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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04F
管理番号 1131763
審判番号 不服2004-81  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-12-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-05 
確定日 2006-02-16 
事件の表示 特願2000-156971「床暖房用薄畳」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月7日出願公開、特開2001-336280〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年(2000年)5月26日に出願された特願2000-156971号の特許出願であって、平成15年4月25日付の原審における拒絶理由通知に対して平成15年6月30日付で意見書と共に同日付の手続補正書が提出され、平成15年11月21日付で本願特許出願についての拒絶査定がなされたところ、前記拒絶査定に対して平成16年1月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成16年1月29日付の手続補正書が提出されて明細書についての補正がなされたものである。

第2 平成16年1月29日付の手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成16年1月29日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成16年1月29日付の手続補正は、平成15年6月30日付の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の
「【請求項1】 床暖房システムの床上に敷かれる床暖房用薄畳において、耐熱収縮性及び良熱伝導性を有する、ビデオテープ等のポリエステル樹脂の廃材から成形された樹脂パネルを芯材とし、この芯材に、ポリエステル等の樹脂材を原料とした発泡体から成るクッション材を積層することにより畳床を構成し、畳床の表面に畳表を縫糸により縫着し、その縫着は畳床の上面及び下面から少なくとも各1回行っていることを特徴とする床暖房用薄畳。」
の記載を、
「【請求項1】 床暖房システムの床上に敷かれる、厚さ15mm前後の床暖房用薄畳において、耐熱収縮性及び良熱伝導性を有する、ビデオテープ等のポリエステル樹脂の廃材から成形された、厚さ5mm前後の樹脂パネルを芯材とし、この芯材に、ポリエステル等の樹脂材を原料とした発泡体から成るクッション材を積層することにより畳床を構成し、畳床の表面に畳表を縫糸により縫着し、その縫着は畳床の上面及び下面から少なくとも各1回行われ、上面及び下面からの縫糸の引っ張る力を互いに打ち消し合うようにしたことを特徴とする床暖房用薄畳。」
と補正する(以下、この補正を「本件補正」ということがある。)ことを含むものである。

2.補正の適否の検討
しかして、上記本件補正は、平成16年1月5日の拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内になされた補正であるから、特許法第17条の2第1項第3号に該当する補正であることは明らかである。
そして、前記本件補正は、請求項1に記載された発明特定事項である「床暖房用薄畳」及び「樹脂パネル」を、それぞれ「厚さ15mm前後の床暖房用薄畳」及び「厚さ5mm前後の樹脂パネル」と限定するものであるから、同法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、また、請求項1に記載された「その縫着は畳床の上面及び下面から少なくとも各1回行っていること」という発明特定事項である縫着に対し、「縫着は畳床の上面及び下面から少なくとも各1回行われ、上面及び下面からの縫糸の引っ張る力を互いに打ち消し合うようにしたこと」と限定するものであるから、同法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、これを「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。

3.独立特許要件の有無
(1)引用刊行物及び該引用刊行物の記載事項
(ア)原審における拒絶査定の理由に引用された本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開2000-37741号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「熱伝導性樹脂板及びこれを用いた床暖房用畳」に関し、次の事項が記載されている。
「【請求項4】畳床とこれの表面に被着される畳表とからなる床暖房用畳であって、畳床が、請求項1〜3の何れかに記載の熱伝導性樹脂板からなる床暖房用畳。」
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、熱伝導性樹脂板及びこれを用いた床暖房用畳に関する。」
「【0006】本発明は、上記のような課題に鑑み、適当な剛性と熱伝導性を必要とする材料として好適な熱伝導性樹脂板、及びこの熱伝導性樹脂板を使用した床暖房用畳を提供することを目的とする。」
「【0011】【発明の実施の形態】図1は本発明に係る床暖房用畳11の一部切欠平面図、図2はその断面図である。この床暖房用畳11は、畳床12と、この畳床12の表面に被着された畳表13とからなり、畳表13の長手方向両側縁部には畳縁14が縫い付けられる。畳床12は、本発明に係る熱伝導性樹脂板からなるもので、その厚みは13mm〜20mmの範囲とされる。また畳表13は、従来の畳表と同じく、いぐさで織られたゴザからなるもので、その厚みは2mm程度である。
【0012】畳床12を構成する熱伝導性樹脂板は、アルミニウムの切削加工屑からなる金属細片と、エポキシ樹脂とを混合加圧して板状に成形することにより形成されたものである。図3は、こうして形成された熱伝導性樹脂板からなる畳床12の表面を示す拡大平面図である。
【0013】この熱伝導性樹脂板を形成する金属細片としては、上記アルミニウムの切削加工屑以外に、銅の切削加工屑や銅線屑を利用することができ、あるいは鋼材の切削加工屑、鋼線屑も利用することができる。しかしながら、最も好ましい金属細片は、アルミニウムの切削加工屑であって、アルミニウムの性質から、鉄や銅に比べて非常に軽い上に、熱伝導性に優れ、耐食性も強く、また樹脂との結合が容易であるといった利点を有する。
【0014】また、金属細片と混合する合成樹脂としては、金属細片相互を結合する結合力があり、また温度や湿度の変化によっても硬度や寸法安定性に大きな影響を及ぼさないようなものを使用することが望ましく、このような点からすれば、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂が好ましい。もちろん、熱可塑性樹脂も使用することができる。」
「【0024】請求項4に係る発明の床暖房用畳は、畳床が、熱伝導性を有する金属細片と合成樹脂とを混合加熱して板状に成形することにより形成された熱伝導性樹脂板からなるものであるから、畳床として十分な剛性を有すると共に、畳下に設置された熱源板からの熱を極めて効率良く畳表に伝えることができる。また、吸湿性がないため、加熱と冷却とを繰り返しても反り変形や寸法変化を生ずることが少ない。」
そして、引用刊行物1の【図2】には、畳床12と該畳床12の表面に被着された畳表13とからなる床暖房用畳11の断面図が図示されている。
そうすると、上記引用刊行物1における前記摘記事項及び添付図面における記載からみて、引用刊行物1には、次の発明(以下、これを「引用発明1」という。)の記載が認められる。
「熱伝導性樹脂板からなり厚みが13mm〜20mmの範囲とされる畳床12と、いぐさで織られたゴザからなり厚みが2mm程度で、前記畳床12の表面に被着される畳表13とからなる床暖房用畳11であって、前記畳表13の長手方向両側縁部には畳縁14が縫い付けられている床暖房用畳」

(イ)原審における拒絶査定の理由に引用された本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開2000-120255号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「磁気テープ収縮片を原料とする芯板を用いた畳」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】磁気テープ片を加熱処理してなるカール状の磁気テープ収縮と、バインダーとして加えた硬化性樹脂とを混合し、常温または加熱下で加圧成形してなるパネルを畳の芯板として用い、前記芯板の上部に畳表を取り付けたことを特徴とする畳。
【請求項2】前記芯板の少なくとも片面にシート状または板状の緩衝材を積層させてある請求項1記載の畳。
【請求項3】前記緩衝材として、厚紙、可塑性樹脂製のシートまたは板状体、発泡樹脂製のシートまたは板状体、不織布、ゴム製のシートまたは板状体の一つ以上を用いてなる請求項2記載の畳。
【請求項4】畳表を含めた畳全体の厚さが10〜25mmである請求項1、2または3記載の畳。」
「【0013】【課題を解決するための手段】本願の請求項1に係る畳は、磁気テープ片を加熱処理してなるカール状の磁気テープ収縮片と、バインダーとして加えた硬化性樹脂とを混合し、常温または加熱下で加圧成形してなるパネルを畳の芯板として用い、前記芯板の上部に畳表を取り付けたことを特徴とするものである。
【0014】本願発明で芯板として用いるパネルは、主として不要となった廃磁気テープ等のリサイクルによる有効利用を目的として開発されたものであり、曲げ強度および曲げ剛性が高く、寸法安定性が良く、また吸音性、断熱性、電磁波吸収性能、静電気防止性能を併せ持つという特徴を有している(例えば、特開平6-198649号公報、特開平7-256667号公報等参照)。
【0015】また、このパネルは、カール状に収縮させた磁気テープ収縮片を利用した製造方法の特徴から、内部に連続する空隙を有しており、通気性、透水性がある。
磁気テープについては、収縮してカール状になるものであればその種類は問わないが、ビデオテープ、カセットテープなどの磁気テープが好ましく、これら磁気テープの切断片または粉砕片は、その長さが5〜20mmであり、それが全テープ重量の50%以上含まれていることが望ましい。
【0016】また、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂のグループから選ばれた少なくも1種であることが好ましい。
【0017】さらに、ビデオテープ、カセットテープなどの磁気テープを20mm以下に切断あるいは粉砕し、摂氏100〜200度で加熱してカール状に収縮させて得られた磁気テープの収縮片に、上記熱硬化性樹脂のバインダーを加え、摂氏100〜200度、圧力2〜20kgf/cm2で加圧成形すると、曲げ強度が50kgf/cm2以上となる断熱通気層を構成するパネルが得られる。」
「【0021】請求項2は、請求項1に係る畳において、芯板の少なくとも片面にシート状または板状の緩衝材を積層させてある場合、請求項3はさらにその緩衝材が厚紙、可塑性樹脂製のシートまたは板状体、発泡樹脂製のシートまたは板状体、不織布、ゴム製のシートまたは板状体の一つ以上を用いてなる場合を限定したものである。
【0022】緩衝材を芯板の上面側に設ける場合は、主として、歩行性や感触の改善や畳の厚さの調整を目的としており、強度や耐圧性については基本的には芯板の物性に基づいている。緩衝材の厚さはその材質や畳全体の厚さにもよるが、1〜20mm程度、薄畳の場合で、通常1〜5mm程度となる。また、異なる材質の緩衝材を複数層積層してもよい。」
「【0031】本願発明は、畳1の芯板2として磁気テープ片を加熱処理してなるカール状の磁気テープ収縮片とバインダーを原料として加圧成形されたパネルを用いるものであり、本実施形態においては、板厚約10mmの芯板2の上面にクッション材としてポリエステル繊維製の厚さ約2mmの不織布3を載せ、その上に一般的なイグサを原料とする畳表4を重ねて、これを芯板2の端部に縫糸5で縫い付けてある。
【0032】なお、従来からの通常の畳と同様、畳1の長辺方向端部については畳表4を芯板2の下面側に巻き込み、畳1の側面から下面にかけて縫糸5で縫い付け(図示せず)、短片方向端部については畳縁6を被せ、畳縁6ごと側面から下面にかけて縫糸5で縫い付けている(図1(c)参照)。」
「【0042】【発明の効果】丸1 本願発明で用いている芯板は、従来のインシュレーションファイバーボードや発泡スチロールの芯板に比べ、強度が高く、縁部の欠けも生じない。また、芯材となるパネルを比重を0.35〜0.50g/cm3程度となるように成形することで、薄畳に適用した場合においても適度な重さと歩行性、感触が得られ、畳が移動したり外れたりする恐れが少ない。
【0043】丸2 芯板について、従来のインシュレーションファイバーボードや発泡スチロール等の人工材料のものに比べ、温度や湿度、乾燥等による変形・寸法変化がほとんどなく、隙間が生じたり、見栄えが悪くなったりするという問題がない。
【0044】丸3 芯板は、内部に多数の空隙を有する構造となっており、芯板自体、断熱性、防音性が高いため、本願発明の畳を用いた場合、居住性に優れ、階下への騒音の問題も少ない。
【0045】丸4 芯板は、内部に多数の空隙を有する構造となっているため、畳表を芯板の側面、裏面から、直接、縫い付けることもできる。丸5 芯板が通気性、透水性を有するため、適度な保湿効果が得られ、かつ水等をこぼした場合でも、インシュレーションファイバーボードのように芯板が腐るといった恐れがなく、湿気の発散によりすぐ乾き、またかびにくいという利点がある。
【0046】丸6 芯板が薄肉でも十分な強度、適度な重さが得られるため、芯板と畳表との間に、適宜、クッション材を介在させることで、畳表面の硬さや弾力性等による歩行感を任意に調整することもできる。
【0047】丸7 芯板が難燃性であり、従来の発泡スチロール等の芯板の場合には、タバコの火などが下まで伝わるのに対し、火災等に対する安全性も高い。丸8 芯板の原料となる磁気テープとして、廃磁気テープを用いる場合には、廃材の有効利用としての経済効果も得られる。」

(ウ)原審における拒絶査定の理由に周知技術文献として引用された本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開平11-247411号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、「床材」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】表面側から、クッション材、吸水性シート、基板の表裏面をアルミニウムシートでカバーしたアルミ板、木質繊維ボード、クッション材、プラスチックシートをこの順に積層し、全厚みを25mm以下にしたことを特徴とする床材。
【請求項2】表面側のクッション材が吸水性シートを兼ねるものである請求項1記載の床材。
【請求項3】全体を縫着したものである請求項1又は2記載の床材。」
「【0009】クッション材とは、畳の上を歩行した場合に人間に適度のクッション性を感じさせるためのもので、材質は不織布、ゴム、布、厚紙、発泡プラスチック等が使用できる。中でも不織布が好適である。厚みとしては、0.5〜1.5mm程度が好適である。表裏同一のものが簡単であるが、異なったものでもよい。」
「【0011】本発明で言う基板とは、プラスチックダンボール、プラスチック板、発泡プラスチック板、ベニヤ板等である。要するに、ある程度の剛性を有するものであればよい。プラスチックダンボール(所謂プラダン)は、1層型でも、多層型でもよい。材質はポリ塩化ビニル、ポリエチレン等のポリオレフィン等である。また、プラスチック板や発泡プラスチックも同様の材質でよい。この基板の厚みは、2〜10mm程度であり、その材質によって選択すればよい。」
「【0018】これらの層を固着する方法は、どのようなものでもよい。例えば、接着、ホッチキス止め等である。しかし、全体として縫着する方法が好ましい。上記課題でも述べたが、ホッチキス止めでは予め固着できないのである。なぜならば、ホッチキスを全面に施すと寸法取りした後にカッターで裁断できない、予め寸法は分からない、固着は全面に施したい等のためである。
【0019】縫着は、手又は機械で行なうが、従来の畳床縫着装置では厚みが合わないため困難である。よって、高さを調節するため、ダミー板を積層する等の工夫が必要である。
【0020】【発明の実施の形態】以下図面に示す実施の形態に基づき本発明をより詳細に説明する。図1は、本発明床材1の1例を示す斜視図である。図2は、図1の断面図である。上層から順に、クッション材としての不織布2、吸収性シートとしての厚紙3、アルミシート4、基板(ここではプラスチック板)5、アルミシート4、パーティクルボード6、クッション材としての厚紙7、プラスチックシート8から構成されている。プラスチック板5とアルミシート4は接着されているが、その他は特別接着はされていない。そして、全体として縫着糸9で縫着されている。この図のように、全面に縫い目がある方が好ましい。このようにしておけば、どこで裁断してもすべての層が十分固着される。固着と言っても、畳表や縁を取りつける時に移動しなければないため、全面接着する必要等はないのである。
【0021】この例では、全体の厚みは15mmである。厚みの調整は、パーティクルボードであ粉鵜のが簡単である。
【0022】縫着の間隔(針孔の間隔は、左右隣合う距離)は、2〜10cm程度で、図のようにほぼ全面に施工するのが好適である。このようにしておけば、畳職人が畳表を張る場合には、床材を裁断するだけでよく、クッション材の貼付やホッチキス止め等の作業はまったく不要である。」

(エ)原審における拒絶査定の備考に周知技術文献として追記された本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開平5-311851号公報(以下、「引用刊行物4」という。)には、「簡易薄畳とその製造方法」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【0018】図において、(A)は板状の熱可塑性樹脂発泡体を芯板(1)として、これに畳表(2)を装着した本発明に係る簡易薄畳を示している。」
「【0023】前記芯板(1)は、これに畳表(2)を装着した畳の全厚が7〜25mmの範囲になるように設定される。畳の全厚を前記のように設定するのは、その厚みが25mmを越えると嵩高になって重く簡易薄畳としては適さず、また7mm未満では、畳として必要な緩衝性やクッション性さらには断熱性や耐圧縮性が劣るからである。簡易薄畳(A)としての使用上特に好適な範囲は10〜20mmの厚みのものである。また前記簡易薄畳(A)は、主として半畳(820×820mm〜1000×1000mm)もしくは1畳に相当する寸法に形成されるが、他の大きさや形状にすることもできる。半畳程度の大きさのものが運搬、および移動が容易である。また通常の畳より幅を小さくすることもできる。」
「【0032】畳縁(5)は、例えば図5に示すように、畳上面において端部を内側に折込むとともに、この畳上面から芯板(1)の側面を経て下面に回し、畳上面側の折曲端部(5a)と下面側の端部(5b)を芯板(1)に対し上面側からのミシン縫製により同時に一体的に縫着している。(9)はその縫糸を示す。(10)は畳上面側の畳縁(5)の内部に挿入した保形用の芯紙である。」
「【0042】したがって接着剤の硬化を待たないで、前記の仮止め状態で、次の畳縁(5)の縫着工程に供することができる。そして、縫着工程においては、畳縁(5)を図10に示すように、端部を内側に折返して芯紙(10)を挿入した畳縁(5)を畳上面側から芯板(1)の下面に回すように被覆させ、畳上面側の折曲端部(5a)と下面側の端部(5b)とを芯板(1)に対しミシン縫製により同時に縫着する。」

(2)対比及び一致点・相違点
ここで、本願補正発明1と前記引用発明1とを対比すると、引用発明1における「床暖房」、「床暖房用畳11」、「熱伝導性樹脂板」、「畳床12」、「畳表13」及び「縫い付け」が、本願補正発明1の「床暖房システム」、「床暖房用薄畳」、「芯材の樹脂パネル」、「畳床」、「畳表」及び「縫着」にそれぞれ対応する。
また、引用発明1における「前記畳床12の表面に被着される畳表13とからなる床暖房用畳11であって、前記畳表13の長手方向両側縁部には畳縁14が縫い付けられている床暖房用畳」の構成は、とりもなおさず「畳床12と、該畳床12の表面に被着される畳表13とが、畳表13の長手方向両側縁部に添えられる畳縁14とともに、縫糸により一体に縫着される」ことを示していることに他ならないから、引用発明1の前記構成は、本願補正発明1の「畳床の表面に畳表を縫糸により縫着し、」の構成を具備していることは明らかである。
してみると、本願補正発明1と引用発明1との両者は、「床暖房システムの床上に敷かれる樹脂パネルを芯材とすることにより畳床を構成し、畳床の表面に畳表を縫糸により縫着した床暖房用薄畳」である点で、両者の構成が一致し、次の点で相違する。
相違点1:本願補正発明1の畳床が「樹脂パネルの芯材に、樹脂材を原料とした発泡体から成るクッション材を積層することにより構成」されるものであるのに対し、引用発明1の畳床には前記クッション材が積層されていない点。
相違点2:本願補正発明1の芯材が「耐熱収縮性及び良熱伝導性を有する、ビデオテープ等のポリエステル樹脂の廃材から成形された樹脂パネル」であるのに対し、引用発明1では「熱伝導性樹脂板」である点。
相違点3:本願補正発明1が「厚さ15mm前後の床暖房用薄畳」で「厚さ5mm前後の樹脂パネル」としているのに対し、引用発明1では「厚みが13mm〜20mmの範囲とされる畳床12の表面に厚みが2mm程度の畳表13が被着される」とされている点。
相違点4:本願補正発明1が「その縫着は畳床の上面及び下面から少なくとも各1回行われ」た構成であるのに対し、引用発明1は前記構成が不明である点。
相違点5:本願補正発明1が「上面及び下面からの縫糸の引っ張る力を互いに打ち消し合うようにした」のに対し、引用発明1は前記構成が不明である点。

(3)相違点についての判断
(ア)相違点1についての検討
畳床を、樹脂パネルの芯材に、樹脂材を原料とした発泡体から成るクッション材を積層することにより構成する技術は、上記引用刊行物2の特許請求の範囲に「【請求項2】前記芯板の少なくとも片面にシート状または板状の緩衝材を積層させてある請求項1記載の畳。」及び「【請求項3】前記緩衝材として、厚紙、可塑性樹脂製のシートまたは板状体、発泡樹脂製のシートまたは板状体、不織布、ゴム製のシートまたは板状体の一つ以上を用いてなる請求項2記載の畳。」と記載されているように、本願の特許出願前の公知技術である。
そうすると、引用発明1に前記公知技術を適用することにより、本願補正発明1の上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が困難性を要せずに容易になし得ることである。

(イ)相違点2についての検討
畳床の芯材を、耐熱収縮性及び良熱伝導性を有する、ビデオテープ等のポリエステル樹脂の廃材から成形された樹脂パネルで構成する技術は、上記引用刊行物2の特許請求の範囲に「【請求項1】磁気テープ片を加熱処理してなるカール状の磁気テープ収縮と、バインダーとして加えた硬化性樹脂とを混合し、常温または加熱下で加圧成形してなるパネルを畳の芯板として用い、前記芯板の上部に畳表を取り付けたことを特徴とする畳。」と記載されているように、本願の特許出願前の公知技術である。
そうすると、引用発明1に前記公知技術を適用することにより、本願補正発明1の上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が困難性を要せずに容易になし得ることである。

(ウ)相違点3についての検討
まず、本願補正発明1の「厚さ15mm前後の床暖房用薄畳」について検討すると、前記引用刊行物1の段落【0011】に「畳床12は、本発明に係る熱伝導性樹脂板からなるもので、その厚みは13mm〜20mmの範囲とされる。また畳表13は、従来の畳表と同じく、いぐさで織られたゴザからなるもので、その厚みは2mm程度である。」と記載されている。この記載によれば、引用発明1の13mm〜20mmの厚みの畳床12に、厚みが2mm程度の畳表を積層して構成される床暖房用薄畳は、合計すれば厚みが15mm〜22mm前後の床暖房用薄畳が得られることとなるのは、明らかなことである。そうすると、引用発明1における床暖房用薄畳を15mm前後の厚みとした場合には、本願補正発明1と同じ「厚さ15mm前後の床暖房用薄畳」の範囲を充足する床暖房用薄畳であることになる。
また、引用刊行物3の段落【0021】には「この例では、全体の厚みは15mmである。」と記載され、さらに、引用刊行物4の段落【0023】にも「前記芯板(1)は、これに畳表(2)を装着した畳の全厚が7〜25mmの範囲になるように設定される。畳の全厚を前記のように設定するのは、その厚みが25mmを越えると嵩高になって重く簡易薄畳としては適さず、また7mm未満では、畳として必要な緩衝性やクッション性さらには断熱性や耐圧縮性が劣るからである。簡易薄畳(A)としての使用上特に好適な範囲は10〜20mmの厚みのものである。」と記載されている。
そうしてみると、床暖房用薄畳の仕上がりの全体厚さの寸法を、本願補正発明1のような「厚さ15mm前後」と設定することは、当業者が適宜選択できる設計事項にすぎないことが明らかである。 つぎに、本願補正発明1の「厚さ5mm前後の樹脂パネル」について検討すると、床暖房用薄畳の厚さを、本願補正発明1の「厚さ15mm前後」の数値範囲に設定した場合には、本願補正発明1の「厚さ5mm前後の樹脂パネル」の寸法の数値範囲は、床暖房用薄畳を構成する「樹脂パネルの芯材」、「発泡体から成るクッション材」及び「畳表」のそれぞれが占める厚さから割り出されるべき各厚さ寸法からみて、常識的な寸法の数値範囲であり、何らかの有意性のある特異な数値範囲ということができず、しかも、その「厚さ5mm前後の」という数値範囲の臨界的意義が不明であり、その数値範囲に何らの根拠をも確認することができない。 そして、引用刊行物3の段落【0011】に「この基板の厚みは、2〜10mm程度であり、その材質によって選択すればよい。」と記載されていることからみても、床暖房用薄畳の芯材の「樹脂パネル」の厚さの寸法を、本願補正発明1のような「厚さ5mm前後」と設定することは、当業者が必要に応じて適宜採用できる設計事項にすぎないことである。 このように、本願補正発明1の上記相違点3に係る構成は、当業者が必要に応じて適宜選択採用できる設計事項である。

(エ)相違点4についての検討
例えば、引用刊行物3の段落【0020】に「そして、全体として縫着糸9で縫着されている。この図のように、全面に縫い目がある方が好ましい。このようにしておけば、どこで裁断してもすべての層が十分固着される。」と記載され、段落【0022】にも「縫着の間隔(針孔の間隔は、左右隣合う距離)は、2〜10cm程度で、図のようにほぼ全面に施工するのが好適である。このようにしておけば、畳職人が畳表を張る場合には、床材を裁断するだけでよく、クッション材の貼付やホッチキス止め等の作業はまったく不要である。」と記載されている。また、引用刊行物4の段落【0032】には「畳縁(5)は、例えば図5に示すように、畳上面において端部を内側に折込むとともに、この畳上面から芯板(1)の側面を経て下面に回し、畳上面側の折曲端部(5a)と下面側の端部(5b)を芯板(1)に対し上面側からのミシン縫製により同時に一体的に縫着している。(9)はその縫糸を示す。」と記載され、また段落【0042】に「縫着工程においては、畳縁(5)を図10に示すように、端部を内側に折返して芯紙(10)を挿入した畳縁(5)を畳上面側から芯板(1)の下面に回すように被覆させ、畳上面側の折曲端部(5a)と下面側の端部(5b)とを芯板(1)に対しミシン縫製により同時に縫着する。」と記載されている。 このように、畳の縫着を、畳床の上面及び下面から少なくとも各1回行われるようにする技術は、本願特許出願時の周知慣用技術であるといえる。 そうすると、引用発明1に前記周知慣用技術を適用することにより、本願補正発明1の上記相違点4に係る構成を得ることは、当業者が困難性を要せずに容易になし得ることである。

(オ)相違点5についての検討
一般的な縫着において、上糸(本願補正発明1の「上面からの縫糸」に対応する。)と下糸(本願補正発明1の「下面からの縫糸」に対応する。)とで縫着する場合には、例えば縫着ミシンにおけるように、上糸と下糸の調子、すなわち上糸と下糸の張力を互いに均衡する(本願補正発明1の「縫糸の引っ張る力を互いに打ち消し合う」に対応する。)ように、縫着の前に上糸と下糸のいずれか一方の張力を調節して均衡させておくことは、縫着の技術分野における技術常識である。
そうしてみると、引用発明1の縫着においても、当然に採用される技術常識の発露として、上糸と下糸の張力を互いに均衡するように縫着の前に縫糸の引っ張る力が調節されてあるのであり、その結果として、本願補正発明1のように「上面及び下面からの縫糸の引っ張る力を互いに打ち消し合うように」縫着されることとなるのは、引用発明1の縫着における自明の事項であるといえる。 したがって、本願補正発明1の相違点5に係る構成の相違は、引用発明1における自明の事項であるから、本願補正発明1と引用発明1との間に実質上の差異はない。

そして、本願補正発明1の奏する作用・効果は、上記引用発明1及び引用刊行物2乃至引用刊行物4にそれぞれ記載された発明或いは周知慣用技術から予測できる範囲のものであって、格別顕著のものということができない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明1は、上記引用発明1及び引用刊行物2乃至引用刊行物4にそれぞれ記載された発明或いは周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明1は特許法第29条第2項の規定により、その特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成16年1月29日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、当審が審理すべき本願発明は、平成15年6月30日付の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、これを「本願発明1」という。)である。
「【請求項1】 床暖房システムの床上に敷かれる床暖房用薄畳において、耐熱収縮性及び良熱伝導性を有する、ビデオテープ等のポリエステル樹脂の廃材から成形された樹脂パネルを芯材とし、この芯材に、ポリエステル等の樹脂材を原料とした発泡体から成るクッション材を積層することにより畳床を構成し、畳床の表面に畳表を縫糸により縫着し、その縫着は畳床の上面及び下面から少なくとも各1回行っていることを特徴とする床暖房用薄畳。」

2.引用刊行物及び該引用刊行物に記載の事項並びに引用発明
原審における拒絶査定の理由に引用され、或いはその備考に追記された引用刊行物1、引用刊行物2、引用刊行物3及び引用刊行物4に記載された事項は、前記「第2」の「3.独立特許要件の有無」欄の「(1)引用刊行物及び該引用刊行物の記載事項」項の(ア)ないし(エ)に摘記したとおりであり、また、引用刊行物1に記載されている発明(引用発明1)は、同(ア)に前記したとおりのものである。

3.対比・判断
ところで、本願補正発明1の発明特定事項は、本件補正前の本願発明1の発明特定事項である「床暖房用薄畳」及び「樹脂パネル」を、それぞれ「厚さ15mm前後の床暖房用薄畳」及び「厚さ5mm前後の樹脂パネル」と限定的に減縮し、また、本件補正前の本願発明1の「その縫着は畳床の上面及び下面から少なくとも各1回行っていること」という発明特定事項である縫着に対し、「縫着は畳床の上面及び下面から少なくとも各1回行われ、上面及び下面からの縫糸の引っ張る力を互いに打ち消し合うようにしたこと」と限定的に減縮する本件補正の結果によるものであるから、本願発明1が本願補正発明1の上位概念の発明であることは明らかである。
してみると、本願発明1の下位概念の発明に当たる本願補正発明1が、前記「二、」の「5.判断」欄に記載したとおり、上記引用発明1及び引用刊行物2乃至引用刊行物4にそれぞれ記載された発明或いは周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願補正発明1の上位概念に相当する発明特定事項からなる本願発明1も、本願補正発明1についての理由と同様の理由により、上記引用発明1及び引用刊行物2乃至引用刊行物4にそれぞれ記載された発明或いは周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

4.むすび
以上のとおりであり、本願発明1は、上記引用発明1及び引用刊行物2乃至引用刊行物4にそれぞれ記載された発明或いは周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-16 
結審通知日 2005-12-19 
審決日 2006-01-05 
出願番号 特願2000-156971(P2000-156971)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04F)
P 1 8・ 575- Z (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 柴田 和雄
佐藤 昭喜
発明の名称 床暖房用薄畳  
代理人 板谷 康夫  
代理人 板谷 康夫  

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