• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1131879
審判番号 不服2003-9335  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-11-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-22 
確定日 2006-02-20 
事件の表示 平成11年特許願第127654号「インクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月21日出願公開、特開2000-318171〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年5月7日の出願であって(以下、平成11年5月7日を「本願出願日」という。)、その出願からの主だった経緯を箇条書きにすると以下のとおりである。
・平成11年 5月 7日 本件出願
・平成14年 7月10日付け 原審にて拒絶理由の通知
・平成14年 9月10日付け 意見書・手続補正書の提出
・平成15年 4月17日付け 原審にて拒絶査定の通知
・平成15年 5月22日 本件審判請求
・平成15年 8月28日付け 審判請求書に係る手続補正書

第2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「記録ヘッドから記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、記録ヘッドのインク吐出口面と記録媒体との距離を切り換えるための紙間調整機構部と、前記インク吐出口面をワイピングする第1のワイパーと、前記第1のワイパーと同じ全長を有し、前記第1のワイパーが前記インク吐出口面をワイピングした後に前記インク吐出口面をワイピングする第2のワイパーと、を備え、前記紙間調整機構部により前記距離を第1の距離にしたときの、前記記録ヘッドに対する前記第1のワイパーの接触量が前記第2のワイパーの接触量より大きく、前記距離を前記第1の距離にしたときの前記記録ヘッドに対する前記第2のワイパーの接触量と、前記距離を前記第1の距離よりも大きい第2の距離にしたときの前記記録ヘッドに対する前記第1のワイパーの接触量とが略同一に設定されることを特徴とするインクジェット記録装置。」

第3 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成4年7月6日に頒布された特開平4-187445号公報には、次の事項が記載されている。
(1)「可撓性のクリーニングブレードで記録ヘッド全面を拭き払う動作を行うノズルクリーニング装置を有するインクジェットプリンタにおいて、前記可撓性のクリーニングブレードが、突出長さの異なる複数枚で構成されていることを特徴とするインクジェットプリンタ。」(第1頁左下欄第5行目〜同欄第10行目参照。)
(2)「さらに、多くのインクジェットプリンタにおいては記録紙と記録ヘッドの距離は一定にする必要があるため、記録紙の紙厚に応じ記録ヘッドを移動し、距離を一定にする方法が取られている。そのため、クリーニングブレードと記録ヘッドの接触量を最適に保つことは極めて困難であった。」(第2頁右上欄第1行目〜同欄第7行目参照。)
(3)「第1図は、本発明の一実施例を示す平面図である。図中Pは、記録紙である。1は、記録紙Pを巻き付けて印字を行なうプラテンである。前記プラテン1に対向してガイド部材2に案内され、前記プラテン1の軸方向に移動するキャリッジ3があり、前記キャリッジ3上には、記録ヘッド4が搭載されている。記録ヘッド4は、記録紙Pの紙厚に応じ記録紙Pとの距離を適切に保てるよう前進位置と後進位置を切り換え手段(図示せず)により選択可能である。第1図は、キャリッジ3がホームポジションにある状態を示しており、この状態においては、記録ヘッド4の前面部にあるノズル部の乾燥を防止するために弾性部材からなるキャップ5がノズルを覆うことによってノズル部を湿潤状態に保つように構成されている。前記キャップ5は、チューブ6を介しヘッド回復手段(図示せず)に接続されており、記録ヘッド4にインクの吐出不良が発生したときノズルからインクをポンプにより吸引することによって吐出不良を回復するように構成されている。」(第2頁左下欄第4行目〜同頁右下欄第3行目参照。)
(4)「このホームポジションと前記プラテン1の間には、記録ヘッド4のノズル部近傍に付着したゴミを拭き払い、かつ、余分なインクを拭き取る可撓性(例えばNBR等のゴム製)のクリ-ナ7が装備されている。クリーナ7は、突出長さの異なる2枚のクリーニングブレード7a、7bを有している。」(第2頁右下欄第4行目〜同欄第10行目参照。)
(5)「クリーニングブレード7a、7bと、記録ヘッド4の前面部との位置関係は、第4図に示すように設定されている。つまり、記録ヘッド4が前進位置にセットされている時は、クリーニングブレード7aが撓み過ぎる事なく、必ず、クリーニングブレード7aの角で記録ヘッド4の前面に接触するように、また、同様に、記録ヘッド4が後進位置にセットされている時は、クリーニングブレード7bが撓み過ぎる事なく、必ず、クリーニングブレード7bの角で記録ヘッド4の前面に接触するように、クリーニングブレード7a、7bの位置が設定されている。」(第3頁左下欄第15行目〜同頁右下欄第6行目参照。)
(6)「以下、ヘッド回復指令がきたときのシーケンスについて、第1図、第2図及び第3図を参照しながら説明する。
ステップ1:キャリッジ3を左から右(第1図中矢印C方向)へ移動させホームポジションに達したら、キャップ5を前進させ記録ヘッド4のノズル部を覆う(第1図の状態)。
ステップ2:図示しないインク回復装置を動作させ、インクをノズル部より吸引する。
ステップ3:キャップ5を後退させる。
ステップ4:図示しない紙送りモータを動作させ、プラテン1を紙送り方向(第3図中矢印B方向)へクリーニングブレード7a、7bが完全にセットされるまで回転させる。
ステップ5:キャリッジを、ホームポジションから左方向(第1図中矢印D方向)へ移動させ、クリーニングブレード7a、7bを通過した位置で停止させる。
ステップ6:図示しない紙送りモータを動作させ、プラテン1を反転送り方向(第2図中矢印A方向)ヘクリーニングブレード7a、7bが完全にリセットされるまで回転させる。
ステップ7:キャリッジ3を右から左(第1図中矢印C方向)へ移動させホームポジションに移動させる。
ステップ8:キャップ5を前進させ記録ヘッド4のノズル部を覆う。」(第3頁右下欄第15行目〜第4頁右上欄第1行目)
(7)「さらに、このシーケンスでは1回のクリーニング装置の動作を行なう方法について説明したが、ステップ4の状態、つまりクリーニングブレード7a、7bをセットしたまま、その前方でキャリッジを左右に動かすことによって複数回のクリーニング動作を行なったり、前記ステップ4からステップ7の動作を繰り返すことによって複数回のクリーニング動作を行なうこともできる。」(第4頁右上欄第2行目〜同欄第9行目)
(8)「本実施例においては、記録ヘッド4が前進位置と後進位置の2つの位置を持つため、2枚の突出長さの異なる可撓性のクリーニングブレードを使用したが、この記録ヘッドの位置が多くなれば、それに応じ突出長さが各々異なる可撓性のクリーニングブレードの枚数を増やすことが効果的である。また、記録ヘッドと記録用紙の距離が可変できない場合に於いても、部品公差、組立バラツキを吸収するために可撓性のクリーニングブレードを突出長さを変えて複数枚にすることは有効である。」(第4頁右上欄第10行目〜同欄第20行目参照。)
(9)「第5図は、本発明による他の実施例のクリーニングブレードを示す図である。16、17は可撓性のクリーニングブレードであり、18はクリーナ支持部材、27はクリーナ開閉板である。クリーニングブレード16、17は突出長さを変えてクリーナ支持部材18にピン19により固定されている。その長さの設定、他の構造、動作は前述の実施例と同様である。つまり、突出長さの異なる複数の可視性のクリーニングブレードを別々にクリーナ支持部材に取り付けたものである。このように構成した場合は、クリーニングブレードを打ち抜きにより作製できるため、一体で作製する場合に比較し、成形金型がいらなくなり安価にできるという効果がある。」(第4頁左下欄第1行目〜同欄第14行目参照。)
(10)「[発明の効果]以上述べたように本発明によれば、突出長さが異なる複数枚のクリーニングブレードを設けるという簡単な構成で、記録ヘッドの位置に関係なく確実に記録ヘッドの前面に付着したゴミを払い取る事が可能になるという効果を有する。さらに、構成が前述の如く簡単なため、安価なノズルクリーニング手段を有するインクジェットプリンタを提供できるものである。」(第4頁左下欄第15行目〜右下欄第3行目参照。)

2.引用刊行物に記載の発明の認定
したがって、上記記載事項を含む引用刊行物の全記載及び図示によれば、引用刊行物には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「突出長さの異なる複数枚で構成された可撓性のクリーニングブレード7a,7bで記録ヘッド4前面を拭き払う動作を行うノズルクリーニング装置を有するインクジェットプリンタにおいて、記録ヘッド4は、記録紙Pの紙厚に応じ記録紙Pとの距離を適切に保てるよう前進位置と後進位置を切り換え可能であり、記録ヘッド4が前進位置にセットされている時は、クリーニングブレード7aが撓み過ぎる事なく、必ず、クリーニングブレード7aの角で記録ヘッド4の前面に接触するように、また、同様に、記録ヘッド4が後進位置にセットされている時は、クリーニングブレード7bが撓み過ぎる事なく、必ず、クリーニングブレード7bの角で記録ヘッド4の前面に接触するように、クリーニングブレード7a、7bの位置が設定されていることを特徴とするインクジェットプリンタ。」

3.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「記録ヘッド4」、「記録紙P」、「記録ヘッド4の前面」及び「記録ヘッド4の前面に接触する」はそれぞれ、本願発明の「記録ヘッド」、「記録媒体」、「インク吐出口面」及び「ワイピングする」に相当する。
引用発明は「記録ヘッド4は、記録紙Pの紙厚に応じ記録紙Pとの距離を適切に保てるよう前進位置と後進位置を切り換え可能」であるから、引用発明は本願発明の「記録ヘッドのインク吐出口面と記録媒体との距離を切り換えるための紙間調整機構部」を有すると共に、引用発明の「前進位置」及び「後進位置」はそれぞれ、本願発明の「第1の距離」及び「第2の距離」に相当することは明らかである。
クリーニングを目的として記録ヘッドと接触する限度において、記録ヘッドと記録媒体との接離方向における記録ヘッドとの相対位置の関係から、引用発明の「クリーニングブレード7a」及び「クリーニングブレード7b」はそれぞれ本願発明の「第1のワイパ」及び「第2のワイパ」に相当する。
引用発明において、「前進位置」における記録ヘッドとクリーニングブレードとの接触量はクリーニングブレード7aの方が大きいことは明らかである。
上記記載事項(6)及び(7)より、引用発明にはクリーニングブレード7aがクリーニング動作を行った後、クリーニングブレード7bがクリーニング動作を行うことが包含される。
引用発明は「インクジェットプリンタ」に係る発明であって、記録ヘッド4から記録紙Pにインクを吐出して記録を行うことは自明であるから、本願発明の「インクジェット記録装置」に相当することは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、
「記録ヘッドから記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、記録ヘッドのインク吐出口面と記録媒体との距離を切り換えるための紙間調整機構部と、前記インク吐出口面をワイピングする第1のワイパーと、前記第1のワイパーが前記インク吐出口面をワイピングした後に前記インク吐出口面をワイピングする第2のワイパーと、を備え、前記紙間調整機構部により前記距離を第1の距離にしたときの、前記記録ヘッドに対する前記第1のワイパーの接触量が前記第2のワイパーの接触量より大きいインクジェット記録装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
(1)相違点1
第1のワイパーと第2のワイパーの全長が、本願発明では同じであるのに対し、引用発明では異なる点。
なお、ここで言うワイパーの全長とは、ブレードホルダーの被取付面からブレード先端までの可撓部の長さであることを意味する。
(2)相違点2
記録ヘッドのインク吐出口面と記録媒体との距離を第1の距離にしたときの記録ヘッドに対する第2のワイパーの摺接状態と、前記距離を前記第1の距離よりも大きい第2の距離にしたときの前記記録ヘッドに対する第1のワイパーの摺接状態とが、本願発明では接触量が略同一に設定されるのに対し、引用発明ではいずれもクリーニングブレードが撓み過ぎる事なく角で記録ヘッドの前面に接触する点。

4.相違点についての判断
(1)相違点2について
そもそも、「略同一」なる表現は、厳密に一致しなくてもよいことを意味している。また、実施例(特に、段落【0011】参照。)においても、拭き取りが良好な接触量として0.8〜1.2(mm)という幅を持っていることからも裏付けられている。
また、上記記載事項(2)及び(10)から、引用発明においても、インク吐出口形成面と記録媒体の記録面との相互間距離が変更される場合にあって、クリーニング部材の接触量を適切な値とすることが出来るという、本願発明と同じ課題を有するものである。
ここで、ワイピング動作は、ワイパーの材料、長さ等の諸寸法及びワイピング速度等の諸条件により最適な接触状態が異なってくることは当業者にとって明らかである。さらに、適切な接触量といっても、上記諸条件により、相当幅の接触量をもつ場合もあれば、ワイパーの角部のみを接触させることが最適な場合も有り得る。よって、クリーニング部材の適切な接触状態とは、当業者が諸条件に基づき、当然適切な接触量となるように設定すべきことである。
以上より、明示はないが、引用発明は、本願発明と同じ課題の下、第1のワイパーと第2のワイパーのワイピング動作条件を同じにし、かつ適切な接触量としているものと見なし得る。
したがって、相違点2に係る本願発明は、引用発明において、当業者がワイパーの接触量を適宜設定したものに過ぎず、実質的な相違点にはならない。
(2)相違点1について
上記「(1)相違点2について」で検討したとおり、第1のワイパーと第2のワイパーとの接触量を略同一にすることは実質的な相違点にはならないから、相違点1は第1のワイパーと第2のワイパーとを単に同じ全長としたものに過ぎない。
同じ全長のワイパーを複数備えることは、強いて言えば製造上の利点が挙げられるが、従来より、一つのインクジェット装置に複数のワイパーを設けるに際して、長さを異ならせたり、同じとしたりすることは周知の技術であることから(例えば、原審拒絶理由で引用した特開平7-171967号公報(第1、3、4実施例参照。)、特開平8-20112号公報(実施例1参照。))、複数備えるワイパーの全長を同じとすること、すなわち相違点1に係る本願発明は、引用発明に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得るものである。

5.本願発明の進歩性の判断
上記各相違点に係る本願発明の特定事項を採用することは、当業者にとって容易に想到し得るものであり、これら発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることができない。
したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-26 
結審通知日 2005-12-27 
審決日 2006-01-10 
出願番号 特願平11-127654
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男大元 修二  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 靖子
藤本 義仁
発明の名称 インクジェット記録装置  
代理人 阿部 和夫  
代理人 谷 義一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ