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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01P
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01P
審判 一部無効 2項進歩性  H01P
管理番号 1131615
審判番号 無効2005-80095  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-04-07 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-03-25 
確定日 2005-12-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3470613号発明「誘電体フィルタ装置、デュプレクサ及び通信機装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3470613号の請求項1、4に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
平成10年9月28日 出願
平成15年9月12日 設定登録(特許第3470613号)
平成17年3月25日 無効審判請求(請求人)
平成17年6月17日 答弁書(被請求人)、訂正請求書(被請求人)
平成17年8月29日 弁駁書(請求人)

2.訂正の可否
(1)訂正の内容
被請求人が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項a
請求項1を、次のとおりに訂正する。
「単一の誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの対向する一対の端面を貫通し、大径孔部とこの大径孔部に連通した小径孔部とを有した複数の共振器孔と、前記共振器孔のそれぞれの内周面に形成された内導体と、前記誘電体ブロックの外面に設けられた外導体とを備え、前記共振器孔のうち少なくとも一つにて低域側フィルタを構成すると共に、残りの前記共振器孔のうち少なくとも一つにて高域側フィルタを構成し、前記低域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比が、前記高域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きいこと、を特徴とする誘電体フィルタ装置。」

イ 訂正事項b
請求項4及び5を削除する。

ウ 訂正事項c
請求項6及び7を、請求項4及び5にそれぞれ繰り上げ、各請求項中に「請求項5」、「請求項6」とあるのを、それぞれ「請求項3」、「請求項4」と訂正する。

エ 訂正事項d
特許掲載公報第4欄21行に、「(a)誘電体ブロック」とあるのを、「(a)単一の誘電体ブロックと」と訂正する。

オ 訂正事項e
特許掲載公報第4欄45行〜46行に、「さらに、低域側フィルタ及び高域側フィルタは」と、また、同欄48行に、「あるいは、低域側フィルタ及び高域側フィルタの」と各あるのを、「なお、参考例として、低域側フィルタ及び高域側フィルタは」と、また、「あるいは、参考例として、低域側フィルタ及び高域側フィルタの」とそれぞれ訂正する。

カ 訂正事項f
特許掲載公報第5欄5〜10行に、
「つまり、ステップ比を大きくすると、大径孔部と小径孔部との境界に形成される段差部が長くなる。従って、内導体の導体路はこの段差部の表面に沿うため、その分だけ長くなり、フィルタの中心周波数は低くなる。逆に、ステップ比を小さくすると、フィルタの中心周波数は高くなる。」とあるのを、「つまり、ステップ比を大きくすると、フィルタの中心周波数は低くなる。逆に、ステップ比を小さくすると、フィルタの中心周波数は高くなる。」と訂正する。

キ 訂正事項g
特許掲載公報第6欄23行〜31行に、
「…共振器孔23a〜23cのステップ比を共振器孔23d〜23fのステップ比より大きくする。例えば、共振器孔23a〜23cのステップ比を大きくすると、大径孔部24aと小径孔部24bとの境界に形成される段差部が長くなる。従って、内導体25の導体路はこの段差部の表面に沿うため、その分だけ長くなり、共振器孔23a〜23cの軸方向における送信フィルタ27の誘電体ブロック22の長さを長くしなくても、送信フィルタ27の中心周波数は低くなる。」
とあるのを、
「…共振器孔23a〜23cのステップ比を共振器孔23d〜23fのステップ比より大きくする。従って、共振器孔23a〜23cの軸方向における送信フィルタ27の誘電体ブロック22の長さを長くしなくても、送信フィルタ27の中心周波数は低くなる。」と訂正する。

ク 訂正事項h
特許掲載公報第7欄33〜43行に、
「また、図2に示したデュプレクサ41は、単一の誘電体ブロック42からなるものであるが、必ずしもこれに限るものではない。図3に示すように、共振器孔43a〜43f毎に分割された誘電体ブロック50a〜50fを接合してなるデュプレクサ41Aであってもよい。外導体46は、接合された誘電体ブロック50a〜50fの外壁面に形成されている。あるいは、図4に示すように、送信フィルタ47は共振器孔43a〜43c毎に分割された誘電体ブロック52a〜52cからなり、受信フィルタ48は単一の誘電体ブロック52dからなるデュプレクサ41Bであってもよい。」
とあるのを、
「また、図2に示したデュプレクサ41は、単一の誘電体ブロック42からなるものである。参考例として、図3に示すように、共振器孔43a〜43f毎に分割された誘電体ブロック50a〜50fを接合してなるデュプレクサ41Aを示す。外導体46は、接合された誘電体ブロック50a〜50fの外壁面に形成されている。あるいは、図4に示すように、送信フィルタ47は共振器孔43a〜43c毎に分割された誘電体ブロック52a〜52cからなり、受信フィルタ48は単一の誘電体ブロック52dからなるデュプレクサ41Bを示す。」と訂正する。

ケ 訂正事項i
特許掲載公報第9欄37〜44行に、
「例えば、共振器孔83aのステップ比を大きくすると、大径孔部84aと小径孔部84bとの境界に形成される段差部が長くなる。従って、内導体85の導体路はこの段差部の表面に沿うため、その分だけ長くなり、共振器孔83aの軸方向における帯域阻止フィルタ88の誘電体ブロック82の長さを長くしなくても、帯域阻止フィルタ88の中心周波数は低くなる。」
とあるのを、「例えば、共振器孔83aのステップ比を大きくすると、共振器孔83aの軸方向における帯域阻止フィルタ88の誘電体ブロック82の長さを長くしなくても、帯域阻止フィルタ88の中心周波数は低くなる。」と訂正する。

コ 訂正事項j
特許掲載公報第12欄5〜6行に「【図3】図2に示したデュプレクサの変形例を示す斜視図」、同7〜8行に「【図4】図2に示したデュプレクサの別の変形例を示す斜視図」とあるのを、それぞれ「【図3】本発明の参考例を示す斜視図」、「【図4】別の参考例を示す斜視図」と訂正する。」

(2)訂正の目的の可否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
ア 訂正事項aは、誘電体ブロックを「単一の」誘電体ブロックと訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮に該当する。この訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項b及びcは、訂正事項aにより本件発明の誘電体フィルタ装置を単一の誘電体ブロックとしたことに伴い、誘電体ブロックが共振器孔毎に分割されていることを要旨とする請求項を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮に該当する。

ウ 訂正事項d、e、h、jは、訂正事項a及びbに伴い、特許請求の範囲の記載とこれに対応する発明の詳細な説明あるいは図面の簡単な説明の記載を整合させるものであって、不明りょうな記載の釈明に該当し、この訂正により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項f、g、iは、訂正前の明細書における発明の詳細な説明において、「ステップ比を大きくすると、大径孔部と小径孔部との境界に形成される段差部が長くなり、内導体の導体路が長くなる」との記載が、本件発明において「前記低域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比が、前記高域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きい」と、ある値によっては矛盾することになるので、導体路長さに関する記載を削除するものであって、不明りょうな記載の釈明に該当する。
また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。

(3)結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項及び同条第5項において準用する特許法第126条第3項から第6項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許発明
上記2.のとおり訂正が認められるから、本件特許請求範囲の請求項1と4に係る発明(それぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)は、訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、4に記載された以下のとおりのものと認める。

(1)本件特許発明1
「単一の誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの対向する一対の端面を貫通し、大径孔部とこの大径孔部に連通した小径孔部とを有した複数の共振器孔と、前記共振器孔のそれぞれの内周面に形成された内導体と、前記誘電体ブロックの外面に設けられた外導体とを備え、前記共振器孔のうち少なくとも一つにて低域側フィルタを構成すると共に、残りの前記共振器孔のうち少なくとも一つにて高域側フィルタを構成し、前記低域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比が、前記高域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きいこと、を特徴とする誘電体フィルタ装置。」

(2)本件特許発明2
「請求項1ないし請求項3記載の誘電体フィルタ装置の少なくともいずれか一つを備えていることを特徴とするデュプレクサ。」

4.請求人の主張
審判請求人は、「本件特許第3470613号発明の明細書の特許請求の範囲第1項および第6項に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求めると主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開平6-53710号公報
甲第2号証:特開平2-92001号公報
甲第3号証:特開平4-311103号公報
甲第4号証:特開平4-304002号公報
(無効理由)
(1)無効理由1
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違背して特許されたものなので、特許法第123条第1項第2号に該当する。
(2)無効理由2
本件特許発明1は、上記の甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものに過ぎず、特許法第29条第2項の規定に違背して特許されたものなので、特許法第123条第1項第2号に該当する。
(3)無効理由3
本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違背して特許されたものなので、特許法第123条第1項第2号に該当する。
(4)無効理由4
本件特許発明1は、上記の甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものに過ぎず、特許法第29条第2項の規定に違背して特許されたものなので、特許法第123条第1項第2号に該当する。
(5)無効理由5
本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載が、いわゆる当業者が容易にその実施をすることができる程度に明確に十分に記載されていることを要件とする特許法第36条第4項第1号の規定を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当する。
(6)無効理由6
本件特許発明1は、特許を受けようとする発明が明確であることを要件とする特許法第36条第6項第2号の規定を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当する。
(7)無効理由7
本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違背して特許されたものなので、特許法第123条第1項第2号に該当する。
(8)無効理由8
本件特許発明2は、上記の甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものに過ぎず、特許法第29条第2項の規定に違背して特許されたものなので、特許法第123条第1項第2号に該当する。
(9)無効理由9
本件特許発明2は、上記の甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいていわゆる当業者が容易に発明できたものに過ぎず、特許法第29条第2項の規定に違背されたものなので、特許法第123条第1項第2号に該当する。
(10)無効理由10
本件特許発明2は、発明の詳細な説明の記載が、いわゆる当業者が容易にその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることを要件とする特許法第36条第4項第1号の規定を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当する。
(11)無効理由11
本件特許発明2は、特許を受けようとする発明が明確であることを要件とする特許法第36条第6項第2号の規定を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当する。

5.被請求人の主張
一方、被請求人は以下の旨主張している。
(1)無効理由1
甲第1号証に記載されている発明(以下「引用発明1」)は、平成17年6月17日付け訂正請求書により訂正された本件特許発明1の特定事項である「単一の誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの対向する一対の端面を貫通し、…た複数の共振器孔」との構成を備えていない。
即ち、甲第1号証は、それぞれ1個の共振器孔を有する独立の共振器が複数配置されたアンテナ共用器が複数配置されたアンテナ共用器(ディスクリート型アンテナ共用器)を開示しているにすぎず、単一の誘電体ブロックに複数の共振器孔を備えることで1個の誘電体フィルタ装置をなす本件特許発明1(モノブロック型誘電体フィルタ装置)とは技術的前提が異なる。また、同号証に開示されている引用発明1の作用効果は、共振により発生する高調波(基本波の高次モード波)のスプリアス減衰量を向上することであって、低域側フィルタにおけるステップ比を高域側フィルタにおけるステップ比よりも大きくすることにより、低域側と高域側という異なる周波数帯域における中心周波数の調整を目的とする本件特許発明1とは作用効果が異なる。
(2)無効理由2
甲第1号証は、ディスクリート型アンテナ共用器(即ち複数の共振器を配置させた共振器の複合体)を開示するものにすぎず、引用発明1を本件特許発明1(モノブロック型誘電体フィルタ装置)に変更することについて何らかの示唆を与えるものではない。
且つ、甲第1号証には、送信側フィルタを構成する共振器と受信側フィルタを構成する共振器の特性インピーダンス比を異ならせることにより、送信側フィルタのスプリアス減衰量(高調波の減衰量)を向上しうるとの作用効果を開示しているに止まり、本件特許発明1の特徴である、単一の誘電体ブロックにおける低域側フィルタのステップ比を高域側フィルタのステップ比よりも大きくすることによって、高域側と低域側という異なる周波数帯域における中心周波数を調整するとの技術的思想を開示するものではない。
従って、引用発明1により本件特許発明1の進歩性が阻却されることはない。
(3)無効理由3
甲第2号証に開示されている発明(以下「引用発明2」)は、本件特許発明1の特定事項である、複数の「共振器甲のうち少なくとも一つにて低域側フィルタを構成すると共に、残りの前記共振器孔のうち少なくとも一つにて高域側フィルタを構成する」事項を具えていない。引用発明2の誘電体同軸フィルタは、受信側あるいは送信側フィルタとして用いられる誘電体同軸フィルタにすぎないものである。
且つ、甲第2号証には、互いに隣接する共振素子間における共振周波数特性に与える影響を除去するために、共振素子の大径部と小径部の内径比あるいは小径部の軸方向長さを変更することを開示しているにすぎず、その作用効果についても「各共振素子の共振周波数および共振素子間の結合係数を調整することができる」と記載されているにすぎない。即ち、単一の誘電体ブロックよりなり低域側フィルタと高域側フィルタを有する誘電体フィルタ装置において、低域側フィルタのステップ比を高域側フィルタのステップ比よりも大きくすることによって、各周波数帯域の中心周波数を調整するとの本件発明の効果は、甲第2号証には記載されていない。
従って、本件特許発明1が甲第2号証に記載された発明であるとは言えない。
(4)無効理由4
引用発明2は、隣接する共振素子の共振周波数特性に生ずる影響を除去することのできる誘電体同軸フィルタを開示しているが、この誘電体同軸フィルタは、前述のとおり、受信側または送信側フィルタとして用いられる誘電体同軸フィルタであるにすぎず、甲第2号証においては、単一の誘電体ブロックに低域側フィルタとなる共振器孔と高域側フィルタとなる共振器孔を同時に設けると共に、低域側フィルタの共振器孔のステップ比を高城側フィルタの共振器孔のステップ比より大きくすることで各周波数帯域の中心周波数を調整(設定)するとの本件特許発明1の技術思想を一切開示するものではなく、且つ、これを当業者に示唆、教示する何らの記載も存在しない。
また仮に、送信側フィルタと受信側フィルタを複数の共振器によって構成する引用発明1に甲第2号証の開示事項を適用したとしても、せいぜい、送信側の誘電体同軸フィルタと受信側の誘電体同軸フィルタとが独立に形成され、これが結合基板に実装されたアンテナ共用器(デュプレクサ)であって、独立した各誘電体同軸フィルタ内における共振素子のステップ比もしくは小径部の軸方向長さを変化させるとの技術事項が想到されるにすぎず、いずれにせよ、単一の誘電体ブロックに低域側フィルタと高域側フィルタとを併有する本件特許発明1に想到できるものではないし、そもそも甲第1号証と甲第2号証とは所期の作用、機能が全くことなるから、当業者にはこれらを組み合わせる動機が形成されない。
従って、本件特許発明1の進歩性が、甲第2号証あるいは甲第1・2号証により阻却されることはない。
(5)無効理由5
本件発明の詳細な説明には、送信フィルタの中心周波数が受信フィルタの中心周波数よりも低い場合(送信フィルタが低域側フィルタの場合)、低域側フィルタの共振器孔のステップ比を高域側フィルタの共振器孔のステップ比よりも大きくすることで、低域側フィルタの共振器孔の軸方向における誘電体ブロックの長さを長くしなくても、低域側フィルタの中心周波数が低くなることが適切に開示されており(特許掲載公報【0010】欄、【0018】欄、【0037】欄)、この開示事項に従って、当業者が本件発明を実施することが出来る程度に発明の詳細に発明の目的、構成、効果が適切に開示されている。
従って、本件明細書の記載は実施可能要件に適合する。
(6)無効理由6
被請求人は、本日付で提出する訂正請求書により、本件発明の詳細な説明中の過誤的記載であることが自明の「導体路長さ」に関する記載を削除した。
これにより、請求人が指摘する、共振器孔のステップ比の大小と共振器孔の導体路長さの長短の関係における本件明細書上の矛盾は解消された。
本件特許発明1は、従来の誘電体フィルタ装置においては低域側フィルタと高域側フィルタの各中心周波数の調整を、各フィルタの共振器孔における内導体の導体非形成部の位置を移動させたり、共振器孔の軸方向における誘電体ブロックの長さを変更するなどの手間のかかる方法により行わざるを得なかった問題点に着目し、誘電体フィルタ装置の各フィルタの共振器孔のステップ比によりこの問題を解決できることに想到し、低域側フィルタの共振器孔のステップ比が高域側の共振器孔のステップ比よりも大きくなる発明を開示したものであって、何ら「別の拘束条件」が付加されなくとも本件特許発明1の外延が不明確になることはない。
従って、請求人が主張する無効理由6は成り立たない。
(7)無効理由7〜11
本件請求項6(訂正後の請求項4)に関して請求人が主張する無効理由7〜11は、それぞれ、無効理由1〜3、5、6をデュプレクサに置き換えたものであり、上記各無効理由1が成り立たないのと同様に、理由のないものである。

6.甲第1号証及び甲第2号証
甲第1号証(特開平6-53710号公報)には、以下のことが記載されている。
ア「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は自動車電話や携帯電話等に用いられるアンテナ共用器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図5,図6はそれぞれ従来のアンテナ共用器を示す斜視図及び断面図である。図5,図6において、1,2,3,4,5,6はそれぞれセラミック等の誘電体材料で構成された共振器で、共振器1,2,3,4,5,6は図7(a)(b)に示すような構成となっている。なお各共振器は同じ構成となっているので、以下共振器1を例にとって説明する。
【0003】図7(a)(b)はそれぞれ共振器1を示す外観斜視図及び断面図である。図7(a)(b)において、1aは方形筒状の誘電体で、誘電体1aには方形筒状の孔1bと孔1bに連続する筒状の孔1cで構成された貫通孔1dが設けられている。1eは誘電体1aの外周部に形成された外部導電層、1fは貫通孔1dに形成された内部導体層、1gは孔1cが開口した端面1hに形成され、外部導体層1eと内部導体層1fを連結する連結導体層である。開放端1iには誘電体1aがむき出しになっている。
【0004】以下共振器1の製造方法について説明する。まずBaO-TiO2 -Nd2 O3 系の粉末を所定の形状に成形し、焼成して誘電体1aを作製する。次に誘電体1aの内部及び外部に無電解及び電解銅鍍金によって導体層を厚さ5μmで形成する。最後に孔1b側の端面に形成された導体層を除去して外部導体層1e及び内部導体層1fを形成して共振器1を形成する。共振器2,3,4,5,6も共振器1と同様に形成される。」(第2頁第1欄第10行〜第38行)

イ「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら前記従来の構成では、送信側フィルタのスプリアス減衰量が小さくなり、送信する信号の中に所定周波数以外の信号が送信されるという問題点があった。
【0007】本発明は前記従来の課題を解決するもので、送信側フィルタのフプリアス減衰量を大きくすることにより、所定周波数以外の信号を送信することが無いアンテナ共用器を提供することを目的としている。」(第2頁第2欄第31行〜第38行)

ウ「【0012】図1は本発明の一実施例におけるアンテナ共用器を示す断面図である。図1において40,41,42は送信側フィルタを構成する共振器で、共振器40,41,42には中心導体13,14,15がそれぞれ挿入されている。また43,44,45はそれぞれ受信側フィルタを構成する共振器で、共振器43,44,45にはそれぞれ中心導体16,17,18がそれぞれ挿入されている。また共振器40,41,42はともに同一構成であり、さらに共振器43,44,45それぞれもともに同一構成である。これら共振器の基本的構成は図7(a)(b)に示したものと同じである。共振器40,41,42と共振器43,44,45は孔40a,41a,42aと孔43a,44a,45aの内径の大きさの点で異なっている(孔の深さは同一)。例えば共振器の外形を3.0mm角、長さを8.0mm形状とした場合、孔40a,41a,42aは深さ2.0mm、内径2.0mm角の形状とし、孔43a,44a,45aは深さは同じで、内径1.4mmとした。このように孔40a,41a,42aと孔43a,44a,45aを異ならせることによって、送信側フィルタを構成する共振器40,41,42及び受信側フィルタを構成する共振器43,44,45の特性インピーダンス比を異ならせることができる。すなわち共振器40,41,42の特性インピーダンス比を共振器43,44,45の特性インピーダンス比よりも大きくした。
【0013】以下本実施例と従来例の特性の比較をする。従来例としては図5,6に示すアンテナ共用器(受信側フィルタを構成する共振器と送信側フィルタを構成する共振器が同じ特性インピーダンス比)を用い、本実施例としては図1に示すアンテナ共用器を用いた。この時共振器以外の構成部品は2つとも同じとし、共振器の外形寸法及び構成材料も同じとした。図2は従来例と本実施例の電気特性(各周波数におけるスプリアス減衰量)を示す図である。図2においてaは本実施例の特性曲線、bは従来例の特性曲線である。
【0014】図2から明らかなように本実施例の特性曲線aは、従来例の特性曲線bに比べて全般的に電気特性が良くなっており、特に2.5GHz以上の周波数帯(送信側フィルタの通過帯域周波数帯の3倍付近、図2で示すA〜Bの範囲)において、本実施例は従来例に比べスプリアス減衰量を飛躍的に向上させることができる。
【0015】このように送信側フィルタを構成する共振器と受信側フィルタを構成する共振器の特性インピーダンスを異ならせることによって、スプリアス減衰量を向上させることができる。」(第3頁第3欄第3行〜第48行)

エ「【0021】また本実施例として内部に段差を有する共振器を用いたが、受信側フィルタを構成する共振器及び送信側フィルタを構成する共振器の外形寸法を異ならせることによって、特性インピーダンスを異ならせ、スプリアス減衰量を向上させることもできる。しかしながら、外形寸法を異ならせると損失が大きくなったりする等の不具合が生じる。従って共振器長の短縮の効果もあるので、好ましくは本実施例に記載した内部に段差を有する共振器の方が良い。」(第4頁第5欄第4行〜第12行)

オ 図1によれば、複数の誘電体ブロックからなり、第1乃至第3の送信側フィルタ、第1乃至第3の受信側フィルタを有し、孔の長さは一定でないことが読み取れる。

上記記載、技術常識を鑑みれば、甲第1号証には、以下の発明(「引用発明1」という。)が記載されている。
「複数の誘電体ブロックと、
第1の誘電体ブロックの対向する一対の端面を貫通し、孔40aとこの孔40aに連続する孔を有した第1の共振器と、前記第1の共振器の孔に形成された第1の内部導体層と前記第1の共振器の外周部に形成された第1の外部導体層とを備え、
第2の誘電体ブロックの対向する一対の端面を貫通し、孔43aとこの孔43aに連続する孔を有した第2の共振器と、前記第2の共振器の孔に形成された第2の内部導体層と前記第2の共振器の外周部に形成された第2の外部導体層とを備え、
第1の共振器にて第1の送信側フィルタを構成し、第2の共振器にて第1の受信側フィルタを構成し、前記第1の送信側フィルタの孔40aとこの孔40aに連続する孔の比が、前記第1の受信側フィルタの孔43aとこの孔43aに連続する孔との比よりも大きく、第2、第3の送信側フィルタと第2、第3の受信側フィルタを有し、各フィルタの孔の長さが異なる誘電体フィルタ」

甲第2号証(特開平2-92001号公報)には、以下のことが記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
(1)誘電体ブロックの外周面に形成された外導体と、前記誘電体ブロック内に形成された複数の貫通孔それぞれの内周面に形成された内導体とから構成された複数の共振素子を備えてなる誘電体同軸フィルタにおいて、
各共振素子の貫通孔の軸方向中途位置に、当該貫通孔を大径部と小径部とに区分する段差を設けるとともに、
各共振素子における前記大径部および小径部の内径比もしくは小径部の軸方向長さの少なくとも一方を隣接する共振素子に対して変化させることによって各共振素子の共振周波数および共振素子相互間の結合係数の調整を行ったことを特徴とする誘電体同軸フィルタ」(第1頁左下欄第4行〜第18行)

イ「本発明は誘電体同軸フィルタに係り、特に、単一の誘電体ブロックに複数の共振素子が構成されてなる一体形の誘電体同軸フィルタに関する。」(第1頁右下欄第1行〜第3行)

ウ「<作用>
上記構成によれば、共振素子の貫通孔を構成する大径部および小径部の内径比もしくは小径部の軸方向長さの少なくとも一方を変化させることにより、大径部と小径部、すなわち、開放面側部分と短絡面側部分との特性インピーダンスが相対的に変化することになる。そして、このことによって、当該共振素子の共振周波数が変化し、隣接する共振素子との間で結合係数のバランスが取られることになる。」(第2頁左下欄第5行〜第14行)

エ「そこで、従来例、すなわち、共振素子Rの開放面側の特性インピーダンスZ1とその短絡面側の特性インピーダンスZ2とが互いに等しい場合において、この共振素子Rの軸方向長さをl0としたときに周波数f0で共振したとする。」(第3頁左上欄第20行〜右上欄第4行)

オ「一方、共振素子Rの特性インピーダンスZ1を特性インピーダンスZ2よりも小さく(Z1<Z2)した場合には、電気角(θ1+θ2)がπ/2よりも小さな周波数で共振素子Rが共振することになるので、共振素子Rの軸方向長さlを従来の長さl0と同じにすれば、その共振周波数fが従来例の共振周波数f0よりも低くなる。したがって、共振素子Rの開放面側の特性インピーダンスZ1をその短絡面側の特性インピーダンスZ2よりも小さくしておけば、共振素子Rの軸方向長さlを従来例の長さl0よりも短くしても、同じ共振周波数f0が得られることになる。」(第3頁右上欄第13行〜左下欄第4行)

カ「貫通孔3の大径部3aと小径部3bとは互いに異なる特性インピーダンスを有することにより、図示したような構成の場合には、原理において説明したように、共振素子を構成する貫通孔3の大径部3aの特性インピーダンスZ1がその小径部3bの特性インピーダンスZ2よりも小さくなる。そのため、各共振素子の軸方向長さが互いに同一であれば、当該共振素子の有する共振周波数が隣接する共振素子のそれよりも低くなる。あるいはまた、この共振素子の貫通孔3の小径部3bの軸方向長さlbを隣接する共振素子のそれに対して短くしても、上記同様の結果が得られることになる。
そこで、本実施例においては、各共振素子の貫通孔3の軸方向中途位置に設けられた段差4によって分割された大径部3aと小径部3bとの内径比(da/db)もしくは小径部3bの軸方向長さのいずれか一方、あるいは、これらの双方を変化させれば、これらの変化に応じて各共振素子の共振周波数が偏移することになり、所要の共振周波数が得られることになる。」(第4頁左上欄第1行〜右上欄第1行)

キ 上記記載ア及び第2図、第3図によれば、単一の誘電体ブロックの外周面に外導体を有し、その内部に大径部と小径部を備えた長さの等しい貫通孔からなる複数の共振素子を有することが読み取れる。

上記記載、技術常識を鑑みれば、甲第2号証には、以下の発明(「引用発明2」という。)が記載されている。
「単一の誘電体ブロックの外周面に外導体を有し、その内部に大径部と小径部を備えた長さの等しい貫通孔からなる複数の共振素子を構成されてなる一体型の誘電体同軸フィルタで、大径部と小径部との内径比を変化させ、共振素子Rの開放面側の特性インピーダンスZ1をその短絡面側の特性インピーダンスZ2よりも小さくした場合、共振周波数を低減できる」構成

7.本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と引用発明1を対比する。
ア 引用発明1の各「誘電体ブロック」は、1つの共振器を有し、誘電体ブロックが、複数集まって、全体として、複数の誘電体ブロックを有しており、本件特許発明1は、単一の「誘電体ブロック」が、複数の共振器孔を有しており、引用発明1の「孔40aとこの孔40aに連続する孔を有した第1の共振器」と「孔43aとこの孔43aに連続する孔を有した第2の共振器」を合わせたものが、本件特許発明1の「大径孔部とこの大径孔部に連通した小径孔部とを有した複数の共振器孔」に相当しているから、両者は、「第1の所定数の誘電体ブロックを有し、前記各誘電体ブロックが、大径部とこの大径孔部に連通した小径孔部とを有した第2の所定数の共振器孔」を有する点で、一致する。
イ 引用発明1の「前記第1の共振器の孔に形成された第1の内部導体層」と「前記第2の共振器の孔に形成された第2の内部導体層」が、本件特許発明1の「前記共振器孔のそれぞれの内周面に形成された内導体」に相当する。
ウ 本件特許発明1の「誘電体ブロックの外面に設けられた外導体」と引用発明1の「前記第2の共振器の外周部に形成された第1の外部導体層」は、「外導体」を有することで、一致する。
エ 引用発明1の「第1の共振器にて第1の送信側フィルタを構成し、第2の共振器にて第1の受信側フィルタを構成し、前記第1の送信側フィルタの孔40aとこの孔40aに連続する孔の比が、前記第1の受信側フィルタの孔43aとこの孔43aに連続する孔との比よりも大きく」と本件特許発明1の「前記低域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の比が、前記高域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きい」は、「一方の共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の比が、他方の共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きい」の点で、一致する。
オ 引用発明1の「誘電体フィルタ」が、本件特許発明1の「誘電体フィルタ装置」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明1は、「第1の所定数の誘電体ブロックと、前記各誘電体ブロックの対向する一対の端面を貫通し、大径孔部とこの大径孔部に連通した小径孔部とを有した第2の所定数の共振器孔と、前記共振器孔のそれぞれの内周面に形成された内導体と、外導体とを備え、一方の共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の比が、他方の共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きい誘電体フィルタ装置」の点で、一致し、以下の点で、相違する。

相違点1
本件特許発明1は、第1の所定数として、単一の誘電体ブロックを有し、誘電体ブロックの外面に設けられた外導体を有し、前記誘電体ブロックの中に、第2の所定数として、複数の共振器孔を有しているのに対して、引用発明1では、第1の所定数として、複数の誘電体ブロックを有し、各誘電体ブロックが、異なる長さを有し、その外周部に外導導体層を有し、第2の所定数として、1つの共振器孔を有している点。

相違点2
本件特許発明1は、共振器孔のうち少なくとも一つにて低域側フィルタを構成すると共に、残りの共振器孔のうち少なくとも一つにて高域側フィルタを構成し、前記低域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比が、前記高域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きいのに対して、引用発明1では、第1の共振器にて第1の送信側フィルタを構成し、第2の共振器にて第1の受信側フィルタを構成し、前記第1の送信側フィルタの孔40aとこの孔40aに連続する孔の比が、前記第1の受信側フィルタの孔43aとこの孔43aに連続する孔との比よりも大きくしているが、送信側フィルタと受信側フィルタのどちらが高域側、低域側が不明である点。

(2)判断
上記相違点について、検討する。
相違点1について
単一の誘電体ブロックを有し、その誘電体ブロックの外周面に外導体を有し、その内部に大径部と小径部を備えた長さの等しい貫通孔からなる複数の共振素子を設けることは、引用発明2に記載されているように、周知であるから、引用発明1において、上記周知技術2を適用して、複数のブロックを単一のブロックにして、単一の誘電体ブロックの外周面に外導体を有し、その内部に大径部と小径部を備えた長さの等しい貫通孔からなる複数の共振孔を設ける構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

相違点2について
送信と受信に異なる周波数を用いる通信方式において、一方の通信機の送信周波数は、他方の通信機の受信周波数であるから、これらの通信機に用いられる送信フィルタ又は受信フィルタは場合により、低域側にもなり、高域側にもなるものである。従って、引用発明の送信フィルタを高域側フィルタとするか、低域側フィルタとするかは、当業者が、所望の特性に応じて、適宜行うことであり、低域側のフィルタの径の比の方が大きいから、引用発明1において、送信フィルタを例えば低域側フィルタとして構成し、その大径孔部の径と小径孔部の径の比を、高域側フィルタの大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きくすることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本件特許発明1の作用効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本件特許発明1は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3)被請求人の主張について
被請求人は、引用発明1は、単一の誘電体ブロックが複数の共振器孔を備えていない点で、相違する旨を主張しているが、単一の誘電体ブロックが複数の共振器孔を備えることは、引用発明2に記載されているように知られているから、引用発明1に引用発明2を適用することにより、単一の誘電体ブロックが複数の共振器孔を備えることは、当業者が容易になし得ることと認められ、被請求人のこの主張は採用できない。
そして、被請求人は、引用発明1は、高調波のスプリアス減衰量を向上させることを目的とするもので、低域側フィルタにおけるステップ比を高域側フィルタにおけるステップ比よりも大きくすることにより、低域側と高域側という異なる周波数帯域における中心周波数の調整を目的とする本件特許発明1と相違する旨を主張しているが、引用発明2に示される、大径部と小径部との内径比を変化させ、共振素子Rの開放面側の特性インピーダンスZ1をその短絡面側の特性インピーダンスZ2よりも小さくした場合、共振周波数を低減できることが知られており、引用発明1において、径の大きさを変えることにより、特性インピーダンスの大きさが変わり、広い範囲で共振周波数を変えることは、当業者の創作能力の範囲内であるので、引用発明1が高調波のスプリアス減衰量を向上させる目的を考慮するものであるからといって、本件特許発明1の目的を達成できないという被請求人の主張は採用できない。
次に、被請求人は、引用発明2の誘電体フィルタは、受信側あるいは送信側フィルタとして用いられる誘電体同軸フィルタにすぎず、本件特許発明1と相違し、引用発明2は、隣接する共振素子間における共振周波数特性に与える影響を除去するために、共振素子の大径部と小径部の内径比あるいは小径部の軸方向長さを変更することを開示しているにすぎず、その作用効果についても、「各共振素子の共振周波数および共振素子間の結合係数を調整することができる」と記載されているに過ぎない旨を主張しているが、引用発明1に受信側フィルタと送信側フィルタを有する共振素子を有しており、引用発明1において、種々の大径部と小径部の内径比や大径部の深さ、小径部の深さを適宜変化させて、所望の最良の特性を得るべく行うことは、当業者の行う創作能力の発揮の範囲内であるから、引用発明1において、低域側フィルタの共振器孔のステップ比を高域側フィルタの共振器孔のステップ比より大きくすることで、各周波数帯域の中心周波数を調整することは、当業者にとって、容易なことである。
さらに、被請求人は、仮に、送信側フィルタと受信側フィルタを複数の共振器によって構成する引用発明1に甲第2号証の開示事項を適用したとしても、せいぜい、送信側の誘電体同軸フィルタと受信側の誘電体同軸フィルタとが独立に形成され、これが結合基板に実装されたアンテナ共用器(デュプレクサ)であって、独立した各誘電体同軸フィルタ内における共振素子のステップ比もしくは小径部の軸方向長さを変化させるとの技術事項が想到されるにすぎず、いずれにせよ、単一の誘電体ブロックに低域側フィルタと高域側フィルタとを併有する本件特許発明1に想到できるものではないし、そもそも甲第1号証と甲第2号証とは所期の作用、機能が全くことなるから、当業者にはこれらを組み合わせる動機が形成されないと主張しているが、1つの誘電体ブロックの外周面に外導体を有し、その内部に、大径部と小径部を備えた長さの等しい貫通孔からなるフィルタを構成することは、引用発明2に開示されており、引用発明1に引用発明2をそのまま適用するだけでなく、適用する際に、大径部、小径部の長さを変えて、所望の特性を得るようにすることは、当業者が当然行う事項であるから、単一の誘電体ブロックに低域側フィルタと高域側フィルタを併有して、大径部、小径部の大きさを設計変更することは、当業者が容易になし得ることで、被請求人の主張は採用できない。引用発明1と引用発明2は、誘電体フィルタ装置という同一の技術分野に属するので、動機付けを行い、初期の作用、機能が全く異なるから組合せられないとの被請求人の主張は採用できない。

8.本件特許発明2について
(1)対比
本件特許発明2と引用発明1を対比すると、引用発明1もデュプレクサであるから、本件特許発明1で挙げた一致点、相違点を有するともに、「請求項1の誘電体フィルタ装置の少なくともいずれか一つを備えるデュプレクサ」の点でも、一致する。
(2)判断
新たな相違点がないので、7.本件特許発明1での判断と同様に、本件特許発明2は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明2は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3)被請求人の主張に対する判断
被請求人の主張に対する判断は、本件特許発明1と同様である。

9.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
誘電体フィルタ装置、デュプレクサ及び通信機装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの対向する一対の端面を貫通し、大径孔部とこの大径孔部に連通した小径孔部とを有した複数の共振器孔と、前記共振器孔のそれぞれの内周面に形成された内導体と、前記誘電体ブロックの外面に設けられた外導体とを備え、前記共振器孔のうち少なくとも一つにて低域側フィルタを構成すると共に、残りの前記共振器孔のうち少なくとも一つにて高域側フィルタを構成し、前記低域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比が、前記高域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きいこと、を特徴とする誘電体フィルタ装置。
【請求項2】
前記内導体が、前記共振器孔の一方の開口端部に導体非形成部を有していることを特徴とする請求項1記載の誘電体フィルタ装置。
【請求項3】
前記誘電体ブロックの前記共振器孔が貫通した一対の端面に前記外導体を延在させると共に、一方の端面の外導体を、各共振器孔をそれぞれ囲む帯状の導体非形成部によって、各共振器孔を内側に含む内側部と、この内側部の周囲に配設された周辺部とに電気的に分離することを特徴とする請求項1記載の誘電体フィルタ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3記載の誘電体フィルタ装置の少なくともいずれか一つを備えていることを特徴とするデュプレクサ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3記載の誘電体フィルタ装置、又は、請求項4記載のデュプレクサの少なくともいずれか一つを備えていることを特徴とする通信機装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばマイクロ波帯で使用される誘電体フィルタ装置、デュプレクサ及び通信機装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
携帯電話等に用いられる誘電体デュプレクサとしては、誘電体ブロック内に複数の誘電体共振器の共振器孔を配置したものが知られている。図9は、従来の誘電体デュプレクサの一例を示すものである。該誘電体デュプレクサ1は、直方体形状の誘電体ブロック2に、送信フィルタ7を構成する共振器孔3a,3b,3cと、受信フィルタ8を構成する共振器孔3d,3e,3fとを設けている。
【0003】
共振器孔3a〜3fは、相互に同一形状であり、大径孔部4aとこの大径孔部4aに連通した小径孔部4bとを有したステップ構造の孔である。共振器孔3a〜3fの内壁面にはそれぞれ内導体5が形成されている。各内導体5には、大径孔部4a側の端部付近にgで示す導体非形成部を設けており、この部分を解放端としている。誘電体ブロック2の外面には、アンテナ端子ANT、送信端子Tx及び受信端子Rxを形成すると共に、これらの端子ANT,Tx,Rxを除くほぼ全面に外導体6を形成している。各内導体5は、小径孔部4b側の端部で外導体6に電気的に接続しており、この部分を短絡端としている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来の誘電体デュプレクサ1は、全ての共振器孔3a〜3fが同一形状であったため、送信フィルタ7を構成する共振器孔3a〜3cの大径孔部4aの径と小径孔部4bの径の比(以下、ステップ比と記す)が、受信フィルタ8を構成する共振器孔3d〜3fのステップ比に対して同じであった。従って、送信フィルタ7や受信フィルタ8の中心周波数の調整は、内導体5の導体非形成部gの位置を移動させたり、共振器孔3a〜3fの軸方向における誘電体ブロック2の長さを変更することによって行われていた。
【0005】
例えば、送信フィルタ7の中心周波数が1950MHz、受信フィルタ8の中心周波数が2140MHzの場合、誘電体ブロック2の誘電率εrが21.4であれば、送信フィルタ7の共振器孔3a〜3cの軸方向の長さが、受信フィルタ8の共振器孔3d〜3fの軸方向の長さより長くなり、その差は0.7mmとなる。このため、送信フィルタ7と受信フィルタ8をそれぞれ独立して製作し、その後、両者を接合して誘電体デュプレクサ1を製造する場合、共振器孔の軸方向における送信フィルタ7の誘電体ブロックの長さと受信フィルタ8の誘電体ブロックの長さが異なるため、両者を接合する際にガタや位置ズレが発生し易かった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、内導体の導体非形成部の位置を移動させたり、共振器孔の軸方向における各フィルタの誘電体ブロックの長さを変更させなくても、各フィルタの中心周波数を調整することができる誘電体フィルタ装置、デュプレクサ及び通信機装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段と作用】
以上の目的を達成するため、本発明に係る誘電体フィルタ装置は、
(a)単一の誘電体ブロックと、
(b)誘電体ブロックの対向する一対の端面を貫通し、大径孔部とこの大径孔部に連通した小径孔部とを有した複数の共振器孔と、
(c)共振器孔のそれぞれの内周面に形成された内導体と、
(d)誘電体ブロックの外面に設けられた外導体とを備え、
(e)共振器孔のうち少なくとも一つにて低域側フィルタを構成すると共に、残りの共振器孔のうち少なくとも一つにて高域側フィルタを構成し、低域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比が、高域側フィルタの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比よりも大きいこと、を特徴とする。
【0008】
ここに、内導体が、共振器孔の一方の開口端部に導体非形成部を有することにより、該導体非形成部が設けられた開口端部が共振器孔の開放端となる。また、誘電体ブロックの共振器孔が貫通した一対の端面に外導体を延在させると共に、一方の端面の外導体を、各共振器孔をそれぞれ囲む帯状の導体非形成部によって、各共振器孔を内側に含む内側部と、この内側部の周囲に配設された周辺部とに電気的に分離することにより、該導体非形成部が設けられた誘電体ブロックの端面が共振器孔の開放端となる。
【0009】
なお、参考例として、低域側フィルタ及び高域側フィルタは、例えば、単一の誘電体ブロックにて構成されたり、共振器孔毎に分割された誘電体ブロックにて構成される。あるいは、参考例として、低域側フィルタ及び高域側フィルタの一方のフィルタは共振器孔毎に分割された誘電体ブロックにて構成され、他方のフィルタは単一の誘電体ブロックにて構成される。
【0010】
以上の構成により、各フィルタの中心周波数は、それぞれの共振器孔の大径孔部の径と小径孔部の径の比(ステップ比)を変えることによって調整される。つまり、ステップ比を大きくすると、フィルタの中心周波数は低くなる。逆に、ステップ比を小さくすると、フィルタの中心周波数は高くなる。従って、内導体の導体非形成部の位置を移動させたり、共振器孔の軸方向における各フィルタの誘電体ブロックの長さを変えることなく、フィルタの中心周波数が調整される。
【0011】
また、本発明に係るデュプレクサや通信機装置は、前述の特徴を有する誘電体フィルタ装置を備えることにより、共振器孔の軸方向における各フィルタの誘電体ブロックの長さを揃えることができ、組立て加工が容易になる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る誘電体フィルタ装置、デュプレクサ及び通信機装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0013】
[第1実施形態、図1]本発明に係るデュプレクサの一つの実施形態を図1に示す。デュプレクサ21は、直方体形状を有する単一の誘電体ブロック22を備えている。誘電体ブロック22は、その互いに対向する端面22a,22bの一方から他方にそれぞれ貫通する共振器孔23a〜23fを有する。これらの共振器孔23a〜23fは、その軸が互いに平行になるように誘電体ブロック22に形成されている。
【0014】
送信フィルタ27を構成する共振器孔23a〜23cは、相互に同一形状であり、大径孔部24aとこの大径孔部24aに連通した小径孔部24bとを有したステップ構造の孔である。受信フィルタ28を構成する共振器孔23d〜23fは、相互に同一形状であり、大径孔部24cとこの大径孔部24cに連通した小径孔部24dとを有したステップ構造の孔である。共振器孔23a〜23fの内壁面にはそれぞれ内導体25が形成されている。そして、送信フィルタ27の共振器孔23a〜23cのステップ比と、送信フィルタ28の共振器孔23d〜23fのステップ比とは、それぞれ独立して設定される。
【0015】
誘電体ブロック22の外面には、送信端子Tx、受信端子Rx及びアンテナ端子ANTを除くほぼ全面に外導体26を形成している。共振器孔23a〜23fの内導体25には、大径孔部24a,24c側の端部付近にgで示す導体非形成部を設けており、この部分(言い換えると、外導体26から電気的に分離されている部分)を開放端としている。一方、開放端と反対側の内導体25の部分(言い換えると、外導体26に電気的に接続している部分)を短絡端としている。
【0016】
共振器孔23aは、その内壁面に形成された内導体25,誘電体ブロック22及び外導体26と共に、一つの誘電体共振器を構成している。同様に、共振器孔23b〜23fもそれぞれ誘電体共振器を構成している。従って、フィルタ27,28は、それぞれ3段の帯域通過フィルタとなる。
【0017】
送信端子Tx、受信端子Rx及びアンテナ端子ANTは、外導体26に対して所定の間隔を確保して、外導体26に非導通の状態で形成されている。送信端子Txと共振器孔23aの内導体25との間、受信端子Rxと共振器孔23fの内導体25との間、並びに、アンテナ端子ANTと共振器孔23c、23dの内導体25との間には、それぞれ外部結合容量Ceが形成される。そして、アンテナ端子ANTと送信端子Txの間に送信フィルタ27が配置され、アンテナ端子ANTと受信端子Rxの間に受信フィルタ28が配置されている。
【0018】
以上の構成において、例えば、送信フィルタ27の中心周波数が受信フィルタ28の中心周波数より低い場合、送信フィルタ27の共振器孔23a〜23cのステップ比を大きくしたり、あるいは、受信フィルタ28の共振器孔23d〜23fのステップ比を小さくしたりして、共振器孔23a〜23cのステップ比を共振器孔23d〜23fのステップ比より大きくする。従って、共振器孔23a〜23cの軸方向における送信フィルタ27の誘電体ブロック22の長さを長くしなくても、送信フィルタ27の中心周波数は低くなる。
【0019】
図1に示したデュプレクサ21は、共振器孔23a〜23cの大径孔部24aの径と共振器孔23d〜23fの大径孔部24cの径を等しく設定すると共に、共振器孔23a〜23cの小径孔部24bの径を共振器孔23d〜23fの小径孔部24dの径より小さく設定している。これにより、内導体25の導体非形成部gの位置を、全ての共振器孔23a〜23fに対して揃えることができる。また、共振器孔23a〜23fの軸方向における各フィルタ27,28の誘電体ブロック22の長さ(言い換えると、共振器長)を揃えることができる。この結果、加工や組み立てのし易いデュプレクサ21が得られる。
【0020】
なお、送信フィルタ27の中心周波数が受信フィルタ28の中心周波数より高い場合には、送信フィルタ27の共振器孔23a〜23cのステップ比を小さくする等して、送信フィルタ27の共振器孔23a〜23cのステップ比を受信フィルタ28の共振器孔23d〜23fのステップ比より小さくする。
【0021】
[第2実施形態、図2〜図4]本発明に係るデュプレクサの別の実施形態を図2に示す。デュプレクサ41は、直方体形状を有する単一の誘電体ブロック42を備えている。誘電体ブロック42は、その互いに対向する端面42a,42bの一方から他方にそれぞれ貫通する共振器孔43a〜43fを有する。
【0022】
送信フィルタ47を構成する共振器孔43a〜43cは、相互に同一形状であり、大径孔部44aとこの大径孔部44aに連通した小径孔部44bとを有したステップ構造の孔である。受信フィルタ48を構成する共振器孔43d〜43fは、相互に同一形状であり、大径孔部44cとこの大径孔部44cに連通した小径孔部44dとを有したステップ構造の孔である。共振器孔43a〜43fの内壁面にはそれぞれ内導体45が形成されている。そして、送信フィルタ47の共振器孔43a〜43cのステップ比と、受信フィルタ48の共振器孔43μ〜43fのステップ比とは、それぞれ独立して設定される。
【0023】
誘電体ブロック42の外面には、端面42a、送信端子Tx、受信端子Rx及びアンテナ端子ANTを除くほぼ全面に外導体46を形成している。共振器孔43a〜43fのそれぞれの内導体45は、端面42aで外導体46から電気的に分離(開放)され、端面42bで外導体46に電気的に導通(短絡)されている。
【0024】
共振器孔43aは、その内壁面に形成された内導体45、誘電体ブロック42及び外導体46と共に、一つの誘電体共振器を構成している。同様に、共振器孔43b〜43fもそれぞれ誘電体共振器を構成している。従って、フィルタ47,48は、それぞれ3段の帯域通過フィルタとなる。
【0025】
以上の構成からなるデュプレクサ41は、前記第1実施形態のデュプレクサ21と同様の作用効果を奏する。
【0026】
また、図2に示したデュプレクサ41は、単一の誘電体ブロック42からなるものである。参考例として、図3に示すように、共振器孔43a〜43f毎に分割された誘電体ブロック50a〜50fを接合してなるデュプレクサ41Aを示す。外導体46は、接合された誘電体ブロック50a〜50fの外壁面に形成されている。あるいは、図4に示すように、送信フィルタ47は共振器孔43a〜43c毎に分割された誘電体ブロック52a〜52cからなり、受信フィルタ48は単一の誘電体ブロック52dからなるデュプレクサ41Bを示す。
【0027】
[第3実施形態、図5]本発明に係るデュプレクサのさらに別の実施形態を図5に示す。デュプレクサ61は、直方体形状を有する単一の誘電体ブロック62を備えている。誘電体ブロック62は、その互いに対向する端面62a,62bの一方から他方にそれぞれ貫通する共振器孔63a〜63fを有する。
【0028】
送信フィルタ67を構成する共振器孔63a〜63cは、相互に同一形状であり、大径孔部64aとこの大径孔部64aに連通した小径孔部64bとを有したステップ構造の孔である。受信フィルタ68を構成する共振器孔63d〜63fは、相互に同一形状であり、大径孔部64cとこの大径孔部64cに連通した小径孔部64dとを有したステップ構造の孔である。共振器孔63a〜63fの内壁面にはそれぞれ内導体65が形成されている。そして、送信フィルタ67の共振器孔63a〜63cのステップ比と、受信フィルタ68の共振器孔63d〜63fのステップ比とは、それぞれ独立して設定される。
【0029】
誘電体ブロック62の外面には、送信端子Tx、受信端子Rx及びアンテナ端子ANTを除くほぼ全面に外導体66を形成している。外導体66は、誘電体ブロック62の端面62a上の部分が、共振器孔63a〜63fをそれぞれ矩形に囲む帯状の導体非形成部71によって、共振器孔63a〜63fを内側に含む内側部66aと、これら内側部66aの周囲に配設された周辺部66bとに電気的に分離されている。従って、共振器孔63a〜63fのそれぞれの内導体65は、端面62aで外導体66から電気的に分離(開放)され、端面62bで外導体66に電気的に導通(短絡)されている。
【0030】
共振器孔63aは、その内壁面に形成された内導体65、誘電体ブロック62及び外導体66と共に、一つの誘電体共振器を構成している。同様に、共振器孔63b〜63fもそれぞれ誘電体共振器を構成している。従って、フィルタ67,68は、それぞれ3段の帯域通過フィルタとなる。
【0031】
以上の構成からなるデュプレクサ61は、前記第1実施形態のデュプレクサ21と同様の作用効果を奏する。
【0032】
[第4実施形態、図6]本発明に係る誘電体フィルタ装置の一つの実施形態を図6に示す。誘電体フィルタ装置81は、直方体形状を有する単一の誘電体ブロック82を備えている。誘電体ブロック82は、その互いに対向する端面82a,82bの一方から他方にそれぞれ貫通する共振器孔83a〜83dを有する。これらの共振器孔83a〜83dは、その軸が互いに平行になるように誘電体ブロック82に形成されている。共振器孔83aと83bの間には、外部結合孔86が形成されている。
【0033】
帯域通過フィルタ89を構成する共振器孔83b〜83dは、相互に同一形状であり、大径孔部84cとこの大径孔部84cに連通した小径孔部84dとを有したステップ構造の孔である。帯域阻止フィルタ88を構成する共振器孔83aは、大径孔部84aとこの大径孔部84aに連通した小径孔部84bとを有したステップ構造の孔である。共振器孔83a〜83dの内壁面にはそれぞれ内導体85が形成されている。そして、帯域通過フィルタ89の共振器孔83b〜83dのステップ比と、帯域阻止フィルタ88の共振器孔83aのステップ比とは、それぞれ独立して設定される。
【0034】
誘電体ブロック82の外面には、入出力端子91,92を除くほぼ全面に外導体87を形成している。共振器孔83a〜83dの内導体85には、大径孔部84a,84c側の端部付近にgで示す導体非形成部を設けており、この部分(言い換えると、外導体87から電気的に分離されている部分)を開放端としている。一方、開放端と反対側の内導体85の部分(言い換えると、外導体87に電気的に接続している部分)を短絡端としている。
【0035】
共振器孔83aは、その内壁面に形成された内導体85,誘電体ブロック82及び外導体87と共に、一つの誘電体共振器を構成している。同様に、共振器孔83b〜83dもそれぞれ誘電体共振器を構成している。従って、フィルタ89は3段の帯域通過フィルタとなり、フィルタ88は1段の帯域阻止フィルタとなる。外部結合孔86の内周全面には、内導体が形成されている。外部結合孔86は入出力端子91に導通している。すなわち、外部結合孔86の内導体は、端面82aでは外導体87と電気的に分離し、端面82bでは外導体87と電気的に導通している。
【0036】
入出力端子91,92は、外導体87に対して所定の間隔を確保して、外導体87に非導通の状態で形成されている。入出力端子91に接続された外部結合孔86と、これに隣り合う共振器孔83a,83bとは電磁界結合され、この電磁界結合により外部結合を得ている。入出力端子92と共振器孔83dとの間には、外部結合容量Ceが形成される。
【0037】
以上の構成において、例えば、帯域阻止フィルタ88の中心周波数が帯域通過フィルタ89の中心周波数より低い場合、帯域阻止フィルタ88の共振器孔83aのステップ比を大きくしたり、あるいは、帯域通過フィルタ89の共振器孔83b〜83dのステップ比を小さくしたりして、共振器孔83aのステップ比を共振器孔83b〜83dのステップ比より大きくする。例えば、共振器孔83aのステップ比を大きくすると、共振器孔83aの軸方向における帯域阻止フィルタ88の誘電体ブロック82の長さを長くしなくても、帯域阻止フィルタ88の中心周波数は低くなる。
【0038】
図6に示した誘電体フィルタ装置81は、共振器孔83aの大径孔部84aの径と共振器孔83b〜83dの大径孔部84cの径を等しく設定すると共に、共振器孔83aの小径孔部84bの径を共振器孔83b〜83dの小径孔部84dの径より小さく設定している。これにより、内導体85の導体非形成部gの位置を、全ての共振器孔83a〜83dに対して揃えることができる。また、共振器孔83a〜83dの軸方向における各フィルタ88,89の誘電体ブロック82の長さ(言い換えると、共振器長)を揃えることができる。この結果、加工や組み立てのし易い誘電体フィルタ装置81が得られる。
【0039】
[第5実施形態、図7]本発明に係るデュプレクサの別の実施形態を図7に示す。デュプレクサ101はフィルタを四つ有するもので、直方体形状を有する単一の誘電体ブロック102を備えている。誘電体ブロック102は、その互いに対向する端面102a,102bの一方から他方にそれぞれ貫通する共振器孔103a〜103hを有する。共振器孔103aと103bの間、共振器孔103dと103eの間、及び共振器孔103gと103hの間には、それぞれ外部結合孔111,112,113が形成されている。
【0040】
送信フィルタ120は、帯域阻止フィルタ115と帯域通過フィルタ116からなる。帯域通過フィルタ116を構成する共振器孔103b〜103dは、相互に同一形状であり、大径孔部104cとこの大径孔部104cに連通した小径孔部104dとを有したステップ構造の孔である。帯域阻止フィルタ115を構成する共振器孔103aは、大径孔部104aとこの大径孔部104aに連通した小径孔部104bとを有したステップ構造の孔である。共振器孔103a〜103dの内壁面にはそれぞれ内導体105が形成されている。そして、帯域通過フィルタ116の共振器孔103b〜103dのステップ比と、帯域阻止フィルタ115の共振器孔103aのステップ比とは、それぞれ独立して設定される。
【0041】
受信フィルタ121は、帯域阻止フィルタ118と帯域通過フィルタ117からなる。帯域通過フィルタ117を構成する共振器孔103e〜103gは、相互に同一形状であり、大径孔部104eとこの大径孔部104eに連通した小径孔部104fとを有したステップ構造の孔である。帯域阻止フィルタ118を構成する共振器孔103hは、大径孔部104gとこの大径孔部104gに連通した小径孔部104hとを有したステップ構造の孔である。共振器孔103e〜103hの内壁面にはそれぞれ内導体105が形成されている。そして、帯域通過フィルタ117の共振器孔103e〜103gのステップ比と、帯域阻止フィルタ118の共振器孔103hのステップ比とは、それぞれ独立して設定される。
【0042】
誘電体ブロック102の外面には、送信端子Tx、受信端子Rx及びアンテナ端子ANTを除くほぼ全面に外導体106を形成している。共振器孔103a〜103hのそれぞれの内導体105は、端面102aで外導体106から電気的に分離(開放)され、端面102bで外導体106に電気的に導通(短絡)されている。
【0043】
共振器孔103aは、その内壁面に形成された内導体105、誘電体ブロック102及び外導体106と共に、一つの誘電体共振器を構成している。同様に、共振器孔103b〜103hもそれぞれ誘電体共振器を構成している。従って、フィルタ116,117はそれぞれ3段の帯域通過フィルタとなり、フィルタ115,118はそれぞれ1段の帯域阻止フィルタとなる。外部結合孔111,112,113の内周全面には、それぞれ内導体が形成されている。外部結合孔111,112,113はそれぞれ送信端子Tx、アンテナ端子ANT、受信端子Rxに導通している。すなわち、外部結合孔111〜113のそれぞれの内導体は、端面102aでは外導体106と電気的に分離し、端面102bでは外導体106と電気的に導通している。
【0044】
以上の構成からなるデュプレクサ101は、前記第1実施形態のデュプレクサ21と同様の作用効果を奏する。
【0045】
[第6実施形態、図8]第6実施形態は、本発明に係る通信機装置の一実施形態を示すもので、携帯電話を例にして説明する。図8は、携帯電話150のRF送受信部分の電気回路ブロック図である。図8において、151はアンテナ素子、152はアンテナ共用器、153は受信回路、154は送信回路である。ここに、アンテナ共用器152として、前記第1、第2、第3、第5実施形態のデュプレクサ21,41,61,101を使用することができる。
【0046】
[他の実施形態]なお、本発明に係る誘電体フィルタ装置、デュプレクサ及び通信機装置は前記実施形態に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更することができる。特に、前記実施形態では、共振器孔の大径孔部の軸方向の長さと、小径孔部の軸方向の長さとが等しいため、境界において形成される段差部は共振器孔の軸方向の中央部に位置しているが、必ずしもこれに限るものではない。大径孔部の軸方向の長さと、小径孔部の軸方向の長さとを異ならせることによって、段差部が共振器孔の開口部近傍に形成されたものであってもよい。
【0047】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、低域側フィルタの共振器孔のステップ比を、高域側フィルタの共振器孔のステップ比よりも大きくすることにより、共振器孔の内導体の導体非形成部の位置を移動させたり、共振器孔の軸方向における各フィルタの誘電体ブロックの長さを変えることなく、低域側フィルタ及び高域側フィルタの中心周波数を調整することができる。この結果、加工や組み立てのし易い誘電体フィルタ装置、デュプレクサ及び通信機装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るデュプレクサの第1実施形態を示す斜視図。
【図2】本発明に係るデュプレクサの第2実施形態を示す斜視図。
【図3】本発明の参考例を示す斜視図。
【図4】別の参考例を示す斜視図。
【図5】本発明に係るデュプレクサの第3実施形態を示す斜視図。
【図6】本発明に係る誘電体フィルタ装置の一実施形態を示す斜視図。
【図7】本発明に係るデュプレクサの第4実施形態を示す斜視図。
【図8】本発明に係る通信機装置の一実施形態を示す電気回路ブロック図。
【図9】従来のデュプレクサを示す斜視図。
【符号の説明】
21,41,41A,41B,61,101…デュプレクサ
81…誘電体フィルタ装置
22,42,50a〜50f,52a〜52d,62,82,102…誘電体ブロック
22a,22b,42a,42b,62a,62b,82a,82b,102a,102b…端面
23a〜23f,43a〜43f,63a〜63f,83a〜83d,103a〜103h…共振器孔
24a,24c,44a,44c,64a,64c,84a,84c,104a,104c,104e,104g…大径孔部
24b,24d,44b,44d,64b,64d,84b,84d,104b,104d,104f,104h…小径孔部
25,45,65,85,105…内導体
26,46,66,87,106…外導体
27,47,67,120…送信フィルタ
28,48,68,121…受信フィルタ
71…帯状導体非形成部
88,115,118…帯域阻止フィルタ
89,116,117…帯域通過フィルタ
91,92…入出力端子
150…携帯電話
151…アンテナ素子
152…アンテナ共用器
153…受信回路
154…送信回路
g…導体非形成部
ANT…アンテナ端子
Tx…送信端子
Rx…受信端子
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-10-11 
結審通知日 2005-10-17 
審決日 2005-10-28 
出願番号 特願平10-273507
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (H01P)
P 1 123・ 536- ZA (H01P)
P 1 123・ 537- ZA (H01P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岸田 伸太郎  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 浜野 友茂
望月 章俊
登録日 2003-09-12 
登録番号 特許第3470613号(P3470613)
発明の名称 誘電体フィルタ装置、デュプレクサ及び通信機装置  
代理人 井上 裕史  
代理人 井上 裕史  
代理人 岩坪 哲  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  
代理人 井上 義隆  
代理人 岩坪 哲  
代理人 井上 義隆  

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