては同種の物を使用しても良く・・・特にセメントの鉱物組成であるC3Sの含有量の多いセメント、すなわち、前記分有量が60wt%以上のものが好ましい。」(第4頁左下欄下から2行〜同頁右下欄第13行)

3-4.当審における判断

3-4-1.特許法第29条第2項について

3-4-1-1.本件発明1について

上記刊行物3には、記載(a)にALC用であることが記載されており、記載(b)にポルトランドセメントであることが記載されており、記載(c)にC3Sの含有量が60wt%以上であることが記載されていることからして、刊行物3の記載を本件発明1に沿って整理すると、「改良ポルトランドセメントセメントを得るALC用改良ポルトランドセメントセメントの製造方法であって、C3Sの含有量が60wt%以上であるALC用改良ポルトランドセメントセメントの製造方法」(以下、「刊行物3発明」という。)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と刊行物3発明とを対比すると、刊行物3発明の「C3S」は本件発明1の「3CaO・SiO2」に相当し、両者の組成範囲は60重量%〜70重量%の範囲で重複しているので、両者は、
「改良ポルトランドセメントセメントを得るALC用改良ポルトランドセメントセメントの製造方法であって、3CaO・SiO2の含有量が60重量%〜70重量%であるALC用改良ポルトランドセメントセメントの製造方法」
である点で一致するが、

本件発明1では、振動式粉砕機を使用して改良ポルトランドセメントを得るのに対して、刊行物3発明では、ジェットミルを使用して改良ポルトランドセメントを得る点(相違点1)
本件発明1では、上記鉱物組成のもののセメントのn値を1.100以上に調製するのに対して、刊行物3発明では、この点について明示的な記載がない点(相違点2)
で相違している。

以下、相違点について検討する。

(相違点1について)

刊行物1にはボールミルを使用して改良ポルトランドセメントセメントを得ることが記載されているが、振動式粉砕機を使用して改良ポルトランドセメントセメントを得ることについてはなにも記載されておらずも示唆もされていない。
刊行物2には「セメント製造の粉砕工程」という記載があるのみで、振動式粉砕機を使用して改良ポルトランドセメントセメントを得ることについてはなにも記載されておらずも示唆もされていない。
してみると、刊行物1ないし3を組み合わせても、上記相違点1の構成は当業者に容易に想到し得るものであるとすることはできない。

そして、本件発明1は上記の相違点1の構成を採用することにより、「セメントの粒度がセメントのn値が1.100以上の改良ポルトランドセメントを容易に製造できる」という明細書記載の効果を奏するものである。

したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

3-4-1-5.本件発明2及び3について

本件発明2は、本件発明1において、セメントのn値の上限を規定し、かつ、ブレーン比表面積の範囲を規定したものであり、本件発明1の全ての特徴を備えているものであるから、本件発明1に係る特許を取り消すことができない以上、本件発明2に係る特許も同様の理由により、取り消すことはできない。
また、本件発明3は、本件発明2において、セメントの分級除去の操作を排除することを規定したものであるが、本件発明2に係る特許を取り消すことができない以上、本件発明3に係る特許も同様の理由により、取り消すことはできない。

3-4-2.36条4項について

訂正前の請求項4に係る明細書の記載不備については、上記訂正により、訂正後の請求項1ないし3に係る明細書の記載不備ついての理由となるので、この点について検討する。
衝撃式粉砕機は、特許権者が指摘するように、その意見書に添付した参考文献である「粉体工学便覧:粉体工学会編、日刊工業新聞社発行、昭和61年2月28日 初版1刷発行」の510頁〜511頁に円振動ミル、旋動振動ミルの2つのタイプのものが具体的に記載されて公知のものである。
したがって、当業者であれば、本件明細書中の「振動式粉砕機をもちいた」という記載をみれば、その技術内容を容易に理解できるものであるから、その内容が不明であるとは言えないので、申立人の主張は採用できない。

4.まとめ

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1ないし3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ALC用改良ポルトランドセメントの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】振動式粉砕機を使用して改良ポルトランドセメントを得るALC用改良ポルトランドセメントの製造方法であって、
3CaO・SiO2含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントであり、セメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上であるALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。
【請求項2】請求項1記載の改良ポルトランドセメントにおいて、
セメントの粒度調整によるセメントのn値が1.100以上かつ1.500以下であり、かつブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gであるALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。
【請求項3】請求項2記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法において、
分級機を使用してセメントの一部を分級除去することがないALC用改良ポルトランドセメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、セメントの粒度を調整してセメントのn値を増加させることにより、初期流動性を高め、かつその硬化を早めたALC用改良ポルトランドセメントの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のポルトランドセメントは、通常、ボールミルや竪ミルを使用して焼成クリンカーと石膏を非常に多様な粒度分布を有する微粉末に粉砕することによって製造される。よって、全ての市販ポルトランドセメントは、その粒度が広い範囲にわたって分布しており、具体的には、サブミクロンから約100ミクロンに連続的な粒度分布を有しており、セメントのn値は低い値となり、1.100未満である。
【0003】
このセメントのn値は、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名:マイクロトラック)により測定した各ふるい残分(体積%)測定値の中で、ふるい残分が10体積%以上〜90体積%以下の範囲に含まれる測定期間を、Rosin-Rammler式によって補間して得られる粒度分布から算出されるものとする。
【0004】
ところで、一般にALC(軽量気泡コンクリート)を製造するには、まずケイ石、ケイ砂などのケイ酸質原料粉末と生石灰などの石灰質原料粉末とポルトランドセメントとからなる配合物に水を加えて混合し、次にこれにアルミニウム粉末のような発泡剤を添加し調製してスラリーを作製し、次いでこのスラリーを型枠に注入して発泡させ、さらに所定時間経過し可塑性状態となったときにピアノ線で所望寸法に切断し、その後これをオートクレーブに入れて高温高圧で水蒸気養生して製品を得るといった方法が採用されている。
【0005】
このような製造方法において好ましい条件としては、ALC製造用の配合物から得られるスラリーが型枠注入後硬化するまでは低い粘性を保ち、かつ、これがより早く切断可能な硬度に達するとともにその硬度がなるべく長く維持されることである。
なぜなら、スラリーが高粘性になると発泡が乱れ、気泡の大きさが不均一になるとともに、その分布も片寄った状態となってしまうからである。
【0006】
一方、切断可能な硬度に達するまでの時間が長くなると、発泡工程から切断工程までの間が延びて生産性が悪くなり、また切断可能時間が短くなると、切断作業可能な時間が限られてしまい、作業の自由度がかえって低下するからである。
そして、前述した条件を満たすため、例えば粘度を低下させるためには水比を大きくしたり、早く硬化させるためにはいわゆる早強セメントを使用するといったことが考えられる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のポルトランドセメントは、セメントのn値が1.100未満であり、広い範囲にわたって連続的な粒度分布を有し、これを用いるALCの製造方法では、ALC用セメントスラリーの初期粘性が高く、このセメントスラリーの粘度を低下させれば硬化時間が長くなり、早く硬化させれば切断可能な硬度を持続する時間が短くなる傾向があることから、粘度を低下させるため水比を大きくしても、硬化に長時間を要してしまい生産性が悪くなってしまう。また、単に早強性セメントを使用しても、硬化速度が速すぎ、切断可能な硬度を維持する時間も短くなって切断可能時間が短くなり、作業性が低下してしまう。
また、セメントのn値が低い従来のポルトランドセメントを分級することによって、セメントのn値を高くすることは可能であるが、▲1▼セメントの製造工程が煩雑になり、セメントの製造設備が複雑になる、▲2▼分級除去したセメントが無駄になり、セメントの製造効率が低下するという問題が生じる。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、セメントのn値が1.100以上という高い値を持つALC用改良ポルトランドセメントの製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、その研究結果より、3CaO・SiO2含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントであり、セメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上かつ1.500以下の範囲内であり、かつブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gである改良ポルトランドセメントをALCの製造に用いると、セメントスラリーの初期粘度が低く、かつ早期に十分な硬度に達するとともに、その硬度が長く維持されるALC用セメントスラリーを得ることができることを発見して、本発明に到った。
【0010】
すなわち、本発明の請求項1記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、振動式粉砕機を使用して改良ポルトランドセメントを得るALC用改良ポルトランドセメントの製造方法であって、3CaO・SiO2含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントであり、セメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上であることを前記課題の解決手段とした。
請求項2記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、セメントの粒度調整によるセメントのn値が1.100以上かつ1.500以下であり、かつブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gであることを前記課題の解決手段とした。
請求項3記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、請求項2記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法において、分級機を使用してセメントの一部を除去することがないことを前記課題の解決手段とした。
【0011】
【作用】
請求項1記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法によれば、セメントのn値が1.100以上であることから、該改良ポルトランドセメントを含有してなるスラリーの初期における粘度が低いものとなるとともに、中期における硬化速度が早くなり、かつ短期強度発現性および長期強度発現性のいずれもが大である3CaO・SiO2の含有量が45重量%以上であることから、早期に十分な硬度に達するとともに、その硬度が長く維持される。
なお、3CaO・SiO2の含有量については、より多い方が強度発現性が大となり好ましいものの、70重量%程度がセメント製造上の製造限界であり、それ以上含有させるのは現状では極めて困難である。
【0012】
請求項2記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法によれば、セメントの粒度調整によりセメントのn値が1.100以上かつ1.500以下となるので、該改良ポルトランドセメントから得られるスラリーの初期における粘度が低いものとなり、かつ中期における硬化速度が早くなる。また、ブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gであるので、該改良ポルトランドセメントから得られるスラリーの、発泡後所定時間経過した後の硬度が十分に高くなるとともに、その硬度が十分な時間維持される。
【0013】
請求項3記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法によれば、分級機を使用してセメントの一部を分級除去することがないので、無駄になるセメントもなく、高い製造効率で、セメントのn値が1.100から1.500という高い値を持つALC用改良ポルトランドセメントを得ることができる。
【0014】
【実施例】
振動式粉砕機を使用して、ポルトランドセメントクリンカーに石膏を加えて粉砕し、3CaO・SiO2含有量が61重量%、セメントのSO3量が3重量%、ブレーン比表面積が3100cm2/gの改良ポルトランドセメントを得た。また、ボールミルおよび実機のボールミルを使用して、同様に比較用普通ポルトランドセメントおよび実機製造普通ポルトランドセメントを得た。
【0015】
これら3種のポルトランドセメントのセメントのn値を表1に示す。また、これら3種のポルトランドセメントを用い、同一の配合、水比でセメントペーストを調整し、これらセメントペーストの環境温度50℃における反応時間とセメントの積算発熱量との関係を調べ、得られた結果を図1に示す。
なお、ボールミルを使用して粉砕した比較用普通ポルトランドセメントと実機のボールミルを使用して粉砕した実機製造普通ポルトランドセメントから得られたセメントペースト2種は、ともにほぼ同一の反応状態を示したことから、図1においては一本の線にまとめて記した。
【0016】
【表1】

【0017】
表1より、本実施例による振動式粉砕機を使用して得られる改良ポルトランドセメントは、セメントのn値が高く1.158であり、セメントのn値が1.100〜1.500の範囲内である。これに対し、ボールミルを使用して得られた比較用普通ポルトランドセメント、および実機のボールミルを使用して粉砕した実機製造普通ポルトランドセメントは、セメントのn値が低く0.970および1.033であり、1.100未満である。
【0018】
図1より、本実施例である改良ポルトランドセメントから得られるセメントペーストはその初期における積算発熱量が低いことから、これから得られるスラリーはその初期における反応率が低いと推定され、低粘度であり、したがってその流動性がよいことが推測される。また、普通ポルトランドセメントに比べると、十分に中期における硬化速度が早く、したがってピアノ線で切断可能な半可塑性の硬度に達する時間が、普通ポルトランドセメントに比べ十分に早くなることが推測される。
【0019】
【発明の効果】
以上説明したように本発明における請求項1記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、3CaO・SiO2含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントを用いたので、早期に十分な硬度に達するとともに、その硬度が長く維持され、したがってALC製造用のセメントとして極めて好適となる。また、セメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上である改良ポルトランドセメントを用いたので、得られたスラリーの初期の粘度が低く、しかもこのスラリーの、発泡後所定時間経過した後の硬度が十分に高くなるとともに、その硬度が十分維持され、よってスラリーを型枠内に注入する際には水と原料との分離が生じることが防止され、かつ可塑性状態となりピアノ線での切断が可能となるまでの時間が短縮されるとともに、切断が可能な時間が長くなり、したがって生産性、作業性に優れたものとなる。
また、振動式粉砕機を使用するから、簡素な製造設備を使用して、セメントのn値が1.100から1.500という高い値を持つALC用改良ポルトランドセメントを得ることができる。
請求項2記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、セメントの粒度調整によりセメントのn値が1.100以上かつ1.500以下の範囲内であり、かつブレーン比表面積が3000cm2/g〜10000cm2/gであるので、セメントペーストの軟度水量の低減および混和剤の効果の向上を図ることができ、あるいは水和発熱速度を著しく低下させることができる。
【0020】
請求項3記載のALC用改良ポルトランドセメントの製造方法は、請求項2記載の改良ポルトランドセメントの製造方法において、分級機を使用してセメントの一部を分級除去するものでないから、分級除去することによって無駄になるセメントも無く、高い製造効率で、セメントのn値が1.100〜1.500という高い値を持つALC用改良ポルトランドセメントを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
反応時間とセメント積算発熱量との関係を示すグラフである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-11-14 
出願番号 特願平5-350348
審決分類 P 1 651・ 531- YA (C04B)
P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 武重 竜男  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 野田 直人
松本 貢
登録日 2002-06-07 
登録番号 特許第3315229号(P3315229)
権利者 住友大阪セメント株式会社 住友金属鉱山シポレックス株式会社
発明の名称 ALC用改良ポルトランドセメントの製造方法  
代理人 青山 正和  
代理人 鈴木 三義  
代理人 渡邊 隆  
代理人 鈴木 三義  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 西 和哉  
代理人 西 和哉  
代理人 青山 正和  
代理人 高橋 詔男  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 村山 靖彦  

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