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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C21D
管理番号 1130880
異議申立番号 異議2003-72532  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-14 
確定日 2006-01-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第3397273号「超低鉄損超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3397273号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3397273号の請求項1乃至4に係る発明についての出願は、平成7年6月16日に特許出願され、平成15年2月14日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、その後請求項1〜4に係る発明の特許について、特許異議申立人JFEスチール株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内に特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件請求項1乃至4に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1乃至4」という)。
「【請求項1】重量%で、
C :0.03〜0.15%、
Si:2.5〜4.0%、
Mn:0.02〜0.30%、
Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、
酸可溶性Al:0.015〜0.040%、
N :0.0030〜0.0150%、
Bi:0.0005〜0.02%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材として加熱した後熱延し、熱延板焼鈍後仕上げ冷延、あるいは中間焼鈍を含む複数の冷延、あるいは熱延板焼鈍後中間焼鈍を含む複数の冷延によって製品板厚に仕上げた後に、脱炭焼鈍し、焼鈍分離材を塗布後、仕上焼鈍をする超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法において、仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量を以下に示す範囲とすることを特徴とするB8 ≧1.92Tの超低鉄損超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
雰囲気ガス流量/炉内容積≧0.5Nm3 /(h・m3 )
【請求項2】重量%で、
C :0.03〜0.15%、
Si:2.5〜4.0%、
Mn:0.02〜0.30%、
Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、
酸可溶性Al:0.015〜0.040%、
N :0.0030〜0.0150%、
Sn:0.05〜0.50%、
Bi:0.0005〜0.02%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした請求項1記載の超低鉄損超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】重量%で、
C :0.03〜0.15%、
Si:2.5〜4.0%、
Mn:0.02〜0.30%、
Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、
酸可溶性Al:0.015〜0.040%、
N :0.0030〜0.0150%、
Sn:0.05〜0.50%、
Cu:0.01〜0.10%、
Bi:0.0005〜0.02%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした請求項1記載の超低鉄損超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】重量%で、
C :0.03〜0.15%、
Si:2.5〜4.0%、
Mn:0.02〜0.30%、
Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、
酸可溶性Al:0.015〜0.040%、
N :0.0030〜0.0150%、
SbおよびMo:0.0030〜0.3%、
Bi:0.0005〜0.02%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした請求項1記載の超低鉄損超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。」

3.特許異議申立てについて
(3-1)特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第6号証を提出して、本件発明1乃至4は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと主張している。
(3-2)証拠と主な記載事項
(1)甲第1号証:特開平6-88174号公報
(1a)「【請求項1】重量で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、S :0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N :0.0030〜0.0150%を含有し更に、Bi:0.0005〜0.05%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材。
【請求項2】重量で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、S :0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N :0.0030〜0.0150%、Sn:0.05〜0.50%を含有し更に、Bi:0.0005〜0.05%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材。
【請求項3】重量で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、S :0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N :0.0030〜0.0150%、Sn:0.05〜0.50%、Cu:0.01〜0.10%を含有し更に、Bi:0.0005〜0.05%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材。」(特許請求の範囲)
(1b)「【産業上の利用分野】本発明は、トランス等の鉄心に用いられる{110}〈001〉方位即ちゴス方位を高度に発達させた高磁束密度一方向性電磁鋼板を製造するのに好適な素材に関する。 ここで、素材とは鋼塊、スラブ或いは熱延板を指す。」(段落【0001】)
(1c)「以下本発明の詳細について説明する。
本発明者は・・・、窒化アルミニウムを主インヒビターとする一方向性電磁鋼板用の素材にBiを添加含有せしめることにより現在市販されている高磁束密度一方向性電磁鋼板の磁束密度B8=1.93T程度をはるかに超える1.95T以上、2Tにもおよぶ超高磁束密度一方向性電磁鋼板を製造することに成功した。」(段落【0014】)
(1d)「次に製造プロセス条件について説明する。
上記の如く成分を調整した超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材は通常の如何なる溶解法、造塊法を用いた場合でも本発明の素材とすることができる。次いでこの電磁鋼板用素材は通常の熱間圧延により熱延コイルに圧延される。
引き続いて1ステージの冷間圧延または中間焼鈍を含む複数ステージの冷間圧延によって最終板厚とする・・・。最終冷延前には950〜1200℃で30秒〜30分間の焼鈍を行い、急冷によりAlNの析出制御を行う。 最終成品板厚に圧延した冷延板を続いて通常の方法で脱炭焼鈍を行う。脱炭焼鈍の条件は特に規定しないが、好ましくは700〜900℃の温度範囲で30秒〜30分間湿潤な水素または水素、窒素の混合雰囲気で行うのがよい。
脱炭焼鈍後の鋼板表面には2次再結晶焼鈍における焼き付き防止およびグラス被膜生成のため通常の方法で通常の組成の焼鈍分離剤を塗布する。
2次再結晶焼鈍は1000℃以上の温度で5時間以上、水素または窒素またはそれらの混合雰囲気で行う。
引き続き余分の焼鈍分離剤を除去後、コイル巻ぐせを矯正するための連続焼鈍を行い、同時に絶縁被膜を塗布、焼き付けする。
更に必要に応じてレーザー照射等の磁区細分化処理を施す。磁区細分化の方法は特に限定する必要はない。」(段落【0026】乃至【0029】
(2)甲第2号証:特開平6-184640号公報
(2a)「【請求項1】 重量%で、C:0.015〜0.100%、Si:2.0〜4.0%、Mn:0.03〜0.12%、Sol.Al:0.010〜0.065%、N:0.0040〜0.0100%、SおよびSeのうちから選んだ1種または2種合計:0.005〜0.050%、更にSb、Sn、Cu、Mo、Ge、B、Te、AsおよびBiから選ばれる1種または2種以上を0.003〜0.3%含有し、残部は実質的にFeの組成になる連続鋳造スラブにスラブ加熱を施した後、熱延し、予備冷延を施し、析出焼鈍し、81〜95%の圧下率の最終強冷延により0.25mm以下の最終板厚とし、脱炭・一次再結晶焼鈍、最終仕上焼鈍、コーティング塗布によって高磁束密度一方向性電磁鋼板を製造する方法において、予備冷延をワークロール径/熱延板厚≧60の冷延機で20〜50%の圧下率で行うことを特徴とする高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)(2b)「Sb、Sn、Cu、Mo、Ge、B、Te、AsおよびBiは粒界に偏析させ、二次再結晶を安定化させるが、これらから選ばれる1種または2種以上の含有量が下限0.003%未満では偏析量が不足し、上限0.3%は経済的理由と脱炭性の悪化によるものである。」(段落【0011】)
(3)甲第3号証:特開平2-125815号公報
(3a)「1.重量%にて、C:0.020〜0.080%,Si:2.5〜4.0%,Mn:0.03〜0.15%、さらにS及び/又はSeを合計で0.008〜0.100%含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる珪素鋼スラブを熱間圧延し、ついで1回又は中間焼鈍をはさむ2回の冷間圧延を、最終冷間圧延の圧下率が40〜80%の範囲にて施し、最終板厚に仕上げた後、脱炭焼鈍についで焼鈍分離剤を塗布し最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる一方向性珪素鋼板の製造方法において、該最終仕上げ焼鈍のガス流量を2cc/分・kg以上とすることを特徴とする磁気特性の優れた一方向性珪素鋼板の製造方法。」(第1頁左欄特許請求の範囲)
(3b)「本発明は・・・、通常の製造方法において、容易に不純物元素の排除を促進して薄手一方向性珪素鋼の磁気特性をさらに改善する製造方法を提供するものである。」(第2頁右下欄6〜9行)
(3c)「仕上げ焼鈍のガス流量が2cc/分・kg以上の範囲を満足する場合に、2次再結晶が十分に発達して2次再結晶率が改善し、かつ地鉄とフォルステライト中のS,Se,N成分が著しく減少してB10値が向上し、鉄損W17/50値が低下して優れた一方向性珪素鋼が得られている。仕上げ焼鈍のガス流量が2cc/分・kg未満の場合は、2次再結晶およびS,Se,Nの純化が著しく阻害されて磁気特性の改善は望み得ない。」(第3頁左下欄12行〜右下欄1行)
(3d)「他にインヒビターとしてAs,Bi,Pb,Sn,Cu,Te,Mo,Wを単独または複合で0.010〜0.20%程度含有されることは本発明の効果を何ら阻害しない。」(第4頁右上欄5〜8行)
(3e)「仕上げ焼鈍におけるガス流量として2cc/分・kg以上と限定した理由は次のとおりである。
脱炭焼鈍後にMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布後100〜200℃で乾燥するが、まず箱焼鈍で常温から昇熱される際にMgO中の結晶水が400℃前後で放出される訳であるが、この時点でN2ガス流量が2cc/分・kg未満であれば、箱内の雰囲気が著しく酸化性となって露点が0℃以上となり鋼板表面を著しく酸化させて、鋼中のインヒビターMnS,MnSeの表面濃化を助長して抑制力機能が著しく低下する。・・・故に、2次再結晶完了までに箱内の雰囲気を低酸化性に保つために、2cc/分・kg以上のガス流量が必要である。・・・純化では前述したごとくやはり2cc/分・kg以上のガス流量にして雰囲気露点を0℃以下に制御することが必要である。何故なら、たとえ2次再結晶が十分でも、純化時ガス流量が2cc/分・kg未満であると純化不十分による磁性劣化が生じるからである。
このようにN2ガスとH2ガス流量を増やすことにより、十分な2次再結晶化と十分な純化が達成でき、本発明の目的を達成することができる。以上の理由から仕上げ焼鈍におけるガス流量は2cc/分・kg以上に限定した。」(第5頁右上欄11〜左下欄18行)
(3f)「実施例6
C:0.050%,Si:3.35%,Mn:0.086%とインヒビターとしてS:0.025%,Se:0.015%のほかにSb:0.020%,Mo:0.015%,Bi:0.017%,Te:0.019%を含み残部実質的にFeより成る220mm厚の連鋳スラブをいずれも1410℃に1時間加熱後、2.2mm厚に熱延し、960℃で1.5minの焼鈍後酸洗して0.64mm厚に中間冷延し、950℃で2minの中間焼鈍後圧下率66%で最終冷延して0.22mm厚に仕上げた。
次いで・・・脱炭焼鈍を施したのち、MgOを主体とする分離剤を塗布してから仕上焼鈍を施す。この際にドライN2雰囲気中で・・・2次再結晶を完了させた後、ドライH2雰囲気に変更して・・・10時間保定後、35℃/hで冷却して500℃に到達した後ドライN2雰囲気に切換えた。この仕上げ焼鈍の際の2次再結晶完了までのN2雰囲気のガス流量を4水準に純化焼鈍の領域のH2雰囲気のガス流量を4水準に変更した。なおN2雰囲気の露点(DP)は400℃に昇温された時点で測定した。
仕上げ焼鈍後にMgOを除去して張力コーティングを施し、フラットニング焼鈍した後・・歪取焼鈍後0.5kg重さで磁気特性B10(T),W17/50(W/kg)を測定した。また仕上げ焼鈍後MgOを除去したままのフォルステライト被膜付のS,Se,N成分の分析及び2次再結晶率の測定を行ない、第6表に3成分の合計含有量と2次再結晶率,磁気特性を示す。
同表から明らかなように、ガス流量がN2,H2ガスともに本発明の範囲を満たしているものは、高い磁束密度と低い鉄損値が得られている。」(第8頁右下欄11行〜第9頁右上欄5行)
(4)甲第4号証:「川崎製鉄技報」第15巻(昭和58年)第4号、56〜60頁
「珪素鋼用回転焼鈍炉」に関し、56頁右欄には、炉の設備仕様が記載され、57頁のFig.2には、炉の構造図が示されている。
(5)甲第5号証:「The Making,Shaping and Treating of Steel」1113〜1116頁(1985)
「箱焼鈍設備-箱焼鈍設備は、鋼内容物(コイル)を載置するベースと、熱を付与する炉と、通常、該鋼内容物をぴったり覆い、かつ鋼の酸化を防止する保護雰囲気を内蔵するインナーカバーからなっている。」(1113頁左欄下から3行〜右欄下から11行)
(6)甲第6号証:特開平5-171284号公報
(6a)「【実施例】Si 3.3%,C 0.060%, Mn 0.070%, Al 0.025%, N 0.0070%, Se 0.020%残部は実質上Feから成る板厚 2.2mmの方向性珪素鋼板用熱延鋼板を中間焼鈍をはさむ2回の冷延により、0.23mmに圧延した。この冷延鋼を水素気流中 840℃で実質 120秒の均熱処理の脱炭焼鈍を行った。この時の炉内酸化度は 0.6〜 0.7の間に保定した。脱炭焼鈍後、MgOを塗布し仕上焼鈍を図1(a)のパターンAで行った。実験条件は次の3通りを行った。
(1)仕上焼鈍の 800℃までの加熱中の雰囲気ガスをN2/H2を 70/30の比率で用い0.2Nm3/hr・tの流量で吹き込んだ。この時の酸化度は0.11以下であった。・・・(省略) 」(段落【0008】)
(6b)「なお、仕上焼鈍中の酸化度低下の手段には他に吹き込みガス流量を増加させる方法も有効である。」(段落【0011】)

(3-3)当審の判断
(1)本件発明1について
甲第1号証の上記(1a)には、一方向性電磁鋼板用素材の組成について「【請求項1】重量で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、S :0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N :0.0030〜0.0150%を含有し更に、Bi:0.0005〜0.05%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材。」と記載され、また、上記(1d)には、製造プロセスについても、上記「次いでこの電磁鋼板用素材は通常の熱間圧延により熱延コイルに圧延される。引き続いて1ステージの冷間圧延または中間焼鈍を含む複数ステージの冷間圧延によって最終板厚とするが、・・・。最終冷延前には950〜1200℃で30秒〜30分間の焼鈍を行い、急冷によりAlNの析出制御を行う。最終成品板厚に圧延した冷延板を続いて通常の方法で脱炭焼鈍を行う。脱炭焼鈍の条件は特に規定しないが、好ましくは700〜900℃の温度範囲で30秒〜30分間湿潤な水素または水素、窒素の混合雰囲気で行うのがよい。脱炭焼鈍後の鋼板表面には2次再結晶焼鈍における焼き付き防止およびグラス被膜生成のため通常の方法で通常の組成の焼鈍分離剤を塗布する。2次再結晶焼鈍は1000℃以上の温度で5時間以上、水素または窒素またはそれらの混合雰囲気で行う。引き続き余分の焼鈍分離剤を除去後、コイル巻ぐせを矯正するための連続焼鈍を行い、同時に絶縁被膜を塗布、焼き付けする。」と記載されているから、本件発明1と甲第1号証に記載された上記「超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法」という発明とを対比すると、両者は、次の点で相違していると云える。

相違点:本件発明1は、「仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量を雰囲気ガス流量/炉内容積≧0.5Nm3 /(h・m3 )の範囲とする」のに対し、甲第1号証に記載された発明は、この雰囲気ガス流量が明らかでない点

次に、この相違点について検討する。本件発明1において上記雰囲気ガス流量を「雰囲気ガス流量/炉内容積≧0.5Nm3 /(h・m3 )」の範囲に規制する技術的な意味は、特許明細書の段落【0009】及び【0031】乃至【0035】の記載によれば、鋼中に含むBiによる一次被膜密着性の劣化や一次被膜が形成されないための付与張力不足という課題を解決して鉄損不良を改善するためであると認められるところ、甲第2号証乃至甲第6号証には、このBiに係る上記課題やこの課題を解決するための「雰囲気ガス流量/炉内容積≧0.5Nm3 /(h・m3 )」について示唆するところがない。
すなわち、甲第2号証には、一方向性電磁鋼板の成分組成にBiを「Sb、Sn、Cu、Mo、Ge、B、Te、AsおよびBi」の中の選択成分の一つとして含有させることが記載されているだけであり、Biに係る上記課題や解決策については何ら示唆されていない。甲第3号証には、成品の不純物元素を排除して磁気特性を改善するために仕上げ焼鈍のガス流量を「2cc/分・kg以上」とすることが記載されているが、この場合のガス流量規制の目的は、硫化物、セレン化物又は窒化物の純化であり、しかも、排除すべき不純物とは、上記(3c)の「地鉄とフォルステライト中のS,Se,N成分が著しく減少してB10値が向上し、鉄損W17/50値が低下して優れた一方向性珪素鋼が得られている。」という記載によれば、地鉄とフォルステライト中の「S,Se,N」であり、「Bi」ではない。「Bi」に関し、甲第3号証の上記(3d)には、「他にインヒビターとしてAs,Bi,Pb,Sn,Cu,Te,Mo,Wを単独または複合で0.010〜0.20%程度含有されることは本発明の効果を何ら阻害しない。」と記載されているが、この記載は、Biの含有が硫化物、セレン化物又は窒化物の純化を阻害しないことを明記しているだけであり、本件発明1でいうBiに係る上記課題や解決策を示唆するものではない。甲第4号証及び甲第5号証には、珪素鋼板用回転焼鈍炉や箱焼鈍設備について記載されているだけであり、そして、これら焼鈍設備と本件発明1でいうBiに係る上記課題や解決策とは何ら関連性がない。甲第6号証には、仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量の「0.2Nm3/hr・t」という一例が記載されているだけであり、しかも、この流量は、上記(6b)の記載によれば、仕上焼鈍中の酸化度(PH2O/PH2)と関連性があるものであって本件発明1でいうBiに係る上記課題と何ら関連性はないから、甲第6号証にも、本件発明1でいうBiに係る上記課題や解決策について何ら示唆されていない。
してみると、甲第2号証乃至甲第6号証には、本件発明1でいうBiに係る上記課題や解決策について何ら示唆されていないから、本件発明1に係る上記相違点は、これら証拠の記載から当業者が容易に想到することができたものとすることができない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

(2)本件発明2乃至4について
本件発明2乃至4は、少なくとも請求項1を引用するものであるから、上記(1)で述べたと同様の理由により、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

4.むすび
以上のとおり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1乃至4についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1乃至4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-12-20 
出願番号 特願平7-150424
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C21D)
最終処分 維持  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 綿谷 晶廣
平塚 義三
登録日 2003-02-14 
登録番号 特許第3397273号(P3397273)
権利者 新日本製鐵株式会社
発明の名称 超低鉄損超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法  
代理人 杉村 興作  
代理人 矢葺 知之  
代理人 田村 弘明  

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