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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C22C |
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管理番号 | 1130825 |
異議申立番号 | 異議2003-73296 |
総通号数 | 75 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-10-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-24 |
確定日 | 2005-11-19 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3448259号「プレス性および磁気特性に優れるFe-Ni系シャドウマスク用材料」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3448259号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3448259号の請求項1乃至3に係る発明についての出願は、平成12年4月25日に特許出願され、平成15年7月4日にその特許権の設定登録がなされたものである。 これに対して、日立金属株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年8月9日付けで特許意見書と訂正請求書が提出されたものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正の内容 平成16年8月9日付け訂正請求の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至eのとおりに訂正するものである。 (1)訂正事項a:請求項1と請求項3を削除し、請求項2を全文記載形式とすると共に「そして平均結晶粒径が0.8〜2.3mmであること」を追加して次の内容の請求項1とする。 「【請求項1】Niを34〜38wt%含み、C:0.015wt%以下、Si:0.2wt%以下、Mn:0.1〜0.5wt%、P:0.01wt%以下、S:0.005wt%以下、Cr:1.Owt%以下、Al:0.02wt%以下、Ca:0.0005wt%以下、Mg:0.0005wt%以下、O:0.0060wt%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、(Al+10Ca)/Oの比が5〜40の範囲に、また(Al+10Ca+20Mg)/Oの比が10〜60の範囲にあり、粒界にある0.1μm以上のMnSの割合が、10個/mm2以下であり、そして平均結晶粒径が0.8〜2.3mmであることを特徴とするプレス性および磁気特性に優れるシャドウマスク用材料。」 (2)訂正事項b:特許明細書の段落【0010】の「なお、本発明においては、粒界にある0.1μm以上のMnSの割合が、10個/mm2以下であるシャドウマスク用材料が好ましい。」を「とくに、本発明においては、粒界にある0.1μm以上のMnSの割合が、10個/mm2以下であり、平均結晶粒径が0.8〜2.3mmであるシャドウマスク用材料が有効である。」と訂正する。 (3)訂正事項c:特許明細書の段落【0011】の「また、本発明は、請求項1または2に記述したシャドウマスク用合金を製造するに当たり、」を「なお、本発明の上記シャドウマスク用合金は、」と訂正すると共に、「・・・行うことを特徴とするプレス性と磁気特性に優れるシャドウマスク用材料の製造方法を提案する。」を「行うことにより、プレス性と磁気特性に優れるシャドウマスク用材料を製造方法することができる。」と訂正する。 (4)訂正事項d:特許明細書の段落【0012】の「粒成長を著しく増大させる方法を提案する。」を「粒成長を著しく増大させて、平均結晶粒径が0.8〜2.3mmのシャドウマスク材料としたものを提案する。」と訂正する。 (5)訂正事項e:特許明細書の段落【0030】の表1の比較例14と比較例15の欄を削除する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、請求項1と請求項3を削除し、請求項2を全文記載形式とすると共に「そして平均結晶粒径が0.8〜2.3mmであること」を追加して請求項1とするものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。 また、上記訂正事項b乃至dは、特許請求の範囲の減縮に伴って特許明細書の記載をその請求項1の内容と整合させるためのものであり、訂正事項eは、請求項3の削除に伴って比較例14と15が不要となったためにこれらを削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。 そして、上記訂正事項a乃至eは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、いずれも新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 2-3.まとめ したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件訂正発明1 本件請求項1に係る発明は、上記訂正を認容することができるから、訂正後の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1」という)。 「【請求項1】Niを34〜38wt%含み、C:0.015wt%以下、Si:0.2wt%以下、Mn:0.1〜0.5wt%、P:0.01wt%以下、S:0.005wt%以下、Cr:1.Owt%以下、Al:0.02wt%以下、Ca:0.0005wt%以下、Mg:0.0005wt%以下、O:0.0060wt%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、(Al+10Ca)/Oの比が5〜40の範囲に、また(Al+10Ca+20Mg)/Oの比が10〜60の範囲にあり、粒界にある0.1μm以上のMnSの割合が、10個/mm2以下であり、そして平均結晶粒径が0.8〜2.3mmであることを特徴とするプレス性および磁気特性に優れるシャドウマスク用材料。」 4.特許異議申立てについて 4-1.特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証と参考資料1乃至3を提出して、次のとおり主張している。 (1)訂正前の請求項1乃至3に係る発明は、いずれも甲第1号証の先願明細書に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。 (2)本件特許明細書は、次の(イ)乃至(ニ)の点で記載不備であるから、本件特許は、特許法第36条第4項乃至第6項の規定に違反してなされたものである。 (イ)本件請求項1乃至3に係る発明は、P、S及びCr含有量の調整が必須なものであるが、表1には、P、S及びCr含有量が記載されておらず、それらの及ぼす作用効果も全く認識できない。特に、請求項2に係る発明は、MnSの割合調整を要件とするものであるから、S含有量の不明はその実施を不可能とする要因である。 してみると、P、S及びCr含有量の調整が必須の本件請求項1乃至3に係る発明は、それを当業者が容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えない。 (ロ)本件請求項3に係る発明によれば、その実施のための熱間圧延以降の製造方法は「常法にしたがえさえすればよい」とある。しかしながら、本発明の目的とするプレス焼鈍後の結晶粒の成長は、熱間圧延以降の工程、特に冷間圧延と焼鈍の工程条件に依るところが大きく、管理が必要であることは当業者の当然に知る重要事項である(参考資料2、3)。 してみると、本件請求項3に係る発明は、それを当業者が容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えない。 (ハ)本件請求項2に係る発明は、粒界にあるMnSの割合(大きさと数)を調整するものであるが、そのMnSの割合すらも熱間圧延以降の製造方法に依存するのであれば、その割合達成のための記載が当業者が容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えない。 (ニ)本件請求項1に係る発明は、請求項2に記載のMnSの割合調整が必要ない発明であるが、発明の詳細な説明には請求項1の成分組成を満たすものの請求項2のMnSの割合を満たさない実施例が記載されていないから、本件請求項1に係る発明の実施例が一つも示されていないことになる。 してみると、本件請求項1に係る発明の作用効果を認識することが不可能であるから、本件特許明細書には、この発明を当業者が容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えないし、また請求項1には、この発明が明確に記載されているとも云えない。 4-2.証拠とその記載事項 (1)甲第1号証:特願平11-10580号の願書に最初に添付した明細書(特開2000-212702号) (a)「【請求項1】重量%で、Ni:35.0〜37.0%、Mn:0.10%を超え0.15%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなるシャドウマスク材であって、不純物としてS:0.0001〜0.0030%に規制したことを特徴とするエッチング特性および低熱膨張特性に優れたシャドウマスク材。 【請求項2】Feの一部をB、Ca、Mgの1種または2種以上と置換したシャドウマスク材であり、そのB、Ca、Mgの1種または2種以上の総和が、重量%で0.0050%以下であることを特徴とする請求項1に記載のエッチング特性および低熱膨張特性に優れたシャドウマスク材。」(特許請求の範囲) (b)「本発明者らは、本発明の知見する上述の問題点を解決するために、広範囲に亘り種々元素が熱膨張特性およびエッチング穿孔性にあたえる影響を調査した。その結果、Mn含有量を0.10%を超え0.15%以下、S含有量を0.0030%以下という特定の範囲に調整したFe-36%Ni系合金シャドウマスク材であれば、低熱膨張特性とエッチング穿孔性の両者をバランス良く兼ね備えることを見いだし、0.0001%ものSが残存するような場合に懸念されるエッチング穿孔時の粒界の優先腐食を抑えられることを見いだした。 すなわち、本発明の第1発明は、重量%で、Ni:35.0〜37.0%、Mn:0.10%を超え0.15%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなるシャドウマスク材であって、不純物としてS:0.0001〜0.0030%に規制したシャドウマスク材である。 また、上記の発明に加えて、B、Ca、Mg元素を含有せしめることが、更なるSの粒界偏析の抑制に有効であり、例えば0.0010%以上といったSが含有されている場合でも、上記と同様の効果が得られることも見いだした。」(段落【0006】乃至【0008】) (c)「なお、本発明による効果を得るに当たっては、その製造工程に係る均質化加熱処理の適用が有効である。この場合の条件は、温度が1180℃より低温ではMn他、B、Ca、Mg等の拡散効果、しいてはSの固定および粒界偏析抑制効果が小さくなる一方、温度が1320℃を超えると表面および内部酸化が著しくなり歩留が低下する。したがって、均質化加熱処理の温度範囲は、1180〜1320℃とする。望ましくは、1200〜1300℃である。 【実施例】 Fe-Ni合金を真空誘導溶解炉で溶解した後鋳造して、表1に記載の成分を有するインゴットを作製した。このインゴットに1180〜1320℃の均質化加熱処理を施した後、熱間鍛造と熱間圧延を行ない、厚さ4mmの板材とした。そして、脱スケールした後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して厚さ0.13mmの薄板とした。」(段落【0017】及び【0018】) (2)参考資料1:特開平1-252725号公報 (3)参考資料2:特開平7-150299号公報 (4)参考資料3:特開平6-264140号公報 4-3.当審の判断 (1)上記(1)の主張について 先願明細書である甲第1号証の上記(a)には、「重量%で、Ni:35.0〜37.0%、Mn:0.10%を超え0.15%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなるシャドウマスク材であって、不純物としてS:0.0001〜0.0030%に規制したことを特徴とするエッチング特性および低熱膨張特性に優れたシャドウマスク材。」と「Feの一部をB、Ca、Mgの1種または2種以上と置換したシャドウマスク材であり、そのB、Ca、Mgの1種または2種以上の総和が、重量%で0.0050%以下であるエッチング特性および低熱膨張特性に優れたシャドウマスク材。」が記載されているが、これら「シャドウマスク材」は、本件訂正発明1の「(Al+10Ca)/Oの比が5〜40の範囲に、また(Al+10Ca+20Mg)/Oの比が10〜60の範囲にあり、粒界にある0.1μm以上のMnSの割合が、10個/mm2以下であり、そして平均結晶粒径が0.8〜2.3mmである」という特定事項を要件とするものではないし、甲第1号証には、これら特定事項を有する具体的な「シャドウマスク材」の例も見当たらない。 したがって、特許異議申立人の上記(1)の主張は、採用することができない。 (2)上記(2)の主張について 上記(ロ)と(ニ)の主張は、請求項1と3に関するものであるが、これら請求項は、上記訂正により削除されたから、上記(ロ)と(ニ)の主張は、上記訂正によって解消されたと云える。 上記(イ)と(ハ)の主張は、P、S及びCr含有量の調整やMnSの割合の調整に関するものであるが、P、S及びCrについては、特許明細書の段落【0017】乃至【0019】の記載に徴すれば、積極的な有効成分というよりその上限規制によって不利な作用を抑制する程度の成分であるから、実施例中にこれら成分の含有量が記載されていなくてもその明細書の記載に基づいて当業者が容易に発明を実施することができると云うべきである。 またMnSの割合調整についても、特許明細書の段落【0020】乃至【0024】に記載され、これら記載によれば、「MnS」の割合調整は、Al、Ca、Mg及びOの含有量にも影響されるものであり、「S」の総量を単に規制するだけの問題ではないと云える。むしろ、本件訂正発明1において重要な点は、特許明細書の段落【0012】の「0.1μm以上のMnSの分布を単位粒界面積あたり10個/mm2以下に規定することにより、結晶粒のピンニングを阻止し、粒成長を著しく増大させる方法を提案する。」という記載から明らかなように、その「S」の総量規制ではなく、「MnS」の大きさと数の規制であるから、このデータが表1に記載されている以上、MnSの割合の調整も当業者が容易に発明を実施することができると云うべきである。 したがって、特許異議申立人の上記(2)の主張も、採用することができない。 5.むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明1についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 プレス性および磁気特性に優れるFe-Ni系シャドウマスク用材料 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】Niを34〜38wt%含み、C:0.015wt%以下、Si:0.2wt%以下、Mn:0.1〜0.5wt%、P:0.01wt%以下、S:0.005wt%以下、Cr:1.0wt%以下、Al:0.02wt%以下、Ca:0.0005wt%以下、Mg:0.0005wt%以下、O:0.0060wt%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、(Al+10Ca)/0の比が5〜40の範囲に、また(Al+10Ca+20Mg)/0の比が10〜60の範囲にあり、粒界にある0.1μm以上のMnSの割合が、10個/mm2以下であり、そして平均結晶粒径が0.8〜2.3mmであることを特徴とするプレス性および磁気特性に優れるシャドウマスク用材料。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、カラーテレビの受像管などの素材であるFe-Ni系シャドウマスク用材料に関し、とくにプレス成形がしやすく、しかも優れた磁気特性を示すFe-Ni系シャドウマスク用材料に関連する提案である。 【0002】 【従来の技術】 シャドウマスク用材料としては従来、低炭素アルミキルド鋼板が用いられていたが、近年、低熱膨張特性を有するFe-Ni系アンバー合金の使用が増えつつある。最近では、ディスプレーの精細化、大型テレビのフラット化に対応するためにも、この合金への依存が高まっている。 【0003】 こうしたFe-Ni系アンバー合金の特徴は、アルミキルド鋼板などに比較すると、耐力が高いためにプレス成形時に特別の配慮が必要であり、また二元系合金であることからNi偏析が不可避に起こり、そのためにシャドウマスクエッチング時にすじむらと呼ばれる不具合が生じることにあり、このことはよく知られている。 【0004】 また、受像管に組み込まれるシャドウマスク用材料に求められる特性としては色むらが出ることなく、また鮮明な画像が得られるような性質を有することである。そのためには、この材料のエッチング時に不具合が発生しないように合金の清浄度を高めること、また、前記すじむらが生じないようにすること、さらには、材料表面に黒化処理による緻密な酸化膜を均一に形成すること等を満足することが不可欠である。さらには、Fe-Ni合金についてはプレス性を改善することも重要である。そのためには、温間プレスによる低耐力でのプレスや、Cr添加による低耐力化を図ることも必要である。 【0005】 その他、カラー受像管にとって必要な特性としては、磁気シールド性がある。この特性は、カソード(電子銃)から放射された電子線が、外部磁場の影響を受けて変化するのを防ぐために必要である。とくに地球磁場や電磁波の影響によりテレビ画像が歪んだり、色ずれ、色むらが生じないようにすることにある。こうした磁気シールド性は、様々な方法により付与することとしているが、一般には、金属板による電界シールドが中心であり、受像管の後部を覆うような形式のものが採用されている。一方、受像管の前面については、シャドウマスクと蛍光体を塗ったガラスパネルがあり、この場合、シャドウマスクにシールド性が期待される。ところが、このシャドウマスクに関してシールド性を向上する提案は、Alキルド鋼についてはあるが(特開昭61-91332)、Fe-Ni系合金では現在まで知られていない。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 そこで発明者らは、上述した従来技術が抱えている問題点に対し、プレス成形性と磁気シールド性の観点からその両方の特性に優れるシャドウマスク材の開発を目指して研究を行った。こうした研究の中で、プレス成形性の改善のためには低耐力化を図ることが重要であり、そのためのアプローチの方法として、プレス条件の制御に頼らないで実現しようとすれば、それは結晶粒を粗粒化することが最有効であることがわかった。また、Ni-Fe系合金での透磁率が、保磁力等の軟磁気特性を向上させる方法としては、やはり結晶粒の粗粒化が有効であることも種々の実験により確認できた。 【0007】 つまり、本発明の解決しようとする課題は、上述した実験事実並びに新規知見にもとづき、プレス焼鈍後のシャドウマスク材料の結晶粒を如何に大きく成長させるかにある。 【0008】 即ち、本発明の目的は、プレス成形性と磁気特性に優れるシャドウマスク用材料の提供と、このプレス条件の制御に頼ることなく、かかる特性を有するシャドウマスク用材料を確実に製造する方法を提案するところにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】 上述した課題を克服して上記目的を実現するには、Niを34〜38wt%含み、C:0.015wt%以下、Si:0.2wt%以下、Mn:0.1〜0.5wt%、P:0.01wt%以下、S:0.005wt%以下、Cr:1.0wt%以下、Al:0.02wt%以下、Ca:0.0005wt%以下、Mg:0.0005wt%以下、O:0.0060wt%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、(Al+10Ca)/0の比が5〜40の範囲に、また(Al+10Ca+20Mg)/0の比が10〜60の範囲にあることを特徴とするプレス性および磁気特性に優れるシャドウマスク用材料が有効である。 【0010】 とくに、本発明においては、粒界にある0.1μm以上のMnSの割合が、10個/mm2以下であり、平均結晶粒径が0.8〜2.3mmであるシャドウマスク用材料が有効である。 【0011】 なお、本発明の上記シャドウマスク用合金は、Niを34〜38wt%含み、C:0.015wt%以下、Si:0.2wt%以下、Mn:0.1〜0.5wt%、P:0.01wt%以下、S:0.005wt%以下、Cr:1.0wt%以下、Al:0.02wt%以下、Ca:0.0005wt%以下、Mg:0.0005wt%以下、O:0.0060wt%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、(Al+10Ca)/0の比が5〜40の範囲に、また(Al+10Ca+20Mg)/0の比が10〜60の範囲にあるように調整し、次いで得られたスラブを1250℃〜1370℃の範囲内の温度にて10時間以上の均質化処理を行い、その後、常法にしたがって熱間圧延と、冷間圧延、そして、焼鈍を1回ないし複数回行うことにより、プレス性と磁気特性に優れるシャドウマスク用材料を製造方法することができる。 【0012】 【発明の実施の形態】 本発明は、Niを34〜38wt%含み、C:0.015wt%以下、Si:0.2wt%以下、Mn:0.1〜0.5wt%、P:0.01wt%以下、S:0.005wt%以下、Cr:1.0wt%以下、Al:0.02wt%以下、Ca:0.0005wt%以下、Mg:0.0005wt%以下、O:0.0060wt%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、出鋼時のいわゆるレードル値において、(Al+10Ca)/0の比が5〜40の範囲に、また(Al+10Ca+20Mg)/0の比が10〜60の範囲にあることを特徴とするプレス性および磁気特性に優れるシャドウマスク用合金を、精錬時において脱酸成分をコントロールし、(Al+10Ca)/0の比が5〜40の範囲にまた(Al+10Ca+20Mg)/0の比が10〜60の範囲になるように調整し、そして、製品については、以下に詳細に述べる方法で観察した0.1μm以上のMnSの分布を単位粒界面積あたり10個/mm2以下に規定することにより、結晶粒のピンニングを阻止し、粒成長を著しく増大させて、平均結晶粒径が0.8〜2.3mmのシャドウマスク材料としたものを提案する。また、このような組織制御による方法に加え、さらに、Ni偏析の低減と組織制御とを組み合わせることにより、プレス成形性および磁気特性をともに大幅に改善することが可能になる。 【0013】 本発明合金の成分組成が上述した範囲に限定される理由を以下に説明する。さて、本発明において、合金の成分組成のうち、Niの含有量の下限を34wt%とした理由は、34wt%未満ではMs点が上昇し、マルテンサイトが生成しやすくなるからである。一方、その上限は38wt%程度である。それは、38wt%を超えると熱膨張係数が増大し、アンバー合金としての特性が失われるためである。 【0014】 C:Cは、0.015%を超えるとカーバイドの生成が起こり、エッチング性を阻害する。また同時に、軟化焼鈍後の耐力が十分に下がらず、Cは0.015%以下のできるだけ少ない方が望ましい。 【0015】 Si:Siは、脱酸成分の一つとして添加されるが0.2%を超えた場合にはエッチング穿孔性を阻害するとともに、脱酸材として同時に添加するAlの効果を阻害するため、その限定範囲を0.2%以下とする。 【0016】 Mn:Mnは、脱酸成分として添加されるが0.5%を超えて含有すると熱膨張係数が大きくなりまたキュリー点を高温側に変位させるほか過剰なMnSを生成して本発明で意図する粒成長を抑制するため0.5%以下とする。 【0017】 P:Pは、過剰に含有するとエッチングムラの原因となり穿孔不良をもたらすことから0.01%以下に限定する。 【0018】 S:Sは、その量が0.005%を超えると硫化物系介在物を生じ易く、それがCaSやMgSの場合穿孔不良をもたらしエッチング性を悪化させる。また、MnSを生成した場合、粒成長を抑制するためSは0.005%以下とする。 【0019】 Cr:Crは、1.0%を超えて添加すると黒化処理の際優先酸化が生じ良好な黒化皮膜が生成されにくくなるため1.0%以下に制限する。 【0020】 Al:Alは、本発明において重要な役割を担う脱酸成分であり、添加量が少ない場合には脱酸が不十分となって非金属介在物の量が増加するのに加え、Mn、Siの影響により硫化物の形態がMnSとなりやすくなるため粒成長が抑制される。一方、0.02%より多くなると過剰のAlにより介在物形態が大型化しエッチング性を阻害する。このことからAlは0.02%以下の範囲に限定すると共に、MgおよびCaの成分値及び合計酸素(トータル0)との関連から、以下の式を満足するように調整することが望ましい。(Al+10Ca)/0の比を5〜40の範囲内とし、好ましくは10〜20、また(Al+10Ca+20Mg)/0の比を10〜60、好ましくは15〜30とする。 【0021】 Ca:Caは、脱酸中にスラグとの平衡反応で溶鋼中に残留するものであり、本来不純物成分として少ないほうが望ましいが、Alを主体とする脱酸反応においてはSをCaSとして固定することにより無害化する作用があり、MnSのように粒成長に対して影響することもないため、数ppm程度の極微量残留することに関してはむしろ有効である。ただし、多すぎる場合、当然粗大介在物の発生の要因になり、エッチング性に対して悪影響を及ぼすため0.0005%以下に限定した。 【0022】 Mg:MgもCaと同様、脱酸中にスラグとの平衡反応で生じ不可避的に残留するものであり、Sの固定の観点から数ppm程度の極微量残留することに関しては有効である。このためこれが多すぎると、エッチング時に穿孔不良となりスロット目詰まり等の不具合を生じ0.0005%以下に限定した。 【0023】 O:Oは脱酸により低減されて最終的に鋼中に残留するものであるが、鋼中に固溶して残留するOと非金属介在物等の酸化物として残留するOとに分かれている。Oの量が多くなると必然的に非金属介在物の量が増えエッチング性に悪影響を及ぼすことが知られているが、同時にSの存在形態にも影響してくる。すなわち、脱酸が不十分で残留するOが多い場合、硫化物がMnSとして存在しやすくなり粒成長を阻害する。このことからOは0.0060%以下とする。 【0024】 そこで、本発明では、上記成分組成において、精錬時における脱酸成分をコントロールし、化学成分値として(Al+10Ca)/0の比が5〜40の範囲内に、また(Al+10Ca+20Mg)/0の比が10〜60の範囲になるように調整することが必要である。このような調整を行う理由は、Al、Caの量、または、Al、Ca、Mgの量と酸素との比を上記の範囲に制御することにより、脱酸生成物中の非金属介在物の組成や形態がコントロールでき、ひいては微細なMnSを主体とする硫化物や酸化物の生成を制御できるようにするためである。 【0025】 次に、本発明にかかる材料の製造方法について説明する。まず、上掲の成分組成にかかる出発材料を、普通造塊ののちに分塊圧延するか、または連続鋳造により直接、スラブとし、このスラブを1250℃〜1370℃の範囲で10hr以上の均質化処理を行なう。この均質化処理により、上記スラブは、図1に示すように、Ni偏析の低減が図られ、製品のプレス焼鈍時における粒成長が促進され、ひいては、結晶粒の粗粒化が図られる。その結果として、材料のプレス成形性と磁気特性の改善が可能になる。 【0026】 上記均質化処理の温度は、1250℃未満では均質化の効果が十分でなく、一方、1370℃を超えると、酸化ロスによる歩留まりの低下や加熱脆化割れの危険性が生じるため、1250℃〜1370℃の範囲に限定する。 【0027】 質化処理を施したスラブは、熱間圧延工程を経て冷間圧延と焼鈍を複数回繰り返したのち製品とする。その製品については、さらにエッチングメーカーでエッチング処理によって穿孔し、その後プレス成形のための軟質化焼鈍を行なう。この軟質化焼鈍は、通常900℃〜1100℃程度の温度で行われ、この焼鈍により、プレス成形に必要な低耐力化と伸びの回復が行われる。本発明にかかる合金では、この時の結晶粒の成長が速く、通常のプロセスで製造したものに比べてより低耐力化が図れ、成形性が向上する。また、磁気特性の点では、通常プロセス材に比べると、図2及び図3に示すように、軟磁気特性が向上していることが確認でき、透磁率は5倍、保磁力は1/7と非常に良好である。 【0028】 【実施例】 表1に示す成分組成のFe-Ni系シャドウマスク用材料を50トンVODにて溶解し、得られた連続鋳造スラブを均質化処理を施したものと施していないものについて、それぞれ常法に従い熱間圧延を行ない、引き続き冷間圧延と、焼鈍とを繰り返して、さらに数%の調質圧延を行って製品とした。製品に含有する0.1μm以上のMnSの粒界に存在する個数を測定したのち、この製品をエッチングメーカーでエッチング穿孔を施し、さらにプレス前に軟質化焼鈍を施したものについてのプレス成形性の評価を行なった。また、受像管に組み込まれた状態での磁気シールド性を評価するために、画像面の近傍で平行に流れる線電流からの電磁波成分による電界シールド性とループ電流からの磁界成分の磁界シールド性の双方の評価試験も行なった。 【0029】 その結果、表1に示すように本発明材料では比較例に比べてプレス成形時の型なじみが良好であり、また磁気シールド性については、特に磁界シールド性が優れていることが確認された。 【0030】 【表1】 【0031】 なお、上記のMnSの観察方法は以下に示す方法により行なったものである。すなわち、製品表面を機械研磨し、バフ研磨まで仕上げる。研磨面を非水溶媒(アセチルアセトン10v/v%+テトラメチルアンモニウムクロライド1w/v%+メタノール溶液)中で定電位電解*(SPEED法)を行なった。電解条件は、電解電位100mvで10C(クローン)/cm2にて実施した。観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて1mm2の面積で粒界に存在する0.1μm以上のMnSをカウントすることによって行なった。そして、カウントしたMnSの数を以下の式により計算し単位粒界あたりの個数として求めた。 【0032】 観察されたMnS個数(n) 観察面積(S)/mm2単位面積当たりMnS個数(n/S) 単位体積当たりMnS個数(P) P=(n/S)3/2 粒界面積(Sv)/mm2 Sv=8/3Nv1/3 Nv:単位体積当たりの結晶粒数(G.S.No.から導出) 単位面積当たりMnS個数(Ps) Ps=P/Sv=3/8(n/S)3/2/Nv1/3 【0033】 【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば、プレス成形性と磁気特性に優れたシャドウマスク用合金を容易に製造することが可能である。 【図面の簡単な説明】 【図1】図1は、Ni偏析量は、結晶粒径に及ぼす影響を示す詳細図。 【図2】図2は、結晶粒径と最大透磁率との関係を示すグラフ。 【図3】図3は、結晶粒径と保磁力との関係を示すグラフ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-10-26 |
出願番号 | 特願2000-124014(P2000-124014) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YA
(C22C)
P 1 651・ 121- YA (C22C) P 1 651・ 537- YA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中村 朝幸 |
特許庁審判長 |
沼沢 幸雄 |
特許庁審判官 |
高木 康晴 平塚 義三 |
登録日 | 2003-07-04 |
登録番号 | 特許第3448259号(P3448259) |
権利者 | 日本冶金工業株式会社 |
発明の名称 | プレス性および磁気特性に優れるFe-Ni系シャドウマスク用材料 |
代理人 | 小川 順三 |
代理人 | 中村 盛夫 |
代理人 | 小川 順三 |
代理人 | 中村 盛夫 |