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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1132131
審判番号 不服2002-9847  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-09-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-06-03 
確定日 2006-03-01 
事件の表示 平成 4年特許願第 95389号「冷媒組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 9月17日出願公開、特開平 5-239450〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年4月15日(パリ条約による優先権主張1991年4月18日 イギリス)の出願であって、その請求項1〜5に係る発明は、平成9年8月14日付け、平成11年7月14日付け及び平成12年2月17日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は次ぎのとおりのものであると認める。
「(I)次の成分:(a)1,1,1,2-テトラフルオロエタン;
(b)ジフルオロメタン又は1,1,1-トリフルオロエタン及び
(c)ペンタフルオロエタン
の三元混合物を含有してなる冷媒;及び
(II)エステル潤滑剤を含有してなる冷媒組成物であって、冷媒(I)は5〜95重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと95〜5重量%の別成分とを含有する冷媒組成物。」(以下、本願発明1という。)

2.原査定の理由
原査定の理由の要旨は、本願は、平成12年5月9日付け拒絶理由通知書
で示した本願の優先権主張日前の特許出願である(1)特願平1-311154号(特開平3-170585号公報参照)(以下、「先願1」という。)、(2)特願平1-311157号(特開平3-170588号公報参照)(以下、「先願2」という。)、及び本願の優先権主張日前の日を優先権主張する特許出願である(3)特願平3-511259号(特表平5-509113号公報参照)(以下、「先願3」という。)の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であり、本願の請求項1〜5に係る発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないというものである。

3.先願1〜3等に記載された事項
(1)先願1(特願平1-311154号)の当初明細書には、以下の事項の記載がある。
ア:「(1)ジフルオロメタン60重量%以下、ペンタフルオロエタン85重量%以下、テトラフルオロエタン15〜80重量%以下の少なくとも三種のフロン類を含む作動流体」(特許請求の範囲の請求項1)
イ:「産業上の利用分野 本発明は、エアコン・冷凍機等のヒートポンプ装置に使用される作動流体に関する。」(公開公報の第1頁左下欄14〜16行参照)
ウ:「本発明は・・・ジフルオロメタン(CH2F2)とペンタフルオロエタン(C2HF5)とテトラフルオロエタン(C2H2F4)の三種のフロン類を含み、ジフルオロメタン0〜略60重量%、ペンタフルオロエタン0〜略85重量%、テトラフルオロエタン略15〜略80重量%の組成範囲であことを特徴とするものであり、」(公開公報の第2頁左上欄10〜17行参照)
エ:「本発明は上述の組成範囲とすることによって、エアコン・冷凍機等のヒートポンプ装置の利用温度である略0〜略50℃においてR22と同程度の蒸気圧を有し、R22の代替として現行機器で使用可能な作動流体を提供することを可能とするものである。(公開公報の第2頁右上欄9〜15行参照)
オ:「実施例 以下、本発明による作動流体の実施例について図、を用いて説明する。第1図は、ジフルオロメタン(R32)、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)の三種のフロン類の混合物によって構成される作動流体の、一定温度・一定圧力における平衡状態を三角座標を用いて示したものである。」(公開公報の第2頁左下欄12〜20行参照)

(2)先願2(特願平1-311157号)の当初明細書には、以下の事項の記載がある。
カ:「(1)ペンタフルオロエタン85重量%以下、トリフルオロエタン80重量%以下、テトラフルオロエタン15〜45重量%以下の少なくとも三種のフロン類を含む作動流体。」(特許請求の範囲の請求項1)
キ:「産業上の利用分野 本発明は、エアコン・冷凍機等のヒートポンプ装置に使用される作動流体に関する。」(公開公報の第1頁左下欄14〜16行参照)
ク:「本発明は・・・ペンタフルオロエタン(C2HF5)とトリフルオロエタン(C2H3F3)とテトラフルオロエタン(C2H2F4)の三種のフロン類を含み、ペンタフルオロエタンを0〜略85重量%、トリフルオロエタン0〜略80重量%、テトラフルオロエタンを略15〜略45重量%の組成範囲であることを特徴とするものであり、」(公開公報の第2頁左上欄10〜17行参照)
ケ:「本発明は上述の組成範囲とすることによって、エアコン・冷凍機等のヒートポンプ装置の利用温度である略0〜略50℃においてR22と同程度の蒸気圧を有し、R22の代替として現行機器で使用可能な作動流体を提供することを可能とするものである。」(公開公報の第2頁右上欄9〜15行参照)
コ:「 実施例 以下、本発明による作動流体の実施例について図、を用いて説明する。第1図は、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)の三種のフロン類の混合物によって構成される作動流体の、一定温度・一定圧力における平衡状態を三角座標を用いて示したものである。」(公開公報の第2頁左下欄12〜20行参照)

(3)先願3(特願平3-511259号)の当初明細書には、以下の事項の記載がある。
サ:「1.35ないし65重量%のペンタフルオロエタン、30ないし60重量%の1,1,1-トリフルオロエタン、及び3ないし15重量%の1,2,2,2-テトラフルオロエタン・・・からなる群から選択されるペンタフルオロエタン及びまたはクロロジフルオロメタンを含む共沸様組成物。」(請求の範囲の請求項1)
シ:「本発明は、3成分の及び多成分のフッ素化炭化水素混合物、特に共沸様定沸点混合物に係り、・・・冷凍及び加熱用の冷媒組成物について詳しく述べるものである。このような混合物は、冷媒、熱媒体、・・・及びパワーサイクル作動流体として有用である。・・・低いオゾン減損能を有する化合物を探すことにあった。今日、スーパーの冷蔵庫に使用される一般的な2成分共沸混合物は、48.8重量%のクロロジフルオロメタン(HCFC-22)及び51.2重量%クロロペンタフルオロエタン(CFC-115)からなり、一般的に冷媒-502といわれる。CFC-115及びCClF2CF3は、その中の塩素の存在により高いオゾン減損能のため、その使用を低減される・・・このように、必要なものは、低減されたオゾン減損能を有し、かつ広範な組成にわたり重要な冷媒特性である蒸気圧及び難燃性を維持する代用冷媒である。」(公表特許公報第4頁左下欄5行〜同頁右下欄12行参照)

(4)原査定の理由において周知技術を示す文献として参照された特開昭61-211391号公報(以下、「刊行物4」という。)には、以下の事項の記載がある。
ス:「1.A)(a)トリクロルモノフルオルメタン・・・ジフルオルメタン/クロルペンタフルオルエタン共沸混合物、ジフルオルメタン、・・・1,1,1トリフルオルエタン、・・・ヘキサフルオルエタン/トリフルオルメタン共沸混合物、より成る群から選ばれた多ハロゲン化炭化水素冷却剤、
(b)ナフテンオイル、パラフィンオイル、アルキルベンゼン、・・・ジカルボン酸又はトリカルボン酸のジエステル又はトリエステル、・・・より成る群から選ばれた冷却オイル、及び(c)(a)及び(b)の混合物、より成る群から選ばれた冷凍液、及び・・・であるところの漏れ検出可能な冷却組成物」(特許請求の範囲の第1項)

(5)平成13年4月4日の面接の際に周知事項を示す文献として検討された、平成13年10月26日付け上申書に示されている、本願の優先権主張の日前に頒布された「国際公開第90/12849号パンフレット(以下、「刊行物5」という。)」(該パンフレットに対応する公表特許公報である特表平3-505602号公報の対応箇所も合わせて示す)には、以下の事項の記載されている。
セ:「米国特許第4.431.557号は、フッ素および塩素含有の冷却剤、炭化水素油、およびアルキレンオキシド添加化合物(これは、冷却剤の存在下にて、油の耐熱性を向上させる)から構成される流体組成物を記述している。炭化水素油の例には、鉱油、アルキルベンゼン油、二塩基酸エステル油、ポリグリコールなどが含まれる。・・・フルオロカーボン冷却剤の例には、R-11、R-12、R-113、R-114、R-500などが包含される。」(第4頁6〜17行、公表特許公報第3頁左下欄13〜21行参照)
ソ:「米国特許第4.428,854号は、冷却系で用いるための吸収性冷却剤組成物を記述している。この組成物は、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、およびこのエタンを溶解し得る有機溶媒を含有する。開示の溶媒には、有機アミド、アセトニトリル、N-メチルピロール、N-メチルピロリジン、N-メチル-2-ピロリドン、ニトロメタン、種々のジオキサン誘導体、グリコールエーテル、ギ酸ブチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、アセトン、メチルエチルケトン、他のケトンおよびアルデヒド、トリエチルリン酸トリアミド、リン酸トリエチレン、リン酸トリエチルなどがある。」(第4頁18〜28行、公表特許公報第3頁左下欄22行〜同頁右下欄7行参照)
タ:「1.以下の(A)および(B)を含有する液状組成物:(A)主要量の少なくとも1種のフッ素含有炭化水素であって、該炭化水素は、1個または2個の炭素原子を含有する;および(B)少量の少なくとも1種の溶解性有機潤滑剤であって、該有機潤滑剤は、少なくとも2個の水酸基を含む多価ヒドロキシ化合物のカルボン酸エステルの少なくとも1種を含有し、そして該力ルボン酸エステルは、以下の一般式により特徴づけられる:
R[OC(O)R1]n (I)
ここで、Rはヒドロカルビル基、各R1は、独立して、水素、直鎖の低級ヒドロカルビル基、分枝鎖のヒドロカルビル基、または8個〜約22個の炭素原子を含有する直鎖のヒドロカルビル基(但し、少なくとも1個のR1基は、水素、低級の直鎖ヒドロカルビル基または分枝鎖ヒドロカルビル基である)、またはカルボン酸含有のヒドロカルビル基またはカルボン酸エステル含有のヒドロカルビル基であり、そしてnは少なくとも2である。
2.請求項1の液状組成物であって、前記フッ素含有炭化水素(A)中では、フッ素が唯一のハロゲンである。
3.請求項1の液状組成物であって、前記フッ素含有炭化水素(A)は、1,1,1,2-テトラフルオロエタンである。
」(第29頁2〜25行の特許請求の範囲の第1〜3項、公表特許公報の特許請求の範囲の請求項1〜3参照)
チ:「ある代替物質が冷却剤として有用であるためには、それは、圧縮器で用いられる潤滑剤と相溶性でなければならない。
CFC-12のような現在用いられている冷却剤は、空気調和装置の圧縮器での潤滑剤として利用される鉱物性潤滑油と容易に相溶する。しかしながら、上記の冷却剤の候補は、現在使用されている冷却剤とは異なる溶解特性を有する。例えば、鉱物性の潤滑油は、RFC-134aと非相溶性(すなわち、非溶解性)である。このような非相溶性のために、冷却装置および空気調和装置(これには、自動車用の空気調和装置、家庭用の空気調和装置および工業用の空気調和装置が包含される)を含む圧縮タイプの冷却設備にて、圧縮器の寿命が不十分となる。この問題は、自動車の空気調和装置の系では、圧縮器が別に潤滑されないので、そして冷却剤と潤滑剤との混合物が系全体にわたって循環しているので、特に明らかである。」(第2頁28行〜第3頁12行、公表特許公報第3頁右上欄1行〜14行参照)

4.対比、判断
(1)先願1の当初明細書に記載の発明
先願1の当初明細書には、ジフルオロメタン60重量%以下、ペンタフルオロエタン85重量%以下、テトラフルオロエタン15〜80重量%以下の少なくとも三種のフロン類を含む作動流体が記載され(上記ア参照)、この「テトラフルオロエタン15〜80重量%以下」の意味するところは、「ジフルオロメタン0〜略60重量%、ペンタフルオロエタン0〜略85重量%、テトラフルオロエタン略15〜略80重量%の組成範囲」の記載(上記ウ参照)からみて、「テトラフルオロエタン15〜80重量」を意味することは明らかである。
さらに、作動流体の具体例として、テトラフルオロエタンが1,1,1,2-テトラフルオロエタンである、ジフルオロメタン(R32)とペンタフルオロエタン(R125)と1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)との三種のフロン類の混合物によって構成される作動流体が記載されている(上記オ参照)。
そして、先願1の「三種のフロン類の混合物」は本願発明1の「三元混合物」に相当し、先願1の「作動流体」は、エアコン・冷凍機等のヒートポンプ装置に使用され、R22の代替えとして有望なものであるから(上記イ、エ参照)、本願発明1の「冷媒組成物」に相当し、冷媒におけるテトラフルオロエタン(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)成分は15〜80重量%であるから別の成分(ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの合計)は85〜20重量%となる。
してみると、先願1には、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン及びペンタフルオロエタンの三元混合物を含有してなる冷媒組成物であって、冷媒は15〜80重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと85〜20重量%の別成分とを含有する冷媒組成物の発明(以下、先願発明1」という)が記載されている。

そこで、本願発明1と先願発明1とを対比すると、両者は、「1,1,1,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン及びペンタフルオロエタンの三元混合物を含有してなる冷媒であって、冷媒は15〜80重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと85〜20重量%の別成分とを含有する冷媒組成物」である点で一致し、前者がエステル潤滑剤を含有してなるのに対し、後者はこの点について明記されていない点において一応相違している。
以下、この相違点を検討する。
エアコン・冷凍機等のヒートポンプ装置において用いる作動流体である冷媒組成物には、潤滑剤を併用することは慣用手段であるので、先願1のエアコン・冷凍機等のヒートポンプ装置において用いる先願1の作動流体においても、潤滑剤を併用することは特に明記されていないが、当然、潤滑剤を併用するものと認められ、潤滑剤の併用を除外しているものではない。
そこで、フッ素含有炭化水素等の多ハロゲン化炭化水素冷却剤(冷媒)に併用される冷却オイル、つまり、冷媒用潤滑剤についてみてみると、例えば、刊行物4にはナフテンオイル、パラフィンオイル、アルキルベンゼンと共にジカルボン酸又はトリカルボン酸のジエステル又はトリエステルジカルボン酸が例示され、また、刊行物5には、従来例としてフッ素及び塩素含有の冷却剤と鉱油、アルキルベンゼン油、二塩基酸エステル油、ポリグリコールなどの炭化水素油を含む流体組成物が記載され(上記セ参照)、また、冷却系で用いるための吸収性冷却剤組成物に関し、1,1,1,2-テトラフルオロエタンを溶解し得る有機溶媒としてギ酸ブチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル等が記載されている(上記ソ参照)と共に、フッ素含有炭化水素冷媒と、少なくとも2個の水酸基を含む多価ヒドロキシ化合物のカルボン酸エステルを含有する冷却液体として有用な液状組成物が記載され(上記タ参照)、フッ素含有炭化水素冷媒としてジフルオロクロロメタンであるHCFC-22、や1,1,1,2-テトラフルオロエタンであるHFC-134a等が例示され(上記タ、チ参照)、また、鉱物性の潤滑剤油はHFC-134aと非相溶性(すなわち、非溶解性)であると記載されている(上記チ参照)ように、フッ素含有炭化水素等の多ハロゲン化炭化水素冷却剤(冷媒)に併用される冷却オイル、つまり、冷媒用潤滑剤として、エステル潤滑剤は周知のものであり、冷媒がフッ素含有炭化水素であるHFC-134aである場合には、エステル潤滑剤の方が鉱油より溶解性が良いことも知られている。
してみると、1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含むフッ素含有炭化水素の特定の三種の混合物から成る冷媒組成物とともに用いる潤滑剤には、当然にエステル潤滑剤が含まれるものと読められるから、先願1にはエステル潤滑剤が記載されているに等しいと認められる。
ところで、本願の明細書において、併用する潤滑剤については、段落【0034】(平成12年2月17日付け手続補正書)に「冷媒は潤滑剤と一緒に冷媒組成物に処方でき且つ通常処方されるものである。何れか慣用の潤滑剤を使用し得るが、ポリアルキレン グリコール類及び特にエステル類が好ましい。熱安定性の高い潤滑剤を選択することにより、慣用の炭化水素潤滑剤を用いて現在可能であるよりも高い圧縮機排出温度で操作することができ、これによって冷却系の熱力学的効率を改良させ得る。」と記載されているが、明細書には、どのようなエステル潤滑剤を用いるかは具体的に記載がない。
ましてや、そもそも実施例として潤滑剤を併用した具体例すら示されておらず、本願発明1が特定三種の混合物から成る冷媒組成物にエステル潤滑剤を併用した場合に奏する作用効果がどのようなものかは明確ではなく、先願発明1の特定三種の混合物から成る冷媒組成物にエステル潤滑剤を併用することにより、先願発明1の特定三種の混合物から成る冷媒自体による効果及び多ハロゲン化炭化水素冷媒やフッ素含有炭化水素の冷媒に併用するエステル潤滑剤自体の効果を超える著しい効果、つまり新たな効果が生じたものとは認められないので、エステル潤滑剤を含有する場合のみが先願1に実質的に記載されていない、とすることができない。
よって、本願発明1は、先願発明1と実質同一であるので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

(2)先願2の当初明細書に記載の発明
先願2の当初明細書には、ペンタフルオロエタン85重量%以下、トリフルオロエタン80重量%以下、テトラフルオロエタン15〜45重量%以下の少なくとも三種のフロン類を含む作動流体が記載され(上記カ参照)、この「テトラフルオロエタン15〜45重量%以下」の意味するところは、「ペンタフルオロエタンを0〜略85重量%、トリフルオロエタン0〜80重量%、テトラフルオロエタンを15〜45重量%の組成範囲である」との記載(上記ク参照)からみて、「テトラフルオロエタン15〜45重量」を意味することは明らかである。
さらに、作動流体の具体例として、テトラフルオロエタンが1,1,1,2-テトラフルオロエタンであり、トリフルオロエタンが1,1,1-トリフルオロエタンである、ペンタフルオロエタン(R125)と1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)と1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)の三種のフロン類の混合物によって構成される作動流体が記載されている(上記コ参照)。
そして、先願2の「三種のフロン類の混合物」は本願発明1の「三元混合物」に相当し、先願2の「作動流体」は、エアコン・冷凍機等のヒートポンプ装置に使用され、R22の代替えとして有望なものであるから(上記キ、ケ参照)、「冷媒組成物」に相当し、冷媒におけるテトラフルオロエタン(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)成分は15〜45重量%であるから別の成分(1,1,1-トリフルオロエタンジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの合計)は85〜55重量%となる。
してみると、先願2には、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1-トリフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの三元混合物を含有してなる冷媒であって、冷媒は15〜45重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと85〜55重量%の別成分とを含有する冷媒組成物が記載されている(以下、「先願発明2」という。)。

そこで、本願発明1と先願発明2とを対比すると、両者は、「1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1-トリフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの三元混合物を含有してなる冷媒組成物であって、冷媒は15〜45重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと85〜55重量%の別成分とを含有する冷媒組成物」である点で一致し、前者がエステル潤滑剤を含有してなるのに対し、後者はこの点について明記されていない点において一応相違している。
この相違点を検討するに、先願発明2もエアコン・冷凍機等のヒートポンプ装置に用いられるものであるから、上記(1)の先願1の当初明細書に記載の発明で相違点について述べた理由と同様にして、エステル潤滑剤は先願2に記載されているに等しいものと認められる。
よって、本願発明1は、先願発明2と実質同一であるので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

(3)先願3の当初明細書に記載の発明
先願3の当初明細書には、35〜65重量%のペンタフルオロエタン、30〜60重量%の1,1,1-トリフルオロエタン及び3〜15重量%の1,2,2,2-テトラフルオロエタンからなるペンタフルオロエタンを含む共沸様組成物から成る冷媒組成物が記載されている(上記サ参照)。
そして、先願3の3成分から成る「共沸様組成物」は本願発明1の「三元混合物」に相当し、先願3の1,2,2,2-テトラフルオロエタンは本願発明1の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと同一の化合物である
り、冷媒における1,1,1,2-テトラフルオロエタン成分は3〜15重量%であるから別の成分(1,1,1-トリフルオロエタンジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの合計)は97〜85重量%となる。
してみると、先願3には、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1-トリフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの三元混合物を含有してなる冷媒であって、冷媒は3〜15重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと97〜85重量%の別成分とを含有する冷媒組成物が記載されている(以下、「先願発明3」という。)。
そこで、本願発明1と先願発明3とを対比すると、両者は、「1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1-トリフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの三元混合物を含有してなる冷媒組成物であって、冷媒は5〜15重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと95〜85重量%の別成分とを含有する冷媒組成物」である点で一致し、前者がエステル潤滑剤を含有してなるのに対し、後者はこの点について明記されていない点において一応相違している。
この相違点を検討するに、先願発明3も冷蔵庫等に用いられるものであるから、上記(1)の先願1当初明細書に記載の発明で相違点について述べた理由と同様にして、エステル潤滑剤は先願3に記載されているに等しいものと認められる。
よって、本願発明1は、先願発明3と実質同一であるので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

(4)請求人の主張について
平成14年9月5日付け審判請求書の手続補正書及び平成13年10月26日付け上申書において、請求人は、(i)本願の出願時には、冷却用途に普通使用される唯一の潤滑剤は鉱油であった。(ii)本願発明1は、オゾン層の破壊に関連しているR-22/鉱油及びR-502/鉱油組成物を代替するための適当な冷媒/潤滑剤組成物を見出したもので、R-22及びR-502の主たる使用は住宅の空調及び工業用例えばスーパーマーケットの冷却用途であるから、特定型式のハイドロフルオロカーボン冷媒混合物と熱安定性の高いエステル潤滑剤との併用によって解決されるのに対し、上記上申書によれば、刊行物5は、R-134aが主として自動車の空調かつまた家庭用の冷却に広く用いられていた冷媒R-12の代りにオゾンに優しい代替品として開発され、R-134a用の適当な潤滑剤を提供することに関しているに過ぎず、家庭用の冷却および自動車の空調系は、住宅の空調および工業用冷却系とは全く異なるシステムであり、R-22及びR-502を用いる型式の装置に代替冷媒に対して有用であり得る潤滑剤についての知識は与えていない。(iii)参考資料-1(「オゾン保護工業技術の国際会議、“オゾン”(1997)バルチモア コンベンションセンター、会議の議事録)及び参考資料-2(本発明者の1人(Drステュアート コール)による宣誓供述書)を提出し、慣用の炭化水素冷却潤滑剤例えば鉱油、ポリアルファーオレフィン及びアルキルベンゼン類と対比して、エステル潤滑剤は冷却系で出会う広い温度範囲に亘ってハイドロフルオロカーボン冷媒混合物と向上した混和性、溶解性を有し、冷却系の油戻り特性及び性能特性に有利な効果を奏することは明らかであると主張している。
(i)について:刊行物4及び5によれば、フッ素含有炭化水素等の多ハロゲン化炭化水素冷却剤に併用される冷却オイル、つまり、冷媒用潤滑剤として、エステル潤滑剤は当業者において周知であり、フッ素含有炭化水素等の冷却剤に併用される冷媒用潤滑剤として鉱油が唯一のものとして知られていたものでもない。
(ii)について:刊行物5に家庭用の冷却および自動車の空調系に係るとの記載があるとしても、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)と併用し得る潤滑剤であれば、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)を含む特定三種の混合物から成るフッ素含有炭化水素の冷媒の潤滑剤についての知識を与えていないとはいえず、まして、本願発明1の冷媒組成物は、住宅の空調及び工業用例えばスーパーマーケットの冷却用途に限定されているものではなく、家庭用の冷却及び自動車の空調用に使用することを除外しているものではないことからみれば、刊行物4及び刊行物5に記載されているように、1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含むフッ素含有炭化水素の特定の3種の混合物から成る引用発明1の冷媒組成物においても、エステル潤滑剤を併用することは、周知の技術手段といえるものである。
(iii)について:参考資料-1及び2に記載の事項を検討してみるに、参考資料-1及び2は本願出願日以前に関する技術に関するものかは不明ではあるが、R-407C(本願発明1に係る冷媒)にポリオールエステル(POE)及びエステル潤滑剤としてエムカレート(登録商標)RL32を併用したものが鉱油を併用したものに比して、混和性について優れていることを示している。
しかし、刊行物5には、鉱物性の潤滑剤油はHFC-134aと非相溶性(すなわち、非溶解性)であるので、溶解性有機潤滑剤として少なくとも2個の水酸基を含む多価ヒドロキシ化合物のカルボン酸エステルを使用することが記載ており、本願の優先権主張日以前にエステル潤滑剤がフッ素含有炭化水素冷媒の混和性について優れていることは知られていたものであり、エステル潤滑剤それ自体の効果であって、先願発明1〜3の特定三種の混合物から成る冷媒組成物とエステル潤滑剤を組み合わせたことにより新たに生じた効果ではない。
してみると、請求人の上記(i)〜(iii)の主張を採用することはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、先願1〜3の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者が、先願1〜3に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本願の出願時において、その出願人が上記先願1〜3の出願人と同一でもないので、本願発明1は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-05 
結審通知日 2005-10-07 
審決日 2005-10-19 
出願番号 特願平4-95389
審決分類 P 1 8・ 161- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子山本 昌広  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 佐藤 修
井上 彌一
発明の名称 冷媒組成物  
代理人 吉武 賢次  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 横田 修孝  
代理人 高村 雅晴  
代理人 紺野 昭男  
代理人 中村 行孝  
代理人 堅田 健史  
代理人 浅野 真理  

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