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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1132338
審判番号 不服2001-17880  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-03-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-10-04 
確定日 2006-03-09 
事件の表示 平成 8年特許願第232374号「積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月24日出願公開、特開平10- 76617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年9月2日を出願日とする出願であって、平成13年4月24日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月4日に意見書と同時に本願明細書を補正する手続補正書が提出されたが、同年8月27日付けで拒絶査定がなされた。
その後、同年10月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月2日に本願明細書を補正する手続補正書が提出されたものである。

2.平成13年11月2日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成13年11月2日付けの手続補正(以下、本件補正という)を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、本願明細書の特許請求の範囲についての以下の補正を含むものである。
特許請求の範囲「【請求項1】 少なくとも基材と、極性官能基を有するオレフィン系樹脂からなる接着剤層と、透明ないし半透明のオレフィン系樹脂層を積層してなる積層体において、前記オレフィン系樹脂層に紫外線吸収剤を分散してあり、アイスーパーUVテスターにて100時間曝露後の波長350nmでの前記オレフィン系樹脂層の紫外線透過率が30%以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】 オレフィン系樹脂層に、さらにヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を添加してなることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】 基材上に装飾層を形成し、その上に接着剤層、オレフィン系樹脂層を積層してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。」を
「【請求項1】 少なくとも基材と、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂の一種または二種以上をバインダーとするインキ層からなる装飾層と、極性官能基を有するオレフィン系樹脂からなる接着剤層と、透明ないし半透明のオレフィン系樹脂層を積層してなる積層体において、前記インキ層、接着剤層、およびオレフィン系樹脂層は分子中に塩素原子を含まない樹脂が用いられると共に前記オレフィン系樹脂層に紫外線吸収剤およびヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を分散してあり、アイスーパーUVテスターにて100時間曝露後の波長350nmでの前記オレフィン系樹脂層の紫外線透過率が30%以下であることを特徴とする積層体。」と補正する。

(2)補正内容の検討
補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1及び2を引用する請求項3の発明において、装飾層、接着剤層及びオレフィン系樹脂層の材料を限定するものである。
したがって、本件補正は、補正前の請求項3に記載した、発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
次に、本件補正によって補正された請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(3)補正後発明
補正後の請求項1に係る発明は、上記「(1)補正の内容」に記載した、平成13年11月2日付で補正された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものである。

(4)本願の出願前に頒布された刊行物の記載
a.特開平8-1881号公報(拒絶理由で引用した刊行物2)
(a-1)「【請求項1】ポリプロピレンとポリオレフィン系軟質成分とを含有する樹脂からなる基材シート上に、ポリプロピレンとポリオレフィン系軟質成分とを含有する樹脂からなるエンボスシートを設けてなることを特徴とする化粧シート。
【請求項9】前記基材シート表面に任意の絵柄印刷を設けてなることを特徴とする請求項1〜8記載の化粧シート。
【請求項10】前記エンボスシートが透明性を有し、核剤を添加してなるものであることを特徴とする請求項1〜9記載の化粧シート。
【請求項13】溶融したポリプロピレンとポリオレフィン系軟質成分とを含有する樹脂をエンボスの施された冷却ロール上に押し出してエンボスシートとし、このエンボス裏面と、ポリプロピレンとポリオレフィン系軟質成分とを含有する樹脂からなる基材シートの表面とを、少なくとも一方をコロナ処理し、少なくとも一方に接着剤を塗布し、乾燥後熱圧ロールにて接着することを特徴とする請求項1〜12記載の化粧シートの製造方法。」(特許請求の範囲)、

(a-2)「その他に基材シートには、シートを押し出す際の熱酸化を防止するためにフェノール系酸化防止剤を、得られた製品の紫外線による劣化を防止するためにヒンダートアミン系光安定剤を、適宜添加しうる。
基材シートの表面に設ける任意の絵柄2としては、基材シートとの密着性がよいものを用い、特にインキ自体の凝集性、汎用性からウレタン系のインキが最適である。
基材シートとエンボスシートの接着に用いる接着剤3としては、ポリオレフィン系樹脂用の接着剤であれば特に限定するものではないが、前記インキと同様の理由からウレタン系の接着剤が最適である。接着剤の塗布量としては、2〜15μmが好適である。2μm以下では十分な接着強度が得られず、15μm以上ではシートの折り曲げ時の白化発生に影響を及ぼす。
本発明におけるエンボスシート4としては、基材シートと同様の樹脂が使用可能である。特にエンボスを施すシートであるため透明性を要求されるために、場合によってはポリプロピレン中に核剤を添加して透明性を上げることも好適に実施される。
その他、エンボスシートには基材シートに対して紫外線を防ぐために酸化防止剤及び光安定化剤以外にベンゾトリアゾール系に代表される紫外線吸収剤も適宜添加しうる。」(段落【0016】〜【0020】)、

(a-3)「【実施例】基材シートとしてランダム重合ポリプロピレンを78.3重量%、低密度ポリエチレンを15重量%、無機系着色材料を6重量%、フェノール系酸化防止剤を0.2重量%、ヒンダートアミン系光安定剤を0.3重量%、ブロッキング防止剤を0.2重量%添加した樹脂を溶融押出したシートを用い、この表面上にコロナ処理を施した後グラビア印刷法により絵柄用インキ(東洋インキ製造(株)製:「ラミスター」)を用いて木目模様を施した。
エンボスシートとしてランダム重合ポリプロピレンを77.8重量%、低密度ポリエチレンを15重量%、フェノール系酸化防止剤を0.2重量%、ヒンダートアミン系光安定剤を0.3重量%、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量%、ブロッキング防止剤を0.2重量%添加した樹脂を押出機により導管エンボスの施された冷却ロール上に溶融押出したシートを用い、この裏面にコロナ処理を行なった後、接着剤(東洋モートン(株)製:「アドコート806」)をグラビア法により3μmの厚さになるように塗布した。
このようにして得られたエンボスシートと前記基材シートとをロール温度80℃、線圧5kg/cmの熱圧ロールにより積層接着し、化粧シートを得た。」(【0027】〜【0029】)。

b.特開平5-269950号公報(拒絶理由で引用した刊行物1)
(b-1)「【請求項1】ポリエチレン100 重量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.08重量部以上、ヒンダードアミン系光安定剤0.1重量部以上、リン系酸化防止剤0.05重量部以上、および紫外線吸収剤0.1 重量部以上、を着色顔料と共に含むポリエチレン組成物からなる樹脂層が、接着剤層を介して母材の表面に被覆されていることを特徴とする、着色ポリエチレン被覆材料。」(特許請求の範囲)、

(b-2)「本発明において、ポリエチレン樹脂被覆が施される母材は、一般には鋼材であるが、母材の材質は鉄鋼に限定されるものではなく、アルミニウムなどの他の金属材料、さらには石材、木材、セラミックスなども可能である。以下では、代表的な母材材料である鋼材を母材とする場合について説明する。」(段落【0012】の一部)、

(b-3)「ポリエチレン樹脂層の接着性を高めるために、鋼材表面を予め適当なプライマーで処理してもよい。プライマーとしては、例えば、エポキシ系プライマーなどが使用できる。」(段落【0014】の一部)

(b-4)「接着剤としては、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂などの、極性を付与するように変性した変性ポリエチレン樹脂が特に高い接着性を示すので好ましい。」(段落【0015】の一部)、

(b-5)「ポリエチレン樹脂には、少量の他のα-オレフィンやビニルモノマーが共重合されていてもよい。」(段落【0016】の一部)、

(b-6)「被覆する着色ポリエチレン樹脂組成物は、中低圧法ポリエチレン (昭和電工製;ショウレックスS4002 EX、MFR 0.20g/10分、密度 0.935g/cc、いずれもJIS K 7210に準じて測定) に、表1に示す2〜4種の顔料 (各顔料の添加量はほぼ同じとした) と、下記(a) 〜(f) のいくつかの劣化防止剤を組合わせて配合することにより調製した。
(a)・・・ (c) ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン) セバケート (HALS) (d)・・・ (e) 2- (3’-t-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル) -5-クロロベンゾトリアゾール (紫外線吸収剤) (f) ・・・ 。」(段落【0035】〜【0036】)、

(b-7)「この劣化防止剤を含有する着色ポリエチレン樹脂組成物と接着剤の無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂(三井石油化学製;アドマー)を2層共押出することにより、幅900 mmの複層ポリエチレンシートを得た。このシートの厚みは、接着剤層が0.3 mm、着色ポリエチレン樹脂層が2.2 mmであった。このシートを赤外線ヒーターで約80℃に加熱した後、上記の予熱した鋼矢板の凸部に押さえロールで鋼矢板に転圧しながら接着剤層の変性ポリエチレン樹脂を融着させて被覆し、着色ポリエチレン被覆鋼矢板を得た。」(段落【0038】)、

(b-8)実施例1〜8は、前記(c)と(e)の劣化防止剤を、ポリエチレン100重量部に対して、それぞれ0.10〜0.20重量部添加したものであること(5〜6頁の表1)。

c.特開平6-79842号公報(拒絶理由で引用した刊行物3)
(c-1)「【請求項1】ポリエステル系樹脂層、接着性樹脂層、及び無機質充填材含有ポリオレフィン系樹脂層の、少なくとも3層の樹脂構成からなる易焼却多層プラスチック構造物。
【請求項4】請求項1乃至3に記載の易焼却多層プラスチック構造物において、接着性樹脂層がエチレン/α-オレフィン共重合物のカルボン酸変性樹脂を少なくとも含む樹脂であることを特徴とする易焼却多層プラスチック構造物。」(特許請求の範囲)、

(c-2)「無機質充填材含有ポリオレフィン樹脂層における、無機質充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、シリカなどが好ましく、ポリオレフィンとの接着性が乏しい場合には、無機質充填材の表面処理や、カップリング剤の使用をしても良い。無機質充填材の充填量は、0〜75重量%程度まで充填できるが、10〜65%程度が好ましい。充填量が多すぎると加工性や落下衝撃特性が乏しくなり、逆に少なすぎると燃焼カロリー低下の効果が少なくなってしまう。」(段落【0014】の一部)

(5)補正後発明と刊行物に記載の発明との比較・検討
(5-1)刊行物2記載の発明との比較
刊行物2には、基材シートの表面に絵柄印刷を設け、その表面に接着剤層を介して、ポリプロピレンとポリオレフィン系軟質成分とを含む樹脂シートを積層した化粧シートの発明(以下、刊行物2発明という。)が記載され((a-1))、前記絵柄印刷には、ウレタン系のインキを用いるのが最適であり、前記接着剤層に用いる接着剤としては、任意のポリオレフィン系樹脂用接着剤が使用でき、前記樹脂シートとしては透明性を有する場合があることが明示され((a-2))、発明の実施例として、前記ポリオレフィン系軟質成分として低密度ポリエチレンを用い、前記樹脂シートとしてヒンダートアミン系光安定剤0.3重量%とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.5重量%を添加したものが記載されている((a-3))。
そして、前記「ウレタン系のインキ」は、ポリウレタン樹脂をバインダーとするインキであることは自明であり、インキにより形成される絵柄印刷は、インキ層からなる装飾層に相当するものであり、前記実施例における「樹脂シート」は、ランダム重合ポリプロピレンと低密度ポリエチレン、フェノール系酸化防止剤0.2重量%、ヒンダートアミン系光安定剤0.3重量%とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.5重量%及びブロッキング防止剤0.2重量%とから形成されるものであるから、紫外線吸収剤およびヒンダードアミン系光安定剤が分散されたオレフィン系樹脂シートであり、樹脂シートは透明性を有する場合を含むとの記載および前記実施例における組成とを併せ考えると、実施例の樹脂シートは、不透明というよりも、透明ないし半透明と解される。
また、前記実施例において、樹脂シートは、分子中に塩素原子を含まない樹脂を用いたものであり、絵柄用インキおよび接着剤は、実施例が最良の例とされることを考慮すると、それぞれに最適であるとされるウレタン系のものを用いていると解され、分子中に塩素原子を含まない樹脂を用いるものと認める。
さらに、前記「ヒンダートアミン系光安定剤」における「光安定剤」は、本願明細書、段落【0018】の「紫外線による各層の劣化をさらに防止し、耐候性を向上させるためには、他の光安定剤としてラジカル捕捉剤も添加することが好ましい。このラジカル捕捉剤としては、・・・などのヒンダートアミン系ラジカル捕捉剤、・・・等が使用される。」との記載からみて、補正後発明の「ヒンダートアミン系ラジカル捕捉剤」における「ラジカル捕捉剤」に相当するものである。
してみると、補正後発明と刊行物2発明とは、次の(ア)の点で共通し、(イ)、(ウ)の点で一応相違する。
(ア)少なくとも基材と、ポリウレタン樹脂をバインダーとするインキ層からなる装飾層と、接着剤層と、透明ないし半透明のオレフィン系樹脂層を積層してなる積層体において、前記インキ層、接着剤層、およびオレフィン系樹脂層は分子中に塩素原子を含まない樹脂が用いられると共に前記オレフィン系樹脂層に紫外線吸収剤およびヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を分散してある積層体である点、
(イ)接着剤層に用いる接着剤が、補正後発明は「極性官能基を有するオレフィン系樹脂からなる接着剤」であるのに対し、刊行物2発明は、任意のポリオレフィン系樹脂用接着剤である点、
(ウ)オレフィン系樹脂層の紫外線透過率が、補正後発明は「アイスーパーUVテスターにて100時間曝露後の波長350nmでのオレフィン系樹脂層の紫外線透過率が30%以下である」のに対し、刊行物2発明は、その点の明示がない点。

(5-2)相違点の検討
(5-2-1)相違点(イ)について
刊行物1には、ポリオレフィン系樹脂に高い接着性を有する接着剤として、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂などの、極性を付与するように変性した変性ポリエチレン樹脂からなる接着剤が好ましいことが記載され((b-4))、刊行物3には、ポリオレフィン系樹脂の接着にエチレン/α-オレフィン共重合物のカルボン酸変性樹脂からなる接着剤を使用することが記載されている((c-1))。そして、刊行物1,3に記載された前記接着剤は、ともに「極性官能基を有するオレフィン系樹脂からなる接着剤」である。
したがって、刊行物1,3には、ポリオレフィン系樹脂用の接着剤として「極性官能基を有するオレフィン系樹脂からなる接着剤」を用いることが記載されている。
また、刊行物1には、さらに、ポリオレフィン系樹脂として、刊行物2発明におけると同様に、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を分散したオレフィン系樹脂が明示され((b-1)、(b-6)、(b-8))、当該樹脂に対して、上記「極性官能基を有するオレフィン系樹脂からなる接着剤」である無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂を用いることが示されている。
してみると、刊行物2発明における「ポリオレフィン系樹脂用接着剤」として、「極性官能基を有するオレフィン系樹脂からなる接着剤」を採用することは、刊行物1,3の記載から当業者が容易に想起できることであり、その効果として高い接着性が奏されることも、刊行物1の記載から当業者が容易に予想できることである。

(5-2-2)相違点(ウ)について
補正後発明の「アイスーパーUVテスターにて100時間曝露後の波長350nmでのオレフィン系樹脂層の紫外線透過率が30%以下である」という特定事項は、特定条件下での紫外線透過率が30%以下の任意量であることを示すものである。
そして、補正後発明の実施例には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.2〜0.3重量%、ヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤0.3重量%とする場合に前記透過率を満足することが記載されている。
これに対して、刊行物2には、刊行物2発明の実施例として、ヒンダートアミン系光安定剤0.3重量%、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.5重量%とすることが記載され、それらの配合量は、補正後発明のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤の量と同等又はそれ以上である。
そして、一般的に、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤の使用量を多くすると紫外線透過率の減少につながることは自明であることから、刊行物2発明も、紫外線透過率について、補正後発明と同等又はそれ以上の性能を有するものと認める。
してみると、相違点(ウ)に係る補正後発明の特定事項は、補正後発明と刊行物2発明との実質的な相違点であるとすることはできない。
なお、仮に、補正後発明の紫外線透過率が刊行物2発明のそれと相違する部分があるとしても、経時的な紫外線透過率を好ましい範囲に定めることは当業者が適宜なし得る程度のことであり、その値を一般的な促進試験の測定方法を用いて定めることも当業者が容易になし得る程度のことである。
そして、層間接着力に係る効果も、明細書中に「紫外線透過率が30%以下」との関連で作用機構を説明する記載がなく、具体的記載も、紫外線吸収剤としてベンゾフェノール(「ベンゾフェノン」の誤記と解される)系紫外線吸収剤を用いた場合のみであることからみて、紫外線吸収剤一般を特定事項とする補正後発明が、層間接着力の点で格別の効果を奏することは示されていない。
よって、相違点(ウ)は、格別の相違点であるとすることができない。

(5-3)補正後発明に対する結論
以上のとおりであるから、補正後発明は、本出願前に頒布された刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
したがって、本件補正は、平成15年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記結論のとおり決定する。

3.原査定の理由についての当審の判断
(1)本願発明
上記2.で述べたとおり、平成13年11月2日付けの手続補正は却下されたので、平成13年7月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の各請求項に係る発明について以下に判断する。
本願の請求項1〜請求項3に係る発明(以下、本願発明1〜本願発明3という)は、本願明細書の特許請求の範囲の各請求項に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】少なくとも基材と、極性官能基を有するオレフィン系樹脂からなる接着剤層と、透明ないし半透明のオレフィン系樹脂層を積層してなる積層体において、前記オレフィン系樹脂層に紫外線吸収剤を分散してあり、アイスーパーUVテスターにて100時間曝露後の波長350nmでの前記オレフィン系樹脂層の紫外線透過率が30%以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】 オレフィン系樹脂層に、さらにヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を添加してなることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】 基材上に装飾層を形成し、その上に接着剤層、オレフィン系樹脂層を積層してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。」

しかし、請求項1及び2の発明を引用する、請求項3に係る発明は、前記補正却下の対象となった補正後発明を包含するものである。
してみると、前記補正後発明である請求項3に係る発明は、2.で述べたと同様の理由で、本出願前に頒布された前記刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-13 
結審通知日 2006-01-17 
審決日 2006-01-30 
出願番号 特願平8-232374
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
P 1 8・ 575- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 石井 克彦
野村 康秀
発明の名称 積層体  
代理人 金山 聡  

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